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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/ >> 松山東雲女子大学 - Matsuyama Shinonome College This document is downloaded at: 2018-05-18 13:23:41 Title 研究ノート:視覚刺激により生起される随伴性陰性変動 (CNV)の振る舞いについて-SD法への移行についての研究 ノート- Author(s) 高橋, 圭三 Citation 松山東雲女子大学人文科学部紀要. vol.20, no., p.155-175 Issue Date 2012-03-15 URL http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/1675 Rights Note

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Title研究ノート:視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて-SD法への移行についての研究ノート-

Author(s) 高橋, 圭三

Citation 松山東雲女子大学人文科学部紀要. vol.20, no., p.155-175

Issue Date 2012-03-15

URL http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/1675

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Note

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松山東雲女子大学人文科学部紀要,20:155‐175,2012

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

―SD法への移行についての研究ノート―

Comparison of CNV(Contingent Negative Variation)Using Visual Stimuli:

Study Notes for the Transition to the SD Method

高 橋 圭 三Keizo TAKAHASHI

(心理子ども学科)

要 約

この研究ノートは PDD(広汎性発達障害)のある人達の脳内部の情報処理に関するものである。従来の

実験の CNV(随伴性陰性電位)分析では、多くのアーチファクトの混入があった。ここではそれを低減す

る実験デザインの工夫について記述しておく。

近年その工夫として、ERP測定では従来のアナログ脳波計に代わりデジタル脳波計が使われるようになっ

てきた。アナログ脳波計を使う ERPの測定では脳波に混入するアーチファクトを低減することが最初の大

きな課題であった。それに対して、デジタル脳波計ではリファレンスシステムと Z電極を設定することで

実験者はアーチファクトを低減することが可能になった。

そこで、今回はデジタル脳波計を使用して、かつての視覚刺激を使った実験を再検討した。しかし視覚

刺激を使っているので被験者の前頭葉周辺に EOGが混入し、EOGのない脳波分析に必要なデータを得る

ことは不可能であった。ひとつの解決方法として、統計的な技術の主要因分析があるが、オフラインで数

学的に引き算された波形は ERPの正確な潜時や電圧を表しているのかその判断は難しいといえる。そこで

次の研究では SD法を採用することとした。

[Abstract]This study looks at the information processing of the brain in people with PDD (pervasive developmental

disorder). Because previous experiments produced inconclusive results, this paper outlines the design of a new

experiment that will more accurately analyze CNV (contingent negative variation). The methods to be used to

reduce artifactual noise and mathematically eliminate EOG (electrooculography) are also discussed.

Recently, the digital electroencephalograph has come to replace the conventional analog electroencephalograph

in ERP (event related brain potential) measurement. In the past, the first major problem confronting an experimenter

measuring ERP, with an analog electroencephalograph, was the large amounts of artifactual noise mixed with

the brain waves. The new experiment design, using the digital electroencephalograph, reduces artifactual noise

by setting the reference system and Z electrode.

―155―

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�.はじめに

1.大脳誘発電位

脳の電気活動について Brazier� は3つの要素があるとしている。第1に mV単位で計測され、ほ

とんど変化の見られない安定した stationary potentialという電位 Aが基本にある。これは皮質表面

とその下の白質間にある恒常的な電位差である。第2にそれに重畳して0.5Hz以下の周波数で50μV~

数 mVの緩徐な電位変動の slowly changing potentialと呼ばれる電位Bがある。これはBrazierによ

ると生体の内外環境の変化に応じて、神経インパルスが惹起する電位変動であるとしている。この

2つの電位は通常、直流電流(direct current potential)あるいは定常電位(steady potential)と呼

ばれている。第3に0.5Hz以上の周波数をもち、μV単位で計測される脳の電気的振動の電位として

の電位 Cがある。

これらの3つの電位の複合したもの電位 Dが頭皮に装着した電極から導出される。これらの重畳

した電位のうち電位 A・Bを除いた波形の電位 Cを脳波と呼んでいる。また、誘発電位において電

位Aは刺激呈示前の100ms程度の各チャンネル平均電位を基準電位とするので、加算された電位には

基本的に0μVとして記録される。さらに、電位 Cに関してはランダムに出力されるので数十回の

加算を繰り返すことにより、導出された電位が限りなくお互いに相殺され、これも0μVに近似して

いく。誘発電位はそのような手続きにより電位 Bを浮き彫りにしたものである。そのようにして導

出し、加算され浮き彫りになった電位 Dについて示した脳の電気現象の模式図を Fig.1に示す。

Fig.1 電気現象の模式図

All the experiments discussed in this study use visual stimuli. Because it is impossible to avoid EOG

in the frontal lobe when using a visual stimulus, a method to subtract EOG from brain wave data needs to

be applied. One method is statistical technical main factor analysis. Using this method, it is difficult to conclude

whether the wave pattern subtracted offline, mathematically expresses accurately the latency and voltage of

ERP. Therefore, the new experiment design will use the SD (source derivation) method.

