ニジェール支所便り 2017 年10 月号 『支所便り』7 月号:...

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1 ニジェール支所便り 2017 年 10 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員 Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected] 今月のトピック 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ 9月の支所の活動報告 ~CARD ミッション訪問~ ~SHEP 続報 ‐試練は続く‐ ~ プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介 ~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~ ~平成 24 年度 ニジェール共和国・中学校教室建設計画~ ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物 その1~ ニジェール国内の出来事 ~羊の丸焼き燃料から考える近年のトレンド~ 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ サバンナを代表する樹木、バオバブ。奇怪な形をし て聳えていますが、そこに可憐な白い花が咲き、実が ぶら下がります。実の中には、お猿のパンと呼ばれる白 い塊があり、ビタミンC、鉄分、その他、栄養満点で、 ニジェールではそれから作ったお菓子をカカン・ダディ (Kakan Dadi)と呼んでいます。 9月初めに本部で開催された所長会議での、恒例 のアフリカ「一国一品」イベントに、ピーナッツ(花は黄 色)から作ったヌガーとともに出品しました。美味しいと 好評を博し、20か国あまりのエントリーの中から審査 員が選んだ5品に見事選ばれました。お土産用の商 品を開発する企業家を待っています。 山形所長

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Page 1: ニジェール支所便り 2017 年10 月号 『支所便り』7 月号: 9月の支所の活動紹介 【CRAD1ミッション訪問】 9 月3 日~6 日、ケニアのCARD 務局より熊谷専門家と、アシスタントの

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ニジェール支所便り

2017 年 10 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員

Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected]

今月のトピック

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

9月の支所の活動報告 ~CARD ミッション訪問~

~SHEP 続報 ‐試練は続く‐ ~

プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介

~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~

~平成 24 年度 ニジェール共和国・中学校教室建設計画~

ニジェールにおける活動紹介

~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物 その1~

ニジェール国内の出来事

~羊の丸焼き燃料から考える近年のトレンド~

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

サバンナを代表する樹木、バオバブ。奇怪な形をし

て聳えていますが、そこに可憐な白い花が咲き、実が

ぶら下がります。実の中には、お猿のパンと呼ばれる白

い塊があり、ビタミンC、鉄分、その他、栄養満点で、

ニジェールではそれから作ったお菓子をカカン・ダディ

(Kakan Dadi)と呼んでいます。

9月初めに本部で開催された所長会議での、恒例

のアフリカ「一国一品」イベントに、ピーナッツ(花は黄

色)から作ったヌガーとともに出品しました。美味しいと

好評を博し、20か国あまりのエントリーの中から審査

員が選んだ5品に見事選ばれました。お土産用の商

品を開発する企業家を待っています。

山形所長

サヘルにて砂塵舞う中

白と黄と和みの花弁生命

香かぐわ

Page 2: ニジェール支所便り 2017 年10 月号 『支所便り』7 月号: 9月の支所の活動紹介 【CRAD1ミッション訪問】 9 月3 日~6 日、ケニアのCARD 務局より熊谷専門家と、アシスタントの

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1 アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development、略称:CARD)は、アフリカのコメ生産国、研究機関等が参加する国

際協議グループ。詳しい内容はこちらをご参照ください。:https://www.jica.go.jp/activities/issues/agricul/pdf/02_gaiyo.pdf 2 『支所便り』7 月号:https://www.jica.go.jp/niger/office/others/newsletter/ku57pq000020tcwd-att/201707.pdf

