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カツオ インド洋 (Skipjack, Katsuwonus pelamis最近一年間の動き 2006 年の総漁獲量は 62 万トンとなり過去最高を記録した が、その後急減し 2009 年には 43 万トンとなった。この原因 は、ソマリア沖の海賊問題で、EU まき網漁船がソマリア沖 の広い海域で操業を自粛したこと(図 1)及び資源状況が悪 化したことによるものと考えられる。 利用・用途 缶詰、かつお節、乾燥品などの加工品の原料として利用さ れる。 漁業の概要 総漁獲量は 1950 年から年々微増し 1983 年には 7 万トン を超えた。西インド洋でまき網漁業が本格化した 1984 年に 総漁獲量は 10 万トン台、1988 年に 20 万トン台、1993 年に 30 万 ト ン 台、1999 年 に 40 万 ト ン 台、2005 年 に 50 万 ト ン 台、2006 年に 60 万トン台をそれぞれ超え急増した。2007 〜 2009 年は、ソマリア沖海賊問題によりソマリア沖の広い海 域で EU のまき網漁船が操業を自粛したため(図 1)、総漁 獲量はそれぞれ 46 万トン、43 万トン 43 万トンへと急減し た(図2, 附表1)。 最近 5 年間(2005 〜 2009 年)の平均漁獲量は 49 万トン と推定されている。漁獲量の多い漁業国上位 8 カ国は、モル ディブ(5 年間の平均漁獲量 :10.4 万トン)、次いで スペイン (8.2 万トン)、イラン(6.8 万トン)、スリランカ (6.7 万トン )、 インドネシア (4.8 万トン)、フランス(4.0 万トン)そして セーシェル(3.9万トン)となっている(図2、附表1)。特に、 イランの流し網漁業による漁獲量が近年急増している。 最近 5 年間の平均漁獲量のうち、38%が EU(スペイン、 フランス)とセーシェルを中心としたまき網漁業、32%が流 し網漁業(主にインドネシア、イラン、スリランカ)、23% がモルディブなどの竿釣り漁業、7%がその他の漁業という 内訳になっている(図 3、附表 2)。2006 年までは全漁業の 漁獲量が増加する傾向にあったが、そのうち特にまき網漁業 の漁獲増大の比率が高く、FADs の利用拡大によるところが 大きかった。最近では、まき網による漁獲のうち 80%以上 が FADsでの操業によるものである(図 4)。 また、西インド洋 (FAO51 海域 ) と東インド洋(FAO57 海域)における最近 5 年間における平均漁獲量の割合は、 75%:25%となっている(図 5、 附表3)。 インド洋における日本のカツオ漁獲は、その殆どがまき網 漁業によるものである。1957 年以来、民間のまき網船 1 〜 2 隻が 1980 年代半ばまで操業していた。1989 年以降、まき 網船数が増加し最大時には 11 隻となり、1992 〜 1993 年の 漁獲は 3 万トンを超えた。また、1977 年からの海洋水産資 図1. ソマリア沖EU まき網漁獲量(1度区画)分布図(青:カツオ、黄: キハダ、赤:メバチ)左:海賊問題が無かった 2000 ~ 2007 年の平 年図、右:海賊問題が深刻化し海賊回避のためソマリア沖 500 海里 以内で操業が無くなった 2008 年の状況 図 2. インド洋カツオ国別漁獲量 (1950 ~ 2009)(IOTC データベース ) (2010 年 9 月 ) Copyright (C)2011 水産庁・水産総合研究センター All Rights Reserved 平成 22 年度国際漁業資源の現況 31 カツオ インド洋 31 − 1

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カツオ インド洋(Skipjack, Katsuwonus pelamis)

最近一年間の動き

2006 年の総漁獲量は 62 万トンとなり過去最高を記録したが、その後急減し 2009 年には 43 万トンとなった。この原因は、ソマリア沖の海賊問題で、EU まき網漁船がソマリア沖の広い海域で操業を自粛したこと(図 1)及び資源状況が悪化したことによるものと考えられる。

利用・用途

缶詰、かつお節、乾燥品などの加工品の原料として利用される。

漁業の概要

総漁獲量は 1950 年から年々微増し 1983 年には 7 万トンを超えた。西インド洋でまき網漁業が本格化した 1984 年に総漁獲量は 10 万トン台、1988 年に 20 万トン台、1993 年に30 万トン台、1999 年に 40 万トン台、2005 年に 50 万トン台、2006 年に 60 万トン台をそれぞれ超え急増した。2007 〜2009 年は、ソマリア沖海賊問題によりソマリア沖の広い海域で EU のまき網漁船が操業を自粛したため(図 1)、総漁獲量はそれぞれ 46 万トン、43 万トン 43 万トンへと急減した(図 2, 附表 1)。

最近 5 年間(2005 〜 2009 年)の平均漁獲量は 49 万トンと推定されている。漁獲量の多い漁業国上位 8 カ国は、モルディブ(5 年間の平均漁獲量 :10.4 万トン)、次いで スペイン

