ジャワ島中部地震緊急調査報告 magelang 10 199 507 658 0 2 1 kabupaten boyolali 4 307...

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1 2006年7月5日 愛媛大学防災情報研究センター ジャワ島中部地震緊急調査団 ジャワ島中部地震緊急調査報告 1.調査の目的 5月27日早朝、インドネシア中部で発生した M6.2 の地震によりおよそ 6000 人が犠牲になり、被災 者は 65 万人にも上った。防災情報研究センターのアジア・地域防災情報ネットワーク部門では、アジア の発展途上国の減災に向けた各種の取り組みを行っている。インドネシア中部地震による被害形態は、 家屋や社会基盤が脆弱なアジア発展途上国の典型的なものの一つであり、被害メカニズムの解明だけで なく被災から復興に至るまでのプロセスを調査・分析することにより、アジア地域での防災計画に資す る有用な情報が得られるものと考えられる。そこで、この地震による被害状況の把握と、今後必要とな る支援内容の提言、およびアジア地域での防災計画に資する情報を収集するための調査を行った。 2.調査隊員 <先発隊:6/146/20森 伸一郎 (愛媛大学防災情報研究センター助教授:地震工学) 岡村 未対 (愛媛大学防災情報研究センター助教授:地盤工学) <後発隊:6/307/6和田 一範 (愛媛大学防災情報研究センター教授:防災工学):団長 矢田部 龍一( 愛媛大学防災情報研究センター教授:地盤工学) 恒岡 伸幸 JICA 長期専門家:道路) 三神 厚(徳島大学工学部助手:構造工学) 須賀 幸一(芙蓉調査設計(株):地盤工学) 山下 裕一(荒谷建設コンサルタント:地盤工学) 3.行程 月日 氏名 (愛媛大学) 伸一郎 (愛媛大学) 岡村 未対 6月14日 11:00 関空発 19:00 ジョクジャカルタ 着・JICA打合せ・泊 11:00 関空発 19:00 ジョクジャカルタ 着・JICA打合せ・泊 6月15日 現地調査 ジョクジャカルタ泊 現地調査 ジョクジャカルタ泊 6月16日 6月17日 現地調査 19:55 ジョクジャカルタ 発 ジャカルタ経由 6月18日 現地調査 19:00 ジョクジャカルタ ジャカルタ着・泊 9:50 成田着 6月19日 JICA打ち合わせ 23:40 ジャカルタ発 6月20日 8:50 成田着

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2006年7月5日 愛媛大学防災情報研究センター ジャワ島中部地震緊急調査団

ジャワ島中部地震緊急調査報告

1. 調査の目的 5月27日早朝、インドネシア中部で発生したM6.2 の地震によりおよそ 6000 人が犠牲になり、被災

者は 65 万人にも上った。防災情報研究センターのアジア・地域防災情報ネットワーク部門では、アジア

の発展途上国の減災に向けた各種の取り組みを行っている。インドネシア中部地震による被害形態は、

家屋や社会基盤が脆弱なアジア発展途上国の典型的なものの一つであり、被害メカニズムの解明だけで

なく被災から復興に至るまでのプロセスを調査・分析することにより、アジア地域での防災計画に資す

る有用な情報が得られるものと考えられる。そこで、この地震による被害状況の把握と、今後必要とな

る支援内容の提言、およびアジア地域での防災計画に資する情報を収集するための調査を行った。 2. 調査隊員

<先発隊:6/14~6/20> ① 森 伸一郎 (愛媛大学防災情報研究センター助教授:地震工学)

② 岡村 未対 (愛媛大学防災情報研究センター助教授:地盤工学) <後発隊:6/30~7/6>

③ 和田 一範 (愛媛大学防災情報研究センター教授:防災工学):団長 ④ 矢田部 龍一(愛媛大学防災情報研究センター教授:地盤工学) ⑤ 恒岡 伸幸 (JICA長期専門家:道路) ⑥ 三神 厚(徳島大学工学部助手:構造工学) ⑦ 須賀 幸一(芙蓉調査設計(株):地盤工学) ⑧ 山下 裕一(荒谷建設コンサルタント:地盤工学)

