外用療法の理論と実際 日 野 治...

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日皮会誌:109 (2), 121―128, 1999 (平11) 生涯教育講座 外用療法の理論と実際 皮膚疾患の局所療法として行われる皮膚外用療法の 目的は,経皮的に吸収させた薬剤によって治療効果を 得るものである.薬剤は皮膚から容易に吸収され,し かも副作用があってはならない.外用薬には粉末,液 剤をはじめ多種の剤型がある.特に古典的軟膏を含め, 疎水性軟膏は水に溶けず,扱いが容易ではないが,刺 激性が低く,廉爛,湿潤病変にも使用可能である.一 方,親水性軟膏基剤は取り扱い易く,他の薬剤との混 合もでき,乾燥病変には好ましいが,湿潤病変には刺 激がある場合がある.病変に相応しい主薬を使用する ことは当然であるが,基剤・剤型も選択の必須条件で ある. I.はじめに 皮膚科でごく日常的に用いられるが,他科では行わ ない治療は多々ある.その最も特徴的なものぱ軟膏 療法”である.近年開発されて来た外用薬は汚れるこ ともなく,使用法も容易である.一方,昔ながらの軟 膏については,すでに使用されなくなったものもある 上,十分に使いこなすことはなかなか難しい. 外用薬の性質を熟知し,疾患にふさわしい薬剤を使 うことが要求される.最近問題になっているステロイ ドが皮膚疾患の外用治療に用いられるようになって 40年余であるが,その以前から使われ,今も残存する 軟膏療法をもう一度見直してみることも必要である. 両者を上手に使うことによって,一層の治療効果をあ げることができる. II.外用療法の目的 外用療法は薬剤を病変部に種々の手技で外部から直 接用いて,経皮的に吸収させ,その薬剤の作用で,炎 症・癈棒を消退させ,浸出液・鱗屑・痴皮を除去し, 廉爛・潰瘍を上皮化させるなどの治療効果を得る目的 で行う方法である. 関東中央病院皮膚科 平成10年9月11日受理 別刷請求先:(〒158-8531)東京都世田谷区上用賀6- 25-1 関東中央病院皮膚科 日野 治子 また,方法によっては周囲の刺激から病変部の保護 の役割もする.しかし,外用療法の条件として,これ を行ったために病変が悪化してはならない.時に,接 触皮膚炎を生じたり,病変部に不適切な外用薬によっ て,病変を悪化させてしまう場合がある. III。外用薬の必要条件 外用治療を行うに当たって,使用する薬剤の側また は治療される皮膚病変の側からの必要条件があるI). まず,使用する薬剤が経皮的に吸収されるものである こと,外用薬の基剤と皮膚病変の状態,などである. 1.使用薬は経皮的吸収可能であること 使用薬は,表皮からの吸収が容易になされ,しかも 効果を発揮するまで,表皮および真皮に一定時間貯留 すること,さらにその後速やかに代謝され,副作用の ないことが必要条件である. 経皮吸収とは角層をはじめとする表皮を通過して, 真皮,さらに血管壁,血中へ浸透するまでをいう2).皮 膚からの吸収経路は毛包・脂腺・汗腺などの開口部か ら吸収される経路,表皮細胞間から吸収される経路, および表皮細胞そのものを通過して吸収される経路が ある几吸収には,薬剤の分子の大きさ,外用される量, 濃度,基剤の形態などの外用薬の影響,さらに皮膚の 部位,局所の血流量,皮膚温,病変の状況など多種の 内外諸因子が関与してくる4).しかし,本来皮膚はバリ アとなって,水分喪失を防ぎ,外的物質を体内に侵入 させない構造物であるが,病変によって,そのバリア の損傷が生じた場合,薬剤の吸収が促進される. 薬剤すべて直接吸収されるのではなく,一部が皮膚 に貯留する.角層を剥離した表皮では薬剤の貯留が証 明されないことから貯留は主に角層とされている≒ また,薬剤を外用すると,その薬剤を皮表から除去し た後も吸収された分の一部は表皮に貯留して,その後 皮膚から徐々に放出される状態をskin reservoiref- feetという.ステロイドの場合はこの現象の場は角層 であり,剥離によって,これが生じないと証明されて いる6). 2.外用薬の基剤と皮膚病変の適合 後述するように,外用薬は種々の形状で作られてい

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 日皮会誌:109 (2), 121―128, 1999 (平11)

生涯教育講座

外用療法の理論と実際

 日 野 治 子

          要  旨

 皮膚疾患の局所療法として行われる皮膚外用療法の

目的は,経皮的に吸収させた薬剤によって治療効果を

得るものである.薬剤は皮膚から容易に吸収され,し

かも副作用があってはならない.外用薬には粉末,液

剤をはじめ多種の剤型がある.特に古典的軟膏を含め,

疎水性軟膏は水に溶けず,扱いが容易ではないが,刺

激性が低く,廉爛,湿潤病変にも使用可能である.一

方,親水性軟膏基剤は取り扱い易く,他の薬剤との混

合もでき,乾燥病変には好ましいが,湿潤病変には刺

激がある場合がある.病変に相応しい主薬を使用する

ことは当然であるが,基剤・剤型も選択の必須条件で

ある.

