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商品技術解説 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 143 診療記録統合管理ソリューション Integrated Management Solution for Medical Records 近年、医療分野における IT化は、電子カルテシステ ムを中心に発展を続けている。電子カルテシステム は、病院内の様々な部門システムと連携して患者情を閲覧できる。しかし、情報の実体は部門システムに 分散し、紙媒体の情報が取込まれない。患者の全記を対象にした管理や長期に閲覧可能な環境を担保す るなど、診療記録を管理するための様々な問題が顕在 化している。 この問題を解決するため、大阪大学医学部附属病院 医療情報部が、DACS(Document Archiving and Communication System:診療記録統合管理システ ム)コンセプトを提唱した。DACSとは、病院内の様々 な情報をドキュメント形式にして一元管理すること で、診療記録の電子保存に関する要件(真正性、見読 性、保存性の担保)を満たし、長期的に診療記録を管するシステムである。 本稿では、DACS コンセプトの説明と DACS コン セプトに基づき富士ゼロックスが開発した診療記統合管理ソリューションを紹介する。 Abstract 島崎 浩(Hiroshi Shimazaki) 伊藤 恵一(Keiichi Itoh) 松永 英樹(Hideki Matsunaga) 斌(Bin Zhou) 丸山 泰弘(Yasuhiro Maruyama) 倉林 則之(Noriyuki Kurabayashi) 大坪 隆信(Takanobu Otsubo) 矢後 友和(Tomokazu Yago) Recently, the use of electronic patient record systems becomes popular. Browsing of patients' data is supported by linking with various department systems within a hospital. Patients' data is actually managed in each individual department system and paper documents are not managed electronically. However, various issues are turning up, such as the management of all patient records and the assurance of lifelong readability. To solve these issues, Department of Medical Information Science, Osaka University Hospital proposed the DACS (Document Archiving and Communication System) concept. DACS is a system to enable long-term storage of patient records and assures integrity, readability, and preservative quality by integrated management of various data within the hospital using the common document formats. This paper describes the concept of DACS and introduces the solution developed by Fuji Xerox.

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商品技術解説

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 143

診療記録統合管理ソリューション Integrated Management Solution for Medical Records

要 旨

近年、医療分野における IT化は、電子カルテシステ

ムを中心に発展を続けている。電子カルテシステム

は、病院内の様々な部門システムと連携して患者情報

を閲覧できる。しかし、情報の実体は部門システムに

分散し、紙媒体の情報が取込まれない。患者の全記録

を対象にした管理や長期に閲覧可能な環境を担保す

るなど、診療記録を管理するための様々な問題が顕在

化している。

この問題を解決するため、大阪大学医学部附属病院

医療情報部が、DACS(Document Archiving and

Communication System:診療記録統合管理システ

ム)コンセプトを提唱した。DACSとは、病院内の様々

な情報をドキュメント形式にして一元管理すること

で、診療記録の電子保存に関する要件(真正性、見読

性、保存性の担保)を満たし、長期的に診療記録を保

管するシステムである。

本稿では、DACSコンセプトの説明とDACSコン

セプトに基づき富士ゼロックスが開発した診療記録

統合管理ソリューションを紹介する。

Abstract

島崎 浩(Hiroshi Shimazaki)

伊藤 恵一(Keiichi Itoh)

松永 英樹(Hideki Matsunaga)

周 斌(Bin Zhou)

丸山 泰弘(Yasuhiro Maruyama)

倉林 則之(Noriyuki Kurabayashi)

大坪 隆信(Takanobu Otsubo)

矢後 友和(Tomokazu Yago)

Recently, the use of electronic patient recordsystems becomes popular. Browsing of patients' datais supported by linking with various departmentsystems within a hospital. Patients' data is actuallymanaged in each individual department system andpaper documents are not managed electronically.However, various issues are turning up, such as themanagement of all patient records and the assuranceof lifelong readability.

To solve these issues, Department of MedicalInformation Science, Osaka University Hospitalproposed the DACS (Document Archiving andCommunication System) concept. DACS is a systemto enable long-term storage of patient records andassures integrity, readability, and preservative qualityby integrated management of various data within thehospital using the common document formats.

