子どもについて - 中央大学c-faculty.chuo-u.ac.jp/~miyamaru/introd/theses2017.pdf · 2019....

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子どもについて 13 中央大学法学部 宮丸裕二担当「導入演習」論文集 2017 年度

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  • 子どもについて

    13

    中央大学法学部 宮丸裕二担当「導入演習」論文集

    2017 年度

  • 子どもについて

    13

    中央大学法学部

    宮丸裕二担当「導入演習」論文集

    2017 年度

  • 緒言

    宮丸 裕二

    本冊子は 2017年度に中央大学法学部法律学科の「導入演習」という題目のクラスを履修した一年生が執筆した論文を集めたものです。本年度も演習の共通テーマを「子ども」に

    設定し、各自がそれぞれ独自に選んだテーマの下で進めた研究の成果となります。 本年度の履修登録者数は 14名で、めでたく全員が論文執筆に至ることができました。通常 18〜19人、多ければ 22人ということもあるのに、14人とはどうしたことかというと、これは学部学生の入試で学生数を調整する役割を担う偉い人達が判断を大いに間違えたこ

    とが原因のようです(結果、均衡をはかるべく政治学科の一クラスの人数が膨大になると

    いうお粗末なことになりました)。いずれにしても大学の経営をしている者もそれを担う教

    育者も、訓練など受けたことのない完全な素人で、過去に先人が蓄積してきたことだけを

    安定の材料にしているような業種ですから、こうしたことが起こるのはやむを得ないこと

    で、必要なのはそれをせめて自覚しておくことなのでありましょう。ここのところが実に

    難しいようですが。ところが、この戦略上のミスによる人数設定は、今までになく少人数

    の環境を与えてくれることになり、本来、ゼミというのは、あるいは教育というのは、こ

    れくらいの規模の人数で行うものだったのだということを実感と共に思い出させてくれる

    年となりました。それと同時に、大学の外部的事情によって、本来定められている正当な

    定員に限って入学させた結果として、本年度の一年生が例年に比して世間で期待されるよ

    うな知識の分量において学力のある学生が多く入学してきたという印象は持たないものの、

    近年目に付いた自らの問題を見つめる前に周囲に原因を探そうとする学生にはあまりお目

    にかからず、むしろ、きちんと挨拶ができる学生、教員に対して通常の感謝を表明するこ

    とを知っている学生、一度自分で選んですると決めた学習を最後まで全うする学生が多い

    傾向にあると感じています。もちろん偶然の結果であったり、印象の持ち方の影響という

    ことも考えられるでしょうが、本年度は本演習を自ら選んだ 14名が学年の最後まで出席し、問題なく全員が論文をこうして提出したことは、かけがえのない大きな成果であることは

    間違いありません。 「子ども」というテーマを掲げて 13年を経ることになりますが、テーマを固定しているところに担当教員の発展や成長のなさを見ることができます。それなりに成果をあげてい

    る自負もありますし、他の担当教員がこのテーマを密かに真似している例が一つや二つで

    ないことを見るにつけなかなか悪くないテーマだったのかと自賛してよいのかと思うとこ

    ろもありますが、ただ、発展や成長がないのは否めません。それでも、同じテーマを長期

    に掲げているとある種の定点観測という機能は持つもので、こちらが変わらなくても世間

    が変わってきているという発見をすることもないではありません。その一つは、子どもに

    ついて、13年前にも人権や人道ということはありましたので、児童への虐待はいけないし、性的搾取は許されないし、留守番や放課後のあり方に見られる子どもの理想的な過ごし方

    という概念はあったように思いますが、13 年前はこれらが飽くまで建前として言われ、知られていたことに過ぎなかったのに対し、現在では社会の制度や常識の方が本気を出して

    きてかなり言葉通りに守られるようになったことを観察することができます。国内的な動

    機付けによる尽力の結果なのかあるいは国際的な水準を無視できない情勢になってきたの

    か、その両方なのか。同時に、大学生をはじめとする日本では子どもとカテゴライズされ

  • iv 緒言

    る集団に関わる時の言葉上だけで行う綺麗ごとが随分と増えたようにも思います。その意

    図はよく分かりませんし、本気でやっているのかどうかと首をかしげずにいられない場面

    も少なくないのですが、かなりの範囲で子どもにまつわって自らと他人の言葉の用い方を

    パトロールしては矯正して周りたい欲望を持つ人の声が大きくなってきたように思います。

    あまりろくなことに繋がらない方向性の始まりとして懸念するべき事態かも知れません。 今回も、私が山内惟介名誉教授、遠藤研一郎教授および橋本基弘教授と共同で担当して

    きた専門演習に所属する学生および卒業生が合宿に加わり、夜中まで共にテーマや構成を

    練るのを手伝ってくれた上、さらに導入演習の授業にも部分的に参加して相談に乗ってく

    れたことは大いに助けとなっているはずです。本論文集に論文を掲載するに至った学生た

    ちにも、必ずしも同じかたちではなくとも、今後なんらかのかたちで後世のために自分の

    力を貸すことで恩返しとして頂くことを期したいと思います。 本冊子を作成する上で、法学部より「演習補助費」の交付を受けており、ここに記して

    御礼に代えたいと思います。

    (中央大学法学部教授 「導入演習」担当)

  • 目次

    緒言 宮丸 裕二 iii

    I. 名付け方と呼び方

    「キラキラネーム」なので不合格になります —個性的な名前に対する世間の許容度とその分析 長内 陸 3

    どんな名前にしよう —子どもへの名付けの際に重視すること 福田 綾子 11

    オラ、野原しんのすけだゾ —子どもの一人称とその決定の要因 市角 修太朗 26

    負担になってない? SNSが子どもたちに与えるストレス 鈴木 もえ 38 寝起きの顔は載せないで! SNSと顔写真の投稿のしやすさの相関性 管野 史佳 47

    II. 置かれ方

    どう解消する? アンケートから分かるいじめの解消方法 宮本 翔平 69

    本当になくなるの? 心情から読み解くいじめの解決策 松本 渉 77

    経済シミュレーションからみえてくる課題 —従来の制度では「子ども」を貧困から救えない可能性 杉本 ひかる 84

    III. 見られ方

    リーゼントって何? ドラマにおける不良の変遷 坂井 晧一 95

    田舎育ちですが何か —田舎育ち・都会育ちの中大生の差異 政平 永遠 101

    あれはチンパンジーですか? いいえ、パリピです —チャラい学部とその学部生の分析 仲村 勇哉 108

    IV. 考え方

    著者のレトリックを見抜け! 現代の子どもたちに批判的な視座を 林 拓矢 117 肯定派?否定派? 新聞記事から読み取る体罰の歴史 楠田 安紀子 123

    障害者と関わる人って、ホントに「優しい」人なの? 精神障害児との交流と、彼らに対する印象の関係 西山 晃弘 132

  • I

    名付け方と呼び方

  • 「キラキラネーム」なので不合格になります —個性的な名前に対する世間の許容度とその分析—

    長内 陸

    みなさんは自分の名前の由来や意味を日々考えることはあるだろうか。一度でいいから

    考えてみてほしいのだが、その名前からは計り知れないほど深い意味が込められている。

    人名をめぐる変遷は現在、ホットな話題となっている。キラキラネーム・DQN ネームを皆さんはご存知だろうか。一言でいうならば、奇抜な名前と解される。定義だけみてもイメ

    ージしづらいだろう。そこで、インターネットサイト「赤ちゃん名付け」を運営するリク

    スタが 2017 年赤ちゃん名づけ男女年間トレンドベスト 30 を発表したので、個人的に気になる名前をピックアップしていきたい。まず、男子を紹介する。4位の凰(おう)くん。名前を書けるようになるまで時間がかかりそうだ。10 位の主税(ちから)くん。読み方に苦戦することは間違いないだろう。続いて、女子を紹介する。13位の唯愛(ゆいな)ちゃん。読み方が難しそうである。このように、読み方やその名づけの由来が理解できないような

    名前が多く存在することがここからみてもわかるだろう。そんなキラキラネームであるが、

    世間体はキラキラネームに対して、いかなる視点ないし許容度を持っているのだろう。そ

    の点をメディアを通じて、突き詰めていくのが私の研究である。 キラキラネームがどのようなものであるかを理解したうえで、ではなぜキラキラネーム

    なるものが世間の話題となってきたのだろうか。実は、キラキラネームは遥か昔にも一定

    数存在していたことがわかっている。例えば、『舞姫』など複数の小説を手掛けた、有名作

    家である森鴎外の子どもである。彼らの名前は長男の於菟(おと)くん。次女の杏奴(あんぬ)ちゃん。次男の不律(ふりつ)くんと名付けられている。しかしながら、これらの名前は、