          I.はじめに

 皮膚科でごく日常的に用いられるが,他科では行わ

ない治療は多々ある.その最も特徴的なものぱ軟膏

療法”である.近年開発されて来た外用薬は汚れるこ

ともなく,使用法も容易である.一方,昔ながらの軟

膏については,すでに使用されなくなったものもある

上,十分に使いこなすことはなかなか難しい.

 外用薬の性質を熟知し,疾患にふさわしい薬剤を使

うことが要求される.最近問題になっているステロイ

ドが皮膚疾患の外用治療に用いられるようになって

40年余であるが,その以前から使われ,今も残存する

軟膏療法をもう一度見直してみることも必要である.

両者を上手に使うことによって,一層の治療効果をあ

げることができる.

        II.外用療法の目的

 外用療法は薬剤を病変部に種々の手技で外部から直

接用いて,経皮的に吸収させ,その薬剤の作用で,炎

症・癈棒を消退させ,浸出液・鱗屑・痴皮を除去し,

廉爛・潰瘍を上皮化させるなどの治療効果を得る目的

で行う方法である.

関東中央病院皮膚科

平成10年9月11日受理

別刷請求先:(〒158-8531)東京都世田谷区上用賀6-

 25-1 関東中央病院皮膚科 日野 治子

 また,方法によっては周囲の刺激から病変部の保護

の役割もする.しかし,外用療法の条件として,これ

を行ったために病変が悪化してはならない.時に,接

触皮膚炎を生じたり,病変部に不適切な外用薬によっ

て,病変を悪化させてしまう場合がある.

       III。外用薬の必要条件

 外用治療を行うに当たって,使用する薬剤の側また

は治療される皮膚病変の側からの必要条件があるI).

まず,使用する薬剤が経皮的に吸収されるものである

こと,外用薬の基剤と皮膚病変の状態,などである.

 1.使用薬は経皮的吸収可能であること

 使用薬は,表皮からの吸収が容易になされ,しかも

効果を発揮するまで,表皮および真皮に一定時間貯留

すること,さらにその後速やかに代謝され,副作用の

ないことが必要条件である.

 経皮吸収とは角層をはじめとする表皮を通過して,

真皮,さらに血管壁,血中へ浸透するまでをいう2).皮

膚からの吸収経路は毛包・脂腺・汗腺などの開口部か

ら吸収される経路,表皮細胞間から吸収される経路,

および表皮細胞そのものを通過して吸収される経路が

ある几吸収には,薬剤の分子の大きさ,外用される量,

濃度,基剤の形態などの外用薬の影響,さらに皮膚の

部位,局所の血流量,皮膚温,病変の状況など多種の

内外諸因子が関与してくる4).しかし,本来皮膚はバリ

アとなって,水分喪失を防ぎ,外的物質を体内に侵入

させない構造物であるが,病変によって,そのバリア

の損傷が生じた場合,薬剤の吸収が促進される.

 薬剤すべて直接吸収されるのではなく,一部が皮膚

に貯留する.角層を剥離した表皮では薬剤の貯留が証

明されないことから貯留は主に角層とされている≒

また,薬剤を外用すると,その薬剤を皮表から除去し

た後も吸収された分の一部は表皮に貯留して,その後

皮膚から徐々に放出される状態をskin reservoiref-

feetという.ステロイドの場合はこの現象の場は角層

であり,剥離によって,これが生じないと証明されて

いる6).

 2.外用薬の基剤と皮膚病変の適合

 後述するように,外用薬は種々の形状で作られてい

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122 日野 治子

る.疾患に相応しい主薬を選択して,それを含有する

薬剤を選択することは当然であるが,各々の病変部の

状態に相応しい基剤の外用薬であることも必要であ

る.すなわち,疾患によって主薬を選択するが,皮膚

病変の状態によって外用薬の基剤の性状を選択して用

いる.

       IV.皮膚外用薬の分類

 皮膚外用薬の分類には,外用薬の作用機序からの分

類,機能性からの分類,適応面からの分類,含有薬剤

の面からの分類などがある.

 使用に際して,外用薬の基剤は病変への適応上に最

も考慮すべき点の一つであるため,ここでは外用薬の

基剤および形状から分類する1.7~.0. (表1).

 1.粉末剤(powders)

 粉末剤にはその成分上,植物性,鉱物性,動物性が

ある≒

 植物性の澱粉,鉱物性の亜鉛華(酸化亜鉛),タルク

(ケイ酸マグネシウム),動物性の貝粉があるが,最も

使用されているのは,亜鉛華である.現在では,粉末

のままでなく,専ら亜鉛華軟膏として用いる.

