1 3.0 x - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光)...

69
1 松田担当分 § 1 序論 § 1.1 § 1.2 (レーザー) § 1.3 :シンクロトロン レーザー : § 1.4 § 3.0 真空紫外~軟 X 線での物性実験 § 3.0.1 X § 3.1 双極子遷移 § 3.1.0 : § 3.1.1 移マトリックス: § 3.1.2 § 3.1.3 § 3.1.4 § 3.2 光吸収・光電効果 § 3.2.1 ( ) § 3.2.1.1 § 3.2.1.2 (フェルミ マッピング):+グラフェン バンド フェルミ § 3.2.1.3 スピン : + トポロジカル 縁体 データ  § 3.2.1.4 § 3.2.1.5 § 3.2.1.6 § 3.2.1.7 円偏 ・スピン § 3.2.2 (X ) § 3.2.2.1 X § 3.2.2.2 NEXAFSBL07LSU データに し替え § 3.2.2.3 EXAFS§ 3.2.2.4 円2 § 3.2.2.5 円2 における (Sum rule)§ 3.3 発光

Upload: others

Post on 08-Jan-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

1

松田担当分

sect 1 序論  

sect 11 序論

sect 12 (レーザー)

sect 13 軌道放射シンクロトロン放射光と自由電子レーザー 簡単に

sect 14 本稿の構成 

sect 30 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 301 軟 X線と物質の相互作用

sect 31 双極子遷移

sect 310 光と物質の相互作用

sect 311 光学遷移マトリックス

sect 312 選択律

sect 313 対称性選択則

sect 314 振動子強度と総和則

sect 32 光吸収光電効果 

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

sect 3211 光電子分光

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング) +グラフェンのバンド分散

フェルミ面 

sect 3213 スピン分解光電子分光 + トポロジカル絶縁体のデータ 

sect 3214 内殻光電子分光

sect 3215 共鳴光電子分光

sect 3216 光電子回折

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221  X線吸収微細構造

sect 3222  NEXAFS BL07LSUのデータに差し替え予定

sect 3223  EXAFS

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

sect 33 発光

2

sect 331 X線発光分光 

sect 3311 X線蛍光分光法  BL07LSUのデータに差し替え予定 

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

sect 34 より高度な実験 

sect 341 超高分解能測定 

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

参考文献 

3

sect 11 序論

現代物理学の礎である「量子力学」は水素原子スペクトル黒体輻射光電子効果などの

実験事実に対する解釈の成功から端を発したその後着々と理論構築が進められてきたが

それには光(輻射場)と物質の相互作用の研究が密接に関わってきたこの量子力学の発

展は光物性研究にも大きくフィードバックされ対象物質は原子からマクロな凝集系と

おし拡げられてきた物質に光があたると光は吸収反射散乱する場合によって光は

物質によって増幅されまた蛍光燐光非弾性光散乱のように異なる波長 (色)の光が放

出される発光現象もあるさらに紫外線などの短波長光を用いると電子が飛び出す「光電

子効果」が発生しまたレーザー光のように強い光を用いると例えば入射光の整数倍の

振動数を持つ光が放出されるなどの「非線形光学効果」が出現する

光物性とは一般に「物質の性質を光で探る」ことである光を用いた物性研究や物性評

価は基本的に物質を問わず共通して使えるため光物性は優れた手段として気体液体固

体にわたり様々な物質系の研究に利用されてきた固体では自然界に存在する結晶やア

モルファス物質生体物質などから新しく合成された分子性結晶や多元素化合物などの新

物質原子レベルで人工的に設計成長された半導体超格子構造などが含まれる実際最

近では光学応答による物質情報とそれに基づく新物質設計との間のフィードバックルー

プが確立してきたこれが光物性と総合技術を結びつける要因ともなって光物性分野は

物質を利用して光の性質を制御する「量子エレクトロニクス」の分野とも相呼応して進展

してきたこのように光と物質の相互作用が織りなす現象は多岐に亘りまた光を利用し

た技術も日々目ざましい進歩を遂げている光物性物理学はその基礎となる学問でその

重要性は言うまでもない本稿では現代の光物性研究に必要な基礎をまとめる

さて我々が目にする可視光はその波長は 380(紫)~780(赤)nmであるが自然界の電

磁波 (光) には例えば波長 1018nm の低周波から 10minus6 nm の宇宙線まで存在する図

01 に分子を対象に光エネルギーと物質の各エネルギー準位との関係を示すこの領域で

は分子の回転振動電子状態のエネルギーに対応しまた固体では物性を支配するバ

ンドギャップや準粒子励起などが含まれる光の波長とエネルギーはアインシュタインの

式E=hvを元にエネルギー [eV]と波長 [nm]とで E [eV] =1240λ [nm]の変換式で表

すことができる我々の日常の大きさから約 11000の波長の電磁波は (遠)赤外線領域で

分子の回転振動状態のエネルギー差に相当しこれら運動に伴い (遠)赤外線が分子に吸

収されるそれよりも短くなると可視光となりこの領域では分子での化学結合に関わる

分子軌道間のエネルギー差に相当し実際いわゆる我々が目にする色に直接関係するさ

らに光の波長が短くなって数百 nm(約 5 eV)以下になると光照射によって物質から電子

が放出される(光電効果)このとき放出された電子のエネルギーはエネルギー保存則か

ら各電子状態の分子軌道内殻軌道のエネルギー準位などを知ることができる紫外線

の短波長側の波長約 10nm(約 10eV)の領域は慣例的にrdquo真空紫外線 (vaccum ultraviolet

4

VUV)rdquoと呼ばれているが境界波長の定義は曖昧であるこの VUV線は大気の吸収が大

きいので地球上では存在できずrdquo真空rdquo中の紫外線として通常の紫外線と区別されるX

線領域では長波長領域も空気を含めた物質の吸収が大きいが短波長領域では質量吸収係

数は3桁も小さくなりさらに電子―陽電子生成などの素粒子反応も支配的となっていく

X線領域はこのように波長の大きさによって物質との相互作用が異なるので長波長側を

軟 X線 (soft X-ray SX)領域短波長側を硬 X線 (hard X-ray HX)領域と慣例的に区

分する

このように光と物質の相互作用は波長に応じて多種多様でありまた光を用いた実験法

もそれぞれの波長領域に無数に存在する本稿では物質の電子状態を研究するのに強力な

波長数 10nm(数 eV)~数Å (数 keV)領域の光を用いた物性測定法を取り扱うこのよう

な可視光~真空紫外線 (VUV)~軟 X線 (SX)は結晶の価電子帯伝導帯分子の HOMO

分子軌道そして物質内の原子の化学状態などの情報を直接得ることができるそのため

近年ではその実験は基礎物性の測定から最先端のテクノロジー材料や生体系への評価へと

その分析対象が急速に広がっている1~ 7)

一方光物性実験において光源は不可欠である光源には単色性波長可変性コヒー

レンス強度輝度偏光度パルス幅などの特徴があり実験の目的に応じて適切に選

定する必要がある一方赤外線~X線領域についてはレーザーとシンクロトロン軌道放

射 (放射光)がこれらの特性に優れた極めて強力な光源として近年登場し現在物性研究に

不可欠な日常的手段として完全に組み込まれている光物性と同様これらも輻射場 (光)

と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源でありレーザーはミクロな原子内での

輻射過程 (電子加速運動)を全原子分子間で自律的に同位相化させた制動輻射でありシ

ンクロトロン放射光はマクロな磁場内での相対論的電子の加速運動による制動輻射である

一見異なるこの1つの原理を融合させたのが空間的周期磁場下で蛇行する相対論的電子

の輻射を全電子間で自律的に同位相化させた「自由電子レーザー」である現在の先端光

物性研究ではこれらの光源を用いた実験やそれぞれを組み合わせた実験が行われている

そのためこれらの光源の知識は物性実験を行う上で重要であるので本節では以下に各光

源の解説を簡単に行う

sect 12 レーザー

(秋山先生板谷先生ご担当)

sect 13 シンクロトロン放射

図 02に放射光の歴史的系譜を示すその発見以来何世代にも渡って進化を続けてきた

大まかにシンクトロン放射光と自由電子レーザーとに区別されそれぞれ独自の歴史を重

ねてきた

シンクロトロン放射光とは光速近くの速度で運動する相対論的荷電粒子(電子)が加速

をするときに発生する光 (制動輻射)であり光源はその粒子加速器から構成される利用

5

e-

e-

π

σ

1 meV

1 eV

1 keV

1 MeV

10-3 m (mm)

10-9 m (nm)

10-6 m ( m)

10-12 m (fm)

10-10 m ( )

図 01 光と物質の各エネルギー状態の関係(分子を例に)各状態のエネルギー準位に対応して光と物質の相互作用の仕方が異なる

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 2: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

2

sect 331 X線発光分光 

sect 3311 X線蛍光分光法  BL07LSUのデータに差し替え予定 

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

sect 34 より高度な実験 

sect 341 超高分解能測定 

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

参考文献 

3

sect 11 序論

現代物理学の礎である「量子力学」は水素原子スペクトル黒体輻射光電子効果などの

実験事実に対する解釈の成功から端を発したその後着々と理論構築が進められてきたが

それには光(輻射場)と物質の相互作用の研究が密接に関わってきたこの量子力学の発

展は光物性研究にも大きくフィードバックされ対象物質は原子からマクロな凝集系と

おし拡げられてきた物質に光があたると光は吸収反射散乱する場合によって光は

物質によって増幅されまた蛍光燐光非弾性光散乱のように異なる波長 (色)の光が放

出される発光現象もあるさらに紫外線などの短波長光を用いると電子が飛び出す「光電

子効果」が発生しまたレーザー光のように強い光を用いると例えば入射光の整数倍の

振動数を持つ光が放出されるなどの「非線形光学効果」が出現する

光物性とは一般に「物質の性質を光で探る」ことである光を用いた物性研究や物性評

価は基本的に物質を問わず共通して使えるため光物性は優れた手段として気体液体固

体にわたり様々な物質系の研究に利用されてきた固体では自然界に存在する結晶やア

モルファス物質生体物質などから新しく合成された分子性結晶や多元素化合物などの新

物質原子レベルで人工的に設計成長された半導体超格子構造などが含まれる実際最

近では光学応答による物質情報とそれに基づく新物質設計との間のフィードバックルー

プが確立してきたこれが光物性と総合技術を結びつける要因ともなって光物性分野は

物質を利用して光の性質を制御する「量子エレクトロニクス」の分野とも相呼応して進展

してきたこのように光と物質の相互作用が織りなす現象は多岐に亘りまた光を利用し

た技術も日々目ざましい進歩を遂げている光物性物理学はその基礎となる学問でその

重要性は言うまでもない本稿では現代の光物性研究に必要な基礎をまとめる

さて我々が目にする可視光はその波長は 380(紫)~780(赤)nmであるが自然界の電

磁波 (光) には例えば波長 1018nm の低周波から 10minus6 nm の宇宙線まで存在する図

01 に分子を対象に光エネルギーと物質の各エネルギー準位との関係を示すこの領域で

は分子の回転振動電子状態のエネルギーに対応しまた固体では物性を支配するバ

ンドギャップや準粒子励起などが含まれる光の波長とエネルギーはアインシュタインの

式E=hvを元にエネルギー [eV]と波長 [nm]とで E [eV] =1240λ [nm]の変換式で表

すことができる我々の日常の大きさから約 11000の波長の電磁波は (遠)赤外線領域で

分子の回転振動状態のエネルギー差に相当しこれら運動に伴い (遠)赤外線が分子に吸

収されるそれよりも短くなると可視光となりこの領域では分子での化学結合に関わる

分子軌道間のエネルギー差に相当し実際いわゆる我々が目にする色に直接関係するさ

らに光の波長が短くなって数百 nm(約 5 eV)以下になると光照射によって物質から電子

が放出される(光電効果)このとき放出された電子のエネルギーはエネルギー保存則か

ら各電子状態の分子軌道内殻軌道のエネルギー準位などを知ることができる紫外線

の短波長側の波長約 10nm(約 10eV)の領域は慣例的にrdquo真空紫外線 (vaccum ultraviolet

4

VUV)rdquoと呼ばれているが境界波長の定義は曖昧であるこの VUV線は大気の吸収が大

きいので地球上では存在できずrdquo真空rdquo中の紫外線として通常の紫外線と区別されるX

線領域では長波長領域も空気を含めた物質の吸収が大きいが短波長領域では質量吸収係

数は3桁も小さくなりさらに電子―陽電子生成などの素粒子反応も支配的となっていく

X線領域はこのように波長の大きさによって物質との相互作用が異なるので長波長側を

軟 X線 (soft X-ray SX)領域短波長側を硬 X線 (hard X-ray HX)領域と慣例的に区

分する

このように光と物質の相互作用は波長に応じて多種多様でありまた光を用いた実験法

もそれぞれの波長領域に無数に存在する本稿では物質の電子状態を研究するのに強力な

波長数 10nm(数 eV)~数Å (数 keV)領域の光を用いた物性測定法を取り扱うこのよう

な可視光~真空紫外線 (VUV)~軟 X線 (SX)は結晶の価電子帯伝導帯分子の HOMO

分子軌道そして物質内の原子の化学状態などの情報を直接得ることができるそのため

近年ではその実験は基礎物性の測定から最先端のテクノロジー材料や生体系への評価へと

その分析対象が急速に広がっている1~ 7)