9月の支所の活動紹介

【CRAD1ミッション訪問】

9 月 3 日~6 日、ケニアの CARD 事務局より熊谷専門家と、アシスタントの

Sall 氏がセネガルから訪問しました。2008 年の CARD の発足以来、第 1、第 2

グループ合わせて23 のアフリカ諸国が参加していますが、ニジェールはまだメンバー

にはなっていません。しかし、昨年ケニアで開催された TICADⅥにおいて、CARD

のサイドイベントに参加した農業省副次官が、これに強い関心を示したことが、

今ミッション要請のそもそものきっかけとなりました。『支所便り』・7 月号2でもご紹

介したように、現在コメはニジェールにおける食糧自給率向上のカギを握る穀物と

して注目されています。

短い滞在期間ではありましたが、両者共に精力的に農業省関係者との面会

をこなし、CARD メンバーになるためのプロセスを丁寧に説明して頂きました。面

会者は農業省次官およびONAHA総裁、農業総局のコメ栽培に関わる各部局

長の面々です。面会者一同、CARD 加入に積極的な姿勢を示し、ミッション側

のプレゼンテーションが終わると、様々な質問や意見が投げかけられました。今後はニジェール政府と CARD 事務局との直接的な

やり取りにより、加盟の手続きが進められていきます。この緩やかな共同体を最大限活用し、ニジェールにおけるコメ生産をさらに

盛り上げていって欲しいと思います。

【SHEP 続報 -試練は続く -】

『支所便り』8 月号で、ガバグラ村の女性グループを襲った悲劇をお伝えし、それを乗り越えつつある逞しい姿をお届けしたばかりで

すが、さらにまた、今度は女性グループのみならず、村全体を悲劇のどん底に陥れるような惨事が起きてしまいました。そのきっかけと

なったのが、8 月 26 日未明から降り続いた雨です。この日だけで 118mm もの降雨を記録しました。その後の調査で、村の 8 割以

上の家屋が倒壊の被害に遭い、500 世帯以上が家を失ったことが分かりました。ニアメ郊外の村の家屋の大半は、日干しレンガで

建設されているため、100mm を超える降雨には到底耐えられなかったのでしょう。倒壊を免れた家屋であっても、その後のことを考え

ると怖くて家の中では眠れないと、その当事者である女性グループのリーダーは話してくれました。

農業省次官の執務室にて、CARD について説明

をする熊谷専門家。会合には ONAHA 総裁も参

加した。

写真1: 洪水の被害にあった家屋の家財などがむき出しのま

ま放置されていました。

写真 2 : 家屋倒壊の被害にあった世帯は、木材などを集め

て小屋を建て、雨風をしのいでいました。

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このように甚大な被害を受けたガバグラ村の様子は、連日国内紙や TV で報道され、その効果もあってか、その後多くの支援物

資が国際機関や NGO、大使館などから届けられました。私たちが訪れたのも、そうした一連の支援が実施された直後であったた

め、村はある程度の落ち着きを取り戻しているようにも見受けられました。ただこのような状況下で、今後の女性グループの野菜栽

培活動について尋ねることも憚れたため、敢えて聞かずにいると、グループリーダーはそれを察したのか、共同畑の現状を話し始めま

した。結論から言うと、最初のサイトも川沿いのサイトも、どちらも今回の洪水で浸水してしまったため、すでに播種していたピーマ

ン、オクラなどは全て駄目になってしまったとのことです。訪問時、サイトへ行く道も浸水していたため、実際に足を運ぶことは叶いませ

んでしたが、次から次と彼女たちを襲う試練に、ただ励ますことがしかできないもどかしさもあり、その日はアブドゥさんと共に早々に村

を後にしました。

ニジェール全国で深刻な被害をもたらした今年の雨季もほぼ終わりを迎え、雨季前の厳しい暑さが戻りつつあります。ニアメ周辺

の農家は、これから本格的な乾季の野菜栽培の準備に忙しくなるころです。また近いうちにガバグラ村へ足を運び、乾季作に向け

た彼女たちの新たな挑戦についてお伝えできればと思います。

(企画調査員 佐々木夕子)

プロジェクト・専門家等の活動の進捗状況紹介

■■ みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクト・フェーズ 2 ■■■

『みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクトフェーズ 2』では、初等教育分野において、住民支援の校外学習に効果