    現在のように意味をあまり重視しない名前を付けたのでなく、漢文の知識を生かして、し

    っかり意味を考えて、鴎外は名付けたそうだ。今なぜこのようにして、キラキラネームが

    育児におけるホットなテーマとなっているのだろうか。この点について、名づけに関して

    研究なさっている学者らの見解がさまざまである。そこで、それぞれの見解について簡潔

    に述べていきたい。まず、キラキラネームをめぐる学説について、名前の研究家、伊東ひ

    とみ氏は自身の著書である『キラキラネームの大研究』の中でこう述べている。

    日本経済新聞の小林明編集委員は、「読みにくい名前が増えている背景」として、音や響

    きを重視し、当て字を使うという傾向に加えて、次の要因を挙げている。①少子化に伴い、

    親が子どもの名前により強いこだわりや他人とは違う個性を持たせたいという風潮が強まっ

    ている。②昔と異なり、祖父母や親類が名づけに関与しなくなっている。③漫画、アニメ、

    テレビドラマ、有名人の名前などの影響をより強く受けている。④国際的にも通用しやすい

    名前を付けようとしている。また、日本の名づけ文化に詳しく、『名づけの世相史―「個性的

    な名前」をフィールドワーク』(風響社)という著書を持つ京都文教大学文化人類学科の小林

    康正教授は、個性ある子に育ってほしいという個性的願望と、そんな気分にマッチする命名

    を技術的に可能にした『たまごクラブ』と関連の「たまひよ」名づけ本(ベネッセコーポレ

    ーション)の存在を指摘する。1

    たしかに、「たまひよ」の存在は両親が名前を付ける際のバイブルとして重宝されている。

    1 伊東、54頁。

  • 4 長内 陸

    昔は、子どもの名前を決める際は命名相談など、自らが出向いて、どのように名前を決め

    るかを相談するのではなく、「たまひよ」には名前を決めるための注意点や流行っている名

    前のトレンドなど、実際に相談に行かなくても名前を決めてしまう家族が増えているよう

    だ。そして次に、命名研究家の牧野恭仁雄氏は現代の日本社会の現状から以下のように考

    察している。

    かくして私たちの無意識の中には、「自分が何者なのか、何をしたいのかを実感でき

    ない」という空虚な感覚が生まれ、次第に「自分にしかできないことをしてみたい」と

    いう欲求がため込まれます。それが行動となってあらわれたもののひとつが、自分だけ

    が作ったとんでもない名前、すなわち珍奇ネームです。2

    そして、牧野氏がこのように述べるのは、日本が先進国として、「何もかも用意された」先

    回り社会であることが原因であるとしている。日本という国家は教育や法律、制度が画一

    的に決まっているため、国自体が発達していくとともに、自分という存在を実感できない

    社会になっているがゆえに、自分の個性を発揮できる機会として、個性的な名前、現代風

    に言えばキラキラネームを付ける傾向にあると、牧野氏は結論づけている。社会の体質が

    問題であるとするとその解決も難しいものとも思える。

    このようにキラキラネームの起源や背景をめぐっては様々な見解があり、それぞれ見解

    に対しては否定できず、どれも論理が通っていて、可能性がありうるといえる。しかしな

    がら、これらの学説に共通するものとして、日本社会に何らかの変化をもたらしている、

    または、日本に対して警鐘を促しているといえるのではないだろうか。つまり、日本の文

    化や風習に変化が生じ、そのベクトルが悪い方向に行ってしまったのではないかと推測す

    る。 上記では、キラキラネームができた原因や流れを学説ごとに紹介してきたが、つづいて、

    紙媒体を用いて、個性的な名前に対する世間の許容度について調べていく。調査対象とし

    ては、1990年ごろからの新聞及び雑誌とする。具体的には、『朝日新聞デジタル』、『読売新聞デジタル』、『毎日新聞デジタル』、全国雑誌紙面データベース『ELNET』を駆使して、近現代の記事をさかのぼり、「キラキラネーム」や「名前 読めない」などさまざまなワード

    でヒットした記事を手掛かりに、その記事の論調を分析する。なお、キラキラネームが世

    間の話題となったのは 2010年頃からであるため、それ以前は難読な名前や漢字が難しい名前などの個性的な名前をひとくくりとして調査することとした。また、新聞について朝日

    新聞の記事に偏っていると思われるが、他のデータベースに該当記事がなく、朝日新聞に

    該当記事が多く存在していたため、掲載することにしているのでご了承いただきたい。具

    体的方法としては、記事はキラキラネームなどをどのように評価しているか、キラキラネ

    ームなどの個性的な名前に肯定的な立場をとっているか、否定的な立場をとっているかを

    記事の論調の流れなど様々なことを総合考慮して、各記事を考察していくこととする。そ

    して、論文でそのすべてを挙げられるわけではないが、実際に調査の対象となる記事の数

    が新聞 41紙、雑誌 8誌である。また、許容度を数値化してグラフにすることも検討し試し

    2 牧野、163頁。

  • 5 「キラキラネーム」なので不合格になります ―個性的な名前に対する世間の許容度とその分析

    てみたものの、数値化するにあたり主観的な側面がどうしても入ってしまうため、今回の

    研究でそのような手法をとることは採用しないとすることにした。

    では、さっそく考察に移っていきたい。まず、1990年代から見ていく。1994年 2月 2日

    の『読売新聞』の記事では、当時の和光学園(東京都世田谷区)の園長で教育評論家の丸

    木政臣氏は変わった名前に関して「子どもは生まれた時から親と別の人格ということがわ

    かっていないのではないか。子供の将来の不利益を考えずに、親が人を驚かして自己満足

    する傾向がある」。3この記事は、個性的な名前に対して厳格な態度、許容度の低い形をと

    っている。それは、親が子に個性的な名前をつけるのは「自己満足」と親の行動を非難し

    ているからだ。親が自己満足で名前をつけ、子どもの将来を考えないことは極悪だ。親が

    子どもを道具として扱うのではなく、名前を一つのネタにしようとしていることが問題で

    ある。しかしながら、親の自己決定権も尊重されなければならない。のちに出てくるが、

    自己決定権と名前の社会性のバランスがこの問題をめぐる難しさなのである。一見、親の

    自己決定権が認められそうに思われるが、悪魔ちゃん事件がそれに歯止めをかける一つの

    出来事と言える。悪魔ちゃん事件は、1993年 8月 11日に東京都昭島市役所に、実子を「悪

    魔」とした出生届を出した結果、受理されなかったことを父親が昭島市を相手取り、裁判

    で争った。判決では、悪魔とつけた名前を修正すべきとはしなかったものの、子どもの福

    祉を害する恐れがあり、親権の乱用だという判断をした。このように、一定の基準を基に、

    親の自己決定権が制約される恐れはあるということがこの判決からわかる。

    次の記事は、名前を漢字からカタカナにした際に却下された東京都日野市の三十代男性

    について、1999年 10月 30日『朝日新聞』記事にて「漢字をカタカナにすることすら自由

    にできなくて。名前っていったいだれのもの?しかるべき手続きと条件でなら、だれでも

    一度改名できる制度を」と述べている。4また、同記事にてドラえもんの絶対的キャラクタ

    ー、のび太を子どもの名前にすることを夢見た女性が子どもを出産し、名前をつけるにあ

    たり、親族に大反対を受け、結局諦めた女性が反対される違和感を記事で表している。こ

    こでは、個性的な名前を付ける当人や親側の立場に立った記事であるが、上記 2 つの記事

    から個性的な名前をつけたい、個性的な名前にしたいという当人や親のエゴが一種爆発し

    ているようなものが読み取れる。ここで気になるのは、のび太という名前をなぜ付けよう

    としたのか。しっかりと名前の意味を考えてそれを考えたか、もしくは単にドラえもんの

    キャラクターとしてののび太が好きでその名前をつけたかで、その意味は変わってくると

    は思うのだがどうなのであろうか。このように、1990 年代を見てみると個性的な名前を付

    けたいと思うようになる親が増えている一方で、そのような名前はけしからんと批判して

    いる記事がやや見られ、結果として許容度は低いということがわかった。

    次に時は流れ、2000年前半の新聞を調査してみる。まず、2004年 6月 21日『朝日新聞』

    3 「子どもの人権 名前・教育・離婚した場合の親権」、20頁。 4 「命名狂想曲 限られた音だけど」、32頁。

  • 6 長内 陸

    記事では、以下のように述べている。

    もっとも、名前は時代とともに移り変わります。聖書などにちなむ欧米と違って、日

    本ははやり廃りが激しい。今、「子」のつく女の子には古典的な響きがありますが、実

    は一般的になったのは明治中期以降。元々は平安時代に貴族の間で広がり、明治になっ

    て新時代のイメージを伴って一般化した。その意味で、新しい名前が生まれるのは自然

    なことですが、時代を経ても古びない、個性的で読みやすく、品のある名前を考えてほ

    しい。社会的に名づけのセンスが高まれば、役所による字の制限などは、いらないはず

    です。5

    この時期になると名づけの際に自由度の高い、つまり個性的な名前が増えた一方で、名前

    の社会性を重んじるべきとの論を立てる記事が多い。1990 年代の記事よりは許容度は少し

    上がったといえるのではないだろうか。それは時代によって名前のはやり廃りをある程度

    容認しているからであるだろう。名前の社会性、具体的にはその名前が社会全体でどのよ

    うに認識・評価されるかを考えながら、名前を付けるべきだとしている。親の自己決定権

    と名前の社会性の比較考量というテーマは、これからの問題ともなりそうだ。

    次に、2000年後半の新聞を調査してみる。まず、2007年 8月 6日の『朝日新聞』記事で

    は、テニスの大会で賞状を渡す 50代男性が個性的な名前(この記事では難読な名前につい

    て)について以下のように述べている。

    部外者がとやかく言うのは控えるべきだが、学校、社会、企業では読めないデメリッ

    トのほうが大きいのではないか。人名用漢字には制約があるが、読み方については何の

    定めもない。名前は、書きやすさと同時に読みやすさの条件を満たしてこそ理想的だ。6

    また、2007年 11月 20日『朝日新聞』記事では、「良い名前をと願う親の自己満足が、子どもはもとより、社会にも迷惑をかけないように、男女の別も読み方も分かりやすい名前

