滞水 水田などかなり広範な止水域に生息する 飾磨高校小池にお...

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1 飾磨高校小池におけるトンボ・ 水生昆虫相調査の基礎報告 【池内の水生生物を対象とした 基礎研究報告書voL.3】 高校教諭 堀 紳二(トンボ類の捕獲・発見・整理) 飾磨高校生物部 3年 毛利元紀 (執筆) アオモンイトトンボ ↑アオモンイトトンボ (2014年9月捕獲) ●形態 体長約 30mm~35mm.羽化殻の大きさ約 21mm. 雄の腹部 8 節と 9 節の下半分が青色.♀は♂と よく似た色の同色型と,未熟なときは,アジアイトト ンボと同様なオレンジ色で,成熟すると暗い緑色 などに変化する異色型がある。同色型の♀にも胸 部の色が青い個体も見られる。成虫出現期は 4 月 下旬から 11 月上旬で 5 月,8 月,9 月に多く見ら れる。 卵期 8 日~10 日. 幼虫期約 50 日~261 日. 1 年 2 世代型. ★生態 平地の挺水植物や浮葉植物・沈水植物が繁茂す る池沼や、水郷のほとんど流れのない溝川湿地の 滞水、水田などかなり広範な止水域に生息する。 しばしば海岸沿いの汽水沼にも多産する。しかし日 本本土では、生息域が海岸に近い地域に限られ ている傾向がある。幼虫は挺水植物の根際や、浮 葉植物・沈水植物の茂みに潜んで生活している。 場所によってはアジアイトトンボやヒヌマイトトンボ 等と混生するが、その場合は常に本種がもっとも 生態的優位を占める。 アジアイトトンボ ↑アジアイトトンボ (2014年8月捕獲) ●形態 成虫出現期は4月上旬~11 月上旬。成虫の体 長 25mm~30mm、幼虫は体長 15mm~20mm。成 虫ではオスは腹端背面の水色部が第 9 節にあり、 メスは腹部背面の黒条が第 1 節前端に達するの が特徴。メスは未熟期はオレンジ色で、成熟につ れて緑色になる。 ★生態 主に平地や丘陵地の挺水植物や浮葉植物・沈水 植物が繁茂する池沼や湿地の滞水・水郷のほと んど流れを感じない溝川・水田等に生息する。市 街地の公園や社寺の境内池あるいは学校の観察 池等の人口の止水域でもしばしばみられるほか、 庭の水鉢で発生することもある。幼虫は水中の植 物につかまっていることが多いが沈積物の間に潜 んでいることもある。

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1

飾磨高校小池におけるトンボ・

水生昆虫相調査の基礎報告

【池内の水生生物を対象とした

基礎研究報告書voL.3】

高校教諭 堀 紳二(トンボ類の捕獲・発見・整理)

飾磨高校生物部 3年 毛利元紀 (執筆)

アオモンイトトンボ

↑アオモンイトトンボ (2014年9月捕獲)

●形態

体長約30mm~35mm.羽化殻の大きさ約21mm.

雄の腹部 8 節と 9 節の下半分が青色.♀は♂と

よく似た色の同色型と,未熟なときは,アジアイトト

ンボと同様なオレンジ色で,成熟すると暗い緑色

などに変化する異色型がある。同色型の♀にも胸

部の色が青い個体も見られる。成虫出現期は4月

下旬から 11月上旬で 5月,8月,9月に多く見ら

れる。

卵期 8日~10日. 幼虫期約 50日~261日.

1年 2世代型.

★生態

平地の挺水植物や浮葉植物・沈水植物が繁茂す

る池沼や、水郷のほとんど流れのない溝川湿地の

滞水、水田などかなり広範な止水域に生息する。

しばしば海岸沿いの汽水沼にも多産する。しかし日

本本土では、生息域が海岸に近い地域に限られ

ている傾向がある。幼虫は挺水植物の根際や、浮

葉植物・沈水植物の茂みに潜んで生活している。

場所によってはアジアイトトンボやヒヌマイトトンボ

等と混生するが、その場合は常に本種がもっとも

生態的優位を占める。

アジアイトトンボ

↑アジアイトトンボ (2014年8月捕獲)

●形態

成虫出現期は4月上旬~11 月上旬。成虫の体

長 25mm~30mm、幼虫は体長 15mm~20mm。成

虫ではオスは腹端背面の水色部が第 9節にあり、

メスは腹部背面の黒条が第 1 節前端に達するの

が特徴。メスは未熟期はオレンジ色で、成熟につ

れて緑色になる。

★生態

主に平地や丘陵地の挺水植物や浮葉植物・沈水

植物が繁茂する池沼や湿地の滞水・水郷のほと

んど流れを感じない溝川・水田等に生息する。市

街地の公園や社寺の境内池あるいは学校の観察

池等の人口の止水域でもしばしばみられるほか、

庭の水鉢で発生することもある。幼虫は水中の植

物につかまっていることが多いが沈積物の間に潜

んでいることもある。

2

ウスバキトンボ

↑ウスバキトンボ (2014年8月捕獲)