3. 行程

月日 氏名(愛媛大学)森 伸一郎

(愛媛大学)岡村 未対

6月14日11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着・JICA打合せ・泊

11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着・JICA打合せ・泊

6月15日現地調査ジョクジャカルタ泊

現地調査ジョクジャカルタ泊

6月16日       〃 〃

6月17日       〃現地調査19:55 ジョクジャカルタ発 ジャカルタ経由

6月18日

現地調査19:00 ジョクジャカルタ発ジャカルタ着・泊

9:50 成田着

6月19日JICA打ち合わせ23:40 ジャカルタ発

6月20日 8:50 成田着

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月日 氏名(愛媛大学)和田 一範

(愛媛大学)矢田部 龍一

(徳島大学)三神 厚

(JICA)恒岡 伸幸

(芙蓉コンサルタント)須賀 幸一

(荒谷建設コンサルタント)山下 裕一

6月30日

11:00 成田発18:50 デンパサール発19:00 ジョクジャカルタ着・泊

11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着・泊

7月1日現地調査ジョクジャカルタ泊

現地調査ジョクジャカルタ泊

7月2日       〃11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着  ジョクジャカルタ泊

       〃19:00 ジョクジャカルタ着  ジョグジャカルタ泊

11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着  ジョクジャカルタ泊

11:00 関空発19:00 ジョクジャカルタ着  ジョクジャカルタ泊

7月3日       〃現地調査ジョクジャカルタ泊

       〃現地調査ジョクジャカルタ泊

現地調査ジョクジャカルタ泊

現地調査ジョクジャカルタ泊

7月4日

現地調査15:30 ジョクジャカルタ発16:30 ジャカルタ着ジャカルタ泊

現地調査19:55 ジョクジャカルタ発 デンパサール経由00:10 ジャカルタ発

       〃

現地調査15:30 ジョクジャカルタ発16:30 ジャカルタ着

       〃       〃

7月5日14:00 日本大使館打ち合わせ23:40 ジャカルタ発

8:00  関空着9:10  関空発10:00 松山着

現地調査19:55 ジョクジャカルタ発 デンパサール経由00:10 ジャカルタ発

現地調査19:55 ジョクジャカルタ発 デンパサール経由00:10 ジャカルタ発

現地調査19:55 ジョクジャカルタ発 デンパサール経由00:10 ジャカルタ発

7月6日 8:50 成田着 8:00 関空着 8:00 関空着 8:00 関空着 4.訪問関係機関 JICA 調査団

ガジャマダ大学 Prof. Adi Djoko, Faculty of Agricultural technology Prof. Abdul Rozaq, Dean, Faculty of Agricultural technology Prof Subagyo Pramumijoyo, Gelological engineering department Prof. Suratman Worosuprojo, Faculty of Geography Prof. Fitri Mardjono, Civil engineering department 現地対策本部

地震被害の調査集計を行っているガジャマダ大学

Geography 学部の学生(写真左上) 先発隊と農学部長、副部長(写真右上) 後発隊(写真左下)

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5.地震の概要 ジャワ中部、ジョグジャカルタ市の南東約20kmで、2006年5月27日に5:54 AM (現地時間)にマグニチュード6.3

の地震が発生した。この地震による死者はおよそ6,000人にも及び、多くの住宅が倒壊したために、避難民はお

よそ数十万人にものぼった。

ジャワ島はオーストラリアプレートがユーラシアプレートの下に潜り込むプレート境界に位置し、島弧として発

達した。そのため、この地域は非常に地震活動の活発な地域であり、下図(右)に示すように1990年から今日の

間に多くの地震が発生し、その多くがフレート境界面を震源とするものである。 今回発生した地震は、発生位置及び震源深さがおよそ 15kmと浅いことから、プレート境界ではなく、

ユーラシアプレート内部で発生したものである。

htt

p://earthquake.usgs.gov/eqcenter/recenteqsww/Quakes/usneb6.php

ジャワ島

ジャカルタ

ジョグジャカルタ

(Yogyakarta)

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このUNOSATによる地図は、米国機関によって予備調査に基づいて整理された、この地震で最も被害を受け

た地域を示すものである。この地図によれば、広範囲な被害地域はBantul県の既存の東側である。この地図上

の断層線を示すと、Imogiri (Opak)断層の西側に一致する。

6.被害と復旧状況 調査ルート青線で、また Imogiri断層を黄線で示す。

*断層の位置は、KOMPAS, RABU, 31 Mei, 2006 による (1)被害統計 インドネシアの行政区分は、Provinci(州)、Kabupaten(県)、Kechamatan(郡)、Desa(村)の順に小

さくなり、さらにRT、RW、RAと呼ばれる隣組が組織されている。 被害の状況は Desa が各 RT からの報告を受け、さらに Kechmatan、Kabupaten によって集計されたも

のがBantul(バンツール)に設置された災害対策本部から公表されている。Kabupaten 毎にとりまとめら

れた 2006 年 6 月 12 日現在の被害状況を次に示す。

Imogiri Fault

図1 調査ルート

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Bantul 4,141 8,673 3,353 71,683 70,796 66,512 6 85 45Sleman 232 690 3,099 5,243 16,003 33,233 67 125 90 11 34 41Yogya 198 245 73 7,161 14,536 21,192 7 67 85

Kulon Progo 22 284 2,394 4,527 5,178 8,501 1 20 110 5 108 145 39 57Gunung Kidul 81 7,746 10,670 27,130 15 75 38

Total 4,674 96,360 117,183 156,568 100 460 403

Kabupaten Klaten 1,045 29,988 62,979 98,552 76 430 439 Kabupaten Magelang 10 199 507 658 0 2 1 Kabupaten Boyolali 4 307 696 708 108 0 2 1

