18である)siが追加され、多くの鶏群に3価ワクチンが注射され...

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はじめに 前々号、前号でサルモネラ食中毒の発生状況、鶏卵のサ ルモネラ汚染状況についてご説明しました。今回はさらに上 流の、農場のサルモネラ汚染状況とその推移についてまと めてみます。農場の汚染状況については、鶏卵同様、一定 の基準を決めて定期的に全国調査されているわけではな く、単発の報告を寄せ集めて考察するしかありません。 情報を集めてみると、「どういう血清型が検出された」に主 眼をおいたもの(分離率の情報がないもの)、「どういう血清 型がどれくらいの農場から検出された」という分離率を算出 できるものに分けられます。また、全国規模の調査が3つ、 それ以外は家畜保健衛生所などの小規模調査であり、どこ まで真実に迫れるかわかりませんが、それらを検査実施年 順に並べてご紹介し、考察してみたいと思います。 動衛研による分離血清型集計 動衛研で各県の家畜保健衛生所から病性鑑定の目的で 依頼があったサルモネラ検査の結果が集計されています。 病性鑑定目的の検査なので、生産農場の汚染実態を表す ものではありませんが、鶏の体内から分離されたものであり、 これらの菌で汚染されていることは間違いありません。また、 どの血清型(O血清群)がどの年代に多いか、少ないかは何 となく掴めそうだったので、参考までにご紹介します。 (1)秋庭ら(1980-1995年) 発表されているデータ 1) を表1に引用します(上位20血清 型を抜粋、O4、O7、O9群をそれぞれ色分け)。1989年以前 はO4、O7群が上位を占めていますが、1989年以降、突如と してO9群の Enteritidis(SE)が出現しています。SEによる食 中毒も1989年から急激に増加しており 2) 、養鶏場汚染→鶏 卵汚染→食中毒が疑われ、そう説明されています。なぜ養 鶏場が急に汚染されたかは、「汚染された種鶏ひなの輸入 によってSEが持ち込まれ、その次世代のコマーシャル採卵 鶏から生産される汚染鶏卵が感染源となっている」と考えら れています 3) (2)吉井ら(1996-2006年) 10年間のサルモネラ検査結果の集計 4) を表2に引用しま す(表1同様、上位20血清型を抜粋、O4、O7、O9群をそれ ぞれ色分け)。SEが分離数トップに躍り出ていることが特記 されます。SE以外でO4、O7群が上位を占めていることは前 の16年間とほぼ変わりありません。O7群のなかで Infantis (SI)が上位に食い込み、SIはその他の文献発表でもよく見 かける血清型ですが、なぜ多くなったのかはよくわかりませ ん。 この表で2004年以降、全体的に分離数が激減しているよ うに見えますが、汚染がなくなったというより、推測するに、 県も国も鳥インフルエンザ対応で忙しかった時期ということ かもしれません。ということを考慮すると、毎年でなくても構 わないので確かな統計データにできるような定期調査の必 要性を感じるところです。 生産農場の全国規模調査 生産農場の全国規模調査は、以下の3つがあり、それぞ れ簡単にご紹介します。 (1)日本養鶏協会の調査(2004年) 農林水産省の全額補助で実施された国内で最初の調 5)6) で、「204農場中54農場(26.5%)がサルモネラ陽性、 SEは1農場(0.5%)のみが陽性だった」という結果です。公 開資料 7) に引用されている新聞記事 6) の調査関係者のコメ ントにもあるように「今回は比較的、優良な養鶏場が対象 (中略)強制的な調査なら陽性率はもっと高かったはず」と のことで、翌年から農林水産省が直接調査に乗り出すこと になります。同じ時期、EUでは農場汚染調査結果に基づい て「サルモネラ汚染率を2%以下に抑える(2006)」 8) 「汚染 率10%以上の国はワクチンを強制注射(2008)」 8) 、米国で も「クリントン撲滅計画(1999) 9) 、低温保存(2001) 10) 、生産 農場登録と検査義務化(2010) 11) 」などの積極策が打ち出さ れています。英国では1985年から毎年 12) 米国では1991年 から不定期でサーベイランスが実施されており 13)14) 、国際的 に見ても、遅れを取らないぎりぎりのタイミングだったと考え られます。 少し脱線します。米国のSE農場汚染率(廃鶏の盲腸便か ら菌分離)は、1991年・1995年の合計で実に35% 13) だった そうですが、1999年の発表では鶏舎環境検査で7% 14) 農場のサルモネラ汚染の推移 ADI,第18号 令和2年8月28日発行 島田 英明 2020 KMバイオロジクス 営業部学術管理課 KMバイオロジクス 18 S. S.

