05 01核酸プローブの調製...
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核酸ハイブリダイゼーション l 1本鎖の核酸同士が2本鎖を形成する現象を利用。 l ハイブリダイズするには互いの塩基配列が,かなりの程度,相補的である必要がある。 l 標識核酸プローブを用いて,非標的核酸分子混合物の中から,類似配列をもつDNAやRNA分子(配列類似性が十分高い分子)を検出。
核酸ハイブリダイゼーションの原理 l一本鎖の核酸,すなわち,プローブと標的DNAを混合して,行う。 lプローブは,一般的に1種類の既知の核酸分子からなる均一の集団で,クローニングされたDNAや化学合成されたオリゴヌクレオチドの場合が多い。 l標的DNAは,ゲノムの制限酵素消化物や細胞から抽出されたRNAなどの雑多な核酸分子群 lプローブや標的DNAが二本鎖である場合は,一本鎖とするため
に,熱やアルカリで変性させる。 lプローブや標的DNAの再相補対形成が起こるが,同時に,プローブDNA鎖とそれに相補的な標的DNA鎖対形成して,ヘテロ二本鎖を形成する。これにより,既知プローブを用いて,複雑な標的DNA中から,プローブDNAと配列が類似したDNA断片を同定できる。図6-8
融解温度とハイブリダイゼーションの厳密性 l相補的な2本のDNA鎖を分離するのに必要なエネルギーは「鎖
の長さ」,「塩基組成」,「化学的条件」に依存。 鎖の長さ:標識反応によってDNAプローブの長さが短くなることが多いが,標識前の長さが500bp以上ならばこの影響は無視できる。 塩基組成:プローブのGC対の割合が高いと二本鎖は分離しにくい。 化学的条件:一価の陽イオンの存在下では,二本鎖の安
定性が増す。ホルムアミドや尿素など化学的に水素結合を壊す変性剤は,二本鎖を不安定化する。 融解温度(Tm):二本鎖から一本鎖へ遷移が観察される中間点での温度。核酸塩基由来の260nmの紫外線吸収を測定することで,遷移を観察可能。←二本鎖DNAはヌクレオチド単独に比べ,紫外吸収が少ない(淡色効果)
融解温度とハイブリダイゼーションの厳密性 l哺乳類のゲノムは,塩基組成が40%GCで,生理的条件付近では87℃のTm
で変性する。 lハイブリダイゼーションの条件は,ヘテロ二本鎖が形成されやすい条件とするため,Tmより25℃低い温度に設定する。 l過剰プローブを洗浄する際は,相同性の高い配列間で形成された二本鎖以
外を破壊するため,より厳しい条件で行う。 lDNAプローブの場合,1%ミスマッチでTmは約1℃低下する。ただし,塩基の相補的な領域が100bp以上ならば,かなりの程度ミスマッチが許容される。図6-10
l多重遺伝子や反復配列ファミリー遺伝子を同定する場合は,NaCl濃度を上
げたり,温度を下げたりすることで,ハイブリダイゼーションの厳密性(hybridization stringency)を低下させる。図6-10
ハイブリダイゼーションの厳密性を上昇(低NaCl濃度または高温)させると,ミ
スマッチのあるヘテロ二本鎖の解離を促進することが出来,オリゴヌクレオチドプローブを用いる場合では,1つのミスマッチを区別することも可能。
核酸プローブの調製 l一本鎖あるいは二本鎖で調製し,使用時には一本鎖にして使用 l従来型二本鎖DNAプローブは,細胞又はPCRを用いたクローニングにより単離後,in vitroDNA合成反応過程で標識dNTPを取り込ませ標識する。→図6-2
lRNAプローブはプラスミドベクターにクローニングしたDNAを鋳型として,ファージプロモーター・ファージRNAポリメラーゼを用いて,標識rNTPを取り込ませ合成する。→図6-3
オリゴヌクレオチドプローブは,化学合成された,短い一本鎖DNA
断片で,既知の標的DNA中の特異的塩基配列に基づいて設計する。縮重配列をもつプライマーを作製する場合がある。5’末端に標
識することが多い
