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使Development of New Chassis Control System with using Engine Torque : G-Vectoring Control 調G-Vectoring 1 Chapter Photo : 赤松 孝

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Page 1: 1 それは · 2019-04-11 · 山門先生がピアレビューを受け、ディ スカッションを経て生まれた技術です。 各自動車メーカーや部品メーカー、

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1Chapter

Photo : ○○ ○○

マツダ(株)/神奈川工科大学/(株)日立製作所

それは

一つの式から

始まった

運転が好きで、自分のクルマを操ることを趣味としていた一人の技術者が、

やがて運転制御を研究テーマにしていった。

優秀なドライバーとは、その運転とは。

それを制御で再現できないか。

やがて研究は一つの数式を導く。

それをベースに試作車が作られ、各メーカーに試してもらった。

ブレーキを使ったその制御に疑問の声が上がった中で、

マツダがこの理論を評価した。

ブレーキではなくEVのモータで制御したらどうか。

やがてこの制御はマツダの新しいエンジンで

発展させることがわかってきた。

Developm

ent of New

Chassis C

ontrol System w

ith using E

ngine Torque : G

-Vectoring Control

エンジンとシャシの協調による

G-V

ectoring

制御車両の開発

1Chapter

Photo : 赤松 孝

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3 AUTO TECHNOLOGY 2019

優秀なドライバーの運転を

制御で再現してみたい

 

マツダが、2016年に小型車アクセラの製品改良に

際し、標準装備の形で導入したのが、G‐Vector

ing

Control(G‐ベクタリング制御)(GV

C)である。ステアリング操作が行われたとき、エンジ

ンの出力を微調整することにより、走行を安定させ、カー

ブを狙い通りに曲がって行けるようにする。これにより、

安心して運転できるようになり、運転が上達したように

感じられたり、乗り心地が快適になったりする。自動車

メーカーのマツダにとっては、追加の装置を用いること

なく制御で達成できる機能向上であるため、原価増の懸

念なしに商品性を向上させる利点もある。

 

そもそも、こうした走行制御の発想が生まれる背景は

どこにあったのか。現在は神奈川工科大学創造工学部自

動車システム開発工学科の教授である山門誠博士(工

学)は、元日立製作所に勤務しており、その際にこの研

究を手掛けていた。そのいきさつを次のように語る。

「1987年の入社当時、日立製作所にはエンジン関係

の取り組みはあったものの、シャシ関係はまだ手が付け

られていませんでした。私も入社したあと、直噴エンジ

ンの燃料噴射装置(インジェクタ)の開発に携わってい

ました。しかし気持ちの中では、シャシをやりたいとの

思いがありました。運転が好きで、荷重移動させながら

スポーツカーを操るのが楽しかったので、ドライバーが

やっている操作をPCやロジックで制御してみたいと

思ったのです。2004年に、トキコやユニシアジェッ

クスと日立の合併でシャシ事業を立ち上げることになり

ました。しかし、日立の研究所にはシャシに関する知見

がなく、クルマもテストコースもないことから、ドライ

ビングシミュレータを使って研究の糸口をつかもうとし

ました。研究の目標は、優秀なテストドライバーの運転

を制御で再現することとし、運転の様子をつぶさに観察

しながら、加加速度という概念を起草してデータを検証

していくうち、一つの式を導き出すことができたのです」

 

横加加速度とは、ステアリングを動かした際の横加速

度(G)の変化を指す。従来、クルマの旋回は一定速度

それは一つの式から始まった―マツダ(株)/神奈川工科大学/(株)日立製作所―

図2 山門が完成させた博士論文「車両横運動に連係した加減速制御に関する研究」

Gx

Gyball

bowl

合成加速度Gベクトル

加減速目標値

比例定数

横加加速度(横加速度微分値)

