さつまいも 栽培マニュアル - tochigi prefecture- 3 - プラソイラー...
TRANSCRIPT
さつまいも
栽培マニュアル
令和2年(2020 年)2月
栃木県塩谷南那須農業振興事務所
目 次
☆さつまいもについて … P1
Ⅰ圃場選定および準備 … P2
Ⅱ苗の準備~定植 … P3
Ⅲ植付け後の管理 … P6
Ⅳ病害虫 … P8
Ⅴイノシシ対策 … P12
☆水田にさつまいもを導入するとき等に活用できる支援策 … P13
- 1 -
☆さつまいも(ヒルガオ科)
(1)原産地・来歴
原産地はメキシコを中心とした中南米。約 400 年前に中国から琉球(今の沖縄)に伝わ
り、その後、九州から東北地方まで北上した。カンショ、カライモとも呼ばれる。
(2)栄養・機能性成分的特徴
デンプン含有率が 25~30 %と多い。このほかにカリウム、ビタミン C、食物繊維が
含まれている。
(3)県内で栽培されている主な品種
べにはるか、ベニアズマ、HE306(シルクスイート)等
(4)生理・生態的特徴
1)温度:発根温度は 15 ℃以上。茎葉の生育は 30~35 ℃で旺盛になる。いもの
肥大適温(地温)は 22~26 ℃の範囲内。
2)日照:良好な生育・収量確保には十分な日照が必要。
3)土壌適応性:排水性の良い壌土から砂土に適する。適正 pHは 5.5~6.0。
4)貯蔵条件:適温は 13 ℃、湿度は 90~95 %。
(5)主な病害虫
1)病害:立枯病、黒斑病、つる割病、ウィルス病など
2)害虫:サツマイモネコブセンチュウ、アブラムシ類、イモキバガ(イモコガ)、ナカ
ジロシタバ、ハスモンヨトウ、エビガラスズメ、コガネムシ類など
(6)作型例
(7)経営試算(10アール)
収量(㎏) 単価(円/㎏) 売上(円) 経費(円) 所得(円)
2,500 97※ 242,500 135,000 107,500
※ 販売先により単価は変わります
(8)月別労働目安時間(10アール)
月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7 月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
時間 0 0 0 0 17 13 2 3 7 30 1 0 73
- 2 -
Ⅰ圃場選定および準備
(1)圃場選定の基準
1)日当たり・排水性が良好で、肥沃な無病虫の圃場を選ぶ(畑地が適するが排水性が
確保できる田んぼでも良い)。
2)「べにはるか」はネコブセンチュウ(主にサツマイモネコブセンチュウ)の被害を比較
的受けにくいが、連作等によりネコブセンチュウ密度が高まるため長期連作は避ける。
3)ネコブセンチュウなどの発生が懸念される場合は、4年以上の輪作または土壌消毒
のいずれかを行う。
4)排水性の良い圃場の選定方法
①滞水は生育不良・収穫後の腐敗発生の原因となるため、雨が降って 1~2 日後に圃
場に水たまりがない圃場を選定する。
②スコップ等で15~20cmくらいの穴(耕深より1~2cm深く)を掘り、雨が30mm
以上降ったあとの水の溜まり方を確認する。
a)半日~1 日後くらいまでに滞水なし → 排水性比較的良好
b)2~3日後くらいまでには滞水なし → 排水性やや問題あり
c)2~3日後でも滞水あり → 排水性問題あり
(2)土づくり
1)土壌分析の結果を元に下記基準を参考に施肥を行う。土づくりは定植 1 ヶ月以上前、
基肥は1~2週間前に施用し、よく耕うんする。適正pHは 5.5~6.0。
施肥基準(栃木県農作物施肥基準 H29年 3 月版)
目標収量
(t/10アール)
pH 全量基肥(kg/10アール) 施肥例
(10 アール当たり) 窒素 リン酸 加里
2.5 t 5.5~
6.0
4 10 12 CDU 入 BB-S444 号(14-14-
14):30 kg
苦土入り PK化成40号(0-20-
20-Mg4):40 kg
注1.おがくず牛ふん堆肥を 10 アール当たり 1,000 kg 投入の場合は、基肥から 10
アール当たり窒素 0.7 kg、リン酸 4.0 kg、加里 8.2 kg を差し引く。
2.未熟堆肥は生育障害や害虫の発生を招くため、施用しない。
