1. 2. 3....1. 裁判所 ~ 2.地方自治 3. その他...

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※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司 《本日の予定》 1. 裁判所 2. 地方自治 3. その他 《裁判所の地位》 裁判所とはどのような地位を有しているのだろうかという話 ①司法権の担い手としての地位②合憲性の統制機関としての地位(81 ) 2 つの地位を有する 《司法権の範囲》 明治憲法 :民事・刑事事件のみ 日本国憲法:民事・刑事のみならず行政事件も含む □□□民事事件=私法( 民法等) 上の権利義務に関する争い 刑事事件=犯罪に関する裁判 行政事件=行政権の活動による権利侵害等を争う裁判 《司法権とは》 具体的な争訟について、法を適用し宣言することによって、これを裁定する国家の作用をい 《法律上の争訟》 ①当事者の具体的な権利・義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ②それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものをいう そして これに( 法律上の争訟) あたらなければ原則として裁判所の審査権は及ばない つまり 裁判( 司法審査) ができないということ 司法権 21 憲法 7 Point

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Page 1: 1. 2. 3....1. 裁判所 ~ 2.地方自治 3. その他 《裁判所の地位》:裁判所とはどのような地位を有しているのだろうかという話 ①司法権の担い手としての地位と②合憲性の統制機関としての地位(81条

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1

担当 町田校 鈴木康司 《本日の予定》

1.裁判所 ~ 2.地方自治 3.その他

《裁判所の地位》:裁判所とはどのような地位を有しているのだろうかという話

①司法権の担い手としての地位と②合憲性の統制機関としての地位(81条)の2つの地位を有する

《司法権の範囲》 明治憲法 :民事・刑事事件のみ 日本国憲法:民事・刑事のみならず行政事件も含む

□□□民事事件=私法(民法等)上の権利義務に関する争い

刑事事件=犯罪に関する裁判 行政事件=行政権の活動による権利侵害等を争う裁判

《司法権とは》:具体的な争訟について、法を適用し宣言することによって、これを裁定する国家の作用をい

《法律上の争訟》 ①当事者の具体的な権利・義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、 ②それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものをいう そして これに(法律上の争訟)あたらなければ原則として裁判所の審査権は及ばない

つまり 裁判(司法審査)ができないということ

司法権

21年 憲法 第 7回

Point

Page 2: 1. 2. 3....1. 裁判所 ~ 2.地方自治 3. その他 《裁判所の地位》:裁判所とはどのような地位を有しているのだろうかという話 ①司法権の担い手としての地位と②合憲性の統制機関としての地位(81条

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 2

一.《法律上の争訟にあたらない場合について》 法律上の争訟の①の要件を満たさない場合 これは 具体的な権利義務にあたらない場合や法律関係の存否にあたらない場合をさす 具体的には 抽象的な法令の解釈または効力を争うこと 法律上の争訟の②の要件を満たさない場合

これは 終局的解決ができない場合をさす

□□□ 原則:法律上の争訟にあたった場合のみ司法審査可能 つまり

この場合に裁判が可能ということ 例外:①法律上の争訟にあたらない場合

:②法律上の争訟にあたった場合でも司法審査しない(司法権の限界) つまり

審査が可能であるにもかかわらずできない場合(明文上の限界)(下記1.) 審査が可能であるにもかかわらずあえてしない場合(解釈上の限界)(下記3.)

□□□司法権の限界4つは覚えること □□□法律上の争訟にあたらない場合原則として司法審査はできないが、現行法上住民訴訟という手段で例外

的に裁判をすることができる

二.《司法権の限界》=司法審査が及ばない場合の話 1.明文上の限界 2.国際法上の限界 3.解釈上の限界 1.明文上の限界について

:憲法の明文に、司法審査が及ばないことが規定されているもの=条文に司法審査不可と規定有 ①議員の資格の争訟裁判(55条) ②裁判官の弾劾裁判(64条)

これは 法律上の争訟にあたったとしても明文規定があるので司法審査が及ばない 2.国際法上の限界について :治外法権等

2つだけ

Point

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3.解釈上の限界について (1)自律権:懲罰や議事手続など国会または議院の内部事項について自主的に決定できる権能には司法審査を