一方光物性実験において光源は不可欠である光源には単色性波長可変性コヒー

レンス強度輝度偏光度パルス幅などの特徴があり実験の目的に応じて適切に選

定する必要がある一方赤外線~X線領域についてはレーザーとシンクロトロン軌道放

射 (放射光)がこれらの特性に優れた極めて強力な光源として近年登場し現在物性研究に

不可欠な日常的手段として完全に組み込まれている光物性と同様これらも輻射場 (光)

と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源でありレーザーはミクロな原子内での

輻射過程 (電子加速運動)を全原子分子間で自律的に同位相化させた制動輻射でありシ

ンクロトロン放射光はマクロな磁場内での相対論的電子の加速運動による制動輻射である

一見異なるこの1つの原理を融合させたのが空間的周期磁場下で蛇行する相対論的電子

の輻射を全電子間で自律的に同位相化させた「自由電子レーザー」である現在の先端光

物性研究ではこれらの光源を用いた実験やそれぞれを組み合わせた実験が行われている

そのためこれらの光源の知識は物性実験を行う上で重要であるので本節では以下に各光

源の解説を簡単に行う

sect 12 レーザー

(秋山先生板谷先生ご担当)

sect 13 シンクロトロン放射

図 02に放射光の歴史的系譜を示すその発見以来何世代にも渡って進化を続けてきた

大まかにシンクトロン放射光と自由電子レーザーとに区別されそれぞれ独自の歴史を重

ねてきた

シンクロトロン放射光とは光速近くの速度で運動する相対論的荷電粒子(電子)が加速

をするときに発生する光 (制動輻射)であり光源はその粒子加速器から構成される利用

5

e-

e-

π

σ

1 meV

1 eV

1 keV

1 MeV

10-3 m (mm)

10-9 m (nm)

10-6 m ( m)

10-12 m (fm)

10-10 m ( )

図 01 光と物質の各エネルギー状態の関係(分子を例に)各状態のエネルギー準位に対応して光と物質の相互作用の仕方が異なる

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 3: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

3

sect 11 序論

現代物理学の礎である「量子力学」は水素原子スペクトル黒体輻射光電子効果などの

実験事実に対する解釈の成功から端を発したその後着々と理論構築が進められてきたが

それには光(輻射場)と物質の相互作用の研究が密接に関わってきたこの量子力学の発

展は光物性研究にも大きくフィードバックされ対象物質は原子からマクロな凝集系と

おし拡げられてきた物質に光があたると光は吸収反射散乱する場合によって光は

物質によって増幅されまた蛍光燐光非弾性光散乱のように異なる波長 (色)の光が放

出される発光現象もあるさらに紫外線などの短波長光を用いると電子が飛び出す「光電

子効果」が発生しまたレーザー光のように強い光を用いると例えば入射光の整数倍の

振動数を持つ光が放出されるなどの「非線形光学効果」が出現する

光物性とは一般に「物質の性質を光で探る」ことである光を用いた物性研究や物性評

価は基本的に物質を問わず共通して使えるため光物性は優れた手段として気体液体固

体にわたり様々な物質系の研究に利用されてきた固体では自然界に存在する結晶やア

モルファス物質生体物質などから新しく合成された分子性結晶や多元素化合物などの新

物質原子レベルで人工的に設計成長された半導体超格子構造などが含まれる実際最

近では光学応答による物質情報とそれに基づく新物質設計との間のフィードバックルー

プが確立してきたこれが光物性と総合技術を結びつける要因ともなって光物性分野は

物質を利用して光の性質を制御する「量子エレクトロニクス」の分野とも相呼応して進展

してきたこのように光と物質の相互作用が織りなす現象は多岐に亘りまた光を利用し

た技術も日々目ざましい進歩を遂げている光物性物理学はその基礎となる学問でその

重要性は言うまでもない本稿では現代の光物性研究に必要な基礎をまとめる

さて我々が目にする可視光はその波長は 380(紫)~780(赤)nmであるが自然界の電

磁波 (光) には例えば波長 1018nm の低周波から 10minus6 nm の宇宙線まで存在する図

01 に分子を対象に光エネルギーと物質の各エネルギー準位との関係を示すこの領域で

は分子の回転振動電子状態のエネルギーに対応しまた固体では物性を支配するバ

ンドギャップや準粒子励起などが含まれる光の波長とエネルギーはアインシュタインの

式E=hvを元にエネルギー [eV]と波長 [nm]とで E [eV] =1240λ [nm]の変換式で表

すことができる我々の日常の大きさから約 11000の波長の電磁波は (遠)赤外線領域で

分子の回転振動状態のエネルギー差に相当しこれら運動に伴い (遠)赤外線が分子に吸

収されるそれよりも短くなると可視光となりこの領域では分子での化学結合に関わる

分子軌道間のエネルギー差に相当し実際いわゆる我々が目にする色に直接関係するさ

らに光の波長が短くなって数百 nm(約 5 eV)以下になると光照射によって物質から電子

が放出される(光電効果)このとき放出された電子のエネルギーはエネルギー保存則か

ら各電子状態の分子軌道内殻軌道のエネルギー準位などを知ることができる紫外線

の短波長側の波長約 10nm(約 10eV)の領域は慣例的にrdquo真空紫外線 (vaccum ultraviolet

4

VUV)rdquoと呼ばれているが境界波長の定義は曖昧であるこの VUV線は大気の吸収が大

きいので地球上では存在できずrdquo真空rdquo中の紫外線として通常の紫外線と区別されるX

線領域では長波長領域も空気を含めた物質の吸収が大きいが短波長領域では質量吸収係

数は3桁も小さくなりさらに電子―陽電子生成などの素粒子反応も支配的となっていく

X線領域はこのように波長の大きさによって物質との相互作用が異なるので長波長側を

軟 X線 (soft X-ray SX)領域短波長側を硬 X線 (hard X-ray HX)領域と慣例的に区

分する

このように光と物質の相互作用は波長に応じて多種多様でありまた光を用いた実験法

もそれぞれの波長領域に無数に存在する本稿では物質の電子状態を研究するのに強力な

波長数 10nm(数 eV)~数Å (数 keV)領域の光を用いた物性測定法を取り扱うこのよう

な可視光~真空紫外線 (VUV)~軟 X線 (SX)は結晶の価電子帯伝導帯分子の HOMO

分子軌道そして物質内の原子の化学状態などの情報を直接得ることができるそのため

近年ではその実験は基礎物性の測定から最先端のテクノロジー材料や生体系への評価へと

その分析対象が急速に広がっている1~ 7)

一方光物性実験において光源は不可欠である光源には単色性波長可変性コヒー

レンス強度輝度偏光度パルス幅などの特徴があり実験の目的に応じて適切に選

定する必要がある一方赤外線~X線領域についてはレーザーとシンクロトロン軌道放

射 (放射光)がこれらの特性に優れた極めて強力な光源として近年登場し現在物性研究に

不可欠な日常的手段として完全に組み込まれている光物性と同様これらも輻射場 (光)

と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源でありレーザーはミクロな原子内での

輻射過程 (電子加速運動)を全原子分子間で自律的に同位相化させた制動輻射でありシ

ンクロトロン放射光はマクロな磁場内での相対論的電子の加速運動による制動輻射である

一見異なるこの1つの原理を融合させたのが空間的周期磁場下で蛇行する相対論的電子

の輻射を全電子間で自律的に同位相化させた「自由電子レーザー」である現在の先端光

物性研究ではこれらの光源を用いた実験やそれぞれを組み合わせた実験が行われている

そのためこれらの光源の知識は物性実験を行う上で重要であるので本節では以下に各光

源の解説を簡単に行う

sect 12 レーザー

(秋山先生板谷先生ご担当)

sect 13 シンクロトロン放射

図 02に放射光の歴史的系譜を示すその発見以来何世代にも渡って進化を続けてきた

大まかにシンクトロン放射光と自由電子レーザーとに区別されそれぞれ独自の歴史を重

ねてきた

シンクロトロン放射光とは光速近くの速度で運動する相対論的荷電粒子(電子)が加速

をするときに発生する光 (制動輻射)であり光源はその粒子加速器から構成される利用

5

e-

e-

π

σ

1 meV

1 eV

1 keV

1 MeV

10-3 m (mm)

10-9 m (nm)

10-6 m ( m)

10-12 m (fm)

10-10 m ( )

図 01 光と物質の各エネルギー状態の関係(分子を例に)各状態のエネルギー準位に対応して光と物質の相互作用の仕方が異なる

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 4: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

4

VUV)rdquoと呼ばれているが境界波長の定義は曖昧であるこの VUV線は大気の吸収が大

きいので地球上では存在できずrdquo真空rdquo中の紫外線として通常の紫外線と区別されるX

線領域では長波長領域も空気を含めた物質の吸収が大きいが短波長領域では質量吸収係

数は3桁も小さくなりさらに電子―陽電子生成などの素粒子反応も支配的となっていく

X線領域はこのように波長の大きさによって物質との相互作用が異なるので長波長側を

軟 X線 (soft X-ray SX)領域短波長側を硬 X線 (hard X-ray HX)領域と慣例的に区

分する

このように光と物質の相互作用は波長に応じて多種多様でありまた光を用いた実験法

もそれぞれの波長領域に無数に存在する本稿では物質の電子状態を研究するのに強力な

波長数 10nm(数 eV)~数Å (数 keV)領域の光を用いた物性測定法を取り扱うこのよう

な可視光~真空紫外線 (VUV)~軟 X線 (SX)は結晶の価電子帯伝導帯分子の HOMO

分子軌道そして物質内の原子の化学状態などの情報を直接得ることができるそのため

近年ではその実験は基礎物性の測定から最先端のテクノロジー材料や生体系への評価へと

その分析対象が急速に広がっている1~ 7)

一方光物性実験において光源は不可欠である光源には単色性波長可変性コヒー

レンス強度輝度偏光度パルス幅などの特徴があり実験の目的に応じて適切に選

定する必要がある一方赤外線~X線領域についてはレーザーとシンクロトロン軌道放

射 (放射光)がこれらの特性に優れた極めて強力な光源として近年登場し現在物性研究に

不可欠な日常的手段として完全に組み込まれている光物性と同様これらも輻射場 (光)

と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源でありレーザーはミクロな原子内での

輻射過程 (電子加速運動)を全原子分子間で自律的に同位相化させた制動輻射でありシ

ンクロトロン放射光はマクロな磁場内での相対論的電子の加速運動による制動輻射である

一見異なるこの1つの原理を融合させたのが空間的周期磁場下で蛇行する相対論的電子

の輻射を全電子間で自律的に同位相化させた「自由電子レーザー」である現在の先端光

物性研究ではこれらの光源を用いた実験やそれぞれを組み合わせた実験が行われている

そのためこれらの光源の知識は物性実験を行う上で重要であるので本節では以下に各光

源の解説を簡単に行う

sect 12 レーザー

(秋山先生板谷先生ご担当)

sect 13 シンクロトロン放射

図 02に放射光の歴史的系譜を示すその発見以来何世代にも渡って進化を続けてきた

大まかにシンクトロン放射光と自由電子レーザーとに区別されそれぞれ独自の歴史を重

ねてきた

シンクロトロン放射光とは光速近くの速度で運動する相対論的荷電粒子(電子)が加速

をするときに発生する光 (制動輻射)であり光源はその粒子加速器から構成される利用

5

e-

e-

π

σ

1 meV

1 eV

1 keV

1 MeV

10-3 m (mm)

10-9 m (nm)

10-6 m ( m)

10-12 m (fm)

10-10 m ( )