 局方の亜鉛華澱粉は,亜鉛華と澱粉を等量に混じた

もので,亜鉛華の刺激が弱められ,撒布しやすく,泥

膏などの軟膏を塗布した上に撒布し,べたつきを抑え

る.

 粉末剤としては,かつて天花粉が湯上がりによく使

われた.亜鉛華とタルクを等量に混じたものである.

肘や膝関節屈曲部,頚部,旅寓,乳房下などの間擦部

に使用すれば摩擦を少なくし,乾燥を促す.皮膚表面

に撒布すると,水分,脂肪分を吸収し,乾燥させるが,

康爛面に使用すると,こびりつき,汚い痴皮を形成す

るため,使用してはならない.

 最近,潰瘍治療剤として開発されたデキストリンポ

リマーの粉末は創傷からの浸出液を吸収して,乾燥さ

せる目的で,潰瘍面に用いる.な牡薬剤の形状とし

て,硫酸フラジオマイシン・トリプシンパウダーや,

アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネートなど

の薬剤もパウダーの形で潰瘍,有樹,手術などの際に

使われることがある.

 2.液剤(liquids)

 液体状の外用薬である.これには溶液性,懸濁性(振

碓合剤),乳剤性のものがある.通常は水を基剤として

いるが,時にアルコールなどをいれ,清涼感を与えた

り,乾燥を早める川町

 1)溶液(solutions)

表1 主な皮膚外用薬の基剤・剤型

 振役合剤

 乳剤性ローション

油脂

軟膏基剤

 油脂性軟膏(疎水性軟膏)

  古典的軟膏(パスタ)

  プラスチベース

  ワセリン基剤の軟膏

 親水性軟膏基剤(新型軟膏)

  乳剤性軟膏

   水中油型軟膏(親水軟膏)

   油中水型軟膏(吸水軟膏)

   水溶性軟膏

その他

 糊膏(リニメント)

 ゲル

  ヒドロゲル基剤

  リオゲル基剤

 オラペース

 スプレー

 硬膏剤・フィルム剤

 薬剤が水などの溶媒に溶け込んでいる状態で,かつ

て真菌症に使われたヘレル液,脱毛症に用いるフロー

ジン液,績臭症や多汗症に用いる塩化アルミニウム液

などがこれに相当する.

 多くの消毒薬は溶液である. 10%ポピドンヨード,

0.1~0.2%アクリノール,0.05~0.1%グルコン酸クロ

ルヘキシジンなどである.

 2)振塗合剤(suspension lotions)

 液体に粉末をいれた合剤である.塗ると,水分の蒸

発とともに清涼感があり,べたつかない.水分が蒸

発すると,混合成分が皮表に薄い膜を作り,薬理作用,

保護作用を示す.混合物が沈殿しているため,使用前

に振って,懸濁させる.

 これには,クンメルフェルド液,カラミンローショ

ンなどがある.亜鉛華のローションは,チンクローショ

ンとして,急性炎症の強い局所の湿布に用いられる.

また,最近使われているステロイドの外用薬にもこの

懸濁性ローションの形態をとるものがある.

 3)乳剤性ローション(emulsified lotion)

 油と水のように本来互いに混じり合わない液体を乳

化剤によって,一一一方の相の中に他方を滴状微粒子とし

て浮遊させた状態である.通常の乳剤性ローションは

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外用療法の理論と実際

o/w(0111nwater),水中油型の基剤で作った液剤が多

く,主にステロイドをいれたものや尿素のローション

がある.この乳剤性ローションは皮膚への浸透性がよ

い.

 3.油脂(oils)

 植物性のツバキ油,オリーブ油,胡麻油,動物性の

豚脂,ミツロウ,ラノリン,鉱物性のワセリン,パラ

フィン,流動パラフィンなどがある.

 このまま乾燥性の皮膚に外用したり,こびりついた

痴皮を軟化させ,除去しやすくなる.また,既に外用

してあった軟膏を取り除くために,脱脂綿に含ませて,

使用する.

 オリーブ油に亜鉛華を混じて,チンク油として使う

こともある.チンク油は,かつて,熱傷部に使用して

創傷治癒を遅らせてしまったり,小児の腎部に塗って

カンジダ発生母地になったりしたため,使用が廃れた

が,湿潤傾向の強い湿疹病変に短時間外用することは,

病変を乾燥させ,痴皮を取り除ける.

 4.軟膏基剤(ointments)

 軟膏には油脂性(疎水性)軟膏基剤と,水溶性軟育

および乳剤性軟膏などの親水軟膏基剤がある.