Kabupaten Sukoharjo 3 51 1,808 0 0 0 0 Kabupaten Wonogiri 0 17 12 74 25 0 0 Kabupaten Purworejo 1 10 214 780 0 0 0

Total 1,063 30,572 66,216 100,772 0 0 108 101 434 441

YOGYAKARTA &CENTRAL JAVA 5,737 126,932 183,399 257,340 100 460 511

QUAKE VICTIM DATA OF YOGYAKARTA SPECIAL REGION AS OF 12 JUNE 2006 AT 12:00

18,526

38,423 438

4

18,127 24

300 67

4

Government Building

CameDown

HeavilyDamaged

LightlyDamaged

CameDown

LightlyDamaged

CameDown

HeavilyDamaged

LightlyDamaged

HeavilyDamaged

LightlyDamaged

Praying Location School

19,897 438

CENTRAL JAVA

Victims Damage (Residential Houses) Public Facilities

Death HeavilyInjured

LightlyInjured

CameDown to

the Ground

LightlyDamaged

Victims Damage (Residential Houses)

1,086

302

HeavilyDamaged

LightlyDamaged

Death HeavilyInjured

LightlyInjured

CameDown to

the Ground

HeavilyDamaged

LightlyDamaged Heavily

DamagedHeavily

DamagedCameDown

LightlyDamaged

120

School

HeavilyDamaged

1,278

LocationCameDown

CameDown

Praying Location Government BuildingPublic Facilities

307

(2)インフラ・ライフライン ・ 道路:盛土の被害はほとんど無し。橋梁は、取り付け部に若干の段差が生じていた橋があった。ま

た強打岩城の盛土擁壁にクラック等の比較的軽微な被害(下図のBr-1、Br-2)。 ・ 空港:空港ビルディングに一部損傷あり。滑走路脇で噴砂痕ありとの報告あり。鉄道:被害無し ・ 電力:被害の大きい Imogi、Jetis、Pleret、(Klaten)での電力は地震後およそ数日から1週間で復旧。

Yogya市内の変電所では、変電機基礎が沈下し、傾斜していた。 ・ 水道:水道がある程度普及しているのはジャカルタ市内のみ。ジャカルタ市内では約2日間断水し

た。その他の地域では主に井戸水に頼っており、家屋被害の極めて大きな Imogi、Jetis、Pleret、(Klaten)での被災者へのインタビューによると、水に不自由することはなかったようである。

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BA:Bantul、JE:Jetis、IM:Imogiri、PL:Pleret、SW:Swon、BAN:Banguntapan、PI:Piyungan、BE:Berban PR:Prambanan、YO:Yogyakarta、KA:Kalasan、PR:Prambanan、JO:Jogonalan、KL:Klaten、WE:Wedi GA:Gantiwarno Br:橋梁、*:微動計測点 図2は先発隊の被害調査経路および調査地点である。図2の赤線は図1の青線と対応したものである。

ジャワ島中部地震被害調査箇所(2 次隊) 第 2 次隊の地震被害調査箇所を図3に示す.凡例は以下の通りである.Buntul の被害激甚地区の調査

は多地点にわたったので,個々の調査地点は推定である(おおよそ,黄色い円の中のエリアである). 凡例 1(1) BPKP: Office of auditor and finance (SEWON) (会計検査院) 1(2) BANTUL の民家被害 (位置推定) 1(3) BANTUL(Imogiri)の民家被害 (位置推定) 1(4) Dogongan Bridge 1(5) 中学校 SMP3 Jetis Bantul = Sekolah Menengah Pertama 1(6) Irrigation channel (Von der Wijk) 1(7) Media center (Bantul)

Br-1*

Br-2

BA-1 BA-2

JE-1*

JE-2

IM-1 IM-2

IM-3

PL-1*

SW-1* SW-2

SW-3

SW-4 SW-5

YO-1*

KA-1 KA-2

SW-6 PL-2 PL-3

PL-4 PL-5

BAN-1 BAN-2

PI-1 PI-2

PI-2 BE-1

PR-3

PR-4

PR-2

JO-1 JO-2

KL-1

WE-1

WE-2

GA-1GA-2

PR-1*

KA-1

KA-2

YO-2

YO-3

図2 調査位置

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1(8) Media center (Yogyakarta) 1(9) Government Building (Finance and Tax Department Office) 1(10) Sports center 1(11) Klaten graveyard (S7deg.45.671min., E110deg.32.507min.) 1(12) Klaten民家やモスク 1(13) Prambanan 遺跡 1(14) Jayakarta Hotel 1(15) University of Economic Science 2(1) Janti Flyover 2(2) Mataram Canal Bridge 2(3) Puskesmas Piyungon Medical Facility 2(4) Sekarsuli Bridge 2(5) Batikan Elementary School 2(6) House in Kulonprogo 2(7) Borobudur 遺跡 (地図外) 2(8) Nglepan Landslide (S7deg.49.041min., E110deg.30.410min.) 3(1) University of Economic Science =1(15) 3(2) Office of auditor and finance (SEWON)=1(1)