 ステアリング操作を行った際の横加速度(横G)について論じられることは従来からあったが、操作過程でのドライバーの加減速調節との関連を解いた理論や製品化された機能はこれまで存在しなかった。G-Vectoring Control(G- ベクタリング=GVC)は、ステアリングが操舵されると自動的にエンジン出力をわずかに調節し、減速度を生じさせることにより、前輪への荷重移動を促し、的確な旋回を実現する。同時に、この機能が作動することにより、直進性も安定し、タイヤの接地感覚が高まり、余計なステアリング操作が減ることにより同乗者の乗り心地も改善される多様な効果が得られる。実現する制御式はたった一つであり、簡素な式によりプログラムが構築されることにより、的確な機能を実現することができる。またGVCは、SKYACTIVというマツダ独創のエンジン技術による制御の早さが鍵を握っている。加えて、ソフトウェアにより機能する技術であり、余分な原価を掛けず成果を得られる技術でもある。

縦Gコントロールによる旋回制御

コントロールシステム概念図

Powertrain Control Module

G-Vectoring Control Engine Torque Control

VehicleState

Prediction

WheelTorqueReductionCalculation

EngineTorqueControl

Engine TorqueReductionCalculation

TargetedDecelerationCalculation

ControlGain

SteeringWheel Angle

VehicleVelocity

図1 ブレーキやアクセルの操作により、前後と横の加速度が錬成、合成加速度が推移する

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4

走行での運動理論にとどまってきた。そこに操舵をする

過渡期の前後Gの変化が横加加速度に比例することに着

目し(図1)、それを定式化したところに、この研究開

発の鍵があった。研究過程で山門は、ドライビングシミュ

レータを扱う神奈川工科大学に所属し、クルマの運動制

御の権威である安部正人教授の下で博士論文「車両横運

動に連係した加減速制御に関する研究」を仕上げた(図

2)。

日立が作った試作車に

自動車メーカーの反応は

 

日立の研究所が、シャシの研究を本格的に始めた

2004年に入社したのが、工学博士である日立製作所

研究開発グループの髙橋絢也である。

「入社したときは山門先生が私の指導員で、先生が大学

で研究されているとき、研究所でG‐Vectorin

gの開発のための試作車の製作を行うことになりました。

当時弊社で製品化されていたアクチュエータでは本制御

を実現するには応答性と制御性で難しいものがあったの

ですが、それらを改善した試作品を使って試作車を仕立

てました。車体メーカーではないので、自動車部品を作っ

ている社内の事業部に教えてもらいながら、クルマのど

こにどのような装置を付け、どうすれば狙った動作を稼

働できるのか、半年ほどかけて仕上げました。G‐Ve

ctoring制御では、ブレーキを掛けるタイミング

と、その強さの関係が胆になりますが、はじめのうちは

ブレーキが強くかかり過ぎたり、信号にノイズが入らな

いようフィルタを掛けると制御が遅れ、適切な時期にブ

レーキがかからなかったりといった苦労がありました。

開発の中で、アクチュエータの特性を考慮したり、ステ

アリング操作から車両モデルを使って横加速度を作るな

1Chapter

髙橋 絢也 Junya TAKAHASHI

株式会社日立製作所研究開発グループ制御イノベーションセンター制御プラットフォーム研究部ユニットリーダー主任研究員博士(工学)

「これまでの G-Vectoring 制御に関する活動の中で、このような賞をいただけたのは今回が初めてで、応募に際し、私にも共同開発者として声を掛けて戴けたこと、そして開発を共にした仲間と喜びを分かちあえたのが嬉しかったです。家では子供が喜んでくれ、家内はもっと広い家でないと賞の楯を飾る場所がないと言っていました(笑)」

山門 誠 Makoto YAMAKADO

神奈川工科大学創造工学部自動システム開発工学科 教授博士(工学)

「2017 年にはこの開発で論文賞を受賞し、翌年に 2年連続で技術開発賞を戴くことになり、両方で賞を獲れたのは研究者としての目標でもあり、嬉しく思っています。また、授賞式でメンバー揃いの記念写真が広報されたのも嬉しかったです。しかしそれより嬉しいのが、G-Vectoring 制御という技術がマツダのクルマに搭載され、世界中の人々が『運転と移動』を笑顔で楽しんでいるということです」