●形態

成虫の体長は 5cmほど、翅の長さは 4cmほど

の中型のトンボである。和名のとおり、翅は薄

く透明で、体のわりに大きい。全身がうすい黄

褐色で、腹部の背中側に黒い縦線があり、そ

れを横切るように細い横しまがたくさんある。ま

た、成熟したオス成虫は背中側にやや赤み

がかるものもいる。

★生態

水辺にとどまることの多い他のトンボと違い、水辺

から遠く離れて飛び回るので、都市部でも目にす

る機会が多い。日中はほとんどの個体が飛び回っ

ており、草木に止まって休むことは少ない。あまりは

ばたくこともなく、広い翅で風を捉え、グライダーの

ように飛ぶことができ、長時間・長距離の飛行が

できる。ウスバキトンボの体はシオカラトンボやオ

ニヤンマのように筋肉質ではなく、捕虫網で捕獲

した拍子につぶれてしまうほど脆いが、これも体や

翅の強度を犠牲にして軽量化し、飛行に適応した

結果と考えられる。食性は肉食性で、カなどの小

型の昆虫を空中で捕食する。敵は鳥類などのほ

か、シオカラトンボなど他のトンボにも捕食される。

オオシオカラトンボ

↑オオシオカラトンボ (2014年8月7日撮影)

↑オオシオカラトンボ♀ (2015年9月18日撮影)

●分布と形態

日本(北海道南部~南西諸島)、中国中南部。

東南アジアには別亜種が広く分布。シオカラトン

ボに次いでよく見られる種。体長 50-57mm とやや

大型で、本土のものでは後翅の付け根近くが明瞭

な黒褐色に彩られる。

★生態

平地から低山地に至る挺水植物が繁茂する池沼

や湿地、休耕田あるいは水田または緩やかな流

れの溝川などに生息する。木立が縁にあるやや鬱

閉的な環境を好み、明るい開放的な環境が好き

なシオカラトンボとかなり明確に棲み分けている。

幼虫は植物性沈積物の陰に潜んだり、柔らかい泥

の中に浅く潜って生活している。

3

※ カトリヤンマ

↑カトリヤンマ (2014年9月捕獲)

●形態

やや細身で中型のヤンマ。成虫は体長 70~

75mm程度。大きな複眼と腹部のくびれが特徴。

★生態

成虫は 6月下旬頃から羽化し、10月下旬頃

まで見られる。 黄昏活動性が強いヤンマで

日中はほとんど活動することなく、薄暗い林

中で木の枝などにぶら下がり静止していること

が多い。 夕方、地上を低く飛びながら摂食

活動を行う。 未熟な個体は体色が黒っぽく

複眼も茶褐色であるが、成熟するにつれ雄は

複眼と腹部斑紋が水色に、胸部は黄緑色に、

雌では複眼と胸部斑紋、胸部が緑色に変化

する。産卵は午後から夕方にかけて行われる

ことが多く、水田の畦や朽木に雌が単独で産

卵する。ヤンマの仲間では珍しく卵で越冬す

る。幼虫期間は短く、孵化からわずか 3~4 ヶ

月で成虫になる。

※兵庫県版レッドリスト

(2012年) Cランク指定

キイトトンボ

↑キイトトンボ (2015年8月捕獲)

●形態

成虫のオスは全長 31~44mm、腹長 23~

34mm、後翅長 15~24mm、メスは全長 33~

48mm、腹長 25~38mm、後翅長 16 ~

26mm であり、イトトンボとしては中型である。

胸部は未成熟で淡褐色、成熟すると明るい

黄緑色である。腹部はオスではあざやかな黄

色、メスでは個体によって緑味のある黄褐色

あるいは緑色となるが、成熟との関係は調査

が待たれる。翅は無色透明、複眼は黄緑色、

脚は黄色。

★生態

平地や低山地の挺水植物や沈水植物が繁

茂する池沼や湿地の浅い滞水、水田・水郷

のほとんど流れを感じない溝川に生息す

る。しかし、尾瀬ヶ原・志賀高原・小松原

等の高標高地の湿原にも産する。成虫は

ハエから小型のトンボ(同種を含む)まで

捕食する。幼虫は挺水植物や沈水植物の

茂みにつかまって生息し、しばしば水底

の植物性沈積物の間からも採集される。

4

ギンヤンマ

↑ギンヤンマのヤゴ (2014年8月26日)