This paper describes the concept of DACS andintroduces the solution developed by Fuji Xerox.

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

144 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011

1. 緒言

医療機関では、「医療の質と安全のため、患者

がいつどの診療科を受診し、どんな検査、治療、

手術を受け、経過がどうなっているかなどの情

報を俯瞰して把握したい」、「チーム医療の推進

により、それらの情報を医療従事者が診療科を

越えて迅速に共有したい」などの要望がある。

最近の医療情報システムは、電子カルテシス

テムを中心とした IT 化が急速に進んでいるが、

一つの電子カルテシステムで全ての診療業務に

対応することは、医療機関の規模が大きくなる

ほど困難である。医療機関には、異なる目的や

異なる時期に導入された様々な診療部門ごとの

専門システムが存在する。これらが多種多様な

情報を生成し、この情報を統合管理するコスト

や労力が増大している。

様々なシステムを統合化するような電子カル

テシステムでは、患者情報をキーに各システム

が連動して、患者の様々な情報を統合的に閲覧

できる。しかし、このような情報はリファレン

ス情報であり、情報の実体は各システムに分散

管理される。

全てのシステムが電子カルテシステムに連携

できるとは限らない。連携できない古いシステ

ムなどは情報を紙で印刷している。また、捺印

やサインを必要とする多くの紙文書が、日常的

に院内・院外を大量に流通している。このよう

な紙の記録管理が存在することは、電子カルテ

システムが目指すペーパーレス化の大きな課題

となっている。

患者の診療記録が、電子カルテシステムの

データ、各連携システムのデータ、紙文書と分

散して管理されることは、保存性や検索性に大

きな課題を抱えることになる。

患者に関わる全ての診療記録を長期にわたっ

て統合的に管理し、迅速に検索・活用できるシ

ステムへのニーズが高まっている。

大阪大学医学部附属病院 医療情報部は、紙

文書と電子データが混在する問題に対して、病

院情報システム( Hospital Informaiton

System : HIS)を構成する新たな基本要素とし

て 、 DACS ( Document Archiving and

Communication System:診療記録統合管理

システム)というコンセプトを提案した。

DACS は、X 線画像、CT、MRI などの医用

画像を統合管理するシステムである PACS

(Picture Archiving and Communication

System)にならって付けた名称である。

DACS は、診療情報をデ-タ単位ではなく、

文書(Document)単位で扱うという形式の統

一化を図り、さまざまな診療情報を文書単位で

記録し、一元管理するシステムである。

文書は、検査報告書、手術レポートなど記録

書類を前提としたものが一般的であるが、経過

記録や熱型表など時間的に連続する記録やデー

タについても、何らかの区切り(1 回、1 日、

1 週間など)を設け、この区切りの単位でデー

タのスナップショット情報を取得することで文

書として扱える。また、紙文書はスキャナーで

取り込むことで電子文書にする。このように生

成される文書は、診療記録として長期保管が前

提であり、将来閲覧できなくなるリスクを回避

するため PDF などの汎用的なフォーマットで

管理する。

病院内の全ての診療記録をこのような文書で

一元管理すると、電子カルテシステムの構成や

システム提供ベンダーに関わらず、長期的に診

療記録の見読性を確保できる。患者の全診療記

録を対象にした情報提供が迅速かつ正確に行な

え、医療従事者が診療分野を超えて、情報共有

することでチーム医療の推進に貢献できる。

2. 診療記録統合管理ソリューション

の特徴

富士ゼロックスは、オフィス分野を中心に

培ってきた文書管理の技術やノウハウを医療情

報分野にも展開すべく、医療現場で求められる

記録管理のあり方の調査、研究、実証実験を重

ね DACS コンセプトに基づいた診療記録統合

管理ソリューションを構築した。

本ソリューションは、DACSのシステム要件

に合わせて、紙文書から各種電子データまであ

らゆる診療記録を一元管理するソリューション

である(図1)。

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 145

院内に存在する様々な形態の電子データや紙

文書を、仮想プリンターやスキャナーで「ドキュ

メント」に変換して一元管理する。

管理するドキュメントはPDF、DocuWorks

など、汎用性の高いフォーマットで保存するた

め、院内システムの変更に伴うデータ移行を最

小限に抑え、様々なシステムの導入・更新に影

響を受けることなく長期間にわたる記録管理を

実現する。

2.1 「ここになければ、どこにもない」

を実現

いつどの診療科を受診し、どんな治療や手術

