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平成 27 年度 「空知産ワイン」産地特性把握調査委託業務 報 告 書 平成 28 年 3 月 株式会社 ズコーシャ

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平成 27 年度

「空知産ワイン」産地特性把握調査委託業務

報 告 書

平成 28 年 3 月

株式会社 ズコーシャ

目 次

1. 業務概要 ............................................................... 1

2. 調査方法 ............................................................... 3

2-1. 気象調査 ............................................................ 3

2-2. 土壌調査 ........................................................... 10

3. BEDD の計算方法 ........................................................ 12

4. 調査結果 .............................................................. 15

4-1. 気象調査 ........................................................... 15

4-2. 土壌調査 ........................................................... 39

5. 引用文献 .............................................................. 43

1

1.業務概要

業務名: 平成 27 年度 「空知産ワイン」産地特性把握調査委託業務

履行期間:平成 27 年 6 月 18 日~平成 28 年 3 月 10 日

業務概要:醸造用ぶどう栽培を行う上で重要な気象・土壌のデータ収集と調査により、

空知の産地特性(テロワール)を把握することを目的とする(表 1-1、図

1-1)。

業務内容:気象調査、土壌調査(表 1-2)

発注者: 空知総合振興局 地域政策部策部地域政策課 そらちワイン振興室

〒068-8558 北海道岩見沢市 8 条西 5 丁目

業務担当員 山口 美由希

受注者: 株式会社 ズコーシャ

北海道帯広市西 18 条北1丁目 17 番地

管理技術者 丹羽 勝久

担当技術者 横堀 潤

中村 恵

表 1-1 調査ワイナリー・ヴィンヤード一覧

調査ワイナリー・ヴィンヤード 住   所 調 査 内 容

山﨑ワイナリー 三笠市達布791-22 気象調査

宝水ワイナリー 岩見沢市宝水町364-3 〃

マオイワイナリー 夕張郡長沼町字加賀団体 〃

滝沢ワイナリー 三笠市川内841-78 〃

10Rワイナリー 岩見沢市栗沢町上幌1123-10 〃

鶴沼ワイナリー 樺戸郡浦臼町字於札内428-17 〃

KONDOヴィンヤード 岩見沢市栗沢町茂世丑774-2 三笠市達布 〃

ナカザワヴィンヤード 岩見沢市栗沢町加茂川140 〃

太陽ファーム 歌志内市上歌32番地15 〃

高橋ヴィンヤード 滝川市江部乙町東12丁目0121番地 気象調査・土壌調査

濱田ヴィンヤード 三笠市達布 〃

表 1-2 調査項目

調査項目 調査内容

気象データの把握(1990~2015年)

将来の気象条件の推定(2020~2044年)

醸造用ぶどう地域適応品種調査

土壌断面調査

土壌理化学性調査

気象調査

土壌調査

2

図 1-1 調査ワイナリー・ヴィンヤード位置図

3

2.調査方法

2-1.気象調査

(1)各ワイナリー・ヴィンヤードの気象の現状と将来予測

①気象データの把握(1990~2015 年)

1km メッシュ気象データを利用し、調査ワイナリー・ヴィンヤードが立地する各メ

ッシュの日平均気温、日最高気温、日最低気温、積算降水量、日日照時間を 1990~2015

年の期間で抽出し、それらのデータを基本 5 カ年ごとに月別で集計した。なお、2010

年以降の気象データについては、データ数の関係で 2010~2015 年の 6 カ年分を一括し

て整理した(表 2-1)。

表 2-1 収集した気象項目と集計区分

上述した気象項目以外に、1 km メッシュ気象データには 2008~2015 年の全天日射

量も含まれているので、該当メッシュの全天日射量を収集し、月別積算値を算出した。

後述するように気象予測値の日照関連のデータは全天日射量のみであり、ここで計

算した月別積算値は、全天日射量の予測値を日日照時間の予測値に変換するために利

用した。変換方法は下記の通りである。

ア)2008~2015 年の日照時間、全天日射量の月別積算値を、各年次で計算する。

イ)月別積算全天日射量を説明変数(x)、月別積算日照時間を目的変数(y)とした単

回帰分析を各月で実施する(n=8:2008~2015 年)。

ウ)以上の結果、得られた月別の回帰式(y=ax+b)に予測値の該当月の積算全天日射

量の予測値を代入し、月別積算全天日射量の予測値を月別積算日照時間に変換する。

項目 対象期間

月別平均日平均気温1990~1994年、1995~1999年、2000~2004年、2005~2009年、2010~2015年*

月別平均日最高気温 同上

月別平均日最低気温 同上

月別平均日日照時間 同上

月別積算降水量 同上

*5ヵ年ごとのデータ集計を基本とするが、2010年以降はデータ数の関係から6ヵ年を一括して集計した。

4

エ)得られた月別積算日照時間を日平均する。

表 2-2 には月別に作成した回帰式の 1 例を示す。

表 2-2 積算日照時間と積算全天日射量の月別回帰式(山﨑ワイナリー)

なお、1km メッシュ気象データは国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機

構 北海道農業研究センター(北農研)より提供を受けたものである。

②将来の気象条件の推定(2020~2044 年)

調査には、東京大学、国立環境研究所等が開発した大気海洋結合モデルの一つであ

る MIROC3.2- HIRES (K-1 model developers,2004)を用いて計算した気象予測値(1km

メッシュ)を利用した。

大気海洋結合モデルは、大気現象、海洋現象などの物理的法則が互いに相互作用す

ることで現在の地球環境が形成されるという仮定に基づき、その上で人為的な温室効

果ガスの排出を考慮し、地球温暖化による影響をシミュレートする手法である。これ

まで、国内外で様々な大気海洋結合モデルが検討されている。

その中でも今回用いた MIROC3.2- HIRES は、IPCC の第 4 次報告書の気象変化予測

に用いられている大気海洋結合大循環モデルの一つであり、我が国においてもサンゴ

の白化予測(A1B シナリオ,屋良ら,2009)、スギ林の炭素蓄積量の将来予測(松本・光

田,2009)、ブナ林やハイマツの生育域の将来変化(田中,2009)、コメの収量変動(横沢

ら,2009)、テンサイの土壌タイプ別の収量変動(丹羽ら,2014)等、様々な予測に用い

られている。

農業環境技術研究所(農環研)ではこの MIROC3.2- HIRES を用いて将来的な気象予測

月 回帰式 決定係数

1月 y=0.9276x-88.477 0.672月 y=1.0628x-162.27 0.863月 y=0.7566x-149.95 0.744月 y=0.7201x-167.88 0.975月 y=0.5731x-130.75 0.746月 y=0.5741x-144.78 0.937月 y=0.668x-193.27 0.948月 y=0.6128x-132.88 0.639月 y=0.5374x-51.583 0.9610月 y=0.7596x-79.134 0.7711月 y=0.695x-31.678 0.7712月 y=1.0402x-78.325 0.68y;月別の積算日照時間、x;月別の積算全天日射量