↓温帯性スイレンの葉裏にいたヤゴ(2014年10月3日撮影)

↑ギンヤンマ♀ (2014年8月捕獲)

↑ギンヤンマ♂ (2014年8月18日撮影)

●形態

頭から尾までは 7cm、翅の長さは 5cm ほどの大型のトン

ボである。ヤンマとしては体長に比して翅が長い。頭部

と胸部が黄緑色、腹部が黄褐色をしている。オスとメス

は胸部と腹部の境界部分の色で区別でき、オスは水

色だがメスは黄緑色である。翅は透明だがやや褐色を

帯びていて、メスの方が翅色が濃い。

★生態

湖、池、田など、流れがないか、もしくはごく緩い淡水域

に生息する。ヤンマ類の中では馴染み深い種類で、各

地にいろいろな方言呼称がある。成虫は 4 月-11 月頃

に発生し、昼間に水域の上空を飛び回る。飛翔能力は

高く、高速で飛ぶうえにホバリングなどもこなす。

ギンヤンマの成虫は交尾後にオスとメスが連結したまま、

あるいは、単独で水面に突き出た水草などに止まる。メ

スは腹部先端にある産卵管を植物の組織内に突き刺し、

1 粒ずつ産卵する。孵化する幼虫(ヤゴ)は脚が畳まれ、

薄い皮をかぶった前幼虫だが、植物内から水中に出た

直後に最初の脱皮をする。幼虫は水中でミジンコ、アカ

ムシ、ボウフラなどを捕食して成長する。大きくなるとメ

ダカなどの小魚やオタマジャクシなども捕食するように

なり、えさが少ないと共食いもする。越冬も幼虫で行う。

終齢幼虫までに要する脱皮の回数はトンボの種類によ

って異なるが、ギンヤンマは前幼虫からの脱皮を含め

13 回の脱皮を行う。成長した幼虫は緑褐色で体毛は

少なく、前後に細長いヘチマの実のような体型をしてい

る。充分に成長した終齢幼虫は夜に上陸し、地面と垂

直な場所で羽化を行う。翅と腹を伸ばし、体が固まった

成虫は朝になると飛び立つ。

5

クロスジギンヤンマ

↑クロスジギンヤンマ (2015年5月25日に採取)

●形態

成虫の胸部には黒くて太い線が 2 本あり、和名は

ここに由来する。頭部には T 字状の紋がくっきりと

現れる。♂の腹部は腰の部分は青藍色(♀は黄

緑色)で、黒地に青の小さな斑点(♀は黄緑色)

が散らばる。ギンヤンマよりも一回り大きく体長は

80mm で、複眼は青色。また「ギン」の由来となる

腰の部分の腹側の銀白色は、本種では未熟期に

のみ見られ、成熟するにつれて消えてしまう。飛び

方もギンヤンマのそれに比べるとやや弱々しく、ギ

ンヤンマよりも捕獲が簡単な種である。

★生態と分布

平地から低山地に至る挺水植物や浮葉植物、沈

水植物が繁茂する比較的木陰の多い,やや暗い

林の池や沼などの小規模水域に生息する。市街

地の社寺の境内池にも良く見られる。近縁のギン

ヤンマが開放的な大きい池沼に多いのと対照的

に棲み分けている。両種が混生する池沼では、池

畔に樹木がある陰の多い場所にクロスジギンヤン

マが,樹がなく明るい場所にギンヤンマが多くいる

傾向が認められる。ギンヤンマと違い、もっぱら単

独で産卵する。幼虫はギンヤンマと同様,水中の

植物につかまったり、水底に溜まった植物性沈積

物の陰に潜んで生活している。

分布域は中国大陸、台湾、フィリピンまでだが、日

本では本州以南から奄美大島までに生息する。

別亜種 A. n. nigrolineatus はインド、タイに生息す

る。日本で成虫が発生するのは春から初夏にかけ

てで、夏や秋には少ない。最近では、それまで本

種の採集記録が無かった北海道南部で本種が確

認され、地球温暖化の影響によって、本種が生息

域を北上させているのではないかという疑いも出

ている。

コシアキトンボ

↑コシアキトンボ (2014年8月捕獲)

●形態

全身は黒色で、腹部の白い部分が空いているよう

に見えるために名づけられた。成熟したオスは腹

部の付け根が白色、メスと未成熟のオスは黄色。

★生態

木立に囲まれた池や沼などに生息し、市街地の公

園の池でも見られる[2]。未成熟な成虫とオスはホ

バリングしながら生息水域上の狭い範囲を長時間

飛翔する。国際自然保護連合(IUCN)により、軽

度懸念(LC)の指定を受けている。

6

ショウジョウトンボ

↑ショウジョウトンボ (2014年8月7日捕獲)