(3)水田の排水対策
水田に作付けする場合には、サブソイラーやプラソイラーを使った心土破砕等や、
暗渠および額縁明渠を設置するなど、排水対策を実施する。
- 3 -
プラソイラー
暗渠設置の例
(4)畝たてとマルチ張り
1)畝たておよびマルチ張りは、施肥耕うん後~植付け10日前頃までに、高さ 20~
30cm のかまぼこ形の畝を作り、マルチを展帳する(圃場が適湿の時に行う)。
2)圃場の適湿とは、土を握って、土のかたまりがくずれない程度。
3)土壌が乾燥しすぎると活着しにくく、過湿は土が固まり通気性が悪くなるため、
いもの肥大が劣る。
4)マルチ展帳の利点は、雑草防除の省力化の他、保温できるため初期生育がよく、い
もの形状が揃いやすい。
Ⅱ 苗の準備~定植
(1)苗の準備~定植の留意点
1)苗は、育成元より供給されたフリー苗から増殖された苗を購入して使用するこ
とを基本とする。苗は苗増殖業者またはホームセンター等で購入できる。
2)5月頃から定植苗の販売・配布が始まるので、苗到着後は直ぐに圃場へ定植を
行う。
3)苗到着後定植まで数日要する場合には、冷暗所で保管し(過乾燥、過湿に注意)、
出来るだけ早めに定植を行う。
4)定植時の苗はほとんど発根していないため、活着に注意する。
5)適期は 5 月上旬~6 月上旬頃の晩霜の無い時期に行う。
6)黒斑病、つる割れ病予防に登録薬剤で処理してから植付ける。
7)マルチ栽培の植え付けは、高温焼け防止のため朝または夕方の時間帯に行う。
- 4 -
定植時 収穫時イメージ
定植時 収穫時イメージ
購入苗のイメージ
定植苗のイメージ
(2)植付け方法および作業
1)植付け方法と定植後の生育上の特徴
方法 作業 特徴 根の活着 いも着生数
斜め
植え
苗の3~4節を土に斜め
に挿す。
マルチ栽培向き ヤヤ良 並
直立
植え
苗の2~3節を土に直立
に挿す。
肥大性は比較的良好。 並 ヤヤ少
もぐら
植え
マルチ上から専用器具等
で穴を開け、苗をマルチ
穴の中へ定植する。
マルチ栽培向き、低温、
乾燥対策
ヤヤ良
並
斜め植え
直立植え
- 5 -
定植機
定植時 収穫時イメージ
2)栽植密度
株間は5月上中旬までの定植で 40~45 cm、5月下旬以降は 30~40 cm を基準と
する。
例)株間 40 cm、畝間 100 cm、機械作業のためのまくら地や通路を考慮すると 10
アールあたり約 1,700 本の苗が必要。
3)定植器具、定植機械の活用
①竹加工器具の活用
竹をへら状に加工し、苗定植器具として活用する。
竹加工定植器具例 竹加工定植器具を使った定植作業
②定植機
定植機を活用すると作業の効率化・省力化が図れる。
もぐら植え
- 6 -
盛り土(枕土)イメージ
定植後盛り土(枕土)の状況
4)定植苗焼け防止
①苗はマルチと接触していると高温で焼け、活着不良や欠株になるおそれがある。
②高温焼けを防ぐため苗の地際部に盛り土(枕土)を置く。
Ⅲ 植付け後の管理
(1)雑草防除
1)植付け 20~30 日後頃に登録のある非選択性茎葉処理除草剤を畝間処理する(薬剤
がいもの茎葉等にかからないよう注意する)。
2)植付け後 1 ヶ月でつるが地面を覆うため、その後は必要に応じて除草する。
つるが伸びる前(定植後 20 日) つるが伸びた後
(2)病害虫防除(病害虫の詳細は P8~11)
1)アブラムシ類が先端の未展開葉につくと、ウィルス病感染のリスクがあるため早期
に登録薬剤で防除を行う。
2)9月頃からは食葉害虫のイモコガ、ハスモンヨトウ、ナカジロシタバ、エビガラス
ズメの幼虫が発生する。幼虫は成長すると農薬が効きにくくなるため、幼齢のうちに
登録農薬で防除する。食害程度が激しくなるといもの肥大、収量に影響する。
3)コガネムシ類幼虫はいもを直接食害するため、発生の少ない圃場の選定および定植
前に適切に防除する。
- 7 -
つる刈り機
9 月頃の生育状況 側枝から発根した様子
切り込み位置
マルチ剥ぎ機
(3)つる返し(地上部が過繁茂な場合のみ)
1)いもの肥大に使う養分を分散させないため、畝間に伸びたつるの根が根付かないよ
うにつる返しを行う。
2)つる返しでいもの肥大性が良くなる傾向があるが、多くの労力を要する。大面積生
産者等では必須作業ではない。