lニックトランスレーション(図6-2(A)): 膵臓デオキシリボヌクレアーゼ(DNaseI)などのエンドヌクレアーゼにより,一方の鎖に切れ目(ニック)を入れ,大腸菌DNAポリメラーゼにより,ニックを起点として,合成と分解を5’→3’方向へ同時に行うことで,標識ヌクレオチドを取り込ま
せながら,一方の鎖を入れ替えていく。
ランダムプライマー(図6-2(B)): 変性して一本鎖にした鋳型DNAへ,ランダムヘキサマーをハイブリダイゼーションさせ,DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント(エ
キソヌクレアーゼ活性を欠くが,ポリメラーゼ活性はある)により,標識ヌクレオチドを取り込ませながら,新たなDNA合成を行う。 高比活性の標識DNAが合成可能。鋳型DNA全長にわたって均一に標識可能。
l一本鎖オリゴヌクレオチドの末端標識(図6-4(A)): γ-リン酸位に32PをもつATP存在下で,ポリヌクレオチドキナーゼを用いて一本鎖DNAの5’末端のリン酸基を交換する。二本鎖DNAでも適用可。
RNA標識(図7-6): マルチクローニングサイトに隣接したファージプロモーター配列を利用して,挿入DNAのin vitro転写して,RNAプローブを調製(ランオフ転写)。ファージRNAポリメラーゼSP7/T3/T7のプロモーターとポリメラーゼが利用可能。組織in situハイブリダイゼーションのために広く用いられる。
同位体を使った核酸標識法 l放射性標識プローブは,放射性同位体(32P, 33P, 35S, 3H)をもつ
ヌクレオチドを含み,溶液中や固体標本中でも検出が可能。 l32Pは,サザンブロットハイブリダイゼーション,ドットブロットハイ
ブリダイゼーション,コロニー又はプラークハイブリダイゼーションに利用。32Pは高エネルギーのβ粒子を放射し感度がいいが,高い解像度が求められる画像解析には不利であり,半減期(14.3
日)が比較的短い。 lDNA鎖合成に基づく標識では放射性同位体がα-リン酸部位にある32P標識ヌクレオチドを,キナーゼによる末端標識では,[γ-32P]ATPを用いる。 3H標識ヌクレオチドは染色体
non-RI標識法 l直接非放射性標識:特定の波長の光を当てて蛍光を発する蛍光色素(フルオレセイン,ローダミンなど)を含んだ修飾ヌクレオチドを用いる。 l間接非放射性標識:修飾されたレポーター分子がヌクレオチド前駆体にスペーサーを介して化学的に結合している。DNAに取り込まれたレポーター分子は親和性の高いタンパク質やリガンドと特異的に結合し,検出される。実際は,親和性分子に,蛍光色素やアルカリフォスファターゼやペルオキシダーゼがカップルされている。
様々な核酸ハイブリダイゼーション反応(BOX 6.4) l プローブと標的DNAの違いは,標識の有無ではなく,標的DNAは,たくさんの異なる配列を含んだ未知のサンプルであり,プローブの解析対象を指す。 標的核酸 プローブ サザンハイブリダイゼーション DNA制限酵素消化物 DNA ノーザンハイブリダイゼーション total RNA, mRNA DNA in situ ハイブリダイゼーション 組織切片中のRNA RNA
lノーザンブロットハイブリダイゼーション: 標的核酸をDNAの代わりにRNAを用いる,サザンブロットハイブリダイゼーションの変法。DNAプローブを用いる。←特定の遺伝子発現パターンの情報を得る。図6-13
in situハイブリダイゼーション l染色体in situハイブリダイゼーション(蛍光in situハイブリダイゼーション,FISH): あるDNA配列や遺伝子が染色体上のどこに位置するかを決定する方法。最近はゲノム配列情報が十分利用可能なため,FISH
をしなくても,染色体情報が得られることが多い。 l組織in situハイブリダイゼーション: 組織切片中のRNAに対して,標識した一本鎖の相補的RNAプ
ローブ(アンチセンスリボプローブ)をハイブリダイゼーションさせる。プローブ標識には,35Sのような放射性同位体を用いて,オー
トラジオグラフィを用いてシグナルを検出する方法と,蛍光標識などの非放射性標識を用いて,蛍光顕微鏡で検出する方法とがある。