及ぼさない (2)自由裁量:立法や行政の裁量行為については、当・不当が問題になるだけで、裁量権を著しく濫用・逸脱

した場合でないと裁判所の統制は及ばない (3)統治行為:直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為では法律上の争訟にあたる場合でも

司法審査が及ばない (4)部分社会の法理:一般市民法秩序と直接関連しない純然たる内部紛争は司法審査が及ばない

~一.《法律上の争訟にあたらない場合》に関する判例~

□□□(警察予備隊違憲訴訟)=法律上の争訟の①の要件満たさない (概要)警察予備隊令に基づき、政府が予備隊の設置、隊員の募集を行ったことに対し、社会党を代表して鈴

木氏が、かかる行為は憲法9条(平和主義)に反するとして違憲を主張した事件 (結論)司法権が発動するためには、具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。したがって、具体的

な争訟事件が提起されていないのに、将来を予想して憲法およびその他法令等の解釈に対して抽象的

判断することはできないとした □□□(板まんだら事件)=法律上の争訟の①の要件は満たすが②の要件を満たさない (概要)元創価学会の会員が、本尊たる「板まんだら」が偽物だとして、寄付行為に錯誤があったので、寄付 の無効を求めた事件 (結論)錯誤無効の主張(民法95条)ゆえに具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の形式を採っ

ているので①の要件はみたす。しかし、そのためには板まんだらが本物であるかどうかを判断しなく

てはならず、宗教上の教義に関する判断を行わなければならないので、終局的解決が不可能である。

よって、①の要件はみたすものの、②の要件を満たさないので法律上の争訟にあたらないとした

□□□法律上の争訟の①の要件を満たさないのが警察予備隊違憲訴訟で、②を満たさないのが板まんだら

事件である

Point

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~二.の3.解釈上の限界に関する判例~ 〈自律権に関する判例〉 □□□(警察法改正無効事件) (概要)警察法の法案議決の際、野党議員の強硬な反対のために議場が混乱したまま可決された新警察法案の 議決の効力が争われた事件 (結論)両院において適法な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定 の議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきではないとした

〈統治行為論に関する判例〉 □□□(長沼事件控訴審) (概要)ミサイル基地の建設に反対する住民たちが、基地建設のために行った保安林の指定解除処分の取り消 しを求めて争った事件 (結論)札幌地判は自衛隊は憲法9条にいう「戦力」に該当し違憲であると判示したが、札幌高判は、自衛隊

が憲法9条にいう「戦力」にあたるか否かは統治行為に属し、それが一見極めて明白に違憲、違法で

あると認められるものでない限り司法審査の対象ではないとした □□□(苫米地事件) (概要)第3次吉田内閣において、憲法7条を根拠とする抜き打ち解散が行われた。これによって議員の資格 を失った苫米地氏が衆議院の解散につき69条を根拠としておらず7条を根拠としているため違憲であ

るとして争った事件 (結論)直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、たとえ法律上の争訟にあたり これに対する有効無効の判断が可能であるとしても、三権分立の原理に由来し…内在的制約であるとし

た。そして、衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為ゆえにから司法審査

の対象にならないとした

□□□(砂川事件) (概要)日米安保条約の合憲性が争われた事件 (結論)安保条約は、高度の政治性を有するものであり、原則として司法審査になじまない性質のものである。

したがって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外

のものである

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〈部分社会の法理に関する判例〉 □□□(富山大学事件) (概要)国立大学の単位不認定処分が争われた事件 (結論)大学は国立・私立問わず部分社会を形成しており単位認定行為は一般市民法秩序と直接の関係が認め

られる特別な事情のない限り原則として司法審査は及ばないとした □□□(共産党袴田事件) (概要)共産党員である袴田党員の除名処分の効力が争われた事件 (結論)党員に対する処分が、①一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り裁判所

の審査権は及ばないが、②一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、

当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなど特段の事情のない限り右規範に照らし、右規

範を有しないときは条理に基づき適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであるとした

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《司法権の範囲及び限界のまとめ》

:司法権とは、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによってこれを裁定する国家の作用をいう そして 原則:法律上の争訟にあたれば司法審査可能 これは