を受け、検査や経過がどうだったかなど、患者

に関わる全ての情報を医師が迅速に把握するた

めの情報は、診療記録を一元管理することで提

供できる。まさに、「ここになければ、どこにも

ない」と言える環境を実現する。

診療支援以外にも、診療記録を一括で扱う作

業に有効である。医療機関は様々な理由で情報

開示が求められる。訴訟に至る場合には、証拠

保全としてカルテの提示が求められ、これに対

し一部でも提示しない場合は、意図的でなくて

も、隠ぺいとみなされる可能性がある。

請求があった場合に、指定された期間の全て

の診療情報を提出する必要があるが、様々なシ

ステムが連携し、記録の実体がシステムで分散

管理された環境ほど、情報の取りこぼしが発生

しやすい。また、情報の発生順など系統的に整

理して出力することは、連携システムが多いほ

ど困難である。

本ソリューションは、連携システムごとに情

報検索や出力作業をする必要はない。患者の全

記録を一元管理するシステムで、期間検索や画

面表示順の出力指示をするだけで良い。必要な

情報を素早く揃えることができるため、カルテ

開示請求に迅速かつ正確な情報提供ができる。

2.2 真正性を確保する長期保存

電子的な医療情報の取扱いに関して厚生労働

省が「医療情報システムの安全管理に関するガ

イドライン(第 4.1 版)」を定義している。こ

のガイドラインでは、電子保存に関する要件(真

正性、見読性、保存性の担保)が示されている。

さらに、真正性を担保するための電子署名を用

いた管理について以下のような記載がある。

医療に係る文書に電子署名を付与する際は、

電子証明書の有効期間や失効、また暗号アルゴ

リズムの脆弱化の有無によらず、法定保存期間

等の一定の期間、電子署名の検証が継続できる

必要がある。また、対象文書は行政の監視等の

対象であり、施した電子署名が行政機関等に

よっても検証できる必要がある。

医療情報は5年以上の保存期間を要求される

ものがあり、真正性を確保するためには、単に

電子署名とタイムスタンプを付与するだけでな

く、長期にわたって継続的に検証可能な環境を

実現しなければならない(図2)。

図 1. 診療記録統合管理ソリューションのシステムイメージIntegrated Management Solution for Medical Record

System

●原本性保証の電子保存システム

署名・タイムスタンプ付与 署名・タイムスタンプ検証

基幹システム

文書管理システム

コピー感覚で、簡単に紙文書を電子化

ApeosPort複合機

認証局/ 時刻認証事業者

基幹システムと連携

一括署名・ タイムスタンプ付与/検証

図 2. 原本性保証のシステムイメージIntegrity Assurance System

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

146 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011

また、システム更新や検証システムの互換性等

の観点から、標準技術を利用することが望ましい。

富士ゼロックスは、2005 年に次世代電子商取

引推進協議会(ECOM)が実施した長期署名

フォーマット相互運用性テストに参加しており、

JIS X 5093:2008 XML 署名利用電子署名

(XAdES*1)採用商品の相互運用実績を持つ。

本ソリューションでは、このXAdESの長期

署名プロファイルを採用することで長期に真正

性を担保し、電子的な医療情報の保存要件を満

たしている。

2.3 他システムとの柔軟な連携

本ソリューションは、病院の基幹システムだ

けでなく、院内で稼動するさまざまなシステム

と柔軟に連携するための手段を提供する。これ

により、システム構築の初期投資を抑えるほか、

散在する診療記録管理にかかる医療従事者の付

帯業務の負担軽減に貢献する。

市販ソフトを使ったシステムでも、電子ド

キュメントに変換した上で簡単に記録を収集で

き、既存のインフラやワークフローを活かしな

がら、分散管理された記録を集中管理する仕組

みを構築できる。

3. DACSコンセプトを実現する機能

DACSコンセプトは、以下の機能概念から構

成される。

・Document Generator

・Document Deliverer

・Document Archiver

・Document Viewer

これらの機能概念がシステムとして動作する

フローを図3に示す。

電子カルテやレポートシステム、スキャナー

など院内で文書の作成に使用されているシステ

ム全てが、Document Generator に該当する。

Document Generator から生成される文書

は、全てDocument Deliverer に送られる。

Document Deliverer は 、 Document

*1 XadES: XML Advanced Electronic Signatures

の略

Archiver に文書を登録すると共に、文書内の情

報を文書登録の結果とあわせてData Sharing

Server などのデータベースシステムに分析用

