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福島県木質バイオマス安定供給指針 平成25年3月7日策定 第1 指針策定の背景と目的 1背 東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故は、県民生活や県内 産業に大きな打撃を与え、特に、放射性物質による汚染は、森林・林業・木材 産業に深刻な影響を及ぼしている。 木質バイオマスエネルギーの利用推進は、本県の森林の再生と林業・木材産 業の振興を図るための重点施策に位置づけており、復興に向けた主要なエネル ギー施策の柱となる「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づく り」にも繋がるものである。 木質バイオマスエネルギーへの利用拡大を図るためには、燃料となる木材の 安定供給が重要であり、木材や木質燃料チップの供給体制の整備が必要である。 発電等木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に際しては、供給地域の森 林資源量や供給能力、木質系廃棄物等の利用可能量を把握し、過剰な利用計画 とならないよう、施設の規模や調達エリアの設定を行い、計画を進めることが 不可欠である。 本指針は、県内市町村や発電等利用施設整備事業者を対象に、本県における 木質バイオマス燃料の安定供給と地域の森林資源を考慮し、供給側、需要側の 観点から持続可能な木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に資するものと する。 (1)木質バイオマス燃料の安定供給に向けて、利用可能な資源量や供給能力を 試算し、今後取り組むべき事項や放射性物質への対応について示す。 (2)発電等木質バイオマスエネルギー利用施設整備の計画に際し、効率的かつ 持続的な燃料用木質バイオマスの調達が図れるよう、資源量の算出方法や整 備計画に際しての留意事項について示す。 第2 木質バイオマス燃料の供給指針 1 福島県における木質バイオマス燃料の利用可能量 (1) 木材生産における林地残材量とふくしま森林再生事業による生産量を基 に算出した利用可能量は、年間最大約84万m 3 が見込まれる。 [解説] 従来の木材生産による林地残材の量と森林再生事業による生産量から試算を行 った結果、利用可能量は843千m 3 /年となり、本県において木質バイオマス燃料 を持続的に供給できる量の目安とする。 利用可能量 木材生産における 森林再生事業による 林地残材量 利用可能量 843千m 3 343千m 3 500千m 3 福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定) - 1 -

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福島県木質バイオマス安定供給指針

平成25年3月7日策定

第1 指針策定の背景と目的1 背 景

東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故は、県民生活や県内産業に大きな打撃を与え、特に、放射性物質による汚染は、森林・林業・木材産業に深刻な影響を及ぼしている。

木質バイオマスエネルギーの利用推進は、本県の森林の再生と林業・木材産業の振興を図るための重点施策に位置づけており、復興に向けた主要なエネルギー施策の柱となる「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づくり」にも繋がるものである。

木質バイオマスエネルギーへの利用拡大を図るためには、燃料となる木材の安定供給が重要であり、木材や木質燃料チップの供給体制の整備が必要である。

発電等木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に際しては、供給地域の森林資源量や供給能力、木質系廃棄物等の利用可能量を把握し、過剰な利用計画とならないよう、施設の規模や調達エリアの設定を行い、計画を進めることが不可欠である。

2 目 的本指針は、県内市町村や発電等利用施設整備事業者を対象に、本県における

木質バイオマス燃料の安定供給と地域の森林資源を考慮し、供給側、需要側の観点から持続可能な木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に資するものとする。

(1)木質バイオマス燃料の安定供給に向けて、利用可能な資源量や供給能力を試算し、今後取り組むべき事項や放射性物質への対応について示す。

(2)発電等木質バイオマスエネルギー利用施設整備の計画に際し、効率的かつ持続的な燃料用木質バイオマスの調達が図れるよう、資源量の算出方法や整備計画に際しての留意事項について示す。

第2 木質バイオマス燃料の供給指針1 福島県における木質バイオマス燃料の利用可能量

(1) 木材生産における林地残材量とふくしま森林再生事業による生産量を基に算出した利用可能量は、年間最大約84万m3 が見込まれる。

[解説]従来の木材生産による林地残材の量と森林再生事業による生産量から試算を行

った結果、利用可能量は843千m3/年となり、本県において木質バイオマス燃料を持続的に供給できる量の目安とする。

利用可能量木材生産における 森林再生事業による

林地残材量 利用可能量

C = A + B

843千m3 343千m3 500千m3

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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A:木材生産における林地残材量素材生産量(平成21年 787千m3)に林地残材となる割合(18.5%)や幹に