 1)油脂性軟膏(疎水性軟膏) (oleaginous oint-

ments, water-repellant ointments)

(1)古典的軟膏(paste)

 油脂,すなわちワセリン,オリーブ油,流動パラフィ

ンなどを基剤として作られる.以前から使われてきた

亜鉛華軟膏などはこれに属する.べたつき,うっかり

すると衣類が汚れてしまう.

 亜鉛華軟膏は1g中に局方酸化亜鉛を18.5~21.5%

含有する軟膏でウィルソン軟膏ともいう.かつてはホ

ウ酸がはいっていたため,ホウ酸亜鉛華軟膏(ボチ)と

いっていたが,ホウ酸の毒性が問題になり,現在はい

れていない.

 油脂のため,水には溶けず,水を吸わない.皮膚を

保護し,痴皮を軟化させ,刺激性も低い.湿布の効果

も期待出来る.湿潤していない紅斑・丘疹の集族局面,

小水庖・廉爛・潰瘍などからなる湿潤局面にも使用可

能である.1~2%のイクタモールや2~5%のグリ

テールを混じると,止標効果,抗炎症効果が得られる.

0.5~1%アクリノール亜鉛華軟膏は消毒,殺菌,湿布の

効果が得られる.使用するには,慢性苔癖化病変には

直接塗り込むこともあるが,通常はリント布にのばし

て貼布する.

 以前は,亜鉛華軟膏はリント布にのばすに際し,か

123

なりの力で擦り込む必要があったが,そのアレルギー

性の点から局方11局まで用いられていた精製ラノリ

ンの代わりに12局からは流動パラフィンに変更さ

れJ,多少柔らかくなったため扱いやすくなってい

る.

 なお,湿疹・皮膚炎群の治療に,亜鉛華軟膏の貼布

に際し,ステロイド軟膏を前もって外用しておいて,

貼布することもある.両薬剤によって,各々を単独で

使用するより,よりよい効果を得ることが出来る.ス

テロイド外用薬にしても,量も少なく,ランクも低い

ものが使用出来る.

 この油脂に粉末剤を混入させたものを局方7局まで

は泥膏(paste,パスタ剤)としていたが,8局から軟

膏と区別困難として削除され,すべて軟膏として扱わ

れている.すなわち,油脂に亜鉛華などの粉末剤を混

じたものであり,この形態を泥膏とするなら,いわゆ

る亜鉛華軟膏をはじめすべての古典的軟膏は泥膏の分

類にはいる141!7)lyiウィルソン泥膏,ラッサール泥膏か

知られている.パラアミノ安息香酸を入れて,サンス

クリーン剤として使用することもある.

②プラスチベース(oleaginous ointment base, petro-

latum polyethylene ointment base. plastibase)

 プラスチペースは流動パラフィンにポリエチレンを

5%の割合にゲル化した炭化水素ゲル基剤である.こ

れも基剤として,以前は亜鉛華を混じて使われたが,

最近ではあまり行われていない.

(3)ワセリン基剤の軟膏(vaseline, petrolatum)

 透明で,綺麗だが,よくのび広がり,べたつく.水

には溶けないし,吸水性もない.皮表を覆う性質は大

である.病変部への刺激性は非常に低い.ステロイド

外用薬の基剤として広く用いられている.浸出液など

の水分との親和既がないため,廉爛・潰瘍面,湿潤部

位,また乾燥部位など病変部の性質を選ばず使用出来

るが,被髪頭部などには向かない.

 2)親水性軟膏基剤(hydrophilic base, multipha-

sic base) (新型軟膏)

剛乳剤性軟膏(emulsion ointments)

 本来混じない油と水を界面活性剤を用いて,乳化さ

せ,種々の割合に混じたものである.

 これには,水中油型と油中水型がある.

 乳剤性ローションでも述べたが,水と油は本来完全

に混ざり合うことはない.両者を容器内でよく振り混

ぜて,乳白色の液になっても放置すれば分離する.こ

れに乳化剤(emulsifying agents)として,界面活性剤

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124 日野 治子

(surfactants)を加えると,どちらかの液の中に他方が

小さな球状となり分散する.分散した小球状の側を内

相(不連続相)といい,取り囲む側を外相(連続相)と

いう,乳剤の場合,添加する界面活性剤によって,水

の中に油が分散している状態をoil in water (o/w)型

乳剤,油の中に水が分散している状態をwater in 011

(w/0)型乳剤という.

 乳剤性軟膏は配合剤をよく経皮吸収させ,クリーム

状で綺麗で,水でも容易に洗い流せるため,ステロイ

ド外用剤をはじめ,種々の外用剤の基剤に用いられる.

 ①水中油型軟膏

 o/w(oilin water)型の軟膏である.連続相の水の中

に界面活性剤で乳化した油を分散相として懸濁浮遊さ

せたもので,親水軟膏(hydrophilic ointment ;HO)と

いう.