高 橋 圭 三

―156―

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事象関連電位(以下 ERP: event related brain potential)を入戸野� は客観的に定義できる事象

に対する時間的に関連した電位であるとしている。ERPの具体的な測定手順としてよく使われるパ

ラダイムにオドボール課題(oddball task)がある。これは単純な弁別課題であり、同じ刺激が何度

も繰り返される時系列の中に時々(概ね20%頻度)でランダムに呈示される刺激を(回数を数える

など)弁別する課題である。そうして測定した脳波を80%の背景刺激(standard stimulus)と20%の

標的刺激(target stimulus)に分けて加算する。加算は刺激呈示時点前100msから刺激呈示時点まで

の各チャンネルの平均電位を基準電位として刺激呈示時点をトリガとして加算する。そうすること

により、ランダムに現れる背景脳波の電位はお互いに相殺され、加算回数に応じて限りなく0電位

(0μV)に近似する。そこに現れる電位波形は入戸野の言うように刺激事象に時間的に関連した電

位として観察される。Fig.2は入戸野より引用。

Fig.2 音刺激オドボール課題でのERP測定と加算平均

Fig.3では後に示す予備実験で行った Czにおける標的刺激に対する脳電位反応と非標的刺激に対

する脳電位反応の30試行分の重畳波形を示す。

Fig.3 予備実験Czでの重畳波形

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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この予備実験は上記した聴覚刺激とは異なり、2つの文字の弁別を行う視覚刺激を使ったもので