のデータとして配信することもできる。

医療現場の端末は、Document Viewer に

よってDocument Archiverに保管されている

文書情報を閲覧することができる。

本ソリューションで各機能概念をどのように

実現しているか以下に述べる。

3.1 Document Generator

本ソリューションは、帳票印刷、スキャナー

登録、仮想プリンター登録などの機能を統合し

た Windows®クライアントアプリケーション

のDocuments Deliverer Client(DDC)と、

複合機 ApeosPort によるスキャン登録サービ

スの二つのDocument Generatorを提供する。

3.1.1 Document Deliverer Client(DDC)

<帳票印刷機能>

DDC は、帳票データを管理する帳票データ

ベースから帳票テンプレート等の情報を取得す

る。DDC は、電子カルテシステムから起動さ

れることで、テンプレートに患者情報などのテ

キストデータやシステム管理情報を埋め込んだ

QRコード®などを付与して、患者ごとに帳票を

生成することができる。

帳票は、「同意書」、「同意書以外の帳票」、「ス

キャン依頼票」の 3 種類の印刷が可能であり、

図 3. DACS コンセプトの概念図Conceptual diagram for DACS

Document Generator

Document Deliverer

Document Archiver

Document Viewer

スキャナー 仮想プリンター システム連携 電子カルテシステム 部門システム

+ XML PDF XDW ・・・

XML・・・

Data Sharing Server

Data ware House

File Maker・・・

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 147

いずれも QR コード®が付与された文書として

印刷される。

<スキャン登録機能>

DDCは、PCに TWAIN対応スキャナーが接

続されている場合に、スキャナーと連動してス

キャンイメージを取込みDocument Deliverer

に文書登録処理を依頼できる。

QR コード®管理された帳票をスキャンする

場合は、システム側で帳票の情報を把握してい

るため、文書登録時の属性情報は自動設定され

る(図 4 は、DDC の QR 付きスキャンで QR

コード®を付与した帳票をスキャンした状態)。

QRコード®管理がされていない帳票(院外な

どシステム管理外の外部文書)をスキャンする

場合には、属性情報を DDC 画面上でマニュア

ル設定しながら登録することもできる。

<仮想プリンター登録>

富士ゼロックスのドキュメントハンドリン

グ・ソフトウエア「DocuWorks」は、仮想プ

リンター(DocuWorks Printer)を用い、様々

なソフトウエアの印刷処理からDocuWorks文

書を生成することができる。

本ソリューションでは、様々なシステムの情

報を文書として取り込む手段として、この仮想

プリンターで生成された文書の内容を解析して

自動配信・登録する仮想プリンター登録機能を

提供する。

帳票を管理するデータベースにて、帳票別に

画像解析設定を定義することで、図5のように

仮想プリンターから生成された文書内の特定領

域の描画情報を抽出し、文書の属性情報として

自動生成できる。

生成した文書に対応する帳票の解析設定がな

ければ、手動で属性情報を設定した登録もできる。

仮想プリンター登録機能により、病院内でシ

ステム統合されていない独自システムから印刷

操作だけで、連携用の個別開発を行なうことな

く、情報を文書として登録できる。

また、DocuWorks ファイルは、DocuWorks

文書生成時のオリジナルファイル(Word、

Excel など)やデータを添付することができる。

この機能を活用することで、文書から元情報を

取り出して再利用することができる。

3.1.2 複合機によるスキャン登録サービス

富士ゼロックスの複合機ApeosPort は、ネッ

トワーク上のサービスと連携するためのフレー

ム ワ ー ク 「 Apeos iiX ( Apeos Internet

Integration framework based on XML)」を

有しており、この Apeos iiX インターフェイス

を介し、外部アプリケーション連携が可能である。

本ソリューションでは、この機能を活用して、

ApeosPortの操作パネル上のWebブラウザー

から、直接呼び出されるスキャン登録用 Web

アプリケーションを提供している。

一文書単位にスキャン内容を確認して登録す

る処理と、QRコード®付きの文書を複数部まと

めてスキャンを行ないシステムで分割処理を行

なう二通りの処理方式を選択することが可能で

ある。

図 4. Document Deliverer Clientの画面A screenshot of Document Deliverer Client

図 5. 仮想プリンター登録Virtual printer registe

印刷

仮想プリンター (DACS登録)