砂原 修 Osamu SUNAHARA

マツダ株式会社統合制御システム開発本部

「狙って獲れる賞ではないので、純粋に嬉しく思っています」

高原 康典 Yasunori TAKAHARA

マツダ株式会社車両開発本部 シャシ開発部シャシ先行技術開発グループマネージャー

「量産に携わって賞が戴けるとは思っていませんでした。受賞した楯に、開発メンバーの名前が刻まれていたのが光栄で、嬉しかったです。家族も喜んでくれました」

梅津 大輔 Daisuke UMEZU

マツダ株式会社車両開発本部操安性能開発部 主幹

「この開発は自動車技術会での技術者同士の交流がきっかけとなっており、山門先生がピアレビューを受け、ディスカッションを経て生まれた技術です。各自動車メーカーや部品メーカー、そして大学等の研究者が集う場から連携が生まれ、そしてその自動車技術会の賞で認められ受賞できたことが嬉しかったです。また、市場導入されたときにはまだ不安だったり、達成感を実感できなかったりしたのですが、表彰式に出て賞を戴いた成果をしみじみ実感することができ、ようやく一区切りをつけることができました。開発の区切りというのは大切で、節目があることで次の開発への意欲が高まります。そういう気持ちになれたことに感謝しています」

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5 AUTO TECHNOLOGY 2019

どして、狙った動作をするよう作り上げていきました。

 

出来上がった試作車を、国内外の自動車メーカーに持

ち込み試乗していただいたのですが、反応は賛否両論で

した。ブレーキを使った制御だったので、主に制御ブレー

キの担当部署の人に試乗してもらったのですが、ほとん

どの自動車メーカーから、『クルマが不安定になってい

ないにもかかわらず、早期にブレーキを掛ける制御は製

品にならない』と言われました」

なぜマツダは

この試作車に興味を持ったのか

 

そうしたなか、では、なぜマツダは開発に取り組むこ

とにしたのか。この開発でマツダ内での牽引役を担った、

マツダ車両開発本部操安性能開発部の梅津大輔主幹は、

「マツダは当時、ベースとなるボディやサスペンション

など基本のシャシ性能のレベルアップに注力していた時

期で、こういった車両運動制御システムの検討はほとん

ど行っていませんでした。そのため、はじめは否定的な

人間もいました。しかしながら、この開発メンバーには

いろいろな経験や知見を持つ人間が集まっており、たと

えば山門先生は日立時代にエンジンにかかわっていまし

た。砂原修は、ブレーキの専門家でしたが、その以前は

生産技術の出身で、この開発を始めるときには技術研究

所で電気自動車(EV)を担当していました。量産へ向

けた開発をした高原康典は、元オーディオ等の電気部品

の設計担当で、その後電動パワーステアリングを担当し

ており、電子制御に詳しかったので、皆がそれぞれ得意

分野で制御を作り上げるイメージを持てたのだと思いま

す。そして私は、かつては操作系やドライビングポジショ

ン、その後はエンジン性能の担当でした」と説明する。

 

もともとブレーキの専門だったというマツダ統合制御

システム開発部の砂原は、

「ブレーキの視点からすると、私も試作車に乗って違和

感を覚え、これはブレーキを使ってやるべき制御ではな

いと感じました。ステアリングを操舵した際、後ろへ引っ

張られるような感覚があったのです。ただ、当時私はE

Vの開発をしていましたから、減速するなら回生の方が

滑らかで応答も早いのではないかと思い、EVで実現す

べきだと思ったのです」と振り返る。

制御を小さくしていくと

新しい感覚が生まれた

 

ここで、ブレーキではなく動力を使った減速という発

想が生まれる。ただし、当時のエンジンでは応答が間に

合わず、出力制御も難しかった。そこで、EVで開発を

始めることになったのである。その過程で新たな発見が

あった。

「砂原と試行錯誤を続けるなかで、制御のゲインを小さ

くしてみたらどうかと試すと、ベース車に対してタイヤ

の接地感覚や、走りの質が高まり、なんともいえない、

よい手応えのクルマになるのが分かりました。日立の髙

橋さんと一緒に取り組んだ当初は、ステアリングが操作

された際の減速をブレーキで行うことにより、緊急回避

など操縦性に対する明確な効果を出そうとしていました

が、制御を微小にしていくと新しい感覚があることを発

見したのです」と梅津は語る。

「そのような微小域での制御効果は、当時のブレーキア

クチュエータで実現できる領域ではなかったので、実車

での検討はできていませんでした」と髙橋は言う。

「制御量を減らすことにより、ベース車に対して大きく

特性を変えることなく、自然な性能向上効果だけを付加

することができます。また反対意見の人たちに対しても、

違和感が一切ない状態に仕上げることで、理解してもら

えると思いました。そして試乗してもらうと『凄いじゃ

ないか』となったのです」と梅津が補足する。

 