ある。そして、予備実験では上記の聴覚刺激で使ったようなオドボールパラダイム(20‐80)ではな

く、標的50%非標的50%の等率の刺激頻度(50‐50)で文字の異同弁別を行う課題として行った。時

系列で示されるふたつの文字刺激、つまり最初に呈示される予告刺激 S1の文字と2番目に呈示され

る命令刺激 S2の文字が同じならばボタンを押す、違っていればボタンを押さない課題として脳電位

を測定した。

このように、外部からの刺激に対する生体内の反応として事象関連電位の振る舞いを観察するこ

とで外部からの反応や生体特有の情報処理の内的過程を高い時間的解像度によって観察することが

できる。

2.CNV

外界からの刺激に対して誘発される脳電位を加算した ERPのうち、対となった二つの刺激の間で

第2の刺激に先行して第1の刺激に誘発され、予期や注意等の生体の内的過程を反映した内因性成

分である陰性緩電位変動(CNV: contingent negative variation)がある。CNVは対(予告刺激 S

1と命令刺激 S2)になった刺激を一定間隔で呈示し、S2呈示を合図にボタン押し課題などのパラ

ダイムにより観測される。そしてこの CNVは S1から S2にかけて緩やかに増幅する陰性電位とし

て観察される。しかも、CNVは前頭中心部優位に出現する電位である。この電位変動は特異な心理

過程を究明する手段として多くの研究が報告されてきている。

CNVを発見したWalterら�(1964)は CNVについて第2刺激への期待を表すとし、また Tecce�

(1972)は予期的な注意に関連するとしている。近年、投石ら�(1984)の研究で CNVは初期 CNV

成分と後期 CNV成分の二つがあることが分かってきた。初期 CNV成分は S1に対して Fz優位に

惹起され、刺激の種類に特異的な分布を示す。そのため、S1による初期 CNV成分は第1次・第2

次皮質野の賦活を反映するといわれている。また、後期 CNVは S2に対して S2刺激前1000msから

S2にかけて Cz優位に出現し S2の情報に対する期待を反映する電位と、運動反応に対する運動関

連電位の準備電位に似た成分を含んでいると考えられる。

また、動機付けや覚醒水準が高いと CNVの振幅増大が見られ、慣れや注意散乱、疲労や課題以外

の精神活動、それに刺激間隔が不安定であることによって CNVが低下することが先行研究で指摘さ

れている。さらに、玄番�らは平均反応時間に関して予告刺激である S1があるのと無い条件で命令

刺激の S2を呈示すると S1があることによって S2に対する反応時間が短縮されるプライム効果が

あると報告している。

3.3つの窓課題

自閉症の情報処理の様子について O'Connor & Hermelin�(1972)は3つの開き口のある呈示箱か

ら連続してランダムな位置関係で視覚的に3つの数字を呈示し被験者にその数字を答えてもらう実

験を行った。被験者は統制群、自閉症児群、聾児群の3群で比較した。3つの数字を記憶し、その

3桁の数字を答える課題では統制群の殆どは時間的配列順で答えたのに対して、自閉症児群と聾児

高 橋 圭 三

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群の殆どは空間的に配列された順に記憶を再生した。

この実験において O'Connor & Hermelinは自閉症児の情報処理は発達の初期に音声言語の影響を

受け難い世界で育ったため聾児と同様に時間的処理ではなく、一枚の映像として空間的配列を優先

する情報処理をすると報告している。しかし、このことは自閉児群や聾児群に限定された処理方略

ではない。50名程度の健常群の大学生を対象にこの「3つの窓課題」について3つの数字を紙面に

書くことで記憶の再生課題を行うと、再生方法の違った3種のグループが存在する。ひとつの群は

O'Connor & Hermelinの指摘のように多くの学生は時間的配列に沿って記憶を再生記述する。次の

群は空間的配列に沿って記憶を紙面に記述する。そして最後の群は、時間的配列で紙面に数字を記

入しながら、同時に空間配列をも正確に再現する群の3つの群がある。健常群においてこれらの3

群が存在する事実は脳の先天的にもっている機能に依存した結果なのか、それとも彼らの日常生活

の中から様々な経験をとおして優先的に使われるようになった処理の結果なのかは判別できない。

本研究ノートではこのコントロール群間での情報処理の様子の違いが入力された刺激に賦活され

る初期 CNVの振る舞いに違いを与えるものか、無関連であるのかを調べる。そして、空間的配列に

沿った処理を行う群の NA電位(刺激の符号化と記憶探索を表す電位)や CNVの振る舞いの様子か

ら自閉症群の処理方法がコントロール群の振る舞いと差が無ければ、O'Connor & Hermelinが指摘

するように、自閉症の彼らの情報処理は空間的配列に偏移した視覚情報の処理戦略を使っていると

いえる。NA電位は弁別反応課題(DRT: discriminative response task)の非標的反応加算電位から

単純反応課題(SRT: simple response task)の加算電位を引き算することで求められる。NA電位に

は2峰性の電位があり、前期成分は情報の符号化を表し、後期成分は記憶探索を表しているとされ

ている。また、記憶探索するべき標的の数に比例して後期成分の潜時が遅延するとされている。NA

電位の前期成分が符号化を表すのであれば、空間的配列によって入力された情報を処理している場

合、映像的、図形、記号のような情報として符号化するだろうと予想される。しかし、呈示する刺

激が文字を使用する関係で符号化処理の段階では音韻化することも考えられる。ただし、単純反応

課題においては文字刺激であるとはいえ、単に Goサインとしての意味しかないので音韻への符号化

はなされないであろうと考えられる。これらのことは符号化あるいは記憶探索が右脳左脳の電位差

となって観察される可能性をもっている。

NA電位や CNV電位の振舞い方の違いを中心に調べることによって、そのことと自閉症群の通常

とは異なるかもしれない情報処理の様子を解明していく。さらに従来の両耳朶連結を基準電極とす

る誘発電位の測定より空間的分解能に優れた SD法(source derivation method)を使った脳電位記

録によって情報処理に左右差があるのかどうかを比較する。そして、この SD法での測定についての

注意事項を研究ノートとして記録しておくことにする。

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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�.方法

1.被験者

自閉症はKanner�(1943)の11例の報告以来、男女比は男児に多いことが指摘されている。O'Connor

& Hermelinの「3つの窓課題」での結果や Baron-Cohen�(2003)の指摘する自閉症の男性脳的情報

処理の特性は、性差についてバイアスのかかった情報処理システムなのか、それとも単に個体の脳

内情報処理システム(時系列処理優先か空間配列処理優先あるいはその混合処理)に依存するのか

が特定できない。それを回避するため女子大生の被験者に限定して「3つの窓課題」での時系列処

理優先(PTP: priority of the time processing)群、空間処理優先群(PSP: priority of the space

processing)、混合(BP: biprocessing)群の3群を抽出し、その3群を比較検討する。予備実験とし

て両方の処理を同時に行う BP群を除き、PTP群と PSP群の中から、それぞれ1名を抽出しその

ERP波形について検討を加える。

なお、予備実験女子大生が所属する大学は文系の女子大学ということもあり、圧倒的に PTP群が

多く(約80%)、次いで PSP群(約15%)、BP群(約5%)であった。

2.予備実験視覚刺激

刺激となる文字は混同する可能性の高いひらがなの「へ」カタカナの「ヘ」とひらがなの「り」

カタカナの「リ」を除きひらがな44文字とカタカナ44文字として Fig.4の様な図版を用いた。刺激

は時系列で「2つの窓課題」として呈示した。呈示時間は S1を200ms左の窓に呈示し、それに引き

続き200msのマスク図版(Fig.5)を呈示する。その後200ms右の窓に S2を呈示する時系列呈示の

方法で行った。なお、文字が呈示されていない S1以前と S1‐S2間、それに S2呈示以後にはマス

ク図版 Fig.5を呈示して、アイコニックメモリーの影響を抑制した。

Fig.4 予備実験で呈示した文字図版の例

Fig.5 予備実験で呈示したマスク図版

高 橋 圭 三

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また、各試行間(S2呈示終了後~S1呈示まで)は1600ms、1800ms、2000ms、2200msのランダ

ムインターバルを設定して S1呈示前に惹起される運動準備電位を含む後期 CNVを抑制するように

した。目の渇きなどによる瞬き反応をできる限り抑制できるようにモニターを1.5m斜め下30°に設定

した。そして、21インチ液晶モニター(Logitech製)上に背景をグレーとした画面上に黒で描画さ

れたマスク図版と文字図版を呈示した。1文字の大きさは75mm×75mm、視野角は左右4°以内にし

た。地は Color構造体で示される&H00606060&のグレーを使い、文字とマスクは&H00000000&の

黒の正方形(5×5ピクセル)により作成した。文字刺激とマスク図版を呈示する左右の窓の間隔

はそれぞれ40mmとした。

3.予備実験課題

予備実験課題は SRT「2つ目の文字が見えたらボタンを押す課題」と DRT「2つの文字が同じ

(音韻)ならばボタンを押す課題」とした。なお、DRTには S1・S2ともに「ひらがな」を呈示

する物理照合課題と、S1・S2でランダムに「ひらがな」と「カタカナ」が入れ替わる名称照合課

題を設定した。SRT・DRTともに1ブロック40試行として、4試行をひとつの単位として4種類の

インターバルをランダムに配列した。また、1ブロック中の同じ窓に同じ文字刺激そしてインター

バルが連続しないように刺激系列をプログラムした。ERPの中でも CNV等は慣れの効果から低電

位になる可能性が高いので、各ブロックの呈示順序は系列による慣れの効果を抑制するため次の様

な呈示順序(ABBAデザイン)で行った。つまり、1実験シリーズの中で系列位置が中央の試行で

その前後が対称になるようにした。そして加算方法は SRT1で得られたデータから15試行加算をし、

同様に最後の SRT5から15試行加算をしたものを合算することとした。そうすることで、SRT・DRT

ともに慣れなどによる系列位置効果が相殺されることとなる。

SRT1→DRT(物)1→SRT2→DRT(名)1→SRT3→DRT(名)2→SRT4→DRT(物)2→SRT5

SRT1+SRT5:単純反応課題(ひらがなどおし)

SRT2+SRT4:単純反応課題(ひらがな+カタカナ)

DRT(物)1+DRT(物)2:弁別反応課題(ひらがなどおし)

DRT(名)1+DRT(名)2:(ひらがな+カタカナ)