図 01 光と物質の各エネルギー状態の関係(分子を例に)各状態のエネルギー準位に対応して光と物質の相互作用の仕方が異なる

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 5: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

5

e-

e-

π

σ

1 meV

1 eV

1 keV

1 MeV

10-3 m (mm)

10-9 m (nm)

10-6 m ( m)

10-12 m (fm)

10-10 m ( )

図 01 光と物質の各エネルギー状態の関係(分子を例に)各状態のエネルギー準位に対応して光と物質の相互作用の仕方が異なる

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 6: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

6

1864 Maxwell(JC Maxwell)

1897 Larmor (JLamor) 1905 (AEinstein) 1940 (JSchwinger DIvanchenko AASolokov IMTernov) 1946

General Electric Laboratories

1956 DHTomboulian PLHarman

1960

( 2 ) 19 2

(INS-SOR ring

1990

3 1997 SPring-8

図 02 シンクロトロン放射光と自由電子レーザーの系譜

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 7: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

7

光源としての特徴は以下の通りである

1)テラヘルツ光から X線までの幅広いエネルギー領域をカバーする

2)X線管などの従来の実験光源に比べて数桁明るい

3)高い指向性平行性を持っている

4)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

5)パルス特性を持っている

放射光は生体を含むあらゆる物質の固体液体気体の状態における構造とその性質

(物性)の解明に威力を発揮しまた創薬や新材料開発などの産業利用や放射線医療にも応

用されている放射光利用の研究人口は増え続け世界中で様々な規模と目的に応じた放

射光施設が存在する放射光施設では電子を光速近くまで加速する加速器と電子を蓄積

して光を発生させる光源加速器(蓄積リング)の2つから構成される蓄積リングは超高

真空槽からできており1)電子の周回運動と軌道輻射を促す偏向電磁石2)高輝度な

放射光をなど発生する挿入光源3)放射光発生で失った電子のエネルギーを補てんする

高周波空洞が装備されている (図 03)

[1] 偏向電磁石による軌道放射

偏向電磁石 (bending magnet)偏向電磁石からの輻射は相対論的電子がその一様な

磁場を通過し円軌道を描くことでその中心に加速を受けた時に生じる放射光は円の接

線方向に鋭い指向性をもって発生しその角度広がりはローレンツ因子(γ)の逆数(1

γ)ほどであるエネルギースペクトルは連続スペクトルであらゆる波長の光を含むと

いうことでrdquowhite lightrdquoと呼ばれる

[2] 挿入光源による軌道放射

アンジュレータ (undulator)アンジュレータからの輻射は周期的磁石列を相対論的電

子が蛇行運動することで発生する印加磁場を比較的弱くすることで電子の蛇行する幅

を輻射の角度広がり(~1γ)よりも小さくしているその結果アンジュレータ内で生じ

た光同士が干渉し高輝度な準単色かつコヒーレントな放射光が発生するアンジュレー

タ光は磁場周期数(N)に応じて鋭くなりその角度広がりは~1γradic Nとなる挿入光

源では磁石の配列を調整することで蛇行運動だけでなく螺旋運動を起こさせることがで

きるその結果直線偏光(planar undulator Figure-8 undulator)や円偏光 (herical

undulator)の放射光を発生することができる

ウィグラー (wiggler)ウィグラーからの輻射はアンジュレータと同様に周期的磁石列を

相対論的電子が蛇行運動することで発生するしかし大きな磁場を印加することでより高

い光エネルギーの光を何度も輻射させることで高い光フラックスで発生させる大きい

磁場が印加されるので輻射の角度広がりよりも電子の蛇行する幅が大きくなりアンジュ

レータのような干渉効果が起きないその結果エネルギースペクトルは連続的(white

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 8: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

8

light)である

図 03 放射光施設における光源加速器 (蓄積リング) の様子

図 04は SPring-8放射光施設と施設内ビームライン BL07LSUのアンジュレーターで

あるSPring-8放射光施設の加速器のパラメータを表1に光エネルギーに対する輝度を

図 05に示す

表 01 SPring-8 放射光施設の光源パラメーター

パラメーター 値

電子エネルギー   8 GeV

ローレンツ因子γ 15656

電子の速度 (vc) 0999999998

電流 100 mA

周回長 1486 m

(ビーム) エミッタンス 3nmrad

放射光を発生する蓄積リング内では電子はバンチ (bunch)と呼ばれる集団を成して周

回運動をしているそのため放射光は各電子バンチから発生するためパルス光となる図

06 に放射光パルスの時間構造を示す大まかにパルス幅がピコ秒パルス間隔がナノ

秒周回時間がマイクロ秒のスケールとなっている放射光を利用した時間分解実験は

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 9: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

9

図 04 (a) SPring-8 放射光施設の写真(b) 施設内ビームライン BL07LSU のアンジュレーターの写真

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 10: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

10

図 05 SPring-8 放射光施設の放射光輝度の光エネルギー依存性

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 11: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

11

この時間構造を利用して行われる

図 06 放射光パルスの時間構造

放射光光源はこれまで4世代進化し世代毎に約4ケタ明るくなってきた放射光利用

は 1960年代から行われ第1世代と呼ばれる時期は高エネルギー物理実験用の加速器を

間借りして行われていたその後放射光実験を占有利用するために円形加速器の使用され

偏向電磁石を中心とした第2世代放射光源さらに挿入光源を中心としたより高輝度な第

3 世代放射光源が建設された第2第3世代光源の違いは加速器の性能を表す (ビー

ム)エミッタンスと呼ばれる量で区別される (表1)エミッタンスとは荷電粒子ビームの

位置分布(光源サイズ)と発散角分布の積で各円形加速器内を運動する電子の保存量と

してそれぞれ異なる値をとるすなわちビーム位置を絞ると発散角が大きくなり発散角

がを抑えると今度はビーム位置が不確定となる第 2世代と第 3世代放射光源ではこのエ

ミッタンス値でも区別され一般的に 10nmrad以下のものが第 3世代とされているエ

ミッタンスには「自然エミッタンス」と呼ばれる下限(λ4π)が存在しこの条件が放射

光の回折限界に対応する現在この「自然エミッタンス」による究極の放射光(Ultimate

synchrotron radiation USR)が発生可能な第 3世代放射光源の開発が進められている

第4世代放射光源とは線形加速器を用いた X線自由電子レーザー (XFEL)やエネルギー

回収型ライナック (ERL)を指す第23世代光源における蓄積リング型の加速器では定

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 12: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

12

常的な電子の周回運動が必要なことから電子ビームの特性に制限がありエネルギー分解

能(10minus3)やパルス幅 (数 10ピコ秒)などの光源性能には限界があった一方ライナッ

クでは加速器の性能そのものが光源性能を決めるので最近の加速器技術の進歩により高

いエネルギー分解能(10minus5)や短いパルス幅 (100フェムト秒)を持つ新しい光源開発が可

能となったERLは現在その計画がされXFELではすでにその共同利用が実施されて

いる (sect 14)

sect 14 自由電子レーザー

自由電子レーザー (FEL Free Electron Laser)における光発生及び増幅は周期磁石列

(アンジュレータ)を蛇行する電子と光(放射光)の相互作用を利用したものであるこの

相互作用では電子から光へエネルギーが移る場合は輻射のパワーを増やすことができるが

条件を逆にすると光から電子へエネルギーを与え電子を加速することになる

図 07 (a) 蓄積リング型放射光(b) 共振器型 (マルチパス型)FEL(c)SASE 型 (シングルパス型)FEL における光発生の様子

一般的に FELは 2種類に分けられレーザー共振器とアンジュレータを組み合わせた共

振器型 (マルチパス型)FELと長いアンジュレータにおいて自発光が自己増幅する SASE

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 13: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

13

(Self-Amplified Spontaneous Emission)型 (シングルパス型)FEL がある (図 07)共

振用光学ミラーの条件により共振器型 FELは可視光程度までの利用がされている一方

SASE型ではミラーを使用しないのでその制限はなく現在 X線(波長1Å)まで利用可

能である図 07に示すようにSASE型では電子バンチ内で発生した放射光と電子が相

互作用をして波長に応じた周期構造を作る(マイクロバンチ構造)その結果発生した

放射光が同位相となり光強度を強めさらにその結果マイクロバンチ構造の形成も促進

されるという機構で自己増幅していくSASE光では自然な自己増殖が元になっている

ためパルス毎にエネルギーや強度などの異なる性質がある現在外部からのレーザー

をシード光として人工的にマイクロバンチ構造を形成させてから FELの発振を行う再

現性の良い FEL光源の開発が進められている世界に現存する SASE- FEL施設では

その光源特性は以下の通りである

1)波長を連続的に変えることができる

2)単色性に優れている

3)ピーク輝度が第3世代放射光光源に対して 1010倍大きい

4)高い指向性平行性を持っている

5)任意の偏光(直線偏光円偏光)を取り出せる

6)フェムト秒のパルス幅を持つ 

7)空間フルコヒーレンスがある

図 08 X 線自由電子レーザー SACLA の写真

図 08に X線自由電子レーザー SACLAの写真を示すXFELでは空間コヒーレンス

を活かせるので非結晶物質の構造を決定することができるそのため生体分子やナノ材料

の構造決定と超高速パルス性を利用した時間分解測定が行われているまた物質に非常

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 14: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

14

に強い光を照射することができるので極限状態における物質の様子を調べる研究も実施

されている

sect 15 本稿の構成

光物性研究では上記の各種光源を用いた様々な実験法が存在する波長領域などでは各

光源同士で重なる領域もあるが輝度強度や光源の操作性などの違いがあるため実際の

実験や測定では目的に応じて光源をうまく選ぶ必要がある図 09に上記に取り扱った光

源の波長とパルス幅の比較を示す

本稿では第 2章において光と物質の相互作用の基礎を取り扱う第 3章では真空紫外

~軟 X線を中心に物性実験を解説し第 4章では非線形光学を解説する第56章では

これら波長領域の実際の研究例として半導体ナノ構造と固体表面系での研究を紹介する

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 15: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

15

図 09 波長とパルス幅に基づく光源の比較

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 16: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

16

sect 31 双極子遷移 

sect 310 光と物質の相互作用

場の量子論を用いるとベクトルポテンシャル演算子 Aは光子の生成演算子と消滅演算

子に対して線形でそれらの複素共役の形で含んでいる8)すなわちAを 1つ含む 1次

摂動の遷移確率式(261)は光の吸収または発光 (蛍光)過程に対応する一方 Aを2

つ含む 2次摂動の遷移確率式(262)では光の消滅と生成の2つの過程が起きているの

で光の散乱に対応する [脚注104]実際 1次摂動の過程では異なるエネルギー状態への励

起 (excitation)しかできないが2次摂動の過程では中間状態を経て元のエネルギー状態

に戻ることができる(弾性散乱レイリー散乱)図 010はこれらの過程をまとめたもの

である

図 010(a―e)は吸収に過程に関連する事象である吸収では光遷移エネルギーが (a)真

空準位以下の場合は電子は非占有準位への遷移に留まるが(b)真空準位を超えた場合は真

空中に放出する(光電効果)(ab)の過程では内殻準位に正孔が生成されいずれも (cd)

の吸収の 2次過程を伴う(c)では価電子帯の電子が内殻準位へ遷移することで光が発生

する蛍光過程で(d)は価電子帯から内殻準位への電子遷移に伴い価電子帯のその他の電

子が真空中に放出する非輻射型のオージェ過程である(e) は共鳴光電効果と呼ばれる過

程で(a)(b)(d)が絡んだものであるすなわち内殻準位と非占有準位のエネルギー差に

合わせた入射光を用いると光電効果の過程と吸収―オージェ過程の2つの過程において

真空中に同じエネルギーを持った電子が終状態として放出されるこの2つの終状態の波

動関数は干渉して強め合うので結果として大きな光電子強度を持つそのため共鳴光電

効果では非占有状態と同じ起源の軌道の占有状態の光電子強度が選択に増大する

図 010(f-h) は散乱に関する事象である(e) のレイリ-散乱 (弾性 X 線散乱) では内

殻準位の電子が中間準位への遷移を経て元のエネルギー準位に戻るその結果入射光と

出射光の波数 (波長)は変化しない(f)のように中間状態と非占有準位が一致すると式

(262)の共鳴項が増大しその結果散乱が著しく起きやすくなる(共鳴効果)このような

散乱は共鳴弾性 X線散乱と呼ばれる(g)Aを2つ含む散乱過程において2つの電子遷

移について一方が内殻準位から非占有準位で他方が価電子帯の占有準位から内殻準位の場

合入射光に対して出射光は低波数(長波長)になるこのような散乱は共鳴ラマン散乱

(Resonant Raman Scattering)あるいは共鳴非弾性 X線散乱 (Resonant Inelastic X-ray

Scattering RIXS)と呼ばれる

光と電子の相互作用は電子のスピン状態の情報も与えるその際は以下のようなスピン

lowast104) 2 章において無視した A2 項の 1 次摂動も同様に散乱過程でトムソン散乱に対応するエネルギーの高い X 線

ではその効果が現れる

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 17: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

