小児のショック 総論
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ショックの定義
• 組織への酸素と栄養の供給が不十分で、代謝需要を満たせないために起こる危機的状況 ⇒ショック ≠ 血圧低下ではない !
• ショックによる不十分な組織潅流が持続すると、細胞や臓器に不可逆的な障害が生じ、急速に心肺機能不全へと進行、心停止となる
組織への酸素供給
• 組織への十分な酸素供給は
–組織への血流が十分であること
–血液中の酸素含有量が十分であること
–小児で心拍出量が低下する理由は、1回拍出量の低下であることが多い
• 前負荷• 心筋収縮力• 後負荷
1回拍出量×
心拍数
心拍出量×
酸素含量酸素供給量
ところで
• 1回拍出量は1回の心拍で送り出される血液量です
• 以下の3つによって規定されます
–前負荷 :収縮前に心室に存在する血液量
–心筋収縮力 :収縮の強さ
–後負荷 :心室が収縮した時に受ける抵抗
代償機序
• 1回拍出量が低下した場合、組織への酸素供給を維持するため代償機序が活発になる
–頻脈
–体血管抵抗の増加
• 皮膚が冷たく、発汗
• CRT (capillary Refilling Time)の延長
• 末梢の脈が微弱、脈圧の減少
–心筋収縮力の増加
–静脈緊張の増加
ショックの徴候 代償機序から
• 心拍数増加
–心臓 : 頻脈
• 体血管抵抗増加
–皮膚 : 冷感、蒼白、発汗
–循環 : 毛細血管再充満時間の遅延
–脈拍 : 末梢脈拍微弱、脈圧減少(dBP↑)
• 内臓血管抵抗上昇
–腎・腸管: 乏尿、嘔吐、イレウス
ショックの徴候 5P
• Pallor– 蒼白
• Pulmonary insufficiency– 呼吸不全
• Pulselessness– 脈拍触知不能
• Perspiration– 冷汗
• Prostration– 虚脱
外傷初期診療 ショックの徴候
SHOCK
• S: Skin–冷たい、蒼白、発汗
• H: HR–頻脈
• O: Outer bleeding–外出血の有無の確認
• C: CRT– capillary refill time (毛細血管再充満時間)
• K: Ketsuatsu (血圧)
ショックの分類
• 重症度別–代償性
• sBPが正常範囲内 + 組織潅流不十分な徴候
–低血圧性(非代償性)• sBPの低下 + 組織潅流不十分な徴候
• 病型別1. 循環血液減少性 Hypovolemic shock
2. 血液分布異常性 Distributive shock
3. 心原性 Cardiogenic shock
4. 閉塞性 Obstructive shock
5. 貧血性 Anemic shock
低血圧の定義
年齢 収縮期血圧(mmHg)
満期産の新生児(0~28日)
<60
乳児(1~12ヵ月)
<70
小児1~10歳血圧の5パーセンタイル
<70 + (年齢×2)
小児>10歳以上
<90
低血圧性ショックへの進展を阻止!
• ショック ≠ 血圧低下
• 代償性ショックの状態で介入しなければ、低血圧性ショックへ進展 ⇒致死的
–代償性ショック ⇒低血圧性ショック:数時間
–低血圧性ショック⇒心停止:数分
ショックの認識フローチャート
臨床的徴候 循環血液量減少性 血液分布異常性 心原性 閉塞性
気道 (A) 開通性 気道は開通しており、維持できる/維持できない
呼吸 (B)
呼吸数 増加
呼吸努力 正常~増加 努力性
呼吸音 正常 正常(±ラ音) ラ音、呻吟
循環 (C)
収縮期血圧 代償性ショック ⇒低血圧性ショック
脈圧 低下 状況で異なる 低下
心拍数 増加
末梢の脈 微弱 反跳・微弱 微弱
皮膚 蒼白・冷感 暖/冷感 蒼白・冷感
CRT 遅延 状況で異なる 遅延
尿量 減少
神経学的 (D) 意識レベル 早期は易刺激性 ⇒晩期は嗜眠
身体診察 (E) 体温 状況によって異なるPALSプロバイダーマニュアルより一部改変
ショックの管理
• 目標–ショックの迅速な認識・介入・離脱
–組織への酸素供給を回復させ、組織潅流と代謝需要のバランスを改善すること!!
• 管理の基本–血液酸素含有量の最適化
–心拍出量と血液分布の改善
–酸素需要の抑制
–代謝障害の是正
酸素投与方法
• どのような投与法がありますか?
–低流量システム• 鼻カニューレ
• 単純フェイスマスク (最大酸素吸気濃度: 60%)
–高流量システム• 部分再呼吸式リザーバーマスク
• 非再呼吸式リザーバーマスク
• ショックや呼吸障害時には高流量システムを使用する!
