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創薬における動物とヒトのあいだの血液学 2 よりよい血液の理解のために Ⅹ.抗凝固とは 中 竹 俊 彦

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創薬における動物とヒトのあいだの血液学 2̶よりよい血液の理解のために̶

Ⅹ.抗凝固とは

中 竹 俊 彦

なかたけ としひこ1941年生まれ。1963年、熊本医学技術専門学校(現・熊本保健科学大学)卒業後、

三鷹新川病院(現・杏林大学医学部付属病院)検査技師、 杏林学園短期大学助手、助教授、

杏林大学保健学部講師、助教授、教授を歴任。

一貫して臨床血液学の最前線で研究、指導に邁進してきた。

2007年に大学を定年退職後も、かつての研究室での経験をもとに、「駅前塾」

(東京八王子駅前の自己研修支援プログラム会場)で「血液の語り部」として

後進の指導に当たっている。

また、豊富な経験を活かし、シスメックス株式会社主催の「非臨床血液コンファレンス」

Web「質問箱」などで、アドバイザーとして活躍中。

目  次

Ⅹ 抗凝固とは 95

1.抗凝固分子(群) 98

 1-1)凝固系に特異的な抑制分子 98

 1-2)線溶系から回り道する凝固抑制分子(線溶系)なのに、血栓に向かう例 99

 1-3)血小板に関連する凝固抑制 99

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Ⅹ 抗凝固とは

 試験管内での凝固機構は理解できて、いよいよ血管内ではなぜ凝固しないで流れるのか、そこへ疑問が到達していきます。 プロトロンビンからトロンビンへの転化(活性化)は、途中で消えていくこと、これが血液・血流の生理的な機能の中に潜んでいる仕組みの一つなのです。 プロトロンビン活性化の場面では、Xaのセリンプロテアーゼ活性の基質がプロトロンビンです。プロトロンビンからフラグメント1と2(prothrombin fragment1and2;F1+2)が切り離され、簡単に記号「F1+2」で表記されます。この段階の凝固反応は、肉眼では観察できません。基質であるプロトロンビンは上記の様に、試験管内の血液において、凝固反応により「F.Xaのセリンプロテアーゼ活性」によってトロンビンへ転換されます。 生体内ではトロンビンの発生は初期のうちに、ネガティブ フィードバック(負帰還経路)機構が働いて消去される仕組みがあります。つまり、車でいうと運転者が行うエンジンブレーキの作動と似ている仕組みです。最新型の乗用車は、前方に人物がいるとき、あるいは停止車両があるときに、フロント部分に仕組んだセンサーとメカニックが作動して、衝突しないように自動停止するコマーシャルが登場しました。血液凝固の自動制御は、人類誕生以来、機能しているものです。 凝固の仕組みは作動が始まったとき、初期にはトロンビン活性は少量の活性化から感知されるのであれば、できたトロンビンは血管内皮細胞面に発現されているヘパリン様物質(ヘパラン硫酸プロテオグリカン;heparan sulfate proteoglycan:HSPG)に結合しているアンチトロンビン(AT)によって強力に阻害されるでしょう。または、突破しても下流のトロンボモデュリン(TM)でトロンビン活性は方向転換され、プロテイン C(PC)の活性化(APC)に向けられます。つまり、生理的に、初期のうちは、フィブリン形成には至

らないように自動的に抑制される状態になっています(以下の 血管内内皮細胞 の囲み部分<トロンビンの行動(作用)の箇条書き a-g.項>を参照)。 試験管内の凝固の説明に戻します。 試験管内で生じたトロンビンは、典型的なセリンプロテアーゼの特性を持ち、凝固・線溶過程で次の様に特異的な複数の機能を発揮します。以下のトロンビン機能の発揮は、作用していく順序が生理学的に決まっているはずですが、相対する多くの凝固因子、分子との会合を私達の認識の範囲で順序だてて挙げることはできません。活性の「生成された初期」には、何が優先されるのかは気になるところですが、凝固機序の連鎖反応の順序通りに挙げてみると、以下のようになるのではないかと思われます。そして、結果としては、活性化反応の強いときだけが、私達の目にはフィブリン形成となって見えてきます。 試験管の中にはもちろん、血管内皮細胞の生理的な機能が直接反映できませんので、以下の順序のうち、血管内皮細胞の関与部分が欠落したのも同然です。