ERP測定では各ブロック間に20~30秒の休憩を設定した。なお、それぞれのブロックは全て120秒

以内に終了するようにプログラムした。文字刺激呈示プログラムの作成については画像を1/1000秒

単位で表示できるMacromedia製 Director Ver.8によって作成した。この ERP測定の刺激呈示では

画像の表示に関してはミリ秒単位の画像表示が要求される。PCのオンボードグラフィックカードで

はその処理速度に限界があるので、画像呈示の処理に関してはNVIDIA社製GeForce9800GTをグラ

フィックカードに使い PCIスロットルに挿入して使用し、ミリ秒単位で表示される刺激呈示につい

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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て時間的な正確さを求めた。

4.予備実験測定

予備実験の測定場所は外部の騒音が無視でき、気温の影響等により発汗による基線の揺れを防止

できるエアコンの稼働可能な部屋で行った。さらに、室内照明を落とし画面に集中できる状況で測

定を行った。被験者は机を間に置きコンピュータ画面の全面1.5mの位置の椅子に腰かけ誘発電位を

測定した。

EEGは両耳朶連結を基準電極として国際式10‐20法に基づいて前部(Fz、F3、F4)、中心部(Cz、

C3、C4)、頭頂部(Pz、P3、P4)を活性電極として単極導出した。同時に瞬きを含む垂直左右方

向の眼球運動(EOG: electrooculograms)と、行動指標としてのボタン押し反応時間(Res)、刺激

呈示時点のトリガ信号(Tri)も記録した。また、近年のデジタル脳波計で使われる単極導出ニュー

トラル電極(Z)を Fp1と Fp2の中間に設定し、システムリファレンスを中心部(C3、C4)に

設定して測定した。

生体信号はデジタル脳波計 EEG1100(日本光電製)を用い USBメモリに保存した。なお、サン

プリングクロックは200Hz(5ms)とし、時定数0.3秒、Hi Cut Filter=30Hzで記録した。実験の

前後にキャリブレーション信号を1分間ほど記録し、その平均値をオフラインのデータの電圧校正

に利用した。

5.データ処理

処理はオフラインで行い、加算処理前に実験前後に記録した50μVのキャリブレーション信号の平

均値から各チャンネルが同じ電圧値の表示になる係数を求め、チャンネルごとに全てのデータ電圧

を校正した。電圧校正したデータを1試行の約2秒間についての400サンプリングポイントについて

分析をした。加算方法は刺激前50msから S1の刺激後350msまでを30回(15×2試行)加算した。

さらに、移動平均プログラムにより作成した hi cut filter30Hz、lo cut filter 1Hzのバイパスフィ

ルタをかけることでアーチファクトの低減をした。フィルタのサンプル数を求める移動平均プログ

ラムは次に示した式で求めることができる。

なお、lo cut filter 1Hzに関しては同様の公式を使い hi cut filter 1Hzのフィルタを通し残っ

た電位を lo cut filter 1Hzとしてデータより引き算をすることによって lo cut filterとすることと

した。

移動平均プログラム

Hi Cut Filter

サンプル数=0.443×サンプリング周波数÷遮断周波数

加算はコンピュータプログラム上で S1呈示前50msから S1呈示までの平均電位を基線とし、脳

波については各チャンネルの基線から85μV以上の電位差がある場合にはアーチファクト混入があっ

たとして加算から除外した。また、EOGは100μVで瞬目があったとして除外し、誤反応試行につい

高 橋 圭 三

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てもコンピュータで自動的に除外できる加算プログラムを作成し加算処理を行った。