高流量システム
部分再呼吸式リザーバーマスク
• 単純フェイスマスクにリザーバーバッグが附属
• 吸入酸素濃度:50-60%以上⇒高流量(10-12 L/min)
の酸素流量が必要
• リザーバーを膨らませてから装着
• リザーバーバッグが虚脱しない様、流量を調節
非再呼吸式リザーバーマスク
• マスク側面と、マスク・リザーバーバッグ間に吸気方向の一方向弁が装着
• 呼気はマスク外へ排出
• 吸入酸素濃度:95%以上⇒高流量(10-15 L/min)の酸素流量が必要
• 流量不足は容易に低換気・低酸素となる
血管の確保
• 輸液蘇生や薬剤の投与のために血管確保が重要になります
–まず初めに
• 末梢静脈へのカニューレ挿入を試みる
–挿入困難な場合
• いたずらに末梢確保に時間を取らない
• 骨髄針を用いて骨髄路を確保する
骨髄路の確保
• 物品
–イリノイ骨髄針(当院採用)
–消毒・輸液ライン
• 穿刺部位
–脛骨近位内側の脛骨粗面(平らな面)が第一選択
–脛骨結節の1-3cm遠位を目安として、針先をやや下方に向けて穿刺する
• 大腿骨遠位端・内踝・上前腸骨棘なども穿刺部位として用いられる事あり
イリノイ骨髄針
• デプスガードで挿入する深さを調整
• 幼児・小児の場合、表皮から骨皮質を貫通するまでほとんど1cm以内
• 穿刺後、スクリューキャップを外し、スタイレットを引き抜く時に骨髄針自体を引き抜く可能性があり注意する!
イリノイ骨髄針 添付文書から
手順
1. 下肢を軽度外転・外旋し、膝を軽度屈曲
2. 穿刺部位を消毒 (イソジン使用)
3. 骨髄針にて穿刺
– 穿刺部位の裏側に手を回さないこと!
4. 確認
– 針が支えなく立つ
– シリンジにて陰圧をかけると骨髄液が引ける
– 生理食塩水が抵抗なく注入でき、周囲が腫れない
5. 固定 骨髄針を直接テープで固定する
体液の体内分布
体内総水分量 (total body water: TBW)
ICF 間質液 血漿
ECF
• 体内総水分量 (total body water: TBW)
成人・小児: 60% 乳幼児: 65% 新生児: 75%
‐ 細胞内液 (intracellular fluid: ICF) : 40% ⇒全年齢で変わらず
‐ 細胞外液 (extracellular fluid: ECF): 20(-35)%
‐ 血漿(血管内): 5%
‐ 間質液 : 15(-30)%
輸液をすると
• 原則
–輸液は血管内に入り、間質へと移動して、さらに細胞内液へと移動する
–ショックで大切なのは循環血液量を増大させること!
–細胞外液へ長くとどまる輸液製剤を選択する
細胞内液 間質 血漿
ECF
輸液製剤を1L投与した場合
輸液製剤組成の内訳 細胞内液
(8)
細胞外液(4)
等張液 自由水 間質 (3) 血管内 (1)
生理食塩水
(Na: 154 mEq/L)1000 mL 0 mL 0 mL 750 mL 250 mL
ソリタT1®
(Na: 90 mEq/L)590 mL 410 mL 275 mL 545 mL 180 mL
ソリタT3®
(Na: 35 mEq/L)360 mL 640 mL 425 mL 430 mL 145 mL
5%糖液
(Na: 0 mEq/L)0 mL 1000 mL 665 mL 250 mL 85 mL
輸液製剤
• 種類–等張晶質液 (細胞外液)
• 生理食塩水 (Na+: 154, Cl-: 154mEq/L)
• 乳酸リンゲル液 (ラクテック®)
– (Na+: 130, K+: 4, Ca2+: 3, Cl-: 109, L-Lactate-: 28 mEq/L)
• 酢酸リンゲル液 (ヴィーンF®・ソリューゲンF®)
– (Na+: 130, K+: 4, Ca2+: 3, Cl-: 109, Acetate-: 28 mEq/L)
• 重炭酸リンゲル液 (ビカーボン®)
– (Na+: 135, K+: 4, Ca2+: 3, Mg2+: 1, Cl-: 113, HCO3-: 25,
Citrate3-: 5 mEq/L)
• 乳酸 (lactate) vs 酢酸 (acetate) vs重炭酸 (HCO3-) ??
乳酸 vs 酢酸 vs 重炭酸
• 乳酸も酢酸も代謝されることによって、最終的には重炭酸を生み出します
–主に代謝される場所
• 乳酸:肝臓・腎臓
• 酢酸:全身の筋肉⇒乳酸より代謝が早い
• 重炭酸:代謝されずにそのまま緩衝剤として働く
–健康な人に使用する場合⇒差はない
–ショック時
• 乳酸は高くなっている。。。
• 当院では乳酸リンゲルではなく、酢酸リンゲル(ソリューゲン®)を使用
輸液の投与量と投与時間
• では輸液蘇生時の1回投与量は?