量産化へ踏み切るきっかけとなったのは、役員の判断

であった。国内の自動車メーカーは1980年代に4輪

操舵の開発競争を行い、各メーカーから4輪操舵技術が

製品化された。しかし、その作動には違和感がつきまと

い、やがて消えていく。その反省から、マツダ内ではま

ず基本のシャシ性能を高めるべきとの声が高まり、以後

他メーカーなどで行われてきたトルクベクタリングなど

のシャシ制御は手付かずの状態にあった。役員も、半信

半疑で試乗したあと、「この制御は臭みがとれている」

と評価した。いわゆる過去の4輪操舵のような、わざと

らしさや違和感がないという意味であった。研究開発し

ている技術が量産市販されるに際し、運転がうまくなっ

たとか、運転が楽しいといった感覚を自然に持てること

が商品性として重要になってくる。その素養があった。

SKYACTIVエンジンとの

抜群の相性

 

当初はEVでの開発であったが、EVの発売は時期尚

早であり、普及拡大のためにはエンジンで実現する必要

があると、別の役員が求めた。ちょうどそのとき、マツ

ダはSKYACTIVによるエンジン開発が進められて

おり、このエンジンであればGVCを実現できる可能性

があるのではないかとの助言が役員からあった。梅津は、

「EVでの開発と同時期に以前のエンジンでも試してい

ますが、そのときはうまくいきませんでした。シャシと

エンジンの制御を同期させるところで、例えば電動パ

ワーステアリングの制御は1ミリ秒の早さで制御を行っ

ているのに対し、エンジンでは一般的に10ミリ秒と10倍

も遅い制御です。これを人間の感か

覚かく

閾しき

値いち(

境目となる値)

よりも速い応答にしなければ、GVCの制御式に合わせ

た適切な減速度制御をすることができません。SKYA

CTIVのエンジンは、元々トルク制御ではなく目標加

速度制御としていたので、GVCの制御式との相性が良

かったのです。さらに、エンジンコンピュータの制御処

理速度を5ミリ秒に速め、エンジン内部の摩擦損失の低

減などの効果も相まって、指示に対し、素早く目標の減

速度応答を実現することができました(図3)。技術的

それは一つの式から始まった―マツダ(株)/神奈川工科大学/(株)日立製作所―

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にはそういうことですが、開発作業を行う上では、シャ

シ担当とパワートレイン担当が通常は一緒に仕事をする

機会がないので、その橋渡しを高原がしてくれたことで

作業が進みました」と説明する。

パワートレインの技術者が

テストコースに赴くわけ

 

マツダ車両開発本部シャシ開発室シャシ先行技術開発

グループの高原は、

「通常、パワートレインの担当者はテストコースに赴く

ことはありません。しかし、シャシとパワートレインの

連携が不可欠な開発であることを理解してもらうため、

テストコースで実際に試乗してもらい、価値を共有して

もらいました」と語る。さらに、

「GVCを採り入れることにより、実はSKYACTI

Vエンジンの応答性のよさを最大に引き出すこともでき

たと、パワートレインの担当も改めて驚いていました」

と、梅津も言う。

 

エンジンを使っての開発では、ガソリンとディーゼル

で制御が異なり、またGVCの導入に際し出力調整を

行った際の燃費や排ガス清浄に問題が起きないかなど、

諸性能との兼ね合いも当然ながら不可欠で、パワートレ

インとシャシ開発の共同開発が順調に進むことは、以上

で述べられてきたより重要な課題であった。

 

高原は、

「何より、量産へ向け自分が担当することになったとき、

試作車に乗ってみるとまさに目から鱗が落ちる強い印象

がありました。0・01Gしか出力調整していないとい

うので、それで運動性能が変わるとは想像できなかった

のですが、実際に運転してみると、運転しやすくなって、

違和感もない。カーブをしっかり曲がり、走りがカチッ

としていました(図4)。その体験が、量産開発へ向けシャ

シ担当とエンジン担当の橋渡し役になる仕事への意欲に

つながりました」と、力強く話した。

 