そこで<トロンビンの行動(作用)の箇条書き>にすると以下の様になります。

このシリーズで(血液の流れとは)に提示した図式を参照してください:「図7 血栓の原因と抗血栓分子との均衡」として提示しましたので、その図式を参照してください。その図は、トロンビンが赤文字の記号で、「 IIaの発生」の意味です。  

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 トロンビンは ATによって真正面で受け止められる図式に仕立てました「図8 血栓の原因と抗血栓分子との均衡の破綻」を参照してください)。 さらに、突破したトロンビンがあれば赤い点線で右方向へトロンビンの流れを示しました。トロンビンの発生は、文字で追ってみると次のように、 a. 血漿中の遊離アンチトロンビン(AT)に結合します。

 次いで、活性が残っていくなら、 血管内皮細胞上のヘパリン様物質(HSPG)と結合している TMに結合します。そこで、トロンビン活性が連続して発生してくるならば、 b. 第 V因子(F.V)を活性化(Va)します。 c. 第 VIII因子(F.VIII)を活性化(VIIIa)します。 d. 血小板のトロンビン受容体に結合して活性化し、血小板凝集や放出反応を促進します。 e. フィブリノゲン分子に対して特異的な基質として結合した場合だけ、フィブリノゲンを限定分解します。

図7(再掲載) 血栓の原因と抗血栓分子との均衡(バランス)の維持

 血管内皮細胞は①凝固因子(TF、vWF、VIII)産生のほか、凝固・線溶系において相反する特性の分子(A:凝固に対し B:解消)を産生・配置させて、血流を調整する。さらに、血管内皮細胞は血漿中の凝固・線溶因子と連動して、止血・血栓形成の予防、凝固・線溶を調整する。これら一連の機能(分子)で血管内皮細胞は凝固亢進に対応してまず① AT(アンチトロンビン)反応の場の供給と同時に、 ②HSPGが VIIa・TFまたは VIIa・TF・Xaを阻害する。次いで、③ EPCRは血漿から PC(プロテインC)、PS(プロテインS)を結合して待機し TMが IIa(トロンビン)を結合した合図になり、トロンビン活性転換で APC(活性化プロテインC)を形成させて Va、VIIIaを阻害する。 一方、血管内皮細胞は PAI-1または t-PAを相前後して血中へ供給して、血漿 PLgと共同してフィブリンが形成される時点に結合させ、適切な時点で PLにしてフィブリン分解を促す。さらに血管内皮細胞はアラキドン酸代謝で PGI2を産生・供給して血小板凝集・粘着を阻害する一方、アルギニンを素材として一酸化窒素ガス(NO)を発生して短時間に血管の弛緩・拡張を促し、血流を確保・維持する。HSPG:heparin sulfate proteoglycan:いわゆる、ヘパリン様物質と呼ばれる、TM:thrombomodurin:トロンボモデュリン、その他の略号は前掲の、表1凝固・抗凝固分子、線溶・抗線溶関連分子とその略号一覧表へ

※Ⅰ.平常時は血栓を形成しないように青文字の分子が赤文字の分子を抑制・解消する。

VIIa・TFVIIa・TF・Xa

産生:TF/vWF/VIII/HSPG/TFPI/EPCR/TM PAI-1/t-PA時間差放出か?

