改善をみた甲状腺クリーゼの1例 - researchmap

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Journal of Japanese Society for Emergency Medicine 購撫磁羅鞭 鰍症例報告 血漿交換により血中甲状腺ホルモン値異常の 改善をみた甲状腺クリーゼの1例 平川 昭彦 松尾 信昭 村上 典彦2 田中 孝也 新谷 裕1 北澤 康秀1 【要旨】 甲状腺クリーゼは,その治療に困難をきわめ死亡する症例も少なくない。今回,甲状腺機 能充進症に合併した重症肝不全,甲状腺中毒性心臓病(甲状腺心)治療中に甲状腺クリーゼに至っ たが,血漿交換で薬剤難治性の甲状腺クリーゼが改善された症例を経験したので報告する。症例は 全身倦怠感と呼吸困難を主訴に搬送された45歳の男性,血液生化学データや心エコーにて甲状腺機 能充進症,肝不全,うっ血性心不全と診断した。甲状腺機能充進症に対して抗甲状腺剤を投与する も臨床症状,甲状腺ホルモン値および心機能は改善せず,薬剤難治性であった。肝不全に対して持 続的血液濾過透析や血漿交換を行うも効果はなかった。しかし,血漿交i換の開始後より血中甲状腺 ホルモン値の改善,それに伴いうっ血性心不全の改善を認めた。したがって,薬剤療法にて効果が 得られない甲状腺クリーゼ症例では,血漿交換療法が有効な治療手段になると思われた。 索引用語:甲状腺クリーゼ,血漿交換(PE) はじめに 甲状腺機能充進症は多彩な症状を呈する疾患であ り,ときに循環障害,肝機能障害を合併することも ある1・2)。しかし,重症肝障害に至る症例はきわめて 少ないとされている3・ 4)。甲状腺クリーゼは,甲状腺 機能充進症の諸症状が急激に悪化した病態の呼称で あり,その治療は困難をきわめ,死亡する症例も少 なくない5)。 The Effect of Plasma Exchange for a Thyrotoxic Crisis Patient Akihiko HIRAKAWA, Nobuaki MATSUO, Hiroshi SHINYA’, Yasuhide KITAZAWA’, Norihiko MURAKAMI2, Takaya TANAKA Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kansai Medical University, ’Department of Emergency Medicine, Kishiwada City Hospita1, 2Department of lnternal Medicine, Kishiwada City Hospital 関西医科大学高度救命救急センター 1岸和田市民病院救急部,2同内科 〔原稿受付日:2000年3月31日 受領No.12-008〕 今回,甲状腺機能充進症に合併した重症肝不全, 甲状腺中毒性心臓病(甲状腺心)治療中に甲状腺ク リーゼに至るも,血漿交換にて薬剤難治性の甲状腺 クリーゼが改善された症例を経験したので,若干の 文献学考察を加えて報告する。 患者:45歳,男性 訴:全身倦怠感,呼吸困難 既往歴:41歳時よりBasedow病と診断されるも放 置していた。 家族歴:特記することなし 現病歴:全身倦怠感を主訴に近医を受診したが, 感冒と診断され帰宅した。約10日後,呼吸困難が出 現し,当院に救急搬送された。 入院時現症:身長168cm,体重515kg。意識は清 明。眼球は突出(約20mm)していた。甲状腺腫(び 慢性,弾性硬,横径8cm)を触診にて診断した。血 圧106/78mmHg,脈拍190回/分であり,四肢に浮腫, 424 日臨盆画誌(JJSEM)2001;4:424-8 Presented by Medical*Online Presented by Medical*Online

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Page 1: 改善をみた甲状腺クリーゼの1例 - researchmap