●形態

オスは和名のショウジョウ(猩猩)から連想で

きるように真っ赤だが、メスは茶色である。

★生態

オスは単独で池の縁に強い縄張りを持ち、縄

張りの縁に沿って力強く哨戒飛行をする。他

のオスが飛来すると斜め 20cm弱の距離に位

置関係を保ち、地形に合わせて低空編隊(に

らみ合い)飛行を見せる。やや下側を飛ぶの

が地主である。時に激しく羽音を立てて格闘

するが、メスの飛来にはおおらかである。交

尾は、概ね向かい合って上下飛行を繰り返し

た後、やや高く 2m位に上昇し、オス同士の格

闘よりやや弱く縺れ合い、数秒以内ですませ

ているように見える。おつながり飛行は観察で

きない。交尾後にメスは飛びながらアオミドロ

などの水草を腹の先でこするように産卵する。

オスは、産卵中のメスの上空 1m 未満でホバ

リングし、他者(虫)の接近を許さない。雄の飛

翔は速くてパワフルであり、風に乗ってゆっくり

飛ぶことはなく、哨戒飛行の後はすぐに縄張り

内のお気に入りの基点に止まり警戒を続ける。

メスは同じオスの縄張りに居座らないで産卵

後はさっさと移動する。また、飛翔はオスに比

べて緩やかである。羽化直後は黄色がかっ

て羽もキラキラで初々しい。飛翔は弱々しく、

午前中の最初の飛行でツバメやスズメの餌

食になることが多く観察できる。飛翔後の晩

は、巣立った池の周囲の開けた草地の地面

から 10cm 内外の高さの草の上に水平に止ま

っていることが多く、見つけやすい。草陰等に

露を避けるようにぶら下がって止まっているの

ではない。概ね 2-3 日で姿を消す。ヤゴは、

水底より水草に留まって生息している。水槽

観察では、オオカナダモの中に潜み、時に発

生するアオミドロの中には好んで移動する。

食物は、肉眼では微小(ミジンコの 1/10 程

度)な動物プランクトンを希にみる程度の水盤

でも冬を越し、十分に成長し成熟する。4月の

雨上がりの数日後の晴れた日には、一坪程の

産卵繁殖池から 7-8メートル離れた伸びたス

ズメノカタビラの(水没しない)繁茂地の湿っ

た地面上でヤゴを発見することが多々あり、

歩行は素早いので、陸上での採餌活動も推

測される。7 月のヘリコプターによる地区一斉

の水稲農薬散布後には、必ず池の周辺にオ

スの死骸を発見できる。数日以内に新たなオ

スの定着がみられることからオスの縄張り探し

の飛翔は数キロメートル以上の広範囲になる

ことも推測される。さらに、オスが定着すると

一日に数度の格闘を目撃でき、負け去るオ

スは直線的に稲田上を高速で視界から消え

るので一気に数キロメートルは移動する能力

がある。このため、専ら稲田上等で旋回しな

がら虫を探すツバメに捕食される確率は低く、

近隣のツバメの巣の下の虫くずに、成熟した

オスの残骸は見当たらない。

7

シオカラトンボ

↑シオカラトンボ (2014年8月捕獲)

