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平 成 1 6 年 ( ワ ) 第 6 1 0 1 号 、 第 1 0 6 5

7 号 、 第 1 1 0 6 1 号

原   告  被   告     国

準   備   書   面   ( 3 )

イ ラ ク で 何 が 起 き , 自 衛 隊 が 何 を し て い る か

( イ ラ ク 戦 争 の 実 態 と 国 際 法 上 の 違 法 性 )

                                       

2 0 0 4 年 9 月 2 7 日

東 京 地 方 裁 判 所   民 事 第 1 3 部 合 議 B 係   御

                              原 告 ら 訴 訟代 理 人                                      弁 護 士

内 田 雅 敏   ほ か

1

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目 次

        は じ め

に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ 4 頁

第 1 章   イ ラ ク 戦 争 ・ 占 領 の 実

態 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 頁

1   イ ラ ク に お け る 膨 大 な 数 の 犠 牲

2   マ ド リ ー ド 列 車 爆 破 テ ロ と 犯 行

声 明

3   「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」

4   占 領 軍 , シ ー ア 派 と 各 地 で 衝 突

拡 大

5   「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」 を め ぐ

る イ ラ ク 情 勢

6   あ い つ ぐ イ ラ ク か ら の 撤 退

7   日 本 人 人 質 事 件 の 発 生 と 問 題 の

本 質

8   さ ら な る 人 質 事 件

9   自 衛 隊 の 活 動 と 宿 営 地 サ マ ー ワ

の 情 勢 悪 化

          1 0   日 本 人 ジ ャ ー ナ リ ス ト 2 人

死 亡

          1 1   ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 に お け

る イ ラ ク 人 虐 待

          1 2   小 括

2

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第 2 章   イ ラ ク 戦 争 , イ ラ ク 占 領 の 国

際 法 上 の 違 法 性 ・ ・ 3 0 頁

第 1   米 英 軍 の イ ラ ク 攻 撃

1   イ ラ ク 攻 撃 の 実 行

2   戦 争 違 法 化 の 歴 史 と

武 力 攻 撃 が 認 め ら れ る 国 際 法 上

の 例 外

3   イ ラ ク 攻 撃 は 国 連 憲 章 上 認 め ら

れ る か

4   国 際 社 会 は イ ラ ク 攻 撃 を 認 め て

い な い

            5   米 国 の イ ラ ク 攻 撃 の 真 の 目

的 は な に か

第 2   イ ラ ク 占 領

1   C P A , C J T F 7

を 通 じ た 米 英 軍 に よ る イ ラ ク 占

2   米 英 軍 の 義 務 の 不 履 行

            3   イ ラ ク 国 民 の 生 活 破 壊

4   人 道 支 援 活 動 の 阻 害

5   資 源 の 収 奪

6   主 権 の 委 譲 と 占 領 の 継 続

7 侵 略 の 罪 該 当 性

        お わ り

に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ 5 3 頁

3

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は じ め に

イ ラ ク で は , い ま だ に 衝 撃 的 な 事 件 が 相

次 い で 発 生 し て い る 。 イ ラ ク 民 衆 と 米

軍 ・ 占 領 軍 と の 対 立 は 決 定 的 な も の と な

り , 全 土 が 交 戦 状 態 に な っ て い る 。 米 国

主 導 の イ ラ ク 占 領 統 治 の 失 敗 は , も は や

誰 の 目 に も 明 ら か と な っ た 。

そ し て , 日 本 政 府 は , イ ラ ク 特 別 措 置 法

に 基 づ き , 自 衛 隊 を イ ラ ク に 「 派 遣 」 し

た が , こ の 「 派 遣 」 は 交 戦 当 事 国 の 立 場

に 立 つ も の で は な く , 専 ら イ ラ ク の 「 人

道 復 興 支 援 」 を 行 う も の で あ る と 言 っ て

き た 。

し か し , そ の 後 の 日 本 政 府 の 対 応 を 見 る

と , 「 人 道 復 興 支 援 」 の 本 当 の 動 機 は ,

米 国 の 期 待 に 応 え 米 軍 の 占 領 政 策 を 徹 底

し て 支 え る こ と に あ る こ と が , ま す ま す

明 瞭 に な っ た 。 そ う で あ る が ゆ え に , 日

本 の 自 衛 隊 が 反 米 ・ 反 占 領 軍 勢 力 の 標 的

と さ れ , ボ ラ ン テ ィ ア や ジ ャ ー ナ リ ス ト

ら 民 間 人 ま で が 標 的 と さ れ , 遂 に は 日 本

の 民 間 人 2 人 の 犠 牲 者 を 出 す と い う 最 悪

の 事 態 に ま で 発 展 し た の で あ る 。

本 書 面 で は , 自 衛 隊 「 派 遣 」 後 の イ ラ ク

情 勢 の 要 点 に つ い て , 事 実 経 過 と 問 題 の

所 在 を 明 ら か に す る ( 第 1 章 ) と と も に ,

イ ラ ク 戦 争 , イ ラ ク 占 領 が 国 際 法 上 違 法

で あ る こ と ( 第 2 章 ) を 指 摘 す る ( な お ,

イ ラ ク 特 措 法 の 憲 法 違 反 お よ び 自 衛 隊 派

兵 の 憲 法 違 反 , イ ラ ク 特 措 法 違 反 に つ い

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て は , 次 回 の 主 張 に 譲 る ) 。

第 1 章   イ ラ ク 戦 争 ・ 占 領 の 実 態

1   イ ラ ク に お け る 膨 大 な 数 の 犠 牲 者

( 1 )   本 準 備 書 面 添 付 の 「 イ ラ ク 戦 争 の 実 態

一 覧 表 」 に 示 す と お り , 米 兵 の 死 者 数 は ,

昨 年 3 月 2 0 日 の 開 戦 か ら 5 月 1 日 の 戦

闘 終 結 宣 言 前 日 ま で に 1 3 8 人 で あ る の

に 対 し て , 宣 言 後 今 年 4 月 3 0 日 ま で の

1 年 間 で は 5 9 4 人 , 合 計 7 3 2 人 に 達

し て い る ( プ ル ッ キ ン グ ス 研 究 所 の 資 料

な ど か ら / 朝 日 新 聞 5 月 2 日 付 朝 刊 ) 。

さ ら に , 9 月 7 日 時 点 で , 米 軍 死 者 は 1

0 0 0 人 を 突 破 し た ( ワ シ ン ト ン ・ ポ ス

ト 9 月 5 日 付 ) 。

今 年 4 月 に 入 っ て か ら 衝 突 が 激 化 し , 同

月 の 米 兵 死 者 数 は 1 3 8 人 で 開 戦 以 来 最

高 と な っ て い る ( A P 通 信 / 毎 日 新 聞 5

月 2 日 付 朝 刊 ) 。 ま た , 負 傷 者 数 は , 3

8 6 4 人 に 上 っ て い る と い う ( 米 国 防 総

省 / 同 ) 。

な お , 今 年 8 月 だ け で も , 米 兵 の 負 傷 者

は 1 0 0 0 人 と な っ て お り , イ ラ ク の 治

安 は 悪 化 の 一 途 を た ど っ て い る 。

占 領 軍 の 死 者 数 は , 以 下 の と お り で あ る

( 括 弧 は 戦 闘 終 結 宣 言 ま で の 死 者 ) 。

ア メ リ カ ( 派 兵 規 模 135,000 人 ) 7 3 2

人 ( 1 3 8 人 )

イ ギ リ ス ( 派 兵 規 模 9,000 人 ) 5 9 人

( 3 3 人 )

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イ タ リ ア ( 派 兵 規 模 2,600 人 ) 1 9 人

( 0 人 )

ス ペ イ ン ( 派 兵 規 模 1,400 人 ) 1 0 人

( 0 人 )

ブ ル ガ リ ア ( 派 兵 規 模 480 人 ) 6 人 ( 0

人 )

ウ ク ラ イ ナ ( 派 兵 規 模 1,650 人 ) 4 人

( 0 人 )

ポ ー ラ ン ド ( 派 兵 規 模 2,500 人 ) 2 人

( 0 人 )

タ イ ( 派 兵 規 模 450 人 ) 2 人 ( 0 人 )

他 に , エ ル サ ル バ ド ル 1 人 ( 0 ) , エ ス

ト ニ ア 1 人 ( 0 ) , デ ン マ ー ク 1 人

( 0 ) が あ り , 占 領 軍 合 計 8 3 7 人 ( 1

7 1 人 ) と な っ て い る ( 4 月 3 0 日 現

在 ) 。

( 2 )   他 方 , イ ラ ク 人 の 犠 牲 者 は , 正 確 な 把

握 す ら 出 来 な い 状 況 で あ り , 民 間 団 体 イ

ラ ク ・ ボ デ ィ ・ カ ウ ン ト に よ る と , 今 年

3 月 末 時 点 で 最 高 で 1 万 1 0 0 5 人 , 少

な く と も 9 1 4 8 人 の 民 間 人 が 死 亡 し て

い る と い う 。

こ れ に , 4 月 の 戦 闘 に 関 連 し て 死 亡 し た

イ ラ ク 人 は 約 1 3 6 0 人 , う ち フ ァ ル ー

ジ ャ で は 女 性 や 子 ど も を 含 み 7 0 0 人 以

上 と 言 わ れ て い る ( A P 通 信 / 朝 日 新 聞

5 月 2 日 付 朝 刊 ) 。 負 傷 者 数 は , 上 記 の

数 倍 に 上 る 可 能 性 が あ る 。

さ ら に , 今 年 9 月 3 日 ま で の 間 に , 米 英

な ど の 占 領 軍 に よ り 殺 害 さ れ た イ ラ ク 民

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間 人 は 最 少 で も 1 万 1 7 9 3 人 , 最 大 で

1 万 3 8 0 2 人 と な っ て い る と さ れ て い

る ( イ ラ ク ・ ボ デ ィ ・ カ ウ ン ト の 調 査 に

よ る ) 。 し か も , 非 公 式 な が ら , 最 低 で

も 3 万 7 0 0 0 人 以 上 死 亡 し た と の 調 査

結 果 も あ る 。

今 年 4 月 初 め の 「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」

と シ ー ア 派 と の 衝 突 以 降 , イ ラ ク 情 勢 は ,

民 衆 の 抵 抗 と そ れ を 鎮 圧 し よ う と す る 米

軍 ・ 占 領 軍 と の 全 面 衝 突 と な っ て お り ,

戦 死 者 の 数 , 戦 闘 の 件 数 , 戦 域 の 広 が り

な ど , そ の い ず れ を 見 て も イ ラ ク は 「 全

面 戦 争 」 状 態 と 化 し て い る 。

以 下 , 幾 つ か の 重 要 な 事 実 及 び 問 題 点 に

つ い て 論 ず る 。

2   マ ド リ ー ド 列 車 爆 破 テ ロ と 日 本 へ の 犯 行

声 明

( 1 )   3 月 1 1 日 , ス ペ イ ン の 首 都 マ ド リ ー

ド で , 大 規 模 な 列 車 爆 破 テ ロ が あ り , 約

2 0 0 名 の 犠 牲 者 が 出 た 。 翌 日 に は , 同

国 史 上 最 大 の 8 0 0 万 人 以 上 に よ る デ モ

行 進 が 行 わ れ , 4 日 後 の 総 選 挙 で , 米 英

と の 緊 密 な 「 有 志 連 合 」 を 誇 っ て い た ア

ス ナ ー ル 政 権 が 敗 北 し た 。 社 会 労 働 党 書

記 長 の サ パ テ ロ 新 政 権 の 下 で , ス ペ イ ン

軍 は イ ラ ク か ら 完 全 に 撤 退 す る に 至 っ た 。

衝 撃 的 だ っ た の は , 事 件 直 後 に マ ス コ ミ

が 報 道 し た 「 ア ル カ イ ダ 系 の 組 織 の 犯 行

声 明 」 と さ れ る も の の 中 で , 「 攻 撃 は 反

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イ ス ラ ム 戦 争 で 米 国 の 同 盟 国 で あ る 十 字

軍 の ス ペ イ ン に 対 す る 報 復 の 一 部 に す ぎ

な い 」 と し , 「 だ れ が , お ま え ( ア ス ナ

ー ル 首 相 ) や 英 国 , 日 本 , イ タ リ ア , ほ

か の 対 米 協 力 国 を わ れ わ れ ( の 攻 撃 ) か

ら 守 っ て く れ る の か 」 と , 日 本 を 名 指 し

し た こ と で あ る 。 「 人 道 復 興 支 援 」 を 標

榜 す る 日 本 の イ ラ ク 派 兵 が , こ の 当 時 す

で に , 米 国 ら 占 領 国 と 同 列 に 憎 悪 と 敵 意

の 対 象 と さ れ て い た の で あ る 。

( 2 )   と こ ろ で , こ れ よ り 前 の 3 月 2 日 夜

( 現 地 時 間 ) , サ マ ー ワ に お い て , 駐 留

し て い る 自 衛 隊 に 対 し て , 「 陸 自 宿 営 地

を R P G 7 ( 隊 戦 車 ロ ケ ッ ト 砲 弾 ) で 襲

撃 し よ う と し て い る 男 が い る 」 と の 情 報

が 寄 せ ら れ , 全 隊 員 が 徹 夜 で 戦 闘 準 備 を

す る 事 態 が 発 生 し て い た 。

す な わ ち , 3 月 2 日 午 後 1 0 時 頃 , 「 黒

い ト ラ ッ ク の 男 が サ マ ー ワ 市 内 で 『 日 本

軍 ( 陸 上 自 衛 隊 ) の 宿 営 地 は ど こ か 』 と

尋 ね て い た 。 R P G 7 を 積 ん で い た 」 と

の 複 数 の 情 報 が オ ラ ン ダ 軍 な ど か ら 寄 せ

ら れ た 。 イ ラ ク 警 察 も 捜 査 し , 一 時 特 徴

の 似 た 男 が 目 撃 さ れ た が , 行 方 を 見 失 っ

た 。 陸 自 部 隊 は 「 確 度 が 高 い 情 報 」 と 判

断 , 宿 営 地 内 の 態 勢 を 「 警 戒 レ ベ ル 」 に

上 げ た 。 当 時 , 宿 営 地 で は 本 隊 主 力 第 一

陣 ま で 含 め た 計 二 百 数 十 人 到 着 し て い た

が , 全 員 が 迷 走 服 と 半 長 靴 を 着 用 し , 防

弾 チ ョ ッ キ と 小 銃 な ど で 武 装 , 宿 営 地 の

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周 辺 を 徹 夜 で 警 戒 し た ( 北 海 道 新 聞 4 月

3 0 日 付 夕 刊 ) 。

し か し , こ の 陸 自 宿 営 地 襲 撃 情 報 が 報 じ

ら れ た の は , 自 衛 隊 を 狙 っ た 攻 撃 が 相 次

ぎ , 日 本 で 報 道 さ れ は じ め た 4 月 末 日 に

な っ て か ら の こ と だ っ た 。 3 月 初 め は ,

陸 上 自 衛 隊 が サ マ ー ワ に 到 着 し て 1 か 月

足 ら ず で あ り , 派 遣 部 隊 の リ ー ダ ー で あ

る 番 匠 幸 一 郎 一 佐 が 現 地 入 り し , 日 本 で

は 治 安 の 良 さ や 住 民 の 歓 迎 ぶ り が 報 道 さ

れ て い た 時 期 で あ る 。 現 地 に は 数 十 名 か

ら 百 名 前 後 の マ ス コ ミ が い た は ず で あ る 。

自 衛 隊 に よ る 事 実 の 隠 蔽 あ る い は 報 道 規

制 が 行 わ れ て い た 可 能 性 を 疑 わ ざ る を え

な い 。

こ の 事 実 は , マ ド リ ー ド 列 車 爆 破 テ ロ の

犯 行 声 明 が 決 し て 唐 突 な も の で は な く ,

自 衛 隊 が , 現 地 へ 到 着 し た 当 初 よ り 占 領

軍 と 同 視 さ れ , 敵 意 と 攻 撃 の 標 的 と さ れ

て い た こ と を 物 語 る も の で あ る ( 詳 細 は ,

本 章 9 参 照 ) 。

3   「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」

( 1 )   バ グ ダ ッ ド 西 方 に 位 置 す る フ ァ ル ー ジ

ャ は , 旧 フ セ イ ン 政 権 の 中 枢 を 担 っ た ス

ン ニ 派 住 民 が 多 く 居 住 し て い る 「 ス ン ニ

派 三 角 地 帯 」 と 呼 ば れ る 地 域 で あ る 。 米

軍 は , 占 領 当 初 か ら , テ ロ 掃 討 を 理 由 に

こ の 地 域 の 人 々 を 容 疑 が な い に も か か わ

ら ず 大 量 に 拘 束 し た り , 取 材 中 の ア ラ ブ

メ デ ィ ア に 発 砲 し て 死 亡 さ せ た り す る 事

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件 を 起 こ し て い た た め に , 住 民 に よ る 反

発 が 強 ま っ て い た 。 拘 束 し た イ ラ ク 人 を

収 容 し て い た ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 に お け

る 米 軍 兵 士 に よ る 拷 問 , 非 人 道 的 な 扱 い

に つ い て は , 後 に 大 問 題 に 発 展 し た ( 詳

細 は , 本 章 1 1 参 照 ) 。

3 月 3 1 日 , フ ァ ル ー ジ ャ 北 西 の ラ マ デ

ィ を 走 行 中 の 米 軍 車 両 が 爆 破 さ れ , 乗 っ

て い た 兵 士 5 名 が 死 亡 し た 。 さ ら に , バ

グ ダ ッ ド 西 方 の フ ァ ル ー ジ ャ で は , 走 行

中 の 2 台 の 車 両 が 銃 撃 を 受 け , 乗 っ て い

た 米 国 人 4 名 が 殺 害 さ れ た 。 こ の 4 名 は ,

占 領 当 局 と 契 約 す る 復 興 事 業 請 負 業 者 だ

と さ れ る 。 民 間 車 両 の 襲 撃 現 場 で は , 焼

け た だ れ た 遺 体 を 周 辺 住 民 が た た い た り ,

切 り 刻 ん だ り , 車 で 引 き ず っ て 鉄 橋 に つ

る す な ど し た 。

こ の 事 件 が 報 道 さ れ た ア メ リ カ で は ,

「 ソ マ リ ア の 悪 夢 」 の 再 来 と し て , 波 紋

を 広 げ た 。 こ の 「 ソ マ リ ア の 悪 夢 」 事 件

は , 1 9 9 3 年 , 内 戦 が 続 く 東 ア フ リ

カ ・ ソ マ リ ア 紛 争 に P K O 部 隊 と し て 派

遣 さ れ た 米 軍 の ヘ リ 「 ブ ラ ッ ク ホ ー ク 」

が 地 元 の 武 装 勢 力 に 襲 撃 さ れ , 救 出 に 向

か っ た 地 上 部 隊 を 含 め て , 計 1 8 名 が 殺

害 さ れ た も の で あ る 。 兵 士 の 遺 体 が 地 元

住 民 に 引 き ず ら れ る 写 真 が 米 メ デ ィ ア で

報 じ ら れ る と , 議 会 が 即 時 撤 退 を 要 求 ,

当 時 の ク リ ン ト ン 政 権 は 抗 し き れ ず に 撤

退 を 決 め た 。 そ の 後 , 同 政 権 が 軍 の 運 用

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を 極 力 犠 牲 の 出 な い 形 に 限 定 す る き っ か

け と な っ た 。

( 2 )   民 間 業 者 殺 害 事 件 に 対 し て , 反 発 を 強

め た 米 国 は , 4 月 5 日 , 米 軍 が 主 要 道 路

を 完 全 封 鎖 し て フ ァ ル ー ジ ャ を 包 囲 , 掃

討 作 戦 を 開 始 し た 。 米 軍 に よ る , 大 規 模

で 激 し い 軍 事 作 戦 ( 空 爆 ) が 日 夜 展 開 さ

れ , 5 日 と 6 日 の 2 日 間 だ け で 住 民 の 死

者 は 1 0 0 名 を 越 え た と さ れ る ( 4 月 8

日 付 の 新 聞 各 社 の 報 道 ) 。 後 述 す る ア サ

ド ・ ジ ャ ワ ー ド 教 授 の レ ポ ー ト に よ れ ば ,

「 攻 撃 開 始 か ら 数 日 の 間 に , 代 用 病 院 が

記 録 し た 死 者 は 6 0 0 名 以 上 , 負 傷 者 は

そ の 倍 に 及 ん だ 」 と さ れ る 。

4 月 7 日 に は , 米 軍 ヘ リ コ プ タ ー が モ ス

ク ( イ ス ラ ム 礼 拝 所 ) に ミ サ イ ル 3 発 を

撃 ち 込 み , 4 0 人 以 上 の 一 般 市 民 を 殺 害

し た 。

ア ラ ビ ア 語 衛 星 テ レ ビ ・ ア ル ジ ャ ジ ー ラ

が , 米 軍 に よ る フ ァ ル ー ジ ャ 空 爆 の 現 場

を 生 々 し く 伝 え , そ の 凄 惨 な 映 像 は イ ラ

ク 市 民 に 衝 撃 を 与 え た 。

7 日 に は , バ グ ダ ッ ド 市 内 の ス ン ニ 派 モ

ス ク の 指 導 者 が , 説 教 の 中 で 「 反 米 聖

戦 」 を 信 者 に 訴 え た と さ れ る 。 こ れ ま で

「 聖 戦 」 は 反 米 武 装 勢 力 が 秘 密 裏 に 行 う

も の だ っ た が , モ ス ク が 公 に 訴 え れ ば ,

聖 戦 は 全 イ ス ラ ム 教 徒 の 義 務 と な る と い

う ( 4 月 8 日 付 朝 日 新 聞 朝 刊 / 川 上 泰 徳

記 者 ) 。

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こ う し て , 米 軍 = 占 領 軍 は , 「 フ ァ ル ー

ジ ャ を ア メ リ カ か ら 救 え 」 「 フ ァ ル ー ジ

ャ の 悲 劇 」 の 旗 印 に 結 集 す る イ ラ ク 国 民

を , 敵 に 回 す こ と に な っ た 。

こ の よ う な フ ァ ル ー ジ ャ 情 勢 の 下 で , 4

月 8 日 , 高 遠 奈 穂 子 さ ん ら 日 本 人 3 名 が

フ ァ ル ー ジ ャ 付 近 で 武 装 勢 力 に 人 質 に と

ら れ た の で あ る ( 詳 細 は , 本 章 8 参 照 )。

結 局 , フ ァ ル ー ジ ャ で の 激 し い 戦 闘 行 為

は , 4 月 1 1 日 に 一 時 停 戦 が 成 立 す る ま

で 続 き , そ の 後 も 断 続 的 に 続 い た 。 事 態

が 落 ち 着 い た の は , ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所

の イ ラ ク 人 虐 待 問 題 の 表 面 化 と 並 行 し て

米 軍 の 撤 退 が 開 始 さ れ た , 4 月 末 に な っ

て か ら の こ と だ っ た 。

4   占 領 軍 , シ ー ア 派 と 各 地 で 衝 突 拡 大

( 1 )   4 月 4 日 , イ ラ ク 中 部 イ ス ラ ム 教 シ ー

ア 派 聖 地 ナ ジ ャ フ で , 米 軍 な ど の 占 領 統

治 に 抗 議 す る シ ー ア 派 強 硬 派 の デ モ が あ

り , イ ラ ク 人 民 兵 と ス ペ イ ン 軍 な ど 占 領

軍 と の 間 で 銃 撃 戦 と な り , 双 方 あ わ せ て

2 2 名 が 死 亡 し , 2 0 0 名 が 負 傷 し た 。

米 英 主 導 の 占 領 軍 と イ ラ ク 人 の 衝 突 と し

て は 戦 争 後 , 最 大 規 模 と な っ た 。

ナ ジ ャ フ 近 郊 の ク ー フ ァ に は , シ ー ア 派

の 強 硬 派 指 導 者 ム ク タ ダ ・ サ ダ ル 師 が 住

ん で お り , 周 辺 に は そ の 支 持 者 が 多 い 。

3 日 に 同 師 側 近 が ス ペ イ ン 軍 に 身 柄 を 拘

束 さ れ た と の 情 報 が 流 れ た た め , 4 日 ,

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支 持 者 ら 数 千 人 が 釈 放 を 求 め て 同 軍 の 駐