図3 二次隊の調査地点

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(3)家屋等の被害 ・ Yogyakarta特別区(YO-1) 聞き取り調査によると Yogyakaruta 市内では、地震により家屋内の本棚のほんの多くが落下し、家具

等も転倒したようである。る揺れはYogyakarta市内では柱や壁のクラック等の比較的軽微な被害は至る

所に見られたが、建物の倒壊率は低い。ごく限られた倒壊建物が点在する。また、被害を受けた住宅の

集落が希にだが見られた。次の写真はガジャマダ大学農学部校舎での壁のクラックと玄関脇の柱のクラ

ック(YO-3)。

その中で、比較的大きなRC 構造物の被害が目立った。 下は竣工後数ヶ月のショッピングセンター(YO-2)の被 害

状況。

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次の写真は、国の金融関係の建物(YO-1)。1階部分の一部が完全につぶれている。柱には大きなせん

断亀裂が見られる。RC柱の間の壁は、レンガをモルタルでつないだもろい構造。

・ Bantul県

Bantul郡 ここでの被害は少ない。災害対策本部が

Bantul 郡庁及びその周囲に置かれており、被害

統計などの情報が掲示されている。

Jetis郡(JT-1、JT-2) 被害率の非常に高いRT が点在している。写真の 60 世帯 205 人のRT(隣組組織)では、家屋の完

全倒壊率は約 95%で残り 5%も極めて損傷が激しい。このRTでの死者は 3人、けが人は 20 人であ

った。住民の仕事は農業、畜産が中心で貧困層。

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このRT内で地盤及び倒壊を免れた家屋の微動を測定(JT-1)。 この家屋は写真右半分の倒壊した部分が築 25 年、左側の倒壊を免れた部分が築 5 年の増設部。

Imogiri郡

被害率の非常に高い区域が高い頻度で分布している。ほとんどの建物が煉瓦を土あるいは極めて貧配

合のモルタルで固めた建物である。これらの建物には細いRC柱と梁があるが、鉄筋というよりは番線

に近いものと質の悪いコンクリートである。およそ築 25 年よりも新しい建物は、この種のものが圧倒

的に多い。 屋根は、古い建物では薄くて軽い瓦が用いられているが、新しい建物の瓦は重い。ほとんどの家

が1階建てである。

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被害の後かたづけは近所の人が助け合って進めている。水道はなく、水は井戸から取っており、

地震後も水が不足することはなかった。

Pleret郡

被害が甚大な地域付近には配給所(POSCO)が設けられ、多くの学生ボランティアが働いていた。

写真の学生らは、大学校舎が崩壊し授業が行えないので、大学が振り替えとしてボランティア活動

を課しているということであった(PL-1)。

被害率の非常に高い区域が点在している。この辺りの倒壊率はおよそ 60%。ここでも構造は華奢

なRC柱及び梁と煉瓦積みの壁である。ほとんどの家が1階建てである(PL-2)。

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不要道路から一歩踏み込んだ内側では被害が大きいことが多い。この地域でも地震による井戸水

の変状はない(PL-3、PL-4)。

PL-4 地点から約 400m ほど東からは山地となる。この山地に位置する PL-5 地点では、建物倒壊率

が平地部のPL-1~PL-4 地点と比較して明らかに小さい。左上の写真はPL-5 地点内の幼稚園で、建

物はほぼ無被害、右上の写真は竹あるいは木製の柱と梁に竹を編んだ壁を取り付け、さらにその上

に煉瓦済みの壁を貼り付けたものである。ブロック積みの壁は完全に崩壊し中の竹編み壁があらわ

となっているが、柱と屋根に損傷は見られない。

この建物は築 85 年(竹とブロック積みの部分)、築 20 年(木製の部分)である。屋根は薄く1枚

あたりおよそ数百グラムであり、裏側の突起で屋根の桟に引っかけてある。

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細い道を挟んで斜め前の家(左上の写真)は重い屋根瓦(厚さは約3倍)を用いており、全ての瓦

が落ちていた。

Swon 郡 SW-1 及び SW-2 付近での被害率は比較的低く、被害の大きな近隣地区の避難所や配給所(POSCO)が設置されている。 SW-3 付近の被害膣は高い。この地域はほとんどがレンガとモルタルで作った壁の家。その中で2階

建て家屋は完全に崩壊せず一部分が残っているものが散見される。

Banguntapan 郡(BAN-1、BAN-2) BAN-1 から BAN-2 へと、断層に近づくにつれて建物倒壊率は高くなる。この地域の住宅もほと

んどがレンガ壁の1階建て。

Piyungan 郡 人口密度の比較的低い地域。倒壊したレンガ壁建物が散見される中、古い木造の軽い瓦の建物が

目立った損傷を受けていないのが目を引いた。

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Berban 郡

およそ 1/3 程度の家屋が倒壊している。上の写真の幹線道路手前側のマーケットは倒壊は免れた

が、壁の崩壊などにより3名の犠牲者が出た。

Prambanan 郡(PR-1~PR-4) 人口密度の高い地域。倒壊したレンガ壁建物が散見される。屋根瓦が落ちている建物が多い。

・ Wedi県、Gantiwarno 県(WE-1,WE-2,GA-1,GA-2) この地域もほとんどの建物がレンガ済みの低層住宅。WE-1 から WE-2 へ向かうにつれて倒壊率が急