6.予備実験データ比較

PTPと PSPの情報処理特性をもつ2人の女性被験者のデータについて Fz、Cz、Pz、F3、F

4、C3、C4、P3、P4の9か所の電位を比較した。加算した電位は SRTと DRTの S1と S2

についてそれぞれ別々に加算を行いその目視比較を行った。

SRTの S1に対する ERPについて、-50ms~刺激呈示後350msの計400msの区間についての加算

処理をしたグラフを Fig.6に示す。SRTでは単純反応を行う課題であるにも関わらず、PSP被験者

においては外因性 S1に対する初期CNVのパワー(-電位面積)が前部左により多くみられた。PTP

被験者は S1に惹起される CNVは Fzで200~250msと F4の150~200msに頂点潜時が見られるが、

それ以外では低電位で、ほとんど見られない。むしろ、陽性緩電位変動(CPV: contingent positive

variation)となっている。S1に関する視覚性 N100に関しては両者ともに右優位であり、CNVは左

優位である。しかも、PSP被験者の方が PTP被験者よりも、前部あるいは左半球優位(Fz、F3、

C3、P3:図には F3、F4を表示している)によりパワーのある初期 CNVが観察された。また、

両者は文字刺激にも関わらず SRTの S1についての N100は前頭部で右半球が左半球よりも高電位

に観測されている。SRTの S1処理では電位差はあるものの、両者ともに前部を中心に左半球での

CNV相当潜時での電位が右半球よりも優位となっている。

これらのことは個人の特性なのかそれとも情報処理システムの違いによるものなのかについて言

及することはできない。しかしながら、明らかに行動指標において処理方略の違いのある2事例に

ついて比較すると、SRT課題において外因性 S1により誘発される視覚性N100は右優位に観察され、

S1によって惹起される内因性成分の初期 CNVは左優位に観察されるという共通性をもつ。しかし、

PTP被験者に観察された F4で頂点潜時150~200msに見られる右優位の電位は PSP被験者ではそ

の形成が遅延し、しかも低電位であった。反面、PSP被験者の CNV形成は PTP被験者より電位差

で判断するならばより大きなパワー(面積)をもっていることが観察された。

また、Fukuda & Matsunaga�は聴覚刺激を使い S1を予告刺激、S2を弁別刺激、S3を反応命令

刺激とした S1‐S2‐S3パラダイムで瞬目発生の様子を報告している。このパラダイムは聴覚刺激

であるにもかかわらず、S1、S2、S3の刺激呈示について、刺激呈示直前まで瞬目発生は抑制さ

れ、刺激呈示と同時に瞬目が発生し、次の刺激呈示に向かいまた瞬目が抑制されることを報告して

いる。視覚刺激についても虚偽検出課題において、福田と松尾�は呈示されたカードが消失する前後

で瞬目が群発することを報告している。また、S2刺激について、キー押し反応を伴う S1‐S2の2

連発刺激の S2に対して Baumstimler & Parrot� も運動反応が瞬目群発を誘発したことを明らかに

している。

CNVの測定について、以上のように瞬目に関連する報告から、ERP上に EOGの混入が避けられ

ないと考えられる。CNVのピーク潜時や電位あるいはそのパワー(面積)を比較するには EOG

の混入のより少ないデータを比較する必要がある。教示により、ある程度の EOG混入の提言は可能

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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Fig.6 SRTの S1について PTPと PSPの被験者比較(1目盛=Y軸10μV・X軸50ms)

Fig.7 DRTの S1について PTPと PSPの被験者比較(1目盛=Y軸10μV・X軸50ms)

高 橋 圭 三

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であるかもしれないが、個人差が出やすくより正確なデータとは言い難いものになる可能性がある。

しかし、自作作成した加算ソフトでは加算する際に EOGのチャンネルに100μV以上が記録されて

いる試行に関しては自動的に加算から除外される。ただし、呈示する文字刺激は4°の視野角をもっ

ているので左右の眼球の微細な眼球筋の電位が ERP上に反映されるかもしれない可能性が考えられ

る。

SRT同様に DRTの S1に惹起される ERPを Fig.7に示す。Fig.6の SRTと大きく異なるとこ

ろは PTP被験者の F3でよりパワーのある初期 CNVが観察されたこと。PSP被験者では CNV

の加算最終電位(トリガ後350ms)について SRTと DRTで比較すると次の様なことがいえる。SRT

では S1刺激後350msの電位は左優位であったのに対して、弁別課題である DRTでの S1刺激後350

msの電位は右が優位に変化している。PSP被験者では SRTと DRTで S1処理に関してその初期

CNVの電位差が左右逆転していることが目視できる。DRT課題でPSP被験者はO'Connor & Hermelin

の指摘のように映像的情報処理をする結果 F4の電位が F3より、さらに PTP被験者の F4より高

電位であるのかもしれない。このことは Control群の中の PSPでは DRTでの課題処理に関してよ

り右脳に偏移した処理が行われていると考えられる。ただし、行動指標で分けたふたつのグループ

より1名ずつの被験者なので行動

指標に随伴した結果であるとは断

言できない。より多くの被験者か

らデータを収集する必要がある。

Control群の SRTについての S

2刺激による弁別処理について加

算をした結果が Fig.8である。ボ

タン押しの平均反応時間はS2呈示

後、それぞれ PTP被験者369ms

と PST被験者386msであった。

PTP、PST共にグラフに示してい

る範囲はボタン押し反応前の電位

を示している。しかし、2つの窓

課題の特性上、瞬き反応は加算か

らキャンセルしているものの、両

者の加算したERPには左右の窓に

視点を移動するための低電位EOG

が混入している可能性がある。そ

のため、S2に対する電位の頂点潜

時は不明瞭になったと考えること

Fig.8 SRTの S2について PTPと PSPの被験者比較(1目盛=Y軸10μV・X軸50ms)

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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もできる。なお、ここで観察された EOG波形は眼球視点が左右に動いたものを反映しているのか、

それとも前頭部の電位が EOG上に反映したものかについて明言することはできない。もし、EOG

が前頭部に混入したとしても、その混入の比率は個々人の頭皮上の抵抗値の差から一定の値となら

ないようである。

本予備実験での2つの窓課題のERP測定に関しては従来の導出方法と違ったより電極周辺部のアー

チファクトが混入しない導出方法が求められる。なお、Fig.8の EOG-Fzに関しては EOGチャン

ネルの電圧が高いため縦軸をアッパーマイナス60μVで表示している。Fig.8の2段以下(Fz、Cz、

Pz、F3、F4)についての ERPは EOGチャンネル電位の±反転したものが前頭部により高い比率

で重なって観測されている。玄番らが指摘しているように SRTにおいて S1があることにより S

2に対する N100の頂点潜時は両者ともにプライム効果がみられる。しかし、それ以後のピークに関

しては EOGチャンネル電位の混入のため比較することは難しい。しかし、この EOGチャンネルの

電位は純粋に左右の窓について視点の動きに関する眼球運動を反映したEOGであるのか、それとも、

F3、F4、Fzの ERP電位が逆に反映したものかにつては議論する余地がある。

同様に DRTの S2についても加算を行ったものを Fig.9に示した。SRTの S2加算同様に EOG

-Fzのグラフのみ±60μVで示し

ている。PSP被験者は右優位と考

えていたが、予想とは裏腹にPTP

被験者が右半球でのパワーが強く、

PSP被験者は左右ほぼ均等なパワー

で処理が行われている。しかし、

EOGがどれくらいの割合で混入し

ているかは定かではないが PSP

被験者の左右のパワーはPTP被験

者のパワーに優っていることは間

違いがないようである。

SRT、DRT両課題のPTP、PST

である個人にともにいえることは、

前頭部から導出されたERP波形と

EOGチャンネルから導出した波形

が相似していることである。

以上のことから S2についての

CNV初期成分の分析はより EOG

混入の少ない環境、あるいは実験

デザインを再度計画する必要があ

Fig.9 DRTの S2について PTPと PSPの被験者比較(1目盛=Y軸10μV・X軸50ms)

