1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ...

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1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる 体験の全てを忘れている 85 歳以上 4 人に1 人が認知症であると言われる ご飯まだ? 認知症は脳の病気である 役に立つ薬の情報~専門薬学

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Page 1: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 認知症とは

加齢によるもの忘れ

誰にでも起こる老化現象の一つ

体験の一部を忘れている

認知症による記憶障害

脳の病気によって起こる

体験の全てを忘れている

85 歳以上 約4 人に1 人が認知症であると言われる

ご飯まだ?

認知症は脳の病気である 役に立つ薬の情報~専門薬学

Page 2: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 物忘れと認知症の違い

項目 物忘れ 認知症

原因 加齢 脳の病気

自覚 物忘れがあることを自覚 物忘れを自覚していない

記憶 体験の一部を忘れる

(きっかけがあれば思い出せる) 体験の全てを忘れる

(完全に記憶が抜け落ちている)

日常生活への支障 特に支障はない 支障がある

症状の進行 進行性はあまりない 年単位で進行

医療機関を

受診する場合 心配になって自分で行く 多くは家族に付き添われて行く

具体例 ・孫の学年を忘れる

・ご飯に何を食べたかを忘れる

・孫がいること自体を忘れる

・ご飯を食べたことを忘れる

役に立つ薬の情報~専門薬学

Page 3: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 認知症の主な症状

同じことを何度も言う 置忘れやしまい忘れが多い

化粧や買い物をしなくなった ささいなことで怒る

以前は熱中したことに興味や関心を示さなくなった

少し前のことや聞いたばかりのことを忘れる

約束を忘れてすっぽかすことが多い

知っているはずの人の名前が思い出せない

「記憶」に関わる機能が障害される 役に立つ薬の情報~専門薬学

Page 4: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 認知症の重症度と症状

脳を障害

記憶・判断に関わる機能が鈍くなる

認知症の重症度と症状

認知症における初期の特徴

・ 最近の出来事(短期記憶)は障害されている

・ 認知症発症前の出来事(長期記憶)は残っている

軽度 中等度 高度

覚えられない

感情の動揺

注意力の減退

徘徊行動

歩行障害

言葉の減少

役に立つ薬の情報~専門薬学

Page 5: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 中核症状と周辺症状

中核症状

・ 記憶障害

・ 見当識障害

・ 判断力の低下

・ 実行機能障害

中核症状

必ず発生する 周辺症状

(BPSD) 周辺症状

(BPSD) 抑うつ

状態 認知症である以上、

中核症状の発生を

抑えることはできない

周辺症状(BPSD)は

人によって出たり

出なかったりする

周辺症状(BPSD)

人によって異なる 不安

攻撃的

行動

依存

幻覚

妄想

睡眠

障害

徘徊

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Page 6: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 中核症状

中核症状 症状

記憶障害

・ 直前の事を忘れる

・ 同じことを何回も言う

・ 忘れ物を何回もする

見当識障害 ・ 今がいつなのか(時間・季節の感覚がなくなる)

・ 今どこにいるのか(道順の感覚がなくなる)

判断力の低下 ・ 真夏にセーターを着る

・ 考えるスピードが遅い

実行機能障害 ・ 計画を立てて実行できない

・ 目的達成の判定ができない

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Page 7: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 周囲の人の接し方