17

e-

A

k

A

k

e-

e-

e-

e

A

ke-

e-

A

k

A

e-

A A

k

A A

kk

A A

kk

図 010 吸収散乱における過程Aは光のベクトルポテンシャルである(a)吸収(真空準位よりも下のエネルギー準位への電子遷移)(b) 吸収 (光電効果)(c) 蛍光過程 (吸収2次過程)(d) オージェ過程 (吸収2 次過程)(e) 共鳴光電効果(a)(b)(d) が混ざった過程です(f) レイリー散乱(弾性 X 線散乱)(g) 共鳴弾性 X 線散乱(h) 共鳴ラマン散乱 (共鳴非弾性 X 線散乱)

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 18: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

18

(σ)を含めた電子と電磁場の相互作用ハミルトニアンを取り扱う

H primeop = minus e

m(A middot p) + e2

2mA2 minus eh

2mσ middot ( middotA)minus e2h

2(mc)2σ middot (dA

dttimesA) (1)

実際にこのハミルトニアンを元に遷移確率を求めいくと上記と同様にAのマトリックス

項が現れるそして磁気やスピンに対応した吸収などの遷移確率(断面積)を求めるには

Aの 1次の項を集め散乱の場合は 2次の項をまとめてから計算を行う

sect 311 光学遷移マトリックス 

先の 1次摂動のマトリックスを ltf | emA middotp | igt =ltf | e

mpA | igtと直すここで pA は

入射光の偏光方向への運動量ベクトルの投影であるそしてマトリックスを位置ベクトル

rA で表すと以下のようになる

ltf | e

mpA | igt =

d

dtltf | erA | igt = iωfiltf | erA | igt (2)

すなわち光学遷移確率は双極子を用いて近似できる (双極子近似electric dipole approx-

imation)これは電磁場と電子の相互作用を古典物理で取り扱ったローレンツ振動子モデ

ルに対応する9)

sect 312 選択律

この双極子近似のマトリックスを用いると光学遷移について重要な性質が導かれそのい

くつかを紹介する

まず(双極子)遷移では以下の条件下でしか光学遷移が行われない(選択律)7)

光学遷移の選択律

1)軌道角運動量量子数(orbital-angular-momentum quantum number)lについて

∆ l= plusmn 1

2)磁気量子数(magnetic quantum number)mについて

∆ m= 0 plusmn1

3)量子数のスピン ms について

∆ ms = 0

例えば 2p準位の電子は非占有の 4dまたは 4s準位に遷移することができるが4pや 4f

には遷移できないこの選択律は球対称ポテンシャルの系では球面調和関数を使って導き

かれるより一般的な系についても全角運動量保存則に基づく量子電磁力学の議論から同

様の結果が得られる8)

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 19: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

19

4)j=l+sl-s (l=0 の場合は j=s)となる全角運動量量子数 (total angular momentum

quantum number)j について

∆ j = 0 plusmn 1

ただし j=0間の遷移は存在しない

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 20: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

20

sect 313 対称性選択則

原点に対して反転対称の系では電子状態は原点を含む鏡面に対して偶 (gerade g)か奇

(ungeradeu)の対称性を持つ(パリティ偶奇性)双極子は原点に対して奇 (u)の対称

性を持つので< f| er| i> = < f| u| i> = 0となるのは< u| u| g>と< g

| u| u>のときとなるすなわち反転対称性のある系では双極子遷移において始状態と

終状態は逆の偶奇対称を有する(Laporte rule)8)

図 011 直線偏光を利用した対称性選択則 (a) 2核分子の (反) 結合軌道と偏光ベクトル A の幾何配置(b) 鏡映対称面のある系における軌道の対称性と偏光ベクトル A との間の幾何配置

双極子遷移は< f| erA | i> = < f|Amiddot(er)| i>と光の偏光ベクトルと双極子

の演算子の内積で与えられるすなわち直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角を

θ とおくと遷移確率は cos2θ に比例するこのことから例えば表面吸着分子の特性化

学種の結合軸の方向を知ることができる図 011(a)にその例を示す基板に垂直に配向

した吸着2核分子について直線ベクトルが面直の場合σ (σ)軌道が面内の場合はπ

(π)軌道が選択的に遷移される

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 21: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

21

図 011(b)では鏡映面のある系について取り扱う鏡映面に対して even(偶)の px軌道

と odd(奇)の py軌道も図示した鏡映面内に検出器がある場合終状態は鏡映操作に対

し evenとなる(oddでは nodeを持つため 0になってしまう)また一般的に終状態のエ

ネルギーが大きくなれば真空中の電子は自由電子的になりその波動関数は全対称モード

として evenになるすると< f|Amiddot(er)| i> = 0となるのは< even| even| even

>と< even| odd| odd>のときであるすなわち鏡映面と検出面とした場合直入

射の A と斜め入射の Ain に対して px軌道 (even)が直入射の Aperp に対して py軌道

(odd)がそれぞれ光電子強度して観測される

sect 314 振動子強度と総和則

光吸収の強さをあらわすのに以下の振動子強度 (oscillator strength)と呼ばれる量が用い

られる13 17)

fαβ =2m

h2(Eβ minus Eα) | ltf | ri | igt |2 (3)

ここでは fαβ は α状態から β 状態への遷移に対する振動子強度でri は直線偏光に対す

る双極子オペレーター (i=xyz)である振動子強度 fαβ はその定義から分かるように

その吸収に関与している電子の数を表すと見なすことができるそのため β について吸

収でとり得る全ての終状態の和をとると電子の総数すなわち電子密度に等しくなる (総

和則) sumβ

fαβ = Ne (4)

左右円偏光に対する振動子強度の和は外部磁場がない場合 [脚注106] は以下のよう

になる13)sumβ

fplusmnαβ = Ne plusmn

1

h(ltα | Lz | αgt+

1

2mc2ltα | Sz(xnablaxV + ynablayV ) | αgt) (5)

ここで Lz と Sz は角運動量とスピンオペレーターのz成分でVは一電子ポテンシャル

である円偏光の振動子強度には電子の軌道とスピン情報を含んでいるまた左右円偏

光の振動子強度の和では以下の総和則が成り立つsumβ

(f+αβ + fminus

αβ)2 = Ne (6)

lowast106) 磁場がある場合は右辺に ∓ 1h( eH

2(ltα | X2 + Y 2 | αgt) が加わる

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 22: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

22

sect 32 真空紫外~軟X線での物性実験

sect 320 軟X線と物質の相互作用 

 放射光源は赤外線から X線までの幅広い波長(エネルギー)範囲の光を発生するがこ

の中で特に真空紫外 (VUV)線から X線領域において比類ない光源であるVUV~X線

の光を物質に照射すると図 012のように様々な波長の光やエネルギーの粒子(電子イ

オン)が発生するこれらの現象は (光)吸収と (光)散乱に起因しその大小関係は断面

積 (cross section)で表される図 013に VUV線から X線の各エネルギーに対する依存

性を示す10 11)

図 012 光 (真空紫外線~軟 X 線~X 線) と物質の相互作用(上) 試料の回りの様子(下) 原子回りの様子

VUV領域では吸収が支配的であるが吸収断面積は光エネルギーの増加とともに減少

する光エネルギーが SX領域に入ると特定のエネルギーで階段上に断面積の上昇が見

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 23: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

23

106

104

102

100

10-2

10 103 105

Cro

ss s

ecti

on (

barn

sat

om)

Photon energy (eV)

σcoh

σincoh

σabs

σtot

C K-edge

VUV SX X-ray

図 013 炭素原子の全光断面積 (σtot) のエネルギー依存性(概観図)σabs吸収断面積σcohコヒーレント散乱 (レイリー散乱)σincohインコヒーレント散乱 (コンプトン散乱)

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 24: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

24

られるこれは吸収端 (absorption edge)と呼ばれ元素ごとにエネルギー位置が決まっ

ているそして SX領域ではレイリー散乱などの散乱の寄与も大きくなってくるさらに

X線領域に入るとコンプトン散乱が支配的となりまた散乱断面積が吸収断面積よりも大

きくなっていく

VUV~X 線照射で発生した光や粒子をプローブとした無数の測定法が存在しそれら

は物質の元素化学分析構造決定電子状態分析スピン磁性分析などに用いられる

図 014はrdquo吸収散乱rdquoと各分析法との関係をまとめたものである1~ 7)吸収と散乱は電磁

波 (光)のベクトルポテンシャル(A)の1次2次過程としてそれぞれ区別することがで

きる

Abbreviations XPS X-ray photoemission (photoelectron) spectroscopy CLS Core-level photoemission (photoelectron) spectroscopy PED Photoelectron Diffraction XAFS X-ray absorption fine structure EXAFS Extended X-ray absorption fine structure NEXAFS Near-edge X-ray absorption fine structure XMCD X-ray magnetic circular dichroism XMLD X-ray magnetic linear dichroism AES Auger electron spectroscopy AED Auger electron diffraction XRD X-ray diffraction

図 014 光と電子の相互作用(吸収散乱)と各測定法との関係それぞれの手法により得られる情報及び本文で説明される過程との関連も合わせ載せる

sect 321 光吸収 (光電子分光) 

物質への VUV~X線吸収を利用した分光法の中で代表的なものは光電子分光法14~ 16 18)

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 25: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

25

と X線吸収微細構造32~ 36) であり以下これらを解説する

sect 3211 光電子分光

光電子分光とは物質の価電子から内殻電子の占有状態を直接調べることができる手法で

ある光電効果を分光法に応用したもので仕事関数 (ϕ)以上のエネルギーの光を物質に

照射し放出した電子(光電子)をエネルギー分析する (図 015)

エネルギー保存則から真空中の電子の運動エネルギー (Ek)は光エネルギー (hω)と以

下の関係がある

Ek = hω minus EB minus ϕ (7)

EB はフェルミ準位 (EF ) を基準にした物質中電子の結合エネルギー (Binding Energy)

でϕは仕事関数で一般的に ϕ= 4~5eVの値をとる光エネルギー hω を大きくすれば

するほどより高い結合エネルギー EB の(より深いエネルギー準位の)電子を取り扱う

ことができる紫外線 (UV)~真空紫外線 (VUV)では価電子までを軟 X線 (SX)~X線

では原子核周りの内殻準位までの電子を放出することができる(図 010)固体の価電子

帯や分子の HOMO軌道などの電子(価電子)は電気伝導や化学反応などの物性に直接関

係しており光電子分光法はその状態を調べることができるまた内殻準位は元素によっ

て EB 値が異なりまた価数や化学的環境によっても EB 値がシフト (化学シフト)する

そのため内殻準位の EB 値とその光電子強度から定量的に化学組成も決定できる光エ

ネルギーによって物質から得られる情報の違いから前者を紫外線光電子分光(Ultraviolet

photoelectron (photoemission) spectroscopyUPS)後者を X 線光電子分光(X-ray

photoelectron (photoemission) spectroscopyXPS)または内殻光電子分光 (Core-level

photoelectron (photoemission) spectroscopyCLS)と歴史的に区別して呼ばれてきた

光電子強度は単一バンドでは次のように表される (sudden approximation)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )δ(E minus ε(k)) (8)

光電子強度はマトリックス遷移確率フェルミ-ディラック分布関数(Fermi-Dirac distri-

bution function)fFD(E T )エネルギー保存則に対応するδ関数に比例する光電子分

光では遷移マトリックスの始状態 (i)が物質の電子状態で終状態(f)は真空中に放出さ

れた光電子の状態である相互作用のない電子ではこの単純な関係式で表されるが電子

間相互作用などを考えた系では光電子強度は以下のように表される14 19)

IPES =| ltf | Hop | igt |2 fFD(E T )A(ε(k) E) (9)

A(k ω)はスペクトル関数と呼ばれ一般に系に電子 (ホール)を追加した後の状態変化に

対応し光電子過程で光電子が放出されて電子が系から一個無くなった(系にホールが追

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 26: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

26

Au W 25 keV OFe(001)

B

6 eV

(b) (c)

e- e-

e-

micro

e-

θ

ϕ e-

(a)