    が望ましいと思う」と述べている。7上記 2 つの記事では、個性的な名前は何の意味も考えないで付けるべきではなく、意図をもってつけるべきと許容度はそこまで高くないという

    結果となった。また、この記事は名前の社会性を重視すべきとの趣旨の記事である。この

    ような記事は、読み方などを重視する一方で、親の自己決定権を一定制約するとともに、

    意味をしっかり考えたが、読み方が複雑な名前を否定し、ないがしろにしてしまうと評価

    することができる。人はみなそれぞれ平等であることを鑑みても、「名前を読んでやるから、

    わかりやすい名前にしろ」といった上から目線の判断ではなく、名前を呼ぶ努力をするべ

    きであるとの見解も存在する。 このような個性的な名前の存在に否定的な記事の一方で、個性的な名前肯定派も存在す

    ることとなった。

    近頃は、子どもの名前に、難しく、振り仮名がなければ読めないものや、響きがとて

    も美しいのやら、いろいろと見かける。私の感覚が古いのか、突拍子もないと感じるも

    5 「名づけどうする?」、22頁。 6 「四苦八苦する、読めない名前」、8頁。 7 「名前に思う 望ましいのは分かりやすさ」、12頁。

  • 7 「キラキラネーム」なので不合格になります ―個性的な名前に対する世間の許容度とその分析

    のもある。でも、どれも親の、切なる思いが込められた名前であり、字面なのであろう。8

    この記事のように、個性的な名前に一定の理解を示す記事もやや散見された。許容度と

    しては少し高いということができるだろう。この記事からは、名前が変わった名前になっ

    ていることを「名前の世代交代」と呼ぶことも可能であろう。調査で分かったことの一つ

    であるが、個性的な名前に批判的なのも肯定的なのも、比較的高齢の方に多い。そして、

    高齢の方々が、自分たちが親として息子に名前を付けるときの状況と今の状況が異なって

    いるがゆえに、それを批判しているととらえることができる。よって、批判している状態

    は高齢の方々には個性的な名前は受け入れがたく、よって未だ世代交代があまり進んでい

    ないと考える。そして、最近の若者はあまり子どもの名前などに興味がないという見解も

    導くこともできるのではないだろうか。このように 2000年後半の記事を見てみると、個性的な名前に肯定的な記事がある一方で、大多数はやはり名前の社会性などを理由にして、

    個性的な名前を否定するといった許容度の低い記事であった。 そして、時代は流れ、2010 年代に突入する。この時期になり、ようやくキラキラネームという名前を耳にするようになる。2011年 7月 29日の『朝日新聞』記事では、

    読めないだけでなく、とんでもない連想を呼ぶ名前を付けてしまうと、子どもは将来

    困る事態になるだろう。だから名を付けるときは、字面の格好良さで選んだり無理な当

    て字を考えたりするという脊髄反射的な思考は適さない。文字の意味を辞書で引き、誰

    が見ても読める名前かどうか確認をとり、一回深呼吸して考えてみてはいかがだろうか。9

    と述べている。また、2012年 4月 20日の『朝日新聞』記事では、

    人名はその当人や家族の専有物のように思えるが、必ずしもそうではない。他人に正

    確に呼ばれ、書かれてなんぼのものだ。それなのに、最近の若い親は、わが子に凝った

    名前をつける。これでは当の本人が一生迷惑する。10

    と述べている。上記 2 つの記事は個性的な名前に対して、厳しい意見を繰り広げている。2013年 11月 20日『毎日新聞』記事では「子に由来を理解してもらえるような名前」をつけるべき、というような記事が見られた。11直近 10 年くらいでは、その子どもの名前にどのような意味があるのだろうかと疑問を抱えざるを得ない。例えば、光宙(ぴかちゅう)

    という名前である。上述のように、のび太や、サトシであるならば、アニメの中であって

    も人間なので、まだ許容範囲といえるかもしれない。しかしながら、光宙はどう考えても、

    ポケットモンスターのキャラクターであるピカチュウから名付けられたものである。この

    ような名前が名づけた理由は何ですかと親に尋ねても、あまり深い意味を持たせずにただ

    ポケモンが好きだからと答えるだろう。このように、その名前をつけるうえで重要視され

    る素材から見ても、キラキラネームと呼ばれる名前の中でも様々な種類があることを認識

    しなければならない。そして、「最近の若い親」というように、キラキラネームに批判的な

    のは高齢の方なのではないかと推測することができる。

    8 「名と体、違いますが」、25頁。 9 「子供に奇妙な名前を付ける親」、12頁。 10 「読めない名前は困ったものだ」、14頁。 11 「キラキラネーム」、23頁。

  • 8 長内 陸

    そして、2010年の名前の傾向をコンパクトに表している記事として2011年 12月 14日『朝日新聞』でこう述べられている。

    最近は子どもの名前に「夫」や「子」を付ける例は少なくなった。それはそれで時代

    の流れだろう。そして、名前の漢字には制約があるが「読み」には制約がないため、や

    たら個性的な、もっと言えば判じ物まがいの名前が増えてきた。自分の名前を他人から

    まともに呼んだり読んでもらえなかったり、性別を勘違いされたりする弊害もあろう。

    難しい名前を付けるのは親のエゴだと思う。12

    この記事ではキラキラネームなどの個性的な名前をつけることは親のエゴであると完全に

    キラキラネーム否定派の考え方となっている。そして、この記事で注目するべきは、まず

    名前の読みに制約がないことである。戸籍法 50条 1項では「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」としている。13これは、いわゆる漢字の制約のみなのである。キ

    ラキラネームで読み方が独特な名前であるのは、日本の法律上制約がないことが要因とさ

    れている。 また、この記事のなかに書かれているように、自分の名前を読んでもらえないことがそ

    んなにも不利益なのか。2016年 5月 8日『朝日新聞』記事はキラキラネームを付けられた子どもの意見として、以下のように述べている。

    国語の先生などから「よしみ」と呼ばれたり「うたみ」と呼ばれたりしたが、私は親

    を恨んだことはない。むしろ変わった読み方をする自分の名前が好きだ。「恵美」や「絵

    美」も温かみがあっていいと思うが、字は洗練された感じなのに響きは可愛い「詠美」

    が気に入っている。読みにくくても OK。必要があれば振り仮名はつけるし、読めないことで初対面の時の話題の一つになる。キラキラネームの皆さん、ご両親が愛情を込め

    てつけた名前です。自信を持って名乗りましょう。14

    このように、キラキラネームが読めないからといって人間関係がこじれる・困るというそ

    のような意見は単なる憶測にすぎない可能性が出てきた。逆に、キラキラネームをつけら

    れた当事者以外の人々が、勝手にキラキラネームについて大騒ぎし、キラキラネームを付

    けた彼らを煽ってしまっているのではないかと考えることができる。同様の記事は 2013年6月 2日『毎日新聞』記事にて、子どもの中にはキラキラネームに抵抗感はなく、一つの構成としてとらえているとの趣旨の記事も見受けられた。 そして、キラキラネームがこのような新聞のネタとして扱っているのではないかと思わ

    せるような記事も多々見られた。2015年 12月 28日『毎日新聞』記事では、親が子を殺害する事件において、子がキラキラネームであることからこう述べている。「牧野被告は育児

    に悩み、うつ病で通院していた。娘はいわゆる “キラキラネーム”。何となく変わった母親を想像したが、法廷で見た姿からは、むしろ真面目すぎる印象を受けた」この記事から、