(8.2 万トン)、イラン(6.8 万トン)、スリランカ (6.7 万トン )、インドネシア (4.8 万トン)、フランス(4.0 万トン)そしてセーシェル(3.9 万トン)となっている(図 2、附表 1)。特に、イランの流し網漁業による漁獲量が近年急増している。

 最近 5 年間の平均漁獲量のうち、38%が EU(スペイン、フランス)とセーシェルを中心としたまき網漁業、32%が流し網漁業(主にインドネシア、イラン、スリランカ)、23%がモルディブなどの竿釣り漁業、7%がその他の漁業という内訳になっている(図 3、附表 2)。2006 年までは全漁業の漁獲量が増加する傾向にあったが、そのうち特にまき網漁業の漁獲増大の比率が高く、FADs の利用拡大によるところが大きかった。最近では、まき網による漁獲のうち 80%以上が FADs での操業によるものである(図 4)。

また、西インド洋 (FAO51 海域 ) と東インド洋(FAO57海域)における最近 5 年間における平均漁獲量の割合は、75%:25%となっている(図 5、 附表 3)。

インド洋における日本のカツオ漁獲は、その殆どがまき網漁業によるものである。1957 年以来、民間のまき網船 1 〜2 隻が 1980 年代半ばまで操業していた。1989 年以降、まき網船数が増加し最大時には 11 隻となり、1992 〜 1993 年の漁獲は 3 万トンを超えた。また、1977 年からの海洋水産資

図 1. ソマリア沖 EU まき網漁獲量(1 度区画)分布図(青:カツオ、黄:キハダ、赤:メバチ)左:海賊問題が無かった 2000 ~ 2007 年の平年図、右:海賊問題が深刻化し海賊回避のためソマリア沖 500 海里以内で操業が無くなった 2008 年の状況

図 2. インド洋カツオ国別漁獲量 (1950 ~ 2009)(IOTC データベース )(2010 年 9 月 )

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源開発センター(現在 : 水産総合研究センター開発調査センター)の(新・旧)日本丸が試験操業を開始し、現在までほぼ毎年調査を実施している。1993 年以降民間のまき網船数は徐々に減少し、最近 5 年間では日本丸の試験操業および1-2 隻のまき網船(民間船)が操業を行っているだけで、漁獲量は 2,000 〜 4,400 トンで推移している。( 図 2, 附表 1)。

生物学的特性

カツオは 3 大洋すべての熱帯〜温帯水域、概ね表面水温15℃以上の水域に広く分布する。インド洋では 40°S 以北に分布するが、紅海・ペルシャ湾には見られない(図 6)。インド洋のカツオ資源は他 2 大洋とは別系群と考えられている

(Matsumoto et al. 1984、Stéquert and Marsac 1986、Adam

1999 等による。)。インド洋のカツオの成長研究は確実な年齢形質が確認され

ておらず、標識魚の放流・再捕データを使っても生活史の限定的な期間における成長を推定するに留まっている。体長組成解析からは満 1 歳で 30 cm 台、満 2 歳で 50 cm 台、満 3歳で 60 cm 台に達する成長パターンが示されている。体長 -体重関係は、尾叉長 50 cm で概ね 2.5 kg とされる。寿命に関して言及されてはいないが 6 歳以上には達するであろう。

成熟は尾叉長 39 〜 43 cm で開始し、産卵は表面水温 24℃以上の水域で広く行われ、仔魚は 30 〜 36°S から 11 〜 15°Nまで出現する。産卵期は海域によりピークが見られるが、周年と考えられる。

餌は魚類・いか類・甲殻類で、カツオ成魚の捕食者はさめ・かじき類が挙げられている。また、未成魚以下の成長段階における捕食者は、他大洋と同様、カツオ自身を含めた高度回遊性魚類のまぐろ類・かじき類、その他大型の魚食性魚類や海獣、海鳥であろう。

資源状態

インド洋のカツオ漁獲の半分近くを占めるまき網による漁獲量変動はエル・ニーニョやダイポール現象の影響を受けることや、カツオに対する漁獲努力の変動もキハダ等の漁況の好・不調と関連することなど、本資源には多くの評価計算し難い要因がある。このことから、現在のところインド洋のカツオ資源についての数学・統計モデルによる資源評価は行われておらず、漁獲物サイズと CPUE や漁獲量の動向が資源状態の判断材料とされている(IOTC, 2008 〜 2010)。そのため、資源状況はハッキリわかっていない。

2010 年 10 月の第 12 回熱帯まぐろ作業部会で、資源に関する種々のデータを分析した結果以下のことが分かり、資源状況は以前に比べて悪くなっていると見られる。(a) 漁獲量は 2006 年にピークを記録したがその後急減している ( 図2,3,5)。(b) まき網 CPUE(探索日あたり)は素群れ操業の場合変動が小さいが (2.5 トン )、付き物操業の場合には 2002 年のピーク (19 トン ) から 2006 年まで変動しながら減少してゆき、2007 〜 2008 年には急減したが、2009 年に高レベル (18トン ) に戻った(図 7)。(c) 平均体重は、付き物操業の場合

図3. インド洋カツオ漁法漁獲量(1950~2009)(IOTC データベース) (2010 年 9 月)