書庫から 属性抽出

登録

患者 ID 文書種コード

イベント発生日

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

148 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011

3.2 Document Deliverer

Document Deliverer は、ドキュメント登録、

外部システム連携インターフェイスの提供、ス

キャン帳票の状態管理、ドキュメント解析、処

理結果への病院情報補完といった大きく五つの

機能を有している。

3.2.1 ドキュメント登録

Document Deliverer は 、 Document

Generator から登録文書と登録情報などが記載

されている診療情報ファイルを受け取る。診療情

報ファイルには、Document Archiver に診療

記録文書として登録するための情報が記載され

ており、この情報に従って文書登録を行なう。

文書登録と合わせて、文書内の重要なデータ

を診療情報ファイルに記録しておき、Data

Sharing Server など情報共有するデータベー

スシステムに診療情報として出力できる。文書

登録と同時にデータベースに情報を蓄積するこ

とで、臨床評価や臨床研究に活用することがで

きる。

Document Deliverer は、PDF、TIFF、BMP、

JPEG、XDW(DocuWorks フォーマット)の

ファイルを診療記録文書として受付ける。

TIFF、BMP、JPEG の画像ファイルは

DocuWorks ファイルに変換されるため、最終

的に PDF か XDW のいずれかのフォーマット

の文書として登録する。

3.2.2 外部連携インターフェイス

本ソリューションは、他システムからの文書

登録の受付けを可能とするため、SOAP、FTP、

Windows®フォルダー共有などの外部連携イン

ターフェイスを用意している。

このインターフェイスは、登録する文書と文

書に関する診療情報ファイルをセットで送受信

する簡単な仕様であるため、電子カルテシステ

ムや部門システムなどを容易に Document

Generator として機能させることができる。

3.2.3 スキャン帳票の状態管理

DDC で作成された院内帳票は、QR コード®

化されたスキャン予約番号を付与され印刷され

る。Document Deliverer は、この番号を用い

て診療に関わる文書の状態管理を行なう。

スキャン予約番号に紐づいて、帳票生成時の

イメージ、登録前のチェック待ちスキャンイ

メージ、登録結果が統合的に管理される。帳票

の印刷→スキャン処理→登録完了までの文書の

状態管理ができることで、患者に渡した同意書

の回収管理を徹底することができる。

3.2.4 ドキュメント解析

Document Deliverer は、処理する文書に対

して、様々な画像処理解析ができる。

文書が複数部まとめてスキャンされた場合は、

イメージファイルをQRコード®で分割して、文

書ごとに1部ずつ処理することができる。

また、白紙ページを判定してページを自動削

除する機能や、上下左右の自動正立を行なう機

能などのイメージハンドリング機能により、文

書登録時のユーザー操作を簡略化できる。

3.2.5 病院情報の補完

Document Generator が外部連携システム

の場合には、患者 IDやファイル情報など最低限

の情報だけが診療情報ファイルに記述され、送

られてくる場合がある。

このような場合、Document Deliverer は、

病院内の基幹システムと連携して、不足する病

院情報(患者名、性別、などの患者情報および

医師名、診療科などの診療情報)を診療情報ファ

イルに補完してから、これらの情報を文書の属

性として登録できる。

病院情報を確実に揃えた状態で管理すること

で、情報の検索性を向上させる。また、補完、

整備された診療情報を外部の連携システムに出

力することで、連携システム間で、文書ととも

に正確な病院情報を交換できる。

3.3 Document Archiver

Document Archiver は、アーカイブサイト

とアクティブサイトの二つの文書管理サイトを

組合せて構成する。いずれのサイトも構成する

ベースとなるソフトウエアは、富士ゼロックス