    キラキラネームの印象の悪さがうかがえる。15というのも、キラキラネームをつけた親は犯

    罪に手を染めてしまう親であると読み手側に伝わってしまうほどである。たしかに、上述

    した悪魔ちゃん事件においても、父親と母親はいわゆる水商売を経営しており、また父親

    が 1996年に覚せい剤取締法違反で逮捕、2014年にも覚せい剤取締法違反、窃盗の罪で逮捕

    12「赤ちゃんの名前は読みやすく」、14頁。 13 「戸籍法」50条 1項。 14 「キラキラネーム、自信を持とう」、6頁。15 「名前のない手紙」、24頁。

  • 9 「キラキラネーム」なので不合格になります ―個性的な名前に対する世間の許容度とその分析

    されている。このようにキラキラネームをつけた親が実際に犯罪に手を染めてしまう例が

    ある。 その他の記事においては、2012年 11月 16日の『読売新聞』記事では、当時の安倍晋三内閣総理大臣(第一次安倍政権)が、キラキラネームを付けられた多くの子がいじめられ

    ており、親を指導しなければならないとの発言を取り上げている。キラキラネームについ

    て「いじめ」という問題を軸に厳しい意見となり、許容度が低いかたちとなった。親を指

    導するのは難しく、キラキラネームによるいじめが本格的に問題となれば、出生届の段階

    である程度、規制をかけるほうが無難であろうと考えられる。 そして、次に雑誌を見ていきたい。雑誌に関しては、2012 年頃からキラキラネームに特化した記事を調査した。まず特徴として、キラキラネームが就職や学業に及ぼす影響につ

    いて述べた記事が最も多かった。2012 年 7 月 6 日の『週刊ポスト』は、私立学校の入試関

    係者は、公表はしていないものの、キラキラネームは入学試験時のチェックの対象になる

    と述べていた。同様の記事は 2013 年 11 月 17日の『サンデー毎日』や 2015 年 1 月 22日の

    『週刊新潮』にも同様のことが記載されていた。次に多く記載されていたこととして、キ

    ラキラネームに関するアメリカの実証実験についてである。2012 年 7 月 6 日の『週刊ポス

    ト』はアメリカの弁護士 599 人に調査したところ、シンプルな名前ほど出生が早いと述べ

    られている。また、2013年 10 月 4 日の『週刊ポスト』によるとアメリカではマイナーな名

    前を与えられた子はその他の子より非行率が高いと分析され、マイナーな子は就職活動で

    不利になるという統計が紹介されたと述べられている。一方で、2016 年 2月 15 日の『AERA』

    では就職においても、キラキラネームが武器になることがあるとこの記事のみ、キラキラ

    ネームのプラスの側面が書かれていた。以上のことから、雑誌の中のキラキラネームに関

    する記事でキラキラネームが社会に悪影響を及ぼすという趣旨の記事が調査対象のほとん

    どを占めた。

    このように、新聞を 1994 年頃から、雑誌を 2012 年から見てみると、個性的な名前に対する許容度は時代の流れを見ても低いままであり、キラキラネームなどの個性的な名前は

    その名前を付けられた子どもが昔より増えていたとしても、未だ社会に受け入れられてい

    ないことがわかった。そして、記事を緻密に分析していくと、文章の表現からそのような

    名前を批判するのは比較的高齢者であることがわかった。また、記事によってキラキラネ

    ームと言っても読みにくい名前、その意味がわからない名前など様々であり、その中にも

    読みにくいが、意味をしっかり考えた、親の愛情のこもった名前も存在する。そのような

    名前をひとくくりにして批判している記事も存在していた。また、上述のようにキラキラ

    ネームはメディアのただのネタとして扱われ、対してキラキラネームという名前を持って

    生活している当人からすれば、キラキラネームを持つことはそれほど悪いことではないと

    述べていることも記事からわかった。そして、逆にキラキラネームに関して大騒ぎしてい

    るメディアのせいで、彼らがいじめなどの被害を被ってしまっている可能性もある。 この論文を執筆するにあたっては、新聞記事や雑誌を今回調査対象にするものを除けば、

    150以上もの量に目を通していったわけであるが、日本の風情としてキラキラネームに対する画一的な見方や偏見は昔から一向に変わっていなかった。つまり、1990 年代における個性的な名前の普及、そしてキラキラネームが普及してもう一定の年数がたつものの、その

    名前に対する許容度は高くなり、社会に受容されていると思いきや、許容度に変化は見ら

    れなかった。いまだに未だに多様性社会から遠く離れている。これはキラキラネームのみ

  • 10 長内 陸

    ならず、他の差別問題にも類するところがあるだろう。名前が変わっているからなどの理

    由で大騒ぎしたりするのではなく、「みんな違ってみんないい」のように、彼らを受容し、

    共生した社会が望ましく、そのような社会になるようにどうすればよいのか、一大学生と

    して日々検討していきたい次第である。

    参考文献 『朝日新聞デジタル』

    『読売新聞デジタル』

    『毎日新聞デジタル』

    全国雑誌紙面データベース『ELNET』

    伊東ひとみ、『キラキラネームの大研究』(東京: 新潮社、2015年)

    牧野恭仁雄、『子供の名前が危ない』(東京: KKベストセラーズ、2012年)