血小板凝集阻止

EPCR・PS/ PC ・TM

HSPG ・TFPI

血小板活性化・PDGFで血管内皮細胞活性化 血管内皮細胞は寿命で

透過性亢進・疲弊・萎縮・脱落へ

血漿中に存在する凝固因子群:I,Ⅱ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹに

対して抗凝固分子群:AT,PC,PSなどが対応し さらにまた、抗線溶分子群に対して線溶因子群が対応する

血管内皮細胞の産生する抗線溶分子: PAI-1線溶:t-PA

血管内皮細胞表面に配置の抗凝固分子:HSPG,TFPI,EPCR,TMなどが血小板,血管維持に対応する。

凝固亢進または原因

PAI-1

t-PA

PLg→PL

PGI2、

血管拡張TF

vWFVIII

IIa発生A

T

APC

VaVIIIa PCI

NOガス

− 98 −

 f. 第 XIII因子に遭遇した場合だけ限定分解し、活性化(XIIIa)にします(XIIIaの作用については後述)。

 g. 血管内皮細胞上の TMと結合してフィブリノゲン限定分解作用を失い 、さらに TMの作用を受けてPC活性化へ転換 されます。APCが発生して、(Va)(VIIIa)を阻害します。

 h. 血管内皮細胞上のトロンビン受容体に結合し t-PA、TF、炎症性サイトカイン、細胞接着分子などの分泌を促します。

  ここで「血流の理解」が役立つのは、次の段階へのイメージ展開です。 すなわち、血管内皮細胞は「第一の宿命」として、末梢へ血液を送る使命を負っていることです。血流自体は、血漿中の抗凝固分子と血管内皮細胞の表面の多様な機能の助けでトロンビンを消去し、末梢の組織へ血液を送る宿命的な機能を果たす仕組みが、イメージとなって見えてくるはずです。 さらに血管内皮細胞は、活性化されると「線溶系」を作動する機構もスタートさせる場面があります。線溶

系はインヒビターが先に登場したのでは、線溶の仕組みが機能できませんので、 PAI-1/t-PA時間差放出か ?

という図式への書き込みにしましたが、生体にとって有利な含みを残したつもりの表現です。 図8血栓の原因と抗血栓分子との均衡の破綻( II.敗血症の時、青文字は赤文字を解消できるのか? その

※Ⅱ.敗血症の時、青文字分子は赤文字分子を解消できるのか? 解消不能時に血栓形成

血漿中に存在する凝固因子群:I,Ⅱ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹなどに対抗する抗凝固分子群:AT,PC,PS と抗線溶分子群と線溶因子群との対応ともに

バランスが崩壊していく 血管内皮細胞の産生する抗線溶分子: PAI-1と

線溶:t-PAのバランスも崩壊していく

血管内皮細胞表面に配置の抗凝固分子:HSPG,TFPI,EPCR,TM

が消耗・減少し血小板凝集,血管維持に対応でき難くなる

VⅡa・TFVⅡa・TF・Xa↑

産生:TF↑/vWF↑/VⅢ/HSPG↓/TFPⅠ↓/EPCR/TM↓PAⅠ-1/t-PA時間差放出か?

血小板凝集阻止

EPCR・PS/ PC ・TM↓

顆粒球PAF放出、PGE、LT、TBXE2、血小板凝集活性化・PDGFで血管内皮細胞活性化(TF放出)

血管内皮細胞は寿命で透過性亢進・疲弊・萎縮・脱落へ

PAI-1 t-PA

PLg→PL

TNFαのほか、ⅠL-1、ⅠL-2、ⅠL-6、ヒスタミン、ブラジキニン、セロトニン放出を誘発(↑)

PGⅠ2、 NOガスTF

vWFVⅢ

HSPG ・TFPI↓

APC*

1VaVⅢa

細菌由来のLPS増加 抗

炎症作用

発現

*2

ショックでは

血管拡張と

血圧低下

IIa発生A

T ↓

図8(再掲載) 血栓の原因と抗血栓分子との均衡の破綻

*1  バランスが崩れると青文字部分が反転・減少し、敗血症性ショック→血圧低下、心拍数の増加、心拍出量の減少、血流低下、血小板凝集・フィブリン凝固血栓形成などの結果として「多臓器不全」に進展する。