屯 地 に 抗 議 デ モ を か け た 。 デ モ 隊 が 駐 屯

地 に 向 け て 投 石 し た の に 対 し て , ス ペ イ

ン 軍 な ど 占 領 軍 が 発 砲 し , デ モ 隊 に 交 じ

っ て い た イ ラ ク 人 民 兵 が 応 戦 し て , 約 3

時 間 に わ た る 銃 撃 戦 に な っ た ( 4 月 5 日

付 各 紙 ) 。

( 2 )   同 日 は , 首 都 バ グ ダ ッ ド 東 部 の サ ド ル

シ テ ィ ー で も , シ ー ア 派 民 兵 と 米 軍 と が

衝 突 し , 米 兵 7 名 が 死 亡 , 2 0 人 以 上 が

負 傷 し , イ ラ ク 側 は 少 な く と も 2 名 が 死

亡 , 7 名 が 負 傷 し た ( 4 月 5 日 付 各 紙 )。

サ ド ル シ テ ィ ー は , ム ク タ ダ ・ サ ド ル 師

の 影 響 力 が 強 い と こ ろ で あ り , 米 軍 と 交

戦 し た 兵 士 は , 同 師 の 支 持 者 で つ く る 民

兵 組 織 「 マ フ デ ィ 軍 」 と 思 わ れ る 。 シ ー

ア 派 に よ る 一 連 の 反 米 デ モ が 起 き た 直 接

の き っ か け は , 3 月 2 8 日 , C P A が サ

ド ル 師 系 の 週 刊 誌 ア ル ハ ウ ザ を 6 0 日 間

の 発 行 禁 止 に し た こ と に あ る 。 そ れ 以 降 ,

バ グ ダ ッ ド と ナ ジ ャ フ で は , サ ド ル 師 の

支 持 者 が 「 発 禁 命 令 撤 回 」 を 求 め て 連 日 ,

抗 議 運 動 を 続 け て い た 。 2 日 に は , バ グ

ダ ッ ド で , 信 者 1 万 人 以 上 が 占 領 に 抗 議

す る 金 曜 礼 拝 を 行 っ て い た 。

( 3 )   5 日 , C P A ブ レ マ ー 代 表 は , 「 サ ド

ル 指 揮 下 の グ ル - プ は 無 法 者 だ 。 我 々 は

容 赦 し な い 」 と 強 く 非 難 し , 同 セ ノ ー 報

道 官 は , 記 者 会 見 で サ ド ル 師 に 対 し て

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「 イ ラ ク の 裁 判 官 が 逮 捕 状 を 発 行 し て い

る 」 と 明 ら か に し た 。 昨 年 4 月 に シ ー ア

派 の 穏 健 派 の 宗 教 指 導 者 ア ル ホ エ イ 師 が

暗 殺 さ れ た 事 件 に 関 す る 容 疑 で , 逮 捕 状

が 発 行 さ れ た の は 数 か 月 前 だ と 説 明 し た

( 4 月 6 日 付 各 紙 ) 。

米 軍 は , 5 日 夜 , サ ド ル 師 が 立 て こ も っ

て い る と み ら れ る ク ー フ ァ に 進 軍 し , 包

囲 す る 形 を と っ た 。 駐 留 米 軍 報 道 担 当 の

キ ミ ッ ト 准 将 は 「 サ ド ル 師 が 平 和 的 に 投

降 す る か ど う か , 状 況 は 同 師 の 判 断 に か

か っ て い る 」 と 語 り , こ れ に 対 し サ ド ル

師 側 は , 数 百 人 の 民 兵 で 町 を 固 め , 抗 戦

の 構 え を と っ た 。

同 師 は , 6 日 , 立 て こ も っ て い た モ ス ク

を 出 て , 近 隣 の ナ ジ ャ フ に 移 り , 声 明 で

改 め て 米 国 を 非 難 し , 徹 底 抗 戦 の 姿 勢 を

示 し た 。

( 4 ) こ う し て , 米 軍 は , イ ス ラ ム 教 ス ン ニ 派

に 加 え て , シ ー ア 派 と も 武 力 衝 突 に 突 入

し , 二 正 面 作 戦 と な っ た 。 米 軍 は , 圧 政

者 か ら の 解 放 を 掲 げ て 介 入 し な が ら , 開

戦 1 年 後 に , 本 来 解 放 す る は ず の 地 元 勢

力 と 決 定 的 か つ 全 面 的 に 対 立 す る こ と に

な っ た の で あ る 。

シ ー ア 派 は , イ ラ ク 戦 争 で 米 軍 が フ セ イ

ン 体 制 を 打 倒 し た こ と を 歓 迎 し , 戦 後 も

旧 体 制 の 復 活 を 恐 れ て , 米 占 領 に 協 調 姿

勢 を と っ て き た 。 し か し , 反 フ セ イ ン =

親 米 で は な い し , も と も と シ ー ア 派 は イ

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ス ラ ム の 伝 統 重 視 の 傾 向 が 強 く , 欧 米 部

隊 に 占 領 さ れ て い る こ と に 対 す る 反 発 は

ス ン ニ 派 の 支 配 地 域 以 上 に 強 か っ た 。 こ

れ に 「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」 が 加 わ り ,

結 果 的 に 「 反 米 」 「 反 占 領 」 で ス ン ニ 派

と 足 並 み を 揃 え る こ と に な っ た 。

日 本 政 府 は シ ー ア 派 の 支 配 地 域 で あ る サ

マ ー ワ を 治 安 の 安 定 し た 「 非 戦 闘 地 域 」

と し て 自 衛 隊 の 宿 営 地 に 定 め た の だ っ た 。

と こ ろ が , 今 や サ マ ー ワ 周 辺 は , 米 軍 ・

占 領 軍 と シ ー ア 派 と の 衝 突 の 真 ん 中 に 位

置 し , 自 衛 隊 は 宿 営 地 か ら ほ と ん ど 出 ら

れ な い 状 態 が 続 い て い る ( 朝 日 新 聞 4 月

8 日 付 朝 刊 よ り ) 。

5 「 フ ァ ル ー ジ ャ の 流 血 」 を め ぐ る イ ラ ク

情 勢

前 述 ま で は , 日 本 に お け る 報 道 に 基 づ い

て 事 実 を 整 理 し た も の で あ る 。 し か し ,

事 態 の 経 過 と 本 質 を よ り 正 確 に 理 解 す る

た め に は , 現 地 に 詳 し い 立 場 か ら イ ラ ク

社 会 の 実 情 や 民 衆 の 心 情 を 含 め て 具 体 的

に 論 ぜ ら れ る 必 要 が あ る 。 こ の 点 で は ,

バ グ ダ ッ ド 大 学 教 授 で 政 治 学 博 士 の サ ア

ド ・ ジ ャ ワ ー ド 氏 に よ る , 4 月 1 6 日 付

リ ポ ー ト が 詳 し い の で ( 訳 = 山 下 史 / 世

界 no.727 ) , 以 下 に 引 用 す る 。

「 < 事 態 の 背 景 は 何 か >

( 中 略 )

米 軍 の 占 領 開 始 後 の 最 初 の 衝 突 は , 米

軍 が 住 民 の 感 情 を 一 切 無 視 し て 家 屋 ,

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女 性 の 捜 索 を 強 行 し よ う と し た こ と か

ら 起 き た 。 イ ス ラ ム 教 徒 は 総 じ て , 外

国 人 と 家 族 と の 接 触 , と く に 女 性 と の

接 触 を 嫌 う 。 外 国 人 が 女 性 に 話 し か け

る こ と を 嫌 い , 体 に さ わ る な ど も っ て

の ほ か で あ る 。 だ が 占 領 軍 は 捜 索 を 強

行 し よ う と し , こ れ が 対 決 に 発 展 し た

( 昨 年 4 月 2 8 日 , 米 軍 が 発 砲 し 1 5

名 が 死 亡 し た ) 。 米 軍 が フ ァ ル ー ジ ャ

の 人 々 を 押 さ え つ け よ う と す れ ば す る

ほ ど , 住 民 は 戦 闘 的 に な っ た 。 フ ァ ル

ー ジ ャ は , 米 軍 補 給 ル ー ト で あ る 幹 線

高 速 道 路 上 に あ る の で , 米 軍 の 車 両 や

装 甲 車 攻 撃 が 容 易 で , 抵 抗 勢 力 に は 有

利 だ っ た 。

占 領 軍 が お か し た も う 一 つ の 大 き な 過

ち は , バ グ ダ ッ ド 陥 落 後 , イ ラ ク 軍 の

キ ャ ン プ や 兵 舎 の 収 容 に 無 関 心 だ っ た

こ と だ 。 フ ァ ル ー ジ ャ の す ぐ 近 く に は ,

巨 大 な 軍 事 キ ャ ン プ が あ る の で , 人 々

は い と も 簡 単 に 軽 火 器 , 重 火 器 を 手 に

入 れ る こ と が で き た 。

フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 は , 問 題 を 平 和 的

に 解 決 し よ う と 務 め , 米 軍 に 対 し て ,

フ ァ ル ー ジ ャ の 町 へ の 介 入 を や め , 彼

ら の 家 や 家 族 の 勝 手 な 捜 索 を や め る よ

う 申 し 入 れ た 。 占 領 軍 は こ れ を 拒 否 し ,

彼 ら の 傲 慢 な , そ し て フ ァ ル ー ジ ャ の

人 々 に と っ て 屈 辱 的 な 政 策 を 実 行 す る

と 言 い 張 っ た 。 米 軍 は ま た , 罪 状 も 明

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ら か に せ ず , 宗 教 指 導 者 や 部 族 指 導 者

を 投 獄 し た 。 こ の う ち 何 人 か は , イ ス

ラ ム 教 徒 に と っ て は 神 聖 な 場 所 で あ る

モ ス ク の な か で 逮 捕 さ れ た 。 イ ラ ク の

治 安 と 安 定 が 悪 化 す る に 連 れ , 両 者 の

緊 張 は 高 ま っ て い っ た 。 イ ラ ク 国 民 の

支 持 の ま っ た く な い 統 治 評 議 会 の 設 立

や イ ラ ク 軍 の 解 体 も 緊 張 の 高 ま り に 拍

車 を か け た 。

こ う し た 一 連 の 過 ち の 結 果 , バ グ ダ ッ

ド 周 辺 の い く つ か の 地 域 に は , 占 領 に

反 対 す る 勢 力 が 集 結 し 始 め た 。 フ ァ ル

ー ジ ャ も , と く に 突 出 し て い た わ け で

は な い が , そ の 地 域 の 一 つ で あ っ た 。

現 在 の フ ァ ル ー ジ ャ に は , 抵 抗 勢 力 の

圧 倒 的 多 数 を 構 成 す る 土 着 の イ ス ラ ム

教 抵 抗 勢 力 に 加 え て , 旧 イ ラ ク 軍 の メ

ン バ ー , 若 干 の ア ラ ブ 人 戦 闘 員 が 参 加

し て い る と 思 わ れ , フ ァ ル ー ジ ャ の あ

る イ ラ ク 人 研 究 者 が ま と め た 統 計 は 示

唆 的 で あ る 。 そ れ に よ れ ば , 戦 闘 に よ

る 死 者 の 8 0 % は , 以 前 か ら フ ァ ル ー

ジ ャ に 住 ん で い る イ ス ラ ム 教 徒 で あ り ,

1 3 % が 民 族 主 義 者 , 2 % が 旧 バ ー ス

党 員 と な っ て い る 。 こ れ ら は , 現 在 の

攻 防 勃 発 以 前 の 数 字 で あ る 。

< 殺 害 さ れ た 4 名 の 米 国 人 >

フ ァ ル ー ジ ャ で の 最 近 の 武 力 衝 突 の 引

き 金 と な っ た の は , ( 3 月 末 に ) 4 名

の 米 国 市 民 ( 軍 の 下 請 け 業 者 ) が 残 酷

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に 殺 さ れ , そ の 遺 体 が 切 断 さ れ た 事 件

で あ っ た 。 フ ァ ル ー ジ ャ の 宗 教 者 ・ 非

宗 教 者 の リ ー ダ ー は こ ぞ っ て , こ の 行

為 を 非 難 し た の だ が , 在 イ ラ ク 連 合 国

暫 定 当 局 は , 町 全 体 を 処 罰 す る と 主 張

し た 。

こ の 事 件 と そ の 原 因 に つ い て は , 矛 盾

す る 報 告 が な さ れ て い る 。 フ ァ ル ー ジ

ャ の 抵 抗 勢 力 は , そ も そ も こ の 4 名 は ,

ビ ジ ネ ス マ ン で は な く , 「 ブ ラ ッ ク ウ

ォ ー タ ー 」 と 呼 ば れ る 米 国 の 警 備 会 社

の メ ン バ ー で あ り , 同 社 は 在 イ ラ ク 連

合 国 暫 定 当 局 ( C P A ) の ト ッ プ の ブ

レ マ ー 氏 の 護 衛 も 引 き 受 け て い た と 主

張 し て い る 。 彼 ら は ま た , 今 回 の 殺 害

は , フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 と そ の 家 族 に

対 し て 行 わ れ た 残 虐 行 為 へ の 報 復 で あ

る と 主 張 し た 。 彼 ら は ま た , 2 5 名 の

フ ァ ル ー ジ ャ の 女 性 が 恣 意 的 に 逮 捕 さ

れ , 辱 め を 受 け , 同 時 に , 何 人 か の 市

民 が ア メ リ カ の 戦 車 に ひ き 殺 さ れ た と

述 べ て い る 。 さ ら に , 自 分 た ち の 仲 間

の 遺 体 が 切 断 さ れ た と も 語 っ て い る 。

他 方 , こ れ ら の 行 為 は よ そ 者 が や っ た

こ と で あ り , フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 は 一

切 無 関 係 だ と い う 人 々 も い る 。

米 占 領 軍 は , こ れ ら の 主 張 の ほ と ん ど

を 拒 否 し た 。 米 軍 の 言 い 分 は , あ る 女

性 が 抵 抗 運 動 に 参 加 し て い る の が 目 撃

さ れ た の で , 彼 女 へ の 逮 捕 命 令 が 出 さ

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れ た の で あ り , 逮 捕 は , 容 疑 者 を 拘 束

す る た め だ っ た と い う も の で あ る 。 彼

ら は ま た , 米 軍 の 行 動 は , 米 軍 に か け

ら れ た 攻 撃 へ の 報 復 に す ぎ な い と 主 張

し た 。

ブ レ マ ー 氏 は , フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 の

申 し 立 て を 拒 否 し , 4 名 の 米 国 人 へ の

攻 撃 は き わ め て 周 到 に 計 画 さ れ 実 行 さ

れ た も の で あ る と し て 報 復 を 誓 っ た 。

彼 は , 殺 害 の 責 任 者 を 引 き 渡 す よ う ,

フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 に 最 後 通 牒 を つ き

つ け た 。 フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 は こ れ を

拒 絶 し , 住 民 側 の 要 求 を 提 出 し た 。 そ

の な か に は , 同 市 民 の 殺 害 に 責 任 の あ

る 海 兵 隊 の 引 き 渡 し と 米 軍 の フ ァ ル ー

ジ ャ か ら の 撤 退 が 含 ま れ て い た 。

< モ ス ク ま で 爆 破 さ れ た >

そ の 結 果 , 大 規 模 で 激 し い 軍 事 作 戦 が

フ ァ ル ー ジ ャ に か け ら れ た 。 ま ず 町 を

包 囲 し , 町 に 入 る す べ て の 道 路 を 封 鎖

し た う え で , ア パ ッ チ ・ ヘ リ コ プ タ ー

に よ る 攻 撃 が 始 ま っ た 。 実 際 , 援 助 物

資 を 運 ぶ 車 す ら 町 に は 入 れ な か っ た 。

あ る テ レ ビ で は , 米 海 兵 隊 員 が 食 料 援

助 物 資 の 袋 を 取 り 上 げ て , 土 嚢 代 わ り

に 使 っ て い る 様 子 が 放 映 さ れ て い た 。

そ し て ア メ リ カ 人 の ス ナ イ パ - が 町 の

周 囲 の 家 々 の 屋 根 に 陣 取 り , 少 し で も

動 き が あ っ た り , 家 か ら 出 よ う と し た

ら , す ぐ に 狙 い 撃 ち し て き た 。

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フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 は , こ れ ま で に ま

し て 高 い 戦 闘 性 を 発 揮 し た 。 彼 ら は 壮

絶 に フ ァ ル ー ジ ャ の 町 を 守 り , 少 な く

と も 3 機 の ア パ ッ チ ・ ヘ リ を 撃 墜 し ,

強 力 な 海 兵 隊 の 部 隊 を 窮 地 に 追 い 込 ん

だ 。 海 兵 隊 は , 攻 撃 を さ ら に エ ス レ ー

ト さ せ , F 1 6 戦 闘 爆 撃 機 を 参 加 さ せ

て 攻 撃 を 強 化 し た 。 民 間 人 の 住 む 地 域

も 建 物 も 容 赦 は な か っ た 。 町 の 2 つ の

病 院 も , モ ス ク も , 学 校 も そ の 他 公 共

の 建 物 も 爆 撃 さ れ た 。 医 師 や 医 療 ス タ

ッ フ は , 別 の 医 療 セ ン タ ー ( 彼 ら は こ

れ を 代 用 病 院 と 呼 ん で い た ) を つ く っ

て 人 々 を 助 け る 以 外 に 方 法 は な か っ た 。

墓 地 は 町 の 外 に あ り , 包 囲 し て い る 米

軍 は 市 民 が 墓 地 に 行 く こ と を 許 可 し な

か っ た の で , 町 の 中 央 に あ る ス タ ジ ア

ム を 代 用 墓 地 と し て 死 者 を 埋 葬 せ ね ば

な ら な か っ た 。

攻 撃 開 始 か ら 数 日 の 間 に , こ の 代 用 病

院 が 記 録 し た 死 者 は 6 0 0 名 以 上 , 負

傷 者 は そ の 倍 に 及 ん だ 。 こ の 数 に 含 ま

れ る の は , 「 病 院 」 に 運 ば れ た 人 々 だ

け だ と 医 師 た ち は 語 っ て い る 。 こ の 他

に 「 病 院 」 に 運 ぶ こ と も で き ず , 家 の

庭 に 埋 め ら れ た 人 々 も 多 く い る と い う 。

空 と 陸 か ら の 爆 撃 で , 家 族 全 員 が 殺 さ

れ た ケ ー ス も あ る 。 犠 牲 者 の 7 0 % 以

上 は 子 ど も と 女 性 で あ っ た 。 2 5 名 の

家 族 全 員 が 殺 さ れ た ケ ー ス も あ り , よ

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り 少 人 数 の 家 族 全 滅 の ケ ー ス は 珍 し く

な い 。

フ ァ ル ー ジ ャ 攻 略 の 失 敗 , さ ら に は ,

同 時 期 , 南 部 の 町 ク ー フ ァ か ら 若 手 シ

ー ア 派 聖 職 者 の ム ク タ ダ ・ サ ド ル 師 が

主 導 し て 衝 突 が 起 き , こ れ が 瞬 く 間 に

バ グ ダ ッ ド を は じ め 各 地 に 広 が っ た こ

と で , 米 当 局 は 窮 地 に 陥 っ た 。 衛 星 生

放 送 を 通 じ て 流 さ れ る フ ァ ル ー ジ ャ で

の 虐 殺 の 推 移 を テ レ ビ で 見 る こ と の で

き た 全 国 の イ ラ ク 人 は , 海 兵 隊 の 残 忍

な 虐 殺 に 恐 怖 し , 嘆 き 悲 し ん だ 。 何 の

行 動 も と ら ず , た だ 沈 黙 し て い る イ ラ

ク 統 治 評 議 会 に 対 し て は , 非 難 が い っ

そ う 強 ま っ た 。 実 際 , 統 治 評 議 会 は 米

軍 の 片 棒 を か つ い で い る と 非 難 し た 人

も 多 い 。 統 治 評 議 会 の 何 人 か の メ ン バ

ー が , 6 月 3 0 日 の 彼 ら へ の 政 権 移 譲

の 前 に , 自 分 た ち に と っ て の あ ら ゆ る

脅 威 を 排 除 す る た め に 米 軍 を し て 強 硬

手 段 を と る よ う 働 き か け た と い う の で

あ る 。

フ ァ ル ー ジ ャ の 人 々 の 激 烈 な 戦 い ( こ

れ に よ り , 米 軍 側 の 犠 牲 者 も 増 え , 死

者 約 7 0 名 , 負 傷 者 多 数 に の ぼ っ た )

と と も に , イ ラ ク 国 内 で も ま た 国 際 的

に も 圧 力 が 強 ま り , 米 軍 は 停 戦 に 応 じ

ざ る を え な く な っ た 。 こ の 停 戦 は 今 も

続 い て い る の だ が , 数 回 に わ た っ て 違

反 が あ り , 双 方 が 相 手 を 非 難 し た 。 ブ

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レ マ ー 氏 の 攻 撃 中 止 の 発 表 は , 彼 が 今

後 一 層 激 し い フ ァ ル ー ジ ャ 攻 撃 を も く

ろ ん で い る と 考 え ざ る を え な い よ う な

内 容 で あ っ た 。 発 表 に あ た り ブ レ マ ー

氏 は , 戦 闘 を 中 断 す る の は , 町 を 去 る

者 に そ の 猶 予 を あ た え る た め だ と 語 っ

た 。 彼 は , こ の 包 囲 さ れ た 町 に は , 人

も , 人 道 支 援 も , 医 療 品 も 一 切 入 れ な

い と 主 張 し た 。

フ ァ ル ー ジ ャ の 抵 抗 は , 再 び そ の 戦 闘

性 を 高 め た 。 人 々 は , 子 ど も と 女 性 を

町 の 外 に 出 し , 自 ら は 町 の 中 に と ど ま

っ て , 死 ぬ ま で , そ し て 町 の 包 囲 が 解

か れ る ま で 戦 う こ と を 誓 っ た 。 彼 ら は

ま た , 戦 闘 中 止 に 条 件 を つ け た 。 彼 ら

は 破 壊 さ れ た 町 の 再 建 と 市 民 へ の 損 害

賠 償 を 要 求 し た 。

こ れ が 今 現 在 の フ ァ ル ー ジ ャ の 状 況 で

あ る 。 」

6   相 次 ぐ イ ラ ク か ら の 撤 退

      上 記 の よ う な 泥 沼 化 す る イ ラ ク 情 勢 と

テ ロ 攻 撃 を 受 け , 下 記 の と お り , 各 国 は

イ ラ ク か ら の 撤 退 を 進 め て い る 。

[ 5 月 5 日 付 平 和 新 聞 よ り , 情 報 は 4 月

2 6 日 現 在 ]

〈 主 な 派 遣 国 の 態 度 〉

( ○ は 撤 退 も し く は 撤 退 開 始 , △ は 撤 退

を 決 定 も し く は 示 唆 , ● は 続 行 )

○ス ペ イ ン 1400 人 4 月 1 9 日 撤 退 開 始

○ホ ン ジ ュ ラ ス 368 人 6 月 中 の 撤 退 を 決 定

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○ド ミ ニ カ 300 人 早 期 撤 退 を 表 明

○シ ン ガ ポ ー ル 200 人 撤 退 を 完 了

○ニ カ ラ グ ア 115 人 撤 退 を 完 了

○ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 61 人 首 相 が 9 月 撤 退

を 表 明

△ポ ル ト ガ ル 2400 人 状 況 に よ り 撤 退 も

△ポ ー ラ ン ド 2400 人 新 首 相 が 表 明 す る 予 定

△ウ ク ラ イ ナ 2000 人 戦 闘 に は 参 加 し な い 意

△タ イ 473 人 繰 り 上 げ 撤 退 の 方 針

△ ブ ル ガ リ ア 470 人 米 軍 主 導 な ら 撤 退 も

△ フ ィ リ ピ ン 270 人 状 況 に よ り 撤 退 も

△ノ ル ウ ェ ー 150 人 外 相 が 撤 退 を 示 唆

●ア メ リ カ 135000 人 な お 増 派 を 検 討

●イ ギ リ ス 9000 人

●イ タ リ ア 2600 人

●オ ラ ン ダ 1100 人

●オ ー ス ト ラ リ ア 870 人 最 大 野 党 は 早 期 撤

退 を 主 張

●韓 国 600 人 増 派 を 決 定

●日 本 550 人 撤 退 考 慮 せ ず

( 日 本 は サ マ ー ワ 駐 留 の 陸 自 の み 算 入 ,

空 自 , 海 自 を 加 え る と 千 数 百 人 規 模 =

情 報 は 4 月 2 6 日 現 在 )

さ ら に , こ の あ と , フ ィ リ ピ ン の ア ロ ヨ

政 権 は , 本 年 7 月 1 9 日 に イ ラ ク 駐 留 部

隊 を 完 全 撤 退 さ せ る こ と を 決 め た 。 こ れ

は , イ ラ ク 中 部 フ ァ ル ー ジ ャ で 民 間 人 が

拉 致 さ れ た 事 件 を き っ か け に , 人 質 救 出

を 対 米 追 随 に 優 先 し た 結 果 で あ る 。

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ま た , ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 政 府 は 9 月 1 6