対する枝葉の割合(針葉樹23%、広葉樹32%)を乗じて算出した。

B:森林再生事業による利用可能量ふくしま森林再生事業において産出が見込まれる木材(平成32年 717千m3/

年)のうち、燃料用として利用可能となる割合(針葉樹32.4% 広葉樹100%)を乗じて推計した。

木質バイオマス利用施設の整備計画に際しては、利用可能量と地域のバランスに配慮しながら、素材生産体制や木質燃料チップ製造施設の整備を併せて検討する必要がある。

本県の森林は約1億8千7百万m3の蓄積があり(平成22年)、年間の成長量は約2,910千m3に達する。このため、年間成長量を超えない範囲で伐採を行うことを定めたモントリオールプロセスに基づき、成長量を利用の上限と考えるのが妥当である。

利用可能量は、木材生産による伐採量や間伐等森林整備の事業規模等によって変動するものであり、地域の素材生産能力の強化や収益性向上を図ることにより、さらに増加させることが可能である。

なお、、木質系廃棄物や放射性物質の付着した樹皮(バーク)等については、東日本大震災からの復興に向けて、燃料利用を含めて早期の処理が必要であることから、その量を参考に示した。

〔参考〕利用可能量の算出にあたって参考とした数値・ 木材生産における林地残材量 343千m

3

(H21素材生産量から算出)

素材生産量(H21) 787千m3

[内訳 針葉樹 592千m3

広葉樹 195千m3]

素材生産により林地残材となる割合(枝葉除く) 18.5%

幹に対する枝葉の割合 針葉樹23% 広葉樹32%

・ 森林再生事業による利用可能量 500千m3

森林再生事業による素材等生産量(H32) 718千m3

燃料向け利用が可能とする割合 針葉樹32.4% 広葉樹 100%

・ 木質系震災廃棄物の発生量 447千トン

・ 樹皮の発生量 47千トン/年

ふくしま森林再生事業(H25~)生活圏以外の民有林について、間伐などの林業的手法により、森林整備と放射性

物質の低減を一体的に実施する事業。事業内容○森林整備(間伐、除伐、植栽等) ○枝葉等の処理(破砕、梱包、運搬)○路網整備(作業道、土場等) ○事業の効果調査、評価

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県内各地域における森林の成長量と木質バイオマス燃料利用可能量

成長量 A:利用可能量 B:利用可能量 A+B地域 (千㎥/年) (千㎥/年) (千㎥/年) (千㎥)

(木材生産) (森林再生)県北※ 241 28 106 134県中 544 79 118 197県南 317 65 60 125会津 593 32 37 69南会津 330 15 12 27相双※ 455 36 88 124いわき 433 88 79 167

2,910 343 500 843

※県北・相双地域においては、国による森林除染が行われる区域を除き算出。

2 福島県における木質バイオマス燃料の供給能力

(1)県内チップ工場における最大加工能力(A)からチップ出荷量(B)を差し引いた木質燃料チップの製造余力は、285千m3 /年と推計される。

A:県内のチップ専業工場における最大加工能力 893千m3 (H23)B:県内のチップ専業工場におけるチップ出荷量 608千m3 (H23)

[解説]新たな木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に際しては、需要量に見合う

木質燃料チップの製造、供給が可能かを検討する必要がある。チップ専業工場における木質チップ製造余力(H23)は、285千m3/年であり、

地域的な偏りもあることから大規模需要施設への供給を行うためには、チップ製造施設の整備を検討する必要がある。

[参考]県内各地域における木材チップ生産能力(原木換算)

チップ出荷量 最大加工能力 チップ製造余力地 域 (千m3) (千m3) (千m3)

A B B-A県北 49 70 21県中 61 64 3県南 40 220 180会津 93 105 12南会津 41 52 11相双 24 62 38いわき 300 320 20県計 608 893 285※チップ専業工場への聞き取り調査の結果による。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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3 木質バイオマス燃料の安定供給のために必要な事項