また、開発過程の全般において、ラピッドプロトタイ

ピングが作り込みの作業で役立ったと梅津は付け加える。

「髙橋さんや砂原が助手席に乗り、実車で走行評価をし

ながらその場でプログラムを書き換え、熟成していけた

のは重要なことでした(図5)。当初のブレーキでの制

御から、EVでの試作車、エンジンでの試作車の各段階

で、ラピッドプロトタイピングを活用したので、開発が

早く、しかも順調に進んだといえます(図6)」

 

髙橋は、「感覚的なところを重視した開発だったので、

〈この感じ〉というのをその場ですぐに修正、確認する

1Chapter

図5 実車で走行評価をしながらプログラムを書き換えた作業を再現

図6 神奈川工科大学に設置されたシミュレータ。制御のプログラミングを反映させ、開   発がすすめられた

図3 GVCの制御作動フロー

0

0.5

1

1.5

GVC制御有り:平均14.6%の標準偏差減少

図4 GVCによる運転操作の安定化と修正操舵の低減を確認した

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7 AUTO TECHNOLOGY 2019

ことが重要でした。変更するために、いちいち装置を積

み替えたり、物を取り付けたりしたのでは、短期間で熟

成できなかったと思います」と振り返る。

 

山門は、「制御式が一つという点も、ラピッドプロト

タイピングをやれた理由の一つでしょう」と、言う。

 

できあがったGVCは、自動車ジャーナリストをはじ

め、高い評価を得た。そのことについて、梅津は、

「この開発の基本は、人間の感性に基づいた車両運動理

論が要であり、神奈川工科大学と日立製作所と共に、学

術的な裏付けがあってこそ実現できたといえます。学会

で議論された確固たるものがあり、そのうえで商品化す

る手順を一つ実現することができ、産学連携で実のある

成果を残せたと思います。これからも、この形での研究

開発を続けていきたいと思います」と話す。

 

山門も、「学会での発表論文を、同じ研究分野の研究

者が評価する、いわゆるピアレビューを経て製品化する

のが正しい製品化の道筋ではないかと考えます。原理原

則に従ってというところが、産学における学の役割だと

思います」と語る。

 

GVCは今後、どのような発展性があるのだろう。

「すでに学会で発表し、18年10月に発表したGVCプラ

スに発展しています」と梅津。「GVCは、応答性向上

のためのステアリングとエンジンの協調制御でしたが、

GVCプラスでは、それに車両姿勢安定化のためのブ

レーキ制御が追加になります。

ようやく、制御が難し

かったブレーキがここで加わるのです。ステアリングを

素早く戻す操作のときにESC(電子制御スタビリティ

コントロール)ユニットを活用して復元モーメントを与

えて挙動を収束させ、走行を安定させる技術です。GV

CやGVCプラスのような統合制御は、ハードウェアと

ソフトウェアを関連させることにより、1+1が2では

なく3となるような、クルマのハードウェアが持つポテ

ンシャルを最大化させることができます」

 

筆者がGVCを試乗したときの印象は、いまなお忘れ

ることができない。走りが滑らかになり、タイヤのグリッ

プが確かになって、また乗り心地も快適になる。ドライ

バーだけでなく同乗者も、体がゆすられることがすくな

くなり、上等なショーファードリブンカーに乗っている

ような気分を味わえる。それが車両価格の上下を問わず

実感できるのである。さらに、GVCプラスでは、ステ

アリングを戻す操作のところでクルマの姿勢を安定させ

るため、車線変更やカーブの切り返しなど、ステアリン

グを左右に切る場面での安定性が非常に向上する。ステ

アリング操作のすべての領域で車両の挙動は落ち着き、

ことに高速道路では、肩の力を抜いて運転することがで

き、それは移動の安全と安心にもつながるだろう。クル

マで出掛けることが楽しみになる技術である。

それは一つの式から始まった―マツダ(株)/神奈川工科大学/(株)日立製作所―