日 , 人 道 支 援 活 動 の た め イ ラ ク 南 部 の バ

ス ラ に 展 開 し て い た 自 国 軍 の 6 1 人 全 員

が 月 内 に 撤 退 す る と 発 表 し た 。 同 国 は 2

0 0 3 年 9 月 , 半 年 間 の 予 定 で 部 隊 を 派

遣 , 今 年 3 月 に 半 年 間 延 長 し , 水 道 施 設

の 整 備 や 警 察 署 の 建 設 な ど に あ た っ て き

た 。 し か し 最 近 の 治 安 悪 化 を 受 け , こ こ

1 か 月 以 上 は 宿 営 地 に と ど ま っ て お り ,

具 体 的 な 活 動 に は 携 わ っ て い な か っ た 。

さ ら に , タ イ は , 8 月 2 7 日 , イ ラ ク に

派 遣 し て い た 同 国 軍 兵 士 4 5 1 人 を 撤 退

さ せ た 。 タ イ 政 府 は 昨 年 9 月 の 派 兵 開 始

の 際 , 「 暫 定 政 府 が 成 立 す る ま で の 約 1

年 間 」 と い う 派 兵 期 限 を 定 め て い た 。 タ

イ 政 府 は 今 後 , 航 空 機 を 使 っ て の 医 療 物

資 の 輸 送 な ど の 人 道 支 援 を 検 討 す る 。

ま た , コ ス タ リ カ 最 高 裁 の 憲 法 法 廷 は 8

日 , 米 英 な ど 多 国 籍 軍 に よ る イ ラ ク 戦 争

を 政 府 が 支 持 す る の は , 常 備 軍 を 禁 じ 戦

争 を 放 棄 す る 同 国 の 4 9 年 憲 法 に 違 反 す

る と の 決 定 を 7 判 事 の 全 会 一 致 で 下 し た 。

こ れ を 受 け , 同 国 の ト バ ル 外 相 は 9 日 ,

米 政 府 に 対 し , 現 在 4 9 カ 国 で 構 成 さ れ

る 「 有 志 連 合 」 か ら コ ス タ リ カ を 外 す よ

う 要 請 し た 。

      こ の よ う に 圧 倒 的 に 多 く の 国 が 当 初 の

派 兵 方 針 を 変 更 し , 撤 退 な い し 撤 退 決 定

を 行 な っ て い る の で あ る 。

7   日 本 人 人 質 事 件 の 発 生 と 問 題 の 本 質

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( 1 )   日 本 人 人 質 事 件 の 発 生

米 軍 の 攻 撃 , と り わ け フ ァ ル ー ジ ャ 掃 討

作 戦 に 対 す る 抵 抗 と し て , 外 国 の 民 間 人

を 標 的 と す る 人 質 事 件 が 頻 発 し た 。 そ の

多 く が , 米 軍 を 厳 し く 非 難 し , 占 領 軍 の

撤 退 を 求 め る も の で あ り , 無 差 別 に 攻 撃

し 殺 害 す る と い う も の で は な か っ た 。

( 朝 日 新 聞 4 月 1 8 日 朝 刊 )

      日 本 人 も 7 日 , 3 人 ( フ リ ー ラ イ タ ー

今 井 紀 明 氏 , フ リ ー カ メ ラ マ ン 郡 山 総 一

郎 氏 , ボ ラ ン テ ィ ア 高 遠 菜 穂 子 さ ん ) が ,

ア ン マ ン か ら バ グ ダ ッ ド に 向 か う 途 中 で

誘 拐 さ れ , 1 5 日 に 解 放 さ れ た 。

米 軍 の フ ァ ル ー ジ ャ 掃 討 作 戦 に 対 す る 抵

抗 で あ り , 自 衛 隊 派 遣 を 米 軍 ・ 占 領 軍 と

同 視 し て い る こ と が , 犯 人 ら の 声 明 文 か

ら 明 ら か だ っ た 。

< 4 月 8 日 犯 行 時 の 声 明 文 ( 要 旨 ) >

日 本 の 友 人 た ち へ 。 日 本 の 国 民 は イ ラ

ク 国 民 の 友 人 だ 。 我 々 , イ ス ラ ム 教 の イ

ラ ク 国 民 は , あ な た た ち と 友 好 関 係 に あ

り , 尊 敬 も し て い る 。 し か し , あ な た た

ち に は こ の 友 好 関 係 に 対 し , 敵 意 を 返 し

て き た 。

米 軍 は 我 々 の 土 地 に 侵 略 し た り , 子 ど

も を 殺 し た り , い ろ い ろ と ひ ど い こ と を

し て い る の に , あ な た た ち は そ の 米 軍 に

協 力 し た 。

今 , あ な た た ち の 国 民 3 人 は , 我 々 の

手 の 中 に い る 。 そ し て , あ な た が た は 二

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者 択 一 を し な け れ ば な ら な い 。 自 衛 隊 が

我 々 の 国 か ら 撤 退 す る か , そ れ と も 彼 ら

( 3 人 ) を 殺 害 す る か だ 。

フ ァ ル ー ジ ャ で や っ た 以 上 の こ と を 3

人 に も や る だ ろ う 。

こ の ビ デ オ を 放 映 し て か ら 要 求 を 実 行 す

る た め に 3 日 間 の 時 間 を 与 え る 。

< 4 月 1 5 日 解 放 時 の 声 明 文 ( 要 旨 ) >

日 本 人 と 世 界 の 人 々 へ 。 日 本 の 市 民 が

行 っ た デ モ と , 神 を た た え た こ と を 評 価

す る 。 ( イ ラ ク に 駐 留 す る 自 衛 隊 の ) 部

隊 の 撤 退 を 強 く 求 め , と ど ま る こ と を 主

張 し 続 け る 日 本 政 府 の 政 策 を 拒 否 す る と

い う 道 義 的 な 立 場 に 立 つ 日 本 人 に 共 感 す

る 。 我 々 は , 人 質 3 人 の 解 放 を 決 断 し た 。

こ れ を 機 に , 日 本 人 が 政 府 に 対 し , そ の

部 隊 の 撤 退 と と も に , イ ラ ク へ の 敵 対 行

為 に 加 担 し て い る 残 り の ( 外 国 軍 の ) 部

隊 も 立 ち 去 る よ う , 圧 力 を か け る こ と を

呼 び か け る 。

( 2 )   日 本 政 府 の 対 応 の 誤 り

解 放 に 至 る 過 程 で , 日 本 政 府 は 幾 つ も の

過 ち を 犯 し た 。 要 所 要 所 で 見 事 に 事 態 の

本 質 を は ず し , よ く 裏 目 に 出 な か っ た も

の だ と 安 堵 し た と い う の が , 率 直 な 思 い

で あ る 。

以 下 に は , 政 府 の 対 応 あ る い は 国 民 に 対

す る 説 明 の 中 で , 法 的 な 観 点 か ら 看 過 で

き な い 問 題 点 を 指 摘 す る 。 な ぜ な ら ば ,

人 質 と な っ た 国 民 の 解 放 が 広 汎 な 外 交 権

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限 を 有 す る 政 府 の 政 治 的 判 断 事 項 で あ る

に せ よ , 法 治 国 家 で あ る 以 上 , 当 然 に 国

際 法 や 国 内 法 に 則 っ て 対 処 さ れ な け れ ば

な ら な い か ら で あ る 。

ア   政 府 が , 直 ち に 「 自 衛 隊 撤 退 は あ り え

な い 」 と 断 言 し た こ と

政 府 は , 自 衛 隊 の 撤 退 を 求 め た 犯 人 の

要 求 に 対 し て , 人 質 の 状 況 や 情 勢 の 見 定

め も 出 来 て い な い う ち か ら 「 自 衛 隊 撤 退

は あ り え な い 」 と 断 言 し た 。 自 衛 隊 を 撤

退 さ せ る か 否 か の 二 者 択 一 し か な く , 撤

退 し た ら 人 道 復 興 支 援 は で き な く な る と

い う 論 旨 で あ る 。

し か し , イ ラ ク 特 措 法 が 定 め る 活 動 内

容 ( 3 条 ) は , 人 道 復 興 支 援 と 安 全 確 保

支 援 の 2 つ で あ り , そ の 実 施 主 体 は , 自

衛 隊 と イ ラ ク 復 興 支 援 職 員 の 二 つ の 系 統

に 分 け ら れ る 。 後 者 の 活 動 は 専 ら 自 衛 隊

が 行 う こ と を 想 定 し て い る も の の , 前 者

の 活 動 は 自 衛 隊 が 唯 一 で も な け れ ば , 第

一 義 的 で も な い 。 現 在 ま で イ ラ ク 復 興 支

援 職 員 に よ る 人 道 復 支 援 活 動 の 実 績 が 全

く な い の は , 自 衛 隊 に 偏 重 し た 政 府 の 政

策 の 故 で あ っ て , 法 本 来 の 趣 旨 で は な い 。

し か も , 仮 に 自 衛 隊 の 活 動 を 前 提 に し

た と し て も , 自 衛 隊 の 対 応 に つ い て は ,

「 一 時 休 止 」 や 「 避 難 」 「 中 断 」 と い っ

た 柔 軟 な 対 処 方 法 が 明 記 さ れ て い る ( 同

法 第 8 条 ) 。

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「 防 衛 庁 長 官 は , 実 施 区 域 の 全 部 又 は

一 部 が こ の 法 律 又 は 基 本 計 画 に 定 め ら れ

た 要 件 を 満 た さ な い も の と な っ た 場 合 に

は , 速 や か に , そ の 指 定 を 変 更 し , 又 は

そ こ で 実 施 さ れ て い る 活 動 の 中 断 を 命 じ

な け れ ば な ら な い 。 」 ( 4 項 )

「 ・ ・ ・ 当 該 活 動 を 実 施 し て い る 場 所

の 近 傍 に お い て , 戦 闘 行 為 が 行 わ れ る に

至 っ た 場 合 又 は 付 近 の 状 況 等 に 照 ら し て

戦 闘 行 為 が 行 わ れ る こ と が 予 測 さ れ る 場

合 に は , 当 該 活 動 の 実 施 を 一 時 休 止 し 又

は 避 難 す る な ど し て 当 該 戦 闘 行 為 に よ る

危 険 を 回 避 し つ つ , 前 項 の 規 定 に よ る 措

置 を と る も の と す る 。 」 ( 5 項 )

現 に , 当 時 の サ マ ー ワ の 部 隊 は , 自 衛

隊 を 狙 っ た 迫 撃 砲 攻 撃 が , 事 実 上 宿 営 地

内 に 避 難 し , 任 務 を 一 時 休 止 し て い た 。

従 っ て , 自 衛 隊 を 撤 退 さ せ る か 否 か の

二 者 択 一 し か な く , 撤 退 し た ら 人 道 復 興

支 援 は 出 来 な く な る か の よ う に 言 う 政 府

の 対 応 は , 法 解 釈 を 歪 め , 国 民 世 論 を 誤

導 す る も の で あ る 。

と こ ろ で , 政 府 が 「 自 衛 隊 撤 退 は あ り

え な い 」 と し た 理 由 は , 「 い ま 撤 退 し た

ら 国 際 社 会 の 笑 い 者 に な り , 信 用 を 失

う 」 「 テ ロ に 屈 し な い 」 と い う も の だ っ

た 。

し か し , イ ラ ク 情 勢 の 悪 化 の 下 で , 軍

隊 派 遣 各 国 は , 4 月 以 降 相 次 い で 撤 退 を

決 定 し , あ る い は そ の 検 討 を 開 始 し て い

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る 。 日 本 は , い つ か ら こ れ ら の 国 を 「 笑

い 者 」 に し , 「 信 用 し な い 」 傲 慢 な 国 に

な っ た の だ ろ う か 。 ア メ リ カ で さ え ,

「 ソ マ リ ア の 悪 夢 」 の 時 に は 撤 退 し た と

い う の に 。

イ   小 泉 首 相 が , 当 初 か ら 犯 人 た ち を 「 テ

ロ リ ス ト 」 と 呼 ん だ こ と

こ れ が , 犯 人 を ひ ど く 刺 激 し , 当 初 約

束 し た 期 限 で の 解 放 が 遅 れ た 原 因 の 一 つ

だ と さ れ る ( イ ス ラ ム 聖 職 者 協 会 の メ ン

バ ー の 発 言 ) 。

文 民 ( 戦 闘 に 加 わ っ て い な い 民 間 人 )

を 人 質 に 取 る こ と は , 国 際 法 で 明 確 に 禁

止 さ れ ( ジ ュ ネ ー ブ 条 約 第 4 条 約 3 4

条 ) , 卑 劣 で 非 人 道 的 な 行 為 と さ れ て い

る 。 し か し , 文 民 に 対 す る 攻 撃 を ひ と く

く り に テ ロ と 呼 ぶ な ら ば , 自 国 政 府 あ る

い は 他 国 政 府 が 文 民 を 攻 撃 す る こ と も テ

ロ 行 為 で あ り , そ れ は 「 国 家 テ ロ 」 あ る

い は 「 国 家 的 テ ロ 」 と 呼 ば れ る こ と が あ

る 。 犯 人 た ち は , フ ァ ル ー ジ ャ 掃 討 作 戦

な ど 米 軍 の 行 為 ‐ 町 に 通 じ る 道 路 を 全 て

封 鎖 し , 陸 と 空 の 両 方 か ら 爆 撃 。 そ れ に

よ り 犠 牲 者 の 7 0 % 以 上 が 女 性 と 子 ど も

だ っ た と い う ‐ を い わ ば 国 家 テ ロ だ と し ,

あ ら ゆ る 手 段 を 駆 使 し て 抵 抗 し て い た と

考 え る こ と が で き る 。

国 際 法 上 , 無 防 備 の 都 市 に 対 し て は ,

無 差 別 の 砲 爆 撃 は 禁 止 さ れ , 軍 事 目 標 に

対 す る 攻 撃 の み が 許 さ れ る ( 軍 事 目 標 主

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義 / ハ ー グ 陸 戦 規 則 2 5 条 , ジ ュ ネ ー ブ

条 約 第 1 議 定 書 5 2 条 条 以 下 な ど ) 。 ま

た , 正 規 兵 と 不 正 規 兵 の 区 別 は な さ れ て

お ら ず , 組 織 さ れ た 武 装 の 軍 隊 , 集 団 及

び 団 体 等 を 一 括 し て , 同 一 の 要 件 で 捕 虜

資 格 を 認 め て い る ( ジ ュ ネ ー ブ 第 3 条

約 ) 。 民 兵 隊 と か 義 勇 隊 , 群 民 兵 , 組 織

的 抵 抗 運 動 団 体 と い っ た 概 念 が , そ う で

あ る 。

か よ う な イ ラ ク 情 勢 と 国 際 法 の 理 解 を

前 提 に し た と き , 少 な く と も わ が 国 が 非

交 戦 国 ( 中 立 国 ) の 地 位 を 保 持 し よ う と

す る な ら ば , 犯 人 た ち を い き な り 「 テ ロ

リ ス ト 」 と 呼 ぶ こ と は な い し , あ っ て は

な ら な い こ と で あ る 。 も し ア メ リ カ に 交

戦 法 規 違 反 が 認 め ら れ る な ら ば , そ れ を

厳 し く 批 判 し , 是 正 さ せ る こ と こ そ 最 も

大 事 な 「 人 道 的 活 動 」 で あ る 。

こ れ は , イ ラ ク 特 措 法 と も 直 結 す る 。

な ぜ な ら ば , 日 本 が 自 衛 隊 を 派 遣 す る の

は , 人 道 復 興 支 援 に よ っ て イ ラ ク と 平 和

友 好 関 係 を 築 く た め で あ っ て , 米 国 と 同

じ 立 場 に 立 ち 「 敵 」 と し て 征 伐 す る こ と

で は な い か ら で あ る 。

ウ   川 口 外 相 が 自 衛 隊 も 人 質 3 人 と 同 じ 目

的 だ と 言 っ た こ と

4 月 1 0 日 収 録 と さ れ る 川 口 外 相 に よ

る 犯 人 た ち へ の ビ デ オ メ ッ セ ー ジ は , 人

質 に さ れ た 3 人 が イ ラ ク の 人 々 を 思 い ,

そ の 支 援 の た め に イ ラ ク に 行 っ た の だ と

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訴 え た 。 し か し , そ れ に 続 け て , 自 衛 隊

も 同 じ 目 的 の た め に 派 遣 さ れ た の だ と す

る 旨 が 加 え ら れ て い た 。

解 放 時 の 犯 人 た ち の 声 明 文 及 び イ ス ラ

ム 聖 職 者 協 会 の 説 明 に よ れ ば , 3 人 が 自

衛 隊 と 立 場 が 違 う こ と が 確 認 さ れ た こ と

が 決 定 的 だ っ た こ と が わ か る 。

川 口 外 相 の メ ッ セ ー ジ は , 国 連 を は じ

め と す る 国 際 社 会 が 築 き 上 げ て き た 人 道

支 援 の 基 本 理 念 と , 国 際 的 に 確 立 さ れ て

き た 活 動 原 則 に 対 し て 無 理 解 で あ り , 自

衛 隊 派 遣 に よ る 「 人 道 復 興 支 援 」 な る も

の の 欺 瞞 性 を 浮 か び 上 が ら せ る こ と と な

っ た 。

8   さ ら な る 人 質 事 件

      4 月 1 4 日 午 前 1 1 時 ご ろ , 武 装 勢 力

の 取 材 の た め バ グ ダ ッ ド 西 方 に 向 か っ て

い た 渡 辺 修 孝 氏 と 安 田 純 平 氏 が , バ グ ダ

ッ ド の 西 約 2 0 キ ロ の ア ブ グ レ イ ブ 地 区

で 武 装 グ ル ー プ に 拉 致 さ れ る と い う 事 件

が 起 き た 。

      渡 辺 氏 ら は , フ ァ ル ー ジ ャ 近 郊 に お い

て , 米 軍 の 攻 撃 で イ ラ ク 人 が 大 勢 死 傷 し

て い る 状 況 を リ ポ ー ト す る た め に 取 材 に

赴 き , そ の 際 , 乗 用 車 か ら 降 り て き た 5

人 の 男 に 「 墜 落 し た 米 軍 ヘ リ が あ る か ら

見 に 行 か な い か 」 と 持 ち か け ら れ , 同 行

後 1 5 人 く ら い の 武 装 グ ル ー プ に 拘 束 さ

れ た 。 そ の 後 , 1 7 日 午 前 1 1 時 こ ろ ,

2 人 は 拘 束 か ら 3 日 ぶ り に 解 放 さ れ た 。

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      当 初 , 渡 辺 氏 ら は , 武 装 勢 力 か ら 戦 闘

地 域 に 入 っ て き た ス パ イ で あ る と 疑 わ れ

て お り 「 お 前 は ア メ リ カ と 一 緒 に 働 い て

い る の か 。 そ れ な ら 殺 す 」 と 銃 を 突 き つ

け ら れ な が ら 脅 さ れ , ま た 「 お 前 を 殺 し

た 場 合 に 日 本 の 首 相 は 責 任 を と る か 」 と

も 聞 か れ た と い う 。 当 時 の 様 子 に つ い て ,

安 田 氏 は 「 私 は 銃 を 持 っ て い な か っ た の

で 助 か っ た 。 殺 害 さ れ た 人 質 は み な 銃 を

持 っ て い た よ う だ 」 と 語 っ て い る 。

身 柄 拘 束 さ れ た こ と に つ い て , 渡 辺 氏 は ,

「 イ ラ ク の 人 々 の た め に や っ て き て い て

も , 自 衛 隊 を 派 遣 し て い る だ け で 同 じ 日

本 人 と み ら れ , こ う い う 目 に 遭 う の は 複

雑 な 気 持 ち だ 」 と 話 し て い る 。

    こ の よ う に 自 衛 隊 の イ ラ ク 派 兵 に よ っ

て , 日 本 人 と い う だ け で 多 く の 民 間 人 が

命 を 狙 わ れ る 事 態 が 発 生 し て い る の で あ

る 。

9   日 本 人 ジ ャ ー ナ リ ス ト 2 人 死 亡

激 し い 戦 闘 が 続 く イ ラ ク で , 再 び 日 本 人

が 襲 わ れ た 。 フ リ ー ジ ャ ー ナ リ ス ト の 橋

田 信 介 氏 と 甥 の 小 川 功 太 郎 氏 が 乗 っ て い

た 4 人 乗 り の 車 両 が , 5 月 2 7 日 夕 方

( 現 地 時 間 ) , バ グ ダ ッ ド 南 方 約 3 0 キ

ロ の マ フ ム ー デ ィ ー ヤ 付 近 の 国 道 を 走 行

中 に 銃 撃 さ れ , 炎 上 。 日 本 人 2 人 と イ ラ

ク 人 通 訳 1 人 が 死 亡 し た 。 遂 に , 最 悪 の

事 態 が 来 て し ま っ た 。

今 回 の 事 件 は , 4 月 に 起 き た 日 本 人 5 人

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の 人 質 事 件 と 異 な り , 日 本 人 を 標 的 に し ,

初 め か ら 殺 害 を 目 的 と し た も の で あ る 。

米 軍 ・ 占 領 軍 と の 組 織 的 衝 突 に 加 え , 無

差 別 テ ロ も 拡 大 し て い る こ と が は っ き り

と 窺 え る 。

新 聞 報 道 に よ れ ば , 日 本 大 使 館 が 事 件 の

連 絡 を 受 け た の が 2 7 日 午 後 8 時 半 頃 で ,

2 人 の 遺 体 を 病 院 が 確 認 し た の が 2 8 日

午 前 1 0 時 頃 で , 1 3 時 間 以 上 を 要 し た

と い う 。 そ れ は , 病 院 に は , 夜 明 け を 待

っ て , 大 使 館 と 契 約 し て い る 民 間 警 備 会

社 の 小 銃 な ど を 携 行 す る イ ラ ク 人 警 備 員

を 同 行 し た か ら だ と い う 。 「 丸 腰 の 日 本

人 の 外 交 官 が う か つ に 近 づ け ば , 新 た な

事 件 に 巻 き 込 ま れ か ね な い 」 ( 外 務 省 幹

部 ) か ら だ と い う 。

イ ラ ク 全 土 が 戦 争 状 態 に あ り , 外 交 官 も

ジ ャ ー ナ リ ス ト も ま と も に 活 動 で き な い

劣 悪 な 治 安 状 況 に あ る こ と は , か か る 経

緯 一 つ 見 て も 明 ら に な っ て い る 。

1 0   自 衛 隊 の 活 動 と 宿 営 地 サ マ ー ワ の 情 勢

悪 化

イ ラ ク の 全 体 的 な 情 勢 に つ い て は , 前 述

し た と お り で あ る の で , 以 下 に は , 自 宿

営 地 の あ る サ マ ー ワ の 情 勢 及 び 自 衛 隊 に

対 す る 武 力 攻 撃 な ど の 推 移 に つ い て 整 理

し て お く 。

イ ラ ク 全 土 の 情 勢 悪 化 の た め に , サ マ ー

ワ か ら は , 新 聞 社 ・ 通 信 社 な ど の ス タ ッ

フ が 避 難 し , 現 在 は ほ と ん ど い な い 状 態

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で あ る 。 こ の よ う な 中 で , 現 地 の 情 勢 判

