はじめに · 2017-07-24 ·...

5
293調ECPR40 Volumu38 稿3ECPR38 2017http://www.ecpr.or.jp/pdf/ecpr38/43- 50.pdf 15511 2017.7

Upload: others

Post on 15-Jul-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: はじめに · 2017-07-24 · す。ように見えるのかを客観的に考えるので体である観光客、来訪者から見て、どのるのかを考えてみましょう。あくまで客

 

このアングルには2年9か月ぶりの登

場になりますが、実は今年3月に『調査

研究情報誌ECPR財団設立40周年記念

号(特集テーマ:これからの地域課題に

対する政策提言)』Volumu

38に、

「観光政策の担い手と新しい連携」を寄

稿しました。概略を申し上げれば、観光

まちづくりとは何かを示した上で、観光

政策がなぜ必要で、これからは誰が誰と

どのように政策形成をしていくのかにつ

いて述べています。また、隣人や異業種

との連携や、移住と観光の接合などにつ

いても触れています。今回のテーマと近

い内容なので、ぜひこちらもご覧いただ

くことをお薦めしながら、3つの切り口

で話を進めていきます。なおこの論文を

本文中で扱う場合には、ECPR

38号の

何ページと記します。

米田誠司(2017)「観光政策の担い

手と新しい連携」

http://ww

w.ecpr.or.jp/pdf/ecpr38/43-

50.pdf

 

観光でも交流でも、まず大切なのは資

源です。誰かに来てもらおうとか、交流

してみようという時に、資源こそが出発

点になります。

足もとを観察する

 

地域を歩いていると、「うちには何で

もある」という自信あふれる意見から、

「うちには何もない」という半ばあきら

めの意見まで、さまざまな意見を聞きま

す。この両極端に聞こえる意見の間に、

地域のいろんな実情や可能性があるのだ

と思います。でもここにしかないものと

いう時、私たちはこれまで、足もとにあ

るものをていねいに探してきたでしょう

か。あるいは、今の時代にはなくなって

しまったことであっても、ずっと大切に

思ってきたでしょうか。そこで図1のよ

うに、地域資源を観光・交流資源まで変

化させる5つのステップを紹介したいと

思います。

5つのステップ

 

まず第一に、資源の探し方、見つけ方

ですが、地域に普通にあるものごとを注

意深く観察することから始めましょう。

その際、こんなものは資源にならないと

いう先入観に囚われないように、そして

感性と感度を豊かに見つけることが大切

です。

 

第二に、見つけた資源を磨かなければ

なりません。ここまではよく言われるこ

とですが、でも磨く際には資源を全部ピ

カピカにしようと思わずに、そのものが

本来持っている本質を損なわないように

しながら、光っているよい面だけを美し

く磨き出していきましょう。

 

第三に、磨いた資源がどのように見え

るのかを考えてみましょう。あくまで客

体である観光客、来訪者から見て、どの

ように見えるのかを客観的に考えるので

す。

 

そして第四が、資源の見せ方です。先

に見え方は確認しているので、それぞれ

の時代背景をベースに、また来たるべき

はじめに

1.資源は足もとに

1 2017.7

Page 2: はじめに · 2017-07-24 · す。ように見えるのかを客観的に考えるので体である観光客、来訪者から見て、どのるのかを考えてみましょう。あくまで客

時代も読みながら、どのように表現する

のか、どういうメッセージを乗せるのか

を考えてみましょう。

 

最後のステップは、資源を見立てると

いうことです。千利休が言うように「物

を本来のあるべき姿ではなく、別の物と

して見る」ということは、とても難しい

ことですが、でも暮らしのものごとを新

しい価値観で再評価するというのは、い

まの時代にこそ大切な作業になります。

日常をどう磨くか

 

