ブラジルは今 — 食べ物と農業の視点から
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2014/6/5
ブラジルは今 – 食べ物と農業の視点から
印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室)
ATTAC関西グループ・学習会 in 神戸 神戸青年学生センター
ワールドカップと日本での報道
✤ 激しいワールドカップに対するデモとそれに対する弾圧。
✤ 単純な反政府デモではない。メディアの描き方は?
✤ 複雑な政権構造。ワールドカップとオリンピック誘致は最大の失敗か。
労働者党とブラジル民衆運動
✤ 1980年軍事独裁下での労働運動、民主化運動のために生まれる。
✤ 軍事独裁(1964~1985)から民主化へ
✤ 1992年コロル大統領、弾劾
✤ 1993年 飢餓に反対し、生命のためのキャンペーンを提案…数千万が参加する巨大な運動に
✤ 大統領選挙では負け続けるが(ブラジルのメディアは9家族が支配)、地方都市で労働者党が勝利。参加型予算など革新的な政治を導入する
世界社会フォーラムと 労働者党政権誕生✤ 2001年 世界社会フォーラム…911、アフガン、イラク戦争に突き進む米国のグローバリゼーションに対抗するもう一つの民衆のグローバリズム
✤ 2003年労働者党政権成立…飢餓ゼロ政策→家族支援計画→乳児死亡率を劇的に下げ、国連に理想的な貧困撲滅政策として賞賛される。
✤ 南米に次々と左派政権の成立
労働者党政権の構造
✤ 議会内勢力には大土地所有者が強く、政権運営上、妥協を余儀なくされる。
✤ 農業相は大土地所有者の利権代表政党に。農地改革の停止。
✤ 超富裕層の権益を守りつつ、貧困対策を行う。
✤ 経済成長が吸収しきれなくなった時に矛盾が露わに。
拡大を続ける資源搾取型産業
✤ 遺伝子組み換え大豆、トウモロコシ→家畜の飼料、バイオ燃料として世界で需要が急増
✤ 先住民族の土地、キロンボ(独立黒人共同体)の土地までも奪い取る動き
✤ 石油、レアアースなど鉱物資源の搾取
✤ それを支える大規模水力発電ダムのアマゾンでの建設
✤ 北やBRICsの工場を支える資源供給による外貨獲得。民衆の生きる権利、環境が犠牲に。
✤ ブラジルの土地価格の上昇→アフリカ進出へ
ブラジル農業に何が起こったか?
✤ アルゼンチンに1996年モンサントが上陸。遺伝子組み換え大豆の承認をほぼ無議論で承認勝ち取る
✤ ブラジルでも承認。しかし消費者・環境運動による訴訟で禁止に。遺伝子組み換え大豆が非合法に持ち込まれ、栽培が既成事実化。大地主は地方の権力者。制御できず。
✤ ルラ大統領は選挙で遺伝子組み換え禁止を約束、しかし、政権成立後、妥協を重ね、2005年GM合法化。
モンサントに潜り込まれた南米に何が起きたか?✤ アルゼンチン、パラグアイ:全農地の6割近くが遺伝子組み換え大豆に占拠される
✤ ブラジル:農薬の使用量が激増し、世界一に
✤ ボリビアのモラレス政権が遺伝子組み換え禁止宣言→実質撤回。9割近い大豆はすでに遺伝子組み換え
✤ 農地改革が必要な地域で逆農地改革が進む。アルゼンチンで飢餓層の出現。毎年10万人近い人が土地を失うパラグアイ
✤ 農薬汚染によりガン、白血病、出生障害などの病気の急増。隠された戦争状態
• http://www.greenpeace.org/eastasia/ReSizes/OriginalWatermarked/Global/eastasia/photos/forests/china/world%20forests/GP032GZ.jpg
• http://heartlandbeat.com/wp-content/uploads/2011/07/Crop-Duster.jpg
• https://lh3.ggpht.com/-VBpEy5ECR9E/Ty8_OEe0qsI/AAAAAAAAB2o/y8dLudBlgG4/s1600/tierra%2Bvivir.jpg
• https://lh3.ggpht.com/-fY2lj6wi0_M/TydT6nAaIlI/AAAAAAAAAFU/zg5GAjJ5yFI/
噴出するモンサント型農業の欠陥
✤ 「農薬を減らせる」→農薬使用量が激増し、世界一の農薬使用国に
✤ 「殺虫剤のいらないBt遺伝子組み換え」→殺虫剤も効かないスーパー害虫の大量出現で大被害