断 や 活 動 方 針 を 誰 が ど の よ う に 決 定 し ,

チ ェ ッ ク し て い る の だ ろ う か 。 自 衛 隊 に

対 す る シ ビ リ ア ン コ ン ト ロ ー ル が 働 か な

い 状 態 に あ る こ と が 懸 念 さ れ る 。 ま た ,

自 衛 隊 の 活 動 内 容 や 現 地 の 情 勢 が 正 し く

伝 え ら れ て い る の か 危 惧 さ れ る 。

1 ) 3 月 2 7 日 , 陸 自 第 2 師 団 ( 旭 川

市 ) を 中 心 と す る イ ラ ク 派 遣 約 5 3 0

人 の サ マ ー ワ 展 開 が 完 了 。 宿 営 地 防 御

や 宿 営 地 以 外 に 出 る 復 興 支 援 任 務 隊 を

守 る 警 備 専 門 職 員 が 全 体 の 3 割 を 占 め ,

戦 闘 技 術 を 身 に つ け た レ ン ジ ャ - 課 程

修 了 者 を 大 量 に 配 置 し た 。 隊 員 に 一 時

の た め ら い が 出 る 可 能 性 が あ る と し て ,

上 司 は 武 器 使 用 を 命 ず る だ け で な く ,

使 用 の 場 合 も 率 先 す る こ と を 明 言 ( 北

海 道 新 聞 3 月 2 6 日 付 朝 刊 ) 。

2 ) 3 月 2 7 日 , サ マ ー ワ の 約 1 0 0 キ

ロ 南 の 路 上 で , イ ラ ク の 民 間 業 者 の ト

レ ー ラ ー 3 台 が , 何 者 か に 爆 撃 さ れ ,

イ ラ ク 人 1 人 が 死 亡 , 1 人 が 負 傷 し た 。

ト レ ー ラ ー は 計 3 4 台 で 走 行 し , ク ウ

ェ ー ト か ら サ マ ー ワ ま で 陸 上 自 衛 隊 の

宿 営 地 の 周 囲 に 設 置 す る コ ン ク リ ー ト

壁 を 輸 送 し て い た 。

3 ) 4 月 3 日 こ ろ ? サ マ ー ワ 周 辺 で 自

衛 隊 の 移 動 中 , 地 元 住 民 数 人 か ら 駐 留

に 抗 議 す る 投 石 を 受 け た 。 陸 上 自 衛 隊

は , 防 衛 庁 に 報 告 を 挙 げ て い な か っ た

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と い う ( 7 日 に , 数 日 前 の こ と と し て

報 道 ) 。

4 ) 4 月 4 日 , 政 府 は , イ ラ ク の 治 安 悪

化 を 受 け て , サ マ ー ワ で の 陸 上 自 衛 隊

の 宿 営 地 外 で の 支 援 活 動 を 当 面 休 止 す

る こ と を 決 め た 。

5 ) 4 月 5 日 , サ マ ー ワ の 部 族 長 ら が 会

合 を 開 き , 市 内 で 強 硬 派 が 「 暴 徒 化 」

す る の を 食 い 止 め る よ う 住 民 に 求 め た 。

警 察 当 局 は , 検 問 を 強 化 。 陸 上 自 衛 隊

は , 宿 営 地 周 辺 の 警 戒 態 勢 を 強 め た 。

6 ) 4 月 6 日 , サ ド ル 師 支 持 者 を 代 表 す

る カ デ ィ ム ・ ア ル ワ デ ィ 師 が 「 い つ ま

で も 沈 黙 す る わ け に は い か な い 」 と ,

7 日 に も サ マ ー ワ で 「 占 領 軍 」 の 撤 退

と 主 権 の 早 期 委 譲 を 求 め る デ モ を 行 う

こ と を 明 ら か に し た ( 4 月 7 日 朝 日 新

聞 朝 刊 稲 田 信 司 記 者 報 告 ) 。

7 ) 4 月 7 日 午 後 1 1 時 1 3 分 こ ろ , 追

撃 砲 に よ る と 見 ら れ る 砲 弾 が 3 発 撃 た

れ , 陸 自 宿 営 地 の 北 側 数 百 メ ー ト ル の

地 点 に 2 発 着 弾 , 爆 発 し た 。 直 径 約 3

0 セ ン チ , 深 さ 約 1 0 セ ン チ の 穴 が 空

い た 。

宿 営 し て い る 約 5 5 0 名 の 隊 員 は , 無

事 を 確 認 し た 後 , テ ン ト か ら 出 て , 退

避 壕 や 装 輪 装 甲 車 な ど に 避 難 し た 。

8 ) 4 月 8 日 , 派 遣 部 隊 は , 未 明 か ら 宿

営 地 周 辺 を 車 輌 で 巡 回 す る な ど , こ れ

ま で 実 施 し て い な か っ た 警 戒 活 動 を 開

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始 。 サ マ ー ワ の 治 安 を 担 当 す る オ ラ ン

ダ 軍 も , そ の 外 側 地 域 の 警 戒 に 入 っ た 。

未 明 に オ ラ ン ダ 軍 宿 営 地 周 辺 で も 破 裂

音 が あ っ た と の 未 確 認 情 報 も あ り , 陸

上 自 衛 隊 部 隊 と オ ラ ン ダ 軍 を 狙 っ た 連

続 テ ロ と の 見 方 も 出 て い る 。

9 ) 4 月 8 日 , 外 務 省 , 「 今 後 も 日 本 人

や 日 本 の 関 連 施 設 が テ ロ の 標 的 と な る

可 能 性 が あ る 」 と し て , イ ラ ク へ の 渡

航 を 見 合 わ せ , イ ラ ク 滞 在 者 に は 直 ち

に 退 避 す る よ う 改 め て 呼 び か け る 渡 航

情 報 を 出 し た 。

10 ) 4 月 8 日 , 航 空 自 衛 隊 ト ッ プ の 津 曲

義 光 航 空 幕 僚 長 が , ク ウ ェ ー ト で 記 者

会 見 を 行 う 。 C 1 3 0 輸 送 機 に よ る ク

ウ ェ ー ト ・ イ ラ ク 間 の 米 兵 や 連 合 軍 関

係 者 の 輸 送 を 実 施 し て い た こ と を 初 め

て 明 ら か に し た 。

輸 送 し た 米 兵 が 小 銃 な ど 軽 火 気 類 を 携

行 し て い た こ と も 認 め た 。

11 ) 4 月 8 日 , 午 後 1 0 時 , C P A 事 務

所 の 建 物 か ら 2 0 0 メ ー ト ル ほ ど 離 れ

た 駐 車 場 付 近 に , 小 型 ロ ケ ッ ト 弾 が 撃

ち 込 ま れ た 。 陸 自 宿 営 地 か ら 4 ~ 5 キ

ロ 離 れ た 場 所 で , 爆 発 音 は 5 回 。

陸 自 宿 営 地 で も 爆 発 音 2 回 と 断 続 的 な

銃 声 が 聞 こ え た 。

12 ) 4 月 9 日 , 陸 自 宿 営 地 に , サ マ ー ワ

市 街 地 の 東 側 に 追 撃 砲 が 設 置 さ れ て い

る と の 通 報 が オ ラ ン ダ 軍 経 由 で あ り ,

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派 遣 部 隊 は 午 後 4 時 過 ぎ に 警 報 を 出 し ,

約 5 3 0 人 の 隊 員 と 宿 営 地 に 避 難 中 の

邦 人 記 者 ら 約 2 0 人 を 待 避 壕 な ど に 避

難 さ せ た 。 オ ラ ン ダ 軍 が 捜 索 し た が 見

つ か ら ず , 4 0 分 後 に 警 報 を 解 除 し た 。

13 ) 4 月 9 日 , イ ス ラ ム 教 シ ー ア 派 サ ド

ル 師 の 支 持 者 ら 約 3 0 0 人 が , サ マ ー

ワ に 駐 屯 す る オ ラ ン ダ 軍 へ 撤 退 な ど を

求 め デ モ を 行 っ た 。

14 ) 4 月 1 0 日 , サ マ ー ワ に 駐 留 す る オ

ラ ン ダ 軍 が , 宿 営 地 近 く で 武 器 を 積 ん

だ 車 に 乗 っ て い た 4 人 を 拘 束 し た と 発

表 し た 。 4 人 の 国 籍 は 不 明 。 車 か ら は ,

追 撃 砲 5 門 と 手 投 げ 弾 5 個 な ど が 見 つ

か っ た 。

15 ) 4 月 1 2 日 , 元 米 陸 軍 軍 医 の ア サ

フ ・ ド ラ コ ビ ッ チ 博 士 が , 東 京 の 市 民

集 会 で 報 告 。 昨 年 4 月 か ら 8 月 に か け ,

オ ラ ン ダ 軍 に 引 き 継 ぐ ま で サ マ ー ワ で

警 備 任 務 な ど に 就 い て い た 軍 曹 ( 3

7 ) ら 9 人 が , 慢 性 的 な 頭 痛 , 吐 き 気 ,

腎 不 全 , 免 疫 障 害 な ど に 悩 ま さ れ , 同

博 士 が 設 立 し た ウ ラ ニ ウ ム 医 療 研 究 セ

ン タ ー ( U M R C ) に 相 談 。

昨 年 1 2 月 に 9 人 か ら 採 尿 し て 分 析 し

た 結 果 , 9 人 中 7 人 か ら 自 然 界 で は 存

在 し な い ウ ラ ン 2 3 6 が , う ち 4 人 か

ら 他 の 劣 化 ウ ラ ン の 同 位 体 が 検 出 さ れ

た と い う 。

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16 ) 4 月 1 3 日 , 陸 上 自 衛 隊 は , 4 日 か

ら 中 断 し て い た 宿 営 地 外 で の 活 動 を 9

日 ぶ り に 再 開 す る こ と を 決 め た 。

17 ) 4 月 1 4 日 外 務 省 , イ ラ ク で 取 材 活

動 を し て い る 日 本 の 報 道 各 社 に , 記 者

を 直 ち に イ ラ ク か ら 退 避 さ せ る よ う

「 改 め て 強 く 勧 告 す る 」 と し た 文 書 を

発 表 し た 。

18 ) 4 月 1 4 日 , 同 日 午 前 , 外 国 人 の 駐

留 に 反 対 す る デ モ が あ っ た 。 主 催 者 は ,

サ マ ー ワ 工 科 専 門 学 校 と 教 育 大 学 の 学

生 約 2 0 0 名 。 「 オ ラ ン ダ 軍 と 自 衛 隊

に 告 ぐ 。 占 領 軍 の 犯 罪 行 為 は ( イ ラ

ク ) 市 民 へ の 敵 対 行 為 だ 」 な ど と 書 い

た ビ ラ を 配 り な が ら , 市 内 約 4 キ ロ を

行 進 し た 。 サ マ ー ワ で の デ モ が 自 衛 隊

に 言 及 し た の は 初 め て 。

19 ) 4 月 1 5 日 , 政 府 は , サ マ ー ワ で 陸

上 自 衛 隊 派 遣 部 隊 の 取 材 に あ た っ て い

た 邦 人 記 者 を 国 外 に 退 避 さ せ る た め ,

ク ウ ェ ー ト で 活 動 中 の 空 自 の C 1 3 0

輸 送 機 を イ ラ ク 南 部 タ リ ル 飛 行 場 に 派

遣 。 報 道 関 係 者 1 0 人 を ク ウ ェ ー ト ま

で 空 輸 し た 。 サ マ ー ワ か ら 同 飛 行 場 ま

で は , 陸 上 自 衛 隊 部 隊 が 輸 送 と 護 衛 に

あ た っ た 。 自 衛 隊 が , 自 衛 隊 法 に 基 づ

く 邦 人 輸 送 を し た の は 初 め て 。

20 ) 4 月 1 5 日 , イ ラ ク 国 内 の 戦 況 や ,

治 安 の 悪 化 を 受 け , 日 本 国 際 ボ ラ ン テ

ィ ア セ ン タ ー は 1 5 日 , バ グ ダ ッ ト に

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駐 留 さ せ て い た 日 本 人 ス タ ッ フ を 隣 国

の ヨ ル ダ ン ・ ア ン マ ン に 一 時 退 避 さ せ

る こ と を 決 め た 。 紛 争 地 や 災 害 地 に 医

師 ・ 看 護 師 を 派 遣 し て い る フ ラ ン ス の

「 メ ド ゥ サ ン ・ デ ュ ・ モ ン ド 」 ( 世 界

の 医 療 団 ) も 同 日 ま で に , イ ラ ク に 派

遣 し て い た ス ペ イ ン と フ ラ ン ス の 支 援

チ ー ム が 国 外 に 退 去 , 残 る ギ リ シ ャ チ

ー ム の 医 師 も 近 く 退 去 す る 。

21 ) 4 月 1 7 日 , サ マ ー ワ で , オ ラ ン ダ

軍 と イ ラ ク 人 グ ル ー プ の 間 で 銃 撃 戦 が

あ り , イ ラ ク 人 1 人 が 負 傷 し た ( オ ラ

ン ダ 国 防 省 発 表 ) 。

22 ) 4 月 2 0 日 , 月 2 回 程 度 発 行 さ れ る

サ マ ー ワ の 地 元 紙 「 ア ル ・ サ マ ー ワ 」

の 同 日 付 紙 面 が , 3 月 2 9 日 か ら 4 月

7 日 に か け て , 1 8 歳 以 上 の 男 女 2 0

0 0 人 を 対 象 に 聞 き 取 り 調 査 を し た 結

果 を 公 表 し た 。

そ れ に よ る と , 陸 上 自 衛 隊 駐 留 に つ い

て は , 「 支 持 」 4 9 % , 「 不 支 持 」 4

7 % , 「 日 本 部 隊 ( 陸 上 自 衛 隊 ) の 派

遣 は サ マ ー ワ の 利 益 に な る か 」 に つ い

て は , 「 い い え 」 が 5 1 % , 「 は い 」

は 4 3 % だ っ た 。 1 月 の 調 査 で は , 派

遣 に 賛 成 が 9 0 % を 超 え て い た が , 実

際 に 駐 留 が 始 ま り , 半 数 以 下 と な っ た 。

23 ) 4 月 2 0 日 午 前 3 時 こ ろ , 陸 自 宿 営

地 の 南 東 約 7 キ ロ に あ る オ ラ ン ダ 軍 宿

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営 地 に 追 撃 弾 ら し き も の が 撃 ち 込 ま れ

た 。 オ ラ ン ダ 軍 側 か ら 連 絡 を 受 け た 陸

自 派 遣 部 隊 は , 隊 員 を 宿 営 地 内 の 金 属

製 コ ン テ ナ 内 な ど へ 退 避 さ せ た 。

24 ) 4 月 2 0 日 , サ マ ー ワ の 警 察 当 局 に

よ る と , 午 前 2 時 半 頃 , サ マ ー ワ の C

P A 事 務 所 付 近 に 追 撃 弾 3 発 が 撃 ち 込

ま れ た 。

25 ) 4 月 2 5 日 午 前 3 時 1 5 分 こ ろ , サ

マ ー ワ の オ ラ ン ダ 軍 宿 営 地 近 く に , 追

撃 弾 3 発 が 着 弾 し た 。

26 ) 4 月 2 5 日 午 後 1 0 時 こ ろ , サ マ ー

ワ の 東 約 3 0 キ ロ の 検 問 所 で , 停 止 命

令 を 無 視 し て 進 も う と し た 自 動 車 に 向

け て , オ ラ ン ダ 軍 の 兵 士 が 発 砲 , 車 の

中 に い た 7 人 の 男 性 の う ち , 1 人 が 死

亡 し た 。

27 ) 4 月 2 9 日 午 前 2 時 こ ろ , 陸 自 宿 営

地 近 く に , 追 撃 弾 2 発 が 着 弾 し た 。 施

設 に 被 害 は な か っ た が , 隊 員 ら は 宿 営

地 内 の 壕 や コ ン テ ナ な ど に 一 時 退 避 し

た 。

28 ) 4 月 3 0 日 午 前 2 時 3 0 分 こ ろ , オ

ラ ン ダ 軍 宿 営 地 に , 追 撃 弾 3 発 が 打 ち

込 ま れ , 2 発 は 宿 営 地 の 敷 地 内 で 爆 発

し た 。 け が 人 は 無 か っ た が , 車 1 台 が

損 傷 し た 。

29 ) 5 月 1 0 日 , 警 備 中 の オ ラ ン ダ 軍 兵

士 4 人 に 対 し て , バ イ ク か ら 手 投 げ 弾

を 投 げ つ け る 攻 撃 が あ り , 兵 士 1 人 が

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死 亡 , 1 人 が 重 症 を 負 っ た 。

シ ー ア 派 最 高 権 威 シ ス タ ー ニ 師 の サ マ

ー ワ で の 代 理 人 を 務 め る ア ル メ ヤ リ 師

は , 6 日 夕 の 礼 拝 時 の 説 教 で 「 悪 い 行

い を 改 め よ 」 と 呼 び か け た 。 「 悪 い 行

い 」 と は , オ ラ ン ダ 軍 部 隊 が 市 内 の 女

子 高 生 の 前 で 止 ま っ て 女 性 を じ ろ じ ろ

見 た り , 市 場 を 巡 回 し て 人 々 を 監 視 し

た り す る よ う な 行 為 だ と し , 「 改 め ね

ば デ モ を か け る 」 と 警 告 し た 。

30 ) 5 月 1 4 日 夕 方 , サ ド ル 師 支 持 の 民

兵 組 織 マ フ デ ィ 軍 が 市 中 心 部 の サ ド ル

派 事 務 所 に 集 合 , 1 5 日 に オ ラ ン ダ 軍

が 包 囲 。 銃 撃 戦 の 末 に 事 務 所 か ら 同 軍

団 を 排 除 し た 。 そ の 後 も イ ラ ク 警 察 に

銃 撃 し て 交 戦 と な り , 軍 団 側 1 人 が 死

亡 , 警 察 2 人 も 負 傷 し た 。 軍 団 は 小 型

ロ ケ ッ ト 砲 も 使 い , 中 心 部 で は 爆 発 音

が 響 き わ た っ て い た 。

イ ラ ク 戦 争 後 , 初 め て の こ と 。

31 ) 5 月 1 8 日 午 後 9 時 3 0 分 こ ろ , 警

察 筋 の 情 報 と し て , 自 衛 隊 宿 営 地 の 西

方 約 5 0 0 メ ー ト ル の 道 路 で 対 戦 車 地

雷 が 発 見 さ れ , イ ラ ク 保 安 部 隊 の 爆 弾

処 理 班 が 除 去 し た 。 地 雷 は , 新 し く 埋

設 さ れ た も の ら し く , 現 場 は 自 衛 隊 や

オ ラ ン ダ 軍 の パ ト ロ ー ル 車 も 通 過 す る

道 路 で , そ の 車 輌 を 狙 っ た 可 能 性 も あ

る と い う 。

32 ) 5 月 2 0 日 午 前 , サ マ ー ワ か ら 約 1

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0 0 キ ロ 南 方 の タ リ ル 飛 行 場 付 近 に ,

砲 弾 が 着 弾 し た 。 追 撃 弾 数 発 が 打 ち 込

ま れ た が , 滑 走 路 な ど の 施 設 に 大 き な

損 傷 は 出 て い な い と い う 。 ク ウ ェ ー ト

に 派 遣 さ れ た 航 空 自 衛 隊 の C 1 3 0 輸

送 機 が , 物 資 や 陸 上 自 衛 隊 員 の 輸 送 に

使 っ て い る 。

33 ) 5 月 2 7 日 午 前 2 時 す ぎ , サ マ ー ワ

で , 迫 撃 砲 弾 に よ る 3 回 の 爆 発 音 が あ

っ た 。 爆 発 音 は 陸 自 派 遣 部 隊 の 隊 員 も

確 認 し た 。 宿 営 地 か ら 約 7 キ ロ 北 方 の

市 街 地 の 方 向 で 爆 発 が あ っ た と み ら れ

る 。 暫 定 占 領 当 局 ( C P A ) 事 務 所 や

警 察 署 な ど か ら ほ ぼ 5 0 0 メ ー ト ル 離

れ た 場 所 で , 2 発 の 着 弾 が 確 認 さ れ て

お り , C P A か 警 察 署 を 狙 っ た 攻 撃 と

み て 捜 査 を 進 め て い る 。 こ の 攻 撃 で 住

民 1 人 が 足 を 負 傷 し た 。 迫 撃 砲 弾 は ,

着 弾 地 点 か ら 1 キ ロ 離 れ た 住 宅 街 か ら

発 射 さ れ た 可 能 性 が 高 い 。

34 ) 5 月 3 1 日 午 前 9 時 半 こ ろ , サ マ ー

ワ 南 部 の 国 道 8 号 沿 い に 止 ま っ て い た

韓 国 製 の 小 型 バ ス が 爆 発 し た 。 近 く に

い た 男 性 が , 爆 発 で 割 れ た ガ ラ ス で 負

傷 し 病 院 に 運 ば れ た 。 爆 発 は 米 軍 車 両

十 数 台 が 通 過 し た 直 後 で , 米 軍 を 狙 っ

た 可 能 性 が あ る 。 サ マ ー ワ で 宿 営 す る

陸 上 自 衛 隊 の 車 列 も , 爆 発 か ら 十 数 分

後 に こ の 地 点 を 通 過 し た 。

オ ラ ン ダ 軍 な ど が 爆 発 現 場 を 封 鎖 , T

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N T 火 薬 約 3 0 キ ロ が 見 つ か り , う ち

7 キ ロ 分 が 爆 発 し て い な か っ た と い う 。

35 ) 7 月 5 日 午 前 8 時 す ぎ , サ マ ー ワ 中

心 か ら 北 約 4 キ ロ の 地 点 で , 道 路 に 仕

掛 け ら れ た 爆 弾 が 爆 発 , 近 く に い た イ

ラ ク 人 1 人 が 負 傷 し た 。 米 軍 輸 送 車 両

が 通 過 し た 直 後 に 爆 発 し た と い い , 武

装 勢 力 に よ る 反 米 テ ロ の 可 能 性 が あ る 。

自 衛 隊 宿 営 地 か ら は 約 1 0 キ ロ の 地 点 。

    36 ) 7 月 1 7 日 , サ マ ー ワ を 県 都 と す

る ム サ ン ナ 県 の ア ハ メ ド ・ マ ル ゾ ク 県

評 議 会 議 長 は , 日 本 外 務 省 サ マ ー ワ 事

務 所 側 と の 会 談 で , 陸 自 を 含 む 日 本 側

の 支 援 が , 県 側 の 当 初 の 期 待 を は る か

に 下 回 っ て い る と 述 べ , 失 望 感 を 表 明

し た 。

37 ) 7 月 2 0 日 , フ ィ リ ピ ン 人 を 人 質 に

し て い た 武 装 組 織 「 ハ リ ド ・ ビ ン ・ ア

ル ワ リ ド 旅 団 」 が , イ ン タ ー ネ ッ ト の

イ ス ラ ム 系 ア ラ ビ ア 語 サ イ ト で 「 日 本

政 府 も フ ィ リ ピ ン と 同 様 の 措 置 を と

れ 」 と 自 衛 隊 の 撤 退 を 求 め た 。

    38 ) 8 月 3 日 , サ マ ー ワ で 活 動 す る フ

ラ ン ス の 非 政 府 組 織 ( N G O ) 「 A C

T E D 」 の イ ラ ク 人 メ ン バ ー 4 人 が 殺

害 さ れ た 。 こ の N G O は 昨 年 5 月 か ら

サ マ ー ワ で 活 動 。 多 国 籍 軍 が 資 金 援 助

す る 疾 病 予 防 の プ ロ ジ ェ ク ト な ど を 進

め て い た 。

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39 ) 8 月 4 日 , サ マ ー ワ の 郊 外 で , 駐 留

オ ラ ン ダ 軍 の 宿 営 地 キ ャ ン プ ・ ス ミ ッ

テ ィ に 向 け ら れ た ロ ケ ッ ト 弾 と 発 射 装

置 が 発 見 さ れ た 。 ロ ケ ッ ト 弾 は 発 射 準

備 が 完 了 し て い た 。 宿 営 地 を 標 的 に し

た 攻 撃 直 前 だ っ た と み ら れ , 情 報 は オ

ラ ン ダ 軍 当 局 に も 伝 え ら れ た 。

40 ) 8 月 7 日 未 明 , サ マ ー ワ 近 郊 の ヒ ド

ル で , オ ラ ン ダ 軍 宿 営 地 か ら 約 2 キ ロ

の 幹 線 道 路 沿 い な ど に 迫 撃 弾 が 着 弾 し

た 。 宿 営 地 を 狙 っ た と み ら れ , 負 傷 者

は な か っ た 。 ム サ ン ナ 県 警 察 当 局 者 に

よ る と , オ ラ ン ダ 軍 宿 営 地 の 北 側 に あ

る 畑 の 中 か ら 発 射 さ れ た 。

41 ) 8 月 1 0 日 , サ マ ー ワ の 陸 上 自 衛 隊

宿 営 地 付 近 で 爆 発 音 が し た 事 件 で , 陸

自 隊 員 が 現 場 捜 索 し た 結 果 , 迫 撃 砲 弾

の 着 弾 点 が 3 カ 所 見 つ か っ た 。 ま た ,

尾 翼 の 部 分 や 破 片 も 多 数 発 見 さ れ た 。

同 宿 営 地 を 狙 っ た も の と さ れ る 砲 撃 事

件 は 4 月 の 2 回 に 続 い て 3 度 目 だ が ,

「 今 回 の 着 弾 点 が 最 も 近 い 」 ( 政 府

筋 ) と い う 。 防 衛 庁 に よ る と , 今 回 の

発 射 地 点 は ほ ぼ 特 定 さ れ , 着 弾 点 3 カ

所 は さ ほ ど 離 れ て い な い と い う 。

    42 ) 8 月 1 4 日 , オ ラ ン ダ 国 防 省 に よ

る と , サ マ ー ワ 近 郊 で , オ ラ ン ダ 軍 の

車 両 が 銃 撃 を 受 け , 兵 士 1 人 が 死 亡 ,

5 人 が 負 傷 し た 。

43 ) 8 月 2 1 日 午 後 1 1 時 3 5 分 こ ろ ,

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サ マ ー ワ の 陸 上 自 衛 隊 宿 営 地 付 近 に ,

