国際競争に勝つために今こそ地方大学の研究力を高めよ 豊田長康...

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鹿 国際競争に勝つために、今こそ 地方大学の研究力を高めよ!! Science Talks日本の研究力を考えるシンポジウム ~未来のために今、研究費をどう使うか?~ 2013.10.19 @東京工業大学くらまえホール

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鈴鹿医療科学大学

学長

豊田長康氏

熊本大学

学長

谷口功氏

国際競争に勝つために、今こそ 地方大学の研究力を高めよ!! Science Talks日本の研究力を考えるシンポジウム ~未来のために今、研究費をどう使うか?~ 2013.10.19 @東京工業大学くらまえホール

国際競争に勝つために、今こそ 地方大学の研究力を高めよ!!

1. 学術論文データの分析から

学校法人 鈴鹿医療科学大学長 豊田長康

2. 地方大学の現場から

国立大学法人 熊本大学長 谷口 功

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あまりにも異常な日本の論文数のカーブ!!

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日本の論文数の推移(トムソン・ロイター社InCites™で

分析、3年移動平均値)

全分野

臨床医学以外

臨床医学

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全分野論文数の国際比較(米国は1/2の値、トムソン・ロ

イター社InCites™で分析、3年移動平均) USA/2CHINAUNITED KINGDOMGERMANYJAPANFRANCECANADAITALYSPAININDIASOUTH KOREAAUSTRALIA

日本の論文数は2000年頃から停滞し始め04年頃から減少。これは世界的に見て唯一日本だけに生じた異常な現象である。 2/13

人口あたりの高注目度論文数は先進国で最低!!

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人口あたりのTop10%論文数は日本は21番目。韓国は日本の1.4倍、台湾は1.7倍、欧米諸国は2~6倍産生しており、その差はどんどん広がっている。

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人口100万当たりTop10%論文数(2010-2012の平均、分数カウント法、文部科学省科

学技術指標2013より計算、人口は2011年推計値)

イノベーションを売って海外から物を買おうと思うと、その「質×量」で他国を上回る必要がある。国民を食べさせるためという観点からは、国際競争力(国の豊かさ)は人口あたりの「質×量」で計算するべき

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唯一日本だけが大学の研究費が減少している!!

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OECDの計算では日本の人口あたり大学部門研究費は欧米諸国に比べて少なく、唯一減少。日本政府の研究費の計算は杜撰⇒誤った認識⇒誤った政策(大学の研究費をさらに20%削減しても欧米諸国並みという計算になる。)

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金額(

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00円)

主要国における大学部門の人口あたり研究開発費の推移

(OECD購買力平価換算、科学技指標2013より計算、人口は

2011年推計値)

日本 日本(OECD) 米国 ドイツ フランス イギリス 韓国

(科学技術指標2013から引用)

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研究費はFTE教員数(研究者×研究時間)を考慮して、運営費交付金の研究費部分だけを計算に含めるべき。

政府支出研究費総額を増やさないことには国際競争に勝てない!

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台湾と日本の人口百万あたり論文数の推移

(トムソン・ロイター社InCites™にもとづき分析、

3年移動平均)

日本

台湾

台湾は日本を猛追し追い抜き欧米に肉薄。両国の論文数のカーブは政府支出研究費のカーブと見事に一致

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日本と台湾の政府支出研究開発費の比較

日本

日本(OECD推計、

FTE教員数考慮)

台湾のデータはNational Statistics Republic of Chinaよ

り計算。単位:百万円、日本の人口相当額、購買力平価換算。日本のOECD推計値は科学技術指標統計表にもとづき計算

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減少する大学教員の研究時間 (神田 由美子、桑原輝隆、文部科学省科学技術政策研究所、2011)

2002年~08年にかけて研究者数×研究時間(FTE教員数)は下位の大

学で大きく減少しそれに伴い論文数が停滞~減少。基盤的運営費交付金の削減はFTE教員数の減に直結し、10%削減すれば教育の負担は変わらないので約20%FTE教員数が減少する計算になる(倍返し)。 6/13

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大学群別論文数(印象医学以外)の推移(トムソ

ン・ロイター社InCites™により分析、3年移動平均)

国立1-14 国立15-68 私立7 私立8-80 公立8

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2000年を基点とした大学群別臨書医学以

外の論文数の推移(トムソン・ロイター社

InCites™により分析)

国立1-14

国立15-68

私立7

私立8-80

臨床医学以外の論文数は、私立大の上位校を除いて2004年頃から減

少。特に地方国立大および公立大は停滞~減少が顕著で、上位大との格差が拡大した。今後も運営費交付金の削減や私学助成の削減が続けば、さらに論文数が減少することが予想される。

論文数(臨床医学以外)に見る大学間格差の拡大

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大学群別臨床医学論文数の推移(トムソン・ロイター

社InCites™にもとづき分析、3年移動平均)