●形態

体長 50-55mm、後翅の長さは 43mm 前

後の中型のトンボ。雌雄で大きさはあまり

変わらないが、老熟したものでは雄と雌と

で体色が著しく異なっている。雄は老熟す

るにつれて体全体が黒色となり、胸部か

ら腹部前方が灰白色の粉で覆われるよう

になってツートンカラーの色彩となる。こ

の粉を塩に見立てたのが名前の由来であ

る。塩辛との関係はない。雌や未成熟の

雄では黄色に小さな黒い斑紋が散在する

ので、ムギワラトンボ(麦藁蜻蛉)とも呼ば

れる。稀に雌でも粉に覆われて"シオカラ

型"になるものもあるが、複眼は緑色で、

複眼の青い雄と区別できる。

★生態

主として平地から低山地帯までの標高の

低い場所に生息し、どちらかと言えば開け

た環境を好む。自然の池沼や流れの緩い

小河川のほか、水田や公園の池など人

工の水域にも住むため、市街地でもよく

見られる。他のトンボ同様、成虫・幼虫と

も肉食で、小型の昆虫をよく喰う。幼虫は

10齢以上を経て羽化するものと推定され、

1年に 2世代を営むと考えられている。幼

虫で越冬し、羽化は春から初秋まで連続

的に見られ、水面から出た植物の茎、杭、

護岸の壁面などで行われる。本州では 4

月中旬頃から成虫が現れて 10 月頃まで

見られるが、暖かい沖縄では 2 月末頃か

ら成虫が出現する。成熟した雄は縄張りを

占有し、草上などに静止して警戒する。

交尾は草や地面の上で行われ、その後は

雄の警護下で雌が単独で産卵する。この

雄の警護は、交尾相手の雌が産卵を終

えるまでの間に他の雄と交尾するのを防

止する適応的意義が大きいと考えられて

いる。シオカラトンボの雄は多くのトンボと

同様に交尾時に前にその雌と交尾した雄

の精子が産卵時に受精に与るのを防ぐ操

作を行うことが知られているが、カワトンボ

類で知られているように貯精嚢内の精子

の掻き出しを行うのではなく、奥に押し込

むことで出口から遠ざける。産卵は水面

の上にホバリングしながら、腹部末端で水

面をノックするようにして行われる。この行

動は、平らで光を反射する面に対する反

応として行われるため、たまには車のボン

ネットや、あるいは和室に飛び込んできて

畳の面でこれを行うのを見ることがある。

8

シオヤトンボ

↑シオヤトンボ (2015年8月捕獲)

●形態

シオカラトンボ属。体長 42mm程度。幼虫は、

少し流れがあるような湿地を好む。羽化してま

もない未成熟個体は黄褐色に黒い斑がみら

れるが、成熟すると白い粉をふく。翅は無色だ

が、基部は淡黄色。シオカラトンボのメスとは

翅胸と腹部の黒色斑の形態で区別できる。

★生態

春から初夏(4~7月)にかけてよく見られる。

主に平地から低山地の背丈の低い挺水植物

が繁茂する湿地、休耕田(水がたまった状態

の場所ではなく、ゆるく流れがある環境)など

に多く発生する。志賀高原の大沼池(標高1

695m)のような高所にも生息している。幼虫

は好んで、水田中や湿地の流水部等に棲み、

柔かい泥の中に浅く潜っていることが多い。

タイワンウチワヤンマ

↑タイワンウチワヤンマ (2014年8月26日捕獲)

●形態

全長 70-81mm、腹長 48-56mm、後翅長

38-46mm になる。 ウチワヤンマと比較して、

細い形状で腹部後方のうちわ状の広がりは小

さく黒い。また、脚に黄斑が無く、全体が黒い。

★生態

海岸に近い平地の池などに生息している。

少し汚れた水質の環境にも生息している。成

熟したオスは、水辺の植物の上に静止してな

わばりを占有し、時々飛び回りながらパトロー

ルを行う。そして、同種のオスや外見の似たト

ンボがやってくると、激しく追い払う行動を見せ

る。メスがなわばりに入ってくると、すぐに追尾

して連結し、空中で交尾を行う。交尾は数秒

で終わる。交尾をしたメスは単独で産卵し、

粘着質の糸でつながった卵塊を水面の浮遊

物などに間欠的に腹端を打ち付ける。

9

※ タカネトンボ

↑タカネトンボ (2014年 7月 23日撮影)

●形態 成体は体長 52~62mm 程の細身のトンボ

で、体型はヤンマ科に近い。複眼は鮮やかな金緑色に

輝き、胸部も金属光沢を帯びた緑色である。同様の特

徴を持つ良く似た種類にエゾトンボ、ハネビロエゾトンボ

などがある。幼虫はアカネ属のヤゴをひと回り大きくした

ような体型で、背棘、側棘ともたいへん鋭い

★生態 成虫は 6月上旬頃から羽化が始まり、

10 月下旬頃まで見られる。薄暗い環境を好み、

丘陵地から低山地にかけての、周囲を樹林に囲ま

れた閉鎖的で小規模な池沼などに多い。このよう

な環境は減少傾向にある。ルリボシヤンマ、オオ

ルリボシヤンマとよく混生する。羽化後は水域から

少し離れた樹林で摂食活動を行う。ヤンマのよう

に、あまり止まることなく飛び続けていることが多い。

成熟した雄は縄張りを持ち、時折ホバリングをしな

がら水域の周囲を旋回する。暗い場所に向かって

行く習性があり、しばしば窓を開放したままの民家

に侵入することがある。未熟なうちは雌雄とも腹部

は鈍い金緑色をしており、複眼は小豆色、胸部背

面の黄色の斑紋が目立つ。成熟するにつれ腹部

は黒味を帯びるようになり、複眼は濃い金緑色に

輝き、胸部背面の黄色の斑紋は目立たなくなる。

産卵は雌が単独で行う打水産卵である。幼虫は

成長が遅く、成虫になるまで 2年以上を要する。

※兵庫県版レッドリスト(2012年) 要注目種指定

チョウトンボ

↑チョウトンボ (2014年8月捕獲)