格子状に高密度で並べたDNAクローンに対する核酸ハイブリダイゼーション(図6-17)
←専用ロボットの開発で,高密度フィルターの作製が容易 →効率的なライブラリースクリーニング(YACクローンなど)が実現
DNAマイクロアレイ lDNAクローンの微小スポットを並べるマイクロアレイ:予め準備したDNAクローンを顕微鏡用スライド硝子の表面に刻みつける。 lオリゴヌクレオチドをin situで合成するマイクロアレイ(Affymetrix社):個体支持体に整列固定された未標識DNAをプローブとし,標的DNAを標識して,ハイブリダイゼーション溶液とする。
遺伝子発現とは一般的に
遺伝子から転写される、mRNAが合成されること
または、そのmRNAから翻訳されるタンパク質が合成されることを指す
最終的な発現はタンパク質レベルである。ただし、RNA遺伝子はRNAレベルまで。
すなわち、
遺伝子発現レベルとは一般的に
mRNAレベルとタンパク質レベルがあり、遺伝子発現はそれぞれのレベルで調節を受ける
必ずしも、mRNA発現量がタンパク質発現量に、直接,反映するとは限らない。しかし、反映することも多いのも確か。
なぜ、遺伝子発現解析をするか?
一部例外はあるが、体細胞は全く同じ遺伝子のセットを持っていることから
細胞ごとに認められる解剖学上、生理学上、細胞挙動上の差異は遺伝子発現パターンの違いに起因していると考えられるから。
遺伝子発現解析のための研究材料(試料) • RNA/cDNAやタンパク質の粗精製物(total extract) • 組織片や全胚
• 組織培養された生体細胞(in vivoでの細胞特性の差に注意) • 蛍光タグ(蛍光タンパク)
• レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法により切り出された組織等からの均一な細胞集団または単一細胞
遺伝子発現の分解能
•RNAまたはタンパク質抽出物における総発現量の解析(低分解能)
→発現組織の分布、発現物の大きさ、アイソフォームの有無
•細胞内での局在や組織特異的発現パターンの解析(高分解能)
ハイブリダイゼーションによる遺伝子発現解析
• ノーザンブロットハイブリダイゼーション
•組織in situハイブリダイゼーション:RNAの空間的発現パターンの解析。組織切片〜5μm
•ホールマウントin situハイブリダイゼーション:全胚が対象。プローブの浸透性
•単一細胞でのRNAプロセシング、輸送、細胞質への局在を解析可能
•蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)は定量的
•ガラス表面上にオリゴヌクレオチドやcDNAクローンを高密度に固定したマイクロアレイによりhigh throughputな解析が可能
PCRを用いた遺伝子発現解析
•RT-PCR(低分解能):total RNAまたはmRNAを鋳型として逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いてcDNAを調製し、このFirst Strand DNA(一本鎖DNA)を鋳型として、PCR(特定のmRNAに含まれる配列を増幅するプライマーを用いる)を行う。もともとの鋳型となったRNAに含まれる標的mRNA量を反映して、PCR産物が合成される。
•ノーザンブロットに比べて、RNAが少量ですむ。
•プライマーセットが認識している部位しか見ていないことに注意
Real-time PCR (qPCR, Q-PCR)
lリアルタイムPCRは,遺伝子発現の定量し,アレイ技術により検出された遺伝子発現差異の確認に用いられる。また,臨床サンプルにおける特定DNA配列のコピー数の解析や突然変異やSNP(single nucleotide polymorphisms)のスクリーニ
ングにも利用される。 lリアルタイムPCRでは,蛍光検出可能なサーマルサイクラーにより,特定の核酸