(1)地域森林資源量の把握① 木質バイオマス利用施設の整備を計画する際には、立地周辺及び集荷地

域における低質材や林地残材の割合から木質バイオマス燃料として利用可能な資源量を把握し、他の用途と併せた木材生産量が地域の成長量を超えないことを確認する。

② 製材工場に滞留している樹皮や木質系震災廃棄物の利用を計画する場合には、放射性物質濃度について事前に把握する。

[解説]利用可能な木質バイオマス資源量の算出に際しては、地域における素材の生産

効率、搬出コスト、未利用材の割合が大きく影響する。なお、参考に示す地域資源量計算ツールを用いることにより、利用可能な資源

量の目安を算出することができる。木質系震災廃棄物の発生量については、林野庁「平成23年度木質系震災廃棄

物等の活用可能性調査(福島県域調査(4号契約))」を参考とし、樹皮等については、直近の調査結果を参考とする。

[参考]地域資源量計算ツール市町村等が地域における資源量の算出を行う際に活用できるよう、森林や作業シ

ステムにおける条件(対象エリア、空間線量、A~D材の搬出割合、傾斜角等)を設定することにより、市町村、方部、流域単位で該当する森林面積や燃料用材となる資源量の算出が可能となる計算ツールを作成した。

地域資源量計算ツールの特徴・ 施業条件を入力し、地域における素材の生産効率やA~D材の発生割合に応じ

た利用可能量の試算を行うことができる。

・ 放射線量(空間線量率)を目安とした区分が可能であり、放射性物質による汚染状況を考慮した資源量を算出することができる。

・ 搬出コストの推計式を用いて林班ごとの調達コストを算出し、調達価格に見合う資源量を試算することができる。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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(2)素材生産能力の向上と持続可能な森林経営木質バイオマス燃料の供給量を大幅に増やすためには、素材生産コストや

収益性を最大限考慮した効率的な作業システムの構築が必要である。理想的な作業システムの構築のために必要な事項は、下記のとおりであり、

福島県農林水産業振興計画にとりまとめている。

① 高性能林業機械の導入② 施業の集約化③ 路網整備の加速化④ 担い手の確保・育成

[解説]木質バイオマス燃料の供給量を大幅に増やすためには、建築材など燃料以外の

木材需要の増加や木材供給能力の増強を図る必要があり、ソフト・ハード両面から素材生産体制の強化に取り組んでいくことが重要となる。特に、高性能林業機械の導入だけでなく、その能力を十分に活用できるよう、施業の集約化にも取り組む必要がある。

また、安定的な木質バイオマス燃料の供給に向け、担い手の確保・育成を図るほか、高性能林業機械の導入と併せて、オペレータなど技術者の養成により、1人あたりの生産能力向上を図る必要がある。

〔参考]福島県農林水産業振興計画(H25~H32)・高性能林業機械導入目標 283台(平成32年度) ※H23現在 190台・林業就業者数目標 2,600人(平成32年度) ※H23現在 2,181人

(3)関係事業者間の連携の促進木質燃料チップの供給は複数の工程にわたることから、安定供給のため以

下の点に留意する。

①素材生産、チップ生産、リサイクル事業者等における連携の促進

②需要者と供給者間の連携のための協定の締結

③木材の需給調整機能を持つストックヤードや中間土場などの整備

[解説]大規模な木質バイオマス燃料を使用する施設への安定供給を行うためには、供

給側と利用側が連携した生産流通体制の構築が必要である。また、対象地域における需給調整を行う人材(コーディネーター)の養成・確

保、または、仕分け機能を持つストックヤード等の整備を行う必要がある。

[参考]協同組合福島県木材流通機構協同組合福島県木材流通機構は、素材生産事業者と木質バイオマス需要者との窓

口的役割を担い、従来個々の需給交渉により行われていたものを取りまとめ需要と供給の円滑なマッチングを図るため設立された。

県内林業・木材産業関係者を構成員とする組織であり、木質バイオマスに関する大口需要者との数量・規格の調整を行っている。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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協同組合福島県木材流通機構の構成