↑チョウトンボ (2014年7月31日捕獲)

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チョウトンボの●形態

翅は青紫色でつけ根から先端部にかけて黒

く、強い金属光沢を持つ。前翅は細長く、後

翅は幅広い。腹部は細くて短い。腹長は 20-

25mmほど。

チョウトンボの★生態

出現期は 6-9 月。羽化は 6 月中旬ごろから

始まる。朝鮮半島、中国に分布し、日本では

本州、四国、九州にかけて分布する。おもに

平地から丘陵地にかけてのヨシ、マコモ、ガ

マ等の背丈の高い挺水植物が密生する腐植

栄養型の泥深い池沼や水郷地帯の溝川に

生息する。幼虫は挺水植物の根際や植物性

沈積物の陰に潜んだり、水底の柔らかい泥の

中に潜って生活している。チョウのようにひら

ひらと飛ぶのでこの和名がついている。

ナツアカネ

↑ナツアカネ (2014年9月捕獲)

●形態

成虫は体長 33-43mm、腹長 20-28mm、

後翅長 23-32mm程度でアキアカネを若

干寸詰まりにしたような体型をしている。マ

ユタテアカネとほぼ同大であるが、本種

の方が胸部が大きく全体的にがっしりして

いる。胸部斑紋の形はアキアカネのものと

似ているが、本種の斑紋は比較的に角を

帯びている。幼虫は典型的な赤とんぼ型

のヤゴで、体長は 17mm 前後。ノシメトン

ボ、リスアカネに似ている。腹部第 8 節の

側棘の長さは第 9 節の末端を大きく超え

る。

★生態

成虫は 6 月下旬頃から羽化が始まり、12

月上旬頃まで見られる。平地から丘陵地

にかけて広く分布する種で、明るく開放的

な環境を好む。 羽化後はいったん羽化

水域を離れて、付近の樹林の林縁や低

山地に移動し、体が成熟するまでそこで

摂食活動を行う。 未熟期には雌雄とも

体色は黄褐色をしているが、成熟した雄

は全身が赤化し、雌も腹部背面が赤化す

る個体が多い。アキアカネほど顕著では

ないが、よく集団で移動し、他種と混ざっ

て観察されることも多い。 小規模な移動

を幾度も繰り返す習性があり、群れが去っ

た後は一頭も見つからないこともある。成

熟した雄は水域近くに縄張りを持つように

なるが、本種は明確な縄張りの範囲を持

たず、すぐに場所を変える。産卵は空中

から卵を振り落とす打空産卵で、水のな

い池畔の草原や水田の稲穂の上などで

雌雄が連結して行うことが多いが、途中

で連結を解いて雌の単独産卵に移行す

ることもある。この場合は雄が上空でホバ

リングをしながら、または付近に静止して

雌の産卵を警護をすることもあるが、長時

間は持続しない。

11

ハラビロトンボ

↑ハラビロトンボ (2015年7月17日捕獲)

●形態 成虫は体長 31~39 mm 程度の小型

のトンボ。体長の割に腹部が極端に太く扁平で短

いという独特の体形をしており、特に雌の腹部は極

太である。幼虫は毛深いヤゴで、常に泥を多く付

着させている。そのため他のトンボよりも乾燥に強

いとされ、水が干上がっても、地割れした底に潜り

込んで、かなり長期間耐えることができる。(水田

で30cmほどの深さにひび割れした裂け目の底か

ら生きた幼虫を採取した記録がある。)

★生態 成虫は 4月下旬頃から羽化が始まり、

遅いところでは 9 月頃まで見られる。丘陵地、平

地の挺水植物が繁茂する腐植栄養型の浅い池沼、

湿地、休耕田などで羽化した成虫(1000mを超

す高所での記録もある)は、その周辺のやや背丈

の低い草むらに移動し摂食活動を行う。羽化水域

からあまり遠くまでは移動しない。

未熟なうちは雌雄とも全身が黄色を基調とした体

色をしている。成熟するにつれて雄は全身が黒化

したのち、腹部背面がシオカラトンボのように青白

い粉を帯びるようになるが、雌は体色が、全体的

に黄色が濃くなる程度である。また雄雌ともに顔

面の額上部が青色の金属光沢を放つようになる。

成熟後、羽化水域に戻った雄は狭い縄張りを形成

し、雌を見つけるとすぐに交尾する。交尾時間は

数十秒と比較的短い。産卵は雌が単独で行う打

水産卵で、抽水植物の陰に隠れるようにして行わ

れる。産卵中は雄が少し上空をホバリングしながら

雌を見守る。シオヤトンボとの異種間交尾が見ら

れることがある。

※ ムスジイトトンボ

↑ムスジイトトンボ (2014年9月捕獲)