@ Journal of Japanese Society for Emergency Medicine

購撫磁羅鞭

鰍症例報告

血漿交換により血中甲状腺ホルモン値異常の

    改善をみた甲状腺クリーゼの1例

平川 昭彦  松尾 信昭

村上 典彦2 田中 孝也

新谷  裕1 北澤 康秀1

【要旨】 甲状腺クリーゼは,その治療に困難をきわめ死亡する症例も少なくない。今回,甲状腺機

能充進症に合併した重症肝不全,甲状腺中毒性心臓病(甲状腺心)治療中に甲状腺クリーゼに至っ

たが,血漿交換で薬剤難治性の甲状腺クリーゼが改善された症例を経験したので報告する。症例は

全身倦怠感と呼吸困難を主訴に搬送された45歳の男性,血液生化学データや心エコーにて甲状腺機

能充進症,肝不全,うっ血性心不全と診断した。甲状腺機能充進症に対して抗甲状腺剤を投与する

も臨床症状,甲状腺ホルモン値および心機能は改善せず,薬剤難治性であった。肝不全に対して持

続的血液濾過透析や血漿交換を行うも効果はなかった。しかし,血漿交i換の開始後より血中甲状腺

ホルモン値の改善,それに伴いうっ血性心不全の改善を認めた。したがって,薬剤療法にて効果が

得られない甲状腺クリーゼ症例では,血漿交換療法が有効な治療手段になると思われた。

索引用語:甲状腺クリーゼ,血漿交換(PE)

はじめに

 甲状腺機能充進症は多彩な症状を呈する疾患であ

り,ときに循環障害,肝機能障害を合併することも

ある1・2)。しかし,重症肝障害に至る症例はきわめて

少ないとされている3・ 4)。甲状腺クリーゼは,甲状腺

機能充進症の諸症状が急激に悪化した病態の呼称で

あり,その治療は困難をきわめ,死亡する症例も少

なくない5)。

The Effect of Plasma Exchange for a Thyrotoxic Crisis Patient

Akihiko HIRAKAWA, Nobuaki MATSUO, Hiroshi SHINYA’,

 Yasuhide KITAZAWA’, Norihiko MURAKAMI2, Takaya

 TANAKADepartment of Emergency and Critical Care Medicine, Kansai

 Medical University, ’Department of Emergency Medicine,

 Kishiwada City Hospita1, 2Department of lnternal Medicine,

 Kishiwada City Hospital

関西医科大学高度救命救急センター

 1岸和田市民病院救急部,2同内科

〔原稿受付日:2000年3月31日 受領No.12-008〕

 今回,甲状腺機能充進症に合併した重症肝不全,

甲状腺中毒性心臓病(甲状腺心)治療中に甲状腺ク

リーゼに至るも,血漿交換にて薬剤難治性の甲状腺

クリーゼが改善された症例を経験したので,若干の

文献学考察を加えて報告する。

症  例

 患者:45歳,男性

 主 訴:全身倦怠感,呼吸困難

 既往歴:41歳時よりBasedow病と診断されるも放

置していた。

 家族歴:特記することなし

 現病歴:全身倦怠感を主訴に近医を受診したが,

感冒と診断され帰宅した。約10日後,呼吸困難が出

現し,当院に救急搬送された。

 入院時現症:身長168cm,体重515kg。意識は清

明。眼球は突出(約20mm)していた。甲状腺腫(び

慢性,弾性硬,横径8cm)を触診にて診断した。血

圧106/78mmHg,脈拍190回/分であり,四肢に浮腫,

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血漿交換で甲状腺ホルモン値が改善した1例

表1入院時血液検査成績

Na 137 mEqAK 5.4 mEqACI 99 mEqAGIu 110 mg/dl

CPK 124 U/l

TP 5.9 g/dl

Alb 3.8 g/dl

AST 489 UAALT 406 U/1

ChE O.28 A pH

T-Bil 7.1 mg/dl

D-Bil 3.9 mg/dl

AIP 441 UA7 一GTP 65 UA

LDH 705 UABUN 27 mg/dlCreatinine O.8 mg/dl

CRP 2.74 mg/dl

Blood Gas Analysis ( 02 3t mask)

pH

PaCO2

PaO2

HCO3-

BE

SaO2

WBCRBC

Hb

Ht

Plt

or

APTT

HPT

7.427

19.8 mmHg

91.6 mmHg

12.8 mmol/1

-9.0 mEqA

g7.o o/.