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ADI,第4号 平成24年6月20日発行

はじめに

 前々号、前号でサルモネラ食中毒の発生状況、鶏卵のサ

ルモネラ汚染状況についてご説明しました。今回はさらに上

流の、農場のサルモネラ汚染状況とその推移についてまと

めてみます。農場の汚染状況については、鶏卵同様、一定

の基準を決めて定期的に全国調査されているわけではな

く、単発の報告を寄せ集めて考察するしかありません。

情報を集めてみると、「どういう血清型が検出された」に主

眼をおいたもの(分離率の情報がないもの)、「どういう血清

型がどれくらいの農場から検出された」という分離率を算出

できるものに分けられます。また、全国規模の調査が3つ、

それ以外は家畜保健衛生所などの小規模調査であり、どこ

まで真実に迫れるかわかりませんが、それらを検査実施年

順に並べてご紹介し、考察してみたいと思います。

動衛研による分離血清型集計

動衛研で各県の家畜保健衛生所から病性鑑定の目的で

依頼があったサルモネラ検査の結果が集計されています。

病性鑑定目的の検査なので、生産農場の汚染実態を表す

ものではありませんが、鶏の体内から分離されたものであり、

これらの菌で汚染されていることは間違いありません。また、

どの血清型(O血清群)がどの年代に多いか、少ないかは何

となく掴めそうだったので、参考までにご紹介します。

(1)秋庭ら(1980-1995年)

 発表されているデータ1)を表1に引用します(上位20血清

型を抜粋、O4、O7、O9群をそれぞれ色分け)。1989年以前

はO4、O7群が上位を占めていますが、1989年以降、突如と

してO9群の Enteritidis(SE)が出現しています。SEによる食

中毒も1989年から急激に増加しており2)、養鶏場汚染→鶏

卵汚染→食中毒が疑われ、そう説明されています。なぜ養

鶏場が急に汚染されたかは、「汚染された種鶏ひなの輸入

によってSEが持ち込まれ、その次世代のコマーシャル採卵

鶏から生産される汚染鶏卵が感染源となっている」と考えら

れています3)。

(2)吉井ら(1996-2006年)

 10年間のサルモネラ検査結果の集計4)を表2に引用しま

す(表1同様、上位20血清型を抜粋、O4、O7、O9群をそれ

ぞれ色分け)。SEが分離数トップに躍り出ていることが特記

されます。SE以外でO4、O7群が上位を占めていることは前

の16年間とほぼ変わりありません。O7群のなかで Infantis

(SI)が上位に食い込み、SIはその他の文献発表でもよく見

かける血清型ですが、なぜ多くなったのかはよくわかりませ

ん。

 この表で2004年以降、全体的に分離数が激減しているよ

うに見えますが、汚染がなくなったというより、推測するに、

県も国も鳥インフルエンザ対応で忙しかった時期ということ

かもしれません。ということを考慮すると、毎年でなくても構

わないので確かな統計データにできるような定期調査の必

要性を感じるところです。

生産農場の全国規模調査

 生産農場の全国規模調査は、以下の3つがあり、それぞ

れ簡単にご紹介します。

(1)日本養鶏協会の調査(2004年)