増する。WE-1 では倒壊建物は少なく、屋根瓦の脱落やレンガ壁の一部損壊、レンガ壁表面に塗ってあ

る壁土の剥離などが多い。

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GA-1、GA-2 での被害率は高い。平均して 2/3 程度の倒壊率で、RT によっては全て崩壊したものもある。

現地の対策本部と被害状況の集計板。RT 毎の被害がまとめられている。(GA-2)

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(3)農耕地の被害

クラックが生じ、水が抜けている水田が散見される(左上の写真、IM-1)。灌漑用水路の被害も報告され

ている。農村地帯では養鶏や酪農も行われているが、養鶏場(右上の写真)や牛の飼育場(左の写真、JE-1)等の被害は顕著ではない。このように生活基盤への損害が限定的であったことが原因であろうか、人々

の表情は非常に明るく、倒壊率がほぼ 100%の地域に於いても子供たちは写真撮影をせがんで集まって

くるし、我々に食料と飲み物を振る舞ってくれようとさえする(右の写真、IM-1)。 (4)学校、診療所の被害

学校や診療所(地域に根付いた小さな診療所が数多くある)も一般家屋と同様にレンガ壁の脆弱な作り

であるため、家屋と同様の被害を受けている。地震発生が早朝ではなく昼間であったなら、多数の子供

が犠牲になったと考えられ、学校の耐震化も重要である。左上はがれきとなった学校(SW-5)。

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(5)遺跡の被害 プランバナン寺院(PR-1)では、石造りの遺跡建造物が被害を受けていた。この遺跡は8世紀ごろ

に建造され、1549 年の地震でがれきの山と化し、その後 1937 年からユネスコにより修復が始められて

いるものである。修復開始前の状態は遺跡内の博物館に展示されている(下の写真)。

この遺跡の石積みは石を単純に積んだだけではなく、接合部にはインターロッキング(小さな突起)

の仕掛けがある。多数の石が落下していたのに加え、一つの塔(足場の組である塔)では頭頂部が傾斜

し崩壊の危険があるためにこの遺跡全体が立ち入り禁止となっている。南西方向および北東方向に面し

た壁面の被害が大きく、地震動の方向性が推察される。

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この遺跡に近接する住宅地では、倒壊したブロック積みの建物が多く見られた。 ジョグジャカルタから 40km 西北西に位置するブルトポール寺院でも観光客はまばらであった。ここ

では地震による被害は全くないが、地震とムラビ火山の噴火による影響を懸念して観光客が激減してい

る。 (6)斜面崩壊 被害の大きなBantul県の東方山地(Imogiri断層の東側斜面)には多くの崩壊が発生している。 Nglepanの斜面崩壊(S7 o 49.56, E118 o 30.33)

Sleman 県Nglepan の南西向き斜面で大規模な崩壊が発生した.土塊が円弧状にすべり,多くの家を押

し潰した.ここには,14 戸の民家があり,大破,全壊したが,幸い,死者は 0であった.土塊の上に自

宅があった住民からのインタビューをもとに被害のメカニズムを推定すると,もともとすべり土塊の

上部は,傾斜約 6-7 度の緩斜面となっており,そこに民家や家畜小屋が建てられていた.地震によって,

まず,建物に亀裂が入り,次いで,約 300 万m3(推定)の土塊は,南方向へ約 20m,西方向へ約15m動き,

また,鉛直方向に約 6m沈下した.地山と移動土塊の間にクラックが出来,そこへ崩壊土砂が流入した.

また地震後,地滑り土塊の上の民家は約 3 o 傾いたが倒壊せずに残った.付近の調査から,水みちが確認

できた. 7/2/2006 現在,崩壊現場は手つかず状態で,ジョグジャカルタ等から,興味本位で現場を訪れる家族

連れ等が見られた.今後,2 次災害を防ぐため,崩壊土塊より下にある集落に避難勧告を出すなどの方

策が必要である.