    「子どもの人権 名前・教育・離婚した場合の親権」、『読売新聞』、1994年 2月 2日、朝刊、20頁

    「命名狂想曲 限られた音だけど」、『朝日新聞』、1999年 10月 30日、朝刊、32頁

    「名づけどうする?」、『朝日新聞』、2004年 6月 21日、朝刊、22頁

    「四苦八苦する、読めない名前」、『朝日新聞』、2007年 8月 6日、朝刊、8頁

    「名前に思う 望ましいのは分かりやすさ」、『朝日新聞』、2007年 11月 20日、朝刊、21頁

    「名と体、違いますが」、『朝日新聞』、2008年 2月 24日、朝刊、25頁

    「子供に奇妙な名前を付ける親」、『朝日新聞』、2011年 7月 29日、朝刊、12頁

    「赤ちゃんの名前は読みやすく」、『朝日新聞』、2011年 12月 14日、朝刊、14頁

    「読めない名前は困ったものだ」、『朝日新聞』、2012年 4月 20日、朝刊、14頁

    「大手企業役員—正直キラキラネームの学生の採用ためらう」、『週刊ポスト』、2012年 7月 6日号

    「安倍総裁—YIES講演要旨」、『読売新聞』、2012年 11月 16日、朝刊、9頁

    「キラキラネームが世界中で大変なことになっている!」、『週刊ポスト』、2013年 10月 4日号

    「キラキラネームは就活に不利ってホント?」、『サンデー毎日』、2013年 11月 17日号

    「キラキラネーム」、『毎日新聞』、2013年 11月 20日、朝刊、23頁

    「子どもに十字架を背負わせるキラキラネーム命名事典」、『週刊新潮』、2015年 1月 22日号

    「名前のない手紙」、『毎日新聞』、2015年 12月 28日、朝刊、24頁

    「キラキラネームは就活に不利、じゃない?」、『AERA』、2016年 2月 15日号

    「キラキラネーム、自信を持とう」、『朝日新聞』、2016年 5月 8日、朝刊、6頁

  • どんな名前にしよう —子どもへの名付けの際に重視すること—

    福田 綾子

    「名前は赤ちゃんへの最初のプレゼント」、「世界にたった一つのすてきな名前を赤ちゃ

    んにプレゼントできますように」最近ではこうした文言が名づけ本やその他で頻繁に語ら

    れるようになっている。もはや名付けにおいて、その人の家系や主従の繋がりを表すとい

    う意味合いは極めて小さくなり、他の個人と区別するために行うという認識も薄くなって

    きている。計画的に子どもをつくり、その子が大抵の場合無事に成長できる現代で、親に

    とり子ども一人ひとりの名前を一生懸命に考えることの重要性が増すことは理解できる。

    親が子どもにしてあげられる最初の「贈り物」、愛情表現としての名前を最高のものにする

    ために、様々な観点からより良いものを探していく。名づけ本を眺めていると、そのよう

    な優しき親達の姿が頭に浮かぶ。一方私の両親には特段「プレゼントを贈る」という意識

    はなかっただろうし、重視されているのは読みやすさや苗字とのバランスが主で、私は常々

    明確な想いや意味が込められた名前や個性のある名前を羨ましく思ってきた。では実際の

    ところ、名付けにおいて気にかけることが様々あるなか、特にどの点を重視しているのか、

    また、従来の調査では実際に子どもを持ち名前を本気で考えたことのある人々しか対象に

    なっていないが、名付けを実際に経験する前とその時とで重視する事柄の傾向が異なるの

    かについても、学生と一般の親御さんとを対象にしたアンケート調査を行い、その結果か

    ら考察していく。 命名研究家の牧野恭仁雄は著書の中で、戦時中特に日本側が苦境に陥るほど「進」、「勇」、

    「勝」、「勝利」といった名前が増加したことを挙げ、名前は『時代の雰囲気をそのままあ

    らわす』のではなく、『日本人の欠乏感をあらわしている』と述べている。私がここ最近の

    人気名前ランキングを見て感じるのは、男の子に「翔」、「大」、「悠」、「空」といった広大

    なイメージをもつ字が多いこと、女の子に草花の名前が多いこと、「陽」、「結」という字が

    男女ともによく使うわれたり「あおい」、「ひなた」、「はる」、「かえで」など男女で同じ音

    の名前が上位に入っていたりすることである。特に「葵(あおい)」は、明治安田生命の年

    別ランキングにおいて、2016 年に女の子で一位男の子で九位と、初めて男女同時にベスト

    テンに入った名前である。1これらの傾向が欠乏感の反映であるとすると、男の子はより幅

    広く活躍することを、女の子は草花のように生き生きとし美しく個性的であることを望ま

    れ、また社会的に男女間の差をなくしていくことが求められていると捉えられる。名付け

    の際に重視する事柄にも、同様のことが言えると考える。ものにより程度の差はあれど、

    名前を付ける人のないものねだりである側面もあるはずである。私が明確な由来をもつ個

    性的な名前に憧れたように、幾度も読み間違えられ苦労した人は読み易い名前を付けよう

    と考えるだろうし、変なあだ名を付けられて不快な思いをした人はその可能性にも気を配

    るであろう。今回の調査では、そのような観点からも考察を行っていこうと思う。 子どもに名前を付けるという実体験がある場合とない場合との比較を行うため、アン

    ケート調査の対象は大学生の男女(以下、学生)と子どもがいる男女(以下、親又は一般

    の親御さん)とした。なお学生の内訳は全て中央大学多摩キャンパスにいる学生であり、

    1 「名前ランキング生まれ年別ベスト 10」。

  • 12 福田 綾子

    親については都内の三市にある公園にて子どもを連れていることが確認できた人を調査対

    象とした。またより記憶が鮮明なものを答えて頂くために、子どもが複数人いる場合は一

    番年少の⼦について回答して頂いた。以下にアンケートの内容を⽰す(資料 1)。 資料 1 名付けの際に重視することについてのアンケート 学⽣対象のアンケート ⾃分の⼦どもに名前を付ける際に重視すること もし⾃分が⼦どもに名前を付けるとしたら、以下の項⽬それぞれをどの程度重視するか、5段階でお答えください。 (5とても重視する 4重視する 3それ程重視しない 2全く気にしない 1むしろその逆) (※⼦どもの性別によって回答が異なる、例えば男の⼦なら2で⼥の⼦なら4という場合 は、区別して記⼊してください。) 男⼦学⽣・⼥⼦学⽣ ⼀般の親御さん対象のアンケート ⾃分の⼦どもに名前を付ける際に重視したこと お⼦様にお名前を付ける際、以下の項⽬それぞれをどの程度重視しましたか?5段階でお答えください。(複数⼈いらっしゃる場合は、⼀番年少のお⼦様についてお答えください。)

    性別(1) お⽗様・お⺟様 性別(2) 男の⼦・⼥の⼦ (5とても重視した 4重視した 3それ程重視せず 2全く気にせず 1むしろその逆*1 ) (*1 例えば「漢字のみを使う」に対し「ひらがなを使いたいと思っていた」という回答の

    場合、など) 学⽣・親で共通の設問

    ⾳の響きやそれが表すイメージの良さ 5 4 3 2 1

    どのようなあだ名になるか 5 4 3 2 1

    漢字のみを使う 5 4 3 2 1

    漢字の意味は良いか、悪くないか 5 4 3 2 1

    親や親戚の名前の⼀部を⼊れる 5 4 3 2 1

    誕⽣時の季節、天候、流⾏などをおりこむ 5 4 3 2 1

    こういう⾵に育つようにという想いを反映する 5 4 3 2 1

    読み間違えられない 5 4 3 2 1

    ⼝頭で伝えやすい 5 4 3 2 1

    画数が多すぎない、書きやすい 5 4 3 2 1

    画数の縁起の良さ 5 4 3 2 1

    視覚.聴覚的に、姓名のバランスがとれているか 5 4 3 2 1

    他の⼦とかぶらない 5 4 3 2 1

    ⼀⽬で性別が分かる 5 4 3 2 1

  • 13 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    外国⼈が呼びやすい、または外国⾵、あるいは

    とても⽇本⼈らしい名前など、国際的視点 5 4 3 2 1 ⾃由回答欄 (上記にはないがここも重視する/した、というものを、可能であれば上記同様5段階評価付きで、お答えください)

    以下がアンケートの結果である。アンケート概要については表 1 に示した。アンケート結果を表したグラフ内の数値は、回答者の割合を百分率にし小数第二位で四捨五入したも

    のが表記されている。 表 1

    実施⽅法 紙⾯、メーリングリスト 実施期間 2017 年 9 ⽉ 27 ⽇(⽔)〜11 ⽉ 25 ⽇(⽇)

    (紙⾯による調査の) 実施場所

    中央⼤学多摩キャンパス ⼩⾦井公園、野川公園、井の頭公園、宮本⼩路公園、さつき公園

    (⼩⾦井市、三鷹市、武蔵野市) 対象者

    中央⼤学⽣―203 名 ⼀般の親御さん―202 名

    内訳

    (名)

    男⼦学⽣ ⼥⼦学⽣ ⽗親 ⺟親 ――― ――― 男の⼦ ⼥の⼦ 男の⼦ ⼥の⼦

    102 101 54 37 64 47 計(名) 203 91 111

    表 2 において、各項目ごとにポイントを算出し、ランク付けした。上から、ポイントが

    高い順に並んでいる。2項目名は適宜省略してある。 表 2

    順位 学⽣ 順位 親

    1

    2

    3 4

    5 6

    7

    漢字の意味

    ⾳の響き

    想いを反映する 姓名のバランス 画数の縁起の良さ 漢字のみを使う ⼝頭で伝えやすい

    1

    2 3

    4 5

    6 7

    漢字の意味 ⾳の響き 想いを反映する 画数の縁起の良さ 姓名のバランス ⼝頭で伝えやすい 漢字のみを使う

    2 各回答のパーセンテージに応じ、1 パーセントあたり「とても重視」を「2 ポイント」、「重

    視」を「1 ポイント」、「むしろその逆」を「−1 ポイント」として合計。

  • 14 福田 綾子

    8 9

    10 11

    12

    13

    14 15

    ⼀⽬で性別が分かる 読み間違えられない 他の⼦とかぶらない 画数が多すぎない どのようなあだ名 国際的な視点 誕⽣時の季節などをおりこむ 親や親戚の名前を⼀部

    8

    9

    10 11

    12 13

    14 15

    読み間違えられない ⼀⽬で性別が分かる どのようなあだ名 他の⼦とかぶらない 国際的な視点 画数が多すぎない 親や親戚の名前を⼀部 誕⽣時の季節などをおりこむ

    ここで出したポイントをもとに見ると、学生のほうが親よりも特に(ポイント差 1 割以上)気にしていたことは「漢字の意味・・・」、「一目で性別が分かる」、「画数が多すぎな

    い、書きやすい」、親が学生よりも特に気にしていたことは「画数の縁起の良さ」、「口頭で

    伝えやすい」、「読み間違えられない」、「外国人が呼びやすい・・・など、国際的な視点」、

    「親や親戚の名前の一部を入れる」、「誕生時の季節、・・・などをおりこむ」であった。ま

    た、両者ともにとても重視していたのが「漢字の意味・・・」、「音の響き・・・」、「・・・

    想いを反映する」、一方重視していなかったのが「親や親戚の名前の一部を入れる」、「誕生

    時の季節、・・・などをおりこむ」、「外国人が呼びやすい、・・・など国際的な視点」であ

    った。 まず最も重視されていた項目、「漢字の意味は良いか、悪くないか」について検討する。

    学生の 7 割、親の 6 割が「とても重視」と回答し、重視される度合いが他の項目よりも圧倒的に高いことが分かった。学生のほうが親よりも漢字の意味を重視する度合いが高い

    ことも分かった。 「良い」、「悪くない」という文言が回答に影響を与えた可能性も否めないがいずれにせ

    よ、この項目が「音の響きやそれが表すイメージの良さ」などを凌駕しトップとなったこ

    とは意外であった。この調査を行う前、私が書籍やインターネット上で見聞きしていた話

    では、最近のキラキラネームなど変わった名前には、漢字の意味が無視されているものが

    多いとのことであった。名前の音の響きばかりが先行し、それに使用されている漢字はそ

    れ自身が持つ意味を表すものではなくなっているというのである。伊東氏はこのことに関

    し、現代の親達の、漢和辞典に載っているような事柄も確認せずに見かけだけで漢字を選

    択してしまう傾向への危惧を述べている。例として挙げられているもののひとつは、膀胱

  • 15 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    の「胱」の字を子どもの名前に使いたいという親がいたという話である。「月」と「光」が並

    んでいるという見方しかしておらず、漢字の意味には全く無頓着である。とはいえそれら

    は極端な例であることが改めて確認できた。今回のアンケートの結果にも、その様な傾向

    は反映されておらず、「全く気にせず」と答えたのはごく少数である。 2番目に重視されていた項目、「音の響きやそれが表すイメージの良さ」について検討する。文言を短くしたためやや分かりにくくなってしまったが、「名前の音の響きの良さや、その

