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1.2 鏡像法 (3.2 The Method of Images)
この節では,導体がある場合に電場を求める方法の一つとして,鏡像法(method of images) について説明する.Sec. 1.2.1-1.2.3では,鏡像法を用いる典型的な具体例として導体平面がある場合の電場について考える.
1.2.1 鏡像法の例題 (3.1.1 The Classic Image Problem)
図 1.6:
図 1.6に示すように,接地された,無限により導体平面から距離 dの位置に点電荷 q(正電荷であると仮定する)が置かれている.このとき,導体平面より上の領域に生じる電場はどうなっているだろうか?電荷 qは導体表面に負電荷を誘起するので,ポテンシャルは単純に V = 1
4!"0q
|r!r!| では与えられない.電場は,点電荷 qからの直接の寄与と,誘起された電荷からの寄与の和で与えられる.しかしながら,導体表面に誘起された電荷がどのように分布するかは,あらかじわかっていることではない.このような場合は,単純に Coulombの法則 (1.1)式または (1.2)によって電場やポテンシャルを計算することはできない.数学的には,電荷分布が与えられたとき,それによって生じる電場を求めるには,適当な境界条件のもと
で Poissonの方程式を解けばよい.この問題の場合,つまり (0, 0, d)に点電荷 qが置かれているときの z > 0
の領域における電荷分布はわかっていて,デルタ関数を用いて !(r) = q"(x)"(y)"(z ! d)と表すことができる.また,以下の境界条件が課せられている.
1. 導体表面 z = 0においてポテンシャルは一定 V = 0(導体平面が接地されているのでポテンシャルは 0
となる).
2. 無限遠方で V " 0
Poisson方程式を直接解くことは非常に困難である.しかし,第一の一意性の定理によって,上の境界条件を満たす Poisson方程式の解は一つしか存在しないことがわかっている.したがてって,もしも何らかの方法によって Poisson方程式と境界条件を満たすポテンシャルを見つけることが出来たとすれば,それが求める正しい解だということになる.そこで,Poisson方程式を直接解くのではなく,同じ境界条件を与え,しかも簡単に電場が求まる別の状況
を考える.図 1.7のように,電荷 +qが (0, 0, d)に,電荷 !qが (0, 0,!d)に置かれているものとして,導体平面は存在しないものとする.この状況ではポテンシャルを簡単に求めることができる.
V (x, y, z) =1
4#$0
!q"
x2 + y2 + (z ! d)2! q"
x2 + y2 + (z + d)2
#(1.39)
この問題では,z > 0の領域に存在する電荷は (0, 0, d)にある点電荷 +qのみである.!qの点電荷は,考えている領域の外にあるので,Poisson方程式を考える上では関係しない.また,式 (1.39)は境界条件 1,2を両方とも満たしている.したがって,一意性の定理により,図 1.7の状況におけるポテンシャルはもともとの
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図 1.7:
問題 (図 1.6) でのポテンシャルと z ! 0の領域では一致するのである.もちろん,z < 0におけるポテンシャルは二つの状況で全く異なる.結論として,接地された導体平面上におかれた点電荷が作るポテンシャルはz ! 0の領域では (1.39)で与えられる.
+q
+q
q
(a) (b)
図 1.8: (a)導体系 (b)等価な鏡像電荷の系
この例題で用いた方法では,導体平面を鏡に見立てたときの点電荷の像の位置に仮想的な点電荷を考えることによって,導体平面があるときと同じ境界条件を満たすような電場を求めている.このように,導体が存在する系の電場を求める問題を,仮想的な電荷による電場を求める問題に置き換えて解く方法を鏡像法と呼び,仮想的な電荷を鏡像電荷という(図 1.8.鏡像電荷は,もともとの問題と同じ境界条件を与えるように配置する.興味ある領域における Poisson方程式の解として,正しい境界条件を満足するものが得られたならば,それが唯一の解であることは一意性の定理によって保証されている.よって,鏡像法によって正しい解を得ることができるである.