4 木質バイオマス燃料の材積換算

木質バイオマス燃料に用いる木材の換算の取扱いは以下のとおりとする。(1)丸太重量からの材積換算

①木材1トンあたりの材積は1.4m3を標準とする。

[解説]丸太や製材品等の木材は一般的に材積(m3)を単位としているが、木材チッ

プに関しては、燃料用に限らず重量(t)で取引される。体積から重量への換算は、木材の比重や含水率に影響を受けることから、地域

における木質バイオマス燃料の供給の可能性を評価する場合には、統一した換算係数のもとで行う必要があることから、本県における基本的な換算は上記に基づき行う。

[参考]・丸太からチップへの体積換算係数

丸太1m3から製造されるチップの体積は2.8m

3とする。

・チップ体積からの重量換算木質燃料チップ1m

3あたりの重量は、0.25tとする。

・木材含水率含水率は、乾燥状態の木材重量に対する、木材中に含まれる水の重量の割合(%)

を示す。

・木材水分率水分率は、木材の生重量に対する、木材中に含まれる水の重量の割合(%)を示

す。

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木材含水率と木材水分率のイメージ

5 放射性物質への対応

(1)木材生産における留意事項作業員の被ばくや汚染拡大を防止する観点から、以下の点に留意する。

①森林内において作業や木材生産を行う場合には、国が示すガイドラインや通達を遵守すること。

②長袖、手袋、マスクの着用等、電離放射線障害防止規則の定めに従うこと。

③放射性物質は、枝葉や樹皮に多く含まれることから、木質バイオマス燃料の対象となる部位毎に濃度を把握すること。

[解説]本県の森林面積のうち約50%が年間1ミリシーベルトの追加被ばく量の基準を

超える0.23μSv/h以上の区域に該当し、今後森林の再生を図るためには、森林整備を推進することによって、空間線量率を低減させる必要がある。

森林再生のために産出される木材を木質バイオマス燃料として有効利用する際には、国が示すガイドライン、通達等を遵守し作業者の安全を確保する。

警戒区域、計画的避難区域等、国直轄の除染作業が行われる地域においては、除染業務等特別な場合を除き森林作業を控えることとされており、木材製品についても出荷しないよう示されている。また、除染等業務で生じた木質バイオマスは、除染除去物に該当するため区域外への持ち出しが制限されている。

なお、森林内における放射性物質の分布は、部位によって大きく異なることから、木質バイオマス燃料の対象となる部位毎に、あらかじめ濃度を把握し、需要者へ情報を提示できるようにすることが望ましい。

[参考]森林内の作業や木材生産に関連するガイドライン、通達等・「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(平成23年厚生労働省令第152号)

平成23年12月22日公布、平成24年1月1日施行、平成24年6月15日一部改正・「除染等業務に従事する労働者の放射線障害防止のためのガイドライン」

(H23.12.12 基発1222第6号。H24.6.15 基発0615第6号により一部改正)・「特定線量下業務に従事する労働者の放射線障害防止のためのガイドライン」

(H24.6.15 基発0615第6号)・「森林内等の作業における放射線障害防止対策に関する留意事項について」

(H24.7.18 林野庁)・「木材製品の取扱いに係る留意事項等(Q&A)について」(H24.8.23 林野庁)

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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第3 木質バイオマスエネルギー利用指針1 木質バイオマスエネルギー利用施設導入における基本的考え方