たとえば、古民家の再生では、よい物

件を見つけ、再生のための磨く作業も大

事ですが、一番大事なことは、これから

の時代を読んで空間を見立てること、つ

まりリノベーションの姿勢だと思いま

す。また身近なところでは、日本の居酒

屋は仲間と談笑しながら料理とお酒を楽

しめるところですが、実はこれは世界的

にみて珍しい飲食形態です。とすれば、

インバウンド観光客を迎える上で、外国

人からどう見えるかを意識しつつ、それ

ぞれの地域で忘れられていた食文化を探

して、磨いて、商品にしていく、このよ

うなことも必要となるでしょう。

 

ということは、非日常を売りにしてき

た観光だけを意識するのではなく、いか

に足もとにある日常をどう磨いていく

かということが大切になってきます。

ECPR

38号の47ページで触れています

が、こうした日常が観光を支え、地域の

多様性が観光に深みと価値を与えるのだ

と思うのです。

2.担い手は全員

 

では誰が今後そうしたことの担い手に

なっていけばよいのでしょうか。先に答

えをいえば、それは地域のみなさん全員

です。

プロという領分

 

ただ、こと観光となると、プロとアマ

チュアの領分には大きな隔たりがありま

す。たとえば、旅館というビジネスは、

資金調達して大きな投資で先に建物を

造って、それから多くの従業員を雇い、

24時間営業でお客さまの命を預かりなが

ら満足してもらうものです。こうしたプ

ロの領分は、そうそうまねできるもので

はありません。でもこれからの時代に、

そうした旅館のサービスだけでお客さま

を満足させることができるかといえば、

そうではないのも事実です。宿泊客は旅

館を出てまちを歩くわけですし、地域の

魅力が大切であることは多くの方が指摘

しているところです。

 

そう考えると、観光のプロである旅館

が、他の観光のプロである土産品店や飲

食店と連携することは必須ですし、さら

には観光のプロではないけれども、さま

ざまな業種のプロと連携することも大切

です。でもさらにいえば、環境の整備や

風景の保全などとなると、もはや観光の

アマチュアではあるが地域で暮らすこと

のプロである住民と組むしかないので

す。あるいは旅館がアマチュアの一員と

して地域で動く方法もあるでしょう。

図1 地域資源を観光・交流資源まで変化させる5 つのステップ(筆者作成)

見つけ方地域に普通にあるものごとを注意深く観察する。先入観に囚われずに、感性・感度を豊かに。

磨き方資源そのものが本来持っている本質を損なわないように、光っているよい面を美しく磨き出す。

見え方客体である観光客・来訪者から見て、どのように見えるのかを客観的に考えてみる。

見せ方それぞれの時代背景をベースに、来たるべき時代を読みつつ、どのように表現しメッセージを乗せるか。

見立て方見立て方 : 「物を本来のあるべき姿ではなく、別の物として見る」(千利休)→暮らしのものごとの再評価。

22017.7

Page 3: はじめに · 2017-07-24 · す。ように見えるのかを客観的に考えるので体である観光客、来訪者から見て、どのるのかを考えてみましょう。あくまで客

プロとアマチュアの連携

 

一方で、地域のみなさんが担い手だと

いっても、やはりお客さまに満足してい

ただく以上は、お客さまから発想して

サービスを組み立てていくもてなしの心

得など、プロから学ぶべきこともたくさ

んあると思うのです。また観光では、お

客さまが遠くからやってきて、温泉、グ

ルメ、宿泊などの何らかのサービスを期

待し、それを享受してその対価を払いま

す。このように金銭のやり取りを伴うの

が観光という仕組みです。これに対し

て、金銭のやり取りが必ずしも必要でな

いとされてきたのが交流でしたが、これ

からの地域のあり方を考えると、観光と

はいえないものの、金銭のやり取りを伴

うことで維持できる交流の仕組みもある

はずです。

 

さらに言えば、実はここへきてプロと

アマチュアの境目が見えにくくなる、あ

るいは両者が近づいている部分が増えて

います。たとえば、まちあるきガイドな

どもそうですし、コミュニティで運営す

るカフェなども増えてきました。という

ことは、ECPR

38号の50ページで触れ

ているように、フラットに近い関係性の

中から何かが生まれてくる、あるいは一

定の金銭もやり取りする領域にプロとア

マチュアの両方からアプローチし、双方

がスキルを学びながら取り組みを洗練さ

せ、地域づくりにつなげていくことも必

要ではないかと考えています。

おおいたツーリズム大学の実践

 