 農林水産省の全額補助で実施された国内で最初の調

査5)6)で、「204農場中54農場(26.5%)がサルモネラ陽性、

SEは1農場(0.5%)のみが陽性だった」という結果です。公

開資料7)に引用されている新聞記事6)の調査関係者のコメ

ントにもあるように「今回は比較的、優良な養鶏場が対象

(中略)強制的な調査なら陽性率はもっと高かったはず」と

のことで、翌年から農林水産省が直接調査に乗り出すこと

になります。同じ時期、EUでは農場汚染調査結果に基づい

て「サルモネラ汚染率を2%以下に抑える(2006)」8)「汚染

率10%以上の国はワクチンを強制注射(2008)」8)、米国で

も「クリントン撲滅計画(1999)9)、低温保存(2001)10)、生産

農場登録と検査義務化(2010)11)」などの積極策が打ち出さ

れています。英国では1985年から毎年12)、米国では1991年

から不定期でサーベイランスが実施されており13)14)、国際的

に見ても、遅れを取らないぎりぎりのタイミングだったと考え

られます。

 少し脱線します。米国のSE農場汚染率(廃鶏の盲腸便か

ら菌分離)は、1991年・1995年の合計で実に35%13)だった

そうですが、1999年の発表では鶏舎環境検査で7%14)、

2013年は同じく環境検査で3.3%15)と順調に低減されてきて

います。英国は、ワクチン注射を含むライオン品質プログラム

で激減したといえども、2005年の調査によると、454鶏群の調

査で55鶏群(12.1%)がサルモネラ陽性、そのうちSEが最も

多く5.8%だった16)とのことです。SE汚染率は日本の方が低

そうで、とりあえず一安心です。

(2)農林水産省の調査(2005年)

 28都道府県579農場中99農場(17.1%)がサルモネラ陽

性17)でした。血清型の情報については、家畜衛生対策事業

全国検討会で紹介された資料によると10農場(1.7%)がSE

陽性とのことです(表3)18)。この情報は、現在の農林水産省

ホームページではみつからず、削除されたものと思われま

す。おそらく、直後に再調査された次の結果を活用するとい

う位置づけと推測されます。

(3)農林水産省による再調査(2007-2008年)

 2007年9月~2008年3月、45都道府県338農場400鶏群が

調査され、70農場がサルモネラ陽性(20.7%)、SEは10農場

で陽性(3.0%)でした(表4)19)20)。これら3つの調査は2000

年代に集中しており、3番目の農林水産省によるものが45都

道府県と最も広範に調査されており、ホームページや論文と

して公開されていること、また、派生の疫学研究が充実して

いることから、この報告を中心に着目頂ければと存じます。

 この調査では、汚染リスクも評価され、①無窓鶏舎、②誘

導換羽実施、③インライン集卵の3点の汚染リスクが有意に

高いとされています19)。①③はネズミの生息場所として快適

な環境を提供しているようにも思いますので、ネズミの活動

をデータ化してリスク分析してみるとおもしろいかもしれませ

ん。誘導換羽は、「断餌・断水すると介卵感染率が高まっ

た」との報告21)もあり、ストレスによってサルモネラの体内増

殖を助長すると考えられます。インライン集卵の7農場の全

鶏群(104群)の追跡調査22)では、陰性は2農場12鶏群、陽

性は5農場92鶏群で、うち66鶏群がサルモネラ陽性であり、

陽性率は実に71.7%にも上ります。さらに、SE以外のサルモ

ネラが陽性で、インライン集卵かつ無窓鶏舎の2農場(A農

場;延べ62鶏群、B農場;延べ70鶏群)の2か月間隔3回の

継続調査 2 3 ) が実施されましたが、A農場では58鶏群

(93.5%)、B農場では100%の陽性が確認され、分離血清

型別の汚染状況も若干のでこぼこがあるだけで、継続的に

分離され、汚染が持続してしまうようです。

(4)佐々木らの調査(2017-2019年)