①当事者の具体的な権利・義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、 ②それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものをいう

例外:(1)明文上の限界=議員の資格の争訟裁判・裁判官の弾劾裁判の2つ

(2)解釈上の限界

これは ①自律権=国会や議院の内部事項等自主的に決定できる権能

②自由裁量行為=立法や行政の行う裁量行為

③統治行為論=高度に政治性の高い国家行為

④部分社会の法理=大学と政党における一般市民法秩序と直接関係のない純粋な内部紛争

□□□記述でも使う流れなのでこの流れを追って復習すること □□□解釈上の限界の4つの内容および、そこで出てきた判例は確実にすること

《違憲審査権》(81条) 「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを、決定する権限を有する終審 裁判所である」

論 点 Q:下級裁判所も違憲審査権の主体となれるのか。81条に規定されていないので問題となる A:下級裁判所も司法権の担い手であるので規定はされていないが違憲審査権の主体となる Q:条約・条例も違憲審査権の対象となるのか。81条に規定されていないので問題となる A:憲法は最高法規であるので、憲法より下位の法はすべて審査対象となるので条約・条例も違憲審査権の対象 となる Q:終審裁判所の意味をいかに解するか A:前審としてならば行政権による審査可能

Point

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《違憲審査権の性格》 論 点:違憲審査権の法的性質をいかに解するか 抽象的違憲審査制 (結論)特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な訴訟と関係なく抽象的に違憲審査を行うことができる つまり 具体的な事件がなくても(法律上の争訟にあたらなくても)違憲審査が可能となる (特徴)憲法を頂点とする法秩序を保護する形態でヨーロッパ型である(私権保障を排除ではない) (批判)憲法裁判所を認めるのであれば、それらを認める規定(どのような場合に設置される、裁判官は誰がな

るのか等)があるはずである 付随的違憲審査制 (結論)通常の裁判所が、具体的な事件を裁判する際に、その前提として事件に必要な限度で審査をすること ができる つまり 法律上の争訟にあたった場合だけ審査できるということ (理由)81条は、「第6章・司法」の章にある (特徴)個人の権利を保護することを目的とした私権を保障する形態でアメリカ・日本型である 論 点:違憲判決の効力をいかに解するか 一般的効力説 (結論)違憲判決に一般的効力を認め、違憲とされた法律は客観的に無効となる (理由)裁判所が、合憲性の最終判断決定権を有している以上、違憲とされた法律は無効とすべきである

(批判)一種の消極的立法となる 個別的効力説 (結論)当該事件に限って無効となる (理由)付随的審査制を採用しているわが国では、当該事件の解決に必要な限りで審査が行われるのだか

ら、効力も当該事件についてのみ及ぶ このように解したとしても 国会は、違憲とされた法律を速やかに改廃し、行政は、その法律の執行を控えるなどの措置を、司法権の尊

重の観点から行うべきである

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《裁判所の種類》 :裁判所は最高裁判所と下級裁判所の2つに分かれる そして 下級裁判所は、高等・地方・簡易・家庭の4つの種類がある 《最高裁判所の権能》 ①構成

:最高裁判所長官(1名):内閣の指名、天皇の任命 :最高裁判所裁判官(14名):内閣の任命、天皇の認証 :任期はなく70歳で定年

②権限 :裁判所の規則制定権(77条)=国会中心立法の例外4つの中の1つ :下級裁判所裁判官の指名権

《下級裁判所の裁判官》 ①最高裁判所の指名した者の名簿により内閣が任命する ②任期は10年で、再任されることができる

〈裁判官の良心(76条3項)の意味〉 :裁判官としての客観的な良心のことをいい、主観的な良心の意味ではない 《裁判の公開》:裁判の対審および判決は公開法定で行う(82条1項) 対審:原則=公開 例外=裁判官全員一致で公の秩序をみだすおそれがあると認めた場合 絶対公開事由=政治・出版・国民の権利の3つは絶対公開 判決:例外なく絶対公開 《三審制度》

