1.3.2 木質バイオマス - maff.go.jp1 - 55 1.3.2 木質バイオマス...

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1 - 55 1.3.2 木質バイオマス 地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し た上で熱や電気として利用されている。常時は、木質バイオマスによる熱や電気を公共施設等で利用 し、災害時には公共施設等を避難所として利用することが考えられる。 木質バイオマスを豊富に収集できる場合は、集積基地等を整備することで、常時は各利用先へ安定 的に資源を供給し、災害時には集積基地内のストックの活用等が可能になると考えられる。また、東 日本大震災の復興計画では、がれきの活用も考えられるが、選別作業や除塩作業等が必要である。 ここでは、以下の4モデルを提案する。 図1.3-2 災害時のエネルギー需要と木質バイオマスの活用モデル 1.避難時、停電中の誘導灯 ・夜間避難等の安全確保対策が必要である。 ・自立運転可能な発電システムからの誘導 等への電気供給が望まれる。 2.緊急用の車両 ・負傷者の救出や搬送、被害状況確認、支 援物資の運搬等のための緊急車両が必要 である。 ・燃料確保が困難となる恐れもあるため、 バイオディーゼル燃料車や電気自動車も 利用できることが望まれる。 3.重要施設(病院等)や避難所 等への最低限の電気・熱供給 ・治療器具等への電源・熱源の確保が必要 である。 ・非常用電源は、数時間分の容量しか確保 されていない場合もあることから、自立 運転可能な発電システムからの優先度の 高い機器への電気・熱供給による応急処 置等の効率化が望まれる。 4.避難所や家庭等における電 気・熱の安定的な確保 ・エネルギーの復旧の遅れや不足が予想さ れることから、冷暖房、給湯、炊事、入 浴等のエネルギーが必要である。 ・避難所となる公共施設や家庭等にバイオ マス等を利用した電気・熱供給システム を導入しておくことで避難所の生活環境 を向上させることが望まれる。 5.個人の電気利用 ・避難所生活等の環境向上のために、個人 が自由に利用できる電気の確保が必要で ある。 ・電気自動車から電力を確保するための充 電場所の整備が望まれる。 6.電力会社の供給能力が不足 ・東日本大震災後、電力会社の供給能力が 低下しており、電源確保が必要となって いる ・バイオマス等による発電電力の系統への 供給や自家利用による節電が望まれる。 重要施設への電気・熱供給モデル (自立運転) ◇木質バイオマス発電による電気・熱供給 避難所等への電気・熱供給モデル ◇木質バイオマス発電による電気・熱供給 ◇木質バイオマスボイラーによる熱供給 家庭・事業所における熱供給モデル ◇ペレット・薪ストーブ、ペレット冷暖房システム ※各モデルは停電回復後(外部電源が確保された後)の稼働を想定 地域電力不足対策モデル ◇木質バイオマス発電による電気供給 エネルギー需要 木質バイオマスの活用モデル

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Page 1: 1.3.2 木質バイオマス - maff.go.jp1 - 55 1.3.2 木質バイオマス 地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し