高 橋 圭 三

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る。近年、ERP以外のアーチファ

クトを除外する方法として主要因

分析を行い、EOGを特定し、加算

された ERPからEOG成分を引き

算する方法が取られている。しか

しながら、特定されたEOGにして

も前頭部のERP成分が重なってい

ることを否定することはできない。

この予備実験で得られたEOGチャ

ンネルの電位成分が主として何を

表しているかを解明する必要があ

る。

7.EOG混入について

個々の被験者によって頭皮のイ

ンピーダンスに違いがあり、各電

極にどの程度のEOGが混入するか

は共通の電圧変換比率を求めるこ

とは困難が予想される。一般的に

電圧は電極の距離の2乗に反比例

する様相を呈する。しかしながら、

個人内の頭皮上の脂肪厚や実験途

中での発汗による抵抗値の変化な

ど様々な要因によって各電極に混

入するEOGは個人間での差異や個

人内でも時間的経過による変化が

あり精密な電圧変換比率を求める

ことは難しい。次に同じ課題条件で測定した S2刺激に対する反応に見られた2人の被験者の EOG

と Fzの比較を Fig.10に示す。

ここでは、単純に目視レベルで EOGを引き算する際の減衰係数を直感的に当てはめ引き算を行っ

てみた。それぞれの減衰係数は図中に Xで示している。混入しているであろうと思われるEOGチャ

ンネル電位を引き算した Fzでの ERP電位についてみると、それらにはN100等の成分の痕跡もなく、

ERPとは言い難いものとなってしまった。電圧を4倍表示にすると ERP電位でなくなっているこ

とさらに明瞭に見て取れる。つまり、S2刺激に対する加算分析は如何に EOG電位を除外するかが

重要となる。反面、ERPとは言い難い波形から、EOGチャンネルには F3、F4、Fzの電位が混入

Fig.10 SRTの S2で EOGが Fz 電位に混入する様子(1目盛=Y軸10μV・X軸50ms)

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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している可能性も否定できない。