下から土塊を見あげたところ

上から下をみたところ

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斜 面 崩 壊 (Ngoro-oro=S7deg.50.241min., E110deg.30.673min.) 地震により表層の斜面崩壊は数多くの箇所で認められ

る。 調査した斜面崩壊箇所は、直高が 80m 程度の急崖状を

示す斜面であり、表層 1m あるいはそれ以下の層厚で

崩壊した(写真―1)。崩壊した土砂はほとんど斜面下に

堆積したが、一部は斜面の途中に残存している土砂も

認められた。崩壊土砂の到達範囲は斜面高さ程度まで

達していた。幸いにも斜面下の家屋には被害が出てい

なかったが、もう少し崩壊土砂が多い場合、家屋にも

到達する恐れがある箇所であった。この地区の斜面下

には家屋が認められることから、斜面崩壊を想定した

危険区域を取りまとめる必要があると思われる。 また、斜面崩壊箇所の上部には、今後崩壊が予測さ

れる亀裂が入り、段差も生じていることから、十分

注意する必要がある(写真―2)。将来的には道路まで

影響を及ぼすことも考えられる。 斜面崩壊地の地質は、安山岩質凝灰岩が基盤であり、

斜面上部まで分布し、その上に安山岩質凝灰角礫岩

あるいは凝灰集塊岩が覆っている。安山岩質凝灰岩

は砂状に固結したものが、ほぼ水平上に堆積してお

り、岩質としては軟質であり、土砂状を呈している。

安山岩質凝灰角礫岩あるいは凝灰集塊岩は、中に入

っている礫が硬質であり、固結度も高いことから安

定した岩の様子を示している。ただ、風化や構造的

な弱線などの影響により不安定な箇所も認められる。

斜面崩壊は 2つの地質の境界付近で発生しており、

地質の境界付近も注意を要する。 さらに、斜面の上では地震により井戸水が枯渇した

例も認められ、生活への影響も少なくないことが確

認された(写真―3)。

写真-2 斜面崩壊上部の亀裂・段差状況

写真-1 地震により発生した斜面崩壊

写真-3 地震により枯渇した井戸

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(7) 橋梁の被害

Opak river に東西にかかるDogorgan bridge(橋長約120m,2 車線,2 径間のトラス橋)の橋梁の支承およ

び取り付け部に被害が生じた.この橋には,両岸のアバットと中央の橋脚のすべてにおいて,同タイプ

のゴム支承が使用されていた.右岸側アバットのゴム支承には約 3cm の残留変形が認められた.また,

ゴム支承上端とデッキとの間には約 7cmのずれを生じた.橋脚および左岸のアバットにおける支承被害

は,軽微であった. (8) 震央付近の被害状況 (Dlingo=S7deg.56.209min., E110deg.27.836min.)

USGS によれば,震源はS7.962deg., E110.458deg.,深さは 10kmである

(http://earthquake.usgs.gov/eqcenter/eqinthenews/2006/usneb6/).震央から約10 km離れたBantulの被害激甚地区に

ついて,今回,大きく被害が報道されたが,より震央に近い村々についての報告は皆無である.そこで,

Dlingo(震央距離=約 3km)において現地調査を行った. 写真は,Dlingo の町並みである.Buntul に比べて明らかに被害が少ない.詳しい地盤情報はまだ入手

できていないが,Dlingoは山地に位置し,地盤は比較的良いものと思われる.どのような地震であった

かインタビューしたところ,やはり,突然の「ドーン」という揺れであり,上下動を大きく感じたとい

う震源直上でよく聞かれる感想が多かった. Dlingo から西へ向かい,Mangunan,Girirejo あたりになると,被害の程度が大きくなったが,それで

もせいぜい,30%程度の家屋倒壊率であった.さらに西へ向かうと平地になり,Imogori へ到達すると,

明らかに被害の程度が大きくなったことが認められた.

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7. 現地調査まとめ 現地調査実施前の入手情報、関係機関訪問によるインタビューと入手情報、現地調査による視察とイ

ンタビューなどの調査結果は以下のようにまとめられる。 【地震被害全体の傾向】 (1) 家屋被害、建物被害が多いが、道路・橋梁・鉄道の被害はあっても軽微であり、全体としては無き

に等しい。また、液状化・地盤沈下などの地盤変状はほとんど確認されなかった。 (2) 震源から約 20km以上離れたジョグジャカルタ市内では、被害はほとんど無いとの事前情報であっ

たが、大規模なRC構造物の被害、集中的な被害地域の存在などが確認された。 (3) 電気は被害の大きな地域で1週間から 10 日程度で復旧した。また、ジョグジャカルタ市内以外で

は水を井戸に頼っており、地震後も水が欠乏すること無かった。被災地のほとんどで農業や畜産業

を生活基盤としており、食糧が不足することはなかった。また、田畑や畜舎の被害が大きくはなか

ったために、生活の再建には家屋の建築が行われれば比較的容易であると考えられる。 【家屋被害】 (4) 家屋被害の大半はレンガ造の平屋家屋であり、それらは隣組(RT:エルテー)の人々によって建

造されている。 (5) レンガ造の平屋家屋におけるモルタルは「未固結砂岩」と表現できそうな、手のひらや指先で強く

握っただけでぼろぼろと崩れる程度にもろい。セメント量の極めて少ない材料と思われる。 (6) レンガ造でも、2 階建て家屋の被害は少なく、被害率も低いと思われる。被害があっても、主要構

造となっているRCの梁・柱の損傷は少なく、レンガ造の壁の被害が多い。 (7) 被害のほとんど無いジョグジャカルタ市内でも、RC 造骨組みと組積造壁を組み合わせた大規模構