 14,400 /mm3

488 × 10‘ /mm3

  15.0 g/dl

  45.5 O/0

7.2 × 10‘ /mm3

   7.1 O/0

  240.0 sec

  64.4 O/o

IgM-HA

HBs-Ag

HCV-Ab

T3

T4

FT3

FT4

TSHthyroglobulin

antithyroglobulin

antibody

TSH recepter

antibody

)))

(((

2.2 ng/m

10.7 pt g/d1

8.24 pg/m1

4.21 ng/dl

O.02 # U/m1

250 ng/ml

O.3 U/m1

25.4 O/o

全身チアノーゼを認めた。

 入院時血液検査成績(表1):血中カリウム値およ

びトランスアミナーゼ値上昇,コリンエステラーゼ

値低下,直接型優位のビリルビン値上昇,著明な凝

固因子の低下を認めた。甲状腺ホルモンはT3, Fr3お

よびTSH受容体抗体の高値, TSH低値を認め甲状腺

機能二進状態であった。動脈血ガス分析で代謝性ア

シドーシスを認、めた。

 胸部X線所見はCTR値62%と心拡大,および肺

うっ血像を認めた。

 入院後経過:搬入時,微熱程度であったが,当日

夜間より高熱となり呼吸困難が増強したため,気管内

挿管下に人工呼吸管理を開始した。また,心電図上で

高度の頻拍性心房細動を認めたため,ジゴキシン,塩

酸ベラバミルを投与するも効果なく,除細動でも不変

であった。なお,βプロッカー投与も考慮したが,駆

出率29.696ときわめて低下していたため断念した。無

尿,肺うっ血,うっ血性心不全状態であったため,利

尿剤投与で対応するも利尿は得られなかった。なお,

呼吸状態はその後の持続的血液濾過透析(cmF)に

よる除水により改善傾向を示した。

 肝機能は第2病日にAST 6,280U/l, ALT 2,185U/l,

LDH 11,810UAと上昇したため,うっ血性心不全およ

び肝保護目的にて,CHDFを開始した。その後,病

態は一進一退の状態であったが,第9病日に意識レ

ベルが低下し,PTも14%と改善傾向を認めなかった

ため血漿交換(PE),血液透析(HD)およびG-1療

法などを施行したが肝機能は改善せず(図1),多臓

器不全状態に至った。

 甲状腺機能充進症に対しては,第1病日より複方

ヨード・グリセリン,プロピルチオウラシル(PTU

900mg,2日間),コハク酸ヒドロコルチゾンNa(200mg,

3日間)を投与し,その後,複方ヨード・グリセリン,

チアマゾール(MMI)投与に変更した。甲状腺ホル

モン値は第2病日より急激に上昇し,第7病日ではT3

4.6ngtmi, T4 21.O pt gtdl, FT3 19Apgtml, FT4 13.2ngt

dlと改善傾向を認めなかったが,第9病日より血漿

交換を開始したところ,第13病日ではT32.4ng/ml,

T412.0 # 9/dl, FT37.OP91ml, Fr・2.8ng/dlと改善を

認めた。しかし,第18病日を最後に血漿交換を中止

し血液透析のみに移行したところ,第21病日より,

T3, T4, Fr3, FT4値の再上昇, TsH値の再低下を来

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平川 昭彦・他

40

含30

濁20些

 10

o

CHDF 一一一一111

       pE AA

       HD e

50

40

一〉 30

左 20

10

o

A “AAA ee e  e e ee

T-Bil

PT x

1

4 7 10 13 16 19 22 25         病 日

  図1 血中PT, T-Bil値の推移

28

CHDF 一1-1一一一

       PE AA A AAAAA        HD e

PTU 900mg[=コeeo e eee

MMI I s80翼血書萱v

compound iodine glycerin [[lli

靴箆(1歴舞:

       20滴

hydrocortisone

sodium 200mg succ血ate i.v.

go滴

60mg p.o.