*2  一方、APCはBcl-2の発現を高めカスパーゼ3の活性化を阻害し抗アポトーシス作用を示して炎症に伴う細胞死を保護する(敗血症の特効薬に承認:rh-APC製剤に対し、米国 FDA)。さらに、① AT、②TM、③ PS、④TFPIいずれにも抗炎症作用を確認:鈴木 宏治.血液凝固制御機構 in三輪血液病学(第3版)文光堂、406p ,2006

 さらに、血管内皮細胞は PAI-1または t-PAを相前後して血中へ供給し、血漿 PLgと共同してフィブリンが形成される時点に結合させ、適切な時点で PLにしてフィブリン分解を促す。さらに血管内皮細胞はアラキドン酸代謝で PGI2を産生・供給して血小板凝集・粘着を阻害する一方、アルギニンを素材として一酸化窒素ガス(NO)を発生して短時間に血管の弛緩・拡張を促し、血流を確保・維持する。HSPG:heparin sulfate proteoglycan:いわゆる、ヘパリン様物質と呼ばれる、TM:thrombomodurin:トロンボモデュリン、その他の略号は前掲の表1凝固・抗凝固分子、線溶・抗線溶関連分子とその略号一覧表へ

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図式では凝固亢進を「細菌由来の LPS増加」で代表させました。 凝固因子、抗凝固分子、線溶系、抗線溶分子の力関係は、生体の中でしかも血管内で決まるもので、採血した血液では血管内皮細胞表面の機能の状況を測定値で直接知ることはできないのです。ここに凝固・線溶系の検査データの解釈の難しさが「凝縮されて」いて、判読を困難に感じさせるのです。図式に表せない要因は、まだまだ血流中に多く含んでいるといわなければなりません。  さて、ここまで来ると、凝固因子の活性化に対して、抗凝固分子は線溶系分子との共同作業となります。そして凝固に対する抗凝固は、時間差のある活性の発揮で吊り合い、さらにその間に抗線溶分子が入り込んでくるという状況がイメージされてきます。 しかし、私達の知り得る測定値は、生体の反応のどの時点で、促進と抑制のどの時点にたって評価すべきか時系列でデータを見ない限り、動きが掴めないのです。 したがって、生体の状況がどう動いているのかを正しく知るには、ある時点だけの検査成績では凝固線溶系のデータの評価は困難です。 血流について私達が生理機能の動きを知ることであると考えると、測定値も2時点、理想的には3時点で時系列に並べてみた場合にのみ、動態としてイメージできると思います。測定値が1時点での測定しか許されない実験もありますが、それでは動態をイメージできないというさらに難しい問題が集約されると思います。 臨床医は患者に対峙して、感染症や軽度の凝固亢進状態をイメージするとき、血液検査データで動態を知ります。それには、何よりも血小板の時系列データを知りたくて、測定時刻単位で血液検査データを求めてくる現状が多く、いみじくも評価の難しさを物語っています。動物実験では、時系列で血液凝固・線溶検査を実行するのが、ヒトの臨床血液検査に比べると著しく難しい問題があると想像できます。

1.抗凝固分子(群)

 抗凝固分子の量が多くて出血するという不具合が出るのは、これまでに病態としてあるのか、よく知りません。問題は抗凝固分子の消費と産生不足だと思われます。線溶系の異常は後述します。 抗凝固分子が先天的に低い AT異常症、TM異常症(構造的な)*、PC異常症、PS異常症などが、先天性凝固亢進;先天性血栓性素因1)、2)で、若年性血栓傾向です。分子異常もあり得るので、免疫学的蛋白量測定と活性を対比させると見えてきます。しかし、血管内皮細胞の膜表面で結合して機能している物質は、免疫学的に定量ができませんから、血漿中に切り離されてきた成分の定量では実態の把握は難しいと思います。抗凝固分子は、特性が対応関係にある凝固因子の活性と対比させないと意味が掴めません。すなわち AT、TFPI、PC、PSなどの異常症は、以下の関係において「特発性血栓症」として若年性に発生します。