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1.3.2 木質バイオマス

地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し

た上で熱や電気として利用されている。常時は、木質バイオマスによる熱や電気を公共施設等で利用

し、災害時には公共施設等を避難所として利用することが考えられる。

木質バイオマスを豊富に収集できる場合は、集積基地等を整備することで、常時は各利用先へ安定

的に資源を供給し、災害時には集積基地内のストックの活用等が可能になると考えられる。また、東

日本大震災の復興計画では、がれきの活用も考えられるが、選別作業や除塩作業等が必要である。

ここでは、以下の4モデルを提案する。

図1.3-2 災害時のエネルギー需要と木質バイオマスの活用モデル

1.避難時、停電中の誘導灯

・夜間避難等の安全確保対策が必要である。

・自立運転可能な発電システムからの誘導

等への電気供給が望まれる。

2.緊急用の車両

・負傷者の救出や搬送、被害状況確認、支

援物資の運搬等のための緊急車両が必要

である。

・燃料確保が困難となる恐れもあるため、

バイオディーゼル燃料車や電気自動車も

利用できることが望まれる。

3.重要施設(病院等)や避難所等への最低限の電気・熱供給

・治療器具等への電源・熱源の確保が必要

である。

・非常用電源は、数時間分の容量しか確保

されていない場合もあることから、自立

運転可能な発電システムからの優先度の

高い機器への電気・熱供給による応急処

置等の効率化が望まれる。

4.避難所や家庭等における電気・熱の安定的な確保

・エネルギーの復旧の遅れや不足が予想さ

れることから、冷暖房、給湯、炊事、入

浴等のエネルギーが必要である。

・避難所となる公共施設や家庭等にバイオ

マス等を利用した電気・熱供給システム

を導入しておくことで避難所の生活環境

を向上させることが望まれる。

5.個人の電気利用

・避難所生活等の環境向上のために、個人

が自由に利用できる電気の確保が必要で

ある。

・電気自動車から電力を確保するための充

電場所の整備が望まれる。

6.電力会社の供給能力が不足

・東日本大震災後、電力会社の供給能力が

低下しており、電源確保が必要となって

いる

・バイオマス等による発電電力の系統への

供給や自家利用による節電が望まれる。

復旧段階

重要施設への電気・熱供給モデル

(自立運転)

◇木質バイオマス発電による電気・熱供給

避難所等への電気・熱供給モデル

◇木質バイオマス発電による電気・熱供給

◇木質バイオマスボイラーによる熱供給

家庭・事業所における熱供給モデル

◇ペレット・薪ストーブ、ペレット冷暖房システム

※各モデルは停電回復後(外部電源が確保された後)の稼働を想定

地域電力不足対策モデル

◇木質バイオマス発電による電気供給

エネルギー需要 木質バイオマスの活用モデル 段階

Page 2: 1.3.2 木質バイオマス - maff.go.jp1 - 55 1.3.2 木質バイオマス 地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し

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(1)重要施設等への電気・熱供給モデル(停電時に自立運転)

1)モデルの概要

①常時

地域内のバイオマス資源を活用した木質バイオマス発電を行い、病院等の重要施設に電気と熱を

供給する。木質バイオマス資源量が豊富な場合は、温泉や農業用ハウス等でも活用する。

図1.3-3 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給(常時)

森林整備林業振興

果樹・街路樹剪定枝

製材所

製材所端材

間伐材林地残材

発電所

木質バイオマス集積基地チップ、ペレット製造施設

木質バイオマス資源の確保

病院等重要施設

外部電源

電力系統

電気・熱供給

地域内利用

必要電力

温泉加温用ボイラー

ペレットストーブ

農業用ボイラー等

Page 3: 1.3.2 木質バイオマス - maff.go.jp1 - 55 1.3.2 木質バイオマス 地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し

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②災害時

木質バイオマス発電所を自立運転に切り替え、病院等の重要施設に電気を供給し、停電時でも負

傷者の治療ができるようにする。木質バイオマス資源は、発電所や集積基地のストック、他の利用

先からの調達等により確保し、可能であれば他地区からの供給、がれきの活用なども検討する。

必要な電源は、停電から復旧するまでの期間は、蓄電池や非常用電源(可能であれば太陽光や小

水力等の新エネルギー)から確保する。

図1.3-4 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給(災害時)

木質バイオマス資源の確保

停 電 発電所

病院等重要施設

地域内利用

優先度の低い利用は中止し、発電用に供給

・蓄電池・非常用電源・ディーゼル発電機・太陽光発電・小水力発電等

木質バイオマス集積基地チップ、ペレット製造施設

早期に点検修理を完了し、燃料供給を再開

■集積基地のストックの活用(優先度の低いバイオマス利用施設用の原料を転用)

■他地区からの資源の供給■がれき(震災時等)、流木(大雨時等)の活用■林業・製材業等は再開でき次第、供給を再開

電気・熱供給

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2)参考事例

現在のところ、自立運転が可能な木質バイオマス発電所は確認できていない。

Page 5: 1.3.2 木質バイオマス - maff.go.jp1 - 55 1.3.2 木質バイオマス 地域内に賦存する森林系バイオマスや製材所残材、剪定枝等を収集し、チップやペレットに加工し

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3)災害時に利用するための課題と解決策

表1.3-1 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給の課題と解決策

課題 解決策(内的条件) 解決策(外的条件)