 22

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 10

 5.O

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     TSH

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M3

16 19 22トー一  32

 FT4 一..一一一・7t:一一一一一一一一一一一一一一.邑㌔。.、           ’ 曜、・        .〆

4 7 10 13 16 19 22        病 日

図2 血中甲状腺ホルモン値の推移

  32

O.3 =

α2碧

α1言

02

1

20@=

’5 ハ1・匿

5

した(図2>。

 心機能は第2病日に肺動脈圧48/30mmHg,肺動脈

模入圧19mmHg,心拍出量3.991/分ときわめて悪化

傾向にあったが,血漿交換開始とともに改善傾向を

示し,第11病日には肺動脈圧39/23mmHg,肺動脈1契

入圧11mmHg,心拍出量7.051/分となったため,β

プロッカー投与を開始したところ心機能はさらに安

定するようになり,第12病日の駆出率は76.1%と著

明に改善された。甲状腺クリーゼは血漿交換などに

より一応,小康状態を保ったが,肝不全状態が持続

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し第30病日に死亡した。

 なお,肝の病理所見は肝細胞の壊死,脱落が著し

く,脱落部には線維芽細胞の増生,肉芽形成,再生

結節も認められたが,肝再生に乏しい所見を呈して

いた。

考  察

 本症例は放置していたBasedow病に薬剤,感染な

どの何らかの誘因が加わって急性肝障害を来し,そ

れと平行して甲状腺機能の悪化,甲状腺心を合併し,

それらの侵襲がさらに甲状腺機能状態を悪化して甲

状腺クリーゼ状態に至ったと思われる。一般に,甲

状腺機能充進症に軽度肝障害を伴うことはまれでは

ないが,重症肝障害に至る症例はまれ3・4)である。甲

状腺機能即下症に肝障害が発生する機序は①肝の循

環障害,②肝の代謝障害,③甲状腺ホルモンによる

直接肝障害,④ウィルスや他の肝障害因子に対する

抵抗力の低下,⑤薬物代謝の異常など3)が考えられ

ている。今回,重篤な急性肝障害に至った原因は定

かではないが,肝障害の一因である可能性として,

甲状腺ホルモンの直接障害や甲状一心による頻拍性

心房細動と急性心不全状態の遷延も考えられるが,

原因として明確な指摘はできなかった。またその後,

肝障害が遷延したが遷延した原因について,循環障

害や抗甲状腺薬の副作用の関与も否定できないが,

肝自身の再生可能レベルを超える不全状態に陥った

可能性も考えられ,何が直接原因か明確には断言で

きないと思われた。

 甲状腺クリーゼに対する一般的治療法は,甲状腺

機能充進症に対する無機ヨード,抗甲状腺薬,βプ

ロッカー,副腎皮質ホルモン投与が中心である。今

回,血中甲状腺ホルモン値の上昇は種々の治療薬を

投与したが,肝不全治療目的で施行した血漿交換療

法によって低下した。甲状腺クリーゼの治療法とし

ての血漿交換の有効性は,1970年Ashkarら6)により

最初の報告がなされた。Ashkarらは3例の甲状腺ク

リーゼの患者に全血交換あるいは血漿交換を施行し,

いずれも従来の治療法では死に至るような重篤な甲

状腺クリーゼであったが救命し,本療法の有効性を

示し,その後,数例の有効性の症例報告がある7・8)。

なかでもKonigら8)は,甲状腺機能充進症の臨床症

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血漿交換で甲状腺ホルモン値が改善した1例

状の改善とFT3ならびにFT4の減少が一致すると報告

している。本症例でも血漿交換とT3, T4, FT3, FT4

の検査値および臨床症状の著明な改善とは一致した

が,血漿交換から血液透析に変更した際には,再度

T3, T4, Fr3, FT4値が上昇した。血液透析に変更し

た際のT3, T4値の再上昇の理由は,蛋白結合してい

る甲状腺ホルモンや抗TSH受容体抗体が血液透析で

は除去されなかったためと思われた。したがって,

本症例の薬剤難治性甲状腺クリーゼに対する血漿交

換療法は有効であったと考えられたが,肝機能に対

する改善効果などに鑑み,血漿交換を8回にて中止

した。

 一般に多くのホルモンはmetabolic clearance rate

(MCR)が大きいため(血中より除去したとしても短