 2017年10月~2019年11月、11自治体の所在する48農場

112鶏群が調査され、7農場(14.6%)9鶏群(8.0%)からサ

ルモネラが分離されています24)。SEは1例も分離されていま

せん。この研究では評価項目に「ワクチン」が加えられ、ワク

チン注射鶏群(5/95(5 . 3%))が未注射鶏群(4/17

(23.5%))よりサルモネラ分離率が有意に低い結果が得ら

れています。ワクチン注射鶏群でSE・ST・SI3価ワクチンが

最も多く使用され(82鶏群;73.2%)、ワクチンの種類別では

3価ワクチンだけが有意に分離率が低い結果です。これに

はからくりがあります。今回の調査ではワクチン未注射鶏群

でもSEが分離されておらず、差が出たのは、O7群がワクチ

ン注射鶏群では分離されず、未注射鶏群で4例分離されて

いることによるものです。著者の考察では「ワクチンに(O7群

である)SIが追加され、多くの鶏群に3価ワクチンが注射され

るようになった結果、血清型上位にあったO7群が分離され

にくくなった」とのことです。ワクチンが役に立っていそうなこ

とは、製造販売会社としては素直にうれしい限りです。

 ただ、ワクチンに入っていないO群血清型(O8、O13)が3

例分離されており、サルモネラ分離率が14.6%と改善してい

るようには見えない理由となっております。著者の考察として

「ワクチン効果を過信し、衛生管理状況が低下した場合、サ

ルモネラ汚染が拡大する可能性はあるので、今後とも継続

的に検査し、その結果に基づいてリスク管理する必要があ

る」とも述べられています。

最後に

 佐々木先生の「ワクチン注射と汚染血清型の変遷の考察」

は興味深く読ませて頂きました。それを視覚的にわかりやす

くするために表1表2と同じ色で全国規模調査報告(2)~(4)

の分離血清型一覧を表示してみます(表3~表5)。表1表2

と見比べて頂ければ一目瞭然です。ワクチンは、SE単味が

1998年に、SE・ST2価が2005年に、SE・ST・SI3価が2012年

に市販されています。それぞれ注射率のデータがないので

何とも言えませんが、血清型の推移をみると、まず、SEが上

位から脱落、次にO4群、O7群の順に少なくなっているように

見えます。それをはっきり言うためにはワクチンありなしで

データを蓄積することが今後の課題ですね。

 これらの報告から生産農場に直接参考になりそうなのは、

「(3)農林水産省による再調査の農場汚染のリスク要因」の調

査結果です。①無窓鶏舎、②誘導換羽実施、③インライン

集卵の3条件が重なる農場は特にお気をつけください。

 各県の小規模調査が少なからず集まりましたが、紙面の関

係で割愛致します。

農場のサルモネラ汚染の推移

ADI,第18号 令和2年8月28日発行

島田 英明

2020

KMバイオロジクス 営業部学術管理課

KMバイオロジクス

18

S.

S.

はじめに

 前々号、前号でサルモネラ食中毒の発生状況、鶏卵のサ

ルモネラ汚染状況についてご説明しました。今回はさらに上

流の、農場のサルモネラ汚染状況とその推移についてまと

めてみます。農場の汚染状況については、鶏卵同様、一定

の基準を決めて定期的に全国調査されているわけではな

く、単発の報告を寄せ集めて考察するしかありません。

情報を集めてみると、「どういう血清型が検出された」に主

眼をおいたもの(分離率の情報がないもの)、「どういう血清

型がどれくらいの農場から検出された」という分離率を算出

できるものに分けられます。また、全国規模の調査が3つ、

それ以外は家畜保健衛生所などの小規模調査であり、どこ

まで真実に迫れるかわかりませんが、それらを検査実施年

順に並べてご紹介し、考察してみたいと思います。

動衛研による分離血清型集計

動衛研で各県の家畜保健衛生所から病性鑑定の目的で

依頼があったサルモネラ検査の結果が集計されています。

病性鑑定目的の検査なので、生産農場の汚染実態を表す

ものではありませんが、鶏の体内から分離されたものであり、

これらの菌で汚染されていることは間違いありません。また、

どの血清型(O血清群)がどの年代に多いか、少ないかは何

となく掴めそうだったので、参考までにご紹介します。

(1)秋庭ら(1980-1995年)

