0 技術情報誌 no 010 cc19 - shodexエチル α-d-グルコシドの分析 エチル...

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図1. VG-50 充てん剤の模式図 Shodex Technical article No.010 Page 001 No.010 技術情報誌 HILIC モードを用いた食品中の 機能性糖類の分析 緒 言 近年、食品中の機能性糖類はその作用が注目されており、分析 の需要が高まっている。本研究に用いた Shodex HILICpak VG-50 シリーズは、糖類や親水性化合物の分離に適したポリ マー系アミノカラムである。その充てん剤は、ポリビニルアル コール(PVA)微粒子の表面に第三級アミンを介して親水性基を 結合させている。図 1 に充てん剤の模式図を示す。 このカラムでは還元糖に対しても充てん剤とのシッフ塩基形 成による吸着が抑えられ、良好な回収率が得られる。また、シリ カ系アミノカラムに見られるカラムブリード(充てん剤由来の 分解生成物の溶出)がほとんどなく、バックグラウンドの上昇や MS でのイオン化阻害が生じにくい。アルカリ性条件が適用で きること(使用可能範囲は pH 2~13)もシリカ系アミノカラム にない特長である。 本研究では、 HILICpak VG-50 4E を用いて、食品中の機能性 糖類の分析条件を構築した。また、実試料の前処理方法を併せて 検討し、実際の糖類の分析に有用な結果を得たので、その分析例 を紹介する。 実験方法と結果 1. ラクチュロースの分析 ラクチュロースは、乳製品に含まれる腸内環境を整える機能 性糖類である。消化・吸収されずに腸まで届くため、ビフィズス 菌の栄養源となりビフィズス菌が増殖する。ラクチュロース、 ラクトース、 およびエピラクトースは構造が似通っており、 HPLC 分析において分離が非常に困難である。 HILIC モードでは、通常アセトニトリルと水(緩衝液)の混合 溶液を溶離液として使用する。最初に、アセトニトリルと水の 混合溶液を溶離液に用いて、上記 3 種の二糖類の分離の検討を 行った。アセトニトリルと水の混合比率を検討したが、これら の二糖類の完全分離はできなかった。アセトニトリル比率を 増やした場合、保持時間が長くなり、ベースラインノイズも 大きくなったため S/N の低下が認められた(図 2)。 そこで、 VG-50 シリーズで使用可能なメタノールを加え、水、 アセトニトリル、およびメタノールの混合溶液を溶離液として 分析条件の検討を行った(図 3)。溶離液にメタノールを添加 することにより、分離特性が変化し、構造が似たこれらの二糖 類の分離に成功した。また、検量線の直線性は良好で、定量性も 高いことが確認された。 © SHOWA DENKO K.K. All Right Reserved 図2. ラクチュロース分析の条件検討 (1) H2O/CH3CN = 15/85 H2O/CH3CN = 20/80 0 5 10 15 20 25 min Sample Column Eluent Flow rate Detector Column temp. : 5 mg/mL each in H 2 O/CH 3 CN = 1/1, 5 μL : Shodex HILICpak VG-50 4E : H2O/CH3CN = 20/80 or 15/85 : 1.0 mL/min : RI : 40 ºC 図3. ラクチュロース分析の条件検討 (2) Sample Column Eluent Flow rate Detector Column temp. : 5 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 5 μL : Shodex HILICpak VG-50 4E : H2O/CH3CN/CH3OH = 5/75/20 : 1.0 mL/min : RI : 40 ºC 600,000 400,000 200,000 0 peak area 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 concentration (%) Lactulose R 2 = 0.9995 Epilactose R 2 = 0.9994 Lactose R 2 = 0.9991 1. Lactulose 2. Epilactose 3. Lactose 0 5 10 15 min

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Page 1: 0 技術情報誌 No 010 CC19 - Shodexエチル α-D-グルコシドの分析 エチル α-D-グルコシドは、清酒に特異的に含まれる旨味成 分である。近年、この成分に保湿効果があることが発見され、注

図1. VG-50 充てん剤の模式図

ShodexⓇ Technical article No.010 Page 001

No.010技術情報誌

HILIC モードを用いた食品中の機能性糖類の分析

● 緒 言 近年、食品中の機能性糖類はその作用が注目されており、分析の需要が高まっている。本研究に用いた ShodexⓇ HILICpakⓇ VG-50 シリーズは、糖類や親水性化合物の分離に適したポリマー系アミノカラムである。その充てん剤は、ポリビニルアルコール(PVA)微粒子の表面に第三級アミンを介して親水性基を結合させている。図 1 に充てん剤の模式図を示す。

 このカラムでは還元糖に対しても充てん剤とのシッフ塩基形成による吸着が抑えられ、良好な回収率が得られる。また、シリカ系アミノカラムに見られるカラムブリード(充てん剤由来の分解生成物の溶出)がほとんどなく、バックグラウンドの上昇や MS でのイオン化阻害が生じにくい。アルカリ性条件が適用できること(使用可能範囲は pH 2~13)もシリカ系アミノカラムにない特長である。 本研究では、 HILICpakⓇ VG-50 4E を用いて、食品中の機能性糖類の分析条件を構築した。また、実試料の前処理方法を併せて検討し、実際の糖類の分析に有用な結果を得たので、その分析例を紹介する。