的なツールを導入することですべての児童の“読み書き”と“計算”の基礎学力改善目指す『質のミニマムパッケージ』の開発と普及

に取り組み、中等教育分野においては、アクセス、格差解消、教育の質の改善など、様々な教育開発課題の改善に貢献する

“機能する”学校運営委員会(COGES)モデルの全国普及を実施しています。

今月 9 月の初等教育分野においては、重要な活動を数多く実施しました。まず一つ目の「質のミニマムパッケージ普及」活動の

一環として取り組んだ研修は、州内総計 35 万名の児童の学力向上を目指すという画期的な活動にかかる成功の可能性を高め

ました。そして、初等学校運委委員会(CGDES)活動のモニタリングにかかる一連の活動は、ニジェール CGDES の機能低下の原

因ともなっていた「CGDES 活動モニタリング体制」の弱体化を、モニタリングを担当する CGDES 監督官に対する移動手段提供や

能力強化によるモチベーションの付与、ならびに関係者への情報共有や意識喚起によって再生させるための大きな布石となりまし

た。

写真 3 : 村の被害状況を淡々と説明してくれた女性グループリー

ダー。その足取りは重く、ことの深刻さを物語っているようでした。

写真4 : 女性グループメンバーのジャーナリストさんの家があった地

区。すべての家屋が倒壊し、更地と化してしまいました。

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具体的には、まず、ティラベリ州 3500 校への普及のための研修講師約

130 名に対し、「質のミニマムパッケージ(算数)」にかかる“再研修”を行い

ました。世銀が管理する「教育のためのグローバルパートナーシップ

(GPE)」資金による教育省実施「質の教育支援プロジェクト(PAEQ)」で

は、昨年よりティラベリ州内全 3500 校以上への質のミニマムパッケージ(算

数)の導入プロセスを開始し、この州内全視学官・指導主事を対象にし

た講師研修、ならびに現場の 3500 校への研修も昨年度時点で既に実

施しています。しかし PAEQ による研修実施後、算数ドリル調達にかかる

手続きの遅れのために、印刷・配布が遅れたまま中断されていました。そ

して今年新学期の導入再開にかかる目途が立った時点で、「どのように

学校現場アクターの意識と知識を昨年度レベルまで引き上げるか」という

問題が浮上し、その解決策として、本プロジェクトはこの再研修実施を決断しました。この再研修後、各参加者は、コミューン(市)

内全 CGDES が参加する「CGDES 連合」総会、校長会議など、あらゆる機会を通じて 3500 校への情報共有・簡易研修が行わ

るよう取り組むことになります。再研修への全参加者は、この質のミニマムパッケージの州内普及が、裨益する学校・児童のみなら

ず、今後のニジェールでの教育の発展にとって一つの鍵となる重要な活動であるとの自覚をもって、積極的に取り組み、全 CGDES

への再指導を誓約として表明するに至りました。

二つ目の主な活動としては、質のミニマムパッケージの今後の発展へ向

けて、ティラベリ州での「質のミニマムパッケージ」算数および読み書きの取り

組み成果を他州の関係者と共有し、今後の方向性や展望を協議・検討

する「質のミニマムパッケージモデル経験共有セミナー」を実施しました。今

回のセミナーでは、通常の全国 8 州教育事務所長、州 CGDES 監督官

に加え、全国の県 CGDES 監督官 75 名も参加し、総勢 130 名の参加に

よる会合となりました。

また、「質のミニマムパッケージ」普及のベースを固めるため、CGDES の機

能性と質の改善へ向けた計画能力改善、ならびに CGDES 持続的な発

展を支援する CGDES 活動モニタリング強化のための「CGDES 監督官能

力強化研修」に取り組みました。この研修の内容は、今後 CGDES 連合

総会を通して、連合メンバーや CGDES に共有されます。これにより、CGDES 監督官による CGDES モニタリング強化を図るととも

に、全国 18000 以上に上る CGDES が、教育の質の改善へ向けて校外学習を通した児童の学習支援に取り組むよう推進してい

きます。

その他、プロジェクト支援を受けて、初等教育省により CGDES 活動モニ

タリング体制強化支援として全国 83 名の州・県 CGDES 監督官へのバイ

ク供与式が開催されました。このバイク供与は、日本の見返り資金により

実現したもので、初等教育省大臣ならびに在コートジボワール日本大使の

参列の下行われました。

一方の中等分野においては、アフリカにおいて初めて「機能する中等学

校運営委員会(COGES)モデル」の全国展開を開始した記念すべき月と

なりました。

全国普及の第一歩として、9 月は今年度対象の 4 州の COGES 監督

官に対する COGESの民主的設置プロセスにかかる講師研修を実施し、そ

の上で、ニアメ州、ドッソ州の 2 州において、学校長・教員を対象とした

写真上:「質のミニマムパッケージ普及講師再研修」参加者によるCGDES連合総 会での研修実施シミュレーション

写真上:CGDESモニタリング体制の強化へ向けた「初等CGDES監督官へのバイク供与セレモニー」

写真上:ニアメ州「中等 COGES民主的設置研修」風景

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「COGES 民主的設置研修」を開始しました。これによりニアメ州においては州内私立・公立の中学校・中高併設校約 230 校への