第一審 第二審 第三審 控訴 上告 合わせて上訴という

《司法権の独立》(76条3項) 〈趣旨〉:憲法の理念たる人権保障が行われるためには、裁判を担当する裁判官が外部からの圧力や干渉を受

けずに公正な立場で裁判を行うことが必要であるため規定された 〈司法権の独立が要求される理由〉

①非政治的機関である司法権は、政治的機関である立法権・行政権から侵害されやすいので保護する必要性 あり

②裁判所は国民の権利を保護することが職責ゆえに政治的権力の干渉を排除し、少数者の権利保護を図るため

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〈司法権の独立の内容〉 1.司法権が、立法権・行政権から独立していること

国家作用 司法権 独立 立法権 行政権

2.裁判官の職権の独立 国家作用 裁判官 干渉・圧迫 立法権 行政権

これは 裁判の公正を保つために、裁判官に対する不当な干渉や圧迫を排除するためのものであり、その手段として 裁判官の身分保障がなされている

そして (1)裁判官の罷免事由の限定

①心身の故障(分限裁判) ②弾劾裁判 この3つの場合にだけ罷免される ③国民審査(最高裁判所裁判官のみ)

(2)行政による懲戒処分の禁止

これは 立法機関による懲戒も含むので裁判所による懲戒しか認められない (3)相当額の報酬の保障:在任中減額されないことの保障が憲法上与えられている

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(財政民主主義83条)=財政は国民に多大な影響を与えるため、国の財政を処理する権限は、国民の代表機関た

る国会の議決に基づいて、行使しなくてはならない

(租税法律主義84条)=新たに租税を課したり、変更する場合には、国会が制定する法律によらなければならな

いという租税法律主義(84条)がある

Q:租税とは?

A:国又は公共団体が、特別の役務に対する反対給付としてではなく、財源確保のため一方的・強制的に徴収

する金銭をいうので、原則として反対給付は含まれない Q:租税により議決を要する事項とは?

A:①課税要件(納税者義務・課税物件・税率等) ②課税手続(税の賦課・徴収の手続)の2つを法律の形式で

定めなくてはならない

《予算》(86条) 予算:一会計年度における国の財政行為の準則のことをいう=1年間の見積もりで内閣が作成し、国会に提出し

(衆議院の優越有り)その審議を受け議決を得る 論 点 Q:予算の法的性質をいかにかいするか A:

予算行政説(承認説)

:予算の法的性質を否定し、予算は国会が政府に対してする一年間の財政計画の承認の意思表示であり、効力 は政府と国会の間でしかないと考える

とすると 予算に対する国会の民主的コントロールが弱くなり財政民主主義の観点から妥当でない(批判) 予算国法形式説

:予算の法的性質を肯定し、法律と異なる特殊の法形式であると考える つまり

法律とは異なる予算という独自の法形式と考えている ①予算が政府を拘束するのみで一般国民を直接拘束していない ②予算の効力は一会計年度に限られている ③提出権が内閣に属する ④内容的に計算のみ扱っている 予算法律説

:予算は法律の一種であると考える そして

予算という名称の法律の議決には原則として 59条 1項が原則として適用される。そして59 条1 項の「憲法

に特別の定めのある場合」として、60条の衆議院の先議権と衆議院の優越が適用される

財政・予算

理由!!

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〈予算案の修正〉:国会は予算案に対して修正ができるかという話 減額修正:国会に減額修正権があるので可能=国会は内閣の予算案を否決も可能 増額修正:財政民主主義の観点から可能 ただし 予算の同一性を損なうような大修正は不可能

〈予算と法律の不一致〉:予算行政説と予算国法形式説で特に問題となる

これは ①法律は制定されているのに、その執行に必要な予算がない場合 ②予算は成立しているのに、その支出を認める法律が制定されていない場合

①について :内閣は、補正予算、予備費支出、法律の施行の延期等で対処すべきである なぜなら 内閣は「法律を誠実に執行」する義務を負っている(73条1号)からである ②について :内閣は、支出を実行することはできない つまり 内閣は、法律案を提出し国会の議決を求めるしかないが、国会は法律制定の義務はない なぜなら 国会は、現時点で最も妥当と考える施策をするように立法することを委ねられた機関であるから、予算が成

立したからといって、法律を作らなくてはならないという義務は負わないからである

《予備費》(87条) 予見しがたい予算の不足に備えて確保しておく費用 そして 予備費の支出については事後に国会の承認が必要 ただし すでに行った行為の効力を覆すことは不都合ゆえに支出は完全に有効(内閣が政治的責任負うのみ)