(1)林業・木材産業の活性化に向けて

①地域資源量や木質バイオマス燃料の供給能力に応じた施設を計画する。

②地域の森林資源の有効活用を図り、山元への還元に努める。

③木材の燃料への利用は、カスケード利用※1を前提とし、付加価値向上に努める。

④利用可能量を超える施設整備は行わない。

(2)東日本大震災からの復興に向けて

①木質バイオマス燃料は、未利用間伐材等のほか、建築廃材(木質系震災廃棄物を含む)や製材工場残材(樹皮を含む)の利用について総合的に検討する。

②木質系廃棄物や樹皮等の燃料については、事前に放射性物質濃度を測定し、作業従事者の安全や周辺環境への影響がないことを確認する。

(3)地球温暖化防止に向けて

①エネルギー変換効率※2の向上を図るため、発電施設の整備計画にあたっては熱利用併用の検討を行う。

[解説]木質バイオマスエネルギー利用施設の整備計画に際しては、林業・木材産業の

活性化を図るために地域の持続的な木質バイオマス燃料の供給や地域バランス、さらに立地条件に配慮した利用施設の配置を行う必要がある。

木材の主用途は建築用材であることから、施設の利用量が過大になることによって、他の用途または地域間の競合が生じないように配慮する。

特に、利用可能量を超える施設整備は、森林の荒廃や流通の混乱を招く恐れがあり、県や市町村は必要に応じて適正な計画がなされるよう指導を行う。

また、震災や原発事故からの復興を見据え、木質系震災廃棄物や樹皮の処理に重点的に取り組む必要があり、利用の際には安全性や周辺環境に配慮する。

なお、県の「再生可能エネルギー先駈けの地アクションプラン」(平成25年2月策定)においては、木質バイオマス関連情報の収集・提供と産業化支援及び木質バイオマス関連施設の整備支援に努めることや、2015年度における導入見込量について示している。

アクションプランの目標達成に向けて想定される木質バイオマス発電施設の整備計画について、次頁の図に示した。

※1カスケード利用付加価値の高いものから低いものへとそれぞれの質に応じて順番に利用すること。

※2エネルギー変換効率燃料が有するエネルギー量に対して、各技術で有効に利用できるエネルギーの割合。

木質バイオマスについては熱利用が最も効率的である。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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「再

生可

能エ

ネル

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先駆

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ン」

達成

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発電

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福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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2 施設整備における可能性調査の実施

(1)可能性調査において実施すべき項目木質バイオマスエネルギー利用施設の整備に際しては、次の項目について

あらかじめ調査を行う。

①継続性及び収益性

②木質バイオマス燃料の使用量及び調達方法

③放射性物質を含む木質バイオマスの取扱いや焼却灰等の処分方法

[解説]木質バイオマスエネルギー利用施設の事業化に際しては、導入目的や利用形態

等の基本事項から、プラントの規模、立地条件など関連項目について検討を行う必要がある。

特に、木質バイオマス燃料の使用量は、燃料の種類や調達範囲によって、収支や施設規模の決定に大きく影響するため、燃料供給事業者との十分な調整が必要である。

[参考]木質バイオマスエネルギー利用施設計画時における基本フロー○前提条件の明確化

導入の目的を明確にし、施設規模や利用形態を決定する。↓

○熱需要特性の把握熱利用施設の場合、需要施設における熱需要の特性を把握する。

↓○調達可能な原料・燃料の把握調達可能な木質バイオマス燃料の単価、量、種類形状について把握する。灰の取扱いや処理方法を確認する。

↓○木質バイオマスエネルギープラントの検討

木質バイオマス発電施設の整備に必要な立地条件やシステム構成を把握し、基本的な性能や整備費用について検討する。

↓○経済性の評価事業採算性や設備投資回収年数について評価、検討を行う。

↓○事業体制の構築と関係法規への対応

事業実施体制や施設整備・運営に関連する関係法規を整理する。↓

○施設設計・製作・設置工事・試運転

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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3 放射性物質への対応

(1)施設計画時における留意点①木質バイオマス燃料を利用する施設は、放射性物質の拡散を防ぐ対策を講じること。

②集荷範囲における木質バイオマス燃料の放射性物質濃度を部位別に確認すること。

(2)施設稼働時における留意点①利用する木質燃料チップの放射性物質濃度を定期的に確認すること。

②焼却灰を取り扱う(焼却灰が生成される炉内を含む)作業従事者に対しては、電離放射線障害防止規則に沿った対策を講じること。

(3)燃焼灰の処理に関する留意点①木質バイオマスエネルギー利用施設において発生する燃焼灰の放射性物質濃度は、8,000Bq/kgを超えない措置を講じるとともに、定期的に測定し、適正な濃度管理を行うこと。

②焼却灰の処理にあたっては、環境省の「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」を遵守すること。

③8,000Bq/kgを超える焼却灰が検出された場合、国の方針に沿った適正な処理を行うこと。

[解説]放射性物質を含む木質バイオマス燃料の焼却灰には、木質バイオマスに含まれ

ていた放射性物質のほとんどが濃縮、残留する。木質バイオマス燃料の燃焼によって発生する灰分量(率)は樹皮、木部等各部

位によって異なり、部位毎の重量比や放射性物質濃度から、発生する焼却灰の濃度を推定することができる。業務用のボイラー等の焼却灰は、通常は産業廃棄物扱いとなり、8,000Bq/kg以