    音が表すイメージの良さ」という意図で質問した。「音が表すイメージ」とは、例えば男性

    で「ザブザ」なら荒々しく強靭なイメージ、女性で「シャンシャン」なら鈴の音のように

    清廉なイメージなどのことである。

    こちらも「とても重視」「重視」を合わせると両者とも 8割を超える。そして若干ではあるが学生のほうがより重視していることも分かった。 そもそも下の名前というのは主に、親や友人など親密な関係にある人にしか呼ばれない

    ものであり、その響きを大切にするということは、その親密空間内における印象を重視し

    ているということだと考えられる。「画数が多すぎない」、「読み間違えられない」、「口頭で

    伝えやすい」など社会生活での実用性に関する項目がさほど重視されていないことからも、

    子どもが「自分の子」として捉えられており、「社会に生きる子」という認識はあまりなさ

    れていないと言える。また「音の響き」が重視されることの見方としては、文化人類学者

    の小林康正の著書に、子どもの名前は「親が呼びかける際にきらめくような魅力を発揮す

    るものでなければならなくなる」との記載もある。3

    ⼈気名の⾳の響きも時代によって変遷している。以下の表 3 は、明治安⽥⽣命のホームページに掲載されている「名前の読み⽅ベスト 50」をもとに、どのような⺟⾳の配列が好まれているかを調査しまとめたものである。4男⼥ともに、始めの⺟⾳が「a」であることが多いことが分かる。明治安⽥⽣命の⽣まれ年別ベスト 10 を⾒ると、男の⼦は、1960 年代から「也(a)」、1980 年代から「太(a)」で終わる名前がランクインするようになる前まで、「a」で終わる名前は「昭」、「明」しかなく、「〜雄/夫/男」、「〜郎」で終わる名前や、特

    3 ⼩林、40–43頁。小林によると、子どもの見方が「結婚の結果生まれるもの」から「自ら

    選択しつくるもの」へと変容し、親が⾃⼰の精神を満たすために「つくる」と選択する傾向にある。また、「選択」したからには完璧に育て上げなければいけないという強迫観念のようなものが⽣じる。⼦どもの名前は、「完璧な名前」を付けようと親が必死に考えた努⼒が報われ、精神的満⾜を得ることができるようなものでなくてはならなくなる。

    4 「名前ランキング読み方ベスト 50」。

  • 16 福田 綾子

    に 1920 年頃から 1960 年頃までの⼀字名前時代には「u」、「i」で終わる名前が多かった。2000 年前後からは「⼈」、「⽃」、「翔」で終わる名前も増え始め、「o」で終わる名前が「a」で終わる名前を上回りつつある。また最近の⼥の⼦の名前は最後の⺟⾳が「a」であることが圧倒的に多く、次に「i」で終わる名前が多い。明治安⽥⽣命の⽣まれ年別ベスト 10 によると、1912 年からは同年の三位「ハナ」以降しばらく「a」で終わる名前はランクインしていない。「⼦」の付く名前が⼤多数を占めている(1921 年から 1956 年までの 36 年間は「⼦」の付く名前がランキングを占領している)こともあり「o」で終わる名前が⼤半、あとは「ミ(i)」、「ヨ(o)」で終わる名前がいくつかと「ハル/はる(u)」のみであった。1972 年に「美⾹(a)」が、1983 年に「明⽇⾹(a)」が登場してからは、明らかに「⼦」の付く名前が減り始め、現在表 3 のようになっている。「⼦」を付けるというパターンから抜け出しただけでなく、広く明るい響きが好まれるようになっていったことが分かる。

    表 3 ⺟⾳の配列分布表 2004 男の⼦ U O A E I N

    U u- u-o u-a u-e- u-ue u-i ui O o-

    o-a oa ooa

    o-e- o-ue

    o-i

    A auu

    auo

    aao aio

    aua

    aia

    aie-

    aui aoi

    aii

    E eo

    eno

    eia ena

    en

    I

    iu

    iuo ioo

    iaa

    inoue

    ioi

    2004 ⼥の⼦ U O A E I N

    U u-a

    ua

    ui

    O

    oau

    ooo

    oa ooa

    oe

    A

    au

    ao

    aao

    aua aa aaa

    aae

    aui aoi

    ai

    aai aii

    ain

    E ei I

    iu-

    iu

    io iio

    iaa

    ia

    ina

    iui ioi iai

    in

  • 17 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    2016 男の⼦ U O A E I N

    U u- u-o uio

    u-a u-e- u-i ui

    O o-

    o-ao- o-a oa

    o-e- o-ue

    o-i

    A auu

    au aeu

    auo

    aoo aao aio

    aua

    aaa aia ana

    aie-

    aui aoi aai

    aii

    E eio eno

    eia

    ei en

    I iu iuo ioo iao

    iaa

    iui

    2016 ⼥の⼦ U O A E I N

    U u-a

    ua

    uia

    ui uui

    O oau

    ooa

    A

    au

    ao

    aua aa aaa

    ana

    ae

    aoi ai

    aai aii

    E ea I

    iu

    io ioa iaa ia iia ina

    ioi

    iai

    in

    (縦軸が始めの⺟⾳、横軸が最後の⺟⾳⼜は n) (⽂字サイズの⼤きいものほど多数あることを⽰す) 例:「そうた」→「o-a」、「りお」→「io」

    続いて 3 番目に重視されていた「こういう風に育つようにという想いを反映する」について検討する。

    前の 2 つの項目では学生のほうが重視する傾向にあったが、これはポイント換算でほぼ

  • 18 福田 綾子

    同値であり、「とても重視」と回答した割合は親のほうが多くなった。これも前の 2つ同様人気の高い手法であると分かる。ただし牧野氏曰く、気をつけなければならないのは、同

    じ願いを込めても、名付けた時の親の姿勢によって意味合いが全く異なってしまうという

    ことである。例えば「勉強ができる子になって欲しい」という想いで名付けても、親自身が

    きちんと勉強してきた人であるのと、自分は勉強しなかったから子どもにはちゃんとして

    欲しいと思っているのとでは、願い通りになる可能性は異なってくるだろう。後者の勉強

    しない親が作った環境のなかに生まれる子どもが、勉強しそうな名前だけ貰っても、勉強

    するようになる可能性が前者より低いことは想像に難くない。「やさしい人になるといい

    な」といった具合の想いであれば素敵なことだが、その想いに親の欠乏感・不安感が反映さ

    れ、それが子どもに伝わってしまうと、名前負けしたり、子どもが自身の名前と現実との

    乖離に悩んだりしてしまう危険がある。ただし今回の調査ではこの項目はよく重視されて

    いるうえに学生・親間であまり差もなく、「むしろその逆(想いを反映することはしたくな

    い)」という回答もなかったことから、名前を通しそのような重荷を背負わされた人はあま

    りいないと考えられる。 学生に最も不人気であり、ポイントの上でも学生・親の合計が最低だったのが「親や親

    戚の名前の一部を入れる」である。

    「全く気にせず」だけでも過半数であり、「むしろその逆」つまり自身も含め親戚から字

    を取ることはしたくないという回答も多かった。ネット上には、親の名前を入れると親を

    超えられなくなるという話も載っていたため、中にはそれの影響を受けている人がいる可

    能性もある。親は学生よりも「全く気にせず」、「むしろその逆」が多いのと同時に「とて

    も重視」も多く、中間的回答がより少ない。 親の字を入れることについても、牧野氏は親の不安感が反映された場合の危うさを述べ

    ている。

    無意識のうちに「親子のきずなが長く続くだろうか」という不安があった場合、その

    強い執念が仇となり、きずなが切れてしまうことが多く⾒られます。親から⼦供への強い″おしつけ″とも取れる姿勢は、その後の育て方にも反映され、子供が反発するケースがままあるからです。5

    しかし「全く気にせず」との回答が最も多いことから、繋がりへの執着はさほど強くはな

    く、程よい関係を保つことができている人が多いと考えられる。「とても重視」と回答した

    割合が親のほうが大きいことには、いざ親になった際の心境の変化が現れているととれる。

    5 牧野、105頁。

  • 19 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    設問の文言が少々よくなかったが、この項目を「自分の親や親戚の名前の一部を自分の子