 発表されているデータ1)を表1に引用します(上位20血清

型を抜粋、O4、O7、O9群をそれぞれ色分け)。1989年以前

はO4、O7群が上位を占めていますが、1989年以降、突如と

してO9群の Enteritidis(SE)が出現しています。SEによる食

中毒も1989年から急激に増加しており2)、養鶏場汚染→鶏

卵汚染→食中毒が疑われ、そう説明されています。なぜ養

鶏場が急に汚染されたかは、「汚染された種鶏ひなの輸入

によってSEが持ち込まれ、その次世代のコマーシャル採卵

鶏から生産される汚染鶏卵が感染源となっている」と考えら

れています3)。

(2)吉井ら(1996-2006年)

 10年間のサルモネラ検査結果の集計4)を表2に引用しま

す(表1同様、上位20血清型を抜粋、O4、O7、O9群をそれ

ぞれ色分け)。SEが分離数トップに躍り出ていることが特記

されます。SE以外でO4、O7群が上位を占めていることは前

の16年間とほぼ変わりありません。O7群のなかで Infantis

(SI)が上位に食い込み、SIはその他の文献発表でもよく見

かける血清型ですが、なぜ多くなったのかはよくわかりませ

ん。

 この表で2004年以降、全体的に分離数が激減しているよ

うに見えますが、汚染がなくなったというより、推測するに、

県も国も鳥インフルエンザ対応で忙しかった時期ということ

かもしれません。ということを考慮すると、毎年でなくても構

わないので確かな統計データにできるような定期調査の必

要性を感じるところです。

生産農場の全国規模調査

 生産農場の全国規模調査は、以下の3つがあり、それぞ

れ簡単にご紹介します。

(1)日本養鶏協会の調査(2004年)

 農林水産省の全額補助で実施された国内で最初の調

査5)6)で、「204農場中54農場(26.5%)がサルモネラ陽性、

SEは1農場(0.5%)のみが陽性だった」という結果です。公

開資料7)に引用されている新聞記事6)の調査関係者のコメ

ントにもあるように「今回は比較的、優良な養鶏場が対象

(中略)強制的な調査なら陽性率はもっと高かったはず」と

のことで、翌年から農林水産省が直接調査に乗り出すこと

になります。同じ時期、EUでは農場汚染調査結果に基づい

て「サルモネラ汚染率を2%以下に抑える(2006)」8)「汚染

率10%以上の国はワクチンを強制注射(2008)」8)、米国で

も「クリントン撲滅計画(1999)9)、低温保存(2001)10)、生産

農場登録と検査義務化(2010)11)」などの積極策が打ち出さ

れています。英国では1985年から毎年12)、米国では1991年

から不定期でサーベイランスが実施されており13)14)、国際的

に見ても、遅れを取らないぎりぎりのタイミングだったと考え

られます。

 少し脱線します。米国のSE農場汚染率(廃鶏の盲腸便か

ら菌分離)は、1991年・1995年の合計で実に35%13)だった

そうですが、1999年の発表では鶏舎環境検査で7%14)、

2013年は同じく環境検査で3.3%15)と順調に低減されてきて

います。英国は、ワクチン注射を含むライオン品質プログラム

で激減したといえども、2005年の調査によると、454鶏群の調

査で55鶏群(12.1%)がサルモネラ陽性、そのうちSEが最も

多く5.8%だった16)とのことです。SE汚染率は日本の方が低

そうで、とりあえず一安心です。

(2)農林水産省の調査(2005年)

 28都道府県579農場中99農場(17.1%)がサルモネラ陽

性17)でした。血清型の情報については、家畜衛生対策事業

全国検討会で紹介された資料によると10農場(1.7%)がSE

陽性とのことです(表3)18)。この情報は、現在の農林水産省

ホームページではみつからず、削除されたものと思われま

す。おそらく、直後に再調査された次の結果を活用するとい

う位置づけと推測されます。

(3)農林水産省による再調査(2007-2008年)