下は、従来と同様に焼却、埋立処分することが可能である。また、管理された状態での災害廃棄物の再生利用の方針には、遮蔽効果を有す

る資材により、地表面から30cmの厚さを確保することにより、放射性3,000Bq/kg程度までの資材を利用することが可能であることが示されている。なお、8,000Bq/kgを超える焼却灰においても処分の方針が示されており、作業

従事者の安全性を含め、方針を遵守し、適正な管理を行い周辺環境への安全性を確保する。

〔参考]木質バイオマス燃料の種類と灰分量【出典】「季刊木質エネルギーNo.19」(熊崎 實)

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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木質

バイ

オマ

ス利

用施

設に

おけ

る放

射線

管理

の目

ケース

木質系燃料の

燃焼灰の処分

排ガスによる環境影響

従事者の

木質系燃料の

受入管理の目安

[*2]

(保守側の試算)

放射線管理

調達地域の目安

[*1]

[*3]

[*4、*5]

1100Bq/kg

程度

3,000Bq/kg

以下、

0.5Bq/㎥N

程度以下

以下で管理

対策を講じることで資材

濃度限度の目安を大きく下回

として利用可能

る埋立作業者の安全も確保され

汚染廃棄物対策地域

2200Bq/kg

程度

8,000Bq/kg

以下、

る以外

以下で管理

廃棄物として処分可能

32,500Bq/kg

程度

8,000~10

万Bq/kg

、7Bq/㎥N

程度以下

以下で管理

指定廃棄物となり国が処

濃度限度の目安を下回る

分汚染廃棄物対策地域

410,000Bq/kg

程10

万Bq/kg

超、

30Bq/㎥N

程度以下

電離則の関連規定を遵守

度の燃料も使用

指定廃棄物となり国が処

目安を超えないよう設備と管

分理方法の技術的検討が必要

※林

野庁

「平

成23

年度

木質

系震

災廃

棄物

等の

活用

可能

性調

査(

福島

県域

調査

(4

号契

約))

報告

書(平

成24

年3月)」

によ

る。

*1:

燃焼

灰や

排ガ

スの

放射

能濃

度の

試算

結果

から

設定

した

目安

*2:

燃焼

灰は

木質

系燃

料の

1/30

~1/40

に減

量化

され

、放

射能

濃度

は30

~40

倍に

濃縮

され

ると

推定

され

る。

処分

方法

は「

放射

性物

質汚

染対

処特

措法

」(

H23/11/11

の基

本方

針に

よる

。遮

蔽効

果を

有す

る資

材に

より

地表

面か

ら30cm

の厚

さを

確保

する

こと

で、

放射

性セ

シウ

ムの

平均

濃度

が3,000Bq/kg程

度ま

での

資材

を利

用す

るこ

とが

可能

*3:

木質

系燃

料の

燃焼

空気

量を

3,500㎥

N/ト

ンと

し、

排ガ

ス処

理装

置の

除去

率を

99%

に設

定し

た保

守側

の試

算(

環境

省の

評価

例で

の設

定値

、環

境省

によ

る実

測で

99.99%

以上

除去

され

ると

して

いる

)。

原子

力安

全委

員会

が排

ガス

濃度

限度

の目

安を

提示

(Cs-134が

20Bq/㎥

N、Cs-137が

30Bq/㎥

N)。

*4:

外部

被ば

くの

実効

線量

が3

月間

につ

き1.3mSv(

2.5μSv/h)

を超

える

おそ

れが

ある

場合

、又

は放

射性

セシ

ウム

濃度

が1

万Bq/kgを

超え

る場

合に

は、

作業

者の

安全

を確

保す

るた

め、

電離

放射

線障

害防

止規

則の

関連

規定

を遵

守す

る必

要が

ある

*5:

環境

省の

検討

(H23/6)

