1,2 こころの減災研究会 1,3 ホッとせい 1名古屋大学心の減災...

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本研究は日本学術振興会科学研究費基盤研究BNo.25285191 代表 窪田由紀)の助成を受けた。 東日本大震災以降,防災への関心が高まり,災害への備えとして行 動レベルだけでなく,「災害時に起こり得る心理的ストレス反応」や 「対処方法」といった「心の減災」の視点を含めた防災教育が求めら れている。 心の減災能力とは・・・災害時に生じる心理的な被害を減らす能力。 心の減災教育とは・・・災害時に生じうる心理的影響についての理解 と,適切に対処するスキルを育成すること。 これまでに,小学校高学年対象プログラム(松本ら,2014や中高生対象プログラム(鈴木ら,2015)を開発・実施し,効 果検証を行ってきている。 次の課題 災害発生時に重要な役割を担う,親や地域の大人たち を対象としたプログラムの開発 成人を対象とした心の減災プログラムの開発 【分析対象】 自由記述欄への記載があった82名(46.9%)の記述内容(122件)を 分析対象とした。 【分析方法】 自由記述の内容を切片化し, 122個のラベルを抽出。共同研究者の 合議により,KJ法に準じて分類(Table3)した。カテゴリー分類を図示 Figure2)する。 Table 3 カテゴリー分類の結果 Fig.2 カテゴリー分類の図 「心の減災」の必要性の理解が示された。備えることの大切さや,対 処できることが「自己効力感」につながることにも言及がみられた。 一部には「実際に人の命がかかっているときにできるのか」といった 疑問も示された。 10秒呼吸法については,災害時だけでなく日常のストレスへの対処 にも使える という意見が示された。 心の減災教育プログラムの効果測定に関する研究(7) ―成人対象プログラムの概要と自由記述の分析― ○坪井裕子 1,2 吉武久美 1,2 窪田由紀 1,3 松本真理子 1,3 森田美弥子 1,3 1 名古屋大学心の減災研究会・ 2 人間環境大学・ 3 名古屋大学 【プログラム開発・作成】 災害時の心理的反応の理解,災害ストレス反応への対処方略(10 秒呼吸法,認知の修正,他者との信頼関係等)の要素を組み込んだ プログラム(Table 1)を開発した。 Table 1 成人対象「心の減災プログラム」の概要 【プログラムの実施】 20149月~201412月にかけて, A県内の市民講座や研修会等 (計5回)で実施。 Fig.1 スライド例(10秒呼吸法) 【受講者の内訳】 Table2一般市民の他、教職員、防災関係者等,計175(女性63名,男性111名,性別不明1名) Table 2 受講者の年代別人数 【質問紙調査】 プログラム前後に質問紙調査(Pre;29項目,Post;31項目)を実施。 実施後の調査用紙には「今日の感想やご意見を自由にお書きくださ い」と自由記述欄を設けた。 成人対象「心の減災教育プログラム」の概要を提示, ・プログラム実施後に受講者が記述した感想・意見から, 今後の課題を検討することを目的とする。 こころの減災研究会 ホッとせい ® 全体的にはプログラムに対する肯定的な意見や感想が多かった。 プログラムの意図は概ね伝わったのではないかと考えられる。 講座の受講生にはストレスに対する知識を十分に持っている方も含 まれており,もっと踏み込んだ内容を求める意見も示された。 プログラム内容を改良していくことが今後の課題。 教師や防災関係者など,より専門的なプログラム開発も必要。 本発表では 10秒呼吸法 姿勢をととのえる 静かに目を閉じる 口から息を全部はき出す 1,2,3...と鼻から息をすいながら おなかをふくらませる 4で,いったん息を止める 5,6,7,8,9,10で, 口から息をはきだしながら おなかをへこませる ④~⑥をくり返す ストレスへの対処①まず落ち着こう! 問題と目的 結果と考察 まとめと課題 日本教育心理学会第57回総会 (朱鷺メッセ@新潟市) 2015826()13:3015:30 学校心理学 PB009 19.7 事前にこういったことを学んでおくと,いざというときに心の持ちようが違ってく ると思う 心の減災教育必要性を感じた。 震災が起きる前から減災教育しておくことの大切さを実感 63.1 災害が発生した際に心に大きな負担がかかることが分かった 心に寄り添うことがストレスのたまった人には大事である 「10秒呼吸法」で落ち着く! 日常でも使ってみたい 家族にも伝えたい 心の持ち方で世界は変わる 別の方面からのかかわりも大切だということを学ばせていただいた 考え方(ものの見方)を変えるのは大変だと思う 誰かを助ける,お手伝いをするという気持ちを持てるように 暖かい言葉を考える時間があっていいと思った 人と協力することや思いやりは今できない人が増えている 17.2 日頃から使えるなと思うヒントがたくさんあった 自己効力感と,日頃の心のケアが深くつながっていることを知り,非常に勉強 になった。 実際に人の命がかかっているときにできるのか(疑問) 欲を言うともう少し踏み込んだ内容が入っていても良い 災害ストレスの理解と対処法 意見・感想 含む その他 カテゴリー 23.8 11.5 11.5 13.1 災害ストレス の理解 備えることの 大切さ 10秒呼 吸法 認知の 修正 協力・ 信頼 心の減災教育について テーマ 内容 災害時の心理的反応 災害時に心身に起きることを知る 災害ストレスの仕組み 自他のストレス反応の理解 対処法① 落ち着く方法 10秒呼吸法の体験 対処法② 認知の修正 とらえ方でストレスが異なることを知る 対処法③ 信頼・思いやり 協力することで対処できることを知る 事後対応から未然防止へ 心の準備をしておくことの意味を理解する 年代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 計(人) 人数 16 25 44 34 36 18 2 175 心の減災教育 災害ストレス を知る ストレスの 理解 ストレスへ の対処法 10秒呼吸法 ・心を落ち着かせること ・他者にも教えたい ・日常でもやってみたい 認知の修正 ・見方を変えてみる ・心の持ち方で変わる 協力・信頼 ・助け合いできるように ・あたたかい言葉 心の準備の 大切さ 対処できる ことを知る 自己肯定感 につながる