●形態

成虫出現期は 5 月上旬~11 月中旬。成虫

の体長 30mm~40mm、幼虫は約 20mm。オ

ス成虫は、鮮やかな青色の地色に黒色斑

紋、メス成虫は、褐色がかった黄緑あるい

は緑色に黒色斑紋がある。名前は6本の

条があることからつけられた。セスジイ

トトンボやオオイトトンボに似るが、そ

れらに比べて眼後紋が細いこと、オスで

は肩縫線の黒条内に淡色部がないかあっ

てもわずかであること、メスは前胸の後

縁が頭側に大きくえぐれることで区別で

きる。幼虫は同属のクロイトトンボ、セス

ジイトトンボ、オオイトトンボとよく似

ており、区別は難しい。尾鰓の 3 つの褐

色斑が濃く現れる個体も多いが、薄い個

体もいる。また、尾鰓は比較的幅が広くて、

先がとがらないため丸く見える。

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ムスジイトトンボの★生態

主に平地の挺水植物や浮葉植物・沈水植物

が繁茂する池沼や、水郷のほとんど流れのな

い溝川・湿地の滞水、水田などに生息する。

また、しばしば海岸沿いの汽水性沼沢にも見

られる。幼虫は浮葉植物の葉裏につかまった

り、挺水植物の根際や沈水植物の茂みに潜

んで生活している。

※ 兵庫県版レッドリスト

(2012年) 要注目種指定

ヤブヤンマ

↑ヤブヤンマ (2014年7月31日捕獲)

●形態

大型のヤンマで成虫は体長 80~90mm に達

する。長大な腹部が特徴。

★生態

成虫は 5月下旬頃から羽化し、9月中旬頃ま

で見られる。 黄昏活動性が強いヤンマで日

中はほとんど活動することなく、薄暗い林中で

木の枝などにぶら下がり静止していることが多

い。そのため、広範囲で普通に生息する種で

はあるが、人目に触れる機会は少ない。 未

熟な個体は複眼が茶褐色であるが、成熟す

るにつれ雄は複眼と副生殖器付近が水色に、

雌は複眼が緑色になり翅全体が褐色に煙る。

雌の複眼の色彩は個体差があり、稀に雄のよ

うに水色になる個体も現れる。 夕方、高所を

飛びながら摂食活動を行う。 産卵は午後か

ら夕方にかけて行われることが多く、周囲を木

立に囲まれた小規模な水域で、雌が単独で

行う。水際からは少し離れた場所で、湿土や

苔に産卵する。

ハイイロゲンゴロウ

↑ハイイロゲンゴロウ (2014年10月3日撮影)

●形態と★生態

体長12~14mm、淡黄色で、上翔に密

な小黒点と後半に波状紋を有する。水溜

りなど不安定な水域を好んで生息し、個

体数も少なくない。

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※ クロゲンゴロウ

↑クロゲンゴロウ (2014年4月25日捕獲)

頭楯と後転節は黒色。池沼や放棄水田などに

比較的ふつうにみられる。(2005年頃より前は)

↑クロゲンゴロウの背面と腹面の写真↑

(2014年6月10日撮影)

※ 環境省レッドリスト

準絶滅危惧種 (NT) 指定

▲減少理由等

大型ゲンゴロウの大部分が、圃

場整備等による池沼の消滅、改

修、農薬の流入による水質悪化

などにより極端に減少したが、本

種も例のごとく生息地、個体数が

減少している。(準絶滅危惧種)

●形態

体長 20~25mm。体は卵形。背

面は一様に緑色あるいは褐色を

帯びた黒色で、光沢がある。腹

面は黒~暗赤褐色。オスの前

節の基部3節は楕円形に広が

り、吸盤状となる。

◆分布

本州、四国、九州。国外では中

国大陸、朝鮮半島に分布。

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チビゲンゴロウの仲間

↑体長2~2.5mmと小さい。(2014年9月19日捕獲)

↑チビゲンゴロウの仲間(2014年9月19日捕獲、2015年3月6日撮影)

ヒメミズカマキリ

↑ヒメミズカマキリ ↑近縁種のミズカマキリ

(2013年10月29日捕獲)

●形態

小さく(25-30mm)、呼吸管が体長よりも

明らかに短いことからミズカマキリと識別

できる。

★生態

全国に分布するが、ミズカマキリに比べて

個体数はかなり少ない。ヒシの葉柄の浮

嚢など水生植物の組織に産卵管を突き

刺して卵を産み付けるため、生活史を通

じて陸や水際に依存する度合いが極めて

少ない。水面に落ちた小昆虫を主な餌と

していることが知られている。

(ミズカマキリは兵庫県版レッドリスト2012年

において要注目種に指定されている。)