の内部統制ソリューションで実績のある

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 149

「Apeos PEMaster Evidence Manager」を

用いている。

3.3.1 アーカイブサイト

電子文書の原本性保証を可能とし、長期アー

カイブ環境を提供するサイトである。

Apeos PEMaster Evidence Manager は、

e-文書法対応を実現する機能を有しており、前

述のガイドラインに定められた「電子保存の 3

要件」に準拠できる。XAdES準拠の e-文書保

管を行なうことで、保管文書の長期原本性保証

を実現している。

ドキュメント単位で、電子署名、タイムスタ

ンプ処理を施した管理を行なうことにより、改

ざん検知と公的な第三者の時刻認証を提供する。

また、データの上書きや削除制限などのアク

セス制御とアクセス履歴の管理を行なうことで、

監査証跡情報を保管することができる。

3.2.2 アクティブサイト

診療記録が日々増大する中で、システムのパ

フォーマンスを低下させないために、アクセス頻

度の高い患者情報のみを管理するサイトである。

アーカイブサイトとアクティブサイトは同期

して診療記録を管理している。患者が完治する

などして、参照することがなくなった診療記録

は、随時アクティブサイトから削除される。こ

のように、アクセスする可能性が低い診療記録

を検索対象から除外することで、アクセスパ

フォーマンスの低下を防ぐことが可能である。

なお、診療記録がアーカイブサイトとアク

ティブサイトのいずれに存在するかは、

Document Archiver 内で自動調整するため、

ユーザーはどちらのサイトにアクセスするかを

意識する必要はない。

3.4 Document Viewer

Document Viewer は、患者単位の診療記録

を閲覧するMedical Record Viewer と、病院

全体の診療記録を対象に、文書種、診療科、日

付の単位で検索・閲覧する Document

Register Viewer の2種類のWeb アプリケー

ションを用意している。

3.4.1 Medical Record Viewer(MRV)

医師が患者の診療記録を閲覧して診療行為の

意思決定につなげるために用いるアプリケー

ションである。

診療記録から意思決定に至るまでの過程は、

三つの閲覧タイプに分類できる(図6)。

MRV はこの閲覧タイプに従ったビュー表示

を用意している。

図 6. 診療記録閲覧から意思決定に至る過程Decision-making process starting from medical records view

仮仮説説検検証証仮仮説説生生成成

収集した情報を解釈する それに基づき現状を理解する

現状の理解から想定される仮説を立案し それを指示する証拠集めに基づく検証を行なう (通常は複数の仮説生成・検証を行なう)

有益と思われる情報を集める (検索範囲の設定や文書発生 パターンの観察なども含む)

仮説検証結果を用いて 診療上の意思決定を行なう (複数の結果を総合的に判断)

ゴール設定 情報収集 現状把握 仮説立案 仮説検証 意思決定 診療行為文書作成

探索的閲覧 確証的閲覧 焦点化された閲覧

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

150 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011

① 探索的閲覧(マトリクスビュー)

診療文書が紐づいているイベントの概要を把

握し、傾向やパターンを観察することを主眼と

する閲覧タイプである(図7)。

想定される利用場面は、病歴が未知である(初

診、転科、他の医師が担当していた)患者の診

察などである。検査や治療の種類、時期、頻度

など、病歴把握に有益と思われる情報を集め、

収集した情報を解釈しそれに基づいて現状を理

解する業務を支援する。

患者の長期間(5年以上)に渡る診療イベン

トを俯瞰し、外来受診、手術や重要な検査、検

査レポート、入院の4種類のイベントの発生時

期、頻度、パターンを視覚化する(図7)。

患者が、いつ、どの診療科を受診し、どんな

検査、治療、手術を受け、その後の検査や経過

までの全体像を、視覚的かつ迅速に把握できる。

② 確証的閲覧(ツリービュー)