    どもの名前に入れる」という意味で捉えた人が「むしろその逆」と答えているとしたら、「と

    ても重視」同様に、親のほうが学生よりもそう答えた割合が多いことも納得がいく。

    「誕生時の季節、天候、流行などをおりこむ」は、学生の回答の中で最も「とても重視」

    が少なく「むしろその逆」が多かった。私が最も憧れる名づけなのだが、この手法を好ま

    ない人々は、安直だと感じるのだろうか。季節は移り変わるものであるため、昔は子ども

    が無事成長するようにと験を担ぐ意味で避けられていたが、今やそのことを気にする人も

    ほとんどいないと考えられる。実際、季節を含む名前はランキング上位に多く存在するし、

    最近でも辰年には男の子の名前において「龍」という字の人気が急上昇している。6フィギ

    ュアスケートの浅田真央選手がグランプリファイナルで優勝した翌年に「真央」が、テレ

    ビドラマ『マルモのおきて』が放送されていた頃にそのドラマの主演子役の名前と同じ「愛

    菜」が人気名前ベスト 10に入ったという例もある。7かつてはさらに分かりやすく当時の流行が表れていた。男子では大正元年に「正一」、2 年に「正二」、3 年に「正三」、昭和 2 年に「昭二」、3年に「昭三」が人気名前ランキング 1位となり、平成元年から 3年までは「翔平」がベスト 10にランクインしている。女子では「正子」が大正元年に 4位、2年に 1位となり、昭和 2 年には「和子」と「昭子」がそれぞれ 1 位と 2 位になった。また皇族の影響も大きく、1931 年からほぼ毎年ベスト 10 に入っていた「美智子」が、皇太子妃(当時)美智子様のご成婚以降ランクインしなくなるという例がある一方、浩宮徳仁親王ご生誕の

    年には「浩」、「浩一」、「浩二」、「浩之」がベスト 10に入り、悠仁親王ご生誕の直後からは「悠」を使った名前が増加するということも起きている。8 名付けの結果を見ていくと季節や流行の影響が少なからずあるのだが、アンケート調査の結果を見る限り、少なくとも意

    識の上ではこの手法は取りたくないと考えている人が多いということが分かる。また、学

    生のほうが「むしろその逆」の回答の割合が高いことには、名付けられた側として季節な

    どが入った名前に不満をもっていたり、親のほうが「全く気にせず」の回答が多いことには、他の項⽬と⽐べ優先順位が低かったりといったニュアンスが感じられる。

    6 たまひよ 2016年人気名前ランキング女の子ランキング「心春(15位)」、「夏帆(47位)」、

    「小夏(61位)」、「夏希(86位)」、「楓夏(86位)」、「小春(86位)」。 7 「名前ランキング生まれ年別ベスト 10」。 8 「名前ランキング生まれ年別ベスト 10」。

  • 20 福田 綾子

    グローバル化が進むなかで、子どもが海外に出たときのことを考え、外国人にとり発音

    しやすい名前を付けようと考える人もいると知ったため、設問に入れた。「親や親戚の名前

    の一部を入れる」よりも重視する人が多くなったことは意外である。昔から、他国と関わ

    る仕事をしていて、自身の名前の伝わりにくさを感じ、子どもには外国でも通用する名前

    をと考える人はいた。森鴎外がその一例である。しかし彼の名付けと現代の外国風の名付

    けとでは中身が異なる。現代においてはグローバル化を口実に、ただかっこいいからと言

    って西洋風の名前を付けることもあるが、森鴎外の場合は、漢籍の教養を踏まえたうえで

    名付けをしている。例えば長男の「於菟」という名前は、オットーというドイツ人風の名

    前だが、それ以前に、中国の古典に記載のある名前が由来している。昔と今との、奇抜な

    名付けの違いのひとつは、ある程度の漢籍などの教養に基づいているか否かであると考え

    られる。 ところで、この設問で「国際的な視点」と言った意図、つまり、「外国風の名前を付ける

    付けないではなく、子どもを日本社会のみならず国際社会で生きるものとして、そこで通

    用するような名前を考えるかどうか」と聞いていることが、回答者に伝わったかは甚だ怪

    しいものとなってしまった。全く気にしないと答えた⼈が多くても、キラキラだと⾔われがちな外国⾵の名前を敬遠したのか、それともグローバルな事までは考えないのか、ハッキリしない。しかし、「むしろその逆」と答えた⼈については、そのほとんどが外国⼈のような名前は付けたくないと考えていると推察出来る。 以下の三つの項目は、名前を付けられる側の子どもにとって、社会生活を送るうえで比

    較的重要になるものである。

  • 21 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    「口頭で伝えやすい」、「読み間違えられない」はやや親が、「画数が多すぎない、書きやす

    い」は学生のほうが重視していることに、普段の生活においてどの点に利便性を求めてい

    るのかうかがい知れる。 ある名前が読みやすいと感じるか否かは、年代や、日常生活において人名に触れる程度

    などにより大きく異なってくる。また文筆家の伊東氏の著書のなかで紹介されている、「キ

    ラキラネームの“方程式”」という方法論のうちの 1、2 番と 5 番を頭に入れるだけでも、最近の人気名前ランキングにある名前がよく読めるようになる。1、2 番は順に「漢字の訓読みの一部を切り取る」、「漢字の音読みの一部を切り取る」であり、「希心(のぞみ)」、「凛

    空(リク)」、「結愛(ゆア)」などがそれにあたる。5 番は「置き字を用いる」であり、「蒼空(そら)」、「花奈(はな)」、「結夢(ゆめ)」など、読みに反映されない字を置くことで名

    前の意味を深めたり文字数を増やしたりしている。これらの法則を習得すれば、奇抜に思

    われた名前にも馴染んでしまう。名前に関する常識や価値観というのは、このようにいと

    も簡単に変わってしまうものなのである。

    「画数の縁起の良さ」には、過半数が「とても重視」「重視」と答えた。最近の人気名前の

    ほぼ全てが名づけ本の示す吉数表によると良いほうになっていることも頷ける。9牧野氏に

    9 2014 年から 2016 年までの男女の人気名前トップ 10(合計 60名、29種、ネット上の「た

    まひよ人気名前ランキング」より)について調査。吉数表は『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前

  • 22 福田 綾子

    よれば、姓名判断が子どもの名づけと並べて考えられるようになったのは最近のことであ

    って、名前専門の研究家の中に、統計的な根拠をもたないそれを信じる者はおらず、楽し

    みたい人が楽しむ占いである。私も自身や家族の名前で試してみたが、五格(氏名の文字

    のうちどの部位の画数を足し合わせるかにより天格、人格、地格、外格、総格の 5 種類に分けられる)のうちで良い字画のものと良くない字画のものとがあれば「行動力がある」

    とも「行動力が不足」とも言われ、良いもの同士では「周囲から慕われる」、「人望がある」

    などおおよその整合性がとれるようにできていると感じた。姓名判断には様々な流派があ

    り、同じ姓名でも流派によって異なる結果が出る。名づけに関する書籍のなかには、どれ

    か一つの流派に決めそれを信じるようにとか、最後の二つくらいまでに名前の候補を絞っ

    て迷ったという時に参考にする程度でいいといった記載が見られた。10

    「他の子とかぶらない」は、比較的に重視されている度合いが低いが、全然重視されて

    いないわけでもなく、また学生・親間の差異がほとんどなかった。

    2016 年の人気名前ランキングを何回か見、今風の名前にもある程度慣れたつもりでいたときに 2017年の人気名前ランキングを見て、再び驚いてしまった。見慣れない名前がいくつもあったからである。特に近年の子どもの名前は流行り廃りが激しい。11親たちが個性的

    な名前を付けようと思い、人気名前ランキングを確認し上位にある名前を避けた結果では

    ないかと推測したが、小林氏が指摘するところによると要因はそれだけではないようであ

    る。近年では名前の微分化が進み、個々の名前が全体に占める割合が果てしなく小さなも

    事典最新 2017~2018年版姓』に掲載されているものを、画数については『新明解現代漢和辞典、三省堂、2012』を使用。姓が 2字であると想定し、地格(『名に当たる部分です。パーソナリティーやその人の基本的な部分を表し、主に出生から中年に至るまでの運命を支配します。』たま

    ひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典最新 2017〜2018 年版、217 ⾴)の画数を⾒る。⼤吉の画数と凶の画数がおよそ 2 対 1 の割合で指定されているが、それらの名前のうち凶とされるものは 3名(2 種)のみであり、⼥⼦のものは全て⼤吉であった。また凶とされた名前は 1 字名であり、姓が 1 字か 3 字の場合には⼤吉となる。

    10 たまひよ、217、21–22頁。 11 明治安⽥⽣命が公開している「名前ランキング、⽣まれ年別ベスト 10」より、1912 年以

    降で初めてベスト 10 に浮上した名前の数を、10年ごとに合計した。( )内は、一旦ベスト 10から降りた名前がベスト 10に再登場した件数である。

    ~1926 ~1936 ~1946 ~1956 ~1966 ~1976 ~1986 ~1996 ~2006 ~2016 男 5 (5) 11 (10) 6 (11) 1 (12) 14 (8) 9 (14) 10 (14) 14 (11) 20 (21) 25 (27) ⼥ 10 (13) 11 (6) 3 (13) 6 (4) 8 (3) 11 (7) 13 (9) 22 (8) 27 (19) 18 (26) 新たにベスト 10に入る名前の数や、ベスト 10から降りたり戻ったりする名前の数が増加し

    ている。ベスト 10の座の不安定化が見て取れる。

  • 23 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    のになっている。12同等の占有率を有する名前が多数存在し、わずかな人気の変化によって