① 5 mL/Kg
② 10 mL/Kg
③ 20 mL/Kg
④ 30 mL/Kg
⑤ 50 mL/Kg
• 答えは①、②、③です– 投与量はショックの原因によって異なります
ショックの原因別輸液投与量・投与速度
ショックの分類 輸液投与量 投与速度
循環血液量減少性ショック血液分布異常性ショック
20 mL/kg(必要時繰り返す)
5-10分かけて
心原性ショック (非中毒性) 5-10 mL/kg(必要時繰り返す)
10-20分かけて
代償性ショックを伴うDKA 10-20 mL/kg(必要時繰り返す)
1時間かけて
中毒(カルシウム拮抗薬,
βアドレナリン遮断薬など)
5-10 mL/kg(必要時繰り返す)
10-20分かけて
PALSプロバイダーマニュアルより一部改変
輸液蘇生の効果評価
• 循環血液量減少性ショック患児に対して
– 20 mL/kgの生理食塩水を投与しました
–どのような所見に注意して治療効果判定を行いますか?
–治療が効果的と判断する所見
– CRTの改善、血圧の上昇、心拍数の低下、呼吸数の減少、尿量の増加、意識状態の改善
ショック時の検査
• ショックの病因や重症度、臓器機能障害、代謝障害などの評価目的に施行–血液検査
• 血算、電解質 (Na, K, Cl, Ca)、乳酸
• 血糖 (必ず簡易血糖値も測定する)
• 血液ガス (ショック時には動脈血で評価する)
–病原微生物検査• 培養検査:カテーテル採尿による尿培養、血液培養
• 迅速検査:必要に応じて各種ウイルス抗原検査
–画像検査• レントゲン検査・CT検査・超音波検査 etc
血糖について
• 低血糖は重症小児で良く認められる
–グルコースの利用が高く、貯蔵が少ないなどから小児は低血糖の高リスク
–定義 新生児<45mg/dL, 乳児~小児<60mg/dL
–低血糖の遷延は脳に永続的な障害をもたらす
• 管理
–頻回の血糖測定
–低血糖時:Glu 0.5-1g/kg
(= 20%Glu 2.5mL/kg, 10%Glu 5mL/kg)
20%Glu (=200g/L = 200mg/mL) 2.5mL/kg =500mg/kg =0.5g/kg
輸液蘇生時の糖含有製剤の使用
• ショックに対する輸液蘇生にブドウ糖含有製剤をルーチンで投与してはならない!
• 理由
1. 大量のブドウ糖負荷
2. 高血糖
3. 血清浸透圧の上昇
4. 浸透圧利尿
5. 循環血液量減少
⇒ショックをさらに悪化させる
浸透圧の計算式
• 血漿浸透圧 (正常範囲: 285-295 mOsm/kgH2O)
=2×(Na+) + Glu(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8
{+ Mannitol (mM) + Alcohol (mM)}
• 例題
–生理食塩水 ⇒ Na:154×2 = 308 mOsm/kgH2O
–ソリタT1® ⇒ Na:90×2 + Glu:2600/18 = 324
– 5%糖液 ⇒ Glu:5000/18 = 278
生理食塩水: Na: 154mEq/L, 5%糖液: Glu: 5% (=50g/L = 50000mg/10dL = 5000mg/dL)
ソリタT1®: Na: 90mEq/L, K: 20mEq/L, Cl: 70mEq/L, Glu: 2.6%
____:non-effective osmoles ⇒細胞膜を自由に通過するため浸透圧差を生み出さない
ショックの治療に用いる血管作動薬
種類 薬物 効果
陽性変力作用薬 • アドレナリン• ドパミン• ドブタミン
• 心筋収縮力増加• 心拍数増加• SVRにさまざまな作用
ホスホジエステラーゼ阻害薬(陽性変力性血管拡張薬)
• ミルリノン• イナムリノン
• SVRの低下• 冠動脈血流量の改善• 心筋収縮力改善
血管拡張薬 • ニトログリセリン• ニトロプルシド
• SVRと静脈緊張の低下
血管収縮薬(昇圧薬) • アドレナリン• ノルアドレナリン• ドパミン• バソプレシン
• SVRの上昇• 心筋収縮力増加(バソプレシン除く)
SVR:体血管抵抗 PALSプロバイダーマニュアルより
ショックの初期管理のまとめ
• 気道の確保&酸素投与、– 必要時補助換気
• 血管確保– 末梢静脈、駄目ならぱっぱと骨髄路へ
• 輸液蘇生– 基本は等張晶質液20mL/kg, 5-20分で投与– 循環改善するまで投与を繰り返す– 心原性は別ですよ、、、
• 適切なモニタリング– バイタルが大切! 尿量やCRTも
• 臨床検査– 血糖値に注意して
• 薬物療法– 病態に応じて使い分けよう
小児救急医療Off the Jobトレーニングコース
• BLS Basic Life Support
• PALS Pediatric Advanced Life Support
• PFCCS Pediatric Fundamental Critical
Care Support
• PEARS Pediatric Emergency Assessment,
Recognition, and Stabilization