図 015 光電子分光の測定の様子(a) 実験は外部磁場を遮蔽したμ-メタルチャンバー内にて超高真空下で行われる光電子効果で放出した光電子は電子レンズと電子分析器を経てエネルギー分光された後に検出される最近では電子検出器としてエネルギーと角度範囲を一度に測定する 2 次元位置敏感型のものが主流である一方電子検出器の代わりにスピン分析器を設置した場合電子のスピンの向きも決定することができる(bc) スピン分析の原理で図中灰色で示した箇所は電子の散乱面である(b) モット散乱を利用したスピン分析器(c) 超低速電子回折 (Very Low Energy Electron Diffraction) を利用したスピン分析器21)

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 27: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

27

Ek

Ek=0EB=0

EB

ΦEvac

EF

(core level)

core level shift∆E

core level shift∆E

hν hν

図 016 光電子分光の原理

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 28: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

28

加された)様子を表しているこのスペクトル関数 A(k ω)は物理モデルでよく使用さ

れるグリーン関数 (Greenrsquos function)と以下の関係がある

A(k E) =1

πImG(k E) (10)

G(k) E) =1

E minus ε(k)minus Σ(k E)(11)

Σ(k E)は自己エネルギー (self energy)でこれを Σ(k E) = ReΣ+ iImΣのように実

部と虚部に分けるとスペクトル関数は以下のように書き換えられる

A(k E) =1

π

ImΣ

(E minus ε(k)minusReΣ)2 + (ImΣ)2(12)

すなわちエネルギーに対して光電子ピークはローレンツ関数形を成す自己エネルギーは

電子の相互作用エネルギーを与えバンドエネルギーのずれから実部がまたピーク幅か

ら虚部が得られる

結晶の光電過程を上記のように1段階でとらえるモデル (one step model) があるが

光電子スペクトルを分かりやすく解釈するためには現象を3段階に分けたモデル (three

step model)が広く用いられている(図 017)

光電子分光の3段階モデル

(1)まず物質中で電子の光励起 (photo-excitation)が起きるこのとき双極子遷移の始

状態と終状態は物質中の電子状態で近似される

(2) 次に励起した電子が表面への輸送するこのときエネルギーが保存された弾性散乱

電子だけでなくこの過程でエネルギーを失った非弾性散乱電子(2次電子)が生成され

る電子がエネルギーを失うことなく進む距離は平均自由行程と呼ばれ電子の運動エネ

ルギーに対してその距離は図 018 のようになる20)主に電子のプラズモン励起によるエ

ネルギーロスが非弾性過程の原因で電子の運動エネルギーが 50~80eVで平均自由行程

は最少となり約2原子層分の厚みに相当する (表面敏感)一方エネルギーが 10eV以

下や 1000eV以上になると平均自由行程は 2nm以上になる(バルク敏感)同じ結合エ

ネルギーの電子状態を調べる際光エネルギーを変えると電子の運動エネルギーが変化す

るので平均自由行程を調整することができる (表面敏感~バルク敏感)

(3) 物質から真空への電子の脱出このとき仕事関数よりも大きいエネルギーの電子の

みが放出される

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 29: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

29

図 017 光電子分光の3段階モデル1 物質中の電子の光励起2電子の表面への輸送3 固体から真空への電子放出

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 30: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

30

01

1

10

10 100 1000 10000

図 018 電子の平均自由行程本曲線は物質に対する依存性がほとんどなくユニバーサル曲線と呼ばれている

sect 3212 角度分解光電子分光(フェルミ面マッピング)

結晶などの物性を理解するためには結晶中の電子の波数 (運動量)とエネルギーの関係で

表されたバンド分散図を知る必要がある前述したように式(14)から光電子分光ではエ

ネルギー保存則から物質中の電子状態のエネルギー位置を知ることができる一方電子

の運動量については図 019のように様々な極角(θ)や方位角(φ)に対する角度分解光

電子分光測定から得ることができるまず真空中の電子の運動量の xyz成分は θ や φに

対して以下で与えられる(単位はエネルギーは [eV]波数は [Aminus1]です)

kxout = 0512radicEksinθcosϕ (13)

kyout = 0512radicEksinϕ (14)

kzout = 0512radicEkcosθcosϕ (15)

電子は物質から真空に放出される際面内 ( xy)の運動量は保存されるが面直 (perp

z)方向では保存されない

kxin = kxout (16)

kyin = kyout (17)

kzin =

radick2zout + (0512)2V0 (18)

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 31: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

31

ここで V0 は inner potentialと呼ばれ一般的に V0=10~20eVの範囲からバンド分散

が波数の対称点に合うように選ぶ

以上により角度分解光電子分光測定ではバンド分散を直接決定することができる14 22)

図 020 に角度分解光電子分光によるバンドマッピングの測定例を示す図中明るく見

えるところが光電子強度が大きいところでバンドの存在を対応するエネルギーを一定

にして広範囲の角度分解測定を行うとバンドの等エネルギー面が得られることになり特

にフェルミエネルギーに合わせれば金属物性を支配するフェルミ面を決定することができ

る14 23 24)図 021に角度分解光電子分光によるグラフェンのバンドマッピングの結果を

示す図のように直接ディラックコーンが確認することができる

図 019 真空中に放出された電子の波数 (運動量) 成分とスピン成分の様子

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 32: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

32

00 10-10

00

10

-10

Wave Vector kx ( -1)

Wav

e V

ecto

r k y

(-1

)

(a)

ΓK

M

ΓM

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

(b)

(c)

00-10Wave Vector k ( -1)

EF

1

2Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

ΓK

図 020 角度分解光電子分光測定によるバンド及びフェルミ面マッピングの測定例24)半導体 (Si) 基板上の作成した金属 (Ag) 超薄膜の (a) フェルミ面と (bc) 対称軸に沿ったバンド分散図1 つ 1 つのバンドは超薄膜内に閉じ込められた量子井戸状態に対応する

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 33: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

33

KEF

Bin

ding

Ene

rgy

(eV

)

In-plane Wave Vector ( -1)

図 021 角度分解光電子分光測定によるグラフェンのバンドマッピングの測定結果

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 34: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

34

sect 3213 スピン分解光電子分光

図 015で説明したようにエネルギー分光した光電子をさらにスピン分析すると物質中の

電子のスピン状態も知ることができる21 25)スピン分析の方法は代表的に2種類が存在し

ており1つはモット散乱を利用し (図 015(b))もう一方は超低速電子回折 (Very Low

Energy Electron Diffraction)を利用する (図 015(c))前者では高エネルギー (25 keV)

の電子を AuやWなどの重い元素のターゲットに衝突させるものでスピン偏極した電

子がターゲット原子の原子核で散乱するとスピン軌道相互作用によってその散乱強度は空

間的に非対称になるそのため対称位置に電子検出器を配置して両者の電流差を測定する

とスピン偏極度が得られる一方後者の VLEED型ではターゲットに磁性表面を利用し

ここにスピン偏極した低速電子 (例6eV)を衝突させるスピン偏極した電子は磁性表面

の遍歴電子系との交換相互作用の結果磁性ターゲットの磁化方向に応じて電子検出器の

散乱強度が変化する

電子の散乱面内上方向を量子化軸にとりそれに対して平行なスピンをもつ入射電子数

を Nuarr反平行なスピンをもつ電子の数を Ndarr とするとスピン偏極度は以下で定義される

P =Nuarr minusNdarr

Nuarr +Ndarr(19)

一方スピン検出器の非対称性 As はMott 検出器では実際に観測される両側(上または

up下または down)の電子数 NupNdown を用いて次のように表される(VLEED検出

器ではターゲットの両磁化方向の電子数が対応する)

As =Nup minusNdown

Nup +Ndown(20)

スピン偏極度 Pと非対称性 As は比例しており (P = SeffAs)その比例係数は Seff は

有効シャーマン (Sherman)関数と呼ばれ検出器に固有であるSeffNupNdown を用

いるとスピン偏極度 P とスピン分解スペクトル NuarrNdarr はそれぞれ以下のように表さ

れる

P =Nup minusNdown

Seff (Nup +Ndown)(21)

Nuarr =(1 + P )(Nup +Ndown)

2Seff(22)

Ndarr =(1minus P )(Nup +Ndown)

2Seff(23)

図 022はスピン角度分解光電子スペクトル(Spin- and angle-resolved photoemission

spectra SARPES)の例であるRh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜の Rh(001)表面上の

3ML-fct Fe 膜はキュリー温度以下の 100K では電子はスピン偏極しmajority spin と

minority spinはそれぞれ異なる SARPESスペクトルを示す26)

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 35: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

35

図 022 Rh(001)表面上の 3ML-fct Fe膜のスピン角度分解光電子スペクトル(Spin-

and angle-resolved photoemission spectra SARPES)26)

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 36: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

36

Γ MEF

100

200Bin

ding

Ene

rgy

(meV

)

00 0804

Σ1Σ2 Bi1-xSbx

x=012-13

Wavenumber k ( )

図 023 スピン角度分解光電子分光測定で決定したトポロジカル絶縁体Bi1xSbx(x=012013) のスピン偏極バンド構造27)

sect 3214 内殻光電子分光

先に説明したように内殻光電子分光を測定すると物質の構成元素そして化学状態を直

接知ることができる例えば古くからデバイス材料の要として Siの化学結合状態が内殻光

電子分光で調べられてきた図 024のようにSiは隣接元素の種類によって価数が 0価

から 4価まで変わりSi 2p内殻光電子スペクトルに分裂が明確に観測される28)

図 024 (a)SiO2Si の Si 2p 内殻光電子スペクトル(b)Si-SiO2 界面に存在しうる化学結合のモデル文献28)

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 37: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

37

sect 3215 共鳴光電子分光

図 010(e)で紹介したように光電子分光の光エネルギーとして内殻準位と非占有準位

のエネルギー差を選ぶと共鳴光電効果がおき元素の軌道に関わる価電子状態が選択的に

大きな光電子強度を持つ図 025は CeNi2 の Ce 3d-4f遷移の共鳴光電子分光スペクトル

(resonant photoemission spectra)である29)励起光のエネルギーが 3d-4f遷移に一致し

たとき(共鳴)結合エネルギー 0(フェルミ準位)で大きな光電子信号が得られる

図 025 共鳴光電子分光スペクトル (Resonant photoemission spectra) の例29)

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 38: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

38

sect 3216 光電子回折

光電子分光実験と関係の深い現象である光電子回折について簡単に触れておく光電子

過程ではその遷移マトリックスの終状態は厳密には真空中の電子でありその電子は波と

して周囲の原子と散乱し回折現象を起こすそのため図 026(a)のように内殻準位の光電

子強度の角度分布を測定すると光電子回折 (Photoelectron Diffraction PED)パターン

を得ることができる光電子を放出する原子は Emitter電子散乱する原子を Scattererと

いい一般的に図 026(b)のように Scatterer原子の方向に大きな光電子強度を持つ(前方

散乱ピーク)ただしこの散乱の様子は電子の運動エネルギーに大きく依存し図 026(c)

のようにエネルギーが大きいほど前方散乱が大きくなり小さいほど後方散乱が起きやす

くなる少し専門的な言い方をすれば前者は一回散乱の運動論的現象で後者は後方散

乱を含む多重散乱を考慮した動力学的現象であるこのようにこの回折パターンを調べ

ることで Emitter原子回りの原子構造を決定することができる最近ではこの回折スポッ

トにおいて分光測定を行うことにより特定の原子を選択的に軟 X線分光する研究が行わ

れている(回折分光31))

sect 3217 円偏光スピン分解光電子分光実験

次の節で説明するように円偏光を用いることで価電子の軌道角運動量(磁気量子数)を

選択的に励起できますしたがって円偏光励起とスピン分解光電子分光測定を同時に行

えばバンドの各波数ベクトルでのスピン及び軌道角運動量についての偏極度を測定する

ことができます37)

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 39: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

39

図 026 光電子回折の様子(a) 光エネルギー 12keV で測定した Si 2p 準位 (結合エネルギー~100eV) の光電子の角度分布(X 線光電子回折パターン)(b) 光電子の波が回折を起こす様子(c) 各電子の運動エネルギーにおける光電子強度の散乱角依存性EDAC による計算30)

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 40: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