コマツモムシ

↑コマツモムシ (2014年10月7日捕獲)

●生息環境

休耕田や、ため池、特に中規模なビオト

ープによく見られ、また、調整池などに住

み着くこともある。 コマツモムシはマツモ

ムシと違い、中層で生活するため、より深

い水深を好む。 また高温を嫌う性質があ

ることから、湧水や流れ込みのある場所を

より好む。

★生態

本種はマツモムシと同じように背泳ぎをす

るが、マツモムシと違い、水面には呼吸に

上がる以外は中層で生活する。 ユスリカ

やイトトンボの若齢幼虫や、ミジンコなどの

大型プランクトンを捕食し体外消化をする。

また、イトミミズやミズムシといった底生生

物も食べる。

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イトトンボ類のヤゴ イトトンボ類のヤゴ↓

↑2014年10月22日撮影 ↑2014年10月3日撮影

オオアメンボ

↑オオアメンボ (水門内で確認した。)

↑水門周辺 (2014年 1月 30日撮影)

●形態と★生態

大型で日本最大種。体背面は光沢のな

い黒色~黒褐色で側面には銀灰色の軟

毛が帯状に密生する。オスはメスよりやや

大型となる。長翔型のみ。体長19~27

mm。池沼などの止水域、緩流に生息し、

日陰となる水面を好む。

≪まとめ≫

飾磨高校内にある溜池「小池」には、多く

のトンボや水生昆虫が生息していることが

分かった。以下に具体的な報告をいくつ

か述べる。

●トンボの種類と各科に対する

種数の割合

トンボは5科19種確認でき、各科ごとのト

ンボ種数の比率はトンボ科が48%(9種)

と最も多く、そのあとにイトトンボ科、ヤンマ

科ともに21%(4種)となった。

●池内でよく見られたトンボの種類

詳しい調査はしていないが、個体数はギン

ヤンマやシオカラトンボ属が多かったよう

に思われる。(ギンヤンマにおいては8月下旬

~10月上旬にかけて温帯性スイレンの葉の裏

でヤゴが多く採集できた。)ギンヤンマは里

山の特徴的な環境要素である溜池に生

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息する代表的なトンボであり、水生植物に

溜池の水面が覆われると減少するが,逆

に水生植物がないと産卵や羽化が出来

ないという特徴をもつ。このことから,適度

に管理された溜池の指標となると言われ

ている。

●小池周辺で捕獲されるトンボと

その生活環境

池の周辺で捕獲されたトンボが主に利用

している生活環境の割合を調査すると実

に半数以上(58%・19種中11種)が水

域にとどまり、池内の水生植物等を利用し

ているタイプだった。また池の東側に隣接

する林など池周辺の里山環境を利用して

いるタイプは32%(19種中6種)で、池

内またはその周辺環境を主な生活場所と

している種類、つまり両者を合わせると9

0%(19種中17種)にのぼった。水域か

ら遠く離れて飛び回るタイプは10%(19

種中2種)と少ない割合を示した。

この事実は池周辺で捕獲できるトンボの

ほとんどが池内、あるいは池周辺の自然

環境に依存していることを示唆しており、

池内の水生植物の植生や池周辺の樹林

の継続的な保全が望まれる。

●小池に生息するトンボの

環境における特性とその割合

小池に生息するトンボを明るく開放的な

環境を好む種と薄暗く閉鎖的な環境を好

む種に分けてみると、63%(19種中12

種)が明るく開放的な環境を好み、37%

(19種中7種)が薄暗く閉鎖的な環境を

好んでいることが分かった。このことは、現

在の小池が明るく開けた環境であり、それ

を好む種類のトンボが集まりやすくなってい

ることを示している。数年前は池の周囲が

林で覆われていたので薄暗く閉鎖的な環

境を好む種類が多く棲息していたと考えら

れるが、現在は刈り取られ、池の東側以

外は樹林が残っていないため、閉鎖的な

環境を好む種の割合が少ないと考えられ

る。

●小池に生息する保護すべきトンボ・水生昆虫の一覧

和名 評価 捕獲確認年・月・日クロゲンゴロウ 準絶滅危惧種(NT) 環境省 2014年4月25日カトリヤンマ Cランク (兵庫県版レッドリスト2012) 2014年9月タカネトンボ 要注目種(兵庫県版レッドリスト2012) 2014年7月23日ムスジイトトンボ 要注目種(兵庫県版レッドリスト2012) 2014年9月ヒメミズカマキリ なし(ミズカマキリは兵庫県版レッドリストで要注目種に指定) 2013年10月29日