《決算》(90条) 決算=一年間の国の収入および支出の結果報告 そして 内閣が決算を作成し、それを会計検査院に提出しチェックを受ける さらに 決算と検査報告を国会に提出して、国会の承認を受けなくてはならない

ただし 国の承認が得られなかったとしても、国の支出は有効 (内閣が政治的責任負うのみ)

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《地方自治制度》:地方自治とはどのような制度のことであるかという話 これは

単純にいうと都道府県・市町村をイメージするとよい

《地方自治の性質》:なぜ地方自治が重要なのかという話 民主主義的意義:民主主義の小学校の役割がある

自由主義的意義:中央集権を抑えて権力を地方に分散させる

《地方自治の本旨》:92条に規定されている地方自治の本旨とはいかなる意味かという話 「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」 住民自治 地方団体の政治が住民の意思に基づいて行われる 具体的には

直接選挙(93条) 地方特別法の住民投票(95条)等 団体自治 地方団体が国から独立して団体独自の意思と責任に基づいて自己の事務を処理する

具体的には 条例(94条) 地方議会の設置(93条)等

□□□地方自治の意義は、民主主義的意義と自由主義的意義の2つである □□□住民自治と団体自治の内容はしっかりと覚えること

〈地方公共団体の機関と権限〉

(日本の地方自治制度) 中央と比較しながら考えること!

①大統領制的要素(長と議会の厳格な分離)+議院内閣制的要素(議会の長に対する不信任案決議権・長の議

会解散権)をもっている ②国の制度と異なり、議員だけでなく行政の首長(知事・市長・町長)も住民の選挙で選ばれる これに対して国会(中央)は 内閣総理大臣は、国会議員の中から、国民ではなく国会議員で決めている

地方自治

Point

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〈地方議会の構造〉 中央と比較すること!

地方議会 議会の解散・議員の 不信任決議権 議会解散権 解職請求 住民 地方公共団体の長 解職請求 〈地方議会〉

①国会と同じ性質であるが、国会と異なり執行機関と対等な関係に立つ ②地方議会議員の任期は4年 ③地方議会議員の被選挙権は地方公共団体の議会の議員の選挙権を有する者で25歳以上の者であること

〈首長〉

①任期は4年である ②長の被選挙権は、知事の場合は日本国民で 30 歳以上の者・市町村は日本国民で 25 歳以上の者であること

が必要

□□地方議会議員は、住民であることが要求されるのに対し、長は要求されていない

論 点 Q:特別区は、憲法93条にいう「地方公共団体」にあたるか A:93条にいう「地方公共団体」とは共同体意識をもっているという地域的基盤が存在することが必要であり、 特別区はそのような基盤は有しておらず、93条にいう「地方公共団体」にあたらない

〈権限〉:地方議会はどのような権限をもっているのかという話

地方公共団体は「法律の範囲内」で条例を制定することができる(94条)

そして 条例とは、地方公共団体がその自治権に基づいて制定する自主法のことをいう また 国会が、「唯一の立法機関」(41条)であることから、地方公共団体が条例を制定するには、例外規定が必要と

なる そこで

94条を例外規定とし、94条を根拠に条例を制定できると解する

Point

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論 点 Q:では、財産権の制約を条例ですることは可能か?「財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律でこれ を定める」(29条2項)とあるから問題となる A: □□□(奈良県ため池条例事件) (概要)奈良県のため池条例では、ため池の堤とうに農作物を植えてはいけないと規定していたが、A は植え

ていたところ条例違反で起訴された。そこで A は、憲法 29 条 2 項は財産権の制約を法律によってな

しうることは規定しているが、条例によって制約しうることは規定していないので、この条例は違憲

無効だとして争った事件 (結論)ため池の堤とうの使用行為は、憲法・民法の保障する財産権の行使の埒外にあり、これらの行為を条

例で処罰、禁止しても憲法及び法律に抵触も逸脱もしない Q:条例と法律が抵触した場合をいかに解するか=条例と法律のダブルで制約してしまった場合どうするか A:この点、常に条例の制定が認められるわけではない。条例が国の法令に反するか否かは、両者(法令と条例)