閲覧対象がある程度明らかな場合に、対象文

書を絞り込んで素早く探すことを主眼とする閲

覧タイプである(図8)。

想定される利用場面は、日常の外来診察など

である。前回の検査結果や退院時サマリの記述

に対応する経過記録といった医師が必要とする

条件に一致する文書を探す操作(医師による仮

説検証と捉える)を支援する。

文書の分類方法を複数提供することで、多様

な視点で文書を探すことが可能である。文書の

種類や日付だけでなく、入院ごとや検査種ごと

といった日常的な診療場面を想定した分類によ

り、定型的な文書の探索を効率化できる。

入院外来の別、診療科別、日付別、文書種別な

ど、目的の文書をWindows エクスプローラー

ライクにツリー構造で表現することで素早く探

すことができる。

③ 焦点化された閲覧(フォーカスビュー)

閲覧対象の文書が特定されている場合に、その

内容を確認するための閲覧タイプである(図9)。

マトリックスビューやツリービューで選択し

た文書から起動され、診療記録と検査レポート

を見比べたり、退院時サマリを見ながら詳細レ

ポートを確認するなど、文書の内容を比較した

り関連する文書を探すことができる。

3.4.2 Document Register Viewer(DRV)

診療現場で作成される文書を文書種単位で検

索・閲覧し、診療録の管理や内容の精査を支援

するアプリケーションである(図10)。

図 8. Medical Record Viewer(ツリービュー)の画面A screenshot of Medical Record Viewer (Tree View)

図 9. Medical Record Viewer(フォーカスビュー)の画面A screenshot of Medical Record Viewer (Focus View)

図 7. Medical Record Viewer(マトリックスビュー)の画面A screenshot of Medical Record Viewer (Matrix View)