各被験者・各電極についてのそれぞれの EOG混入比率を求め(目視判別での係数を被験者Aは係

数=2.5、被験者 Bは係数=3)、EOG電位を各比率に応じて引き算した Fz電位(Fz-EOG)を比

較することにより、さらに正確な Fzでのピーク潜時が鮮明に見えてくる。本実験の2つの窓課題で

は EOGに100μV以上の電位が観測された場合、瞬きがあったとして加算対象試行からキャンセル

した。それにもかかわらず、左右の窓に視点を移動するかすかな EOGが個人差はあるが各電極に混

入する可能性があることが分かった。しかも、各電極に混入する比率は個人・電極によって様々で

あり、電極ごとの一定の比率を算出することは不可能である。

従来の単極導出ではこのようにどうしても視覚誘発電位で視点が移動する課題においては EOG

の混入が避けられない。ピーク潜時は若干曖昧になるものの大まかな潜時は比較できる。しかし、

EOGが混入した時点でピーク電圧比較は意味がなくなる。さらに、EOGの電位に関しても、先に述

べたように Fzの電位が重なっている場合がある。各電極から導出される電位は複数の要素が重複し

たコンポーネントとして観測されるので EOGチャンネル電位に関しても純粋に EOGだけを導出し

たものではない。従来の単極導出では眼電位の割合を回帰分析等で求め脳波データから(眼電位×

回帰係数)を引き算によって求める試みがなされてきた(Brunia et al.��,1989)。が、得られた電

位が電極直下の電位を正確に反映するものであるとは言い難い。しかし、その波形形状から Fig.10

で示された EOG電位は可能性として前頭部で観測された ERPが混入した可能性が最も高いと思え

るが断定をすることは難しい。

8.SD法移行のために

従来の脳波測定では皮質で発生する脳波が頭皮上で計測される際に頭蓋骨の厚さの違いや眼窩の

ような穴など様々な電気抵抗の違いがあり、必ずしも脳波の電流は電極直下の脳電位を測定してい

るとはいえない。SD法は特定の部位の電極の測定する場合に、その周りの平均電位を基準とした一

種の平均基準電極法であるといえる。よって、深部の遠隔電場電位が抑制され波形の歪の少ない近

接電場電位の検出のみができる。

被験者についてはさらに多くの PTP群と PSP群、できれば BP群も含めた群間比較を行い、情

報処理の違いによって F3、F4、C3、C4、P3、P4でのコントロール群内での比較資料を収集

する。これらの情報処理の違いが発達障害のある PTP、PSP、BP(O'Connor & Hermelinの指摘

が正しければ発達障害群には PTPあるいは BPの群は存在しないか、もし存在してもかなり少数で

ある)それぞれ3群と違いがあるのかないのか、もしあるとすれば SD法で測定することにより電極

直下の電位が浮き彫りになるので

� 処理の優位部位に違いがあるのか

� 潜時に違いがあるのか

� 電位に差があるのか

高 橋 圭 三

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� パワーに差があるのか

以上の分析により、デジタル脳波計の機能を活用して詳細に比較検討できる。そのため実験デザ

インについては若干の変更が必要になる。刺激呈示方法、記録方法、測定部位など変更すべきデザ

インについて述べる。

�.実験デザインの変更

1.被験者

被験者は健常コントロール群で、女子学生の中からPTP群、PSP群、BP群を各10名ほど募集し、

実験承諾を得たうえで実験に参加してもらう。

2.刺激呈示

2つの窓より刺激を呈示することにより眼球の左右の動きがある被験者がいるので刺激を呈示す

る窓を1つの長方形の窓とすることによって、眼球の微小な動きのアーチファクトを可能な限り少

なくする。実際には Fig.11と Fig.12の文字刺激図版とマスク図版を使う。

呈示時間は初期 CNVの観察時間をより長くするために、S1を300ms呈示する。後期 CNVは運

動準備電位とも考えられており、S1‐S2間のインターバルが固定であると、S2呈示前に個人の特

性にもよるが一定間隔で後期 CNVが出現する。この後期 CNVを ERPに反映させないために S1呈

示の後に4種類のインターバルをランダムに配置し S2を呈示する。インターバルは200ms、350ms、

500ms、650msの4種類とする。そうすることによって、運動関連電位と思われる後期 CNVを相殺

することが可能になる。タスクは「ひらがな」どうしと「ひらがな」と「カタカナ」がペアで呈示

される2種とする。刺激文字 Fig.11が呈示されていない間は文字を作成したのと同様のドットで作

られたマスク図版 Fig.12を呈示することで情報処理戦略にアイコニックメモリーを利用することを

抑制する。

Fig.11 刺激文字 Fig.12 マスク図版

3.呈示方法

刺激呈示の時間的配列は Fig.13に示したように、1試行を2000msとして、S1を300ms呈示し、

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インターバル200~650msの後 S2を300ms呈示する。S2呈示終了から S1の呈示までの試行間イン

ターバルはそれぞれ800ms、950ms、1100ms、1250msとして、前試行に惹起される次の試行 S1以前

に生じる CNVを抑制する設定とする。

Fig.13 1試行中の刺激呈示の時間配列

課題は SRTと DRTを行い DRTには物理照合課題(ひらがなどうし)と名称照合課題(ひらがな

とカタカナ)を行う。1ブロックは2000ms×40試行の計80秒とする。

ひとつのブロックの中で S1-S2間には4種のインターバル(200、350、500、650)msをラン

ダムに配列し同じ間隔のインターバルが連続しないようにする。CNVは慣れの効果で電位が低減す

る。このことを利用して S2に先行して見られる後期 CNVを抑制するために S1-S2の間隔をラ

ンダムにする。また、刺激文字も1ブロックの中で重複の無いようにランダムに呈示するプログラ

ムとする。呈示される窓について左右どちらが先に呈示されるかもランダムにし、3連続以上同じ

窓から S1を呈示しないようにする。これらの条件で作成した SRTと DRT呈示プログラムにより

データの収集を行う。

4.測定方法

測定場所では予備実験で行ったように、外部からの騒音は無視でき、室内照明を落とし場面に集

中できる状況で測定を行う。被験者は前方斜め下にあるモニターに対して椅子に座り、机上に置い

たボタンに人差し指を置き待機する。

従来、ERPの測定では基準電極として両耳朶連結(A1+A2)が多用されている。これは左右半

球差を検討する場合に偏りをなくするように脳中央の電位を基準として使うという意図で両耳朶連

結を基準としてきた。しかし、Pivik��は単純に A1と A2を短絡させて両耳朶の中央に基準電極を

想定する測定方法について次のように指摘している。

もし、左右の電極のインピーダンスに差があると、基準は中央からインピーダンスの低い方に偏移

する。

高 橋 圭 三

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また、電極にいくらかのインピーダンスがあるので左右半球間に電流が流れることは少ないと思

われるが、直接短絡させることによりリード線に電流が流れ、左右の電位差が小さくなることも考

えられる。これらの問題を回避するため、電位差計で電極インピーダンスの偏りを補正する方法や

両耳朶の短絡リード線に大きな抵抗を入れる方法などが考えられてきた。

近年のデジタル脳波計ではチャンネルごとに独立して電位を計測しオフラインで再計算すること

でこれらの問題が回避できる。例えば、全ての導出電極と左耳朶(A1)を基準とした測定と同時に

左右耳朶間の電位も測定し、右耳朶(A2)電位の1/2を全ての導出電位から引き算をする方法が

ある。また、再計算で求められた電位に関しては2つの電極間の電位差は同じだが、極性(±)、振

幅(電圧)、パワー(振幅の2乗)の値は実際の値とは異なった値となる場合がある。そこで、アー

チファクトの混入を避けオフラインでの再計算が容易にできるようにシステムリファレンス(C3、

C4)とニュートラル電極(Z)を介したデジタル脳波計での測定を行う方法が取られてきている。

以上のように、脳波の測定についてアーチファクトの除去やリサンプリング、リフィルタリング、

リモンタージュなど、分析するのに利便性の高いデジタル脳波計を使うのはこのためである。さら

に、従来の電極に比べ、被験者の動きによってリード線の揺れなどによるアーチファクトの混入を

避けるため電極ごとにアンプを内蔵したアクティブ電極がある。発達障害のある人たちはややもす

ると与えられたタスクとは別に無意識のうちに行われる体の動きが観測されることがある。体動に

よる種々のアーチファクトを除去する面から考えてもアクティブ電極は有効な測定手段である。

デジタル脳波計では Fig.14で示すようにニュートラル電極を介して、目的とする電極(F4)と全

ての電極に共通の生体基準電極(Vref:システムリファレンス)との差分を導出する。Vrefは通常

雑音の混入しにくい(C3と C4)電位の平均を使う。この平衡型作動増幅器を使った導出では初期

の段階で雑音の少ない信号が導出される。

Fig.14 デジタル脳波計の単極導出

EEGの導出部は国際標準10‐20電極配置法(10‐20法)に従い、両耳朶をインピーダンスチェック

用電極、C3および C4をシステムリファレンス、ニュートラル電極として Z電極を前額部に装着す

る。

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Table.1 SD法の基準電極の組み合わせ

測定はトリガ、行動指標としてのボタン押し反応時間、眼球運動については Fp2を含め上下左右

を4ポイント、脳波導出として両耳朶を含め21ポイントの計26チャンネルをオリジナルデータとし

て記録する。さらにオリジナルデータから局在所見の検出に適したデジタル脳波計特有の SD法によ

り Table.1に示した SD法の基準電極の組み合わせを使いリモンタージュプログラムを作成し、リ

モンタージュしたデータをテキストファイルとして保存する。加算処理はそのリモンタージュし保

存したそれぞれの電極データを対象に行う。

なお、Fig.15にニュートラル電極(Z)、システムリファレンス電極(C3、C4)、両耳朶電極

(A1、A2)、眼球運動検出電極として Et(Fp2)、E1、E2、Ebとそれぞれの導出電極の装着位

置を示す。

Fig.15 電極マップ

生体信号は日本光電製 EEG1100(or EEG9100)を使いハードディスク上に記録する。サンプリ

ングクロックは1000Hz(1ms)として後の分析時にリサンプリングできるようにオーサライズオリ

ジナルファイルとして保存する。同時に視覚刺激呈示用コンピュータから出力されるトリガ信号の

高 橋 圭 三

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音出力とボタン押し反応を自作デジタル回路の TTL論理ゲート(Transistor-Transistor-Logic)で