5

値を計算し、その結果を内挿により 1km メッシュまでダウンスケールした(Okada et

al., 2009)。

本調査では農環研から気象予測値を入手し、調査ワイナリー・ヴィンヤードが立地

する各メッシュの日平均気温、日最高気温、日最低気温、積算降水量、全天日射量を

1990~2015 年の期間抽出し、それらのデータを基本 5 カ年ごとに月別で集計した。全

天日射量については、上述の通り、最終的には日日照時間に変換し、以降の解析に利

用した。

表 2-3 収集した気象項目と集計区分

入手データの温室効果ガス排出シナリオは A1B(すべてのエネルギー源のバランス

を重視しつつ高い経済成長を実現する社会)であり、バイアス補正には CDF 法(飯泉ら,

2010)という方法が用いられている。

③グラフの作成

収集・整理した各ワイナリー・ヴィンヤードの気象データと将来予測値については、

月別に 5 カ年単位の気候変化の傾向が分かるようなグラフを作成した。その際、過去

から現在、現在から未来が時系列に分かるように、実測値と予測値は同じグラフ上に

図示した(図 2-1)。

なお、本編に示すグラフは各ワイナリー・ヴィンヤードの平均値とした。

項目 対象期間

月別平均日平均気温2020~2024年、2025~2029年、2030~2034年、2035~2039年、2040~2044年

月別平均日最高気温 同上

月別平均日最低気温 同上

月別平均日日照時間* 同上

月別積算降水量 同上

*全天日射量を日照時間に変換したデータ

6

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

月別

日平

均気

温(℃)

1990-94年(実測) 1995-99年(実測)2000-04年(実測) 2005-09年(実測)2010-15年(実測) 2020-24年(予測)2025-29年(予測) 2030-34年(予測)2035-39年(予測) 2040-44年(予測)

図 2-1 グラフの作成例(エラーバーは標準偏差)

(2)平均日平均気温、BEDD の現状と将来予測

これまでの研究から醸造用ぶどうが成熟するかどうかを判断するための気象要素と

して 4~10 月の日平均気温や BEDD(Biological Effective Day-Degrees)が用いられ、

図 2-2、表 2-4 に示すように、成熟に必要な品種別の日平均気温や BEDD がまとめら

れている。

BEDD は Gladstone(1992)が提唱した有効積算気温の考え方であり、基本的には日平

均気温が 10℃以下の場合は 0℃、19℃以上の場合は一律 19℃として有効気温(日平均

気温-10)を積算していく方法である。BEDD の算出には、その他、緯度補正、日較差補

正等が必要であり、それらの詳細については次章で述べることとする。

ここでは 4~10 月の日平均気温と BEDD に着目し、調査ワイナリー・ヴィンヤードの

の現状値と予測値を算出し、現況の適正な品種や将来の適正品種等について考察を行

った。

使用したデータは前節と同様で、実測値が 1990~2015 年、将来予測値が 2020~2044

年であり、前節と同様に本編に示すグラフは各ワイナリー・ヴィンヤードの平均値と

した。

7

生育期間の日平均気温(北半球4~10月、南半球10~4月)

ミュラートルガウ

ピノ・グリ

ゲヴュルツトラミネール

リースリング

ピノ・ノワール

シャルドネ

ソービニヨン・ブラン

セミヨン

カベルネ・フラン

テンプラニーリョ

ドルチェ ット

メルロー

マルベック

ヴィオニエ

シラー

カベルネ・ソービニヨン

サンジョヴェーゼ

グルナッシュ

カリニャン

ジンファンデル

ネッビオーロ

レーズン

テーブルグレープ

図 2-2 4~10 月の日平均気温別の適正品種区分(Jones,2006)

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表 2-4 成熟に達するまでに必要な BEDD(Gladstone,1992)

赤ワイン 白ワイン又はロゼワイン

グループ11050℃

- マドレーヌ、マドレーヌ・シルヴァーナ

グループ21100℃

ブルー・ポルトケーズシャスラー、ミュラートルガウ、ジーガレーベ、バッカス、ピノ・グリ、マスカット・オットネル、ピノ・ノワール、ムニエ

グループ31150℃

ピノ・ノワール、ムニエ、ガメイ、ドルチェット、バスタルド、ティンタ・カルバリャ、ティンタ・アマレラ

トラミネール、シルバナー、ショイレーベ、エルプリンク、モリオ・マスカット、ケルナー、シャルドネ、ソービニヨン・ブラン、アリゴテ、ムロン、フロンティニャック、ペドロ・ヒメネス、ベルデーリョ、サルタナ

グループ41200℃

マルベック、ジンファンデル、スキアーヴァ、テンプラニーニョ、ティンタ・マデイラ、ピノタージュ

セミヨン、ミュスカデル、リースリング、ヴェルシュリースリング、フルミント、レアーニカ、ハールシュレヴェリュ、セルシアル、マルヴァジア・ビアンカ、カベルネ・フラン

グループ51250℃

メルロー、カベルネ・フラン、シラー、サンソー、バルベーラ、サンジョヴェーゼ、トゥーリガ

シュナン・ブラン、フォル・ブランシュ、クルシェン、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴィオニエ、タミンガ、カベルネ・ソービニヨン

グループ61300℃

カベルネ・ソービニヨン、ルビー・カベルネ、モンドゥーズ、タナ、カダルカ、コルヴィーナ、ネビオロ、ラミスコ、アルヴァレリャン、ム―リスコ・ ティント、ヴァルディギエ

コロンバード、パロミノ、ドナ・ブランカ、ラビガト、グルナッシュ

グループ71350℃

アラモン、プティ・ベルド、マタロ、グルナッシュ、フレイザ、ネガラ、グリニョリーノ、Souzão*、グラシアーノ、モナストレル

マスカット・ゴルド・ブラン、トレビアーノ、モンティル

グループ81400℃

タランゴ、テレ・ノワールクレレット、グルナッシュ・ブラン、ドラディーヨ、Biancone*

*適切なカタカナ表記が認められない品種は原文のまま表示

9

(3) 醸造用ぶどう地域適応品種調査(2013~2015 年)