そこで、今年度で11年目を迎える「お

おいたツーリズム大学」について紹介

してみたいと思います。これは、大分

県庁が主催するツーリズ

ム人材の育成塾で、私は

2011年度からチュー

ターとして関わっていま

す。でも受講生のうち観

光関係者は実は少数で、

農林漁業の従事者や鉱工

業、サービス業に携わる

方、地域おこし協力隊員

や、中には僧侶や神官も

地域のキーマンとして学

びに来ており、毎年30名

前後の修了生を輩出して

きました。講座は座学を

ベースにしながらも、各

地域に出向いてグループ

ワークを徹底し、修了式

では自分自身の行動計画

を模造紙にまとめて、大

分県知事と西村幸夫学長

の前でプレゼンテーショ

ンしてもらいます。

 

たとえば、昨年度修了

した佐伯市蒲江で緋扇貝

の養殖をしている後藤猛

(35歳)さんは、人口16人の屋形島にゲ

ストハウスをつくることを図2のように

宣言しました。さっそく今春からツ大生

(こう呼んでます)の同期が写真3のよ

うに掃除に駆けつけ、早ければ今秋に定

員5名の宿が開業します。でも後藤さん

は、いまはやりのゲストハウスを立ち上図2 おおいたツーリズム大学での後藤猛氏プレゼンテーション(出典:後藤猛氏)

3 2017.7

Page 4: はじめに · 2017-07-24 · す。ように見えるのかを客観的に考えるので体である観光客、来訪者から見て、どのるのかを考えてみましょう。あくまで客

げたいのではなく、屋形島の歴史、文

化、暮らしなどの良い面と悪い面の両方

を見せ、そして屋形島と向き合えるコア

なファンを開拓し長く付き合っていきた

いと考えているのです。

3.Localでいこう

 

では最後に、Localにどのように

こだわり、実践していけばよいのかにつ

いてみていきたいと思います。ここで

は、あまり観光地といわれにくい地域で

考えてみましょう。

中心的な価値は何か

 

前にご紹介した5つのステップで、地

域で愛でるべき資源を見つけて、磨い

て、担い手もそろそろ出揃ってきたとし

ましょう。その段階ですべきことは、

ECPR

38号の46ページに詳しく述べて

いますが、一度立ち止まって、自分たち

の地域の中心的な価値は何かについて

じっくりとそしてとことん議論すること

です。ここさえしっかりできれば、後は

いかようにでも展開できます。

合言葉はMIG

 

そして次に行うべきことの合言葉は

MIGです。地図Mapをつくり、イン

フォメーションInformation

を整え、そしてまちあるきガイド

Guideを始めましょう。観光地では

ないとしても、地図は来訪者にとって何

より便利ですし、地域の側でも認識を揃

える目的もあります。たとえば、ある場

所を探している時に誰かに描いてもらう

地図は人によってさまざまです。空間認

識は人によって異なるので、それをまず

揃えるのです。その上で自分たちが調べ

て磨いてきた資源を地図に落とし込みま

しょう。しかも地図は一回作ったら完成

ではなくて、更新していくたびによいも

のなります。地域にはたいていイラスト

が得意な人がいますので協力してもらい

ましょう。まずはB4サイズかA3サイ

ズの単色コピーできる程度から始めれば

よいと思います。

 

地図ができたら次はインフォメーショ

ンの開設です。ただこれも観光地ではあ

りませんので、引き受けてくれる酒屋さ

んとか、世話好きなお家の方とかに、た

とえば一ヶ月単位でもいいので、イン

フォメーションのiの字の看板を出して

もらって、地図を置き、簡単な受け答え

をしてもらえば十分だと思います。

ガイドを通じて伝わる地域の資源

 