を増幅すると同時にその濃度を測定する。そのため,反応途中で反応液の一部を取り分ける必要はない。 l一般的には,リアルタイムPCRにおける産物の定量には,二本鎖DNAに結合した結合した場合のみで蛍光を発する, SYBR Greenのようなインターカレートする蛍光色素を用いるか,TaqMan probeのようなラベル化されたオリゴヌクレオチドプローブを用いて,標的DNAとハイブリしたプローブが増幅過程で分解されることで
初めて蛍光を発する性質を利用する。 lリアルタイムPCRにおいて高感度を達成するには単一の増幅産物を得る必要が
ある。 l融解温度:PCR反応の最後に増幅産物DNAの融解温度(Tm)を測定することで,
増幅産物が均質であり,特異的産物かどうかを判定できる。プライマーダイマーがコンタミすると,Tmが低下するので,簡単に区別できる。 lプライマーを設計する場合は,増幅物が100-200bpになるようにし,Tmは55-
60℃とする。また,アニーリング温度で2次構造を取らないことを確認する。
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cDNAライブラリー
l 遺伝子発現は細胞種や発生段階等で異なるため,目
的に応じた組織からmRNAを調製してcDNAライブラリーを調
製する必要がある。一般に,オリゴdTカラムなどを用いて
mRNAを精製して,ライブラリー作製に用いる。
l 様々なcDNAライブラリーのmRNA配列を網羅的に解
析してデータベース化しているESTデータベースが利用できる。
配列解析に用いられたESTクローンも入手可能である。
タンパク質発現の解析
•特異的抗体を用いる
•抗体の標識
•直接検出法:精製抗体にレポーター分子(FITCなどの蛍光プローブ、ビオチン)直接結合させる
•間接検出法:レポーター分子が結合している二次試薬を一次抗体(標的タンパク質と結合する)へ結合させる
•二次試薬には、抗一次抗体(Ig分子のFc)として作製した二次抗体を用いることが多い
•二次試薬に結合させるレポーター分子としては、蛍光色素、horse raddish peroxidase(HRP)、alkaline
phosphatase(AP)など
•二次抗体は簡単に入手でき、適応範囲が広い
免疫ブロット法(ウェスタンブロット): 粗抽出物をSDS-PAGEにより分子サイズで画分したゲ
ル内のタンパク質をニトロセルロース膜へ転写固定して、特異的抗体をハイブリさせて検出。
免疫細胞化学(免疫組織化学、免疫染色): タンパク質レベルの組織内での発現パターンの解析
凍結またはワックス法米した組織切片に特異的抗体を作用させる
免疫蛍光顕微鏡法: 蛍光色素標識した抗体を利用
蛍光タンパク質も利用できる
超微細構造を解析する場合は電子顕微鏡を利用。金コロイドで標識した抗体を用いる。
抗体の作製
従来法(polyclonal抗体、抗血清):マウス、ラット、ウサギ、ヤギに免疫原(immunogen)を繰り返し注射して作製
20-50アミノ酸長の合成ペプチド:比較的簡単だが、確実に出来るとは限らない
融合タンパク質:発現ベクターを用いて作製。抗体を得られる可能性は高い
モノクローナル抗体を作る場合はBリンパ球由来の単一クローン細胞を分離し、不死化させる必要がある(細胞融合によるハイブリドーマの作製) エピトープタギング:人工的に連結させたエピトープに既存の抗体で検出
FLAG ヒトc-Myc HA(インフルエンザウイルス由来のヘマグルチニン) Hisタグ(6〜10残基のヒスチジンを含む短いペプチド)
自己蛍光タンパク質タグの利用
•オワンクラゲ由来のGFP(238AA)は蛍光顕微鏡や共焦点蛍光顕微鏡により簡便に検出可能
•動物細胞における遺伝子発現検出に広く利用
•GFPとの融合タンパク質の利用(タグ)して細胞内局在を解析
エンハンサーまたはサイレンサー
転写開始部位から離れた位置(遠位)にタンパク質(転写因子)が特異的な結合をすることで、転写が影響をうけるDNA配列、すなわち、シス因子
活性化する場合をエンハンサー
抑制する場合をサイレンサー