本節では各ヴィンヤードの醸造用ぶどうの栽培履歴及び北海道立総合研究機構農業

研究本部 中央農業試験場(中央農試)で実施している「ぶどう品種の地域適応性研究

による果実品質検査」データを入手し、「(1)気象調査」で把握した結果と照らし合わ

せ、気象とぶどうの果実品質の関連性について考察した。

具体的には、まず果実品質(糖度、酸度)の分析検体数が多い後志地域のピノ・ノワ

ールに着目し、その品質の 2013~2015 年の年次変動を明らかにした。合わせて、品質

の年次変動に及ぼす気象要因の影響を検討した。その際に利用した気象データは農村

部に観測機器が設置されているアメダス余市の観測値とした(表 2-5)。

次に、空知地域のピノ・ノワールの果実品質の分析結果を後志地域と比較し、その

差異について検討を行った。さらに、後志地域と空知地域の気象条件の違いがぶどう

品質の地域間差に及ぼす影響を検討した。その際に利用した気象データとして、後志

地域ではアメダス余市の観測値、空知地域では気象観測機器の設置が都市部のアメダ

ス岩見沢と農村部のアメダス美唄の双方の観測値を利用した(表 2-5)。

以上の結果と「(1)気象調査」の気象の将来予測に基づいて、空知の果実品質の将来

的な変化についても考察を行った。

なお、提供データでは果実品質データを時系列に複数回分析している場合もあり、

そのような場合は最も高糖度を示す果実品質データを抽出し、解析に供試した。

表 2-5 解析に用いたデータ

後志地域* 空知地域 備考

2013年 6地点 1地点 ピノ・ノワール;糖度・酸度2014年 6地点 1地点 同上2015年 6地点 4地点 同上

余市岩見沢美唄

余市(農村部)、岩見沢(都市部)、美唄(農村部)

気象調査(アメダスポイント)

醸造用ぶどう品質調査

*後志地域の品質調査は各年とも同一調査地点で実施

10

2-2.土壌調査

(1)土壌断面調査

高橋ヴィンヤード、濱田ヴィンヤードを調査対象とし(図 1-1)、2015 年 8 月 28 日

にバックホーを利用して土壌を掘削し、深さ 1m までを対象として土壌断面調査を行っ

た(写真 2-1、写真 2-2)。

濱田ヴィンヤード高橋ヴィンヤード

写真 2-1 土壌調査ヴィンヤード

高橋ヴィンヤード濱田ヴィンヤード

写真 2-2 各ヴィンヤードの土壌掘削状況

土壌断面の調査項目は、①層位区分、②腐植、③土色、④礫、⑤土壌構造、⑥斑紋・

結核、⑦孔隙、⑧根、⑨乾湿等である。

土壌断面調査は、各営農者と協議した上で高橋ヴィンヤードでは地形的上部、濱田

ヴィンヤードでは中腹の生育不良区域で実施した。

11

(2)土壌理化学性調査(土壌化学性と土壌物理性を合わせた総称のこと)

土壌養分状況の把握を目的とする土壌化学性分析(pH、有効態リン酸、交換性加里、

交換性苦土、交換性石灰、易還元性マンガン、可溶性亜鉛、可溶性銅、CEC、熱水抽出

性窒素、リン酸吸収係数、腐植含量)は、土壌断面調査地点の第 1 層目(Ap 層)に加え、

その他希望箇所 1 箇所で深さ 0-10cm 程度の撹乱試料を採取し、分析を行った(高橋ヴ

ィンヤード:地形上部、下部、濱田ヴィンヤード:中腹、下部)。

さらに土壌断面調査時に、区分した各層位を対象として、撹乱試料と 100cc 円筒管

による不撹乱試料を採取し、透水性や保水性等の土壌物理性分析(飽和透水係数、三相

分布、易有効水分、粒径組成)を行った。

これらの分析は、いずれも「土壌・作物栄養診断のための分析法 2012(北海道立総合

研究機構農業研究本部,2012)」にしたがって実施した。

12

3.BEDD の計算方法

BEDD(Biologically effective day degrees)、Gladstone(1992)が提唱したぶどう

の成熟に必要な積算気温の指標である。品種別に BEDD が定められており、例えば、赤

ワイン用のピノ・ノワールでは成熟に必要な BEDD は 1150℃、メルローでは 1250℃、

カベルネ・ソービニヨンは 1300℃である(表 2-4)。

BEDD は、下記の 3 通りの条件設定で日平均気温を補正し、積算気温を計算すること

を基本とする。積算期間は北半球が 4 月~10 月、南半球が 10 月~4 月である。

「BEDD 算出のための日平均気温補正方法」

式 1) (日平均気温―10℃)<0℃;一律 0℃

式 2) 0℃<(日平均気温―10℃)<9℃;数値補正なし

式 3) (日平均気温―10℃)>9℃;一律 9℃

加えて、BEDD の計算には、緯度と日較差の影響も加味する。

緯度は昼の長さに影響するので、下記に示すように北緯(あるいは南緯)40℃を 1 と

した緯度別の補正係数を用いて補正する。

表 3-1 緯度補正係数(Gladstone,1992)

日較差が大きい地点ほど夜温が低くなるため、ぶどうの成熟が遅れる可能性がある。

そのため BEDD では、日較差を以下の条件で 3 区分し、補正を行う。

式 1)の条件では下方修正、式 3)の条件では上方修正となる。

北半球 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

南半球 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月

25度 0.962 0.928 0.912 0.920 0.946 0.987 1.038

30度 0.972 0.951 0.938 0.942 0.961 0.991 1.027

35度 0.986 0.974 0.967 0.969 0.979 0.995 1.014

40度 1.000 1.000 1.000 1.000 1.000 1.000 1.000

42度 1.007 1.013 1.015 1.014 1.009 1.002 0.995

44度 1.014 1.026 1.031 1.028 1.019 1.005 0.989

46度 1.022 1.040 1.049 1.045 1.029 1.008 0.982

48度 1.030 1.055 1.069 1.062 1.041 1.011 0.974

50度 1.039 1.072 1.090 1.082 1.053 1.014 0.966

52度 1.049 1.090 1.113 1.103 1.066 1.018 0.957

緯度

13

「日較差による補正」

式 1) 日較差>13℃の場合;(13-日較差)×0.25

式 2) 10℃<日較差<13℃の場合;補正なし

式 3) 日較差<10℃の場合;(10-日較差)×0.25

具体的に、Gladstone(1992)の文献には具体的な BEDD の計算方法の記載がない。そ

こで文献中に月別日平均気温、日較差と BEDD の計算結果が示されている COLLIE(南緯

33度 21分、西経 116度 8分:ウェスタンオーストラリア州南西部,バンベリーの東 53km

にある町)を対象とし、順を追って BEDD を算出し、Gladstone(1992)の計算結果との整

合性を確認した。

表 3-2 緯度、日較差を加味した BEDD の算出結果

①日平均気温 ②日平均気温-10 ④緯度補正後

(℃) (℃) 30度(文献値) 35度(文献値) 33.35度(計算値) (℃)10月 13.9 3.9 0.972 0.986 0.981 3.8

11月 17.2 7.2 0.951 0.974 0.966 7.0

12月 19.8 9.8 0.938 0.967 0.957 9.4

1月 21.6 11.6 0.942 0.969 0.960 11.1

2月 21.3 11.3 0.961 0.979 0.973 11.0

3月 19.3 9.3 0.991 0.995 0.994 9.2

4月 15.9 5.9 1.027 1.014 1.018 6.0

⑤日較差 ⑥日較差補正値 ⑦日較差補正後 ⑧最終補正値 ⑨積算 積算

(℃) (℃) (℃) (℃) (℃) (℃、文献値)