最後はまちあるきガイドです。これはや

やハードルは高いのですが、定期でも不定

期でもよいので、先ほどのインフォメーショ

ンに集合してもらい、地図を片手にガイド

が地域で自慢できるもの、ぜひ見てほしい

ものを順に案内しましょう。スキルアップ

やガイド養成の講座もいずれは必要にな

りますが、大事なのは、お客さまの立場に

立ちつつ、それぞれのガイドの人となりが

にじみ出る案内を心がけて下さい。その際

決して無料にせず、きちんとした料金設定

をすることで、お客さまもガイドも真剣に

取り組むことができます。少しずつ稼ぐこ

とから交流事業を育てていけば、ガイドを

通じて知る地域の奥深さや、ガイドそのも

のが印象深い資源となり、やがてはリピー

トのきっかけにつながっていくことでしょ

う。

写真3 屋形島ゲストハウス開設のためにツ大同級生が協力(出典:後藤猛氏)

42017.7

Page 5: はじめに · 2017-07-24 · す。ように見えるのかを客観的に考えるので体である観光客、来訪者から見て、どのるのかを考えてみましょう。あくまで客

滞在で地域に巻き込む

 

そして、地域に旅館やホテルがあれば

ぜひ連携すればよいのですが、もし旅館

やホテルがなくてもあっても、地域で滞

在できる方法を考えてみましょう。さき

ほどのようなゲストハウスや、農山漁村

であればグリーンツーリズムという方法

もありますが、ただ大事なことは、当初

から1泊でなく、滞在できることを想定

して準備を始めることです。1泊であれ

ば従来の観光のように対応しなければな

りませんが、中長期の滞在となれば、体

験メニューを用意しながらも、地域の暮

らしの中に巻き込んでいけばよいので

す。

体験Experienceを用意する

 

そこでこの体験メニューですが、自分

たちで調べてきたことや磨いてきた資

源を生かして、他の地域ではまねでき

ない、ここだけの体験メニューに仕上

げたいと思います。これはいわゆる着

地型商品という程度のものでなく、苦

労して掘り起こし磨きあげてきた地域

の資源をもとに、ここにしかない、そ

して何よりも洗練されて得がたい体験

Experienceが用意できるか、こ

のことにかかっているのだと思います。

 

そこでECPR

38号の47ページで紹介

した一般社団法人雪国観光圏での取り組

みの中から、さらに一例、「雪国ガストロノ

ミーツーリズム」と呼ばれるものを紹介し

たいと思います。雪国として大切にしてき

た食文化を背景として、観光客はフィー

ルドに出かけて、里山の恵みを地元の人と

一緒に採り、写真4のように一緒に料理を

つくり、そして味わうのです。ここで味わ

う料理はひと時のものですが、それは貴重

なExperienceになるはずです。ど

うでしょう、これは一つの事例ですが、みな

さんの足もとからこのように発想すれば、

Localというものは地域それぞれに、

さまざまに積み上げていけるのではないで

しょうか。

 

そして、Localの対義語の一つは

Globalになります。おそらくこう

して生み出されたLocalというもの

こそがGlobalに通用し、やがては

地域のブランディングの核になる可能性

があるものだと思います。

 

これから紹介する6つの事例は、こう

したことの先進事例ですので、ぜひご覧

ください。

おわりに

 

さて、Localなことをやろうとす

ると、ここのところどうしても地域で

は横並びになりがちです。たとえば、

日本全国の農山漁村でピザ窯がはやっ

ています。それはそれで活用すればよ

いのですが、でも横並びから一歩抜け

出して、地域の仲間と悩んで、悩んで

Uniqueなことを見つけ出しましょ

う。Uniqueの意味を辞書で調べて

みると、特有なという意味の前に、すば

らしい、格別の、類まれな、唯一の、二

つとないという意味が並んでいます。私

たちがこれから目指すべきはここではな

いでしょうか。

 

ここにしかないものが一つまた一つと

それぞれの地域で花開いてきた時に、地

域の多様性が観光と交流に深みと価値を

与えるのだと、あらためて思うのです。

写真4 雪国ガストロノミーツーリズムでの調理風景(出典:一般社団法人雪国観光圏)

5 2017.7