1.2.2 表面誘起電荷 (Sec.3.2.2 Induced Surface Charge)
ポテンシャルを求めることができたので,次に導体表面に誘起された電荷の分布を求めよう.これには次式を用いる.
! = ""0#V
#n(1.40)
ここで #V/#nは V の導体表面における法線方向の微分を表す.ここで考えている導体平面の問題では,法線方向は z方向であるから
! = ""0#V
#z
!!!!z=0
(1.41)
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である.(1.39)式を用いると
!V
!z=
1
4"#0
!!q(z ! d)
[x2 + y2 + (z ! d)2]3/2+
q(z + d)
[x2 + y2 + (z + d)2]3/2
"(1.42)
であるから$(x, y) =
!qd
2"(x2 + y2 + d2)3/2(1.43)
となる.誘起された電荷は負(q > 0と仮定しているので)であり,図 1.9に示すように,電荷密度の絶対値は x = y = 0で最大となる.
-0.2
-0.1
0
-6 -4 -2 0 2 4 6
r / d (r=(x2+y
2)
1/2)
! /
(q
/d
2)
図 1.9: 導体表面に誘起された電荷の分布
ここで,誘起された全電荷を計算しよう.
Q =
#$(x, y)dxdy (1.44)
球座標 x = r cos%, y = r sin%を用いて積分を行うと dxdy = rdrd%より
Q =
# 2!
0d%
# !
0rdr
!qd
2"(r2 + d2)3/2=
$qd"
r2 + d2
%!
0
= !q (1.45)
したがって導体表面上に誘起された電荷の総和は !qとなり,鏡像電荷と一致する.
1.2.3 力とエネルギー (Sec.3.2.3 Force and Energy)
導体表面には反対符号の電荷が誘起されているので,電荷 qには導体面に向かって引き寄せられる力が働く.この力の大きさを求めよう.点電荷 q近傍のポテンシャルは鏡像電荷の系と同じであるから,電場E = !#V
もやはり鏡像電荷の系と同じになる.したがって点電荷 qに働く力も鏡像電荷!qとのCoulomb力に等しい.よって,
F = ! 1
4"#0
q2
(2d)2z (1.46)
である.このように,ポテンシャルだけではなく電荷にかかる力も鏡像法によって正しく計算することができる.し
かし,もともとの導体系(図 1.6)と鏡像電荷の系(図 1.7)は全てにおいて等しいわけではない.例えば,エネルギーはもとの導体系と鏡像電荷の系では等しくならない.距離 2d離れた二つの点電荷 +q,!qの静電エネルギーは
W = ! 1
4"#0
q2
2d(1.47)
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+q
F
+q
q
(a) (b)
図 1.10: (a)導体から点電荷に働く力 (b)鏡像電荷から点電荷に働く力
で与えられる.しかし,導体平面と一つの点電荷からなる系の静電エネルギーはその半分
W = ! 1
4!"0
q2
4d(1.48)
である.これは,静電エネルギーの表式W =
"02
!E2d# (1.49)
より明らかである.二つの点電荷の場合,z < 0の領域にも電場は存在して,そこからのエネルギーへの寄与は対称性により z > 0の領域からの寄与に等しい.一方,導体平面と点電荷の場合,z < 0の領域には電場は存在せず E = 0であるから,ここからの寄与は無い.よってエネルギーは半分になる.1
もちろん,エネルギーは電荷 qを無限遠方から運んでくるのに要する仕事から計算することによって求めることもできる.電場による力に逆らって仕事をするので,電荷を運ぶ際に電荷に作用させなければならない力 Fは (1.46)式と同じ大きさで向きは逆向きである2.したがって
W =
! d
!F · dl = 1
4!"0
! d
!
q2
4z2dz =
1
4!"0
"! q2
4z
#d
!= ! 1
4!"0
q2
4d(1.50)
電荷 qを無限遠方から動かすと,それに伴って導体表面の誘起電荷も移動する.しかしながら,導体表面におけるポテンシャルは常に 0であるから,誘起電荷を移動させるための仕事は 0であり,電荷 qを動かすのに要する仕事のみを考えればよい.一方,電荷 qと鏡像電荷 !qを同時に動かす場合は両方に対して仕事をする必要がある.よって,この場合の全仕事は二倍になるのである.