10月 13.2 0.0 3.8 3.8 117 117

11月 15.2 -0.6 6.4 6.4 192 193

12月 16.6 -0.9 8.5 8.5 263 264

1月 17.4 -1.1 10.0 9.0 279 279

2月 17.2 -1.1 9.9 9.0 252 252

3月 16.0 -0.8 8.5 8.5 263 263

4月 15.0 -0.5 5.5 5.5 165 165

BEDD 1532 1533

③緯度補正係数

① 日平均気温

ア)月別の日平均気温を準備した。

②日平均気温-10

ア)月別の日平均気温から 10 を除した。

③緯度補正係数

ア)COLLIE の緯度を 10 進法に換算した(南緯 33.35 度)。

イ)南緯 33.5 度の近傍の補正係数(南緯 30、35 度;表 3-1)を表から読み取

14

り、双方の補正係数を按分し、南緯 33.35 度の緯度補正係数を算出した。

④緯度補正後

ア)(日平均気温-10℃)と南緯 33.35 度の緯度補正係数の積から緯度補正後の数

値を算出した。

⑤日較差

ア)日較差による補正を行うため、月別平均日較差を準備した。

⑥日較差補正値

ア)「日較差による補正」の中で示した補正式を用いて、各月の補正値を求めた。

⑦日較差補正後

ア)「④緯度補正後」の数値と「⑥日較差補正値」の和を算出した。

⑧最終補正値

「⑦日較差補正後」の算出値が 9℃以上の場合は一律 9℃とした。

⑨積算

「⑧最終補正値」を月単位で積算し、それを合算することで BEDD を求めた。

表中に示す積算(℃、文献値)は Gladstone(1992)が緯度と日較差補正をして、BEDD

を計算した結果である。今回の計算結果と比較した場合、11 月と 12 月の積算値に 1℃

の違いがあるが、これは日平均気温の四捨五入等の影響を反映しているものと考えら

れ、両者の計算結果は一致していた。

以上のことから、本調査では表 3-2 の方法にしたがって BEDD を計算した。

15

4.調査結果

4-1.気象調査

(1)各ワイナリー・ヴィンヤードの気象の現状と将来予測

各ワイナリー・ヴィンヤードの気象の実測値と将来予測値を項目別に説明する。

①月別日平均気温

実測値については、7~9 月において日平均気温が上昇している傾向が見られるが、

その他の月については明確な変化は見られなかった。一方、将来については各月で概

ね日平均気温が上昇し、将来的には 7 月、8 月の日平均気温は常時 20℃以上で推移す

ることが予測された。また、その高温化の傾向は特に 1~4 月、12 月の主に冬期間に

おいて顕在化することが予測された(図 4-1)。

以上のような実測値や予測値の傾向から、少なくとも今後、ぶどう生育期間中の積

算気温の上昇が想定され、現在の気象条件では成熟に達しないようなぶどう品種も、

将来的には栽培可能になる可能性がある。このあたりについては、4~10 月の日平均

気温の経年変化に基づいて、次項、詳細に記述する。

②月別日最高気温

実測値については、日平均気温と同様、6~9 月において日最高気温が増加している

傾向が伺えるが、その他の月については明確な変化は見られなかった。一方、将来に

ついては各月で概ね最高気温が上昇する傾向が見られ、7 月、8 月の日最高気温は常時、

25℃を上回ることが予測された。また、その高温化の傾向は特に 1~3 月、12 月の冬

期間において顕在化することが予測された(図 4-2)。

③月別日最低気温

実測値については上昇傾向が見られるのは、7~9 月くらいで、その他の月には明確

な変化は見られなかった。一方、将来については各月で概ね日最低気温が上昇する傾

向が見られ、4~11 月の間の最低気温は常時、0℃以上で推移することが予測された。

また、その高温化の傾向は特に 1~4 月、10~12 月の主に冬期間において顕在化する

ことが予測された(図 4-3)。

仮に、予測値が示すように将来の最低気温が上昇した場合、4 月の日最低気温は概

ね 3℃前後で推移することになる。このことは、融雪期の早まりを示し、その結果、

ぶどうの発芽が早くなることが予測される。その結果、現状において成熟期に達しな

16

いようなぶどう品種においても、成熟までに十分な生育期間を確保できるようになる

可能性がある。同時に成熟期の早期化も考えられ、例えばミュラートゥルガウのよう

に早生品種であれば、現在の 9 月上旬の成熟期が 8 月に早まる可能性がある。また、

十分気温が上がらないうちに発芽するため、遅霜等の影響により生育悪化の懸念が増

えることも考えられる。

④月別積算降水量

実測値については、明確な増減の傾向は見られないが、その中でも 2010~15 年の 8

月、9 月の積算降水量が概ね 175~200mm を示し、他月、他期間よりも比較的高い値を

示した。予測値では 8 月の積算降水量が 2020 年以降、現状の 2 倍程度にまで増大する

ことが示された(図 4-4)。

前述の通り、融雪期が早期化することでミュラートゥルガウのような早生品種の成

熟期が 8 月に早期化する可能性がある。仮に予測通り 8 月の降水量が増加した場合、

成熟期の多量降雨は裂果や灰色かび病等の危険性が増え、今以上に防除が重要になる

と考えられる。

8 月の予測値について、5 ヵ年平均で実測値よりも極端に数値が高くなることから、

8 月の積算降水量については、別途、経年的な変化についても検討した。

その結果、2020 年以降、8 月の降水量はコンスタントに高く推移する訳ではなく、

数年に一度、極端な多雨月が見られることが予測されていた(図 4-6)。特に多雨月の

降水量は、現状値よりも著しく多く、防除対策に加え、排水対策等についても検討し

ていくことが重要と考えられる。

⑤月別日日照時間

実測値については、6~8 月の期間、日日照時間が増加する傾向が確認された。将来

的には、1~4 月、11~12 月の冬期間、草春に現状よりも日日照時間が低下することが

予測された。さらに、8 月においても日日照時間の低下が予測されているが、このこ

とは、8 月の積算降水量の増加予測を反映していると考えられる(図 4-5)。

17

図 4-1

月別

日平

均気

温の

実測

値と

予測

(各

ワイ

ナリ

ー・

ヴィ

ンヤ

ード

平均

,エ

ラー

バー

は標

準偏

差)

-15

-10-505

10

15

20

25

30

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別日平均気温(℃)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

18

図 4-2

月別

日最

高気

温の

実測

値と

予測

(各

ワイ

ナリ

ー・

ヴィ

ンヤ

ード

平均

,エ

ラー

バー

は標

準偏

差)

-15

-10-505

10

15

20

25

30

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別日最高気温(℃)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

19

図 4-3 月別日最低気

温の

実測値と

予測値

(各ワイナリ

ー・ヴ

ィンヤ

ード平均

,エラ

ーバー

は標

準偏

差)

-15

-10-505

10

15

20

25

30

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別日最低気温(℃)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