砲 弾 1 発 が 着 弾 し た 。 着 弾 地 点 は 宿 営

地 か ら 約 2 キ ロ 南 方 と み ら れ る 。 宿 営

地 の 北 方 か ら 発 射 さ れ た 砲 弾 が , 宿 営

地 付 近 の 上 空 を 通 過 し , 南 方 に 着 弾 す

る の を 派 遣 部 隊 の 隊 員 が 目 撃 し た と い

う 。 陸 自 宿 営 地 を 狙 っ た 攻 撃 と 見 ら れ

る 。

サ マ ー ワ で は , 陸 自 宿 営 地 を 狙 っ た と

み ら れ る 迫 撃 砲 に よ る 攻 撃 が 3 件 発 生

し て い る が , 今 回 は こ れ ま で で 最 も 近

い 場 所 か ら 発 射 さ れ た と み ら れ る と い

う 。

44 ) 8 月 2 3 日 午 前 1 時 4 0 分 こ ろ , サ

マ ー ワ の 陸 上 自 衛 隊 宿 営 地 付 近 で , 数

回 の 爆 発 音 が し た 。 宿 営 地 か ら 北 西 に

数 百 メ ー ト ル 離 れ た 場 所 に 砲 弾 が 着 弾

し た と み ら れ る 。

45 ) 8 月 2 4 日 午 前 3 時 1 0 分 こ ろ , サ

マ ー ワ の 陸 上 自 衛 隊 宿 営 地 付 近 で 爆 発

音 が し た 。 宿 営 地 の 北 数 キ ロ の 地 点 に

砲 弾 1 発 が 着 弾 し た と み ら れ る 。

46 ) 8 月 2 5 日 , 3 日 続 け て 陸 上 自 衛 隊

を 狙 っ た と み ら れ る ロ ケ ッ ト 弾 な ど に

よ る 攻 撃 が あ っ た こ と に つ い て , ム サ

ン ナ 州 知 事 や 州 警 察 本 部 長 ら が , 謝 罪

の た め に 陸 自 宿 営 地 を 訪 れ た 。

47 ) 9 月 7 日 夜 , 在 イ ラ ク 日 本 大 使 館

の 公 用 車 を 運 ん で い た ト ラ ッ ク が , バ

ク ダ ッ ド 南 2 0 キ ロ ( 橋 田 , 小 川 両 ジ

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ャ ー ナ リ ス ト が 襲 わ れ た 付 近 ) で 武 装

集 団 に 襲 撃 さ れ 公 用 車 を 強 奪 さ れ た 。

外 務 省 サ マ ー ワ 事 務 所 で 使 用 し て い た

防 弾 車 の ト ヨ タ 四 輪 駆 動 車 を 整 備 修 理

の た め バ ク ダ ッ ド へ 搬 送 中 で あ っ た 。

48 ) 9 月 1 1 日 午 後 9 時 こ ろ , サ マ ー ワ

で , 中 心 部 の 商 店 街 を パ ト ロ ー ル 中 の

オ ラ ン ダ 軍 の 車 両 に 何 者 か が 手 り ゅ う

弾 を 投 げ 付 け 逃 走 し た 。 手 り ゅ う 弾 は

車 内 に 投 げ 込 ま れ た が 爆 発 せ ず , 同 軍

兵 士 に 被 害 は な か っ た 。

1 1 ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 に お け る イ ラ ク 人

虐 待

( 1 )   米 軍 は , ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 に お け る

イ ラ ク 人 虐 待 に つ い て , 今 年 1 月 の 内 部

告 発 に 基 づ い て 内 部 調 査 を 行 い , 3 月 に

兵 士 6 名 を 起 訴 し て い た 。 こ れ を 4 月 2

8 日 , 米 C B S が 同 報 告 中 の 証 拠 写 真 を

放 映 し , 同 じ 写 真 が 3 0 日 , 英 B B C や

ア ル ジ ャ ジ ー ラ , ア ル ア ラ ビ ア で も 流 れ ,

ア ラ ブ 連 盟 は 同 日 直 ち に 「 人 権 侵 害 の 野

蛮 な 行 為 」 と 避 難 し た 。

ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 は , バ グ ダ ッ ド 中 心

部 か ら 西 約 3 0 キ ロ に 1 9 6 0 年 代 後 半

に 建 設 さ れ た 。 旧 フ セ イ ン 時 代 に は , 情

報 期 間 の 管 理 下 で 拷 問 や 処 刑 が 行 な わ れ

国 民 に お そ れ ら れ た も の で , 米 軍 ・ 占 領

軍 の 占 領 後 は , 犯 罪 者 や 武 装 勢 力 メ ン バ

ー な ど 約 8 千 人 が イ ラ ク 各 地 の 施 設 に 収

容 さ れ て い た 。 そ の 大 多 数 が ア ブ グ レ イ

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ブ 刑 務 所 に い る と 言 わ れ て い る 。

以 下 に は , 米 軍 の 調 査 報 告 書 に 関 す る 米

ニ ュ ー ヨ ー カ ー ( 電 子 版 ) の 記 事 の 要 旨

を 掲 載 す る ( 5 月 3 日 付 朝 日 新 聞 朝 刊 に

掲 載 ) 。

ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 は , 犯 罪 者 ら 数 千 人

を 収 容 。 昨 年 6 月 か ら , 陸 軍 の カ ー ピ ン

ス キ ー 予 備 役 准 将 が 責 任 者 に な っ た が ,

刑 務 所 の 管 理 経 験 は な か っ た 。 今 年 1 月 ,

准 将 は 停 職 処 分 と な り , 駐 留 米 軍 の サ ン

チ ェ ス 司 令 官 の 了 解 を 得 て 調 査 が 行 わ れ

た 。 2 月 下 旬 に 5 3 頁 の 内 部 調 査 報 告 書

を ま と め , 刑 務 所 シ ス テ ム の 欠 陥 は 重 大

で あ る と 結 論 し た 。 昨 年 1 0 月 か ら 1 2

月 の 間 に 「 サ デ ィ ス ト 的 で 露 骨 , 不 当 な

犯 罪 的 虐 待 」 が 集 中 。 こ う し た 組 織 的 な

虐 待 は , 第 3 7 2 憲 兵 中 隊 の 兵 士 と 米 情

報 機 関 関 係 者 ら が 行 っ て い た と い う 。

報 告 書 に は , リ ン を 含 む 液 体 を か け た ,

裸 に し て 冷 水 を 浴 び せ た , ほ う き の 柄 や

い す で 殴 打 し た , レ イ プ す る ぞ と 脅 し た ,

ほ う き の 柄 な ど で 性 的 暴 行 を 加 え た , 軍

用 犬 を 使 っ て 脅 し , 実 際 に 噛 み つ い た 例

も あ っ た な ど と 虐 待 内 容 が 記 さ れ て い る 。

虐 待 に は , 目 撃 証 言 や 写 真 な ど の 証 拠 が

あ り , 一 部 の 写 真 は 米 B B C テ レ ビ で 放

送 さ れ た 。 虐 待 に 関 与 し た と さ れ る 兵 士

6 人 は 訴 追 さ れ , も う 1 人 は 妊 娠 の た め ,

米 国 内 に 移 動 と な っ た 。 写 真 に は , 頭 か

ら 袋 を か ぶ せ ら れ た 裸 の イ ラ ク 人 の 性 器

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を 女 性 兵 士 が 指 さ し て い る も の や , 裸 の

イ ラ ク 人 7 人 で つ く っ た 人 間 ピ ラ ミ ッ ド

の そ ば で 女 性 兵 士 が 笑 っ て い る も の な ど

が あ っ た 。

同 中 隊 に よ る 虐 待 は , 日 常 的 に 行 わ れ ,

自 慰 行 為 を さ せ て い る 場 面 を 目 撃 し た と

い う 証 言 も あ る 。 同 中 隊 は , 0 3 年 春 に

イ ラ ク 入 り し , 交 通 な ど を 担 当 。 1 0 月

か ら 同 刑 務 所 を 受 け 持 っ た 。 だ が , 兵 士

ら は , こ の 任 務 の 教 育 訓 練 を 受 け な か っ

た と い う 。 あ る 兵 士 は , 家 族 に あ て た 電

子 メ ー ル の 中 で , 「 ト イ レ や 水 道 , 窓 も

な い 独 房 に 裸 で 押 し 込 め , 3 日 間 放 置 す

る よ う 軍 の 情 報 担 当 者 に 指 示 さ れ た 」

「 い い 結 果 や 情 報 が 得 ら れ 『 よ く や っ

た 』 と 称 賛 さ れ た 」 と 記 述 。 米 中 央 情 報

局 ( C I A ) な ど 情 報 機 関 関 係 者 ら の 関

与 に 触 れ て い る 。 C I A 関 係 者 ら の 尋 問

が も と で 死 亡 し た イ ラ ク 人 も い る と い う 。

別 の 兵 士 は , 調 査 に 対 し , 情 報 担 当 者 ら

が 「 楽 に さ せ て や れ 」 「 い や な 夜 に し て

や れ 」 「 ち ゃ ん と も て な し て や れ 」 と 虐

待 す る よ う 示 唆 し た と 話 し , 「 彼 ら が 虐

待 を 認 め て い る と 思 っ た 」 と い う 。 報 告

書 で は , 情 報 担 当 者 ら が 「 尋 問 に ふ さ わ

し い よ う に ( イ ラ ク 人 の ) 体 力 や 精 神 状

態 を 整 え る よ う 積 極 的 に 要 請 し た 」 と 断

定 。 情 報 部 隊 の 大 佐 や 中 佐 ら 4 人 に つ い

て , 「 虐 待 に 直 接 的 , 間 接 的 な 責 任 が あ

る 疑 い 」 を 指 摘 し て い る 。

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同 刑 務 所 に は 問 題 が 数 多 く あ り , 改 善 命

令 が 出 さ れ て い た 。 だ が , カ ー ピ ン ス キ

ー 准 将 の も と で は , 十 分 に 実 行 さ れ な か

っ た 。

( 2 )   上 記 ア ブ グ レ イ ブ 刑 務 所 で の 虐 待 問 題

に つ い て は , 赤 十 字 国 際 委 員 会 ( I C R

C ) が 昨 年 1 0 月 か ら , 戦 争 捕 虜 の 待 遇

を 定 め た ジ ュ ネ ー ブ 条 約 に 違 反 す る と し

て 虐 待 を 中 止 す る よ う 要 求 し て き た が ,

何 の 変 化 も な か っ た と い う 。

こ の 問 題 は , 米 軍 の 戦 争 遂 行 , 占 領 政 策

の 合 法 性 に 関 わ る 重 大 な 問 題 で あ る と 同

時 に , 「 人 道 支 援 」 を 標 榜 す る 日 本 が ,

こ の よ う な 非 人 道 的 行 為 を 行 な っ て い る

米 軍 ・ 占 領 軍 に 対 し て 如 何 な る 態 度 を 取

る べ き か が 問 わ れ る 。

1 2   小 括

      こ れ ま で 見 て き た と お り , イ ラ ク で は

全 土 が い ま だ に 戦 闘 状 態 で あ り , 自 衛 隊

の 駐 屯 し て い る サ マ ー ワ も ま た 例 外 で は

な い 。 自 衛 隊 の 活 動 は 現 地 の 市 民 に 受 け

入 れ ら れ て い な い ば か り か 自 衛 隊 を 狙 っ

た 攻 撃 も 繰 り 返 し 行 な わ れ て い る 。 日 本

人 を 狙 っ た 人 質 事 件 と そ の 声 明 文 に 端 的

に 示 さ れ て い る と お り , 日 本 の 自 衛 隊 は ,

イ ラ ク に お い て は 米 軍 と 一 体 と な っ て イ

ラ ク を 占 領 す る 軍 隊 で あ る と み な さ れ て

い る 。 各 国 が 撤 退 な い し 撤 退 準 備 を 進 め

る 中 , 日 本 政 府 は 米 軍 と 同 様 , 占 領 政 策

を 省 み る こ と を 知 ら な い 。

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      イ ラ ク に は , も は や ど こ に も 「 非 戦 闘

地 域 」 ( イ ラ ク 特 措 法 2 条 3 項 ) は 存 し

な い の で あ る 。

第 2 章   イ ラ ク 戦 争 , イ ラ ク 占 領 の 国 際 法 上

の 違 法 性

第 1   米 英 軍 の イ ラ ク 攻 撃

1   イ ラ ク 攻 撃 の 実 行

      2 0 0 3 年 3 月 2 0 日 未 明 , 米 英 軍 は

イ ラ ク に 対 す る 爆 撃 を 開 始 し , イ ラ ク 戦 争

が 始 ま っ た 。 米 国 の ブ ッ シ ュ 大 統 領 は , 米

軍 の 最 高 司 令 官 と し て , 米 国 陸 海 空 軍 , 海

兵 隊 に 対 し , イ ラ ク に 対 す る 武 力 攻 撃 を 指

示 し , 主 要 都 市 へ の 空 爆 , 攻 略 , イ ラ ク 軍

と の 戦 闘 な ど に よ る 戦 争 を 遂 行 さ せ た 。

      英 国 の ブ レ ア 首 相 も , 1 9 日 , 緊 急 閣

議 で イ ラ ク に 武 力 行 使 を 加 え る こ と を 決 定

し , 3 月 2 0 日 , 英 国 軍 に 対 し て 米 軍 と 共

に イ ラ ク に 対 す る 武 力 攻 撃 を す る よ う に 指

示 し , ブ ッ シ ュ 大 統 領 と 同 様 に 戦 争 を 遂 行

さ せ た 。

      3 月 3 0 日 , 米 英 軍 は バ ス ラ , バ グ ダ

ッ ド を 連 日 空 爆 し た 。 米 英 軍 の 空 爆 に よ り ,

罪 も な い イ ラ ク の 人 々 1 万 人 が 犠 牲 に な っ

た 。 市 民 生 活 は 破 壊 さ れ , 幸 せ な 家 庭 は 崩

壊 し , イ ラ ク の 首 都 バ グ ダ ッ ト で は , 親 を

失 っ た 子 供 た ち , 子 供 を 失 っ た 親 た ち の 嘆

き が あ ち こ ち で 聞 か れ た 。

      4 月 7 日 に , 米 英 軍 の 地 上 軍 は バ グ ダ

ッ ド に 突 入 し , 同 月 9 日 , 米 英 軍 は つ い に

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バ グ ダ ッ ド を 制 圧 し , フ セ イ ン 政 権 を 崩 壊

さ せ た 。 そ れ か ら , 今 日 に 至 る ま で , 途 中

で 多 国 籍 軍 と の 呼 称 へ の 変 化 が あ っ た が ,

米 英 軍 に よ る 事 実 上 の イ ラ ク 占 領 が 続 い て

い る 。

2   戦 争 違 法 化 の 歴 史 と 武 力 攻 撃 が 認 め ら れ

る 国 際 法 上 の 例 外

      中 世 ・ 近 世 ヨ ー ロ ッ パ で は , 戦 争 は 正

当 な 理 由 が あ る 場 合 に 限 り 許 さ れ る と い

う 正 戦 論 が 採 ら れ て き た 。 し か し , 三 十

年 戦 争 終 了 後 , 近 代 主 権 国 家 が 成 立 し キ

リ ス ト 教 会 の 権 威 が 衰 退 す る と , 戦 争 の

正 ・ 不 正 の 判 断 が 不 可 能 と な り 無 差 別 戦

争 観 が 採 ら れ る よ う に な っ た 。

      そ こ で は , 戦 争 原 因 の 違 法 性 が 問 題

と さ れ ず 戦 争 が 合 法 化 さ れ た 反 面 , 戦 争 手

段 に つ い て の 法 的 規 制 = 戦 争 法 は 交 戦 国 双

方 に 平 等 に 適 用 さ れ な け れ ば な れ な い と さ

れ て 発 展 し た 。

      し か し , 総 力 戦 だ っ た 第 1 次 世 界 大 戦

は か つ て な い 惨 禍 を 生 じ , 世 界 の 人 々 は ,

そ れ ま で の 戦 争 手 段 に つ い て の 規 制 だ け

で は 足 り な い , 戦 争 自 体 を 違 法 と し て 規

制 し な け れ ば , と 考 え る よ う に な っ た 。

      そ こ で , 1 9 1 9 年 の 国 際 連 盟 規 約 は

全 て の 国 際 紛 争 を 裁 判 や 理 事 会 の 審 査 に

付 す る こ と を 連 盟 国 に 義 務 づ け , 1 9 2

8 年 の パ リ 不 戦 条 約 第 1 条 は , 「 国 家 間

の 紛 争 の 解 決 の た め に 戦 争 に 訴 え る こ と

を 非 と し , か つ 彼 ら 相 互 間 の 関 係 に お い

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て , 国 家 政 策 の 手 段 と し て の 戦 争 を 放 棄

す る 」 と 宣 言 し た 。 そ れ が 第 2 次 世 界 大

戦 の 痛 苦 の 体 験 を 経 て 国 連 憲 章 に 結 実 し

た の で あ る 。

1 9 4 5 年 , 国 際 連 合 憲 章 は , 以 下 の よ

う に 規 定 し , 武 力 行 使 を 違 法 と し て 禁 じ

た 。

前 文 : 我 ら 連 合 国 の 人 民 は , 我 ら の

一 生 の う ち に 2 度 ま で 言 語 に 絶 す

る 悲 哀 を 人 類 に 与 え た 戦 争 の 惨 害

か ら 将 来 の 世 代 を 救 い , ・ ・ ・ ・

国 際 の 平 和 お よ び 安 全 を 維 持 す る

た め に 我 ら の 力 を 合 わ せ ・ ・ ・ る

こ と を 決 意 し ・ ・ ・ 我 ら の 努 力 を

結 集 す る こ と を 決 定 し た 。

第 1 条 【 目 的 】

1   国 際 の 平 和 お よ び 安 全 を 維 持

す る こ と 。 そ の た め に , 平 和 に

対 す る 脅 威 の 防 止 お よ び 除 去 と

侵 略 行 為 そ の 他 の 平 和 の 破 壊 の

鎮 圧 と の た め 有 効 な 集 団 的 措 置

を と る こ と 並 び に 平 和 を 破 壊 す

る に 至 る 虞 の あ る 国 際 的 の 紛 争

ま た は 事 態 の 調 整 ま た は 解 決 を

平 和 的 手 段 に よ っ て か つ 正 義 お

よ び 国 際 法 の 原 則 に 従 っ て 実 現

す る こ と 。

第 2 条 【 原 則 】

              4   全 て の 加 盟 国 は , そ の

国 際 関 係 に お い て , 武 力 に よ る

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威 嚇 ま た は 武 力 の 行 使 を , い か

な る 国 の 領 土 保 全 ま た は 政 治 的

独 立 に 対 す る も の も , ま た 国 際

連 合 の 目 的 と 両 立 し な い 他 の い

か な る 方 法 に よ る も の も 慎 ま な

け れ ば な ら な い 。

上 記 国 際 連 合 憲 章 は , 国 際 連 合 の 目 的 の

ひ と つ に 平 和 に 対 す る 脅 威 の 防 止 と 除 去

を あ げ て い る が , そ の 手 段 は , 平 和 的 で

あ る こ と と 正 義 お よ び 国 際 法 の 原 則 に 従

う こ と と し て い る ( 第 1 条 第 1 項 , 第 2

条 第 3 項 な ど )。 ま た , 加 盟 国 の 主 権 の 平

等 を 行 動 原 則 と し ( 第 2 条 第 1 項 ) , い か

な る 国 の 政 治 的 独 立 に 対 す る 武 力 に よ る

威 嚇 ま た は 武 力 の 行 使 を 禁 止 し て い る

( 第 2 条 第 4 項 )。

例 外 的 に , 軍 事 的 措 置 が 認 め ら れ る の は ,

安 全 保 障 理 事 会 が 平 和 と 安 全 の 維 持 ま た

は 回 復 の た め に , 非 軍 事 的 措 置 だ け で は

不 十 分 と 認 め た 場 合 ( 第 4 2 条 ) と 国 連 加

盟 国 に 対 す る 武 力 攻 撃 が 発 生 し た 場 合 の

個 別 的 ま た は 集 団 的 な 自 衛 権 の 行 使 ( 第

5 1 条 ) だ け で あ る 。

3   イ ラ ク 攻 撃 は 国 連 憲 章 上 認 め ら れ る か

( 1 )   イ ラ ク 攻 撃 の 理 由 と そ の 変 遷

      そ れ で は , 米 英 軍 に よ る イ ラ ク 攻 撃 は

上 記 国 連 憲 章 に 照 ら し て 認 め ら れ る も の

で あ っ た の だ ろ う か 。

ア   対 テ ロ 戦 争 と い う 理 由

        ま ず , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は , イ ラ ク 戦

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争 を 正 当 化 す る 理 由 と し て 「 対 テ ロ 戦

争 」 を 掲 げ た 。 米 国 は , 2 0 0 1 年 の

9 ・ 1 1 事 件 後 , 「 対 テ ロ 戦 争 」 を 行 う

と 称 し て ア フ ガ ニ ス タ ン を 攻 撃 し た が ,

そ の 対 象 は ア フ ガ ニ ス タ ン に と ど ま ら な

か っ た 。 「 こ の 戦 争 は , 世 界 に 手 を 広 げ

る 全 て の テ ロ 集 団 が 発 見 さ れ , 阻 止 さ れ ,

そ し て う ち 負 か さ れ る ま で 続 く で あ ろ

う 」 と 公 言 し て い た ( 2 0 0 1 年 9 月 2

0 日 両 院 合 同 会 議 で の ブ ッ シ ュ 大 統 領 の

演 説 ) 。

  イ   大 量 破 壊 兵 器 保 持 と い う 理 由

        そ の あ と , 2 0 0 2 年 1 月 2 9 日 の

一 般 教 書 演 説 で , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は イ ラ

ク な ど を 「 大 量 破 壊 兵 器 を 保 持 し , 世 界

に 脅 威 を 与 え る 『 悪 の 枢 軸 』 で あ る 」 と

非 難 し て , 対 テ ロ 戦 争 の 対 象 と し て イ ラ

ク を 名 指 し す る と と も に , 大 量 破 壊 兵 器

保 持 を 攻 撃 の 理 由 に 加 え た 。

        2 0 0 2 年 9 月 , 米 国 は 国 家 安 全 保

障 戦 略 ( い わ ゆ る 「 ブ ッ シ ュ ・ ド ク ト リ

ン 」 ) を 発 表 し 「 米 国 は , グ ロ ー バ ル 規

模 の テ ロ リ ス ト と 戦 っ て い る 」 と 表 明 し ,

「 な ら ず 者 国 家 お よ び テ ロ リ ス ト が ,

我 々 を 攻 撃 す る 場 合 , 通 常 の 手 段 で そ れ

を 試 み は し な い 」 「 こ れ ら の 敵 は テ ロ 行

為 を 手 段 と し て お り , ま た 大 量 破 壊 兵 器

を 使 用 す る こ と も あ り 得 る 」 と 述 べ て ,

対 テ ロ 戦 争 と 大 量 破 壊 兵 器 問 題 を 結 合 さ

せ る よ う に な っ た 。

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        9 月 1 2 日 の 国 連 総 会 で は 「 サ ダ