✤ 「コストを減らして、楽に利益があがる」→高いコストを払い、低い価格でしか売れない作物→農民の離反
✤ 土壌の崩壊、さらなる化学肥料依存
戦争産業としての遺伝子組み換え企業
✤ モンサント、ダウ・ケミカル、BASF、バイエルなど遺伝子組み換え企業の出自は化学産業、農業関連企業ではない。
✤ 化学企業は戦争企業として爆薬、化学兵器開発で巨大化した。戦後、その生産力を世界の農業に=「緑の革命」、遺伝子組み換えはその延長線にある「第2次緑の革命」
✤ 遺伝子組み換え企業は種子市場支配を進める企業(NonGM含め)。
✤ 農薬大量消費型大規模農業モデルの世界への推進を「国際援助」を使って進めてきた。
モンサント型農業は持続不可能
✤ 農地に化石燃料を大量につぎ込み、見た目の生産性を上げる農業。化学肥料=天然ガス、農薬=石油。得られるエネルギーの方が投入するエネルギーより少ない
✤ より気候変動を激化させる農業
✤ 土壌のバクテリアなどが死んだり、変質し、化学肥料なしには作物が育たなくなる。
✤ 生物多様性の激減による生態系の異変→害虫、蚊の大量発生。ハチなどの生態系の維持に必要な昆虫の大量死。
気候変動の最大推進セクターは アグリビジネス
✤ 畜産から排出される気候変動ガスの総量は航空機、自動車、鉄道の排出総量を上回る。
✤ 全セクターの気候変動ガス排出の半分近くが農業関連セクター
危険度を増す遺伝子組み換え
✤ モンサントの除草剤ラウンドアップが効力を失い、使用量が激増
✤ 残留許容量を米国環境庁は大反対を無視して引き上げる
✤ ラウンドアップにベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の主成分2,4-Dを混ぜて使おうとしている。
✤ 枯れ葉剤の大量投与時代の到来
危険度を増す遺伝子組み換え2
✤ Bt(害虫抵抗性)遺伝子組み換えが効力を失い、多数の殺虫剤をかけざるをえない
✤ モンサント第2世代ラウンドアップ耐性遺伝子組み換え(RR2)の登場…中国は当初拒否、米中会談で承認
米国で深刻化する健康被害
糖尿病患者数とグリホサートと遺伝子組み換えの割合
甲状腺ガンの出現割合とグリホサートと遺伝子組み換え
米国で急増する健康被害2
自閉症の子ども(6歳~21歳)の数とグリホサートの使用量
認知症による死亡数とグリホサートの使用量
4つのグラフはいずれも http://www.examiner.com/gmo-in-seattle/nancy-swanson
立ち上がる米国の母親たち
NonGMへの転換を困難に
✤ 種子企業の買収
✤ 農薬供給ルートの独占
✤ 遺伝子汚染により、非遺伝子組み換え作物の栽培が困難に(地域全体での転換でないと個々の農家の選択では難しい。特にナタネ、トウモロコシ)。
✤ 土壌の貧困化、害虫の凶暴化、農薬の種類の制限により、従来農法に戻るのが困難に。
種子企業の買収
種子市場と農薬市場の独占
出典: ETC Group http://www.etcgroup.org/sites/www.etcgroup.org/files/ETCCommCharityCartel_March2013_final.pdf
BIO、自由貿易協定を通じた世界支配
✤ モンサントらのバイオテクノロジー企業のロビー団体バイオテクノロジー産業団体(BIO)が米国通商代表部にTPPに関して下記を要求
✤ 「遺伝子組み換えに反対することは不正な貿易障壁」
✤ 種子企業の知的所有権が第一で、農民の種の保存は犯罪=「モンサント法案」→コロンビア、メキシコ、チリで自由貿易交渉に伴い強制。
根源的なオルタナティブとしての アグロエコロジー運動✤ 世界で現在推進されている工業化された農業に対するオルタナティブと広く認知され始めている農業や社会の実践であり、運動であり、科学
✤ 生態系のロジックに従い、外部からの資源の注入を最小限にして生態的循環を最大限に活用する
✤ 多様で、地域ごとの条件の違いに基づく生産
✤ 実行可能で、維持可能な方法論(空理空論ではない)
✤ 先住民族や伝統的住民の農法の革新的要素を生かす
✤ 農民や消費者の主体性の重視
アグロエコロジーとは
✤ アグロエコロジーは環境面だけでなく、経済、社会、文化の多様性、生産者と消費者の主体性の向上を目指すものであり、現行の農業食料システムで破壊されてきたものを取り戻すための試み(『食料への権利 確立を』 久野秀二氏)