    も上位が大きく変動する。 小林氏も指摘していたが、たまひよの名づけ本が名付けツールとして非常に強力である

    ことには驚かされた。音や添え字ごとにそれを用いた名前が数種から数十種紹介されてお

    り、また、姓の画数ごとにそれと調和する名前の画数を並べたリストや、一文字目の画数

    順にそれぞれの画数の組み合わせに該当する名前の例を挙げたリスト、様々なイメージと

    それに合った名前の例を多数挙げたリストなども本書の中に盛り込まれている。名前を考

    える側は、すでに多数の候補を挙げかつ順に整理されているそのリストを、自らその作業

    をせずして手に入れることができるのである。名前の種類が増加し、一つひとつの占有率

    が果てしなく低くなることも納得がいく。 この他の項目の結果は、以下の通りである。

    12 ⼩林、27頁。 名前 占有率(%) 1 位/全体

    1989 年 愛 13.1 (3,878/29,578) 1994 年 美咲 7.9 (2,412/30,362) 1999 年 美咲 4.7 (1,405/30,123) 2003 年 美咲 4.3 (870/20,911) そして 2016年 1位の「陽葵」の占有率は 0.71パーセントである。2016年のたまひよ人気名

    前ランキングでは、7位まで足しても 2003年 1位の 4.3パーセントには届かない。

  • 24 福田 綾子

    最後に、自由回答欄にあった回答を見ていく。

    学⽣の⾃由回答

    キラキラすぎるネームは、いけないと思います。(男⼦学⽣) キラキラネームは抵抗があります。(⼥⼦学⽣) キラキラネームはいやです。(⼥⼦学⽣) キラキラは嫌です。(⼥⼦学⽣) ⼩学校とかで名前がネタにされないように(⼥⼦学⽣) 個性的な名前のほうがいいと思うので、DQN にならない程度のをつけたい。(⼥⼦学⽣) 本⼈が気負い過ぎない名前(やたら意味・願いを込めない)(⼥⼦学⽣) 犯罪者等、社会的イメージが悪い⼈との名前被りはできるだけ避けたい・・・(男⼦学⽣) 有名⼈と同じ名前にならないようにする。(⼥⼦学⽣) 本に書かれているような名詞を使わないようにする。(⼥⼦学⽣) ⾃分の好きなものと、パートナーの好きなものを、まぜた名前が良いと思う。(男⼦学⽣) 兄弟姉妹で雰囲気の同じ感じにする(全員漢字⼀⽂字とか)(⼥⼦学⽣) 「実」と「美」のような書き間違いをされやすいものは避けると思う。(⼥⼦学⽣) 他⼈が覚えやすい(⼥⼦学⽣) ⾃分の名前(平仮名三⽂字)がほんとに嫌いなので、漢字にしてあげたいです!(⼥⼦学⽣) (その他、⾃由回答ではないが、「他⼈とかぶらない」を「とても重視する」のところに 激しく〇をつけた⼥⼦学⽣が1名。)

    学生のほうは、キラキラネームに対する抵抗感や、より良いものをというよりも悪いも

    のを避ける姿勢が目立った。名付けられた側として、ある意味親達よりも名付けられる側

    の身になって考えられていると感じた。

    親の⾃由回答や伺ったお話

    最近はキラキラネームが多いので古⾵な名前にした。(⽗・男⼦) 「こうたろう」というひびきが良さそうで決めました。(⺟・男⼦) ⼀⽂字⽬を〇A などあかさたな・・・のひびきにしたかった。私が〜つきなので 娘も同じひびきの名前にした。(⺟・⼥⼦) 名前が先で、その後に画数のよい漢字を当てた(⺟・⼥⼦) 字源(⺟・⼥⼦) 漢字の意味や画数を重視した(⺟・⼥⼦) 元々苗字の画数が姓名判断上悪いうえ、⼥の⼦であるというのもあって、 画数はあまり気にしなかった。(⽗・⼥⼦) 苗字の画数が姓名判断上悪いので、名前の画数はとても重視した。(⽗・⼥⼦) 画数を⼤事にした。⽣まれてみると、考えていた名前と顔が合わなかった ので、⾒たイメージでつけた。(⺟・⼥⼦) 使いたい漢字があったため、それを基準に決めました(⺟・男⼦)

  • 25 どんな名前にしよう ―子どもへの名付けの際に重視すること

    名字がよくある名字のため、名前の漢字は珍しいものを使った。「4」(⺟・⼥⼦) 親の名前のイニシャルと同じにした。(⺟・男⼦) 漢字⼀⽂字を重視した(⺟・男⼦) ⼦供がたくさん⽣まれたらみんな⾊の名前にしようと思ってました。(⽗・⼥⼦) ⼀⼈⽬と⼆⼈⽬の娘は⽣まれた時の季節を⼊れた名前だったので、三⼈⽬と四⼈⽬は ⽣まれた時のと違くても、春夏秋冬そろうように名前を付けた。(⽗・⼥⼦) 兄の名前と同じ漢字を使い、兄妹仲良くしてほしいと願いをこめました。(⺟・⼥⼦) 兄弟なのでそのあたり考慮しました(⽗・男⼦) 年をとっても違和感の無い「4」(⽗・男⼦) 親の意⾒「5」これまで育ててくれた感謝の気持ちとこれから孫も含めてよろしく お願いしたい、との思いもあり、相談しながら決めました。(⽗・男⼦) 同じ名前の⼈がいるか。(あとから分かるのは仕⽅ないのですが・・・)(⽗・男⼦) ⽇本男児らしさ。「5」(⺟・男⼦) 他の⼈に読みやすくてわかりやすいもの(⽗・男⼦) (その他、「読み間違えられない」と「外国⼈が呼びやすい、・・・など、国際的な視点」 のところに星マークをつけてくださった⽅(⽗・男⼦))

    親の自由回答では、学生のほうで挙がらなかった「響き」や「画数」のことが多数となっ

    た。また兄弟姉妹で共通点を持たせるという意見も多かった。言葉に否定的表現がほとん

    どなく、わが子の名前を前向きに考え、肯定していることが分かる。 今回の研究で、キラキラネーム批判によく使われる「読めない」、「意味が変」などとい

    った言説は決して、現代の名づけ全体の意識の傾向を表すものではなく、少なくとも名前

    を考える段階では、「漢字の意味」は最も重視される度合いが高いほどであり、そのほか「読

    み間違えられない」ことなどもそれぞれきちんと気にかけられていることが分かった。ま

    た学生と親、つまり実際に子をもち名前を考えるという経験をする前と後で結果が大きく

    異なったものはなく、わずかな差異の中に、両者の観点の差が読み取れるくらいであった。

    そして文献を読んでいて分かったのは、名前の常識というのは容易に移り変わっていくも

    のであることと、付ける側の欠乏感が反映されやすいということである。今回のアンケー

    トの自由回答欄において、学生の回答に「○○にはしない」、「○○は避ける」といった否

    定的な言葉の目立つ点が気になった。「子どもに贈る最初のプレゼント」とまで気負う必要

    はないと思うが、子どもが一生戸惑いなく付き合っていけるような名前を、ないものねだ

    りや欠乏感ではなく、本当に気に入っている方針のもとに付けられたら良いと思う。

    参考文献 伊東ひとみ、『キラキラネームの大研究』(東京: 新潮社、2015年)

    栗原里央子、『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典 2017~2018 年版』(東京: ベネッセコーポレーション、2016年)

    小林康正、『名づけの世相史』(東京: 風響社、2009年)

    牧野恭仁雄、『子どもの名前が危ない』(東京: :KKベストセラーズ、2012年)

    「名前ランキング生まれ年別ベスト 10」、『明治安田生命』(http://www.meijiyasuda.co.jp/ enjoy/ranking/year_men/boy.html、2018年 1月 16日閲覧、http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ ranking/year_men/girl.html、2018年 1月 16日閲覧)

    「名前ランキング読み方ベスト 50」、『明治安田生命』(http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ ranking-2016/read_best50/index.html、2018年 1月 16日閲覧)(http://www.meijiyasuda.co.jp/ enjoy/ranking-2004/read_best50/、2018年 1月 16日閲覧)

  • オラ、野原しんのすけだゾ —子どもの一人称とその決定の要因—

    市角 修太朗

    「おっほーい、オラ、野原しんのすけ。5 歳」。これは臼井儀人原作の漫画作品『クレヨンしんちゃん』の主人公の男の子、野原しんのすけのセリフである。彼は自分のことを図 1のように「オラ」と呼んでいる。彼のように自分のことを「オラ」と呼ぶ日本人はあまり

    多くはないが、日本では自分のことを「ぼく」という男性がいれば「おれ」と用いる男性

    もいる。また、日本人の女性は「私」や「うち」などと自分のことを呼ぶ。日本語の故障

    において話し手のことを自称詞と言う。すなわち一人称のことだ。当然、野原しんのすけ

    の「オラ」もまた一人称の 1つである。一方で、アメリカ人は自分のことを“I”。中国人は「我」が一人称である。これ以外の一人