40

sect 322 光吸収 (X線吸収微細構造) 

sect 3221 X線吸収微細構造

X 線吸収微細構造とは物質の非占有状態を直接調べることができる手法である図 013

で説明したように特定のエネルギーに到達すると吸収が大きくなるこれは光エネルギー

がある内殻準位の電子を励起するのに十分な大きさになったことに対応しこれは吸収端

(absorption edge) と呼ばれるそのエネルギー位置は元素種に依存する図 027のよう

に吸収端近傍には微細な構造がありその X 線吸収分光法は X 線吸収微細構造 (X-ray

Absorption Fine Structure XAFS)と呼ばれさらに吸収端から 30~50eVまでの領域

を X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES) あるいは Near-Edge X-ray Ab-

sorption Fine Structure (NEXAFS)それから数百 eV までの範囲を Extended X-ray

Absorption Fine Structure (EXAFS)と区別される

ランベルトベールの法則に従う吸収分光法では試料に入射する光の初強度 I0 と試料

を透過した光の強度 I を測定し吸光度 Abs= -log(II0)を光のエネルギーまたは波長に

対してプロットすることによって吸収スペクトルを描くしかし前述したように軟X線

の物質に対する透過能が非常に小さいため通常の測定では透過X線の強度を測定するこ

とが困難である一方物質は X線を吸収して主に電子を放出しその量は吸収量に比例

する [脚注107] そのため試料から放出される電子の量を測定できれば透過法が使

えない試料でも軟X線吸収スペクトルを描くことができる (図 028)このように電子をと

らえる方法を電子収量(Electron yield)法とよぶ試料から放出される電子としては光電

子の他にオージェ電子や二次電子があり特定のエネルギーをもつ電子を選別する方法を

部分電子収量(PEY Partial electron yield)法エネルギーを選別しない方法を全電子

収量(TEY Total electron yield)法オージェ電子をとらえる方法をオージェ電子収量

(AEY Auger electron yield)法とよばれているこのうち全電子収量法は試料に流

れる電流(試料電流またはドレインカレント)を測るだけで比較的簡単に全電子収量が得

られるので多くの軟X線吸収測定に利用されているまた試料から放出される蛍光X

線をとらえる全蛍光収量(TFY Fluorescence yield)法もバルク敏感な手法として多用さ

れている

XAFSでは遷移マトリックスは始状態| i>が内殻準位であるそして終状態| f>は

吸収端から高エネルギーへ順に物質の i)非占有準位 (σlowastπlowast などの反結合軌道伝導帯な

ど)ii)Rydberg状態iii)(準)連続準位となっておりそれぞれが各エネルギー範囲で異

なるスペクトル形状を示す(図 027)

lowast107) 光エネルギーによる電子励起が真空準位以下 (光電子放出が起きない場合)でも内殻準位から非占有軌道への遷

移が起きれば非弾性散乱によって 2 次電子が生じたり内殻準位のホール緩和によってオージェ電子や蛍光が

発生するそのため真空準位以下の非占有状態の NEXAFS スペクトルが測定できる

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 41: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

41

core level

Evac

πσ

πlowast

σlowast

Rydberg levels

1s (K-shell)

hνπlowast

σlowast shape resonance

NE

XA

FS

EX

AF

S

Continuum Levels

図 027 吸収端近傍における吸収スペクトルの様子

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 42: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

42

kk

e-

A

図 028 X 線吸収分光実験の様子

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 43: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

43

sect 3222 NEXAFS

i)終状態が非占有準位

終状態が分子軌道などの非占有状態ではその軌道対称性に依存したスペクトル変化を示

す直線偏光ベクトルと遷移モーメントのなす角 θmol に対して非占有準位のピーク強度

は cos2θmol に比例する(双極子遷移)例えば図 011(a)のような表面分子吸着系の場合

1s rarr σlowast と 1s rarr πlowast の遷移モーメントはそれぞれ分子軸の沿った方向及びそれと直交す

る方向に向いているのでπlowast 及び σlowast ピーク強度の偏光依存性から吸着分子内の各化学結

合軸の方向を特定することができるまたこれら空準位のピーク強度は準位の空具合を

反映しており強度減少の度合いから基板から吸着分子の基底状態への電荷移動量を推定

することもできる

炭素六角網面構造が積層して高い配向性を示すグラファイト(HOPG Highly oriented

pyrolytic graphite)と炭素六角網面構造が乱雑に並ぶカーボンブラックおよびダイヤモ

ンドについて試料面に対する放射光の入射角を変えながら測定した軟X線吸収スペクト

ルを図 029に示すグラファイトでは 2855 eVのピーク強度が入射角に対して大きく変

化するのに対しカーボンブラックとダイヤモンドではこのような入射角依存性が見られ

ないグラファイトで観測される 2855 eVのピークは炭素六角網面に対して垂直方向に

のびる 2pz(π)軌道への 1s軌道電子の遷移に起因しこのπピーク強度は入射直線偏

光に対するπ軌道の射影成分に比例するしたがって配向性の高いグラファイトのスペ

クトルでは入射角に対して変化するπ軌道の射影成分を反映した角度依存性が観測され

る一方配向性のないカーボンブラックやダイヤモンドのスペクトルには角度依存性が

現れないつまり軟X線吸収スペクトルの入射角依存性測定から物質の配向性(または

化学結合の方向)について分析することができる

ii)終状態が Rydberg準位

イオン化準位近傍では系統的に Rydberg状態が存在するそのためその電子遷移によ

りこの準位間に対応したピークが現れる

iii)終状態が準連続準位

電離して物質がイオン化する際電子は静電ポテンシャル場によってイオン化閾値を超

えたあたりの (準)連続準位での励起で電子が一時的にトラップされるこの時吸収断面

積が増大しその現象は一般的に形状共鳴 (shape resonance)と呼ばれる

sect 3223  EXAFS

iv) 終状態が連続準位連続準位に遷移した電子は光電子波として振舞いX線吸収原子及

び周囲の原子との間で散乱して干渉を起こすすなわち終状態は X線吸収原子とその周

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 44: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

44

図 029 (a) C K 吸収端における典型的炭素化合物の全電子収量軟X線吸収スペクトル(b) 入射角θを変化させて測定したグラファイトカーボンブラックダイヤモンドの軟X線吸収スペクトル(兵庫県立大村松康司教授より提供)

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 45: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

45

囲の原子によって干渉し合った光電子波となりますエネルギースペクトルを波数に変換

しその変調構造 χは一般的に以下のように表される

χ(k) propsumj

Nj1

kr2jexpminus2rjλ(k)sin(2krj + δ) (24)

その結果原子間 (r)での光電子波の位相 (kr)が変化し吸収は以下の変調を受けるこれ

が EXAFSでありこの変調構造を解析することで吸収原子周辺の配位数 Nや結合距離 r

といった局所構造情報を得ることができるχ (k)は sin関数なのでEXAFSのフーリ

エ変換で動径分布関数に対応するものが得られるのも特徴である

このようにこれら吸収微細構造は特定の元素(内殻電子)周りの局所的な電子状態や構

造を反映する

sect 3224 磁気円2色性磁気線2色性

X線吸収微細構造の測定として円偏光を用いると磁性情報を取り出すことができる光

を物質に照射した場合その左右の円偏光度 (図 030(ab))や量子化軸に対する直線偏光

度の向きに応じて吸収強度 (micro+ microminus) が変化しこれを2色性 (Dichroism) と言います

磁場に対する X線の2色性ではそれぞれ X線磁気円 2色性 (X-ray Magnetic Circular

Dichroism XMCD)と X線磁気線 2色性 (X-ray Magnetic Linear DichroismXMLD)

と呼ばれています16 33 35 37 38)XMCDはこの吸収強度の差

∆micro = micro+(+B)minus microminus(+B) (25)

で定義されここで micro+(microminus)とは入射 X線の+ (-)ヘリシティ (helicity)のときの X線吸

収強度です (図 030(c))XMCD は以下のようにある円偏光に対して印加磁場 (B) の反

転でも得ることができます (図 030(d))ここで量子化軸を+zとし入射光の波数ベクト

ルも+zにとり磁場の向き+ Bを-z方向としますすると Onsagerの関係から以下が成

り立ちます

∆micro = micro+(+B)minus micro+(-B) = microminus(-B)minus microminus(+B) = microminus(-B)minus micro+(-B) (26)

次に実際に X線円偏光がX線2色性を生むことを見てみます図 031のように3d

金属の 2p-3d遷移(L端吸収)を考えます+ (-)ヘリシティの円偏光による遷移マトリッ

クスは以下の式で与えられここに 2p状態における各スピンの占有状態を取り入れると

各状態間の遷移は図 031のようになります8)

σ+ prop | ltf | x+ iy | igt |2 (27)

prop 32times (l +ml + 2)(l +ml + 1) (28)

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 46: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

46

図 030 (ab) 円偏光の定義(a) 右ネジ偏光右回り円偏光helicity=-1 (b) 左ネジ偏光左回り円偏光helicity=+1(cd) XMCD の測定(c) 円偏光の切換(d) 印加磁場の向きの切換

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 47: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

47

σminus prop | ltf | xminus iy | igt |2 (29)

prop 32times (l minusml + 2)(l minusml + 1) (30)

全ての 3dが空状態のときは円偏光度磁場の向きに対して強度に変化はありませんが

3d 状態のスピンが不均等である(電子が遍歴している)場合は磁気円2色性が生まれ

ることは言うまでもありません例えば図 031の場合まず一方のスピン状態 (ms=12

の 3d 状態)が全て埋まっていてさらに他方のスピン状態 (ms=-12 の 3d 状態)に部

分的に電子が詰まっていたとしますそしてms=-12の 3d準位のうちml=210-1-2

に均等に電子が分布していれば(系の軌道磁気モーメントは 0)XMCDスペクトルは図

032(b)のようになりますが不均一に分布している (系に軌道磁気モーメントがある)場

合は図 032(c)のようになりますこのように磁気効果は円 2色性を生み出しさらに次

の節で取り扱う総和則(sum rule)を用いた解析をすることで物質の様々な磁気情報を

直接取り出すことができます33 35 37 38)

一方XMLD とは以下のように量子化軸をzとしてそれと平行方向の直線偏光によ

る XASスペクトル micro(micro0)と垂直方向の直線偏光による XASスペクトル microperp の差で定

義されます

micro minus microperp = micro0 minus (micro+ + microminus)2 (31)

物質に磁場を印加するとその磁化軸が定まりその結果磁気線二色性が生まれます磁場

の印加によって電子状態に異方軸が発生した場合この軸と入射 X線光の直線偏光ベクト

ルの成す角をαとすると cos2 αの依存性をもちます

sect 3225 磁気円2色性における総和則 (Sum rule)

XMCDスペクトルに総和則を適用することで物質のスピン磁気モーメントと軌道磁気

モーメントを決定することができますここでは Feや Coなどの 3d金属を例に内殻 2p

準位 (L殻)からの 3d空準位への遷移における XMCDを取り扱います

実際の物質の 2p 吸収端では 3d だけでなく 4s などの他準位への遷移も起きています

そのため2p-3d遷移での総和則を適用するにあたりこれら無関係な成分を取り除かな

ければなりません一般に 2p-連続帯遷移での吸収強度は階段的に起こるので実験デー

タの解析ではこれらの成分を取り除いてから行われますその結果2p-3d遷移について

すべての偏光方向 (試料の量子化軸に対して平行1方向 (z)垂直2方向 (xy)) に対する

XASスペクトル (microz + microx + microy=micro0 + micro+ + microminus)すなわち無偏光 XASスペクトルの総

和は以下で与えられますintL3+L2

micro(E)dE =

intL3+L2

microdE =

intL3+L2

micro0 +micro+ +microminusdE =C

5lt 1minusn3d gt (32)

ここで Cは双極子遷移マトリックスを含む定数で積分は 3dの空準位の数< 1-n3d >に

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 48: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

48

mj= 32

( )

12

(13)

1

-12

(23)

0

-32

(33)

-1

(ms= -12 )

ml=

mj= 12

(23)

1

-12

(13)

0

(ms= -12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

6 18

1

2p32

2p12

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 32

(33)

12

(23)

1

-12

(13)

0

-32

( )

-1

(ms= 12 )

ml=

ml = -12 1 0 -2

l=1

l=2

mj= 12

(13)

0

-12

(23)

-1

(ms= 12 )

ml=

6

6

12

3

3

3

2

618

1

2p32

2p12

ms= 12

ms= 12

図 031 2p-3d 遷移の円偏光度依存性

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 49: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

49

XA

S in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

MC

D in

tens

ity

760 780 800 820

760 780 800 820

Photon Energy (eV)

p

q

r

p

micro+ minus microminus

micro+ + microminus

(micro+ + microminus)dE

(micro+ microminus)dE

(micro+ microminus)dE

micro+ minus microminus

( )

