リサーチ・ジャーナル01 はじめに

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002 Research Journal Issue 01 スクエア 広場はじめに Foreword 001 / 002 アートの 現場から立ち上げる リサーチと議論のためのプラットフォーム アサヒ アートスクエアはこれまで、「未来 市民 地域をキーワードに美術音楽演劇ダンスファッション建築などあらゆるジャンルの 表現の発表の場創作の場また交流拠点として様々な活動を展開 してきましたアサヒ アートスクエアリサーチ ジャーナル Asahi Art Square Research Journal そうした アートの現場で生まれる問題意識や課題を多角的な視点から考え多くの方々と共有し議論するためのプラット フォームです 毎号テーマを設定し 表現者研究者プロデューサーやディレクター キュレーターなど様々な書き手にご寄稿いただきます ますます多様 化しつつあるアート アーティストの実践やアートスペースの可能性に ついて考察するための発想の手がかりをアーカイブしていきます創刊号のテーマは、「スクエア 広場としましたアサヒ アートスクエ アは美術館やギャラリー 劇場ライブハウスといったある機能に特化 した文化施設と違いパーティースペースを転用したアートスペースで 幅広い活動に応えられるこの空間が人々が集い対話し 多様 な活動や文化価値観が育まれる場になることを目指しています号ではアーティストや研究者たちの論考やインタビューを通して アサ アートスクエアという場の可能性をその名称に含まれる スクエア 広場という視点から考えます2013年夏市民が抗議行動を繰り広げたイスタンブールのタクシム 広場に偶然居合わせた写真家の港千尋さんは現地の写真とともに バランスの空間」「判断の空間という視座から スクエア 広場読み解きます朝市などの日常の経済が営まれる空間は瞬く間に市 民による判断と要求のための空間になる 高度に情報化された現代 においても 広場はその力を失ってはいないと 港さんは言います演劇の可能性を拡張する試みとして ツアーや社会実験的なプロ ジェクトを現実の都市空間で様々に展開してきた高山明さんはこれ までの活動において 一貫して スクエア 広場をテーマにしてきたと

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002

Research Journal Issue 01

スクエア[広場]

はじめに

Foreword

001 / 002

アートの「現場」から立ち上げる、リサーチと議論のためのプラットフォーム

アサヒ・アートスクエアはこれまで、「未来・市民・地域」をキーワードに、

美術、音楽、演劇、ダンス、ファッション、建築など、あらゆるジャンルの

表現の発表の場、創作の場、また交流拠点として様 な々活動を展開

してきました。

アサヒ・アートスクエア リサーチ・ジャーナル[Asahi Art Square Research

Journal]は、そうした「アートの現場」で生まれる問題意識や課題を、

多角的な視点から考え、多くの方 と々共有し議論するためのプラット

フォームです。

毎号テーマを設定し、表現者、研究者、プロデューサーやディレクター、

キュレーターなど、様 な々書き手にご寄稿いただきます。ますます多様

化しつつあるアート、アーティストの実践や、アートスペースの可能性に

ついて考察するための、発想の手がかりをアーカイブしていきます。

創刊号のテーマは、「スクエア[広場]」としました。アサヒ・アートスクエ

アは美術館やギャラリー、劇場、ライブハウスといったある機能に特化

した文化施設と違い、パーティースペースを転用したアートスペースで

す。幅広い活動に応えられるこの空間が、人々が集い対話し、多様

な活動や文化、価値観が育まれる場になることを目指しています。今

号ではアーティストや研究者たちの論考やインタビューを通して、アサ

ヒ・アートスクエアという場の可能性を、その名称に含まれる「スクエア[広場]」という視点から考えます。

2013年夏、市民が抗議行動を繰り広げたイスタンブールのタクシム

広場に偶然居合わせた写真家の港千尋さんは、現地の写真とともに、

「バランスの空間」「判断の空間」という視座から「スクエア[広場]」を

読み解きます。朝市などの日常の経済が営まれる空間は、瞬く間に市

民による判断と要求のための空間になる。高度に情報化された現代

においても、広場はその力を失ってはいないと、港さんは言います。

演劇の可能性を拡張する試みとして、ツアーや社会実験的なプロ

ジェクトを現実の都市空間で様 に々展開してきた高山明さんは、これ

までの活動において、一貫して「スクエア[広場]」をテーマにしてきたと

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Research Journal Issue 01

スクエア[広場]

はじめに

Foreword

002 / 002

語ります。「演劇と広場が交わるところ」に立ち、広場を通して演劇を、

演劇を通して広場をそれぞれ拡張しようと試みた自身の2つのプロ

ジェクトから、両者の現代的な可能性を提示します。

元『ダムタイプ』のメンバーで、現在は「共有空間」の開発をテーマに

活動を続ける美術家の小山田徹さんは、人 が々交流し、多様性が生

み出される場が成立するには、その場の獲得感が重要だと言います。

自ら獲得したという思いは、その場に対しての愛を生み、主体的な関わ

りを促します。90年代から現在まで続く小山田さんの「共有空間」の

実践のなかに、獲得する「スクエア[広場]」の手がかりを探ります。

この10年間、アサヒ・アートスクエアを拠点に、日本のパフォーマンス

シーンを牽引してきた「吾妻橋ダンスクロッシング」。あらゆるジャン

ルの最先端パフォーマンスを“X”(クロス)させるこの実験的なイベント

をキュレーションしてきた、桜井圭介さんが、「スクエア[広場]」で展開

したこの10年間の試行錯誤を振り返ります。

大阪・釜ヶ崎の戦後誌や、現代都市における社会的・空間的排除に

ついて研究してきた原口剛さんは、「スクエア[広場]」とは、所与のもの

ではなく、生成する過程、プロセスなのだと言います。寄せ場・釜ヶ崎

の1960 -70年代をひも解きながら、みずからの力で広場を生みだそ

うとする民衆的な行為に「スクエア」生成の条件を見いだします。

日本のクリエイティブ・コモンズ、フリーカルチャー運動の発展に尽力

してきたドミニク・チェンさんは、情報システム、ネットワークの技術や

議論を参照しながら、創造活動とコミュニケーションを表裏一体のも

のとして捉える「場の思考」を提起します。表現することや考えること、

また自己そのものを「場=結節点」として開くこと。他者との間により多

くのコミュニケーションが生起することを重視するその姿勢は、「スク

エア[広場]」というものが、思考や生き方の新たなモデルとなりうること

を示します。

本ジャーナルが「スクエア[広場]」の現代的な可能性を考える機会と

なり、お読みになったみなさんの生きる現場においても、新たな視座を

拓くものになっていましたら幸いです。