の対象文言と規定文言を対比するだけでなく、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較して、両者の間

に矛盾抵触があるかによって決せられるべきである

□□□(徳島市公安条例事件) (概要)道交法による規制と公安条例による規制が競合したために問題となった事件 (結論)条例が国の法令に反するか否かは、両者の対象文言と規定文言を対比するだけでなく、それぞれの趣

旨・目的・内容・効果を比較して、両者の間に矛盾抵触があるかによって決せられるべきである。本

件においては、条例と道路交通法は目的が異なるとして両者の間に矛盾抵触はないとした

《地方自治の法的性質》:地方自治の法的性質はどのようなものであるかという話

固有権説:基本的人権のように、地方公共団体の自然権的・固有権的な基本権の保障である

伝来説:国家が認める限りで認められるものである

制度的保障説:地方自治という歴史的・伝統的制度の保障である

すなわち 地方自治の本旨は、国の法律をもってしても侵すことのできない地方自治制度の本質的内容ないし核心部分 を意味するということである

Page 15: 1. 2. 3....1. 裁判所 ~ 2.地方自治 3. その他 《裁判所の地位》:裁判所とはどのような地位を有しているのだろうかという話 ①司法権の担い手としての地位と②合憲性の統制機関としての地位(81条

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 15

〈明治憲法と日本国憲法での違い〉

明治憲法:天皇主権 天皇は統治権の総攬者 現在は 国民主権となっている 日本国憲法:象徴天皇制

日本国憲法の成立によって天皇主権から国民主権に移るとともに、天皇の地位は象徴に変化した

〈天皇の地位の変化〉 ①総攬者から象徴へ(憲法1条) ②国事行為(憲法6条、7条列挙の行為)のみを行い、国政に関する権能を有しない(憲法4条) ③国事行為を行うには内閣の助言と承認が必要(憲法3条)

その結果 内閣が責任を負い天皇は無答責

《平和主義》:憲法は前文に平和主義を規定している。さらに憲法 9条でも平和主義に関する規定がある 〈9条の解釈〉

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇ま

たは武力の行使は、①国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する(1項)

前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の②戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めな

い。(2項) ①国際紛争を解決する手段:1項で放棄しているのは、侵略戦争であり、自衛戦争は放棄されていない(政府見

解) ②戦力:自衛のための必要最低限度の実力をいう(政府見解) そして 我が国に駐留するアメリカ軍は「戦力」にあたらない(判例)

□□□(砂川事件) (概要)日米安保条約の合憲性が争われた事件 (結論)安保条約における我が国に駐留するアメリカ軍は、我が国の戦力ではなく指揮・管理権はアメリカ合 衆国にあるので、憲法9条にいう「戦力」にはあたらないとした。

天皇

戦争放棄(9条)

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※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 16

《憲法保障》:最高法規性を有する憲法が、法律等の下位の法規範から侵害されることを防止することをいう そのために ①憲法の最高法規性(98条1項) ②公務員の憲法尊重義務(99条) ③権力分立制(41条・65条・76条1項 ) が憲法に規定されている ④硬性憲法(96条) ⑤違憲審査権(81条)

《憲法改正》:硬性憲法たる日本国憲法はどのような手続で改正されるのかという話 憲法改正の発議 衆参両議員の総議員の3分の2以上の賛成必要 国民投票 国民の過半数の承認必要 天皇の交付 天皇が国民の名で交付する

□□改正手続の順番はしっかりとおさえておくこと

【まとめ】

皆さん憲法講義お疲れ様でした。人権分野は判例を中心に、統治分野は条文の解釈を中心に、AAランクから

メリハリをつけて復習してください。法律は、10の不確実な知識よりも 5の確実な知識のほうが問題に対応で

きます。まずは、何回も何回も基礎を繰り返して確実な知識を増やすことです。 憲法は法律科目の中でも得点を取りやすい科目です。落とすことのないよう一歩づつ頑張っていきましょう!わ

からないところは遠慮なくいつでも聞いてくださいね。合格という二文字を胸に最後まで頑張ってください。

憲法保障

憲法改正

Point