20

図 4-4 月別

積算降水

量の

実測値と

予測値

(各ワイナリ

ー・ヴ

ィンヤ

ード平均

,エラ

ーバー

は標

準偏

差)

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別積算降水量(mm)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

21

図 4-5 月別日日照時

間の

実測値と

予測値

(各ワイナリ

ー・ヴ

ィンヤ

ード平均

,エラ

ーバー

は標

準偏

差)

012345678

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別日日照時間(hour)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

22

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045

8月

の積算降水量(m

m)

実測値

予測値

図 4-6 8月の積算降水量の実測値(1990~2015年)と予測値(2020~2044 年)の推移

(各ワイナリー・ヴィンヤードの平均値、エラーバーは標準偏差

以上述べてきたように、ぶどう栽培期間は現状においても 7~9月の期間、高温化の傾向に

あり、将来的には上記期間も含め、特に冬期間を中心に高温化が加速することが予測された。

また、8 月の積算降水量の変動の拡大や日日照時間の低下等もぶどう品質を左右する重要な

予測結果である。

ただし、予測値については一つの可能性を提示したに過ぎないものであり、その予測結果

には不確実性を含むことに留意が必要である。さらに、本調査では気候変化の傾向を、5 ヵ

年単位の平均値に基づき評価している。このため、例えば図 4-6に示したように、平均化に

より、本来、見られるはずの傾向が見えなくなっていることにも留意が必要である。

今後の課題として、現状値、予測値とも経年データとして再編成した上で、気候変化の傾

向について検討していくことが重要と考えられる。

23

(2)平均日平均気温、BEDDの現状と将来予測

図 4-7には、4~10月の平均日平均気温の実測値と予測値の推移を示す。

12

13

14

15

16

17

18

1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045

平均

日平

均気温(℃

、4~

10月)

実測値

予測値

図 4-7 4~10月の平均日平均気温の実測値(1990~2015年)と予測値(2020~2044 年)の推移

(各ワイナリー・ヴィンヤード平均、エラーバーは標準偏差)

実測値を見ると、1990 年から 97 年頃まで日平均気温の年次変動が比較的大きく、13℃か

ら 15℃の範囲で推移していた。ところが、1998年以降になると、ほとんどの年の日平均気温

は 14℃以上となり、概ねその範囲は 14℃から 15℃であった。

このことから、空知地域の日平均気温については、近年、低温年が減少していることで、

日平均気温の高位安定化が図られているような状況にある。

一方、将来的には 1990~97年頃のような比較的大きな年次変動を持ちながら、日平均気温

が上昇する傾向を示し、2020~2040 年の期間は概ね 15℃以上、2040 年以降は概ね 16℃以上

に変化することが予測された。

Jones(2006)の 4~10月の日平均気温に基づく区分では、例えば現在、空知で栽培が行われ

ているピノ・ノワールを例にとると、成熟に必要な日平均気温は 14~16℃くらいであること

が示されている(図 4-8)。空知地域のワイナリーの一つである山﨑ワイナリーが空知で初め

てピノ・ノワールの栽培を試みたのが 1998 年であるが、奇しくもその栽培開始年を境として、

空知地域の 1998年以降の気象条件はピノ・ノワールの成熟に適正な温度帯に変化していたこ

とが分かる。

24

次節述べるように、空知地域でも果実糖度が 20%を超えるピノ・ノワールが産出されてい

る事実から考えると、Jones(2006)の区分は北海道における品種選定の一つの指標として考慮

できると思われる。

生育期間の日平均気温(北半球4~10月、南半球10~4月)

ミュラートルガウ

ピノ・グリ

ゲヴュルツトラミネール

リースリング

ピノ・ノワール

シャルドネ

ソービニヨン・ブラン

セミヨン

カベルネ・フラン

テンプラニーリョ

ドルチェ ット

メルロー

マルベック

ヴィオニエ

シラー

カベルネ・ソービニヨン

サンジョヴェーゼ

グルナッシュ

カリニャン

ジンファンデル

ネッビオーロ

レーズン

テーブルグレープ

図 4-8 4~10月の日平均気温別の適正品種区分(Jones,2006、再掲)

25

また、予測値と図 4-8から、将来的な空知地域の適正品種はピノ・ノワール、シャルドネ、

ソービニヨンブラン等と予測されたが、これらの品種の栽培は空知地域で多くのワイナリ

ー・ヴィンヤードで取り組まれており、気候変化を見越した品種選定が空知地域においては

既に始まっていると言える。

図 4-9には、BEDD の実測値と予測値の推移を示す。

800

900

1000

1100

1200

1300

1400

1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045

BED

D(℃

)

実測値

予測値

図 4-9 BEDD の実測値(1990~2015年)と予測値(2020~2044年)の推移

(各ワイナリー・ヴィンヤード平均、エラーバーは標準偏差)

BEDDについても日平均気温と同様、1990~1997年の期間については比較的年次変動が大き

く、900~1100 ℃の範囲であった。1998 年以降、明らかに高位安定化し、1000℃以上で推移

する年が多くなるが、1998 年以降も年次によっては 900℃前後の低い値を示す年が見られた

(例えば 2003 年等)。

このことから、BEDDの高位安定化の傾向は、日平均気温ほど明確ではない。

一方、将来的にみた場合も、2020~2027年頃までは BEDDの年次変動が 950~1250℃と著し

く大きいことが分かる。その後、2028 年以降になると変動はまだ大きいものの、概ね BEDD

は 1150℃以上に、2040年以降は 1200℃以上に変化し、将来における空知地域の適正品種は、

日平均気温と同様、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソービニヨンブラン等になると予測され

た。

なお、赤ワイン用のピノ・ノワールを例にとると、成熟までに必要な BEDD は 1150℃とさ

26

れており、その値は現状値よりもかなり高い値を示した。前述したように空知地域において、

実際、果実糖度の高いピノ・ノワールを産出している現状を踏まえると、空知地域で BEDDの

品種区分を当てはめた場合、実際よりも BEDD がぶどう成熟までに必要な有効積算温度を過大

に評価してしまうことにも留意が必要である。

表 4-1 成熟に達するまでに必要な BEDD(Gladstone,1992、再掲)

赤ワイン 白ワイン又はロゼワイン

グループ11050℃

- マドレーヌ、マドレーヌ・シルヴァーナ

グループ21100℃

ブルー・ポルトケーズシャスラー、ミュラートルガウ、ジーガレーベ、バッカス、ピノ・グリ、マスカット・オットネル、ピノ・ノワール、ムニエ

グループ31150℃

ピノ・ノワール、ムニエ、ガメイ、ドルチェット、バスタルド、ティンタ・カルバリャ、ティンタ・アマレラ

トラミネール、シルバナー、ショイレーベ、エルプリンク、モリオ・マスカット、ケルナー、シャルドネ、ソービニヨン・ブラン、アリゴテ、ムロン、フロンティニャック、ペドロ・ヒメネス、ベルデーリョ、サルタナ