 ワセリンと水に乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウ

ムを用い,グリセリンなどとともに混和したものであ

る.水で容易に洗い流せて,べたつかない.バニシン

グクリーム型の外用剤である.時に刺激性がある.皮

膚への浸透性がよく,湿潤面では,浸出液を再吸収さ

せてしまうため,廉爛面などには向かず,乾燥面,皮

表に傷のない部位に使う.

 ②油中水型軟膏

 w/o (water in 011)型の軟膏である.連続相の油の中

に界面活性剤によって分散相とした水の微粒子を懸濁

浮遊させている.吸水軟膏(absorption ointment ;

AO)という.コールドクリーム型の外用剤である.ワ

セリンに乳化剤としてエマルゲンを用いている,浸透

性はよい.塗った時に,滑らかな塗り心地がする.水

中油型より水で洗いにくい.

 通常の吸水軟膏はこのコールドクリーム型軟膏をい

うが,吸水作用を持つ外用薬として,ラノリン,親木

ワセリンがある.ワセリンにエマルゲンを混じたもの

で,無水であるが,吸水性があり,湿潤面にも使用で

き,水を吸着すると, w/o型になる.ラノリンはそれ

自体では水を含んでいないが,吸水性がある.ただし,

ラノリンは経皮的に感作しやすいため使用されなく

なってきている.

(2)水溶性軟膏(water-soluble ointment)

 ポリエチレングリコール(PEG,マクロゴール軟膏,

固形のものをカーボワックスという)を主成分として

いる.吸水性があり,水に溶け,べたつかない.水で

洗い流せる.

 ソルベースとして使用しているものである.吸水性

が強いため,浸出液を吸収し,湿潤面を乾燥させる,

ガーゼにのばして,貼布する.1日1回交換し,病変部

を水で洗い,付着しているものを洗い流してから,新

しく貼布する.浸出液が多い場合は,ガーゼを厚くし,

1日に2~3回交換してもよい.

 5.その他の外用薬

 以上の他によく使われる外用薬の基剤として以下の

ものがあるo几

 1)糊膏,リニメント(liniment)

 リニメントは本来皮膚にすりこんで用いる液状また

は泥状の外用薬と定義されているが,単に皮膚面に被

膜を作って局所を保護する目的のリニメントもあ

る9.

 フェノール・チンク・リニメント(carbolic acid・

zinc・liniment.カチリ)がよく知られている.水に亜

鉛華,石炭酸を混じ,アラビアゴム,ふのり,トラガ

ントで皮膚によく付着するようにしたものである.乾

きやすく,清涼感があるが,白く乾いた破片がぽろぽ

ろと落ちる.水溶性であり,湿潤・囃爛面には使って

はいけない.

 2)ゲル,懸濁性ゲル基剤(gel)

 ゲルは固形ないし半固形の一種の懸濁性基剤で,ヒ

ドロゲル基剤(hydrogel base)とリオゲル基剤(lyo-

gel base)がある.

 ヒドロゲル基剤は,水相に薬剤を懸濁させ,さらに

コロイド状の液を分散安定剤で半固体にしたものであ

る.分散安定剤としては,ゼラチン,ペクチン,アル

ギン酸,トラガント,アラビアゴムなどの天然高分子,

セルロース誘導体などの半合成高分子,ポリビニール

アルコール,ポリエチレングリコール(PEG),カルボ

キシビニールポリマーなどの合成高分子などがあ

るSH9) きれいな透明の外用薬である.皮表に塗ると,

液状になり,乾くと薄い被膜を形成する.

 リオゲル基剤は,FAPG基剤(Fatty Alcohol, Pro-

pylene Glycol) ともいい,軟膏とクリームの中間のよう

な基剤である.脂肪酸アルコールをプロピレングリ

コールにゲル化したもので,油脂性軟膏のように乳化

剤や水を含まず,乳対比軟膏のように吸収性があり,

水で洗い流せる.使い心地はよいが,湿潤面には向か

ない.

 3)オラベース(orabase)

 口腔内粘膜の病変は,外用しにくく,成分の吸収が

よく,刺激などの影響を受けやすい部位であるがゆえ

に,ゼラチンなどの固着剤を入れた軟膏を用いる.最

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外用療法の理論と実際

近では,二層フィルム粘膜貼布薬が出来ている.

 4)スプレー(sprays, aerosols)

 薬剤を溶液や懸濁液にして,ガスの圧力で,霧状,

粉末状,泡沫状などの形態で噴出させて用いるべ揮

発性のある溶媒に溶かした薬剤を噴霧して,広範囲の

病変に用いるのにも便利である.

 5)硬膏剤(plasters),フィルム剤(tape)

 布・紙・プラスチックフィルムなどに延ばして,皮

膚に張り付けて使用するものである19)腐食用のス

ピール膏や,ステロイドを糊剤に混じて,薄いプラス

チックフィルムに塗って,0DTを簡便にしやすくし

たものもある.