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 151

例えば、検査技師が自分で作成した担当レ

ポート類の状況確認や、診療情報管理士が院内

の退院時サマリーを全患者について確認する場

合においてDocument Archiverに登録されて

いる文書を文書種単位で俯瞰できる。

MRV は閲覧対象文書が特定患者に限定され

るのに対して、DRVでは、全ての患者の文書を

取得できるため、ログインするユーザーのアク

セス資格にあった権限レベルを設定できる。

4. 大阪大学医学部附属病院様の導入

実績

大阪大学医学部附属病院様では、2010年 1

月から本ソリューションの運用を開始している。

院内の約40システムが連携し、2,000種類以

上のドキュメントが統合管理されている。

保管される文書は、電子カルテや各システム

で生成された電子文書はもちろん、市販ソフト

で作成された文書、スキャナーで電子化した手

書きの報告書や同意書などの文書も含まれる。

外来診察日には、1日で8,000~10,000文書

が登録され、このうち約 1,500 文書が紙媒体

をスキャン登録した文書である。DDC や複合

機連携が生成した文書は、全保管文書の2割程

度であり、約8割は、各種連携システムが生成

した文書で占められる。

PACS において医用画像の標準規格

DICOM*2 があるように、DACS コンセプトで

は、医用文書の標準化実現にむけて、属性情報

を XML ファイルで規定してシステム間通信に

活用する提案をしている。大阪大学医学部附属

病院様のシステム開発においては、参加ベン

ダー(14 社)の協力により、この方式による

システム間連携を実現、実証することができた。

本プロジェクトの成功は、医用文書のシステム

間連携の標準化へ向けて大きな前進となったと

言える。

本ソリューションの導入により、患者の診療

履歴を俯瞰して迅速に確認できるようになった

ほか、研究や分析での活用も始まっている。ま

た今後は、診療業務を効率化するだけにとどま

らず、ペーパーレス化による院内全体の業務改

善、ひいては、より安全で質の高い医療サービ

スの提供にも寄与して行きたいと考える。

5. ドキュメントによる地域医療サー

ビスの発展

DACSコンセプトの可能性は、単に病院業務

の効率化を進めるだけではない。この技術を社

会インフラに活用することで、地域医療サービ

スのありかたを変えていくことも視野に入れて

いる。

病院や診療所の診療記録、検診センターの健

康診断記録、薬局での処方記録、介護センター

の介護記録など、地域社会における住民の医療

情報は各施設で管理されている。このような医

療情報を、DACSコンセプトをベースに一元管

理することを提案する。

例えば、図11のようにDACSのデータバン

クを担う仲介機関を地域社会に設置し、住民一

人ひとりの医療情報が、診療所や総合病院、健

康センター、薬局などから DACS コンセプト

に従いドキュメント化された記録としてデータ

バンクに保存される。電子カルテが導入されて

いない診療所でも、診療後の紙カルテをデータ

バンクにファクス送信すれば、情報がドキュメ

ント化されて保存される。

図 10. Document Register Viewerの画面A screenshot of Document Register Viewer

*2 DICOM(Digital Imaging and Communications

in Medicine):医用画像のフォーマットと、それらの

画像を扱う医用画像機器間の通信プロトコルを定義し

た標準規格

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

152 富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011

こ のように集積された情報を DPR* 2

(Document centric Patient Record)と呼

び、住民がどの医療機関で受診しても医療情報

はDPRに集約されることで、「生涯カルテ」シ

ステムの構築が可能となってくる。

こうした地域連携ネットワークは、住民がよ

り的確な医療サービスを受診できるようになる

だけでなく、診療所と総合病院の役割分担の促

進、医療費の削減、予防医療の強化、医師不足

や医療格差の解消など、社会に様々なメリット

をもたらすことになる。

富士ゼロックスは、健康かつ安全で安心な暮

らしの実現に向けて、いつでもどこでも誰でも

最良の医療を受けられるという国民の権利を実

現する情報環境を提供するため、ドキュメント

を切り口とした技術で医療情報システムの発展

に寄与し、お客様に新たな価値提供を実現して

いく。

6. 商標について

DocuWorks、Apeos PEMaster Evidence

Manager、Apeos iiX、ApeosPort は、富

士ゼロックス株式会社の商標または登録商標

です。

*2 DPR(Document centric Patient Record):ドキュ

メントをベースに一人ひとりの医療情報を記録する概念。

大阪大学医学部附属病院 医療情報部により提唱されて

いるコンセプト。

Windows®は、Microsoft Corporation の

米国およびその他の国における登録商標また

は商標です。

QRコード®は、株式会社デンソーウェーブの

登録商標です。

その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

7. 参考文献

1) 武田裕、松村泰志ほか . 医療の新システム

概念である「医療ドキュメント保管通信シ

ステム(DACS)」.(株)エム・イー振興

協会 . 月刊新医療 2009年3月号

2) 松村泰志 . 見読性の確保のための統合的

文書管理システムDACSの提案. 第29回

医療情報学連合大会・一般講演プログラム

2009年 11月 23日発表

3) 厚生労働省 . 医療情報システムの安全管

理に関するガイドライン 第 4.1 版 .

2010年 2月

4) 次世代電子商取引推進協議会 . 長期署名

フォーマット相互運用性実験報告書 .

2006年 3月

5) 山下哲也ほか . コンテンツマネージメン

ト . 富士ゼロックステクニカルレポート

No19 . (2010).

図 11. 地域医療システムのイメージCommunity health system

3

3

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商品技術解説

診療記録統合管理ソリューション

富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011 153

筆者紹介

島崎 浩 ソリューション本部 ソリューション開発部に所属

Solution Development, Solution Group 専門分野:情報工学

伊藤 恵一 ソリューション本部 ソリューション開発部に所属

Solution Development, Solution Group 専門分野:情報工学

松永 英樹 ソリューション本部 ソリューション開発部に所属

Solution Development, Solution Group 専門分野:情報工学

周 斌 ソリューション本部 ソリューション開発部に所属

Solution Development, Solution Group 専門分野:情報工学

丸山 泰弘 ソリューション本部 ソリューション開発部に所属

Solution Development, Solution Group 専門分野:情報工学

倉林 則之 ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属

Medical Information System Business Development Office, Solution Group 専門分野:情報工学

大坪 隆信 ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属

Medical Information System Business Development Office, Solution Group 専門分野:情報工学

矢後 友和 ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属

Medical Information System Business Development Office, Solution Group 専門分野:情報工学