● 実験方法と結果1. ラクチュロースの分析 ラクチュロースは、乳製品に含まれる腸内環境を整える機能性糖類である。消化・吸収されずに腸まで届くため、ビフィズス菌の栄養源となりビフィズス菌が増殖する。ラクチュロース、 ラクトース、 およびエピラクトースは構造が似通っており、 HPLC 分析において分離が非常に困難である。 HILIC モードでは、通常アセトニトリルと水(緩衝液)の混合溶液を溶離液として使用する。最初に、アセトニトリルと水の混合溶液を溶離液に用いて、上記 3 種の二糖類の分離の検討を行った。アセトニトリルと水の混合比率を検討したが、これらの二糖類の完全分離はできなかった。アセトニトリル比率を 増やした場合、保持時間が長くなり、ベースラインノイズも 大きくなったため S/N の低下が認められた(図 2)。

 そこで、 VG-50 シリーズで使用可能なメタノールを加え、水、アセトニトリル、およびメタノールの混合溶液を溶離液として分析条件の検討を行った(図 3)。溶離液にメタノールを添加 することにより、分離特性が変化し、構造が似たこれらの二糖類の分離に成功した。また、検量線の直線性は良好で、定量性も高いことが確認された。

© SHOWA DENKO K.K. All Right Reserved

図2. ラクチュロース分析の条件検討 (1)

H2O/CH3CN = 15/85

H2O/CH3CN = 20/80

0 5 10 15 20 25 min

SampleColumnEluentFlow rateDetectorColumn temp.

: 5 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 5 μL: Shodex HILICpak VG-50 4E: H2O/CH3CN = 20/80 or 15/85 : 1.0 mL/min: RI: 40 ºC

図3. ラクチュロース分析の条件検討 (2)

SampleColumnEluentFlow rateDetectorColumn temp.

: 5 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 5 μL: Shodex HILICpak VG-50 4E: H2O/CH3CN/CH3OH = 5/75/20 : 1.0 mL/min: RI: 40 ºC

600,000

400,000

200,000

0

peak

are

a

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5concentration (%)

Lactulose R2 = 0.9995Epilactose R2 = 0.9994Lactose R2 = 0.9991

1. Lactulose2. Epilactose3. Lactose

0 5 10 15 min

Page 2: 0 技術情報誌 No 010 CC19 - Shodexエチル α-D-グルコシドの分析 エチル α-D-グルコシドは、清酒に特異的に含まれる旨味成 分である。近年、この成分に保湿効果があることが発見され、注

図4. 乳飲料中のラクチュロース分析

ShodexⓇ Technical article No.010 Page 002

No.010技術情報誌

 次に、市販の乳飲料(成分にラクチュロース含有の記載

あり)を測定した。除タンパクのためまず乳飲料を 1 mL 量り取り、そこに同量のアセトニトリルを添加した。遠心分離(890 x g , 10 min)後の上清をメンブレンフィルタ(0.45 µm)でろ過し、これを試験溶液とした。分析の結果、乳飲料 A、 B 共にラクチュロースが検出され、さらにその他の糖と分離できることを確認した(図4 )。以上から、 VG-50 4E は飲料中のラクチュロース分析に適用可能であることが示された。

2 . 希少糖の分析 希少糖は、食後の血糖値上昇を緩やかにし、内臓脂肪の蓄積を抑える機能性糖類として様々な食品への活用が増えている。また、種々の生理活性があることが知られており、医薬品、機能性食品、化粧品などへ添加され、その応用について多くの研究がなされている。今回は、国際希少糖学会で定められている6種の希少糖の分離の検討を行った。 最初に、水とアセトニトリルの混合溶液を溶離液に用いて、これら 6 種の希少糖の分離の確認を行った(図 5)。 6 種の希少糖の完全分離は実現せず、アセトニトリル比率を上げた場合には S/N の低下が認められたため、水とアセトニトリルの混合溶液での分離は断念した。

 そこで、ラクチュロース分析と同様に、 水、 アセトニトリル、およびメタノールの混合溶液を溶離液として分析条件の検討を行った。溶離液にメタノールを添加することにより 6 種の希少糖の分離に成功した。結果を図 6に示す。検量線の直線性は良好で、定量性も高いことが確認された。

 次に、市販の希少糖含有シロップの測定を実施した。まず希少糖シロップを 0.1 g 量り取り、そこに超純水を 2.5 mL 加えて 撹拌し溶解した。完全に溶解したことを確認し、アセトニトリルを 2.5 mL 加えて撹拌した。これをメンブレンフィルタ(0.45 µm)でろ過し、試験溶液とした。分析の結果、 D-Psicose と D-Allose が検出され、さらにその他の糖と分離できることを 確認した(図7)。なお、 L-Glucose の位置にピークが検出されたが、本条件では D-Glucose も同位置に溶出するため L 体と D 体を合わせたピークとなる。

Sample: 5 μL1. Fructose 5. Epilactose 2. Galactose 6. Sucrose3. Glucose 7. Lactose 4. Lactulose

乳飲料 (A)

乳飲料 (B)

標準溶液

0 5 10 15 min

分析条件は図3参照

図5. 希少糖分析の条件検討 (1)

1. L-Ribose 2. D-Psicose3. Xylitol 4. D-Tagatose5. D-Allose6. L-Glucose

H2O/CH3CN = 15/85

H2O/CH3CN = 20/80

0 5 10 15 min

SampleColumnEluentFlow rateDetectorColumn temp.