によ

ると

、8,000Bq/kgの

廃棄

物を

その

まま

埋立

処分

する

場合

の作

業者

の被

ばく

線量

は0.78mSv/y(

1日

8時

間、

年間

250

日の

労働

時間

のう

ち半

分の

時間

を廃

棄物

のそ

ばで

作業

する

こと

、1

日の

作業

の終

了時

の覆

土で

ある

即日

覆土

を行

わず

、中

間覆

土の

み行

うこ

とを

仮定

)。

*6:「

汚染

廃棄

物対

策地

域」

は警

戒区

域及

び計

画的

避難

区域

等が

指定

され

てい

る。

なお

、空

間線

量率

が20

~50mSv/年

(≒3.8~9.5μSv/h)

は居

住制

限区

域、50mSv/

年超

は帰

宅困

難区

域と

され

てい

る。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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木質

バイ

オマ

ス燃

料の

燃焼

によ

って

生じ

る焼

却灰

の取

扱い

に関

する

フロ

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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第4 おわりに本県における木質バイオマス燃料の安定供給に向けて必要な事項及び本指針の

適用範囲について示す。

1 木質バイオマス燃料の安定供給に向けて必要な事項(1)木質バイオマス燃料の供給に関する事項

①地域の利用可能量を把握する。

②地域における木質バイオマス燃料の生産能力を把握し、高性能林業機械の導入や担い手の確保、育成に努める。

③チップ工場等における木質バイオマス燃料供給可能量を把握し、必要に応じて製造施設の整備を検討する。

④木質バイオマスの供給に係る事業者間の連携を促進する。

(2)木質バイオマスのエネルギー利用に関する事項①利用可能量を超えた施設計画を行わない。

②森林所有者への利益還元が図られるよう持続的な資源利用が可能な施設を計画する。

③木材はカスケード利用を前提とし、他用途との競合を回避する。

④未利用間伐材だけでなく、建築廃材や製材工場残材の利用を図る。

⑤木質バイオマスエネルギー利用施設を整備する際には、必ず可能性調査を実施する。

(3)放射性物質への対応①地域における木質バイオマス燃料の放射性物質濃度や生産する作業環境の空間線量率の把握を行う。

②施設整備時には、必要に応じて放射性物質の拡散を防ぐ措置を講じる。

③焼却灰の適正な管理及び処分を行う。

2 適用範囲本指針の適用は以下のとおりとする。(1) 期 間 平成25年度~平成32年度(2) 対 象 県・市町村・発電等利用施設整備事業者

3 指針の見直し本指針は、社会情勢の変化に的確に対応するため、必要に応じて見直しを

行う。

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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第5 その他1 木質バイオマスエネルギー利用検討委員会開催状況(計4回開催)

本指針は、木質バイオマスエネルギー利用検討委員会の意見を受け作成した。以下に委員会の開催概要について示す。

○第1回 平成24年 9月21日(金)協議内容 調査事業の説明及び木質バイオマス供給可能性調査結果について

○第2回 平成24年10月23日(火)協議内容 地域毎の調達可能性評価及び燃料用木質バイオマスの供給能力に

ついて○第3回 平成24年12月19日(水)

協議内容 地域における資源量の算出方法について福島県木質バイオマス安定供給指針(案)について

○第4回 平成25年 2月18日(月)協議内容 福島県木質バイオマス安定供給指針(案)について

資源量計算ツールについて

木質バイオマスエネルギー利用検討委員会 委員

氏 名 所 属

委員長 東 之弘 いわき明星大学科学技術学部科学技術学科 教授

委 員 秋元 正國 財団法人福島県都市公園・緑化協会 理事長

〃 仁多見俊夫東京大学大学院農学生命科学研究科森林利用学研究室 准教授

〃 久保山裕史独立行政法人森林総合研究所 林業システム研究室室長

〃 相馬 雅俊 社団法人福島県森林・林業・緑化協会 専務理事

〃 船木 秀晴 福島県森林組合連合会 専務理事

〃 宗形 芳明 福島県木材協同組合連合会 専務理事

〃 中山 浩次 福島森林管理署長

〃 宍戸 裕幸 福島県農林水産部次長(森林林業領域)

〃 礒 武史 福島県林業研究センター所長

〃 大高 明彦 福島県林業振興課長

福島県木質バイオマス安定供給指針(平成25年3月7日策定)

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