図 5. インド洋カツオ海域別漁獲量(1950 ~ 2009)(IOTC データベース:2010 年 9 月)東インド洋(FAO 海域 57)、西インド洋(FAO 海域 51)

図 4. EU まき網漁業(素群れ操業・付き物操業別)漁獲量(千トン)

図 6. インド洋におけるカツオ分布、産卵域、および漁場

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カツオ (インド洋)資源の現況(要約表)

資 源 水 準 高 位

資 源 動 向 横ばい

世 界 の 漁 獲 量(最近 5 年間:2005 〜 2009)

43.0 〜 61.6 万トン平均:49.4 万トン

我 が 国 の 漁 獲 量(最近 5 年間:2005 〜 2009)

2.0 〜 4.4 千トン平均:3.2 千トン

管 理 目 標 MSY

資 源 の 状 態

資源評価を行っていないので資源状況は不明である。しかし、本種の平均体重、まき網・竿釣りCPUE および総漁獲量の減少で、以前より資源状況は悪化していると見られる。2011 年に資源評価実施予定。

管 理 措 置資源管理方策に関する勧告は現在のところない。

管理機関・関係機関 IOTC

1990 年代は、2.1 〜 3.0 kg の範囲で ( 平均 2.6 kg) で大きく変動したが、2007 〜 2008 年は 2 kg に減少した。2009 年には 2.4 kg に増加したが、1990 年代の平均より低い(図 8)。(d) また、素群れ操業で漁獲されたカツオの平均体重は、2007 年までは 3 〜 4kg 内 ( 平均 3.2 kg) で変動したが、その後急減し 2009 年には 2.4 kg となった(図 8)。

管理方策

第 12 回の熱帯まぐろ作業部会 (2010 年 10 月 ) における資源解析の結果を受け、第 13 回科学委員会 (2010 年 12 月 ) は、管理方策に関し以下の考え方を示した。カツオは生産性が高く生活史の特性から簡単には過剰漁獲になるとは思えない。しかしながら、最近年総漁獲量およびまき漁業 CPUE が減少傾向を示しており資源動向が懸念されはじめている。そのため、来年(2011)の第 13 回熱帯まぐろ作業部会で、標識データも取り込み本格的な資源評価を実施し資源動向を把握する予定である。したがって、現時点では資源動向に関する十分な情報が少ないため、科学委員会は管理方策に関する勧告を出さないことにした。

また、モルディブなど島しょ国・沿岸国が、EU 諸国(遠洋漁業国)のまき網によるカツオの漁業相互作用(先取り)の悪影響を懸念しており、2008 年の第 11 回熱帯まぐろ作業部会では両者の激しい対立(意見の相違)が浮き彫りになった。そのほか、まき網漁業による FADs の利用拡大によるカツオ生態への影響が問題視されている。そのため、今後まき網およびモルディブ等の漁業データの包括的整理、各々の

漁業におけるサイズ別漁獲量・CPUE データの解析、FADsに集まるカツオの生態や資源との関連性等に関する調査が必要である。そして、その結果に基づき管理方策も検討してゆく必要がある。

執筆者

まぐろ・かつおグループ遠洋水産研究所  国際海洋資源研究員   西田 勤

参考文献

Adam, M. S. 1999. Population dynamics and assessment of skipjack tuna (Katsuwonus pelamis) in the Maldives. Doctoral thesis of the University of London. 302 pp.

IOTC. 2008. Report of the Eleventh Session of the IOTC Scientific Committee. IOTC-2008-SC-R[E]. 167 pp.

IOTC. 2009. Report of the Twelveth Session of the IOTC Scientific Committee. IOTC-2009-SC-R[E]. 190 pp.

IOTC. 2010. Report of the Thirteenth Session of the IOTC Scientific Committee. IOTC-2010-SC-R[E]. 228pp.

Matsumoto, W.M., R.A. Skillman, and A.E. Dizon. 1984. Synopsis of biological data on skipjack tuna, Katsuwonus pelamis. NOAA Tech. Rep. NMFS Circ., 451: 1-92.

Stéquert, B. and F. Marsac. 1986. La pêche de surface des thonidés tropicaux dans l’Océan Indien. FAO fisheries technical paper 282. FAO, Rome, Italy. xiv +213 pp.

図 7. EU まき網ノミナル CPUE の年変動(付き物操業、素群れおよび両者)(単位:探索日当たり漁獲量)(トン)

図 8. EU まき網船で漁獲されたカツオ平均体重の年変動(付き物操業、素群れおよび両者)(単位 :kg)

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附表 1. インド洋カツオ国別漁獲量 (1950 ~ 2009) (IOTC データベース:2010 年 9 月現在 )

***: 操業なし

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附表 2. インド洋カツオ漁法別漁獲量 (1950 ~ 2009) (IOTC データベース:2010 年 9 月現在 )

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附表 3. インド洋カツオ海域別漁獲量 (1950 ~ 2009) (IOTC データベース:2010 年 9 月現在 )

西インド洋(FAO 海域 51)および東インド洋(FAO 海域 57)

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