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Page 1: 1,2 こころの減災研究会 1,3 ホッとせい 1名古屋大学心の減災 ...kokoro-gensai.educa.nagoya-u.ac.jp/wordpress/wp-content/...日本教育心理学会第57回総会

本研究は日本学術振興会科学研究費基盤研究B(No.25285191 代表 窪田由紀)の助成を受けた。

東日本大震災以降,防災への関心が高まり,災害への備えとして行動レベルだけでなく,「災害時に起こり得る心理的ストレス反応」や「対処方法」といった「心の減災」の視点を含めた防災教育が求められている。 心の減災能力とは・・・災害時に生じる心理的な被害を減らす能力。

心の減災教育とは・・・災害時に生じうる心理的影響についての理解と,適切に対処するスキルを育成すること。

これまでに,小学校高学年対象プログラム(松本ら,2014)や中高生対象プログラム(鈴木ら,2015)を開発・実施し,効果検証を行ってきている。 次の課題=災害発生時に重要な役割を担う,親や地域の大人たち

を対象としたプログラムの開発

成人を対象とした心の減災プログラムの開発

【分析対象】 自由記述欄への記載があった82名(46.9%)の記述内容(122件)を

分析対象とした。 【分析方法】 自由記述の内容を切片化し, 122個のラベルを抽出。共同研究者の合議により,KJ法に準じて分類(Table3)した。カテゴリー分類を図示(Figure2)する。

Table 3 カテゴリー分類の結果

Fig.2 カテゴリー分類の図

*「心の減災」の必要性の理解が示された。備えることの大切さや,対処できることが「自己効力感」につながることにも言及がみられた。

*一部には「実際に人の命がかかっているときにできるのか」といった疑問も示された。

* 10秒呼吸法については,災害時だけでなく日常のストレスへの対処にも使えるという意見が示された。

心の減災教育プログラムの効果測定に関する研究(7) ―成人対象プログラムの概要と自由記述の分析―

○坪井裕子1,2 ・ 吉武久美1,2 窪田由紀1,3 ・ 松本真理子1,3 ・ 森田美弥子1,3

( 1名古屋大学心の減災研究会・ 2人間環境大学・ 3 名古屋大学 )