研修が実施され、ドッソ州においても来月上旬までに州内約270校への研修が行われます。そして10月には、ニアメ州、ドッソ州に

引き続いて、マラディ州、タウア州の2州において研修を繰り広げる予定です。また、COGES設置後の機能化へ向けて、活動計画

策定・リソース管理、並びに COGES 連合の設置と機能化にかかる講師研修に取り組んでいきます。

(みんなの学校プロジェクト専門家 影山晃子)

■■ 平成 24 年度 ニジェール共和国・中学校教室建設計画 ■■■

先週 9 月 28 日(金)に川村大使とアブドゥラハマン中等教育大臣が、JICA ニジェール支所山形所長、ニアメ特別州知事ととも

に、Koira Tégui 中学校を視察されました。

視察は、1 階建て教室棟(3 教室)及び 2 階建て教室棟(4×2=8 教室)の視察、アブドゥラハマン中等教育大臣のスピーチ、

川村大使のスピーチ、ニアメ特別市知事のスピーチ及び飛び入りで参加した女子生徒代表によるスピーチ、メディアインタビュー、

大使、大臣による銘板前での記念撮影の順に進み、無事終了しました。

マイクがなかったため、大使や大臣のスピーチがよくききとれず、Le Sahel 紙による報道記事もなかったため、残念ながら詳細不

明ですが、教室の施工品質や家具の出来栄えが高く評価されたことは間違いなく、同席した施工会社や家具会社の大きな励み

となったようです。

プロジェクト開始前、Koira Tégui 中学校には、藁葺き教室しかありませんでした。今般、新たに建設された 30 教室では、1,500

人の生徒が、先生たちとともに、風雨や火事を気にせず、より快適な環境で学習に専念できるものと思います。

川村大使とアブドゥラハマン中等教育大臣

メディアインタビューの様子 銘板前での記念撮影。右側は中等教育省ニアメ市

局次長

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10 月 2 日現在、全 146 教室中、114 教室が竣工し、残り 32 教室です。10 月末に 18 教室、11 月中旬に残り 14 教室が竣

工する見込みですが、ニジェールの未来を担う子どもたちのため、教室竣工後の家具納入を含め、最後の最後まで予断を持たず

にフォローします。

(JICS プロジェクト管理 金澤 仁)

2階建て教室棟(4×2=8教室)。奥は 1階建て

教室棟(3教室)

納入済みの家具

美しい2階建ての校舎をバックにプロジェクト関係者及び現場に集まった多くの学生さんとの集合

写真(中央向かって左が金澤さん、その後ろが湯浅さん)

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ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人―都市ゴミから生育する植物 その1~

支所便り 7 月号(2016)から不定期でお届けしている、京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授の~ニジェ