グループ41200℃

マルベック、ジンファンデル、スキアーヴァ、テンプラニーニョ、ティンタ・マデイラ、ピノタージュ

セミヨン、ミュスカデル、リースリング、ヴェルシュリースリング、フルミント、レアーニカ、ハールシュレヴェリュ、セルシアル、マルヴァジア・ビアンカ、カベルネ・フラン

グループ51250℃

メルロー、カベルネ・フラン、シラー、サンソー、バルベーラ、サンジョヴェーゼ、トゥーリガ

シュナン・ブラン、フォル・ブランシュ、クルシェン、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴィオニエ、タミンガ、カベルネ・ソービニヨン

グループ61300℃

カベルネ・ソービニヨン、ルビー・カベルネ、モンドゥーズ、タナ、カダルカ、コルヴィーナ、ネビオロ、ラミスコ、アルヴァレリャン、ム―リスコ・ ティント、ヴァルディギエ

コロンバード、パロミノ、ドナ・ブランカ、ラビガト、グルナッシュ

グループ71350℃

アラモン、プティ・ベルド、マタロ、グルナッシュ、フレイザ、ネガラ、グリニョリーノ、Souzão*、グラシアーノ、モナストレル

マスカット・ゴルド・ブラン、トレビアーノ、モンティル

グループ81400℃

タランゴ、テレ・ノワールクレレット、グルナッシュ・ブラン、ドラディーヨ、Biancone*

*適切なカタカナ表記が認められない品種は原文のまま表示

27

(3) 醸造用ぶどう地域適応品種調査(2013~2015年)

①後志地域のピノ・ノワールの品質の年次変動とその要因解析

図 4-10 には、後志地域で作付されているピノ・ノワール(6 地点)の糖度の年次間差(2013

~2015 年)を示す。なお、作図に用いたデータは、各年とも同一地点を対象として、果実が

サンプリングされ、品質分析が行われたものである。

15

16

17

18

19

20

21

22

2013年 2014年 2015年

糖度

(%)

a

b

a

各調査年;n=6

図 4-10 後志地域のピノ・ノワールの糖度(2013~2015年)

英数字の違いは Bonferroni の多重比較検定の結果 1%水準で有意差があることを示す。

各年の平均糖度はいずれも 18 %以上であった。この数値は、山梨県における地理的表示の

生産基準の、ヴィニフェラ種(欧州系ワイン専用種)の最低果汁糖度 18% をいずれも上回って

いた(https://www.yamanashi-kankou.jp/taste/wine/documents/wine_syoukai.pdf)。特に

2014 年については平均糖度が 20 %を超え、他の年次との糖度の差異には、統計学的に 1%水

準で有意な差が認められた。

図 4-11には後志地域の 2013~2015年におけるピノ・ノワールの糖度と酸度の関係を示す。

両者の間には、多少のバラツキが見られたものの、統計学的に 1%水準で有意な負の相関関

係が認められ、糖度が高い果実ほど酸度は低下する傾向が認められた。

Kobayashi et al. (2011)は、気象条件が醸造用ぶどう品種の甲州種の果実品質に影響につ

いて検討した。その結果、開花後 10 週目以降(特に 10~13 週目)の気象要因が果実品質に影

響し、日照時間が長く、高温条件ほど高糖度、低酸度になることを示している。このように、

28

醸造用ぶどうの果実品質には生育後期の気象条件が影響する。

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

15 17 19 21 23

酸度

(g/100ml)

糖度(%)

2013年

2014年

2015年

r=0.62**

図 4-11 後志地域の 2013~2015年におけるピノ・ノワールの糖度と酸度の関係

(**1%水準で統計学的に有意であることを示す。)

後志地域のピノ・ノワールは概ね開花期が 7 月上旬頃であり、そこから計算すると、開花

後 10週目以降には、主に 9月以降が該当する。そこで、9月以降の気象を中心に、果実品質

の年次間差の要因を検討した。なお、気象データはアメダス余市の観測値を利用した。

図 4-12 には、2013~2015 年のぶどう生育期間(4~10 月)の月別日平均気温、月別日最高

気温、月別日最低気温を示す。

比較的、5~7月の期間、高糖度の 2014年は、他の年次に比べて高温で推移した。しかし、

9月以降の条件で見ると、必ずしも 2014年が他年次よりも高い訳ではなく、糖度の年次間差

への気温の影響は小さいと考えられた。

29

図 4-12 後志地域(アメダス余市)の月別日平均気温、日最高気温、日最低気温の推移(2013~2015 年)

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日平均気温

(℃)

2013年

2014年

2015年

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最高気温

(℃)

2013年

2014年

2015年

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最低気温

(℃)

2013年

2014年

2015年

30

一方、月別積算降水量を見ると、高糖度であった 2014 年の 4月、9~10月は、他年次より

もかなり少ない傾向にあった(図 4-13)。また、2014 年の平均日日照時間は、4月、8~10月

は他年次よりも高く推移した(図 4-14)。4月等の春先の気象は果実品質よりも収量性に関連

する時期であり、前述したように、9 月以降が果実品質に影響を及ぼす時期と考えられる。

これらのことから、2014 年については、9 月以降の十分な日照時間と、低降水条件が糖度の

増加に寄与したと考えられた。

0

50

100

150

200

250

300

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別積算降水量

(mm)

2013年

2014年

2015年

図 4-13 後志地域(アメダス余市)の月別積算降水量の推移(2013~2015 年)

0

2

4

6

8

10

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日日照時間

(nour)

2013年

2014年

2015年

図 4-14 後志地域(アメダス余市)の月別日日照時間の推移(2013~2015 年)

31

なお、秋季の日照時間が多いことが糖分増加要因との検討結果は、Kobayashi et al. (2011)

の甲州種を用いた報告と一致した。また、土壌が乾燥した条件(換言すると低降水条件)ほど、

果汁糖度が高くなるという報告もボルドー地区の研究を中心として、これまで多数あり(例え

ば Leeuwen et al.,2007、Renouf et al., 2010、Ubalde et al., 2010等)、それら報告と今

回の検討結果は一致した。

②空知地域と後志地域とのピノ・ノワールの品質の地域間差とその要因解析

図 4-15には、空知地域で作付されているピノ・ノワールの果実糖度の年次変化(2013~2015

年)を示す。なお、2013 年、2014 年はそれぞれ 1 地点(1 ヶ所)を対象としているが、両年の

調査地点は異なっている。また、2015 年は 2014年の調査地点に 1地点(3ヶ所)を加え、合計

2地点(4ヶ所)で調査を実施している。このことから、下図は同一地点の果実品質を時系列的

に追ったものではないので、年次間差はあくまでも参考値である。

15

16

17

18

19

20

21

22

2013年 2014年 2015年

糖度

(%)

n=1

n=1

n=4

図 4-15 空知地域のピノ・ノワールの糖度(2013~2015年)