周辺症状(BPSD)の表れ方

・ 接し方によって、症状の出方が大きく異なる

脳細胞の萎縮 中核症状 周辺症状

認知症の進行と症状

・ 意識のくもり

・ 本人の意図が伝わらない

・ 本人の勝手気ままな性格

症状が表れる

「安心感」を与えることが重要

・ 日々のストレスが大きく関与

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1. 周囲の人の接し方

認知症の症状が進行 : 言葉が不自由に

表情や語気などの雰囲気を読み取る

「過去 → 現在 → 未来」を繋げることができない

過去や未来に対して叱っても意味がない

大切なのは現在である

不安を取り除くと、周辺症状を表れにくくなる

心に大きな不安ができる

過去 現在 未来

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1. 若年期認知症について

認知症 多くは65 歳以上で発症

若年期認知症 18歳 以上65 歳未満で発症する認知症

若年期認知症

・ 必ずしもアルツハイマー型認知症とは限らない

・ 脳血管性や頭蓋外傷による認知症の比率も高い

若年期認知症の問題点

所得が減少する

子どもに精神的・社会的影響を与える

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1. 若年期認知症患者の想い

若年期認知症患者のアピール文章の要約

たとえ、認知症であっても自分で行えることがたくさんあります。

私はみんなの役に立ちたい。

自分とはこれまで通り、普通につきあってほしい。

「今のままでいいよ」と理解して、私の思いを分かってほしい。

でも……、自分で出来ないことは助けてほしい。

心が楽になれば、病気の進行もゆっくりになる。

たとえ病気であっても、楽しみながら精一杯生きることができる。

やさしく見守ってほしい。

手を差し伸べてほしい。

そして、認知症であることを理解してほしい。

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Page 11: 1. 認知症とは...1. 認知症とは 加齢によるもの忘れ 誰にでも起こる老化現象の一つ 体験の一部を忘れている 認知症による記憶障害 脳の病気によって起こる

1. 復習

加齢によるもの忘れ

誰にでも起こる老化現象の一つ

体験の一部を忘れている

認知症による記憶障害

脳の病気によって起こる

体験の全てを忘れている

ご飯まだ?

その他、加齢による物忘れと認知症の違い

「自覚」、「日常生活への支障」、「症状の進行」

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1. 復習

周辺症状(BPSD)の表れ方

・ 接し方によって、症状の出方が大きく異なる

「安心感」を与えることが重要

・ 日々のストレスが大きく関与

認知症の症状が進行 : 言葉が不自由に

表情や語気などの雰囲気を読み取る

「過去 → 現在 → 未来」を繋げることができない

心に大きな不安ができる

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2. 認知症の種類

三大認知症

アルツハイマー型認知症 レビー小体型認知症

脳血管性認知症

アルツハイマー型認知症

レビー小体型認知症

脳の神経細胞に

異常が起こる

脳血管性認知症

脳血管障害によって発症

アルツハイマー型認知症

脳血管性

認知症

約30 %

レビー小体型

認知症

約10 %

その他

約50

%

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2. 認知症の診断

認知症の診断

長谷川式認知症診断法が有名

軽度認知症

中等度認知症

高度認知症

非常に高度の

認知症

正常

平均得点

0

5

10

15

20

25

30

0

5

10

15

20

25

30

(%)

0 7 13 19 25 30

得点

20 点 21 点

正常な方

認知症の方

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2. 認知症を見抜く

たった一つの言葉で認知症を見抜く方法

そういえば、最近のニュースの中で、

一番気になった出来事はどんな事がある?

軽度認知障害 約50 %で答えられない

アルツハイマー型認知症 約90 %で答えられない

認知症の可能性が高い回答

「分からない」、「知らない」と言う

「最近はニュースを見ていない」と取り繕う

答えたニュースの内容が古い

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3. アルツハイマー型認知症の病態

アルツハイマー型認知症による脳の構造的変化

老人班

脳にシミを作る

アミロイドベータの蓄積

神経原線維変化

糸くずのようなものが蓄積

タウタンパクの凝集

脳の神経細胞が死滅

「老人班の蓄積」や「神経原線維変化」など

記憶障害(物忘れなど)が起こる 役に立つ薬の情報~専門薬学

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3. アルツハイマー型認知症の進行

もの忘れの程度

悪化

正常

時間の経過

軽度認知障害

大切な約束を忘れる

日常生活に支障はない

覚えられない

時間が分からない

夏に冬服を着る

計画・実行ができない

歩行障害、言葉の減少

最終的には寝たきり

第二期(中等度)

第三期(高度)

第一期(軽度)

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3. レビー小体型認知症の病態

認知機能の障害

レビー小体型認知症の主な特徴

運動機能の障害

幻視

症状の変動

記憶を留めることが難しい

歩行障害、体を動かしにくい

見えるはずのないものが見える

病気の症状の重さが日によって変動

パーキンソン病のような

症状(運動障害)が表れる

幻覚症状(特に幻視)や

妄想が表れる

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3. レビー小体型認知症の幻視

家の中で

子供が遊んでいる?