ールでゴミを集める日本人~シリーズ第 9 話。今回は、フィールドでの研究内容について執筆頂きました。

2015 年 10 月に三井物産環境活動助成を受け、「西アフリカ・サヘル地域における都市の有機性廃棄物と家畜

を利用した緑化活動」プロジェクトを開始し、この 2 年間で合計 24 カ所、7.52 ヘクタールのサイトを建設しま

した。このサイトに、2,183 トンの都市ゴミを運びました。膨大な量のようにも思いますが、首都ニアメでは 1

日に 1000 トンのゴミが出ると言いますから、この量はわずか 2 日間のゴミにすぎません。

2017 年 8 月から 9 月にかけて、建設したすべてのサイトを訪問し、生育する植物を観察するとともに、周辺

住民に対して聞き取りをおこないました。わたしの活動を 3 回にわたって紹介しようと思っていますが、今月号

はその第 1 回目の報告です。

まず、都市ゴミを投入したサイトがどのように変化するのか、インターバル・カメラで撮影した写真をみてく

ださい。このサイトは 50m 四方で、252 トンのゴミを投入しました(2012 年 2 月)。1 平方メートルあたり 100kg

のゴミを入れたことになります。雨季の到来とともに、1 年目には作物であるトウジンビエが多く生育し、2 年

目にはマメ科の草本、そして 3 年目以降には徐々に樹木が生育してきて、5 年目に樹木が大きく生育するかわり、

被陰されることによって草本の生育は抑えられます。

① 2012年 2月 26日 12時 都市ゴミ(252 トン)の投入 ② 1年目(2012年 8月 29日 15時):トウジンビエが生育し

ました。

④ 5 年目(2017 年 8 月 29 日 15 時):渇水のせいもあり、

草本が生育しないかわりに、樹木が大きく生長しました。

③ 2年目(2013年 9月 3日 12時):マメ科の草本が生育

してきました。

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15 年ほどの現地調査の結果、砂漠化した荒廃地に都市のゴミを投入すると、植物が生育してくることが分かり

ました。都市のゴミには大量の栄養分が含まれており、植物の生育に重要な三大元素である窒素やリン、カリウ

ムのほか、亜鉛や銅、鉄、カルシウム、マグネシウムといった有用成分も多く含んでいることが分かっています。

ニジェールの都市ゴミには、家畜の糞や食べ残したわら、住民が脱穀作業ののちに捨てるトウジンビエの穂軸

や稈(かん)、ラッカセイのからなどが含まれており、これらの有機物はすべてシロアリの餌になります。ニジ

ェールをはじめとする半乾燥地では、地上では人間、地中ではシロアリが支配していると言われます。砂漠化し

た荒廃地では植物は生育できず、シロアリの餌となるものはなく、さすがのシロアリも生きていくことはできま

せん。しかし、ゴミを投入したのち、雨季が来ると、シロアリは群れとなって飛翔し、新たな場所でコロニーを

作ります。投入したゴミにシロアリのオスとメスが着地すると、そこにコロニーをつくり、地中に無数のトンネ

ルを掘ります。そのトンネルを通じて雨水が浸透するようになります。

荒廃地の地表面は堆積岩の岩盤で、降雨があっても、雨水は地中に浸透しません。ゴミを投入することによっ

て、ゴミは雨水を含み、その雨水はシロアリのトンネルを通じて、地中に浸透するのです。それは、先月号(2017

年 9 月号)で紹介した、屋根に雨水が浸透するメカニズムと同じです。長時間にわたって、しとしとと雨が降り

続くと、雨は屋根の粘土に浸透し、雨漏りになり、屋根の崩落につながるのです。荒廃地にゴミを置くと、ゴミ

の吸った雨水がじわじわと地中に浸透することによって、植物の利用できる水分が増えるのです。

乾季(2017 年 4 月):砂漠化が進んだ荒廃地に都市ゴミ

を投入し、ゴミをならします。

住民 50人とともに、厚さ 10cmになるよう、ゴミをならしました

(2017年 2月)。

雨季(2017 年 8 月):ゴミをまいたところに植物が生育しま

す。右上の写真、乾季と同じ場所です。(この場所では、草

本が 1度、刈り取られています。)