1-1)凝固系に特異的な抑制分子 凝固因子に特異的抗凝固分子を対比させると次のようになります。 AT:Xaとトロンビンの阻害(ここが先天的に欠損であれば上記の「特発性血栓症」へ) TFPI:TF-VIIa、Xaの阻害(同様に、欠損すれば血栓傾向へ) PC(APC・PS共同で):Va、VIIIaの阻害(同様に、欠損では血栓傾向へ) TM:? (欠損する例があるのか? 情報も例数少なく実態は不明。機能の活性化ルートはPC→ APC→ APCが上記の Va、VIIIa阻害へ循環していく) TM異常症(分子構造的な)*TM:欠損・欠乏?(これらはともに、血管内皮細胞の合成・分泌(発現)の異常ですから、これだけで血栓症になり得るのかどうか、関連情報を得ていないので私はよく分かりません)

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 HSPG欠損はヒトではなく、遺伝子欠損マウスでの情報があるようです。ところが、意外な展開として、赤血球膜面にもこのHSPGは発現されているらしく、熱帯熱マラリア原虫は赤血球表面のヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)」に結合するというのです3)。しかも、実験的にはヘパリン添加で原虫の進入が阻害されるという情報は興味深いものです。

〈XI参照情報〉1) 難病情報センター < http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/078_i.htm>(参照2011-01-24)2) 金沢大学血液内科  ①< http://www.3nai.jp/weblog/entry/27733 .html>(参照2011-01-24) ②< http://www.3nai.jp/weblog/entry/35302 .html>(参照2011-01-24)    ②の情報には、「最近、胎児性陳旧性脳梗塞を認めたトロンボモジュリン(TM)異常症(Gly412Asp変異)ホモ接合体の症例

報告や、Arg455Val変異多型を保有する男性で VTEとの関連性を認めた報告があり、VTEの遺伝因子候補として注目されています」とあります。

3) 小林 郷介、ほか:熱帯熱マラリア原虫 BAEBLは赤血球表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合する.The Journal of Bio-logical Chemistry, Vol. 285 , Issue 3 , 1716-1725 , JANUARY 15 , 2010

東京大学農学生命科学研究科プレリリース :< http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/kato100113 .html>(参照2011-01-24)

1-2)線溶系から回り道する凝固抑制分子(線溶系)なのに、血栓に向かう例 ① プラスミノゲン欠損(異常)症・プラスミン活性不全:本来は線溶により凝固抑制ですが、血栓症になる

のかどうか。 ② t-PA:プラスミンを活性化して線溶系を作動してから凝固を抑制(一次線溶、二次線溶)するはずの物質の産生・放出機能が欠損していると血栓症になるのかどうか。

   上記の実態は線溶系の検査として実施・把握されるものです。ところが、これらは異常症として発生するのはむしろ凝固抑制のできない異常症(=血栓症)としての病気が表面に出てくる懸念があります。

 すなわち、プラスミノゲン異常症、t-PA放出障害、PAI-1過剰症などは、凝固抑制ではなく促進へ向かっていきます。本来の分子の性質が、線溶系の分子ですから、過剰症なら線溶亢進に該当するはずですが、遺伝性のプラスミノゲン異常症、t-PA放出障害、PAI-1過剰症はどれもが「血栓を惹起」しやすくします。

1-3)血小板に関連する凝固抑制 血小板を一時的に抑制する成分は、血管内皮細胞から合成・分泌される代謝産物の PGI2、NO(一酸化窒素ガス)があります。これらが生理的に血小板機能を抑制していることは、健常人の血小板凝集能検査で約50分間にわたって観察されます。しかし、血小板を含む血液も PRP(血小板に富む血漿)も、静置するだけの予備操作で次第に凝集能は健常レベルまで回復・上昇して、1時間後には健常人としてのプラトーになって測定されます。 逆に、血管内皮細胞が機能的に感染やエンドトキシンなどで傷害されていくと、必然的に血小板機能は抑制できなくなり、血小板血栓はできやすくなります。

創薬における動物とヒトのあいだの血液学 2―よりよい血液の理解のために―学術資料2011年 初版発行

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