1.2.4 導体球がある場合の電場を求める問題 (3.2.4 Other Image Problems)
例題(Ex.3.2): 図 1.11(a)のように,接地された半径 Rの導体球から距離 aの位置に点電荷 qが置かれている.このとき導体球の外側におけるポテンシャルを鏡像電荷を用いて求めよ.
解答: 鏡像電荷 q" を図 1.11(b)のように配置する.ここで
q" = !R
aq (1.51)
1この議論には少し注意が必要である.Gri!ths の§2.4.4 でも説明されているように,(1.49) 式を点電荷が存在する場合に適用すると,いわゆる「自己エネルギー」を含んでしまうため発散し,(1.47) 式とは一致しない.しかし,点電荷が有限の大きさを持つと考えて「自己エネルギー」も有限であるとすれば,結局導体系の持つ静電エネルギーは鏡像電荷がある系のエネルギーの半分であることが示される.
2今の場合では仕事をするために作用させる力の向きと電荷が移動する向きは逆向きになる.これは一見奇妙に感じられるかもしれないが,電荷に働くクーロン引力との釣り合いを保つために逆向き力を作用させなければならない.
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r1
r2
O
P
a
(a) (b)
図 1.11:
として,導体球の中心から鏡像電荷までの距離は
b =R2
a(1.52)
とする.この電荷配置によって点 Pに作られるポテンシャルは
V =1
4!"0
!q
r1+
q!
r2
"(1.53)
で与えられる.ただし r1 は点電荷 qからの距離,r2 は鏡像電荷 q! からの距離である.余弦定理より
r21 = r2 + a2 ! 2ar cos #, r22 = r2 + b2 ! 2br cos # (1.54)
であるから,ポテンシャルは
V =1
4!"0
#q"
r2 + a2 ! 2ar cos #! R
a
q$r2 + (R2/a)2 ! 2(R2/a)r cos #
%
=q
4!"0
#1"
r2 + a2 ! 2ar cos #! 1$
a2r2/R2 +R2 ! 2ar cos #
%(1.55)
となる.このポテンシャルは r = Rでは角度 #によらず V = 0となる.これは,導体球面上でポテンシャルが 0という境界条件を満たしている.したがって,求めるべきポテンシャルは (1.55)式で与えられる.今の問題では (1.52)式より必ず b < Rであることが保証されているので,鏡像電荷は常に導体球の内側に
置かれることに注意してほしい.導体球の外側に鏡像電荷を置いてしまうと,Poisson方程式に現れる電荷分布も変わってしまうので正しい解が得られない.一般に鏡像法では,興味のある領域に鏡像電荷を置くことは許されない.点電荷 qは導体球面に誘起された負電荷によって力を受ける.この力は,点電荷 qと鏡像電荷 q!の間に働
く Coulomb力に等しい.したがって
F =1
4!"0
qq!
(a! b)2= ! 1
4!"0
qR
a(a!R2/a)2= ! 1
4!"0
qRa
(a2 !R2)2(1.56)
となる.このように,導体球の場合は一つの鏡像電荷を置くことで同じ境界条件を満たす状況を作ることができる.
しかし,一般の形状の導体に対しては,一つの鏡像電荷によって境界条件を満たすことは難しい.例えば,立方体の導体がある場合は,一つの鏡像電荷によって導体表面上のポテンシャルをゼロにすることは不可能である.
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