【プログラム開発・作成】 災害時の心理的反応の理解,災害ストレス反応への対処方略(10秒呼吸法,認知の修正,他者との信頼関係等)の要素を組み込んだプログラム(Table 1)を開発した。

Table 1 成人対象「心の減災プログラム」の概要

【プログラムの実施】 2014年9月~2014年12月にかけて, A県内の市民講座や研修会等 (計5回)で実施。 Fig.1 スライド例(10秒呼吸法)

【受講者の内訳】 (Table2) 一般市民の他、教職員、防災関係者等,計175名 (女性63名,男性111名,性別不明1名)

Table 2 受講者の年代別人数

【質問紙調査】 プログラム前後に質問紙調査(Pre;29項目,Post;31項目)を実施。実施後の調査用紙には「今日の感想やご意見を自由にお書きください」と自由記述欄を設けた。

・成人対象「心の減災教育プログラム」の概要を提示, ・プログラム実施後に受講者が記述した感想・意見から, 今後の課題を検討することを目的とする。

こころの減災研究会

ホッとせい®

*全体的にはプログラムに対する肯定的な意見や感想が多かった。➡プログラムの意図は概ね伝わったのではないかと考えられる。 *講座の受講生にはストレスに対する知識を十分に持っている方も含まれており,もっと踏み込んだ内容を求める意見も示された。 ➡プログラム内容を改良していくことが今後の課題。 ➡教師や防災関係者など,より専門的なプログラム開発も必要。

本発表では

10秒呼吸法① 姿勢をととのえる

② 静かに目を閉じる

③ 口から息を全部はき出す

④ 1,2,3...と鼻から息をすいながらおなかをふくらませる

⑤ 4で,いったん息を止める

⑥ 5,6,7,8,9,10で,口から息をはきだしながらおなかをへこませる

⑦ ④~⑥をくり返す

ストレスへの対処①~まず落ち着こう!

問題と目的

方 法

結果と考察

まとめと課題

日本教育心理学会第57回総会 (朱鷺メッセ@新潟市) 2015年8月26日(水)13:30~15:30 学校心理学 PB009

19.7

事前にこういったことを学んでおくと,いざというときに心の持ちようが違ってくると思う

心の減災教育必要性を感じた。

震災が起きる前から減災教育しておくことの大切さを実感

63.1

災害が発生した際に心に大きな負担がかかることが分かった

心に寄り添うことがストレスのたまった人には大事である

「10秒呼吸法」で落ち着く!

日常でも使ってみたい

家族にも伝えたい

心の持ち方で世界は変わる

別の方面からのかかわりも大切だということを学ばせていただいた

考え方(ものの見方)を変えるのは大変だと思う

誰かを助ける,お手伝いをするという気持ちを持てるように

暖かい言葉を考える時間があっていいと思った

人と協力することや思いやりは今できない人が増えている

17.2

日頃から使えるなと思うヒントがたくさんあった

自己効力感と,日頃の心のケアが深くつながっていることを知り,非常に勉強になった。

実際に人の命がかかっているときにできるのか(疑問)

欲を言うともう少し踏み込んだ内容が入っていても良い

災害ストレスの理解と対処法

意見・感想含む

その他

カテゴリー

23.8

11.5

11.5

13.1

災害ストレスの理解

備えることの大切さ

10秒呼吸法

認知の修正

協力・信頼

対処法

心の減災教育について

テーマ 内容

災害時の心理的反応 災害時に心身に起きることを知る

災害ストレスの仕組み 自他のストレス反応の理解

対処法① 落ち着く方法 10秒呼吸法の体験

対処法② 認知の修正 とらえ方でストレスが異なることを知る

対処法③ 信頼・思いやり 協力することで対処できることを知る

事後対応から未然防止へ 心の準備をしておくことの意味を理解する

年代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 計(人)

人数 16 25 44 34 36 18 2 175

心の減災教育

災害ストレスを知る

ストレスの理解

ストレスへの対処法

10秒呼吸法

・心を落ち着かせること

・他者にも教えたい

・日常でもやってみたい

認知の修正

・見方を変えてみる

・心の持ち方で変わる

協力・信頼

・助け合いできるように

・あたたかい言葉

心の準備の大切さ

対処できることを知る

自己肯定感につながる