時間に産生,賦活される),体外除去の対象とはなら

ないが,甲状腺ホルモンは例外であり,MCRが約1

〃日と低いため有効とされている9)。また,T3のMCR

がT4に比べ大きいこと, T4からT3への変換が速やか

に行われていること,血中T3値が低下し難いことよ

り有効性に疑問を呈する意見9)もある。本症例は,劇

症肝炎の定義を満たした時点より,血漿交換を開始

とした。しかし,甲状腺クリーゼに対して薬物療法

のみにて対応するのか,血漿交換を加味するのかの

判断には苦慮するが,結果として早期に血漿交換を

施行していれば肝機能の増悪や,甲状腺クリーゼの

悪化を阻止し得た可能性が高いと考えられた。ただ,

甲状腺ホルモン値がどの程度になれば血漿交換を導

入するかの目安はなく,今後の問題と考えられるが,

本症例の経験,甲状腺クリーゼに用いられる薬剤の

特性などを考慮したとき,血漿交換の導入時期は,

甲状腺クリーゼに重度の合併症を併発しているか,

もしくは薬剤投与にもかかわらず甲状腺ホルモン値

がさらに増加するときがよいと考えられた。

 また,甲状腺心の原因としては,甲状腺機能充進に

よる末梢での各種代謝充進に伴う酸素需要の増大に

対応し得るだけの心拍出量が維持できなくなり,心

不全状態に陥るとされている10)。本症例においては,

血漿交換による甲状腺ホルモン異常の改善に伴い,

心機能の改善傾向,βプロッカー投与による心機能

の安定化,胸部X線ならびに心エコー所見の正常化

を認めた。鬼塚ら1)は,甲状腺心に対する,もしくは

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平川 昭彦・他

甲状腺機能充進症による心機能低下に対する血漿交

換は,心拍数をはじめとする循環動態の改善をもた

らし,心機能に対する効果が期待できると報告して

いる。したがって,薬剤療法にて効果が得られない

甲状腺クリーゼ,重度な甲状腺心や肝障害などを合

併する症例では,血漿交換療法は有効な治療手段で

はないかと思われた。

文 献

1) 鬼塚信,長田直人,近藤修,他:甲状腺クリーゼ

 の循環不全に血漿交換が有効であった1例.ICUと

 CCU 1995 ; 19 : 997一 1000.

2) 野ツ俣和夫,鵜浦雅志,松下文昭,他:甲状腺機

 能充進症に合併した重症肝障害4例の臨床病理学的

 検討.肝臓 1988;29:1416-22.

3)Ashkar FS,Miller R, Smoak WM皿,et al:Liver dis-

 ease in hyperthyroidism. South Med J 1971;64:462-

 5.

4) Redeker AG:Fulminant hepatitis. ln: The Liver and

 Its Disease. Schaf fner F, Sherlock S, Leevy CM, et al

 eds. Stratton lntercontinenta1 Medic al Book Corp, New

 York, 1975, p 149-255.

5) 封馬敏夫:V.内分泌・代謝2.甲状腺疾患.日内

 会誌 1986;84:1848-51.

6) Ashkar FS, Katims RB, Smoak WM M , et al : Thy-

 roid storm treatment with blood excahnge and plasma-

 pheresis, JAMA 1970;214:1275-9.

7) Taj iri J, Katsuya H, Kiyokawa T, et al : Succesfu1 treat-

 ment of thyrotoxic crisis with plasma exchange. Crit

 Care Med 1984;12:536-7.

8) Konig B, Kohn H, Meisl F : Plasma mem brane sepa-

 ration. A therapeutic possibility in thyrotoxic crisis. Acta

 Med Austriaca 1990;17:47-9.

9) 阪口勝彦,岸野文一郎,伏見尚子:内分泌タリー

 ゼ.日臨 1992年増刊 血液浄化療法下巻 1992;

 50 : 400-3.

10) Woeber KA : Thyrotoxicosis and the heart. N Engl

 JMed 1992;327:94-8.

428 日臨救医誌(JJSEM)2001;4:424-8

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