(b)

(c)

edge-jumps

L3

L2X

AS

integrationM

CD

integrationM

CD

integration

図 032 L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)と micro+microminus の関係pqr を求めるための各積分は (a) の edge-jump を含むバックグラウンドを引いてから行われています(a)L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分(b) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントが 0 の場合)(c) L23-吸収端 (edge) の XAS スペクトルとその積分 (軌道磁気モーメントがある場合)

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 50: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

50

図 033 Fe 試料における L23-吸収端 (edge) の XAS 及び XMCD スペクトル(積分)(a) 実験で得られた透過スペクトル(b)(a) から求めた XAS スペクトル(c)XMCD スペクトルとその積分(d) XAS スペクトルとその積分41)pqr を求めるための各積分は (d) の edge-jump を含むバックグラウンド(two-step-like function) を引いてから行われています

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 51: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

51

比例します16)一方円2色性を積分すると式 (12)からも分かるように< Lz >に比例し

ます尚以下の実際の計算式は主要項のみで行われます39)intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE = minus C

10lt Lz gt (33)

式(40)を式(39)で割れば定数 Cを消去することができ軌道モーメントに関する以下

の総和則が得られます39)

lt Lz gt= minus

intL3+L2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 2 lt 1minus n3d gt (34)

一方スピンモーメント< Sz >についても総和則が得られますが少し複雑になります40)

lt Sz gt=

intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 2intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

microdEmiddot 32middot lt 1minusn3d gt minus7

2lt Tz gt (35)

ここで TZ とは電子のスピン-4極子カップリング (spin-quadrupole coupling magnetic-

dipole coupling)T = Σisi minus 3ri(ri middot (si)r2i の z成分ですもしこの総和則でスピンモー

メントを決定する場合は< Tz >を0と仮定するか理論計算や他の実験で近似的にで

も値を決めておかなければなりません

磁性を理解する上で重要な物理量である軌道磁気モーメントmorb(orbital magnetic mo-

ment) は< Lz >から morb equiv minus lt Lz gt microBh と定義されまたスピン磁気モーメン

ト mspin(spin magnetic moment) は< Sz >と mspin equiv minus2 lt Sz gt microBh と定義さ

れますそして式(41)と (42) の分母内(式 39)の直線偏光の XAS スペクトル micro0 を

micro0 = (micro+ + microminus)2 と置き換えると41)morb と mspin に対する以下の総和則が得られ

ます

morb = minus4intL3+L2

(micro+ minus microminus)dE

3intL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minus n3d gt microB (36)

mspin = minus6intL3

(micro+ minus microminus)dE minus 4intL2

(micro+ minus microminus)dEintL3+L2

(micro+ + microminus)dElt 1minusn3d gt microB(1+

7 lt Tz gt

2 lt Sz gt)minus1

(37)

図 025のようにintL3

(micro+ minusmicrominus)dE を pintL3+L2

(micro+ minusmicrominus)dE を qとするとXMCDの

スペクトルから直接morb とmspin の比を求めることができます

morb

mspin=

2q

9pminus 6q(38)

ここで総和則中の ltTzgtltSzgt

は無視しましたというのは第一原理計算により Fe や Co

の結晶ではこの項は全体の minus03ほどしか寄与しないからです16)さらに図 025のよう

に XASスペクトルから吸収端での階段的なスペクトル形状 (edge-jump)を差し引いたも

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 52: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

52

のの積分を rとすると左右円偏光のスペクトル micro+ と microminus から得られる XAS(micro+ + microminus)

と XMCD(micro+ minus microminus)スペクトルからmorb と mspin をそれぞれ決定することができま

す (n3d は他の実験または理論的方法で求めておく必要があります)図 025に L23-吸収

端 (edge)の XAS及び XMCDスペクトル(積分)と micro+microminus の関係を示します図中の

各積分値 pqrからmorb とmspin を以下の関係式から求めることができます

morb = minus4q

3rlt 1minus n3d gt microB (39)

mspin = minus6pminus 4q

rlt 1minus n3d gt microB (40)

図 033は Fe試料における L23-吸収端 (edge)のXAS及びXMCDスペクトル(積分)で

すこの実験結果を総和則から Fe(bcc)はmorbmspin = 0043morb = 0085microBatom

とmspin = 198microBatomと求められる41)

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 53: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

53

sect 33 発光

sect 331 X線発光分光

X 線発光分光法では放射光ビームラインなどの分光器で単色化された X 線を試料に入

射しそして試料からの発光 X線を発光分光器で分光してそのスペクトルを測定する (図

034)43~ 46)この方法では手段に応じて物質中の電子の占有非占有状態を捉えること

ができるまたphoon-in amp photon-outの測定なので光電子分光法などと比べてより

物質内部の情報を取り出せるだけでなく気体雰囲気下や溶液中での測定も可能である

k

図 034 発光分光測定配置一般的な発光分光器は回折格子と検出器から構成される

sect 3311 X線蛍光分光法

放射光による典型的な炭素化合物(図 029と対応する)の C K-edge X線発光スペク

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 54: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

54

トルを図 035に示すこれは選択則にしたがって 2p 軌道電子が 1s 空孔に遷移するとき

に放出される軟X線のエネルギー分布であり基本的に 2p 軌道の電子状態密度を反映し

ているしたがって化合物ごとに異なる電子状態がスペクトルの形状変化として明瞭に

現れこのような軟X線発光スペクトルから占有軌道の電子状態や化学状態に関する状態

分析ができ主に指紋分析として利用されている

sect 3312 非弾性散乱(X線ラマン散乱)

放射光などの連続光源を用いると励起エネルギーを吸収端近傍で変化させながら軟X線

発光スペクトルを測定ができるその結果通常の蛍光X線ではなく軟X線ラマン散乱現

象もとらえることができる (図 010(h))図 010(h)は共鳴励起した際の発光過程を模

式的に示したものである図 010(c)と異なり発光が起こる際に光を吸収して遷移した

電子が残っているので吸収と発光が一体の過程(2次のA過程)となるこれはrdquo(共鳴)

軟X線ラマン散乱rdquoと呼ばれ図 010(c)の蛍光過程と区別される可視光レーザーを用い

たラマン散乱が振動励起探知に優れているようにこの X線のラマン散乱では価電子励起

を捉えることができるそこで弾性散乱(レイリー散乱)のエネルギー位置を原点とする

と図 036(a)のようにロスエネルギー(ラマンシフト)に対する発光スペクトルが得ら

れる蛍光成分のピークは励起エネルギーに合わせてシフトするがラマン成分はシフト

しないのでその区別を容易につけることができる実際の例として図 036(b)に様々な

励起エネルギーで測定した TiO2(ルチル型)の Ti L端rdquo共鳴rdquo吸収発光スペクトル47)

を示すラマンシフト表示の発光スペクトルでは励起エネルギーに依存しないラマン成分

がいくつか確認できる例えば弾性散乱から 14 eVのところにあるラマン散乱は O 2p軌

道と Ti 3d軌道が混ざってできた結合状態と反結合状態の間の電子遷移に対応する

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 55: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

55

図 035 典型的な炭素化合物の放射光励起 CK X線発光 (蛍光) スペクトル

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 56: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

56

図 036 (a) 共鳴励起発光の共鳴発光スペクトルのラマンシフト表示(b)TiO2 の Ti

2p 共鳴発光スペクトル47)

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 57: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

57

sect 34 より高度な実験執筆中 

sect 341 超高分解能測定 

sect 3411 超高分解能光電子分光  

光電子分光法とはsect 32の通り物質の電子状態を直接調べることができる強力な物性

測定法であるこのエネルギ-分解能を向上させるということは超伝導ギャップなどの微

細な電子構造の観測も可能となりその結果物質中の電子間相互作用が起こす様々な特異

な物性の本質に迫ることができる光電子分光装置のエネルギー分解能∆Eは一般的に光

源のエネルギー分解能 ∆Elight と電子分析器の分解能 ∆Eana を用いて以下のように表さ

れる

∆E = (∆Elight)2 + (∆Eana)

212 (41)

すなわちエネルギー分解能向上のためには光源と電子分析器両者を総合的に考える必要が

ある例えば代表的な真空紫外光源であるヘリウム放電管では He Iα共鳴線 (hv=212

eV) ではその自然幅 11 meV が ∆Elight に相当する波長を連続的に可変できる放射光

光源では ∆Elight はビームライン分光器の性能で決まり高分解能に設計された真空紫外

線ビームラインでは ∆Elight は 1meV に達している48)またレーザー光源では非線形光

学結晶 KBe2BO3F2(KBBF)を用いたもの(hν= 7 eV)では自然幅は 260 microeV とな

り現在エネルギー分解能 ∆Elight が最もよい49 50)図 037 に装置の概略を示す49 50)

一方電子分析器は高分解能仕様として大型の半球型のものや飛行時間型のものが開発さ

れておりその分解能 ∆Eana は数百 microeVであるこのように現代の光電子分光技術では

装置性能上は ∆E=数百 microeVでの光電子分光測定が可能であるが実際の測定では熱揺

らぎの効果があるためこの熱エネルギーを少なくとも∆E以下に抑える必要があるそ

のため超高分解能測定では低温での測定が不可欠となり現在のところ 18Kにおいて

∆E = 150microeV が記録されている 図 038 は Pb と Nb の超伝導転移前後のスペクト

ル変化である51)金属のフェルミ端のスペクトル形状が転移温度以下で超伝導ギャップを

形成する様子が確認できるまた図 039は CeRu2 の測定例であるこの物質の超伝導は

フェルミ面の方向によってギャップの大きさが変化する異方性が確認できる49)

sect 3412 超高分解能発光分光

  (軟)X線発光分光ではsect 33の通り蛍光過程と非弾性散乱過程と 2種類が存在しい

ずれも物質の電子状態を測定する方法であり特に後者において共鳴効果を利用すると

元素及び電子軌道選択的になる(共鳴非弾性散乱)発光分光測定の分解能を向上させる

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 58: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

58

図 037 超高分解能光電子分光の測定システム49 50)挿入図はフェルミ準位近傍における金のスペクトルである

図 038 (a)Pb と (b)Nb の超伝導転移における超高分解能光電子分光スペクトルの変化51)

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 59: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

59

図 039 CeRu2 超伝導ギャップの超高分解能光電子分光スペクトル49)

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 60: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

60

ためには入射光のエネルギー分解能を良くし試料に照射するスポットサイズも小さく

しさらに X線発光分光器を大きくすればよいこのような装置改造では検出する実際の

発光強度が著しく小さくなり測定自身が困難であったしかしながら近年の高輝度放射光

光源の誕生によりエネルギー分解能は数 eVから百 meV前後まで向上してきた52)その

ため発光分光においても物質中での振動励起 (フォノン)スピン励起(マグノン)軌道

秩序励起(オービトン)などの素励起の検出が可能となってきた (図 040)

図 040 物質中の各素励起におけるエネルギーダイアグラムeV-オーダーではプラズモン (plasmon)電荷移動 (charge transfer)d-d (f-f) 準位間遷移が測定されmeV-オーダーではオービトン (orbiton)マグノン (magnon)フォノン(phonon) の励起が観測される

図 041(左) はLa2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペク

トルである53)弾性散乱ピーク (A)に対する非弾性ピークとして (B)シングルマグノン

(C)マルチマグノン(D)光学フォノンピークが確認できるこのうちシングルマグノ

ンのエネルギー位置を散乱波数に対してプロットすると図 041(右)のようになる点線

は非弾性中性子散乱の結果であり放射光で測定された共鳴非弾性散乱のものと良く一致

するマグノンなどの検出はこれまで中性子ビームを用いた実験が実施されてきたがこ

のように高分解能化によって放射光実験でも実現できるようになった放射光光源では試

料上の光のサイズは一般的に数 10μ m以下にすることができるため今後微小試料での

実験において本手法が活躍すると期待される

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 61: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

61

図 041 (左)   La2CuO4 (LCO) の Cu   L3-吸収端における共鳴非弾性散乱スペクトル53)各ピークは (A) 弾性散乱(B) シングルマグノン励起(C) マルチマグノン励起(D) 光学フォノン励起に対応する(右) シングルマグノンエネルギーの散乱運動量依存性53)点線は中性子弾性散乱より得られた結果

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 62: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