         V.配合剤

 軟膏の基剤に種々の薬剤を配合して,外用薬を作る.

主薬としては,ステロイドが最も代表的なものである

が,その他に非ステロイド系抗炎症薬,イクタモール

・グリテールなどのタール剤,抗生物質・抗菌薬,抗

真菌薬,抗ウイルス薬,抗腫瘍薬,麻酔薬,腐食剤,

紫外線吸収剤,さらにビタミン薬なども含有している

場合がある.

 1.ステロイド

 ステロイド外用薬は軟膏,クリーム,ローションな

どが作られており,その十分な薬効と手軽に綺麗に用

いることができるため,広く使われてきている.

 局所の経皮吸収,血管収縮能,その臨床薬効的有効

性から5段階(I~V)のランク付けがされてい

る21)~23)同一ステロイドでも軟膏とクリームでは臨

床効果に差があるともいわれる已強い抗炎症作用の

一方で皮膚萎縮,毛細血管拡張,易感染性等々の副作

用があることも確かであるが,病変の部位,皮膚の状

態,病変に応じてステロイド外用薬を選択する.まず

strongクラスから使用してみる.その後必要に応じて

ランクの変更をする.

 初めは有効であっても続けて使用しているうちに効

かなくなり,次第にランクアップしてしまうが,時に

元のランクに房ってみるのもよい場合があるl).必要

十分な効果を持つステロイドを適度な量と期間で用い

る,惰性で何時までも使ってはいけない,などの注意

が必要である.

 なお,ステロイド外用薬の,主剤のステロイドまた

は基剤の成分,添加剤などで接触皮膚炎が稀ながら,

起こり得ることを忘れてはならない.

 2.非ステロイド系抗炎症薬

 ステロイドとはその抗炎症作用において比較の対象

125

にはならないが,ごく軽度の湿疹・皮膚炎,ステロイ

ドの離脱過程などに用いられる.ただし,これらによ

る接触皮膚炎,光接触皮膚炎に注意が必要である.

 インドメタシン,ケトプロフェン,ピロキシカムな

どの外用薬・パップ剤はDDSとしても効果を示す.

 3.抗真菌薬

 多種の抗真菌薬があるが,乳剤性基剤,油脂性軟膏

基剤,液剤,ゲルなどの形態がある.菌種の他に,病

変の性状,部位なども考慮して薬剤を選択する凰

 4.抗生物質

 アミノグリコシド系,テトラサイクリン系,マクロ

ライド系など多種の抗生物質含有外用薬が使われる.

病変部の菌培養,感受性検査によって最も相応しい抗

生物質外用薬を用いる.全身的に抗生物質の使用をす

る必要のある場合は,むしろ局所的には不必要の場合

もある.長期間の使用によって生ずる耐性菌の出現,

菌交替現象,外用薬の接触皮膚炎,交叉感作などに注

意を要する.

 5.その他

 以上の他にサルフア剤やキノロン系抗菌薬,抗ウイ

ルス薬,抗ヒスタミン薬,痴癖治療薬,麻酔薬,ビタ

ミン薬,抗腫瘍薬,尿素などの保湿剤,腐食剤,皮膚

保護剤,創面被覆剤等々配合した外用薬が作られてい

る.

 皮膚科に特殊な薬剤として,発毛剤,制汗剤,紫外

線吸収薬なども頻用される.

         VI.使用方法

 1.単純塗擦

 最も基本的な使用方法で,外用薬をそのまま単純に

病変部に塗布する.通常は1日2~3回,薄く塗り広げ

る.擦り込む必要はない,

 ステロイドを含め,外用薬の多くはまず単純塗擦で

用いることが多いが,液状剤および乳勣比の基剤では

使い心地がよく,塗り過ぎてしまうことがある.

 油脂性基剤の軟膏ではべたつき,てかりがあるため,

つけ過ぎないこと,また,衣類を汚さず,病変部への

外用薬の固着,掻破からの保護などができるため,ガー

ゼや包帯で覆うこともよい.

 2.貼布法

 炎症が非常に強い場合や廉爛面などには外用薬を

ガーゼなどにのばして貼布することもある.例えば,

ソルペースをガーゼにのばし,浸出液が多い部位に貼

布する,

 3,重層法

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126 日野 治子

 ステロイドなどを塗っておいて,その上.に,リント

布にのばした油脂性軟膏を貼布する.ガーゼでは外側

に浸み出してしまうため,厚手のリント布を用いる.