ム ・ フ セ イ ン は 大 量 破 壊 兵 器 を 開 発 し 続

け て い る 。 サ ダ ム ・ フ セ イ ン の 存 在 は ,

国 連 の 権 威 ・ 世 界 の 平 和 に 対 す る 脅 威 で

あ る 」 と 演 説 し た 。

        そ し て , 米 英 は 9 月 か ら イ ラ ク 攻 撃

を 容 認 す る 安 保 理 決 議 の 採 択 を 求 め た が ,

世 界 的 な 反 戦 の 世 論 が 盛 り 上 が る 中 , な

か な か 決 議 は 採 択 さ れ な か っ た 。 結 局 1

1 月 8 日 , 米 国 の 求 め た も の と は 異 な り ,

イ ラ ク の 大 量 破 壊 兵 器 の 開 発 と 保 有 の 禁

止 義 務 違 反 を 認 定 す る と と も に イ ラ ク に

対 し て 大 量 破 壊 兵 器 に 関 す る 査 察 ・ 情 報

公 開 に つ い て 全 面 的 な 協 力 を 求 め , 更 な

る 査 察 を 続 け る べ き と の 安 保 理 決 議 1 4

4 1 が 全 会 一 致 で 採 択 さ れ た 。

      し か し , こ の 決 議 1 4 4 1 に は , 米

国 の 要 求 も 反 映 さ れ た 。 決 議 は , イ ラ ク

に 対 し 「 即 時 , 無 妨 害 , 無 条 件 , 無 制

限 」 の 査 察 を 要 求 す る も の で , フ セ イ ン

に と っ て 実 に 厳 し い も の だ っ た 。 こ の よ

う な 条 件 を 付 け る こ と 自 体 , イ ラ ク 政 府

を 挑 発 し , 戦 争 の 口 実 を 作 ろ う と す る た

め だ っ た の で は な い か と 疑 わ れ る 。

◆   安 保 理 決 議 1 4 4 1

            国 連 憲 章 第 7 章 に 基 づ き , 2 0

0 2 年 1 1 月 8 日 に 全 会 一 致 で 採 択 さ

れ た 決 議 で あ る 。 そ の 内 容 は ,

          ①   イ ラ ク は , 大 量 破 壊 兵 器 の

廃 棄 等 を 定 め た 決 議 6 8 7 を 含 む

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関 連 安 保 理 決 議 に 違 反 し て い る 。

②   イ ラ ク 政 府 は イ ラ ク 問 題 に 関 す

る 国 連 監 視 検 証 査 察 委 員 会 (UNMOVIC)

と 国 際 原 子 力 機 関 (IAEA) お よ び 安 保

理 に 対 し て , 3 0 日 以 内 に , 化 学 ,

生 物 お よ び 核 兵 器 , 弾 道 ミ サ イ ル

お よ び 他 の 運 搬 手 段 の 開 発 計 画 に

関 す る す べ て の 面 に お け る 完 全 な

申 告 を 提 出 す る こ と 。

          ③   イ ラ ク は , UNMOVIC と IAEA に

即 時 , 無 条 件 , 無 制 限 の 査 察 を さ

せ な け れ ば い け な い 。

          な ど イ ラ ク 政 府 に と っ て 屈 辱 的

な も の だ っ た が , 一 方 で ,

    ④ こ の 問 題 に 引 き 続 き 取 り 組 む

こ と を 決 定 す る 。

          と 規 定 し て い る 。 そ れ ゆ え , 安 保

理 決 議 1 4 4 1 は , 即 時 の 武 力 行 使 を

認 め た も の で は な い と 解 さ れ て い る 。

        2 0 0 2 年 1 1 月 1 3 日 , フ セ イ ン

は 「 ひ ど い 内 容 で あ る が 」 と 断 っ た 上 で

国 連 決 議 受 託 を 受 け 入 れ た 。 イ ラ ク は む

し ろ 平 和 的 解 決 を 望 ん だ と い え る 。 こ れ

に 対 し , 米 国 は , イ ラ ク が 決 議 1 4 4 1

に 違 反 し て い る か ら 攻 撃 を 加 え る と 言 う

よ う に な っ た 。

        2 0 0 2 年 1 2 月 7 日 , イ ラ ク が 大

量 破 壊 兵 器 に つ い て 大 量 の 「 申 告 書 」 を

提 出 し て い る に も 関 わ ら ず , パ ウ エ ル 国

務 長 官 は , イ ラ ク が 「 重 大 な 違 反 」 を 継

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続 し て い る と 主 張 し た 。 ブ ッ シ ュ 大 統 領

は , 2 0 0 4 年 1 月 2 8 日 の 一 般 教 書 演

説 で , 「 イ ラ ク の 独 裁 者 は 武 装 を 解 除 し

て い な い 。 そ れ ど こ ろ か 我 々 を 欺 い て い

る ! 」 と 非 難 し , イ ラ ク が 核 兵 器 開 発 の

た め に ウ ラ ン を 入 手 し よ う と し た , と 述

べ た 。

  ウ   イ ラ ク 国 民 の 解 放 と い う 理 由

        上 記 演 説 の 中 で , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は

フ セ イ ン 政 権 が イ ラ ク 国 民 に 対 し ど れ だ

け 残 虐 な 行 為 を し て い る か に つ い て も 述

べ , そ の 打 倒 の た め に は 武 力 行 使 も 辞 さ

な い と い う 姿 勢 を 明 ら か に し た 。 こ の 段

階 に い た っ て , イ ラ ク 国 民 の 解 放 が 戦 争

の 大 義 名 分 に 加 え ら れ た の で あ る 。

  エ   攻 撃 理 由 の 重 点 が 変 わ っ た こ と

        1 月 3 1 日 の 米 英 首 脳 会 談 で も , ブ

ッ シ ュ 大 統 領 は , イ ラ ク は 武 装 解 除 を し

て い な い と 決 め つ け , 米 英 単 独 で も イ ラ

ク を 攻 撃 で き る と 宣 言 し た 。

        2 月 5 日 , パ ウ エ ル 国 務 長 官 は , 安

保 理 外 相 級 会 合 で , 衛 星 写 真 , 録 音 テ ー

プ 等 , イ ラ ク が 大 量 破 壊 兵 器 を 保 持 し て

い る 決 議 違 反 の 「 証 拠 」 を 開 示 し た 。 そ

し て , そ の 翌 日 , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は , こ

の 「 証 拠 」 に 基 づ き , イ ラ ク 攻 撃 を 容 認

す る 新 た な 国 連 決 議 を 要 求 し た 。 こ の

「 証 拠 」 と 称 す る も の は , 後 に 述 べ る と

お り , 実 に い い 加 減 な も の で あ っ た 。

        そ れ に も 拘 わ ら ず , ブ ッ シ ュ 大 統 領

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は , 2 0 0 3 年 3 月 1 7 日 , テ レ ビ 演 説

で 「 イ ラ ク が 引 き 続 き 危 険 な 兵 器 を 保 持

し 隠 し て い る の は 疑 い が な い 」 と , イ ラ

ク の 安 保 理 決 議 1 4 4 1 , 6 7 8 , 6 8

7 違 反 を 指 摘 し て , フ セ イ ン 大 統 領 と 息

子 た ち に 4 8 時 間 以 内 の 亡 命 を 要 求 し ,

こ れ を 拒 否 す れ ば 攻 撃 を 開 始 す る と の 最

後 通 牒 を 発 し た 。

        こ の 演 説 で ブ ッ シ ュ 大 統 領 は , イ ラ

ク の 脅 威 は 明 白 だ と し , 米 国 は 自 国 の 安

全 保 障 の た め に 武 力 を 行 使 す る 主 権 を 有

す る , と 述 べ , 自 衛 権 を 主 張 し た 。

        さ ら に , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は 「 イ ラ ク

の 人 々 よ 。 暴 君 は 間 も な く い な く な る 。

あ な た 達 の 解 放 の 日 は 近 い 。 」 と 述 べ ,

イ ラ ク 解 放 を 重 要 な 理 由 と し た の で あ っ

た 。

        こ の よ う に , イ ラ ク 攻 撃 の 理 由 は ,

対 テ ロ 戦 争 か ら イ ラ ク の 大 量 破 壊 兵 器 保

持 に , そ し て イ ラ ク の 民 主 化 が 付 け 加 わ

り , 攻 撃 の 理 由 の 重 点 が 少 し ず つ 変 わ っ

て き た 。

        な ぜ , イ ラ ク 攻 撃 理 由 の 重 点 は 少 し

ず つ 変 わ っ て い く の だ ろ う か 。 そ れ は ,

イ ラ ク 攻 撃 が 最 初 か ら 既 定 の 路 線 だ か ら

で あ る 。 し た が っ て , イ ラ ク に 大 量 破 壊

兵 器 が な い こ と が 分 か れ ば , 攻 撃 「 理

由 」 の 重 点 を 変 え て で も , イ ラ ク 攻 撃 を

実 行 し よ う と し た の で あ る 。

        以 下 で は , イ ラ ク 攻 撃 の 理 由 付 け が

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正 し い も の で あ る か に つ い て , 個 別 に 検

討 し て い く 。

( 2 )   イ ラ ク に 査 察 協 力 を 義 務 づ け た 決 議 1

4 4 1 は 理 由 と な る か

  ア   決 議 1 4 4 1 は 武 力 行 使 を 認 め て い な

米 英 は 決 議 1 4 4 1 違 反 を イ ラ ク 攻 撃

の 理 由 と し て い る が , こ れ は イ ラ ク 攻 撃

の 理 由 に な る だ ろ う か 。  

こ の 決 議 は そ の 最 後 に 「 こ の 問 題 に 引

き 続 き 取 り 組 む こ と を 決 定 す る 」 と な っ

て お り , 武 力 行 使 の 決 定 は 行 わ れ て い な

い 。

        だ か ら こ そ , 米 英 は 武 力 行 使 を 容 認

す る 新 た な 決 議 を 求 め た の で あ る 。

        そ も そ も , イ ラ ク の 大 量 破 壊 兵 器 保

有 や 査 察 に 応 じ な い こ と 自 体 は , 武 力 攻

撃 を 認 め る 理 由 と は な ら な い 。 前 述 の 国

連 憲 章 の 武 力 行 使 禁 止 原 則 か ら す れ ば ,

具 体 的 に イ ラ ク が 他 国 を 攻 撃 し な け れ ば

イ ラ ク を 武 力 で 制 裁 す る こ と は お よ そ 認

め ら れ な い の で あ る 。

  イ   大 量 破 壊 兵 器 は 有 っ た か

        し か も , イ ラ ク が 大 量 破 壊 兵 器 を 有

し て い た と す る 証 拠 は な く , イ ラ ク の 決

議 違 反 自 体 が 存 在 し な か っ た 。

( ア )   査 察 団 の 調 査 報 告

2 0 0 2 年 1 1 月 2 7 日 , イ ラ ク は ,

決 議 1 4 4 1 に も と づ く 査 察 を 受 け 入

れ た 。 国 際 原 子 力 機 関 (IAEA) の ボ ッ ト 査

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察 官 や イ ラ ク 問 題 に 関 す る 国 連 監 視 検

証 査 察 委 員 会 ( UNMOVIC ) の ペ リ コ ス 査

察 官 は , 査 察 に 対 す る イ ラ ク の 協 力 を

評 価 し , 「 イ ラ ク は こ ち ら が 見 た い と

い う 物 を す べ て 見 せ た 」 と そ の 成 果 を

強 調 し た 。 そ し て , 2 0 0 3 年 1 月 9

日 , 査 察 団 の ブ リ ク ス 委 員 長 に よ っ て

査 察 の 中 間 報 告 が 行 わ れ た 。 そ の 報 告

は , イ ラ ク の 提 出 し た 申 告 書 は 世 界 の

疑 念 に 答 え る も の で は な く , な お 時 間

が 必 要 で あ る と す る も の で あ っ た が ,

一 方 で , 大 量 破 壊 兵 器 の 決 定 的 証 拠 は

な い と い う も の で あ っ た 。 そ し て , 1

月 2 7 日 に 行 わ れ た 最 終 報 告 で も , 大

量 破 壊 兵 器 の 決 定 的 な 証 拠 は 見 つ か ら

な か っ た と い う 結 論 に 変 わ り は な か っ

た 。

          し か も , イ ラ ク の ア ジ ス 副 大 統 領

は , 査 察 が 延 長 さ れ れ ば 積 極 的 に 協 力

す る と 言 明 し て い た 。

( イ )   嘘 の 情 報 , 裏 付 け の な い 証 拠

          イ ラ ク が 核 兵 器 開 発 の た め に ウ ラ

ン を 入 手 し よ う と し た , と ブ ッ シ ュ 大

統 領 は 非 難 し た が , ブ ッ シ ュ 大 統 領 政

権 は 当 時 既 に こ の 情 報 の 誤 り を 知 っ て

い た こ と が 元 米 国 大 使 に よ り 明 ら か に

さ れ て い る 。

          2 月 5 日 に パ ウ エ ル 国 務 長 官 が 安

保 理 に 提 出 し た 「 証 拠 」 も 内 容 の 分 か

ら な い 通 信 傍 受 テ ー プ や 裏 付 け の な い

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偵 察 衛 星 の 写 真 に す ぎ な か っ た ( 「 ニ

ュ ー ズ ウ ィ ー ク 」 6 月 9 日 号 ) 。

( ウ )   米 国 高 官 に よ る 暴 露

          2 0 0 3 年 7 月 9 日 に 行 わ れ た 上

院 軍 事 委 員 会 公 聴 会 で ラ ム ズ フ ェ ル ド

長 官 は 「 開 戦 前 に は , イ ラ ク の 大 量 破

壊 兵 器 に つ い て 新 た な 証 拠 は 持 っ て い

な か っ た 」 と 証 言 し た 。 2 0 0 4 年 1

月 2 8 日 , 米 国 上 院 軍 事 委 員 会 で , 米

国 政 府 調 査 団 ケ イ 前 団 長 は , 大 量 破 壊

兵 器 は 無 か っ た と 明 確 に 証 言 し て い る 。

2 月 5 日 , テ ネ ッ ト CIA長 官 は , 核 兵 器

に つ い て 「 サ ダ ム の 計 画 の 進 行 を 過 大

評 価 し て い た か も し れ な い 」 と 述 べ ,

ま た 化 学 兵 器 に つ い て も 「 発 見 に い た

っ て 」 お ら ず , 生 物 兵 器 に 至 っ て は 生

産 を 開 始 し た こ と す ら 「 確 認 し て い な

い 」 と 述 べ て い る 。 ブ ッ シ ュ 大 統 領 自

身 , 同 じ 日 に サ ウ ス カ ロ ラ イ ナ 州 で 行

っ た 演 説 に お い て , 「 イ ラ ク に あ る と

思 っ て い た 備 蓄 兵 器 は な お 発 見 に 至 っ

て い な い 」 と 述 べ て い る 。

  ( エ )   あ い つ ぐ 大 量 破 壊 兵 器 な し の 報 告

2 0 0 4 年 7 月 9 日 に は , ア メ リ カ 上

院 情 報 特 別 委 員 会 が 報 告 書 を 発 表 し ,

「 大 量 破 壊 兵 器 が あ る と い う C I A の

報 告 は , 合 理 性 に 欠 け , 入 手 し た 情 報

に 照 ら し て も 到 底 証 明 で き な い 」 「 大

部 分 は 過 大 評 価 さ れ て い た 」 と 述 べ た 。

          ま た , 7 月 1 4 日 に は , イ ギ リ ス

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調 査 委 員 会 で も , 「 情 報 に 深 刻 な 欠 陥

が あ っ た 」 と 結 論 付 け て い る 。

          さ ら に , こ れ に 先 立 つ 1 月 1 1 日

に は , オ ニ ー ル 前 ア メ リ カ 財 務 長 官 は ,

「 在 任 中 , 一 度 も 大 量 破 壊 兵 器 の 証 拠

を 見 た こ と が な い 」 と 言 い , 同 月 2 8

日 は , デ ビ ッ ト ・ ケ イ 前 ア メ リ カ 調 査

団 長 は , ア メ リ カ 議 会 で 「 大 量 破 壊 兵

器 は な か っ た 」 と 述 べ て い る 。

          イ ラ ク に は 大 量 破 壊 兵 器 は な か っ

た の で あ る 。

( 3 )   湾 岸 戦 争 時 の 安 保 理 決 議 は 理 由 と な る

      米 英 政 府 は , た と え 決 議 1 4 4 1 が 武

力 行 使 を 容 認 し て い な く て も , 湾 岸 戦 争

に 際 し て の 武 力 行 使 を 容 認 し た 安 保 理 決

議 6 7 8 ( 1 9 9 0 年 ) , イ ラ ク の 武 装 解

除 を 湾 岸 戦 争 停 戦 の 条 件 と し た 安 保 理 決

議 6 8 7 ( 1 9 9 1 年 ) に よ っ て イ ラ ク 攻

撃 は 正 当 化 さ れ る と 主 張 し て い る ( 2 0

0 4 年 3 月 1 4 日 の ホ ワ イ ト ハ ウ ス 報 道

官 ア リ ・ フ ラ イ シ ャ ー に よ る 米 国 政 府 の

公 式 な 法 的 立 場 を 明 ら か に し た 声 明 )

ア   決 議 6 7 8 は 理 由 に な る か

        た し か に , 決 議 6 7 8 は 「 そ の 地 域

に お け る 国 の 平 和 と 安 全 を 回 復 す る た め

に , 必 要 な あ ら ゆ る 手 段 を と る 権 限 を 与

え る 」 と 規 定 さ れ て は い る 。 し か し , そ

も そ も 決 議 6 7 8 は イ ラ ク の ク ウ ェ ー ト

侵 攻 の も と で 「 ク ウ ェ ー ト 政 府 に 協 力 し

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て い る 加 盟 国 に 対 し て 」 権 限 を 与 え た も

の な の で , ク ウ ェ ー ト の 国 境 が 回 復 し た

後 は , 前 提 と な る 状 況 が 異 な っ て い る 。

        ◆   安 保 理 決 議 6 7 8

        1 9 9 1 年 3 月 2 日 に 採 択 さ れ

た , イ ラ ク の ク ウ ェ ー ト か ら の 撤 退 と ,

地 域 の 平 和 と 安 全 の 回 復 の た め , イ ラ

ク に 対 す る 武 力 行 使 を 認 め た 決 議 。

  イ   決 議 6 8 7 は 理 由 に な る か

        ま た , 決 議 6 8 7 に よ り , イ ラ ク は

核 兵 器 , 生 物 兵 器 , 化 学 兵 器 な ど の 大 量

破 壊 兵 器 の 開 発 と 保 有 を 禁 止 さ れ た が ,

そ の 違 反 が あ れ ば 1 0 年 以 上 た っ た 今 日

で も 停 戦 が 解 除 さ れ 湾 岸 戦 争 が 再 開 さ れ

る と 考 え る の は 無 理 が あ る 。 こ の 決 議 に

よ れ ば , 違 反 が あ っ て も 安 保 理 が 追 加 措

置 を 講 じ ら れ る だ け で あ る 。

        そ れ に , 2 0 0 3 年 に イ ラ ク は 武 器

査 察 に 応 じ , 大 量 破 壊 兵 器 は 発 見 さ れ な

か っ た の で あ る か ら , こ れ ら の 決 議 を イ

ラ ク 攻 撃 の 根 拠 と す る こ と は で き な い の

で あ る 。

        ◆   国 連 安 保 理 決 議 6 8 7            1 9 9 1 年 4 月 3 日 に 採 択 さ れ

た 停 戦 決 議 で , そ の 大 ま か な 内 容 は 下

記 の と お り で あ る 。

①   イ ラ ク は , あ ら ゆ る 「 核 ・ 生 物 兵

器 , 生 物 ・ 化 学 剤 の す べ て の 在 庫 や ,

あ ら ゆ る 研 究 ・ 開 発 ・ 支 援 ・ 製 造 施

設 を , 国 際 的 監 視 の 下 で 破 壊 , 除 去 ,

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ま た は 無 力 化 す る こ と を 無 条 件 に 受

け 入 れ る こ と 。

          ②   イ ラ ク は , 核 兵 器 ま た は 核 兵

器 に 使 用 で き る 材 料 や 研 究 ・ 開 発 ・

製 造 施 設 を 入 手 ま た は 開 発 し な い こ

と に , 無 条 件 で 同 意 す る こ と

          ③   イ ラ ク は , い か な る 大 量 破 壊

兵 器 を も 使 用 , 開 発 , 建 造 , ま た は

入 手 し な い こ と 。

          ④   イ ラ ク は , 大 量 破 壊 兵 器 計 画

の 全 容 を 明 ら か に す る こ と 。

          ⑤   イ ラ ク は , テ ロ を 実 行 ま た は

支 援 し た り , テ ロ 組 織 が イ ラ ク 国 内

で 活 動 す る こ と を 許 し て は な ら な い

こ と 。

( 4 )   対 テ ロ 戦 争 は イ ラ ク 攻 撃 の 目 的 と な る

  ア   「 対 テ ロ 戦 争 」 と い う 正 当 化

        米 国 は , イ ラ ク 攻 撃 に つ い て , 9 ・

1 1 事 件 の よ う な テ ロ 攻 撃 か ら 米 国 と 世

界 の 安 全 を 守 る た め の 対 テ ロ 戦 争 だ と も

主 張 し て い る 。

  イ   「 対 テ ロ 戦 争 」 は 口 実 に 過 ぎ な い

        し か し , そ の 前 提 と な る イ ラ ク と ア

ル カ イ ダ と が 結 び つ い て い る と の 主 張 は

当 初 か ら 根 拠 が 薄 弱 だ っ た 。 米 国 の 高 官

だ っ た オ ニ ー ル は , 9 ・ 1 1 事 件 以 前 か

ら 米 国 は イ ラ ク 攻 撃 を 計 画 し て お り , テ

ロ と の 闘 い と い う の が 口 実 に 過 ぎ な か っ

た こ と を 暴 露 し て い る 。

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        ま た , 9 ・ 1 1 独 立 調 査 委 員 会 の 結

論 も 「 ア ル カ イ ダ と イ ラ ク と の 間 に 何 ら

の 協 力 関 係 も な い 」 と い う も の で あ っ た 。

  ウ   イ ラ ク 攻 撃 は ブ ッ シ ュ 大 統 領 政 権 の 既

定 路 線 だ っ た

        1 9 9 6 年 6 月 新 保 守 主 義 の 頭 脳 集

団 「 P N A C ( 米 国 新 世 紀 プ ロ ジ ェ ク

ト ) 」 が 共 和 党 内 に 設 立 さ れ , 現 在 の ラ

ム ズ フ ェ ル ド 国 防 長 官 , チ ェ イ ニ ー 副 大

統 領 , ウ ォ ル フ ォ ウ ィ ッ ツ 国 防 次 官 ら が

設 立 趣 意 書 賛 同 人 に な っ た 。 そ し て , 既

に 1 9 9 7 年 1 月 , P N A C は ク リ ン ト

ン 政 権 に イ ラ ク 攻 撃 と フ セ イ ン 政 権 打 倒

を 勧 告 し て い た の だ っ た 。

        2 0 0 1 年 1 月 2 0 日 , ブ ッ シ ュ 大

統 領 が 大 統 領 に 就 任 し , そ の 政 権 内 に P

N A C の メ ン バ ー が 多 く は い る と , 直 ち

に イ ラ ク 軍 事 攻 撃 の 検 討 が 開 始 さ れ た の

で す 。 米 国 の イ ラ ク 攻 撃 は , 9 ・ 1 1 事

件 の 有 無 に か か わ ら ず 既 定 路 線 だ っ た と

い え る 。

  エ   9 ・ 1 1 事 件 へ の 根 本 的 な 疑 問

        と こ ろ で , ブ ッ シ ュ 大 統 領 の 対 テ ロ

戦 争 の き っ か け と な っ た 9 ・ 1 1 事 件 に

つ い て , そ も そ も 「 テ ロ 」 で あ っ た の か

に つ い て 根 本 的 な 疑 問 が 呈 さ れ て い る 。

        ま ず , ペ ン タ ゴ ン ( 国 防 総 省 ) に 衝

突 し た と さ れ る ア メ リ カ ン 航 空 7 7 便 に

つ い て で あ る が , 衝 突 し た と さ れ る 旅 客

機 の 残 骸 が ど こ に も 見 つ か っ て い な い 。

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ま た , ペ ン タ ゴ ン の 壁 を 貫 通 し た 時 に 残