朽ちたシロアリ塚:周囲には堆積岩が露出し、植物の生育が減

少した荒廃地ではシロアリも生きていけません。

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植生調査の様子:草本をすべて刈り取り、重量を計測しま

す。樹木は伐採せず、そのまま残します。

都市ゴミ投入ののち 1年目に生育するカボチャ。

また、ゴミの投入には、気団による砂嵐がもたらす飛砂を受け止める効果もあります。これも先月号で紹介し

たのですが、気団の到来によって強風が地表面に吹き付け、砂が飛ばされます。砂漠化は、基本的に侵食作用に

よってもたらされます。

侵食作用には、風による風食と水による水食の 2種類があります。砂嵐は強風で地表面の砂を吹き飛ばし、風

食を引き起こす結果、岩盤を露出させ、砂漠化を引き起こします。そこに都市ゴミを投入することによって、飛

ばされてくる砂を受け止めることができるのです。地学の知識でいえば、砂漠化がすすむ侵食の土地を、都市ゴ

ミの投入によって堆積の土地に変えるのです。つまり、砂漠化の原因となる強風を逆手にとり、積極的に砂を受

け止めます。そうすることで、砂漠化を防止し、緑化を進めることができるのです。

そして、なにより重要なのが、都市のゴミには住民が利用した作物や有用植物の種子がたくさん含まれている

ということです。都市ゴミを投入して一年目にはトウジンビエやカボチャ、ヒョウタン、甘い実がおやつになる

ナツメヤシ、かごを編むのに使われるドゥームヤシ、種子や葉をスープに使うバオバブ、そのほか薬用植物も多

く生えてきます。

なにの種子が含まれているのか、どの植物が発芽してくるのか、雨季になってみないと分からないのですが、

そこがこの緑化方法のおもしろいところです。住民―ハウサやザルマの農耕民も、フルベの牧畜民も毎年、雨季

に生育してくる植物を楽しみにしています。そこには、人間の有用植物以外に、家畜の飼料となる草本も繁茂し

ます。24カ所のサイトすべてで、みどり鮮やかな植物が生育してきたのが分かりました。

次回には、この緑化をどう活用し、運用しているのか、紹介していきます。

都市ゴミを投入して 5 年目のサイト:叢林ができあがります。

樹木はすべて、葉や実が人間の食用となったり、家畜の飼

料となる有用植物です。場所は、インターバル・カメラと同じ

です。

1 年目サイトの植生調査:住民の刈り取りや家畜による採食

がないと、人の背丈を超すほど、植物の生育は旺盛になり

ます。

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3 多くの国は、9 月1 日(金)がタバスキの祭日でしたが、ニジェールには金曜にタバスキ(或いはラマダン明けの祭日)が重なると、大統領の失脚(もしく

は死)を招くというジンクスがあるため、今年は 1 日ではなく 2 日に変更されました。 4 『La Roue de l’histoire No.891』

ニジェール国内の出来事 ~羊の丸焼き燃料から考える近年のトレンド~

今やニジェールの風物詩ともいえるタバスキの風景(写真右)。今

年は 9 月 2 日がその祭日でした3。

一頭の羊を大胆に捌き、遠火でじっくりと焼き上げていきます。そ

の燃料として使われるのはもっぱら薪でしたが、ここ数年、ニアメの

ような都市部では炭が利用されるようになっています。特に今年は

タバスキが雨季の最中であったため、さらにその需要は高まりまし

た。

従来の薪と比較すると、依然割高ではあるものの、燃焼時間を

大幅に短縮することができ、さらに国土の2/3が砂漠で、薪の確保

が日に日に困難になってきている当国にとり、炭やガスといった薪に

代わる燃料が徐々に脚光を浴び始めています。それに加え、9 月 7 日付の国内紙4では、都市部の人々の砂漠化や気候変動に

対する意識が変わってきていると指摘していました。

ニジェールにおいて都市部のゴミ問題、不規則な降雨パターンによる干ばつや洪水といった自然環境を取り巻く問題は尽きませ

いよいよ大山准教授の具体的な研究内容に突入してきました。荒廃地に都市ゴミを投入することで、土地が緑化し、砂漠化を

抑制するメカニズムが分かりやすく説明されていて大変勉強になります。またインターバル・カメラによる写真を見れば、その効果や

有効性が容易に認められます。農耕民も牧畜民も、皆が雨季に生育してくる植物を心待ちにしているのが、その動かぬ証拠でし

ょう。私自身もこの雨季の間にニアメのサイトを視察させて頂き、その変わり様に驚愕しました。今後の展開がますます楽しみです。

住民に対する聞き取り調査:生育してきた植物の有用性、周囲の土地利

用、食料事情、農耕民と牧畜民との関係性について聞いていきます。言葉

はハウサ語を使います。

炭火による羊の開きの合同丸焼き

(写真提供ハッサンさん)

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んが、このような市民レベルの意識の変化こそが、グローバルな課題に対処する最も有効な解決策なのかもしれません。

(企画調査員 佐々木夕子)