 2007年9月~2008年3月、45都道府県338農場400鶏群が

調査され、70農場がサルモネラ陽性(20.7%)、SEは10農場

で陽性(3.0%)でした(表4)19)20)。これら3つの調査は2000

年代に集中しており、3番目の農林水産省によるものが45都

道府県と最も広範に調査されており、ホームページや論文と

して公開されていること、また、派生の疫学研究が充実して

いることから、この報告を中心に着目頂ければと存じます。

 この調査では、汚染リスクも評価され、①無窓鶏舎、②誘

導換羽実施、③インライン集卵の3点の汚染リスクが有意に

高いとされています19)。①③はネズミの生息場所として快適

な環境を提供しているようにも思いますので、ネズミの活動

をデータ化してリスク分析してみるとおもしろいかもしれませ

ん。誘導換羽は、「断餌・断水すると介卵感染率が高まっ

た」との報告21)もあり、ストレスによってサルモネラの体内増

殖を助長すると考えられます。インライン集卵の7農場の全

鶏群(104群)の追跡調査22)では、陰性は2農場12鶏群、陽

性は5農場92鶏群で、うち66鶏群がサルモネラ陽性であり、

陽性率は実に71.7%にも上ります。さらに、SE以外のサルモ

ネラが陽性で、インライン集卵かつ無窓鶏舎の2農場(A農

場;延べ62鶏群、B農場;延べ70鶏群)の2か月間隔3回の

継続調査 2 3 ) が実施されましたが、A農場では58鶏群

(93.5%)、B農場では100%の陽性が確認され、分離血清

型別の汚染状況も若干のでこぼこがあるだけで、継続的に

分離され、汚染が持続してしまうようです。

(4)佐々木らの調査(2017-2019年)

 2017年10月~2019年11月、11自治体の所在する48農場

112鶏群が調査され、7農場(14.6%)9鶏群(8.0%)からサ

ルモネラが分離されています24)。SEは1例も分離されていま

せん。この研究では評価項目に「ワクチン」が加えられ、ワク

チン注射鶏群(5/95(5 . 3%))が未注射鶏群(4/17

(23.5%))よりサルモネラ分離率が有意に低い結果が得ら

れています。ワクチン注射鶏群でSE・ST・SI3価ワクチンが

最も多く使用され(82鶏群;73.2%)、ワクチンの種類別では

3価ワクチンだけが有意に分離率が低い結果です。これに

はからくりがあります。今回の調査ではワクチン未注射鶏群

でもSEが分離されておらず、差が出たのは、O7群がワクチ

ン注射鶏群では分離されず、未注射鶏群で4例分離されて

いることによるものです。著者の考察では「ワクチンに(O7群

である)SIが追加され、多くの鶏群に3価ワクチンが注射され

るようになった結果、血清型上位にあったO7群が分離され

にくくなった」とのことです。ワクチンが役に立っていそうなこ

とは、製造販売会社としては素直にうれしい限りです。

 ただ、ワクチンに入っていないO群血清型(O8、O13)が3

例分離されており、サルモネラ分離率が14.6%と改善してい

るようには見えない理由となっております。著者の考察として

「ワクチン効果を過信し、衛生管理状況が低下した場合、サ

ルモネラ汚染が拡大する可能性はあるので、今後とも継続

的に検査し、その結果に基づいてリスク管理する必要があ

る」とも述べられています。

最後に

 佐々木先生の「ワクチン注射と汚染血清型の変遷の考察」

は興味深く読ませて頂きました。それを視覚的にわかりやす

くするために表1表2と同じ色で全国規模調査報告(2)~(4)