: 5 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 5 μL: Shodex HILICpak VG-50 4E: H2O/CH3CN = 20/80 or 15/85 : 1.0 mL/min: RI: 40 ºC

1. L-Ribose 4. D-Tagatose 2. D-Psicose 5. D-Allose3. Xylitol 6. L-Glucose

0 5 10 15 20 min

図6. 希少糖分析の条件検討 (2)

SampleColumnEluentFlow rateDetectorColumn temp.

: 5 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 5 μL: Shodex HILICpak VG-50 4E: H2O/CH3CN/CH3OH = 5/75/20 : 1.0 mL/min: RI: 40 ºC

Page 3: 0 技術情報誌 No 010 CC19 - Shodexエチル α-D-グルコシドの分析 エチル α-D-グルコシドは、清酒に特異的に含まれる旨味成 分である。近年、この成分に保湿効果があることが発見され、注

図7. 希少糖シロップの分析

図8. エチル α-D-グルコシド分析の条件検討

図9. 清酒中のエチル α-D-グルコシド分析

ShodexⓇ Technical article No.010 Page 003

No.010技術情報誌

3. エチル α-D-グルコシドの分析 エチル α-D-グルコシドは、清酒に特異的に含まれる旨味 成分である。近年、この成分に保湿効果があることが発見され、 注目されている。ここでは、清酒中に含まれる糖類とエチル α-D-グルコシドの同時分析条件の検討を行った。標準試料には糖類とエチル α-D-グルコシドの混合標準液を用いた。水とアセトニトリルの混合溶液を溶離液として分離の検討を行った(図8)。アセトニトリル比率 80 %で良好な分離が得られた。検量線の直線性は良好で、定量性も高いことが確認された。

 次に市販の清酒を測定した。清酒 1 mL を量り取り、そこに 等量のアセトニトリルを加えて均一になるように撹拌した。 これをメンブレンフィルタ(0.45 µm)でろ過し、試験溶液とした。分析の結果、清酒 A、 B 共にエチル α-D-グルコシドと Glucose が主に検出された(図9)。エチル α-D-グルコシド直後の ピークは不明であるが、 LC/MS 測定から分子量 138 および 252 の 2 成分であると考えられる。

● 結 論 ShodeⓇ HILICpakⓇ VG-50 4E を用いて、 HILIC モードで食品中の様々な機能性糖類の分析ができることが示された。 HILIC モードでは水/アセトニトリルの混合溶液が一般的に用いられるが、水/アセトニトリル/メタノールの混合溶液を溶離液と して用いることで分離の改善を図ることが可能であった。また、 実試料中に含まれる機能性糖類の分析が可能であることを確認した。食品分野への適用が期待される。

● 参 照 ShodexⓇ 技術情報誌 No.3 「HILIC モードを用いたアルカリ性条件下での各種親水性物質の LC/MS 測定」: HILICpakⓇ VG-50 2D を、市販の栄養飲料中の成分分析に適用した例である。 ポリマー系カラムで適用可能なアルカリ性条件下の LC/MS で栄養飲料の分析を行った。 栄養飲料中の成分として糖類、アミノ酸類、カフェイン、および水溶性ビタミンが含まれており、これらを同時分析できる。

技術情報中の数値及び記載内容は、お客様におけるカラム選択のために記載したものであり、保証値では無く、また、お客様での用途への適合性を保証するものではありません。

GJ.NO.010.② 20. D. SEP. P

https://www.shodex.com/

Sample: 5 μL1. L-Ribose 5. Fructose2. D-Psicose 6. D-Allose3. Xylitol 7. Galactose4. D-Tagatose 8. L-Glucose

希少糖シロップ

標準溶液

0 5 10 15 20 25 min

分析条件は図6 参照

1. Ethyl α-D-Glucoside2. Fructose3. Glucose4. Sucrose5. Maltose

0 5 10 15 min

SampleColumnEluentFlow rateDetectorColumn temp.

: 1 mg/mL each in H2O/CH3CN = 1/1, 10 μL: Shodex HILICpak VG-50 4E: H2O/CH3CN = 20/80: 1.0 mL/min: RI: 40 ºC

0 5 10 15 min

清酒 (A)

清酒 (B)

標準溶液

Sample: 10 μL1. Ethyl α-D-Glucoside2. Fructose3. Glucose4. Sucrose5. Maltose

分析条件は図8参照