62

sect 342 時間分解 VUV-SX分光測定 

事象は時々刻々と変わっているそのためその時間変化をリアルタイムで追跡観測す

ることは物性の理解をする上で重要であることは言うまでもない我々が実感できる秒時

間の変化を対象としても時間構造は階層的であり各時間スケールにおいてそれぞれ特有

の時間変化が存在するVUV-SXを用いれば元素電子状態 (化学状態)や原子構造の

時間変化を直接調べることができることになる

図 042 光触媒反応光起電力効果における各過程の時間変化54)

図 042はその 1例として光触媒反応光起電力効果における光照射後ナノ秒までの各

過程での時間変化をまとめたものである54)一般的にはフェムト秒パルスの光で系を電子

励起で促した場合キャリアのエネルギー変化はフェムト秒の時間スケールで電子-電子間

相互作用が発生しそれと共に電子系から格子系へとエネルギーが移るそしてピコ秒の

オーダーから格子間相互作用や熱緩和が発生する一方半導体系では物質内部で発生し

た光励起キャリアが表面へ輸送するまでフェムト秒の時間がかかりそのあとピコ秒以上

の時間スケールで光起電力の緩和や光化学反応が進行する現状ではこのような非平衡過

程は three-temperature modelなどの実験データに基づく現象論的な動的モデルが使用さ

れている各時間スケールにおける動的変化を再現する詳細なメカニズム解明には今後

時間分解密度汎関数法などの計算方法に期待が寄せられる

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 63: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

63

Pump

Probe

Detector

(a) (b) (c)

Delay time

Delay time

図 043 時間分解測定の方法(a) ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector) が十分に高い繰返し周波数を有しているケース(b)

ポンプ (Pump) がパルス光プローブ光 (Probe) が連続検出器 (Detector)

は指定した遅延時間で信号検出を行うケース(c)ポンプ (Pump)がパルス光プローブ光 (Probe) がパルス検出器が連続のケースポンプ-プローブ法

動的現象をリアルタイムで追跡する時間分解測定は一般的に動的現象を引き起こすトリ

ガー (ポンプpump)とその後の時間変化を追跡するプローブ光 (probe)そしてプロー

ブ光信号の検出器 (detector)から構成される図 043 は時分割測定における3者の関係

を示しており3つの方法に分類される1つ目 (a)はプローブ光が連続的でありポン

プがパルスそして検出器として高い繰返し周波数を有しているケースであるこの場合

検出器自身が各時刻におけるデータ収集を行うことでプローブ光信号の時間変化を捉え

ることができる2つ目 (b)はプローブ光が連続ポンプがパルスそして検出器の周波数

がポンプ光の周波数よりも低いケースであるポンプと検出のタイミングを調整して各

時刻におけるプローブ光信号の検出を行う3つ目 (c)はプローブ光とポンプが両者が

パルスで検出器は常時信号を検出している状態であるポンプとプローブ光のタイミン

グを調整して時分割測定を実施する時間実験においていずれの方法をとるかは各要

素の時間分解能やプローブ光の信号強度などで選定される一般的に検出器の時間分解能

は高速でもナノ秒程度であるそのためピコ秒以下の時間分解能を要求する場合は 3つ

目(c)の方法が取られるこの方法を特にポンプ-プローブ (pump-probe)法と呼ばれる

このポンプ-プローブ法の1例として図 044にフェムト秒パルスレーザー光をポンプと

し放射光をプローブ光をとした時間分解光電子分光測定システムを紹介する55)シリコ

ンなどの半導体表面に光を照射すると起電力が発生する(表面光起電力効果)軟 X線を

用いた光電子分光法ではその様子を捉えることができ図 045(a)のようにレーザーパル

ス照射前後で Si 2p内殻準位のエネルギー位置が起電力の発生と共に変化するそして一

定時間を経て元の状態に戻るこの緩和過程について時間分解光電子分光で得られたエ

ネルギーシフトの時間依存性を図 045(b)に示すこの実験では放射光パルス幅に対応す

る< 50ピコ秒の時間分解能で測定されているまたプローブ光として 684ナノ秒間隔

で発生する複数の放射光パルスを利用し1つのポンプ光に対して複数のプローブ光を用

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 64: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

64

いている(one-pump multi-probe method)

ポンプ-プローブ実験のもう 1例として高次高調波 (High Harmonic Generation)レー

ザーを用いたものを紹介する56)HHGレーザーではガスジェットへのレーザー照射によっ

て発生する時間分解の実験システムでは図 046のようにプローブ光の元となるレーザー

と同一のレーザーをポンプ光源として利用しポンプとプローブ光間の同期を合わせてい

る図 047 に実際の例として電荷密度波物質として知られる TaS2 の光誘起転移の時間

分解光電子分光の実験を紹介するレーザー照射に伴い電荷密度波状態が溶けそして元

に戻る過程における TaS2 の Ta 4f内殻光電子スペクトルの変化である光誘起転移後の

緩和過程において振動現象が観測されるこれは電荷密度波相の振動励起モードに対応し

それが直性検出できていることが分かる

図 044 軟 X 線放射光とフェムト秒パルスレーザーを用いたピコ秒時間分解光電子分光システム55)

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 65: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

65

図 045 レーザーポンプ放射光プローブの実験例Si 半導体表面における光起電力効果の緩和過程55)

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 66: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

66

図 046 フェムト秒パルス HHG レーザーを用いたフェムト秒時間分解光電子分光システム56)

図 047 フェムト秒時間分解光電子分光測定例TaS2 の光誘起転移56)

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 67: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

67

文 献

1) 以下「VUVSX 放射光実験全般」に関する文献

大柳宏之編『シンクロトロン放射光の基礎』(丸善1996)

2) 渡辺誠佐藤繁編『放射光科学入門』(東北大学出版会2004)

3) 日本表面科学会編『新訂版表面科学の基礎と応用』(エヌティーエス2004)

4) 日本化学会編『実験化学講座 10物質の構造 II分光下第 5 版』(丸善2005)

5) 加藤誠軌編『X線分光分析』(内田老鶴圃1998)

6) J A Samson D L EdererVacuum Ultraviolet Spectroscopy (Academic Press 2000)

7) D AttwoodSoft X-Rays and Extreme Ultraviolet Radiation (Cambridge University

Press 1999)

8)  以下「光と物質の相互作用」に関する文献

L Schiff Quantum Mechanics (McGraw-Hill 1969)

9) N Ashcroft and N D Mermin Solid State Physics (Thomson Learning 1976)

10)   X-RAY DATA BOOKLET Center for X-ray Optics and Advanced Light Source

Lawrence Berkeley National Laboratory httpxdblblgov

11) J H Hubbell et al J Phys Chem Ref Data 9 1023 (1980)

12) B HENDERSON and GF IMBUSCH Optical Spectroscopy of Inorganic Solids (Ox-

ford Univ Pr on Demand 2006)

13) DY Smith Phys Rev B 13 5303 (1976)

14)  以下光吸収(光電子分光)に関する文献

S Hufner Photoelectron Spectroscopy Principles and Applications (Springer2003)

15) W Schattke and MA Van Hove (Eds) Solid-State Photoemission and Related Meth-

ods (WILEY-VCH 2003)

16) F de Groot and A Kotani Core-Level Spectroscopy of Solids (CRC Press 2008)

17) 長倉 三郎著 『光と分子 上下』 (岩波 19791980)

18) 日本表面科学会編『X線光電子分光法』(丸善1998)

19) 伊達宗行監修「大学院物性物理 2」藤森淳著『強相関電子系を解明する実験方法ー光電子分

光』(講談社サイエンテイブイツク1996) p321

20) A Zangwill Physics at Surfaces (Cambridge University Press 1988)

21) 奥田太一武市康男柿崎明人日本物理学会誌  65 840 (2010)

22) 匂坂康男『角度分解紫外光電子分光』放射光 369(1990)

23) J OsterwalderSu rf Rev Lett 439 1 (1997)

24) N Miyata H Narita M Ogawa A Harasawa R Hobara T Hirahara P Moras

DTopwal CCarbone SHasegawa and I Matsuda Phys Rev B 83 195305 (2011)

25) 『スピン分解光電子フェルミ面マッピング』放射光 20 159 (2007)

26) K Hayashi M Sawada H Yamagami A Kimura and A Kakizaki J Phys Soc Jpn

73 2550 (2004)

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 68: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

68

27) A Nishide A A Taskin Y Takeichi T Okuda A Kakizaki T Hirahara K Nakat-

suji F Komori Y Ando and I Matsuda Phys Rev B 81 041309 (2010)

28) N Terada et al Jpn J Appl Phys 30 (1991) 3584

29) Hun Yang S-J Oh Hyeong-Do Kim Ran-Ju Jung A Sekiyama T Iwasaki S Suga

Y Saitoh E-J Cho and J-G Park Phys Rev B 61 R13329 (2000)

30) F J Garcia de Abajo M A Van Hove and C S Fadley   Phys Rev B 63 75404

(2001)

31) 『回折分光法による電子磁気構造の原子層分解解析』松井 文彦 松下 智裕 大門 寛 表面

科学 3028 (2009)

32)  以下光吸収(X 線吸収分光)に関する文献

太田俊明編『軟X線吸収分光法~XAFS とその応用~』(アイピーシー2002)

33) 横山利彦太田俊明編著「内殻分光 -元素選択性をもつX線内殻分光の歴史理論実験

法応用-」(アイピーシー 2007)

34) J StohrNEXAFS Spectroscopy (Springer2003)

35) 橋爪弘雄岩住俊明編著「放射光 X 線磁気分光と散乱」(アイピーシー 2007)

36) 宇田川康夫編『X線吸収微細構造~XAFS の測定と解析~』(学会出版センター1993)

37) 今田真菅滋正宮原恒あき日本物理学会誌  5520 (2000)

38) J StohrJ Electron Spectroscopy and Related Phenomena 75 253 (1995)

39) B T Thole P Carra F Sette and G van der Laan Phys Rev Lett 68 1943 (1992)

40) P Carra B T Thole M Altarelli and X Wang Phys Rev Lett 70 694 (1993)

41) C T Chen Y U Idzerda H -J Lin N V Smith G Meigs E Chaban G H Ho

E Pellegrin and F Sette Phys Rev Lett 75 152 (1995)

42) C C Calvert A Brown R Brydson Journal of Electron Spectroscopy and Related

Phenomena 143 173(2005)

43)  以下X 線発光に関する文献

F GELrsquoMUKHANOV and H AGREN RESONANT X-RAY RAMAN SCATTER-

ING (ELSEVIER 1999)

44) A Kotani and S Shin Rev Mod Phys 73 203 (2001)

45) F de Groot Chem Rev 101 1779 (2001)

46) U Bergmann and P Glatzel Photosynth Res 102 255 (2009)

47) Y Harada TKinugasa R Eguchi M Matsubara A Kotani MWatanabe A Yag-

ishita and S Shin Phys Rev B 61 12854 (2000)

48)  以下高分解能測定に関する文献

S V Borisenko V B Zabolotnyy A A Kordyuk D V Evtushinsky T K Kim E

Carleschi et al J Vis Exp 68 50129 (2012)

49) T Kiss F Kanetaka T Yokoya T Shimojima K Kanai S Shin Y Onuki T

Togashi C Zhang C T Chen and S Watanabe Phys Rev Lett 94 057001 (2005)

50) 木須孝幸他 固体物理 40 353(2005 木須孝幸他 表面科学 26 716(2005

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)

Page 69: 1 3.0 X - 物性研究所 · 光物性と同様、これらも輻射場(光) と物質の相互作用のしくみをうまく利用した光源であり、レーザーはミクロな原子内での

69

51) A Chainani T Yokoya T Kiss and S Shin Phys Rev Lett 85 1966 (2000)

52) LJP Ament M van Veenendaal T P Devereaux J P Hill J van den Brink Rev

Mod Phys 83 705 (2011)

53) L Braicovich J van den Brink V Bisogni M M Sala L J P Ament N B Brookes

G M De Luca M Salluzzo T Schmitt V N Strocov and G Ghiringhelli Phys

Rev Lett 104 77002 (2010)

54)    S Yamamoto and I Matsuda J Phys Soc Jpn 82 21003 (2013)

55) M Ogawa S Yamamoto Y Kousa F Nakamura R Yukawa A Fukushima A Ha-

rasawa H Kondo Y Tanaka A Kakizaki and I Matsuda Rev Sci Instrum 83

023109 (2012)

56) K Ishizaka T Kiss T Yamamoto Y Ishida T Saitoh M Matsunami R Eguchi

T Ohtsuki A Kosuge T Kanai M Nohara H Takagi S Watanabe and S Shin

Phys Rev 83 81104(R) (2011)