の分離血清型一覧を表示してみます(表3~表5)。表1表2

と見比べて頂ければ一目瞭然です。ワクチンは、SE単味が

1998年に、SE・ST2価が2005年に、SE・ST・SI3価が2012年

に市販されています。それぞれ注射率のデータがないので

何とも言えませんが、血清型の推移をみると、まず、SEが上

位から脱落、次にO4群、O7群の順に少なくなっているように

見えます。それをはっきり言うためにはワクチンありなしで

データを蓄積することが今後の課題ですね。

 これらの報告から生産農場に直接参考になりそうなのは、

「(3)農林水産省による再調査の農場汚染のリスク要因」の調

査結果です。①無窓鶏舎、②誘導換羽実施、③インライン

集卵の3条件が重なる農場は特にお気をつけください。

 各県の小規模調査が少なからず集まりましたが、紙面の関

係で割愛致します。

表1 鶏由来サルモネラの血清型年次分布(1980-1995年)1)

表2 鶏由来サルモネラの血清型年次分布(1996-2006年)4)

表3 農林水産省の調査(2005年)18) 表4 農林水産省による再調査(2007-2008年)19)

血清型 血清群 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 累計 (%)

Agona O4 10 30 2 6 48 (10.6)

Hadar O8 8 7 8 5 3 7 38 (8.4)

Enteritidis O9 16 1 6 2 10 35 (7.7)

Typhimurium O4 14 2 1 4 1 9 1 1 33 (7.3)

Ⅱ Sofia O4 2 3 2 7 1 8 6 29 (6.4)

Havana O13 1 18 2 2 3 26 (5.8)

Mbandaka O7 9 8 1 2 3 3 26 (5.8)

Heidelberg O4 8 3 2 6 1 2 22 (4.9)

Pullorum O9 11 6 5 22 (4.9)

Blockley O8 8 2 2 3 15 (3.3)

Infantis O7 3 2 1 1 2 3 1 13 (2.9)

Anatum O3,10 6 6 12 (2.7)

Thompson O7 3 3 5 11 (2.4)

Newport O8 1 8 9 (2.0)

Montevideo O7 3 2 2 7 (1.5)

Muenchen O8 2 2 3 7 (1.5)

Haifa O4 1 5 6 (1.3)

Lexington O3,10 1 4 5 (1.1)

Corvallis O8 4 4 (0.9)

Lille O7 1 2 1 4 (0.9)

その他 2 4 5 4 3 0 0 3 0 0 2 2 11 6 6 32 80

血清型 血清群 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

Enteritidis O9 19 63 7 10 - 7 1 - - - - 107 (17.7)

Pullorum O9 - - - - - 1 14 38 - - - 53 (8.8)

Agona O4 4 17 17 4 2 6 1 - - - - 51 (8.4)

Infantis O7 8 19 20 1 - - - - - - 1 49 (8.1)

Cerro O18 - 9 16 2 - 4 2 - - - - 33 (5.5)

Typhimurium O4 1 5 5 - 1 5 2 - - - 1 21 (3.3)

Derby O4 11 2 2 - - - - - - - - 15 (2.5)

O4:d:- O4 6 2 2 1 - 2 1 - - - - 14 (2.3)

Bredeney O4 1 2 6 4 - - - - - - - 13 (2.1)

Othmarschen O7 13 - - - - - - - - - - 13 (2.1)

Livingstone O7 1 7 1 - 1 2 - - - - - 12 (2.0)

Schwarzengrund O4 - 8 4 - - - - - - - - 12 (2.0)

Singapore O7 - - 11 - - 1 - - - - - 12 (2.0)

Virchow O7 8 2 2 - - - - - - - - 12 (2.0)

Anatum O3,10 1 - 6 2 - - - 1 - - - 10 (1.7)

Oranienburg O7 - 8 2 - - - - - - - - 10 (1.7)

Orion O3,10 - - 9 1 - - - - - - - 10 (1.7)

Bareilly O7 5 3 - - 1 - - - - - - 9 (1.5)

Corvallis O8 - 5 1 1 - 1 - - - - 1 9 (1.5)

Heidelberg O4 3 5 - - - - 1 - - - - 9 (1.5)

その他 12 46 18 17 11 13 3 7 0 0 4 131

累計(%)