ブラジル民衆運動の軸としての アグロエコロジー
✤ アグロエコロジーは農民運動だけでなく、ブラジル社会運動の大きな主軸になりつつある。
✤ たとえば、IDEC(消費者運動団体)もアグロエコロジー
✤ ホームレス労働者運動(MTST)もアグロエコロジーを掲げる
アグロエコロジー略年表1✤ 1970年 有機農業の本格化
✤ 1980年代 適正技術として有機農業の普及運動
✤ 1980年代後半 Miguel Altieri氏(チリ人、現カリフォルニア大学バークレー校教員)のアグロエコロジーの著書がラテンアメリカで普及
✤ 1991年 ソ連崩壊、キューバ強制的に大規模農業モデルの放棄余儀なくされ、アグロエコロジーが進展
✤ 1990年代末 遺伝子組み換え作物の導入とその破壊に対して対抗運動としてブラジルなどでアグロエコロジー運動に注目が集まり始める
✤ 2001年 アグロエコロジー全国会議(ブラジル)開始、全国的に民衆運動としてアグロエコロジー運動への取り組みが本格化。
✤ 2001年以降、世界社会フォーラム通じてアグロエコロジーの概念が広まる。
✤ 2002年 ブラジルでアグロエコロジー連盟(ANA)が発足
✤ 2003年 ブラジルで種子法、クリオーロ種子条項で農民の種子の権利の認知
アグロエコロジー略年表2✤ 2008年 世界食料危機→FAOなどの国際機関が方針転換
✤ 2010年12月 国連総会で食料への権利特別報告者のOlivier De Schutterが人権のもっとも基本としての食料への権利のために企業的大規模農業ではなく小規模生産者によるアグロエコロジーへの転換を求める国連報告を行う。
✤ 2012年8月 ブラジル大統領令でアグロエコロジーと有機農業生産政策確立。アグロエコロジーがブラジル政府の政策に
✤ 2013年1月 イギリスでアグロエコロジー同盟結成、国がアグロエコロジー推進政策を取るように活動を本格化
✤ 2013年5月 フランス、農業省、アグロエコロジー推進プロジェクトを開始
✤ 2013年9月 国連貿易開発会議(UNCTAD)報告書『手遅れになる前に目覚めよ』で、大規模企業的農業から小規模農業、アグロエコロジーへの転換を求める
✤ 2013年10月 国連食糧農業機関(FAO)、アグロエコロジー推進のためVia Campesinaと連携を発表
✤ 2013年10月 ブラジル「アグロエコロジーと有機農業生産政策」の実行がスタート。
✤ 2014年2月 インド、アグロフォレストリー政策策定(農民の権利にたった世界でも類のない政策)
アグリビジネスの拡大を止めろ
✤ アグリビジネスの支配する地域にアグロエコロジーは展開できない
✤ ブラジル国会の勢力図。アグリビジネス側120人xアグロエコロジー12人程度
✤ アグリビジネスの拡大を支えるのは安い肉を大量生産するファクトリーファーミングとバイオ燃料。中国や日本への輸出が過半数を握る。
FAOなどの国連機関が方針転換
✤ FAOなどはかつては大規模農業を推進。小規模生産は消滅すると考え、小規模生産者の他のセクターへの転換を促していた
✤ 2008年の食料危機でこの方向性の誤りを認識し、方針を大転換。小規模生産農業の推進が中心課題に
✤ 国連貿易開発会議は『手遅れになる前に目覚めよ』という報告書で大規模農業から小規模生産、アグロエコロジーへの転換を求めた。
✤ 国連環境計画も小規模生産の優位性を裏付ける報告
問われる日本政府の政策
✤ 国内的には「輸出できる農業」「企業の農業参入」ばかりが強調される
✤ ODAを使って大規模機械化農業をブラジルのセラード地域で行い、未だに「奇跡の成功」と自画自賛、現在はモザンビークで大規模開発をブラジルとの3国間援助として行おうとしている。ProSAVANA計画
✤ セミナー「国際家族農業年と人びとの食料主権」
6月14日上智大学。秋にも継続して計画中
食料主権とエネルギー主権
✤ エネルギー主権、エネルギー自己決定権を取り返す(原発、化石燃料に依存しないエネルギー政策)
✤ 食料主権、食料の自己決定権を取り戻す(企業に押しつけられるアンチ・フード[毒]ではなく、本当の食を選ぶことができる世界へ)
フォローアップ
✤ オルター・トレード・ジャパン政策室Webサイト
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