(4)つる刈り
1)収穫の作業性向上のため、つる刈り機などを利用し、地上部の茎葉を刈り取る。
2)つる元に鎌等で切り込みを入れておくと収穫作業が効率的になる。
3)定植後 150日以上経過した時点で、坪掘り(試し掘り)を行い、収量等を予測した上
でつる刈り作業を行う。
(5)マルチ除去
1)収穫前にマルチを除去する。
2)マルチ剥ぎ機を使用すると作業が効率的になる。
- 8 -
掘り取り機(掘り取りのみ) 収穫機(機械に乗ったまま、掘り取り、選別、
コンテナ詰の一貫作業が可能)
黒斑病
(6)収穫
1)収穫前に霜が降りると品質・貯蔵性が低下するため、霜が降りる前に収穫作業を終了
する。
2)なるべく土が乾燥している時に、いもを傷つけないよう丁寧に掘り取りを行う。
3)掘り取り後は、霜の当たらない場所で土が乾くまで保管し出荷する。
4)掘り取り機や収穫機があると作業効率が良くなる。
(7)保存
1)温度が低いと腐敗しやすいので、13℃程度に保つようにする。
2)貯蔵庫(温度:13℃程度、湿度:90~95%を保持)がない場合は長期保存せず、
早めに出荷する。
Ⅳ 病害虫
◆ 立 枯 病
1)苗が活着し、地上部の生育がはじまるころ、つるが伸び出さず、葉が黄色ないし紫
紅色を帯び、しだいに萎れ、生育不良となり枯れる。
2)土壌伝染し、高温や土壌の乾燥で多発する。
◆ 黒 斑 病
1)主としていもに発生する。
2)いもの表面に円形のくぼみができ、その中央部に黒い
毛のようなものが生じる。貯蔵中に見られることが多く、
出荷出来なくなる。
3)罹病種いもから苗を通して伝染するが、発生圃場に連作
すると土壌伝染による発病が多くなる。
- 9 -
ネコブセンチュウの被害
◆ つ る 割 れ 病
1)株全体がしおれ、後に枯死する。葉は紫褐色~黄変
し、落葉する。
2)茎葉の導管は褐変し茎の地際部は縦に裂開し典型的なつる
割れとなる。
3)土壌伝染性で苗の切り口や細根の傷口から侵入し、感染す
る。
◆ ウ ィ ル ス 病
1)葉にモザイク状の濃淡や紫色の斑紋が見られ、症状が進む
といもの肥大が悪くなり、被害が激しい場合は、いもの表面
に細かいひび割れが帯状に生じ、品質も低下する。
2)アブラムシ類がウィルスを媒介する。
◆ ネ コ ブ セ ン チ ュ ウ
1)寄生されると細根は丸く肥大して根こぶとなる。
2)被害は生育阻害のほか、つる割れ病等の土壌病害の発生が助長され、高密度
の寄生を受けるといもが形成されず、いわゆるタコ足状となり、収量、品質と
もに極端に低下する。
◆ ア ブ ラ ム シ 類
1)ウィルスを媒介する。
2)無翅胎生雌虫は体長約 1.2 mm。
3)体色は暗緑色または緑色、黄色。新葉の葉裏や葉柄に小さなコロニーを形成
つる割れ病
ウィルス病
- 10 -
イモキバガ(イモコガ)
エビガラスズメ(老齢幼虫) エビガラスズメ(蛹)
アブラムシ類
することがある。
◆ イ モ キ バ ガ ( イ モ コ ガ )
1)幼虫が葉を食害する。枯れ草、垣根の中などで越冬した成虫は苗床や圃場に
飛来、産卵する。
2)成虫は前翅長 7.1~8.4 mm、前翅が暗炭色。老齢幼虫は体長約 15 mm。
3)苗床と 8 月下旬以降の葉の食害被害が問題となる。
◆ エ ビ ガ ラ ス ズ メ
1)老齢幼虫は葉脈も食べ、蔓と葉柄だけ残すこともあり、多発生すると収量減
など被害が大きくなる。
2)幼虫は成熟すると体長 80~90 mm で尾角がある。体色は緑色~褐色。土
中で蛹化しそのまま越冬する。
3)成・幼虫の発生ピークは 8~9 月。
- 11 -
ドウガネブイブイ幼虫 ドウガネブイブイ成虫
◆ ナ カ ジ ロ シ タ バ
1)1 齢幼虫および 2 齢幼虫はシャクトリムシ状に歩行し、
蔓先の若い葉を食害して点々と小孔をあける。
2)成長するにしたがって葉裏から食害するようになり、老
熟幼虫では大きな葉も主脈、葉柄のみを残して食べ尽く
す。
3)成虫は前翅長 16 mm。1 齢幼虫は淡褐色で、老齢幼虫
は体長 40~50 mm、体は灰青色で黒色の小斑点がある。
4)激しい被害では収量および澱粉含量の低下を招く。
◆ ハ ス モ ン ヨ ト ウ
1)幼虫が葉を食害し、ナカジロシタバ、エビガラスズメの
被害とも類似しており、これらの害虫が混発することが多