これに軟膏ベラで2~3mmの厚さに軟膏をのばし,2

~3Cm角に切り離し,四隅に切目を入れる.これは凸

凹のある皮表にうまくフィットし,浸出液が外へ出や

すく,また,大きな一枚布で蒸れないようにするため

である.リント布のどちら側に軟膏をのはすかについ

ては種々の意見があるが,リント布のけばが皮膚を刺

激するため,けばだたないザラつく面にのばせという

説≒ザラつく面にのばすと,後に軟膏を除去する際に

病変部に軟膏が付着して取れにくく,余分にこすって

しまうため,けばだった面にのばせという説湊などが

ある.我々はどちらがよいか試みてみたが,どちら側

でものばした軟膏の厚さが2~3mmであるならば差

はない.しかし,それより軟膏の厚さが薄い場合,ザ

ラつく面にのばすと軟膏が外側へ浸み通って行ってし

まうし,けばだった面では皮膚に刺激があり,むしろ

軟膏が皮膚にこびりつきやすかった.すなわち貼布用

軟膏を上手につくれば,どちら側にのばしてもかわり

はない.我々は,ザラつく面にのばしているが,いま

まで何の不都合もない.

 また,軟膏を貼り替える際は,必ず,前回の貼布薬

を脱脂綿に含ませたオリーブ油で,溶かすように完全

に除去し,入浴またはシャワーで病変部を石鹸で洗っ

てから,貼布し直す.残留していると,亜鉛華の微粒

子が刺激し,乾燥させすぎたり,こびりついた軟膏下

に細菌や真菌の繁殖ほ地を作ってしまうためである.

 この重層法や貼布する場合は,1日に何度もできる

ものではないため,1日1~2回行う.

 3.液剤

 乳剤性ローションは,外用薬を塗りにくい被髪頭部

などの使用に便利である.塗り心地がよいが,皮膚へ

の浸透性がよく,浸出液を再吸収させたり,その刺激

性の点から,廳爛面,浸出液の多い病変には用いては

ならない.

 4. 密封法, ODT(occuIusive dressing technique)

 ステロイドで主に用いる.病変部にステロイド軟膏

またはクリームを塗布し,その上からポリエチレン

フィルムで覆い,外用薬主成分が経皮吸収しやすいよ

うにする.1日8~12時間,通常夜間に行う.蒸れるた

め,夏季には向かない.

 糊剤にステロイドを混じて,ポリエチレンフィルム

に塗り,病変部に貼るように作られた外用薬もしばし

ば使われる.乾燥した慢性疾患やケロイドに用いる.

 最近では,麻酔薬のフィルム剤も作られて,注射,

レーザー,伝染性軟属腫の摘除などの除痛に用いられ

る.また,硝酸イソソルビドなどの薬剤を経皮的に吸

収させて,全身的投与と同じ作用を得ようとするDDS

(drug delivery system), TTS(transdermal therapeu-

ticsystem)などとしても利用されている.

 5.スプレー

 広範囲の病変部に対し,噴霧する.ステロイドの外

用薬はべたつかず,広く使用できるため,便利である

が,使用量が明確に把握しにくい欠点もある.専用の

噴霧孔を接着して,被髪頭部の湿疹病変にも使用でき

る.

     VII.皮膚病変と外用薬の適用

 外用薬は,まず疾患に相応しい主剤を選ぶのは当然

であるが,薬剤の基剤,剤型,使用方法は病変の性状

で選ぶ.すなわち,病変が,急性の炎症性のものか,

慢性か,湿潤しているか,乾燥しているか,水庖の有

無,楽爛面か,潰瘍か,皮疹の経過はどうかなどによっ

て,その状況により,外用薬の選択をする.

 多くの場合,油脂旨軟膏基剤は使うことが出来るが,

慶爛・湿潤面には乳剤性軟膏,液剤など水溶性のもの

は向かないことを覚えておく必要がある.ただし,最

近では乳剤性基剤も改良され,刺激の少ない外用薬も

作られているため,これらの使用も可能になってきて

いる(表O) l)9!10)20i2fi)

 1.非感染性の病変

 1)乾燥性皮疹の場合

 単に皮膚が乾燥している程度からさらに皮脂欠乏状

態,老人性乾皮症,軽度のアトピー性皮膚炎,魚鱗癖

などでは,保湿性のある軟膏基剤の外用薬を単純塗擦

する2≒

 アトピー性皮膚炎,接触皮膚炎,岸疹などの湿疹皮

膚炎群の病変で,急性炎症の紅斑・丘疹の集族局面で,

湿潤していない状態では,油脂性軟膏基剤または乳剤

性基剤のステロイドを1日2~3回単純塗擦する.

 2)湿潤性皮疹の場合

 湿疹・皮膚炎群で,漿液性丘疹,小水庖,小廉爛を

伴っていて,湿潤している場合は,ステロイドの油脂

性軟膏を1日数回単純塗擦する.痴皮形成がある場合

は,ステロイド軟膏に亜鉛華軟膏を重層貼布すること

もある.貨幣状湿疹や自家感作性皮膚炎も同様に重層

貼布する.