矩形派に変換し、同じ記録条件で同一ファイル上に記録する。

フィルタについては次のような設定が望ましい。記録時に使うローカットフィルタの標準時定数

は一般的には0.3秒(約0.5Hz)である。しかし、CNVの様な ERPを測定する場合、1回の試行が

2秒を超える場合があり、長い区間の ERPをひずみなく記録するには標準より長い時定数が必要で

ある。入戸野は目安として見たい現象の3倍の長さの時定数を推薦している。さらに、時定数3.2秒

(約0.05Hz)と時定数10秒(約0.016Hz)では波形にほとんど差が見られないとしている。さらにデ

ジタル脳波計ではナイキスト周波数(1/2サンプリング周波数)を超える信号はエイリアシングが

起こり、ナイキスト周波数は低い周波数としてゴースト周波数が表れる。よって、デジタル脳波計

には設定したサンプリング周波数の1/3~1/4程度のアンチエイリアシングフィルタが前もって

自動的に設定されている。つまり、サンプリングクロックが1000Hzでは300Hz程度のハイカットフィ

ルタが自動的にかかっていることになる。

また、近年デジタル脳波計では、S/N比でノイズの占める割合を低くする工夫として、電極その

ものをアクティブ化し生体信号を増幅して体動等により混入するケーブルノイズの比を抑えたアク

ティブ電極が開発されている。発達障害のある子どもで課題に集中はしていても多動が見られる場

合のノイズ混入が避けられない場合、このアクティブ電極はノイズの少ないデータ収集には欠かす

ことのできない技術である。

5.データ処理

データ処理はオフラインで行い、オーサライズオリジナルファイルをサンプリングクロック500Hz

に変換したものを使う。加算するに当たり、それぞれの被験者の試行の前後に記録した50μVのキャ

リブレーション信号の平均振幅値を求める。そして各チャンネル間のキャリブレーション電圧値が

同じ振幅になるようにチャンネルごとにその電圧を校正する。校正したデータはオフラインで自作

した移動平均プログラムのデジタルフィルタによりハイカット30Hzのフィルタをかける。加算は S

1刺激呈示前100msを基準電位として刺激後500msの600ms(300サンプリングポイント)を被験者・

タスク条件ごとに60回加算する。なお、EOGについては85μV以上が検出されれば瞬き等により刺

激呈示時点で刺激をトリガに合わせて処理できていない可能性があり、コンピュータの加算プログ

ラムで自動的にキャンセルする。なお誤反応試行についても加算前にコンピュータで自動的にキャ

ンセルするプログラムとする。

高周波のアーチファクトを除くデジタルフィルタ(-3dB)は従来の計算式では次のようにして

求められていた。

遮断周波数=0.44[1/(P×T)]

(P:移動平均ポイント数、T:サンプリング間隔)

視覚刺激により生起される随伴性陰性変動(CNV)の振る舞いについて

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しかし、移動平均1回のフィルタでは高周波数帯の一部が十分に減衰しないことが指摘されてお

り、今回の加算前のフィルタ処理では2段階フィルタを行う。なお、2段階フィルタの場合の遮断

周波数は次の式で求められる。

遮断周波数=0.31[1/(P×T)]

遮断周波数=0.31×[1/(5×0.005)]

移動平均ポイント=5、サンプリング間隔200Hz(0.005秒)の時

上記の式で求められる移動平均点数でフィルタを2度かけると、より高周波数成分が減衰する。

また、Pは必ず奇数で算出されるべきであり、偶数であるとフィルタをかけないトリガ信号やボタン

押し反応の信号と時間的なずれ(サンプリングクロックの1/2秒)ができる。この移動平均フィル

タは移動窓が左右対称で波形の位相(頂点潜時)がずれない半面、データの初期と最後の両端が1/

2移動平均ポイント数[500Hzクロック31.0Hzハイカットだと2ms×1/2(5ポイント)=5ms]

だけ完全にフィルタがかかってない状態となることを考慮に入れて加算する必要がある。なお、移

動平均フィルタを2度かける場合のおおよそのポイント数を Ruchkin & Glaser��に基づいて算出し

たものを次の Table.2に示す。

Table.2 遮断周波数(-3dB)、移動平均ポイント数、サンプリング周波数の関係

6.分析

今回の分析は SRTと DRTの S1についての CNV分析をマンホイットニー U検定により行う。

分析は情報の優位処理部位、潜時、電位、パワーそれぞれについて、コントロール群内3群(PTP

群、PSP群、BP群)での比較を行う。特に PTPと PSTに特化したデータの収集を優先する。同

時に S2の分析で NA電位の比較を行う。NA電位は DRTの非標的反応加算電位から SRT加算電位

を引き算することで求められる。NA電位には2峰性の電位があり、前期成分は情報の符号化を表し、

後期成分は記憶探索を表しているとされている。また、記憶探索するべき標的の数に比例して後期

成分の潜時が遅延するとされている。

高 橋 圭 三

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