さ れ た 穴 は わ ず か 4 . 8 メ ー ト ル に 過 ぎ

ず , 巨 大 な 旅 客 機 が 衝 突 し た に し て は 穴

が 小 さ す ぎ る の で あ る 。

        ま た , 崩 壊 し た 世 界 貿 易 セ ン タ ー ビ

ル に 旅 客 機 が 衝 突 す る 直 前 に , 同 ビ ル の

北 棟 と 南 棟 か ら 爆 発 が 原 因 と 見 ら れ る 閃

光 が 発 し て い る 。 ま た , 同 セ ン タ ー の 第

7 ビ ル は , 旅 客 機 が 衝 突 し て も い な い の

に な ぜ か 崩 壊 し て い る の で あ る 。

        さ ら に , 世 界 貿 易 セ ン タ ー ビ ル に 激

突 し た 旅 客 機 ( ユ ナ イ テ ッ ド 航 空 1 7 5

便 ) の 機 体 に つ い て , F O X テ レ ビ の レ

ポ ー タ ー が 「 飛 行 機 に は 窓 が あ り ま せ ん

で し た 。 貨 物 機 か 何 か で し ょ う か 。 空 港

で は 見 た こ と が な い 機 体 で し た 」 と コ メ

ン ト し て い る 。

        以 上 の よ う に , 一 般 的 に 信 じ ら れ て

い る 「 テ ロ 」 事 件 と は , 矛 盾 す る 映 像 や

証 言 が 現 れ て き て お り , 9 ・ 1 1 事 件 が ,

イ ラ ク へ の 対 テ ロ 戦 争 に 利 用 さ れ た 可 能

性 が あ る 。

  オ   戦 争 に よ り テ ロ を な く す こ と は 不 可 能

        そ も そ も , 戦 争 で テ ロ は な く す こ と

は で き な い 。

        テ ロ と は 何 か と い う 定 義 も 定 ま っ て

い な い が , 中 東 で は イ ラ ク 戦 争 に よ っ て

ま す ま す 反 米 感 情 が 高 ま り , イ ラ ク で も

市 民 を 巻 き 込 む 「 自 爆 テ ロ 」 と 呼 ば れ る

行 為 が 頻 発 し , 6 月 1 9 日 に も , サ ウ ジ

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ア ラ ビ ア で ア ル カ イ ダ が 米 国 人 を 拉 致 し

て 公 開 処 刑 す る な ど の 事 件 が 起 き て い る 。

        な お , イ ラ ク 民 主 化 が イ ラ ク 攻 撃 を

正 当 化 す る 理 由 と な る か に つ い て は , 占

領 に 関 す る 部 分 で 詳 し く 述 べ る こ と と す

る 。

( 5 )   先 制 攻 撃 は 「 自 衛 」 と し て 認 め ら れ る

  ア   先 制 攻 撃 に よ る 自 衛 と い う 米 国 の 論 理

        し か も , 米 国 は 自 国 が テ ロ リ ス ト に

攻 撃 さ れ る 前 に 攻 撃 す る と 言 っ て い る 。

「 国 防 の た め に は 予 防 行 動 と , 時 に よ っ

て は 先 制 攻 撃 が 必 要 で あ る 。 あ ら ゆ る 種

類 の 脅 威 か ら , あ ら ゆ る 場 所 に お い て ,

あ ら ゆ る 時 に 米 国 を 防 衛 す る の は 不 可 能

で あ る 。 敵 に 対 す る 戦 争 こ そ が 唯 一 の 防

衛 手 段 で あ る 。 よ き 攻 撃 こ そ が 最 良 の 防

衛 な の で あ る 。 」 と い う 論 理 で あ る

( 「 国 防 報 告 」 2 0 0 2 年 8 月 1 5 日 )。

        2 0 0 2 年 9 月 の 国 家 安 全 保 障 戦 略

で は 「 脅 威 が 我 々 の 国 境 に 到 達 す る 前 に

特 定 し 破 壊 す る 。 米 国 は , 国 際 社 会 の 支

持 を 得 る た め に 努 力 を 継 続 す る 一 方 , 必

要 で あ れ ば , 単 独 行 動 を た め ら わ ず , 先

制 攻 撃 を 行 う 形 で 自 衛 権 を 行 使 す る 」 と

明 言 さ れ た 。

  イ   先 制 攻 撃 は 「 自 衛 」 で は な い

        し か し , そ も そ も 先 制 攻 撃 は 「 自

衛 」 と は 認 め ら れ な い 。

        も し , 先 制 的 自 衛 を 認 め れ ば , 結 局

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本 件 の よ う に 嘘 の 理 由 で 恣 意 的 に 他 国 を

攻 撃 す る こ と を 許 す こ と に な っ て し ま い ,

世 界 の 平 和 の 秩 序 が 崩 壊 し て し ま う か ら

で あ る 。 実 際 , イ ラ ク 攻 撃 後 早 く も イ ン

ド の 高 官 が パ キ ス タ ン に 対 す る 軍 事 行 動

も 正 当 だ と 述 べ , 米 国 は シ リ ア , イ ラ ン

に も 脅 し を か け て い る 。

        前 述 の と お り , 国 連 憲 章 は 武 力 行 使

を 原 則 と し て 禁 止 し て い る 。 例 外 的 に 武

力 行 使 が 認 め ら れ る の は , 安 保 理 決 議 に

基 づ く 強 制 措 置 の 場 合 ( 4 2 条 ) と , 自

衛 権 行 使 の 場 合 ( 5 1 条 ) に 限 ら れ る 。

        国 連 憲 章 5 1 条 は , 武 力 行 使 禁 止 原

則 の 例 外 な の で , 限 定 し て 解 釈 さ れ ね ば

な ら ず , 先 制 的 自 衛 権 は 認 め ら れ な い 。

        イ ラ ク は 未 だ 米 国 を 攻 撃 し て い な い

の で あ る か ら , イ ラ ク 攻 撃 は 「 自 衛 権 行

使 」 と は 認 め ら れ ず , 国 連 憲 章 に 違 反 す

る 。

        「 先 制 的 自 衛 権 」 を 認 め た 過 去 の 例

も あ る が , そ れ も 「 差 し 迫 っ た 危 険 が あ

る 」 場 合 に 認 め ら れ る と す る も の で あ る 。

ブ ッ シ ュ 大 統 領 の ド ク ト リ ン で は 「 我 々

は , 差 し 迫 っ た 危 険 の 概 念 を 改 め な け れ

ば な ら な い 」 と 述 べ て い る の で , ブ ッ シ

ュ 大 統 領 自 身 , 米 国 の イ ラ ク 攻 撃 は 過 去

の 例 に 当 て は ま ら な い 「 新 し い 自 衛 権 」

だ と 認 め て い る と 言 え る 。

        ア ナ ン 国 連 事 務 総 長 は , 2 0 0 3 年

9 月 2 3 日 , 国 連 総 会 で , こ の 米 国 の

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「 新 し い 自 衛 権 」 に つ い て 演 説 し 「 こ の

論 理 は , 世 界 の 平 和 と 安 定 を , 完 全 と は

言 え な い ま で も 5 8 年 間 保 っ て き た 国 連

憲 章 の 原 則 に 対 す る 根 本 的 な 挑 戦 だ 。 こ

れ が 先 例 と な り , 大 義 名 分 の 有 無 に 係 わ

ら ず , 単 独 行 動 主 義 と 法 を 逸 脱 し た 武 力

行 使 の 拡 散 を 招 く こ と を 懸 念 す る 。 」 と

厳 し く 批 判 し て い る 。

4   国 際 社 会 は イ ラ ク 攻 撃 を 認 め て い な い

      国 際 社 会 は 米 英 軍 の イ ラ ク へ の 武 力 行

使 を 認 め て い た だ ろ う か 。

      米 国 ・ 英 国 は は っ き り と 武 力 行 使 を 容

認 す る 決 議 を 求 め た が , 2 月 1 5 日 に は

反 戦 運 動 の 波 が 世 界 を 覆 い , 日 本 を 含 む

世 界 4 0 0 を 超 え る 都 市 で 1 0 0 0 万 人

規 模 の 反 戦 行 動 が 起 き , フ ラ ン ス ・ 中

国 ・ ロ シ ア の 3 常 任 理 事 国 は 査 察 継 続 を

求 め た 。 そ の 結 果 , 新 た な 安 保 理 決 議 は

採 択 さ れ な か っ た の で あ る 。

      そ れ に も か か わ ら ず , 米 国 は 飛 行 禁 止

区 域 で の 空 爆 を 繰 り 返 し た た め , 3 月 1

0 日 , 国 連 の ア ナ ン 事 務 総 長 が 「 安 保 理

の 承 認 の な い 攻 撃 は 国 際 法 へ の 侮 辱 で あ

り , 国 連 憲 章 に 合 致 し な い 」 と い う 警 告

ま で な し た 。

      3 月 2 6 日 , 安 保 理 公 開 協 議 の 場 で ,

非 同 盟 諸 国 や ア ラ ブ 連 名 諸 国 の 代 表 は イ

ラ ク 攻 撃 を 国 際 法 違 反 と 非 難 し , フ ラ ン

ス の ド ヴ ィ ル パ ン 外 相 の イ ラ ク 攻 撃 に 反

対 す る 演 説 は 満 場 の 拍 手 を 受 け た 。

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      米 国 は 国 連 の 承 認 を と り つ け よ う と ,

途 上 国 の 理 事 国 に 対 し , 援 助 の 約 束 や 援

助 打 ち 切 り の 脅 し を か け た が , 国 際 社 会

の 意 思 は 変 わ ら な か っ た 。

国 連 の ア ナ ン 事 務 総 長 も , 9 月 1 5 日 ,

B B C 放 送 の 記 者 の イ ン タ ビ ュ ー に 答 え

た 際 , 「 イ ギ リ ス と ア メ リ カ が 去 年 3 月 ,

国 連 安 保 理 の 許 可 を 得 ず , イ ラ ク 戦 争 を

起 こ し た 。 こ れ は 国 連 憲 章 の 原 則 に 違 反

す る 行 為 で , 違 法 だ っ た 」 と 指 摘 し て い

る 。 ま た , 同 月 2 1 日 午 前 , 第 5 9 回 国

連 総 会 の 一 般 演 説 の 中 で も , イ ラ ク に お

け る 米 兵 に よ る 虐 待 問 題 に 触 れ ,「 あ ま り

に 多 く の 場 所 で , 憎 し み や 腐 敗 , 暴 力 と

排 斥 の 行 為 が 何 の と が め を 受 け る こ と も

な く 横 行 し て い る 。 弱 者 は 効 果 的 に 救 済

を 求 め る 手 段 も な く , 一 方 で 強 者 は 権 力

を 維 持 し 財 産 を 増 や す た め に 法 を ね じ 曲

げ て い る 。 時 に は , テ ロ リ ズ ム に 対 す る

必 要 な 戦 い さ え , 市 民 権 を 不 要 に 侵 し て

い る 」 と 述 べ , 間 接 的 に せ よ , イ ラ ク 戦

争 へ と 突 き 進 み , 対 テ ロ 戦 争 遂 行 の た め

に 国 内 の 市 民 権 を 脅 か し て い る ブ ッ シ ュ

政 権 を 批 判 し て い る 。

      こ の よ う に , 国 際 社 会 は , 一 貫 し て 米

英 の イ ラ ク 攻 撃 に 反 対 し て き た の で あ っ

て , 米 英 の イ ラ ク 攻 撃 は 国 際 社 会 の 世 論

に 背 を 向 け る も の だ っ た 。

5   米 国 の イ ラ ク 攻 撃 の 真 の 目 的 は な に か

    米 国 は さ ま ざ ま な 理 由 を つ け て イ ラ ク

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を 攻 撃 し た 。 し か し , 米 国 の 「 本 音 」

( つ ま り , イ ラ ク 攻 撃 の 真 の 目 的 ) は 米

国 の 主 張 と は 別 の と こ ろ に あ っ た 。

( 1 )   石 油 の 利 権

      米 国 は 現 在 も 世 界 の 石 油 消 費 量 の 2

5 % 以 上 を 占 め る 最 大 の 石 油 消 費 国 で あ

り , 米 国 に と っ て 石 油 は エ ネ ル ギ ー 源 で

あ る と と も に 重 要 な 工 業 原 料 で あ る 。

      5 0 年 代 か ら , 中 東 の 油 井 の 管 理 に

「 同 盟 国 , 欧 州 と 日 本 に 関 す る 拒 否 権 行

使 力 」 と い う 役 割 を 割 り 当 て 「 こ れ を 手

放 さ な い こ と が 極 め て 重 要 」 だ と 言 わ れ

て き た ( ジ ョ ー ジ ・ ケ ナ ン ) 。 1 9 9 2

年 , 米 国 国 務 省 は , 中 東 の 石 油 を 「 と て

つ も な い 戦 略 的 資 源 , 世 界 史 上 最 大 の 物

理 的 報 酬 」 と 位 置 づ け た 。

      今 回 の 戦 争 で も , 米 英 軍 が ま ず 攻 略 し

た の は 南 部 の 油 田 地 帯 に 近 い バ ス ラ だ っ

た 。 北 部 の 油 田 が あ る キ ル ク ー ク に 対 し

て 同 盟 軍 の ク ル ド 人 が 侵 攻 し よ う と す る

と , 米 国 は 誤 爆 と 称 し て こ れ を 攻 撃 し た 。

      ブ ッ シ ュ 大 統 領 政 権 は 石 油 産 業 と の 関

連 が 深 く , 2 0 0 1 年 の 大 統 領 就 任 は ,

石 油 コ ン ツ ェ ル ン の 寄 付 に 依 存 し た 選 挙

戦 を 展 開 し た 結 果 で あ っ た 。 ま た , 石 油

や エ ネ ル ギ ー 産 業 に 関 わ る 要 人 が ブ ッ シ

ュ 大 統 領 政 権 の 中 枢 部 に 名 前 を 連 ね て い

る 。

      ブ ッ シ ュ 大 統 領 政 権 は 「 買 い や す い 石

油 」 と い う 経 済 戦 略 を 打 ち 出 し , 石 油 確

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保 を 重 視 し て い る 。 ま た , 米 国 に 化 石 エ

ネ ル ギ ー の 消 費 削 減 を 義 務 づ け た 京 都 議

定 書 か ら 脱 退 を し た 。

      こ の よ う な ブ ッ シ ュ 大 統 領 政 権 の 性 質

か ら し て も , 石 油 利 権 の 確 保 ・ 保 持 が イ

ラ ク 戦 争 の 真 の 目 的 の 1 つ だ っ た と 言 え

る 。

( 2 )   パ レ ス チ ナ と イ ス ラ エ ル  

米 国 は , イ ス ラ エ ル を 米 国 の 中 東 戦 略 の

足 場 と 位 置 づ け , イ ス ラ エ ル 建 国 以 来 ,

経 済 ・ 軍 事 両 面 の 支 援 を 行 っ て き た 。 そ

こ で , イ ス ラ エ ル と 紛 争 関 係 に あ る パ レ

ス チ ナ を 米 国 の 影 響 下 に 組 み 入 れ , イ ス

ラ エ ル を 支 援 す る こ と も , イ ラ ク 攻 撃 の

目 的 と 考 え ら れ る 。

      実 際 , ブ ッ シ ュ 大 統 領 自 身 , こ う 語 っ

て い る 。 「 イ ラ ク で の 民 主 化 の 成 功 は ,

中 東 和 平 の 新 た な 段 階 の 始 ま り で あ り ,

パ レ ス チ ナ の 真 の 民 主 化 も 進 め る だ ろ

う 。 ・ ・ ・ パ レ ス チ ナ は , テ ロ 行 為 を 永

遠 に 放 棄 す る 平 和 な 地 に な る に 違 い な い 。

一 方 , イ ス ラ エ ル の 新 政 権 は , テ ロ の 脅

威 が 改 善 さ れ て 安 定 化 し , 実 現 可 能 な パ

レ ス チ ナ 国 家 樹 立 を 支 援 し , で き る 限 り

早 期 に パ レ ス チ ナ の 最 終 合 意 へ と 働 き か

け る だ ろ う 。 ・ ・ ・ イ ラ ク 現 政 権 の 終 結

は , こ う し た 機 会 を 創 り 出 す こ と だ ろ

う 。 」 ( 2 0 0 3 年 3 月 2 6 日 の 演 説 )。

    こ れ は , イ ラ ク 民 衆 を 無 視 し た あ ま り に

身 勝 手 な 論 理 で あ る 。

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( 3 )   米 国 の 軍 事 世 界 戦 略

      1 9 9 1 年 の ソ 連 崩 壊 後 , 米 国 は 国 際

社 会 に お い て 「 一 極 」 「 一 超 大 国 」 と い

う 位 置 を 占 め る こ と と な っ た 。 し か し ,

そ の 一 方 で レ ー ガ ン 政 権 時 代 の 大 軍 拡 路

線 に よ っ て 米 国 自 身 の 経 済 も 破 綻 し 未 曾

有 の 経 済 危 機 に 直 面 し て い た 。 こ の 中 で

ク リ ン ト ン 政 権 は 経 済 再 建 を 最 優 先 課 題

と し , 軍 縮 と 軍 事 力 の 効 率 化 を 進 め つ つ ,

金 融 資 本 , ハ イ テ ク 資 本 を 重 視 し , 米 国

系 企 業 の 海 外 進 出 拡 大 , 国 際 金 融 機 関 の

安 定 化 - グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン を 進 め て

き た 。

      こ れ に 対 し , 軍 産 複 合 体 は 生 き 残 り を

図 る べ く 買 収 ・ 合 併 を 推 し 進 め , 急 速 な

寡 占 化 ・ 独 占 化 が 進 ん だ 。  

第 2   イ ラ ク 占 領

1   C P A , C J T F 7 を 通 じ た 米 英 軍 に よ

る イ ラ ク 占 領

( 1 )   米 英 軍 に よ る イ ラ ク 占 領

      2 0 0 3 年 4 月 9 日 , 米 軍 が バ グ ダ ッ

ド を 制 圧 し , 米 英 軍 は イ ラ ク の 大 部 分 を

そ の 支 配 下 に お き , 同 月 1 4 日 , 米 海 兵

隊 が テ ィ ク リ ー ト を 制 圧 し た こ と に よ っ

て , 米 英 軍 は イ ラ ク 全 土 を 制 圧 し た 。

      同 年 5 月 1 日 , ブ ッ シ ュ 大 統 領 は , 主

要 な 戦 闘 の 終 結 を 宣 言 し た 。

      こ こ に 「 占 領 」 と は , 「 事 実 上 敵 軍 の

権 力 内 に 帰 し た る と き 」 を い う が ( 陸 戦

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の 法 規 慣 例 に 関 す る 条 約 4 2 条 ) , 同 年

4 月 1 4 日 以 降 , ( た と え フ セ イ ン 元 大

統 領 の 身 柄 は 拘 束 さ れ て い な く て も ) 上

記 の よ う に , イ ラ ク 全 土 は 米 英 軍 等 が 中

心 の 権 力 内 に 帰 し て い る の で , 同 日 以 降 ,

イ ラ ク 全 土 は 米 英 軍 等 に よ る 「 占 領 」 が

開 始 さ れ た こ と に な る 。

( 2 )   米 英 軍 に よ る イ ラ ク 統 治

      そ し て , 戦 闘 終 結 宣 言 後 も イ ラ ク を 違

法 に 侵 略 し た 米 英 軍 が イ ラ ク を 占 領 し て

居 座 り 続 け て い る 。

      す な わ ち , 戦 闘 終 結 宣 言 後 , O R H A

( US Office of Reconstruction And Humanitarian Assistance )

が イ ラ ク を 統 治 し , そ の 後 C P A が O R

H A か ら 引 き 継 い で イ ラ ク を 統 治 し た 。

C P A と は , 正 式 名 称 を Coalition Provision

Authority ( 連 合 国 暫 定 施 政 当 局 ) と い い ,

代 表 は 米 国 の ブ レ マ ー 文 民 行 政 官 で あ る 。

代 表 が 米 国 人 で あ る こ と か ら も わ か る よ

う に , C P A は 米 英 が 主 導 権 を 握 っ て い

る 組 織 で あ る 。

      同 時 に 行 政 組 織 と し て の C P A と 併 存

す る 形 で , C J T F 7 ( Coalition   Joint Task

Force7 , 第 7 連 合 統 合 任 務 軍 ) が 米 英 軍 と

し て イ ラ ク 全 土 で 活 動 を 続 け た 。 連 合 軍

に は 米 英 を 中 心 に , イ タ リ ア , ス ペ イ ン ,

ブ ル ガ リ ア , デ ン マ ー ク , タ イ , ポ ー ラ

ン ド , リ ト ア ニ ア 等 が 参 加 し た 。

      こ の よ う に , C P A や C J T F 7 は ,

イ ラ ク 人 に よ る 自 治 の た め の 組 織 で は な

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い 。 国 連 も , C P A や C J T F 7 に は 全

く 関 与 し て い な い 。

      2 0 0 3 年 5 月 2 2 日 , 安 保 理 決 議 1

4 8 3 が 採 択 さ れ た が , こ の 決 議 は 米 英

軍 と し て の 米 国 と 英 国 の 特 別 の 権 限 を 認

識 し , 「 当 局 」 ( 米 国 と 英 国 の 統 合 さ れ

た 司 令 部 ) は 国 際 的 に 承 認 さ れ た 代 表 政

府 が イ ラ ク 国 民 に よ り 樹 立 さ れ , 「 当

局 」 の 責 務 を 引 き 継 ぐ ま で の 間 , 権 限 を

行 使 す る と し た 。

      こ れ を 受 け て , 連 合 暫 定 施 政 当 局 ( C

P A ) が 同 決 議 に 言 及 し て い る 「 当 局 」

を 構 成 す る 機 関 と し て 活 動 し た 。

      そ の 後 , 2 0 0 3 年 7 月 1 3 日 , C P

A の 主 導 に よ っ て イ ラ ク 統 治 評 議 会 ( I

G C ) が 設 立 さ れ た が , 統 治 評 議 会 は C

P A の 下 部 組 織 に あ た り , C P A の 指

示 ・ 指 導 に 基 づ い て 立 法 と 行 政 を 行 う も

の に す ぎ な い 。

      よ っ て , 実 質 的 に は , 米 英 軍 等 が 統 治

し て い る 状 態 で あ っ た 。

      し た が っ て , 統 治 評 議 会 が 設 立 さ れ た

後 も , 「 占 領 」 が 継 続 し て い る こ と に は

変 わ り は な い の で あ る 。

      ◆   安 保 理 決 議 1 4 8 3 の 概 要

    米 英 の 「 当 局 」 と し て の 位 置 づ け ,

② 国 連 事 務 総 長 特 別 代 表 の 任 命 と そ の

任 務 , ③ イ ラ ク に 対 す る い わ ゆ る 経 済

制 裁 の 解 除 , ④ イ ラ ク 開 発 基 金 の 設 置 ,

⑤ オ イ ル ・ フ ォ ー ・ フ ー ド ( OFF ) 計 画

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の 6 か 月 延 長 , の 他 , 「 イ ラ ク の 主 権

及 び 領 土 保 全 の 再 確 認 」 や 「 大 量 破 壊

兵 器 の 武 装 解 除 及 び 武 装 解 除 の 確 認 」,

「 文 化 財 の 保 護 」 な ど に つ い て 言 及 さ

れ て い る 。

2   米 英 軍 の 義 務 の 不 履 行

( 1 )   米 英 軍 の 責 任 ・ 義 務

上 記 1 で 述 べ た よ う に , 米 英 軍 に よ る

「 占 領 」 が 開 始 さ れ , 文 民 の 保 護 に つ い

て 規 定 す る ジ ュ ネ ー ブ 第 4 条 約 ・ 同 第 1

追 加 議 定 書 な ど が 適 用 さ れ る 。

      こ れ は , 上 記 安 保 理 決 議 1 4 8 3 で も

米 英 「 両 国 が 統 一 司 令 部 を 持 つ 占 領 国 群

と し て , 関 連 国 際 法 に 規 定 さ れ る 権 限 ,

責 任 お よ び 義 務 を 持 つ 」 と 明 確 に 規 定 さ

れ て い る 。

( 2 )   米 英 軍 が 占 領 に 伴 う 責 任 ・ 義 務 を 果 た

し て い な い こ と

      占 領 国 は , 食 糧 及 び 医 薬 品 の 供 給 を 確

保 し , ま た 必 要 に 応 じ て そ れ ら を 提 供 し

な け れ ば な ら な い ( ジ ュ ネ ー ブ 第 4 条 約

5 5 条 , 第 1 議 定 書 6 9 条 2 項 ) 。

      2 0 0 3 年 5 月 , 国 連 は , 「 イ ラ ク 戦

争 以 前 は 約 4 % の 人 々 が 重 大 な 栄 養 失 調

の 状 態 に あ っ た が , 現 在 は 3 分 の 2 の

人 々 が 食 料 援 助 に 完 全 に 依 存 し , そ の う

ち の 4 0 % の 人 々 が 栄 養 失 調 の 状 態 に あ

る 」 と 発 表 し た 。

      こ の よ う に , 米 英 軍 は 食 糧 確 保 の 責 任

を 果 た し て い な い 。

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      医 薬 品 の 供 給 も 極 め て 不 十 分 で , 多 く

の 命 が 失 わ れ て い る 。

      ま た , 占 領 国 は , 伝 染 病 お よ び 疾 病 の

流 行 に 対 処 す る の に 必 要 な 予 防 的 手 段 を

採 る に あ た っ て , 利 用 で き る 手 段 を 最 大

限 に 活 用 し な け れ ば な ら な い ( 同 条 約 5

6 条 )