国立1-14 国立15-42 私立7 私立8-28

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2000年を基点とした大学群別臨床医

学論文数の推移(トムソン・ロイター社

InCites™にもとづき分析、3年移動平均

国立1-14

国立15-42

私立7

私立8-28

地方国立大の臨床医学論文は2000年頃から停滞し、上位大との格差が

拡大(法人化前からの定員削減、上位大重点化政策が関係した可能性)。附属病院運営費交付金削減の一段落や附属病院経営の安定化等から最近各群とも上昇傾向が見え始めた。

臨床医学論文数にみる大学間格差の拡大

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y = 1.1019x + 39.861 R² = 0.9007

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10年間の

Top

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%論文数の増

加率(%)

10年間の論文数の増加率(%)

論文数増加率とTop10%論文数増加率の相関

(文部科学省科学技術指標2013より、2000-2002および2010-

2012の平均論文数の増加率を計算)

論文数増加率% Top10%論文数増加率%

中国 360.8 497.4

ブラジル 203.8 182.1

韓国 176.5 186.9

インド 146.2 186.3

台湾 125.5 153.6

ポーランド 97.3 173.2

スペイン 76.5 168.3

オーストラリア 66.6 129.4

イタリア 48.3 102.0

カナダ 47.7 77.1

ベルギー 40.7 114.1

オランダ 40.5 95.2

デンマーク 39.6 91.9

スイス 36.3 94.3

米国 22.9 27.8

ドイツ 17.8 74.0

フランス 16.9 62.2

イスラエル 8.1 34.7

スウェーデン 8.0 55.6

イギリス 6.2 60.4

日本 -3.1 15.0

高注目度論文数を増やそうと思えば、通常の論文を増やす必要がある(一人の研究者に論文を粗製濫造せよといっているのではい)。人×時間(FTE教員数)と

お金を増やさずに、競争原理や重点化(選択と集中)政策だけで質の高い論文を増やせると考えるのは幻想

質を高めるためには量が必要!!

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採択件数

合計配分額

東京大 3485 23426634 京都大 2717 13891247 大阪大 2424 11780910 東北大 2348 11233292 九州大 1746 6872312

名古屋大 1523 6637206

北海道大 1646 6514210

東京工業 大 787 4772739

筑波大 1160 3757665 慶應義塾大 933 3407446

神戸大 915 2824092 広島大 1010 2802051

早稲田大 752 2409147

岡山大 783 2293630 熊本大 590 2043196 千葉大 762 1996590

東京医科歯科大 551 1988190

金沢大 661 1720957 新潟大 629 1411397 徳島大 495 1334221 愛媛大 430 1260038 長崎大 520 1192295

首都大学東京 409 1139974

信州大 470 1072601

立命館大 421 972473

日本大 516 969020 山口大 426 941798

鹿児島大 425 933977

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科研費

1億円あたり論文数

科研費配分額(億円)

科研費配分額(2011年度、新規+継続)と論文の生産性(論

文数は2012年、トムソン・ロイター社InCites™にもとづく)

地方大は少ない研究費で多くの論文を産生してきた生産性の高い機関。その機能を低下させれば国全体の生産性も下がる。

地方大学の科研費あたりの論文の生産性は高い

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科研費の種目とWeb of Science論文数(文部科学省科学技術政策研究所のデータに基づく

研究活動スタート支援系統

若手研究(A)(S)

若手研究(B)

挑戦的萌芽研究系統

基盤研究(C)

基盤研究(B)

基盤研究(A)

基盤研究(S)

新学術領域研究系統

特別推進研究

高注目度論文数の研究費に対する生産性は基盤研究(C)や若手研究(B)と

いった少額で多数に配分している科研費が最も高い。「重点化(選択と集中)」には効果の逓減がある。日本全体の生産性の最大化のためには少額・多数配分研究費の比率を高めるべき

(注)途中結果であり、最終的な結果が変わる可能性がある。

少額ばらまきの科研費の方が高注目度論文の生産性が高い

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日本は何を誤ったのか?(1)

• 世界中で唯一日本だけが論文数が減少するという、世界の笑いものになるきわめて異常な事態を生じた原因は何か?

– 世界が研究費を増やしている中で、唯一日本だけが大学への研究費(基盤的交付金・助成金を含む)を削減したこと。

– 基盤的交付金を削減し競争的資金に回すことによって地方国立大(約750大学の中でも20~100位という中堅の大学)から上位大へ研究費をつけかえ、生産性の高いセグメントを弱体化させるという、とんでもなく誤った「重点化(選択と集中)」政策

– 基盤的交付金を削減するとFTE教員数減少が倍返しで起こること、つまり研究費を急速に削減していることへの自覚のなさ

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日本は何を誤ったのか?(2)

• 研究費総額の増を伴わない上位大の国際ランキング上昇や研究大学重点化等の「選択と集中」政策は、この事態をさらに悪化させる。

• 「FTE教員数削減+重点化」という不毛政策を即刻中止せよ!

• 「質×量」の数値目標を立てるべき!例えば「国民あたり高注目度論文数の国際ランキングを21位から19位へ」

• 台湾、韓国に追いつくためには、研究費総額( FTE教員数の増=基盤的交付金・助成金の増を含む)を2倍に増やす必要がある。

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国際競争に勝つために、今こそ 地方大学の研究力を高めよ!!