本調査結果も、1 地点の結果であるが、2014 年の糖度は他年次よりも高い値を示した。ま

た、2015年においても、平均で 20%以上の糖度を示し(図 4-10)、後志地域と比較しても糖度

は高い水準にあった。

図 4-16に空知地域、後志地域の 2013~2015年のピノ・ノワールの糖度と酸度の関係を示

す。

32

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

2.2

15 17 19 21 23

酸度

(g/100ml)

糖度(%)

空知地域

後志地域r=0.83*

r=0.62**

図 4-16 空知地域と後志地域の 2013~2015 年におけるピノ・ノワールの糖度と酸度の関係

(*1%水準で統計学的に有意であることを示す。**5%水準で統計学的に有意であることを示す。)

両地域とも、糖度と酸度の間には統計学的に有意な水準(空知地域;5%水準、後志地域;1%

水準)で有意な負の相関関係が認められており、糖度が高い果実ほど酸度が低下することが確

認された。しかし、その回帰式は両地域で異なり、同一糖度で比較した場合、空知地域の酸

度が高い傾向にあった。例えば糖度が 20%程度の条件では後志地域の酸素は 1.0g/100ml くら

いまで低下するのに対して、空知地域の酸度は 1.5g/100mlに留まった。通常、酸度は 1.0g/ml

程度がほど良く、1.5g/ml であればかなり酸度が高いと判断される。このことから、空知地

域では糖度と酸度が高いという、後志地域にはない特徴を持つ果実を産出しているのかもし

れない。

以上のように、空知地域と後志地域の地域間差として、「酸度の違い」が挙げられた。

一般的に酸度は 9 月の夜温に影響され、夜温が高い条件ほど酸度の低下が顕著になる。そ

こで、空知地域と後志地域の気象条件の差異を、アメダス岩見沢、アメダス余市の観測デー

タを基に比較した(図 4-17)。

33

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日平均気温(℃

)

2013年(岩見沢)

2013年(余市)

2014年(岩見沢)

2014年(余市)

2015年(岩見沢)

2015年(余市)

2013年2014年

2015年

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最高気温(℃

)

2013年(岩見沢)

2013年(余市)

2014年(岩見沢)

2014年(余市)

2015年(岩見沢)

2015年(余市)

2013年

2014年2015年

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最低気温(℃

)

2013年(岩見沢)

2013年(余市)

2014年(岩見沢)

2014年(余市)

2015年(岩見沢)

2015年(余市)

2013年

2014年2015年

図 4-17 空知地域(アメダス岩見沢)、後志地域(アメダス余市)の

月別日平均気温、日最高気温、日最低気温の推移(2013~2015 年)

その結果、各月とも両地点の明確な地点間差がなく、9月以降の月別日最低気温等では、3

ヵ年とも逆に岩見沢の方が余市に比べて高い結果を示した。このことは、夜温が岩見沢で余

市よりも高いことを示し、上述の空知地域における醸造用ぶどうの高い酸含量とは一致しな

34

い結果であった。

その理由として、アメダスの観測ポイントが農村部にある余市に対し、岩見沢の観測ポイ

ントは市街地にあり、その観測値には都市化による温度上昇の影響が反映されている可能性

が考えられた。そこで、アメダス岩見沢に近く、かつ観測位置が農村部であるアメダス美唄

の観測データを用いて、両地域の気象条件の差異を再検討した(図 4-18)。

図 4-18 空知地域(アメダス岩見沢)、後志地域(アメダス余市)の

月別日平均気温、日最高気温、日最低気温の推移(2013~2015 年)

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日平均気温(℃

)

2013年(美唄)

2013年(余市)

2014年(美唄)

2014年(余市)

2015年(美唄)

2015年(余市)

2013年2014年

2015年

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最高気温(℃

)

2013年(美唄)

2013年(余市)

2014年(美唄)

2014年(余市)

2015年(美唄)

2015年(余市)

2013年

2014年2015年

-5

0

5

10

15

20

25

30

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日最低気温(℃

)

2013年(美唄)

2013年(余市)

2014年(美唄)

2014年(余市)

2015年(美唄)

2015年(余市)

2013年

2014年2015年

35

その結果、9月の最高気温は両地点の差が認められなかったが、9月の最低気温については

3 ヵ年とも余市が美唄を上回ることが分かった。また、10 月についても、美唄の最低気温は

3ヵ年とも余市よりも低い値を示した。

以上のことから、同じ農村部である観測ポイントの比較において空知地域の最低気温は後

志地域を下回っており、この結果は両地域の酸度の違いとも一致し、空知地域の醸造用ぶど

うの高い酸度は低い夜温に影響を受けている可能性が示唆された。

さらに、前項で示したように、今後、9月においても最低気温の上昇が予測されており(図

4-19)、空知地域の醸造用ぶどうは「糖度が高く、酸度も高い果実品質」から、「糖度が高く、

酸度が低い果実品質」に移行していくことも考えられる。

なお、アメダス美唄と今回の空知地域における果実品質調査地点とは距離があり、本検討

結果は推定の域を出ないものであることから、空知の果実酸度が高い理由については、今後

も系統の違いなどを含めて果実の品質データを蓄積し、解析を進めていくことが重要である。

参考として、2013~2015 年のアメダス岩見沢とアメダス余市、アメダス美唄とアメダス余

市の月別積算降水量、月別日日照時間についても以下に示す。

36

図 4-19 月別日最低気温

の実測値

と予測

値(再掲)

(各ワイナリ

ー・ヴ

ィンヤ

ード平均

,エラ

ーバー

は標

準偏

差)

-15

-10-505

10

15

20

25

30

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

月別日最低気温(℃)

1990-94年(実

測)

1995-99年(実

測)

2000-04年(実

測)

2005-09年(実

測)

2010-15年(実

測)

2020-24年(予

測)

2025-29年(予

測)

2030-34年(予

測)

2035-39年(予

測)

2040-44年(予

測)

37

0

50

100

150

200

250

300

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別積算降水量(m

m)

2013年(岩見沢)

2013年(余市)

2014年(岩見沢)

2014年(余市)

2015年(岩見沢)

2015年(余市)

2013年

2014年

2015年

図 4-20 空知地域(アメダス岩見沢)、後志地域(アメダス余市)の

月別積算降水量の推移(2013~2015年)

0

2

4

6

8

10

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日日照時間(hour)

2013年(岩見沢)

2013年(余市)

2014年(岩見沢)

2014年(余市)

2015年(岩見沢)

2015年(余市)

2013年

2014年

2015年

図 4-21 空知地域(アメダス岩見沢)、後志地域(アメダス余市)の

月別日日照時間の推移(2013~2015年)

38

0

50

100

150

200

250

300

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別積算降水量(m

m)

2013年(美唄)

2013年(余市)

2014年(美唄)

2014年(余市)

2015年(美唄)

2015年(余市)

2013年

2014年

2015年

図 4-22 空知地域(アメダス美唄)、後志地域(アメダス余市)の

月別積算降水量の推移(2013~2015年)