血清型 O群 分離農場数

Infantis O7 23

Cerro O18 11

Enteritidis O9 10

Agona O4 9

Montevideo O7 8

Mbandaka O7 7

Thompson O7 6

Muenster O3,10 6

Bareilly O7 5

その他 78

血清型 O群 分離農場数

Cerro O18 15

Braenderup O7 14

Infantis O7 14

Corvallis O8 10

Enteritidis O9 10

Mbandaka O7 8

Livingstone O7 8

Thompson O7 6

Bareilly O7 4

Oranienburg O7 4

Derby O4 2

Javiana O9 2

Montevideo O7 2

Putten O13 2

Saintpaul O4 2

Singapore O7 2

Virchow O7 2

その他 22

参考資料

1)秋庭ら, 家畜衛試研究報告, 102・103, 43-8, 1996より作成

2)伊藤ら, 動薬研究, 5(53), 1-11, 1996

3)食品由来感染症と食品微生物改定版, 中央法規出版, 154-91, 2009

4)吉井ら, 動衛研研究報告, 114, 45-50, 2008より作成

5)一般社団法人 日本養鶏協会ホームページ, 「サルモネラ感染防止のマニュアル」,

(2020/05/28アクセス)

6)朝日新聞, 2006年9月15日, “サルモネラ菌 採卵養鶏場1/4で検出”

7)農林水産省ホームページ, 鶏卵・鶏肉のサルモネラ対策,

(2020/05/28アクセス)

8)EUホームページ, Reducing Salmonella: Commission sets EU targets for laying hens and adopts new control rules,

(2020/05/28アクセス)

9)佐藤, 日獣会誌, 57, 671-7, 2004

10)govinfo(米国連邦政府)ホームページ, PartⅢ Department of Health and Human Services,

(2020/05/28アクセス)

11)govinfo(米国連邦政府)ホームページ, PartⅡ Department of Health and Human Services,

(2020/05/28アクセス)

12)Laneら, Emerg. Infect. Dis., 20(7), 1097-104, 2014

13)Ebelら, Int. J. Food Microbiol., 61, 51-62, 2000

14)USDAホームページ, Salmonella enterica serotype Enteritidis in table egg layers in the U.S.,

(2020/07/09アクセス)

15)USDAホームページ, Layers 2013,

(2020/05/28アクセス)

16)GOV.UK(英国政府)ホームページ, UK National Control Programme for Salmonella in Layers (gallus gallus),

(2020/07/09アクセス)

17)家畜衛生週報, 2927, 341-2, 2006

18)農林水産省家畜衛生対策事業全国検討会配布資料(平成18年3月)

19)農林水産省ホームページ, 採卵鶏農場のサルモネラ保有状況調査,

(2020/05/26アクセス)

20)Sasakiら, Epidemiol. Infect., 1-9, 2011

21)中村ら, 鶏病研報, 37(1), 36-43, 2001

22)農林水産省ホームページ, 採卵鶏農場の全鶏群のサルモネラ保有状況調査,

(2020/05/26アクセス)

23)農林水産省ホームページ, 採卵鶏農場のサルモネラ保有状況・鶏卵のサルモネラ汚染状況調査,

(2020/05/26アクセス)

24)佐々木ら, 鶏病研報, 55(4), 159-63, 2019より作成

  

お問い合わせ先;KMバイオロジクス株式会社 動物薬事業本部営業部学術管理課

         TEL096-345-6505 FAX096-345-7879KM2008-1

表5 佐々木らの調査(2017-2019年)24)

(このうち、3価ワクチン使用農場での結果)血清型 O群 分離農場数

Thompson O7 3

Altona O8 1

Corvallis O8 1

Infantis O7 1

Cerro O18 1

Albany O8 1

Haifa O4 1

13,23:y:- O13 1

血清型 O群 分離農場数

Altona O8 1

Corvallis O8 1

Albany O8 1

Haifa O4 1

13,23:y:- O13 1

※血清型分類は以下参照

(INSTITUT PASTEUR ホームページ , ANTIGENIC FORMULAE OF THE SALMONELLA SEROVARS,

                                   (2020/07/13 アクセス)