造物の被害が多く見られた。(私立大学、公共機関庁舎) (8) 木の骨組みと竹造りの壁の家屋は、レンガ造りの被害率が極めて高いところでも被害が少ない。明

らかに、壁自身の慣性力と強度の違いによると考えられる。 (9) 木+竹の造りの家の耐震性が高いことは住民自身に認識されているようだが、安いこと、貧乏と見

られること、エアコンが入れられないことから、再建も同じレンガ造によっている。 (10) レンガ造家屋のモルタルには家屋ごと、または組ごとのばらつきが非常に大きいと感じられた。脆

さの程度には差があるようである。住民へのインタビューと会話によれば、「セメント量を倍にす

れば格段に強くなる」との説明にも、「セメントは高いからあまり使えない」との回答が帰ってく

る。貧しい農民などでも、「かっこよさ」からレンガ造とし、切りつめられる(と考えているらし

Dlingoの民家(比較的被害が小さい)

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い)セメント量を少なくするという行動形態が想像される。 (11) 山際の低地の集落で被害が多い場合でも、少し高いところは被害が少なくなり、ずっと高くなると

さらに被害は見られなくなる。これらは、おおむね第四紀の火山噴出物堆積物、第三紀の堆積物、

鮮新統に対応するようである。 (12) 遠地地震波からインバージョンによって推定された地震断層の位置と形状、あるいは、既に知られ

ている断層(Imogiri断層、またはOpak 断層)の西側の範囲に被害が集中していることが、はじめ

は衛星写真による推定から、後に現地調査によってもそれが確認されたように伝えられたが、UGM(University of Gaja Madah:ガジャマダ大学)の調査結果によれば、Klaten 郡でも 3 つの県で被害

が集中的に発生していることがわかった。我々の調査でもそれが確認された。これは、推定地震断

層との相対的な位置関係からディレクティビティー効果である可能性が高い。 (13) 過去の被害地震における経験や、観測された地震動の大きさから、液状化が生じるものと考えられ

るが、我々はジョグジャ市内のある庁舎敷地内で1箇所以外は確認できなかった。UGMによれば、

ジョグジャカルタ空港の滑走路や移動路の周辺で確認している。また、UGM によれば、住民の情

報として、水田から噴砂・噴水があったとか、井戸が泥で埋まったとか、液状化の発生を想起させ

る情報が少なからずあるが、我々の調査では、液状化によると思われる被害は発見できなかった。 (14)14 戸の家屋が建つ南西向き傾斜地で大規模な斜面崩壊が発生したが,早朝にもかかわらず全員起床

していたため、幸い,死者は 0 であった.特に,この場所で崩壊が起こった理由についてはわから

ないが,我々の調査で付近に水みちを確認しており,これとの因果関係が考えられる.2 次災害を

防ぐため,崩壊土塊の撤去および斜面下側集落の避難勧告が必要である. 8.ジョグジャカルタにおける地震防災上の今後の課題 今回の地震による典型的な被害形態は、農村部では耐震性の極めて低いレンガ組積造家屋の崩壊とそ

れによる人的被害であり、ジョグジャカルタ市内では公共機関庁舎を含む比較的大規模な RC 建築物の

被害である。 (1) 地震被害のゾーニングと防災マップの作成 ジョグジャカルタ市内で被害を受けた構造物は市内に点在している。このことより、地震動が地盤特

性の影響により比較的狭い地域内でも異なっており、地震動特性と構造物の振動特性の関係によってあ

る振動特性を有する構造物が選択的に被害を受けたものと推察され、このことは本調査隊による地盤の

微動測定によってもある程度裏付けられている。地震動のデータと地盤特性の分布に関する資料を収集

し、当該地域での地盤の振動特性と建物被害との関係を明らかにするとともに、地盤の振動特性を考慮

した防災マップを作成すれば、この地域で想定される海洋プレート型巨大地震に対する防災計画立案の

ための重要な資料となる。 (2) 家屋の耐震化および耐震補強 今回の地震の犠牲者や負傷者の大部分は農村部におけるレンガ組積造家屋の崩壊によるものである。

農村部の一般家庭の所得は低く、かつこの地域では RT の協力等によって素人が家屋を建築するのが一

般的である。そのため、特段の技術力を要せず、かつきわめて安価に建築でき、かつ一定の耐震性を有

する家屋の建築技術、あるいは既存家屋の補強技術を導入し普及させる必要がある。地震により崩壊し

た家屋の跡地には同じ形式の家屋が再構築されはじめているため、早急に行う必要がある。

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(3) 学校の耐震化 学校や診療所(地域に根付いた小さな診療所が数多くある)も一般家屋と同様にレンガ壁の脆弱な作

りであるため、家屋と同様の被害を受けている。地震発生が早朝ではなく昼間であったなら、多数の子

供が学校で建物崩壊により犠牲になったであろうと考えられる。また地域診療所は初期救急医療の拠点

であり、地域診療所建物及び学校建物の耐震化を防災教育と併せて進めることが重要である。 (4)防災教育 防災教育については、小学校の校長にヒアリングしたところ、地震発生のメカニズムそのものを知ら