1. 学術論文データの分析から

学校法人 鈴鹿医療科学大学長 豊田長康

2. 地方大学の現場から

国立大学法人 熊本大学長 谷口 功

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地域社会を支える地方所在の大学 地方大学の役割 地方に存在する中小規模の国立大学等は、それ自体が地域の経済を支える大きな存在 (シンクタンク/オピニオンリーダー/コーデイネーターとして)

地域医療の砦 / 地域の産業 / 文化 / を支える存在

(研究:小規模大学であっても少なくとも国立大学は、

世界をリードする研究成果の一つや二つはある)

地域の活力の源(地域を世界に繋ぐ役割)

高度人材の供給源;地域の産業や文化的な社会活動の支え

地域の知の拠点であり地域の経済活動を支える「優良企業」

研究と産学連携活動: 大学は地域社会の発展に寄与する立場で進めている

研究資金の獲得の一助ではあるが、学術的にも有効

(社会のニーズを深く知り、新しい科学・技術を開拓する原動力に)

研究者: 単に「研究資金」の獲得のためではなく、本来の使命・役割に

立ち返って新しい科学や技術の開拓を心がける必要

社会は、短期的対応はもとより将来への中長期的な展望に立った

新しい知を生み出す研究に支援することが必要 1/6

我が国の研究費配分の特徴

時代変革のための適正な資金配分が必要 研究費や外部資金の配分の2つの特徴:

1)どの分野の外部資金の場合も獲得大学の序列がほぼ同じ

2)諸外国に比べて配分額の傾斜が大きい

(トップ10の大学が研究費の大半の配分を受けている:

トップ10の大学でも順位が下がると配分額は大きく減少)

一方・・・

1) これからの社会は多様性を大切に(新しい価値としてのシーズ発見の可能性を幅広く設定しておく必要)

2) 革新的な技術などはニーズ志向の研究から生まれることが多いとしても研究者の自由な発想に基づくユニークな研究の芽だけは保障しておく必要。

3) 大型の研究費配分は、活発な活動を展開している研究者にある程度の基盤的な研究費が確保された上で措置すべき(優れた研究者が各地域に存在し、次世代人材の発掘や育成が各地域で可能で、また、高いピークの研究を進めるためにも、広い裾野を持った研究体制が必要)

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熊本大学の外部資金: 約64億円(H24年度)

民間との共同研究/受託研究/寄附金/科研費

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地方所在の大学の現状

50%の研究者が年間100万の研究費もない現実 熊本大学の外部資金:平成24年度の例 約64億円

科研費が31億円、寄附金が18億円、共同研究・受託研究等が15億円

教員数約1000人、単純平均では640万円/一人(科研費:310万円/一人)

一方、研究費の取得は、大学の中でも特定の研究者に偏っている

25%は1000万円以上 / 約25%が平均100~200万円

約50%は100万円以下(75%は、研究費に不自由/困っている)

外部資金は、研究目的が決まっている

研究費として自由に使えるお金(校費は、1人当たり50万円程度)

(校費から、研究ユーテイリテイー経費(電気代、図書経費、

図書館で購入する外国雑誌の分担金など)を支払うため、

3〜40万円程度/一人が消える結果、このような金額に)

円安は負担に。旅費等(1〜2回出張で終わり)/書籍等を

購入で、研究に使えるお金は殆ど無い 4/6

知識基盤社会/イノベーションを担うために

基盤的な研究費(研究ベーシックインカム)が必要

特定の人や大学に資金が集中しすぎれば、研究実働人口が減少

全体として研究成果の輩出に限界

適正な基盤的な研究費の配分が必要

基礎研究:これまでの概念や常識を変える研究(広い裾野も必要)

応用研究:現実の課題を解決するための研究は、突き詰めれば

新しい科学を生み出すチャンス

評価できる研究を進める若手研究者を学長経費等で支援

しかし、理系特に実験系の研究は、外部資金無しには不可能

(地方の小さな大学は、大きな大学等に比べ基本的な研究環境に差

外部資金がとり難い状況がある=>負のスパイラルに陥る)

ある程度の「生活費」としての基盤的な研究費が必要

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まとめ:提言

「ニッポンの研究力」を真に上げるために:

1)基盤的な研究費と競争的な資金の両面が必要

基盤的な研究費(然るべき研究成果を出している研究者に)

(少なくとも生命系や理工系、人文社会系のいわゆる実験系の教員には)

研究ユーテイリテイー経費とは別に、年間300万程度を

後は、研究に応じて競争的資金を、そして評価を!

2)国家的な差し迫った研究は、研究テーマ毎に研究者を公募

一時的に大学等から国の研究機関等に集めて一定期間

研究に専念する制度を導入(研究成果を毎年評価し、結果を公表)

我が国の発展のために:

研究予算:民間の研究経費を除いて、GDPの0.5%を充てる (大型基礎研究を含めて総額2兆5,000億円を大学等の「基礎」研究機関に)

研究者も社会に対する責任を果たす覚悟を

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