0

2

4

6

8

10

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

月別日日照時間(hour)

2013年(美唄)

2013年(余市)

2014年(美唄)

2014年(余市)

2015年(美唄)

2015年(余市)

2013年

2014年

2015年

図 4-23 空知地域(アメダス美唄)、後志地域(アメダス余市)の

月別日日照時間の推移(2013~2015年)

39

4-2.土壌調査

(1)土壌断面調査

①高橋ヴィンヤード

高橋ヴィンヤードの土壌断面写真を写真 4-1 に示す。

写真 4-1 高橋ヴィンヤードの土壌断面写真

高橋ヴィンヤードは腐植を含む作土層(Ap1 層、Ap2 層)が深さ 30cm まで見られ、その下層

には、斑紋を持つ層が出現した。斑紋は一次過湿等の痕跡を示すので、本土壌は、融雪時や

多量降雨時等に、深さ 30cm 以深の土層が一時的に過湿になる可能性がある。このことから、

土壌タイプは灰色台地土に分類された。

土性は全体的に細粒質であった。土壌硬度は Ap2層以深で比較的堅密であり、特に深さ 70cm

以深の土層(Bg3層)では 29mmと非常に堅密で、土壌構造は無構造の壁状構造を示した。

根の発達状況であるが、Bg1層で急減し、Bg3層では根が観察されなかった。

一部、土層に心土破砕跡と思われる膨軟な箇所が確認されたが、根の伸張は不十分と考え

られ、根群域を確保するために心土破砕等により、作土以深の土層をさらに膨軟にすること

が重要である。

40

② 濱田ヴィンヤード

濱田ヴィンヤードの土壌断面写真を写真 4-2 に示す。

写真 4-2 濱田ヴィンヤードの土壌断面写真

濱田ヴィンヤードは腐植に富む作土層(Ap1 層、Ap2 層)が深さ 26cm まで見られたが、その

うち、Ap2 層の土壌硬度は 25~27mm と非常に堅密であった。

作土直下から、斑紋を持つ層が出現した。斑紋は一時過湿等の痕跡を示すので、融雪時や

多量降雨時等に、深さ 30cm 以深の土層が一時的に過湿になる可能性がある。このことから、

本土壌は灰色台地土に分類された。

作土、2Cg 層の土性は比較的砂質であり多量の礫を含んでいたが、深さ 72cm 以深(3Cg 層)

では、礫は少なくなった。また、2Cg 層は土壌硬度が 13~14mm と低い値を示すのに対して、

3Cg 層は 26~27mm と非常に堅密であり、土壌構造は無構造の壁状構造を示した。

雑草根の発達状況であるが、Ap2 層で急減し、3Cg 層では根が観察されなかった。

このことから、本土壌では Ap2 層が根群域発達を制限しており、根の十分な発達のために

は、心土破砕等により、Ap2層の土壌物理性改善が必要である。

41

(2)土壌理化学性調査

①高橋ヴィンヤード

土壌化学性の分析結果を( )に示す。

表中の赤字は「北海道施肥ガイド 2015」の維持管理樹園地の基準値よりも上回っていること

を、青字は基準値よりも下回っていることを示す。

特徴的なこととして、地形上部、下部とも pH が 4.7~4.9 と基準値(6.0~6.5)を著しく下

回ったことである。ぶどうは比較的高い pH を好むと言われているので、石灰等による pH 矯

正が重要と考えられる。

その他、有効態リン酸、交換性加里、交換性苦土等の肥料成分が全体的にやや過剰気味で

あったが、この程度の値は通常の畑地においてごく一般的に見られる値である。一方、下部

においてはカルシウムとマグネシウムのミネラルバランス(Ca/Mg比)が基準値を下回ったが、

pH 改善に石灰を施用した場合、このバランスも合わせて改善することが期待できる。

土壌断面調査地点の土壌物理性の分析結果を( )に示す。

表中の赤字は、土壌化学性分析結果と同様、基準値よりも大きいことを、青字は基準値未

満であることを示す。

特徴的なことは、作土以深(深さ 30cm 以深)の気相率(pF=1.5)が 5 %未満と低く、それら

の土層では飽和透水係数も基準値以下であった。また、容積重も作土以深で 1.4 g/cm3以上と

大きく、土粒子が充填された状態であった。このことから、作土以深は難透水層と位置づけ

られ、作土直下から根の伸張ならびに多量降雨時の余剰水の速やかな排水が阻害される危険

性を持つと考えられた。なお、その結果は土壌断面調査と概ね一致し、対策としては心土破

砕による作土以深の膨軟化が重要と考えられた。ただし、本土壌のように作土以深が連続的

に難透水層を呈する場合、不適切な心土破砕の施工は、逆に施工部分に余剰水の集積を招く

ことになり、湿害被害を誘発する危険性がある。このことから、心土破砕を施工する場合は、

破砕部に集積した余剰水を迅速に排除できるように、地形条件を考慮し、施工することに留

意が必要である。

一方、粒径組成は全体的にシルト分や粘土分が多く、細粒質であった。保水性の指標とな

る易有効水分はぶどう栽培にとって概ね適正な状況にあると考えられた。

42

③ 濱田ヴィンヤード

土壌化学性の分析結果を( )に示す。

表中の赤字は「北海道施肥ガイド 2015」の維持管理樹園地の基準値よりも上回っていること

を、青字は基準値よりも下回っていることを示す。

両地点とも pHは基準値内に収まっていたが、有効態リン酸、交換性加里、交換性苦土で基

準値を上回り、特に土壌断面著差地点の交換性苦土が高い値を示した。そのため、土壌断面

調査地点ではカルシウムとマグネシウムのミネラルバランス(Ca/Mg 比)が基準値を下回って

おり、適正化のためには石灰の施用が必要である。一方、その他の基準値を上回った項目は、

通常の畑地においてごく一般的に見られる値であり、大きな問題はないと考えられた。

土壌断面調査地点の土壌物理性の分析結果を( )に示す。

表中の赤字は、土壌化学性分析結果と同様、基準値よりも大きいことを、青字は基準値未

満であることを示す。

特徴的なことは、3Cg 層の気相率(pF=1.5)が 0.4%と著しく小さく、その土層では飽和透水

係数も基準値以下であった。このことから、3Cg 層は難透水層であると判断した。一方、土

壌断面調査結果でも示したように Ap2 層も堅密であり、気相率(pF=1.5)が 5.2%と基準値の

下限値近辺の値を示したことから、土壌物理性分析においても根の伸張を阻害する可能性が

示唆された。ただし、Ap2 層は比較的浅部(10~26m)の層位であり、心土破砕のような人為的

土層改良方法により、容易に膨軟化することが可能である。

一方、粒径組成はシルト分や粘土分が少なく、砂分が主体であった。一方、保水性の指標

となる易有効水分はぶどう栽培にとって概ね適正な状況にあると考えられた。

43

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