 水庖症,熱傷などで,水庖や廉爛を形成している場

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    外用療法の理論と実際

表2 皮膚病変と適応外用薬基剤の選択

紅斑 丘疹

漿液性丘疹

水痘 膿庖

慶爛 潰

瘍蛎皮 落屑

疹面

角化

亀裂

液剤 ○ ○ × × ○ ×

油脂(チンク油) ○ ○ O

パスタ ○ ○ ○ ○ふ

心/ ○ ○ ○ ○ ○ ど汽にノ

ワセリン基剤軟膏 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ドヽ

にノ ○

乳剤性軟膏 ○ ○ ○×

X × × ○ ○ ×

水溶性軟膏(マクロゴール) ○ ○ ○ ○

ゲル基剤 ○ ○ ドヘぐノ

リニメント ○ ○ ○ ○

硬膏・フイルム剤 ○ × × × × × ○ ○ ×

スプレー ○ ○ ○ ○

合は,二次感染の予防,病変部の保護として,シリコ

ンガーゼを使用したり,ワセリンまたは軟膏基剤の外

用薬を用いる.

 3)苔癖化の強い皮疹

 慢性の苔癖化の強い湿疹・皮膚炎や,結節性庫疹で

は,ステロイド軟膏を1日数回単純塗擦する.または,

1日当り8~10時間ラップでODTするかテープ剤を

貼布する.

 なお,ケロイドも同様にステロイドの外用やODT

の処置をする.

 2.感染症

 1)細菌感染症

 膿痴疹,汗腺炎,節などでは,抗生物質の軟膏を貼

布したり,亜鉛華軟膏またはアクリノール含有亜鉛華

軟膏との重層貼布をする.廉爛を伴っている場合は,

シリコンガーゼを併用してもよい.

 2)ウイルス感染症

 単純性庖疹や帯状庖疹では初期は抗ウイルス薬や非

ステロイド系抗炎症薬を1日2~3回単純塗擦する.膿

庖になってからは廉爛り貴瘍と同様の処置でよい.

 水痘は,石炭酸・チンク・リニメント(カチリ)を

一日数回単純塗擦する.

 尋常性疵贅にブレオマイシン軟膏のODTをするこ

ともある.

1) Griffiths WAD, Wilkinson JD : Topical therapy.

127

 3)真菌症

 趾開白癖や角化性白癖,体部白癖で乾燥している場

合は乳剤性基剤でも油脂性基剤でも使用できるが,水

庖・廉爛形成し,湿潤している場合は,油脂吐基剤の

抗真菌薬を用いるか,亜鉛華軟膏などで乾燥化を計っ

てから乳剤性基剤抗真菌剤を用いる.

 3.潰瘍

 種々の原因で形成される潰瘍については,背景に疾

患がある場合は原疾患の治療から始めることは当然で

あるが,局所的には,清潔に二次感染の予防,壊死組

織の除去,肉芽形成と上皮化を目指す.最近では非常

に多種の潰瘍治療剤が開発されて来ている,病変の大

きさ,深さなどその潰瘍に相応しい剤型のものを選ぶ.

ただし,同一消毒薬,同一薬を長期間使用すると,耐

性菌ができたり,薬剤に感作されて接触皮膚炎を生じ

たりすることもあるので,注意深く観察することも必

要である27).

         VIII.まとめ

 日常診療で使われる古典的外用薬といわれる以前か

ら使われてきた軟膏を主とする剤型,近年開発されて

きた剤型などの皮膚外用薬について基剤と使用方法に

ついて,概論的に述べてきた.今後さらに使いよく,

副作用の少ない外用薬が開発されることを期待する.

文  献

Rook / Wilkinson / Ebling Textbook of dermatol-

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128

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日野 治子

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               Derraatological Topical Therapy and the Vehicles

                           Haruko Hino

                Department of Dermatology Kanto Central Hospital

              (Received and accepted for publication September 11,1998)

   The agents utilized for dermatological topical treatments should be effective for treating skin lesions, eas-

ily penetrate through the epidermis. and have few systemic sideeffects. The drug is transferred from the ve-

hide to the horny layer and absorbed into the dermis. This percutaneous absorption is influenced by drug

solubility, concentration, and condition of the epidermal barrier. One of the most influential factors in topical

treatment is the vehicle used in the externally applied drugs. These vehicles should be selected according to

the skin eruptions. The traditional oleaginous paste. for instance, zinc oxide ointment, is useful for both dry

and moist lesions. Multiphasic bases, emulsion, and water soluble ointment are suitable for erythema, papules,

and infiltrated lichenoid lesions. They, however, should not be used for vesicular, pustular, erosive or ulcera-

tive lesions. These topical agents are simply applied or often layered with paSでe.According to the condition of

the lesions, the choice of topical therapy should depend on not only the active ingredient. but also the vehicle.

Understanding of vehicles and their properties is necessary for current topical treatment of cutaneous dis-

eases.

   (Jpn J Dermatol 109 : 121~128,1999)

Key words : topical therapy, vehicles