      こ の 点 に つ い て は , 2 0 0 3 年 5 月 南

部 バ ス ラ に お い て コ レ ラ が 発 生 す る な ど ,

民 間 人 数 百 万 人 が 病 気 に さ ら さ れ た 。 こ

の 被 害 は , 米 英 軍 の 直 接 的 な 攻 撃 に よ る

も の で は な い 。 し か し , 米 英 軍 は , 発 電

施 設 を 破 壊 し , そ れ に よ っ て 民 生 用 の 水

道 供 給 が 途 絶 す る な ど , イ ラ ク の 人 々 の

生 存 の 条 件 を 脅 か し た に も か か わ ら ず ,

そ の 復 旧 に 尽 力 し て い な い 。

      イ ラ ク の 人 々 の 多 く は , 水 道 施 設 が 破

壊 さ れ た た め , 汚 染 さ れ た 水 を 摂 取 し ,

そ の 結 果 命 を 落 と す 人 も 少 な く な い 。 米

英 軍 の イ ラ ク 攻 撃 , そ し て そ れ に 続 く 違

法 ・ 不 当 な 占 領 行 政 さ え な け れ ば , 多 く

の 人 は 衛 生 上 の 理 由 に よ り 命 を 失 う こ と

は な か っ た 。

      米 英 軍 は , 利 用 で き る 手 段 を 最 大 限 に

活 用 す る ど こ ろ か , 不 作 為 に よ っ て コ レ

ラ 等 の 伝 染 拡 大 に 手 を 貸 し , イ ラ ク 国 民

の 生 命 を 危 機 に 陥 れ て い る 。

3   イ ラ ク 国 民 の 生 活 破 壊

    米 英 軍 は , 義 務 を 果 た さ ず , ジ ュ ネ ー ブ

条 約 を 遵 守 し な い ば か り か , イ ラ ク 国 民 の

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生 活 を 破 壊 し て い る 。

    ①   米 英 軍 は , 何 の 補 償 も な く , フ セ イ

ン 元 大 統 領 の 政 権 下 に お け る イ ラ ク 軍

と 警 察 を 解 体 し た ば か り で な く , 大 多

数 の バ ー ス 党 員 の 解 雇 を 行 っ た 。

    ②   ほ と ん ど す べ て の 政 府 , 省 庁 , 工 場

な ど の 建 物 と 活 動 が 破 壊 さ れ た た め ,

大 多 数 の イ ラ ク の 公 務 員 は 仕 事 を 失 っ

た 。 イ ラ ク で の 失 業 率 は , 占 領 か ら 1

年 以 上 経 っ た 今 で も , 未 だ に 約 7 0 %

に も 及 ぶ と 言 わ れ て い た 。

  ③   イ ラ ク で は , フ セ イ ン 元 大 統 領 の 政

権 下 に お い て , 法 律 上 組 合 活 動 が 禁 止

さ れ て い ま し た 。 米 英 軍 は , こ の 法 律

を 適 用 し 続 け る の み で な く , ブ レ マ ー

文 民 行 政 官 は , 2 0 0 3 年 6 月 , ス ト

ラ イ キ を 教 唆 し た 者 に 対 す る 罰 則 と し

て , 占 領 当 局 に よ っ て 拘 束 さ れ 戦 争 犯

罪 人 と し て 取 り 扱 う と の , 「 禁 止 活

動 」 に 関 す る 規 則 を 発 表 し た 。

    ④   イ ラ ク 失 業 者 組 合 ( U U I ) は , 2

0 0 3 年 7 月 2 9 日 バ グ ダ ッ ド に お い

て , 新 し い 国 家 は , 被 占 領 地 域 に 福 利

を 提 供 す る 米 英 軍 の 義 務 に 関 す る ジ ュ

ネ ー ブ 条 約 に 従 っ て , イ ラ ク 国 民 の 社

会 的 利 益 を 保 証 し な け れ ば な ら な い 旨

要 求 す る と 共 に , ほ と ん ど 4 か 月 給 与

が 支 払 わ れ て い な い 医 師 , 教 員 , 看 護

婦 , 国 家 公 務 員 へ の 再 補 償 を 要 求 し た 。

          こ れ に 対 し , 2 0 0 3 年 8 月 2 日

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米 軍 は , 同 組 合 の カ シ ム ・ ハ デ ィ 及 び

そ の 他 5 4 人 の 組 合 指 導 者 と 組 合 員 を

逮 捕 し た 。 ま た , 2 0 0 4 年 1 月 1 0

日 , 英 軍 と 地 方 警 察 は , イ ラ ク 南 部 の

都 市 イ マ ラ に お い て 行 わ れ た , 仕 事 や

食 糧 を 要 求 す る 失 業 者 の 抗 議 行 動 に 対

し て 発 砲 し , イ ラ ク 人 6 人 を 殺 害 し ,

8 人 を 負 傷 さ せ た 。

      以 上 の よ う に , 「 自 由 と 民 主 主 義 を も

た ら す た め 」 イ ラ ク を 攻 撃 し た 米 英 軍 は ,

イ ラ ク 国 民 に 不 自 由 を 強 い , 民 主 的 な 権

利 を 与 え る こ と に つ い て も 拒 否 し 続 け ,

イ ラ ク 国 民 の 生 活 を 破 壊 し 続 け て い る 。

4   人 道 支 援 活 動 の 阻 害

      以 上 の よ う に , 米 英 軍 は , 占 領 に 伴 う

義 務 を 果 た さ ず , 違 法 な 行 為 を 行 い , イ

ラ ク 国 民 の 生 活 を 破 壊 し て い る 。

      そ こ で , イ ラ ク 国 民 の 生 命 を 守 り , そ

の 生 活 を 支 え る た め , N G O や 国 連 等 に

よ る 人 道 支 援 活 動 が 必 要 で あ る 。

      し か し , 米 英 軍 へ の 反 発 に よ る 治 安 の

悪 化 な ど か ら , 国 連 は 実 効 的 な 援 助 が で

き て い な い 。

      ア ナ ン 国 連 事 務 総 長 は , 2 0 0 3 年 1

2 月 1 0 日 , 第 2 回 イ ラ ク 情 勢 報 告 に お

い て , 要 旨 以 下 の と お り 述 べ , イ ラ ク 全

土 の 治 安 状 況 の 悪 化 を 明 言 し て い る 。

        「 8 月 に イ ラ ク の 全 般 的 治 安 状 況

が 劇 的 に 変 化 し ま し た 。 イ ラ ク は 新 た

な 段 階 に 入 り , す べ て の 外 国 組 織 や 連

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合 暫 定 当 局 に 協 力 す る イ ラ ク 人 が , 意

図 的 で 直 接 的 な 敵 対 的 攻 撃 の 潜 在 的 標

的 と な り ま し た 。 こ う し た タ イ プ の 治

安 上 の 脅 威 は 予 想 さ れ て い な か っ た も

の で す 。 」

        「 委 員 会 ( イ ラ ク に お け る 国 連 要

員 の 安 全 と 治 安 に 関 す る 独 立 委 員 会 )

は 1 0 月 2 0 日 に 報 告 を 提 出 し ま し た 。

そ の 結 論 は , イ ラ ク に は 危 険 が 伴 わ な

い 場 所 は あ り ま せ ん 」

        「 イ ラ ク に お け る 国 連 の 今 後 の 活

動 方 法 立 案 の た め に , イ ラ ク に お け る

国 連 活 動 の 本 質 的 な 計 画 見 直 し の 全 体

を 通 じ て , 治 安 状 況 に 関 し て 以 下 の 想

定 を 念 頭 に お き ま し た 。

        治 安 状 況 は 短 期 ・ 中 期 的 に 改 善 し

そ う に な い し , さ ら に 悪 化 す る か も し

れ ま せ ん 。 国 連 は , 予 見 で き る 将 来 に

わ た っ て , イ ラ ク に お け る テ ロ 活 動 の

重 要 で 衝 撃 度 の 大 き な 標 的 に さ れ る で

し ょ う 。 」

      2 0 0 3 年 8 月 1 9 日 , 現 実 に , バ グ

ダ ッ ド の 国 連 現 地 事 務 所 が 攻 撃 を 受 け ,

国 連 デ モ ロ 代 表 等 が 死 亡 し た 。

      以 上 の よ う に , 米 英 軍 の 政 策 へ の 反 発

に よ る 治 安 悪 化 は , 国 連 な ど に よ る 人 道

支 援 活 動 を も 困 難 に し て い る 。

5 資 源 の 収 奪

米 国 企 業 に よ る 「 復 興 事 業 」 の 独 占

    イ ラ ク 復 興 事 業 は 米 国 際 開 発 局 ( U S

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A A I D ) が 取 り 仕 切 っ て い る 。

      そ の 下 で , ブ ッ シ ュ 大 統 領 の イ ラ ク 攻

撃 を 強 く 支 持 し て い た , シ ュ ル ツ 元 国 務

長 官 が 役 員 を 務 め る な ど , 米 国 政 権 と 極

め て つ な が り の 強 い 米 プ ラ ン ト 建 設 大 手

ベ ク テ ル 社 が 以 下 の よ う に 「 復 興 事 業 」

を 受 注 し た 。

    ①   イ ラ ク の 電 気 , 水 道 な ど 社 会 資 本 復

旧 の た め の 大 規 模 事 業 を 受 注 ( 空 港 ・

港 湾 な ど の 大 型 事 業 を 含 め た 事 業 規 模

約 8 1 6 億 円 ) 。

    ②   イ ラ ク 戦 後 復 興 第 2 期 事 業 ( 発 電 関

連 設 備 , 上 下 水 道 , 空 港 , 港 湾 施 設 の

再 建 や 維 持 が 内 容 ) を 受 注 ( 約 7 2 2

億 円 ) 。

6   主 権 の 委 譲 と 占 領 の 継 続

      2 0 0 4 年 6 月 8 日 , 国 連 安 保 理 決 議

1 5 4 6 が 全 会 一 致 で 採 択 さ れ た 。

      採 択 さ れ た 決 議 は 6 月 末 に 実 施 さ れ る

米 英 占 領 当 局 ( C P A ) か ら イ ラ ク 暫 定

政 府 へ の 主 権 移 譲 に 伴 い , 暫 定 政 府 に

「 完 全 主 権 」 を 保 障 す る と と も に , 米 英

軍 を 中 心 と す る 多 国 籍 軍 の 駐 留 継 続 を 確

認 し た 。 ま た , 付 属 書 簡 で , 大 規 模 な 軍

事 作 戦 に あ た り , 暫 定 政 府 の 「 国 家 安 全

保 障 委 員 会 」 で , イ ラ ク 軍 の 参 戦 の 是 非

を 判 断 す る こ と な ど を 定 め た 。

      ◆   安 保 理 決 議 1 5 4 6 の 概 要

          決 議 1 5 4 6 に は , ① 6 月 末 ま で

の 主 権 移 譲 の 承 認 , ② 2 0 0 5 年 1 2

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月 末 ま で の 新 憲 法 に 基 づ く 正 式 政 府 発

足 , ③ 多 国 籍 軍 の 駐 留 は 正 式 政 府 発 足

ま た は イ ラ ク 政 府 の 要 請 に よ り 終 了 ,

④ ( 石 油 収 入 を プ ー ル す る ) イ ラ ク 開

発 基 金 は イ ラ ク 政 府 が 管 理 す る , な ど

が 盛 り 込 ま れ た 上 に , 国 連 加 盟 国 に 対

し , 人 道 復 興 や 国 連 イ ラ ク 支 援 団 ( U

N A M I ) へ の 支 援 を 目 的 に 多 国 籍 軍

へ の 貢 献 を 求 め る 一 文 が 付 け 加 え ら れ

た 。

      そ し て , 2 0 0 4 年 6 月 2 8 日 , 当 初

の 計 画 を 突 如 繰 り 上 げ , 米 主 導 の 占 領 機 関

で あ る 連 合 国 暫 定 当 局 ( C P A ) か ら イ ラ

ク 暫 定 政 府 に 対 し て , 主 権 が 委 譲 さ れ た 。

こ れ に よ り 暫 定 政 府 は 一 応 「 主 権 」 国 家 の

政 府 と し て 扱 わ れ る こ と に な っ た が , 駐 留

す る 米 軍 が 軍 事 と 治 安 の 中 枢 を 握 っ て お り ,

イ ラ ク 国 民 へ の 軍 事 攻 撃 を 続 け る 下 で 暫 定

政 府 が 広 範 な 国 民 の 支 持 を 得 ら れ る に い た

っ て は い な い 。

イ ラ ク 暫 定 政 府 は , 連 合 国 暫 定 当 局 任 命

の 統 治 評 議 会 出 身 者 が 主 要 ポ ス ト を 占 め て

お り , 国 連 の ブ ラ ヒ ミ 事 務 総 長 特 別 顧 問 が

目 指 し た 「 専 門 的 な 知 識 と 技 術 を も っ た 非

政 治 家 の 集 団 」 と い う 構 想 は 後 景 に 追 い や

ら れ て し ま っ た 。

ま た , 暫 定 政 府 の 実 権 を 握 る ア ラ ウ ィ 首

相 は 就 任 前 か ら 米 中 央 情 報 局 ( C I A ) と

の 深 い 関 係 を 指 摘 さ れ , 就 任 後 に は 米 軍 の

駐 留 継 続 を 繰 り 返 し 求 め て き た 。 同 首 相 は

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今 月 1 9 日 に 米 軍 が イ ラ ク 中 部 フ ァ ル ー ジ

ャ の 民 家 を 爆 撃 し 女 性 や 子 ど も な ど 2 0 人

以 上 を 殺 害 し た 際 に は 「 歓 迎 す る 」 と ま で

表 明 し て い る 。 イ ラ ク 国 民 の な か に は , 占

領 終 結 へ の 第 一 歩 と し て , 暫 定 政 権 に 期 待

す る 人 々 も い た が , 「 こ れ ま で の イ ラ ク 統

治 評 議 会 と 変 わ り な く 合 法 的 な も の と は い

え な い 」 ( イ ス ラ ム 教 ス ン ニ 派 の 有 力 組 織 ,

イ ス ラ ム 聖 職 者 協 会 ) な ど と 批 判 的 な 声 が

広 が っ て い っ た 。 最 大 の 問 題 は , イ ラ ク 国

民 や 抵 抗 勢 力 へ の 残 虐 な 弾 圧 や 武 力 攻 撃 を

続 け て い る 1 3 万 8 0 0 0 人 の 米 軍 が 多 国

籍 軍 の 中 核 と し て 居 座 り 続 け る こ と で あ る 。

パ ウ エ ル 国 務 長 官 や 多 国 籍 軍 の ケ ー シ ー 司

令 官 も , 反 政 府 勢 力 へ の 軍 事 攻 撃 を 続 け る

と 述 べ て い る 。

      暫 定 政 府 の 国 防 省 に は 1 0 人 の 米 英 人

顧 問 が 常 駐 す る の を は じ め , 各 省 庁 で も 同

様 の 方 針 が 実 施 さ れ て い る 。 ア ラ ブ で は

「 暫 定 政 府 の 成 立 に し ろ , 主 権 移 譲 の 式 典

に し ろ , 米 国 が つ く り だ し た 偽 の 写 真 以 外

の 何 物 で も な い 」 ( カ タ ー ル の ア ッ シ ャ ル

ク 紙 ) な ど の 見 方 が 広 が っ て い る 。

      イ ラ ク 各 地 で は 警 察 な ど を 標 的 と し た

爆 弾 攻 撃 が い っ せ い に 発 生 し , 死 者 百 人 以

上 , 負 傷 者 数 百 人 と な る 混 乱 が 続 い て い る 。

イ ラ ク 国 民 の 間 で は , テ ロ 批 判 の 一 方 で ,

混 乱 の 根 本 原 因 で あ る 米 占 領 体 制 と , 治 安

維 持 に 有 効 な 対 策 を と れ な い 暫 定 政 府 へ の

不 満 が 高 ま っ て い る 。

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7   侵 略 の 罪 該 当 性

米 英 の イ ラ ク 攻 撃 及 び 占 領 行 為 は , そ れ

ぞ れ 国 際 法 上 の 侵 略 の 罪 に 当 た る 。

( 1 ) 占 領 は 侵 略 行 為

      す な わ ち , 侵 略 の 罪 を 構 成 す る 武 力 行

使 と は , 「 他 国 の 領 土 に 対 す る 武 力 に よ

る 侵 攻 ま た は 攻 撃 , た と え 一 時 的 な も の

で あ っ て も , 当 該 侵 攻 か ら 結 果 と し て 生

じ た 軍 事 的 占 領 , 他 国 ま た は そ の 一 部 の

領 域 の 武 力 行 使 に よ る 併 合 」 ( 1 9 7 4

年 国 連 総 会 決 議 3 3 1 4 ) で あ り , 軍 事

占 領 を 含 む 。

( 2 ) 人 民 の 自 決 権 の 侵 害

      ま た , 侵 略 の 罪 は , 人 民 の 自 決 権 を 侵

害 す る 罪 で あ る が , 米 英 軍 な ど に よ る 軍

事 占 領 は ま さ に 人 民 自 決 権 の 侵 害 に あ た

る 。 た と え あ る 国 の 政 府 が , ど ん な に ひ

ど い 政 治 を し て い た と し て も , そ れ を 外

国 の 軍 隊 が 侵 略 ・ 転 覆 し , 自 ら に 都 合 の

良 い 新 た な 政 府 を 作 る こ と は 決 し て 許 さ

れ る も の で は な い 。

      1 9 6 6 年 に 国 連 総 会 が 採 択 し た 国 際

人 権 規 約 の 共 通 第 1 条 は , 「 す べ て の

人 民 は , 自 決 の 権 利 を 有 す る 。 こ の 権 利

に 基 づ き , す べ て の 人 民 は , そ の 政 治 的

地 位 を 自 由 に 決 定 し , な ら び に そ の 経 済

的 , 社 会 的 及 び 文 化 的 発 展 を 自 由 に 追 求

す る 」 と 規 定 し た 。 自 決 権 は 集 団 と し て

の 人 民 の 権 利 で あ っ て , 人 民 を 構 成 す る

個 々 人 が 人 権 と 自 由 を 享 受 す る 前 提 条 件

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だ と し た 。

      い か に フ セ イ ン 政 権 が 圧 制 を 敷 い て い

よ う と , そ の 政 権 を 打 倒 す る の は イ ラ ク

人 民 の 権 利 で あ る 。

      米 軍 が , 現 在 も 軍 事 占 領 を 続 け , イ ラ

ク 人 を 誘 拐 , 監 禁 , 虐 待 , 虐 殺 す る 行 為

は , イ ラ ク 人 民 の 自 決 権 侵 害 に あ た る 。

( 3 ) 安 保 理 決 議 1 4 8 3 , 1 5 1 1 と の 関 係

      た だ し , C P A や C J T F 7 の イ ラ ク

占 領 政 策 は , 国 連 安 保 理 決 議 第 1 4 8 3

号 及 び 同 第 1 5 1 1 号 を 根 拠 と し て 遂 行

さ れ た 。 そ こ で , 国 連 安 保 理 が , C P A

や C J T F 7 を 通 じ た 米 国 , 英 国 軍 な ど

に よ る イ ラ ク 占 領 を 認 め て お り , イ ラ ク

占 領 は 違 法 と な ら な い の で は な い か が 問

題 と な る 。

ア   1 . で 紹 介 し た 安 保 理 決 議 1 4 8 3 は ,

米 英 軍 と し て の 米 英 の 特 別 の 権 限 を 認 識

し , 「 当 局 」 ( 米 英 の 統 合 さ れ た 司 令

部 ) は 国 際 的 に 承 認 さ れ た 代 表 政 府 が イ

ラ ク 国 民 に よ り 樹 立 さ れ , 「 当 局 」 ( C

P A ) の 責 務 を 引 き 継 ぐ ま で の 間 , 権 限

を 行 使 す る と し た 。

イ   1 0 月 1 6 日 に 採 択 さ れ た 国 連 安 保 理

決 議 1 5 1 1 は , 暫 定 占 領 当 局 ( C P

A ) を 認 め る と 共 に , イ ラ ク の 安 全 保 障

と 安 定 維 持 の た め , 統 一 指 揮 下 に よ る 多

国 籍 軍 の 設 置 を 認 め る も の で あ る 。

ウ   し か し , 決 議 1 4 8 3 は , 米 英 軍 に 安

保 理 決 議 1 4 8 3 が 米 英 軍 に 権 限 を 認 め

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る の は , 第 5 項 で 「 あ ら ゆ る 関 係 者 に 対

し , 1 9 4 9 年 の ジ ュ ネ ー ブ 条 約 及 び 1

9 0 7 年 の ハ ー グ 協 定 を は じ め と す る 国

際 法 に よ る 義 務 を 完 全 に 果 た す よ う 呼 び

か け る 」 と 規 定 し , 占 領 者 の 国 際 法 上 の

義 務 = 公 共 の 秩 序 及 び 生 活 を 回 復 確 保 す

る た め な し 得 る 一 切 の 手 段 を 尽 く す 義 務

( 1 8 9 9 年 ハ ー グ 陸 戦 規 則 4 3 条 ) を

果 た さ せ る た め で あ る 。 こ れ は , 戦 争 自

体 の 違 法 性 と 関 わ り な く 適 用 さ れ る 戦 争

手 段 に つ い て の 法 的 規 制 に 関 す る 規 程 で

あ る か ら , 決 議 1 4 8 3 が 米 英 主 導 の 占

領 自 体 を 適 法 だ と し た も の と は 言 え な い 。

 

    仮 に , 決 議 1 4 8 3 , 1 5 1 1 が 米 英

主 導 の 占 領 枠 組 み 自 体 を 適 法 と し た と 考

え て も , 同 決 議 は 「 当 局 」 に 対 し , 安 全

で 安 定 し た 状 態 の 回 復 及 び イ ラ ク 国 民 が

自 ら の 政 治 的 将 来 を 自 由 に 決 定 で き る 状

態 の 創 出 に 向 け て 努 力 す る こ と を 含 め ,

領 土 の 実 効 的 な 施 政 を 通 じ て イ ラ ク 国 民

の 生 活 を 向 上 す る こ と を 要 請 し た も の で

あ る が , 論 じ て き た よ う に C P A に よ る

占 領 の 実 態 は , こ の 要 請 と は か け 離 れ て

い る の で , 決 議 1 4 8 3 , 1 5 1 1 に も

違 反 し , 違 法 で あ る 。

        ◆   安 保 理 決 議 1 5 1 1          安 保 理 決 議 1 5 1 1 の 概 要 は 以

下 の 通 り で あ る 。

            1   イ ラ ク 統 治 評 議 会 は , イ ラ

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ク の 主 権 を 体 現 す る 暫 定 政 権 の 重 要

な 組 織 で あ る 。

            2 米 英 の 暫 定 占 領 当 局 ( C P

A ) に 対 し て , 可 能 な 限 り 早 く 統 治

権 限 を イ ラ ク 国 民 に 戻 す よ う 求 め ,

            3   評 議 会 は , 新 憲 法 起 草 や 民

主 選 挙 実 施 の 日 程 を 1 2 月 1 5 日 ま

で に 国 連 安 保 理 に 提 示 す る 。

            4   国 連 は イ ラ ク で の 人 道 支 援

や 経 済 復 興 な ど の 役 割 を 強 化 す る 。

            5 イ ラ ク の 安 定 維 持 の た め ,

統 一 指 揮 下 の 多 国 籍 軍 を 設 置 , 決 議

後 1 年 以 内 に 役 割 を 見 直 す 。

お わ り に

      こ れ ま で 見 て き た と お り , イ ラ ク 戦 争

終 了 後 , イ ラ ク に お け る 混 乱 は ま す ま す

深 ま り , イ ラ ク の 民 衆 だ け で は な く , 占

領 軍 に 関 し て も 犠 牲 者 が 増 え 続 け て い る

こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た , イ ラ ク 戦

争 は 国 際 法 上 到 底 容 認 で き な い 侵 略 戦 争

で あ り , イ ラ ク 占 領 に 際 し て も 違 法 が 横

行 し て い る こ と も ま た 明 ら か と な っ た 。

      こ の よ う な 違 法 な 戦 争 , 占 領 に 加 担 し

て い る の が , 日 本 の 自 衛 隊 で あ る 。 日 本

政 府 は , 繰 り 返 し 自 衛 隊 派 兵 は 「 人 道 復

興 支 援 」 で あ る と い っ て い る が , 全 土 が

戦 闘 状 態 で あ る イ ラ ク に 派 兵 さ れ , い ま

や 多 国 籍 軍 に 参 加 し て い る こ と か ら す る

と , 国 際 法 を 遵 守 し , 日 本 国 憲 法 を 守 る

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た め に は , 即 時 の 撤 退 し か あ り え な い の

で あ る 。

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