い。
2)成虫は前翅長約 16 mm。老齢幼虫は体長 40 mm 内
外、体は灰緑、暗緑、暗褐色など。
3)被害が問題になる時期は 9~10 月。
◆ ド ウ ガ ネ ブ イ ブ イ
1)幼虫がいもの表面を浅く食害し、商品価値をなくす。
2)成虫は体長 20~24 mm の全体青銅色、ときに緑色を帯びて鈍い光沢がある
やや大型のコガネムシ。クリ、ブドウ、カキ、マメ類など多様な植物の葉を食害
する。
3)成虫は 6 月下旬より発生する。
4)未熟堆肥は卵等混入の可能性があるため、投入は避ける。
※ 病害虫写真の一部は栃木県農業環境指導センター、HP:埼玉の病害虫写真集より提供。
ナカジロシタバ
ハスモンヨトウ
- 12 -
Ⅴ イノシシ対策
(1)イノシシの特徴
1)大きさは、体重 40~50 kg、体長 80~110 cm が平均的。大きい個体だと体重
100 kg、体長 160 cm を超えるものもある。
2)雑食性であり、特にドングリを好む。
3)成獣は地面から 20 cm 程度の隙間でも潜り込める。
4)鼻先だけで 50~60 kg の物を持ち上げられるほど鼻で押し上げる力が強いが、鼻
先は敏感で電気刺激には弱い。
5)成獣は 100 cm 以上の跳躍力を持つ。
6)学習能力が高く、えさ場を覚えるため、耕作地の一部に柵を設置しても回り込んで
侵入する。
(2)イノシシによる食害
1)乳熟期の稲、野菜類、いも類、豆類、麦類、果樹類などを食害する。農作物の
地下部(根茎)も食害することがある。
2)ミカン、カキ、ブドウ、モモなどの果樹は地面に落ちた果実だけでなく、枝を折り
食害することもあり、特に堅果類のクリを好む。
(3)イノシシ対策
1)えさ場、通り道、住処の解消を目的とし、田畑まわりのヤブ払いや草刈りを行い
見晴らしを良くする。
2)収穫しない野菜や果樹、間引いた株は、農地に残さず、簡単に取られないよう
ネットで囲むか、埋設する等適切に処理する(意図しない餌付け防止)。
3)放置された果樹類は地域で合意の上出来るだけ伐採する。また、人家等にも菓子
類や野菜・果樹類などえさになるものを放置しないよう気をつける。
4)地域ぐるみ(一人一人の対策意識の向上)での対策が重要。
(4)防護柵の設置例
電気柵 ワイヤーメッシュ柵
価格(100m当たり) 4 万円~ 3 万円~
利点 効果大、移動が簡単。 比較的強度がある。
注意点 ・漏電防止のためこまめな
草刈りを行う。
・動作確認・修理を行う。
・ネットが噛み切られたり、破られたり
するため、定期的な点検・補修を行う。
設置方法等 ・地面から20cm、40cm位
置に電気線を設置する。
・舗装路は電気を通しにく
いため、支柱は舗装路から
50cm 以上離す。
・掘り返し防止のため金網を侵入して
くる方向に折り返す、または 30cm 程
度地中に埋め込む。
・網と地面との接地面をペグで固定す
る。
・網目は 10cm 以下。
・高さ 1.5~2.5m。
- 13 -
☆水田にさつまいもを導入するとき等に活用できる支援策 意欲ある産地や集団に対して、ソフト、ハードの両面から総合的にサポートするため
の各種補助奨励事業。
①生産・出荷調整機械等を整備したい
②加工・業務用野菜実需者と一緒になった検討や機械化一貫体系の導入で生産拡大し
たい
③加工・業務用露地野菜の販路を紹介してほしい
④先進産地指導者や食品企業関係者のアドバイスを受けたい
※1.上記は令和2(2020)年2月現在の内容です。
2.この他の支援事業や、農業制度資金として、農業者のための公的資金がありま
す。詳細は栃木県塩谷南那須農業振興事務所へお問い合わせください。
令和 2(2020)年 2 月発行
編集 栃木県塩谷南那須農業振興事務所
経営普及部
〒329-2163
栃木県矢板市鹿島町 20-22
TEL:0287-43-2318
FAX:0287-43-4072
「園芸大国栃木づくり」の実現に向け、栃木県塩谷南那須農業振興事務所
内にトータル的なサポートを行うワンストップの相談窓口「園芸相談所」
(愛称「みのりす」)を設置しています。
【お問い合わせ先】
栃木県塩谷南那須農業振興事務所 経営普及部
電話 0287-43-2318
お気軽に御相談ください!