なかったとの発言があった。また机の下に逃げ込むなどの教育も行われていない。地震防災についての

教育を、教育者のレベルから進めることが重要である。 (5) 震災廃棄物の処理と地下水環境の保全 今回の地震により多数の家屋が倒壊し、それによって大量の廃棄物が発生した。その大半はレンガな

どの建築部材であるが、電化製品なども含まれている。激しく被災した農村地帯のほとんどで、生活水

を井戸に頼っており、地下水環境の保全は地域住民の生命線となっている。農村部では震災廃棄物によ

る地下水環境の悪化を防ぐと共に、生活排水設備を整備することが、水道の整備と並んで、あるいはそ

れよりも優先されるべき重要な課題である。 9.その他 レンガ積壁構造は、インドやネパール、カザフスタンなど東南アジアや中央アジアの国々で広く用い

られている。建物のレンガおよび目地材の強度と被災率、地震動強さの関係を調査することにより、同

様の構造を有する他国の家屋の耐震性を推定するための有力な情報となるものと考えられる。 10.日本と四国の地震災害に関する教訓 今回の災害の一番の特徴は、通常規模の地震で、ある程度、周期的におこるものであるにもかかわら

ず、大きな被害が発生したことにある。 ここには様々な、通常対応すべき耐震設計と施工管理、災害の事前対応、防災教育などがしっかり行わ

れていれば、このような規模の被害は出なかったであろうという大きな教訓がある。 さらにこれらを踏まえた上で、被災の状況と、現地の復興の状況をみて、今回の災害を、日本と四国

の地震災害に関する教訓としてとらえると下記のような点が挙げられる。

(1) 復旧に向けての自助、共助体制の確立 現地では政府レベルでの復旧作業と援助が決定的に遅れており、様々な問題を抱えている。一方で、

地域住民の方々はたくましく自立での復興を着々と進めており、配布されたテントを、崩壊した自宅の

前に建てて復興生活を送っている。 これからインドネシア政府は各戸に補助金を支給して、自力で家を建てさせるという援助をするよう

でるが、そこには復興への強い自助、共助体制が見られる。 一方で、日本、特に四国は、高齢化の問題、中山間地での過疎化の問題があって、この自主復興的な

面に大きな問題を抱えているといえる。自助、共助体制の確保と、それを踏まえた的確な災害復旧援助

の体制確保が必要である。 (2) 大学の復旧活動への積極的な貢献

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この復旧に向けて大きな役割を担おうとしているのがガジャマダ大学である。家の建て直しの際に(建

て直しといっても、各人がレンガを積んで作ってしまうもの)、その際に耐震面での技術的な指導をする、

というようなとりくみが展開される。集落再生についても指導をするということで、防災を踏まえた集

落再編、家の耐震化に、地域の大学が大きな貢献をする。 (3) リアルタイム災害情報の積極的な発信と共有 被災地では圏内の人的被害・家屋被害をはじめ,学校や病院をはじめ公共機関の被害について,その

概要から個々の被災情報まできめ細かく発信するとともに,被災地にある国立ガジャマダ大学では県と

連携してGIS による被害情報の入力・管理・限定公開に重要な役割を担っていた.IT化が一般にまで十

分普及していないインドネシアでも,このような情報の発信と共有がなされていたことは学ぶべきこと

である.IT化が進んだ日本では,情報管理と共有のための公開の意義は比肩しようもなく大きい. (4) 医療トラウマ対策 緊急医療としての各国の援助は終了して、自衛隊も帰ってきているが、現地ではトラウマ対策の問題

が残っている。この点に焦点をすえての緊急医療対策が必要で、これは組織的な対応を含めて、大きな

教訓である。 (5) 教育分野の復旧援助と貢献 今回の災害では公共施設としての学校の被害が大きかったわけで、JICA の緊急援助でも学校の建設が

メニューとして柱になっているが、これがまったく足らない状態である。たぶん教育現場ではもっと様々

な問題を抱えているわけだが、これまでの情報と、今回の調査では、十分な情報を得ていない。 日本では、学校等は避難所として指定されているところが多いが、こういった災害時に機能させる防

災インフラは絶対に壊れてはならないという設計思想が必要である、というのが、大きな教訓として位

置づけられる。 防災教育についての取り組みを小中学校、大学、地域の連携で一層進めていくことが重要である。 (6) 災害との共存にかかる先人の知恵の継承 今回の災害では、古いタイプの竹の家が壊れずに、新しいタイプのレンガの家が全壊した。これらは 50年間におこった前の地震災害のあとから出てきた構造で、ここ 50 年で一気に広まったものだが、今回の

地震ではじめて地震の洗礼を受けたものである。昔からの形式の家が、先人の知恵が詰まった、災害に

強い構造であることがわかったということで、これを如何に継承してゆくか、というのが大きな教訓で

あるといえる。