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3. 脳血管性認知症の病態

脳梗塞や脳出血の多発によるものが70%以上

脳血管障害の発作が起こるたびに段階的に症状が悪化

もの忘れの程度

悪化

正常

時間の経過

発作

発作

発作

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4. アルツハイマー型認知症治療薬

コリン仮説

アルツハイマー型認知症の治療

グルタミン酸仮説

「老人班の形成」や「神経原線維変化」など

記憶に関わるアセチルコリン量が減少 コリン仮説

アセチルコリン量を増やすことで症状を改善する

アセチルコリン(ACh)が関与 グルタミン酸が関与

アセチルコリンエステラーゼ(AChE) :アセチルコリンを分解

この酵素を阻害し、アセチルコリン量を増やす

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4. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アセチルコリンエステラーゼ(AChE)

アセチルコリン(ACh)を分解

記憶・学習

アセチルコリンエステラーゼ アセチル

コリン

アセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害

アセチルコリン量を増やす

脳内のアセチルコリン量を増大させ、

記憶・学習の機能を改善させる

神経

細胞

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4. グルタミン酸仮説

グルタミン酸 : 脳内で記憶・学習に関わるシグナル

グルタミン酸が常に放出されている

・ 記憶や学習が難しい

アルツハイマー型認知症

・ 神経細胞が死滅

シグナルの強さ

正常なシグナル

シグナル

発生

記憶形成 シグナルの強さ

アルツハイマー型認知症

におけるシグナル

シグナル

ノイズ 記憶形成の

シグナルが

マスクされる

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4. グルタミン酸受容体阻害薬

シグナルの強さ

グルタミン酸受容体阻害薬を

服用した後のシグナル

シグナルの強さ

アルツハイマー型認知症

におけるシグナル

グルタミン酸受容体(NMDA受容体)を弱く阻害

阻害あり

阻害なし 阻害薬

(弱く阻害)

弱い受容体阻害作用

正常なシグナル伝達のような強い条件下では、

薬は受容体から素早く解離する

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4. 認知症の治療効果

もの忘れの程度

悪化

正常

時間の経過

薬物治療を

行わなかった場合

薬物治療を

行なった場合 薬物治療開始

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4. レビー小体型認知症の治療薬

幻覚や妄想

レビー小体型認知症の症状は記憶障害だけでない

体が固まる

精神症状

パーキンソン病のような症状

精神症状 抗精神病薬

パーキンソニズム 抗パーキンソン病薬

記憶障害 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

レビー小体型認知症の特徴 薬剤過敏症

薬剤への過敏により、治療が困難になることも 役に立つ薬の情報~専門薬学

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4. 脳血管性認知症の治療薬

脳血管性認知症の発症

・ 脳の血管が詰まる(脳梗塞)

・ 脳の血管が破れて出血する(脳出血)

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症とは、

治療法が大きく異なる

基礎疾患(糖尿病や高血圧など)を取り除くことが重要

脳血管性認知症の治療

血液の凝固を防ぐ薬が使用される事も

血液をサラサラにする薬

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5. 認知症の介護に当たって

非薬物療法はとても大切

本人の脳を活性化させ、残っている機能を高める

趣味を楽しむ

家事を任せる 思い出を語り合う

適度な運動

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5. 認知症の介護に当たって

介護を行う自分自身の負担軽減を考える

介護で最も重視すること

認知症の介護は長期間に渡る

身体的・精神的負担は時間が経過するごとに大きくなる

身内と相談しましょう

介護保険・公的機関の利用を

検討しましょう

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