施設の被害を 小限に

抑制し、発電を止めな

いこと

■施設の耐震化

■沿岸部、軟弱地盤地帯、土石流危険

地帯等を避けること

早期に復旧できること ■体制整備

・災害時の連絡・行動体制整備

・点検・復旧マニュアルの整備

・代替部品等の保管

・災害訓練の実施等

■メーカーや電気関係事業者と

の連携

自立運転 ■発電機

・同期発電機等を採用する

・誘導発電機を採用している発電所で

は予備電源の確保

・制御機器やホッパー等の機材の稼働

用電源の確保

■停電からの復旧

バイオマス資源の確保 ■数日分のバイオマス原料のストッ

クの確保

■集積基地の整備

■優先度の低い利用先からの調達

■バイオマス資源の供給産業の

復旧

■他地区からの供給、がれきや流

木の活用

需要施設への安定的な

エネルギー供給

■発電所と利用先の近接化

・電気、熱を供給する場合は、避難所

等の施設と一体的に整備するか近

傍に設けること。

・遠方になると工事費・維持管理費の

向上、災害時の被災リスクが向上す

る等の課題がある。

・ただし、バイオマスの運搬距離が長

くなると採算性に影響する。

■1台の発電機では出力の制御が困難

なため、複数の発電機を設置する。

・必要電力量の基底部分を賄い、負荷

変動は化石燃料を利用した発電機

等により調整する。

・発電機を複数台に分離し、段階的な

運転を可能にする。

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(2)避難所等への電気・熱供給モデル①(木質バイオマス発電による電気・熱供給)

1)モデルの概要

①常時

地域内のバイオマス資源を活用した木質バイオマス発電を行い、公共施設等に電気と熱を供給す

る。木質バイオマス資源量が豊富な場合は、温泉や農業用ハウス等でも活用する。

図1.3-5 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給(常時)

森林整備林業振興

果樹・街路樹剪定枝

製材所

製材所端材

間伐材林地残材

発電所

木質バイオマス集積基地チップ、ペレット製造施設

木質バイオマス資源の確保

避難所等

外部電源

電力系統

電気・熱供給

地域内利用

余剰電力売電

必要電力

温泉加温用ボイラー

ペレットストーブ

農業用ボイラー等

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②災害時

停電からの復旧後、木質バイオマス発電所を再稼働させ、避難所となった公共施設に電気と熱を

供給する。木質バイオマス資源は、発電所や集積基地のストック、他の利用先からの調達等により

確保し、可能であれば他地区からの供給、がれきの活用なども検討する。

図1.3-6 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給(災害時)

木質バイオマス資源の確保

地域内利用

優先度の低い利用は中止し、発電用に供給

木質バイオマス集積基地チップ、ペレット製造施設

早期に点検修理を完了し、燃料供給を再開

■集積基地のストックの活用(優先度の低いバイオマス利用施設用の原料を転用)

■他地区からの資源の供給■がれき(震災時等)、流木(大雨時等)の活用■林業・製材業等は再開でき次第、供給を再開

発電所

避難所等

外部電源

余剰電力売電

必要電力

停電復旧

電気・熱供給

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2)参考事例

■くずまき高原牧場(岩手県葛巻町)

平成16年に木質ガス化の実験施設として導入された。くずまき高原牧場内のレストランやミルク・

チーズ工場の必要電力の一部を賄っている。現在は、葛巻町に無償譲渡されている。今後は排熱の有

効利用を図り、維持管理費等の軽減を図る予定である。

・ガス化発電(チップ)

・発電出力:120kW

・発熱量:266kW

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3)災害時に利用するための課題と解決策

表1.3-2 木質バイオマス発電による重要施設等への電気・熱供給の課題と解決策

課題 解決策(内的条件) 解決策(外的条件)

施設の被害を 小限に

抑制

■施設の耐震化

■沿岸部、軟弱地盤地帯、土石流危険

地帯等を避けること

早期に復旧できること ■体制整備

・災害時の連絡・行動体制整備

・点検・復旧マニュアルの整備

・代替部品等の保管

・災害訓練の実施等

■メーカーや電気関係事業者と

の連携

外部電源 ■停電からの復旧

バイオマス資源の確保 ■数日分のバイオマス原料のストック

の確保

■集積基地の整備

■優先度の低い利用先からの調達

■バイオマス資源の供給産業の

復旧

■他地区からの供給、がれきや

流木の活用

需要施設への安定的な

エネルギー供給

■発電所と利用先の近接化

・電気、熱を供給する場合は、避難所

等の施設と一体的に整備するか近傍

に設けること。

・遠方になると工事費・維持管理費の

向上、災害時の被災リスクが向上す

る等の課題がある。

・ただし、バイオマスの運搬距離が長

くなると採算性に影響する。

■1台の発電機では出力の制御が困難

なため、複数の発電機を設置する。

・必要電力量の基底部分を賄い、負荷

変動は化石燃料を利用した発電機等

により調整する。

・発電機を複数台に分離し、段階的な

運転を可能にする。