1. はじめに - kenken.go.jp...1 1. はじめに 1.1 研究の背景および目的...

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1 1. はじめに 1.1 研究の背景および目的 鉄筋コンクリート造建築物におけるかぶり厚 さは,建築物の耐久性,構造安全性,耐火性の 確保のために重要な役割を果たすことは言うま でもない。また,2000 年(平成 12 年)に施行 された「住宅の品質確保の促進等に関する法律 (品確法)」における劣化対策等級の仕様がかぶ り厚さによって規定されていることや, 2009 (平成 21 年)の日本建築学会 JASS 5[]の改定 によってかぶり厚さの検査の位置づけや検査方 法が明確になったことなど,近年かぶり厚さの 確保に対する要求が高まっている状況にある。 しかしながら,鉄筋の太径化や高密度化,部材 断面をできるだけ小さくする経済的な設計など の影響もあり,かぶり厚さの確保のためには従 来以上の配慮が必要である。 このような状況の下,鉄筋コンクリート造建 築物のかぶり厚さを確保するための,施工時に おける対策や施工後にかぶり厚さを確保するた めの適切な補修方法について検討するために, 平成 21 年9月から平成 24 年3月までの期間に おいて,独立行政法人建築研究所(以下,建築 研究所と記す)と社団法人日本建設業連合会(以 下,日本建設業連合会と記す)との共同研究を 実施した。日本建設業連合会においては,コン クリート品質専門部会の下に,会員 30 社の代表 から組織される「かぶり厚さ確保研究会」を設 置した。また,平成 22 年度および 23 年度にお いては,国土交通省が公募した建築基準整備促 進事業「防火・避難対策等に関する実験的検討」 における検討と連携し,ポリマーセメントモル タルを用いた補修部材の防耐火性の評価方法に ついての検討を行った。 本共同研究においては,上記の通り,かぶり 厚さの確保のための施工時の対策とかぶり厚さ 確保のための補修方法について検討している。 施工時の対策については,作業所および品質管 理部門へのアンケート調査やかぶり厚さの実測 データの分析などを行い,施工時におけるかぶ り厚さ確保のための現状や有効な対策について 述べている。施工後の補修方法については,使 用される材料が有機系のポリマーを含む材料で あることから,耐久性に加えて耐火性を両立さ せた補修材料および工法が要求され,材料およ び部材の耐久性や耐火性に関する実験的な検討 を行い,有効な補修方法について提案している。 本報告書は,これらの検討の成果について, 公表された資料に基づいてその概要をとりまと めたものである。 1.2 かぶり厚さと補修材料および補修工法 に関する法的な位置づけ 鉄筋コンクリート造建築物の鉄筋コンクリー ト造の構造部分のかぶり厚さは,建築基準法施 行令第 79 条によって規定されており,ここでの かぶり厚さを構成するコンクリートは,指定建 築材料として, JIS A 5308 (レディーミクストコ ンクリート)に適合するものか国土交通大臣の 認定を受けたものであることが原則となる。た だし,平成 13 年国土交通省告示第 1372 号にお いて,上記施行令第 79 条第 1 項を適用しない鉄 筋コンクリート造部材について定められており, この中でコンクリート以外の材料を使用する部 材の構造方法として第 2 項にポリマーセメント モルタル(もしくはエポキシ樹脂モルタル)に 関する規定が定められている。その主な規定は 下記の通りである。 コンクリート以外の材料にあっては,次に 掲げる基準に適合するポリマーセメントモル タル又はこれと同等以上の品質を有するエポ キシ樹脂モルタル(ただし、ロ(1)の曲げ強さ にあっては、 1 平方ミリメートルにつき 10 ュートン以上とする。)を用いること。 JIS A 6203(セメント混和用ポリマーディス パージョン及び再乳化形粉末樹脂)-2000 適合するセメント混和用ポリマー又はこれと 同等以上の品質(不揮発分及び揮発分に係る 品質を除く。)を有するものであること。

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Page 1: 1. はじめに - kenken.go.jp...1 1. はじめに 1.1 研究の背景および目的 鉄筋コンクリート造建築物におけるかぶり厚 さは,建築物の耐久性,構造安全性,耐火性の

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1. はじめに 1.1 研究の背景および目的

鉄筋コンクリート造建築物におけるかぶり厚

さは,建築物の耐久性,構造安全性,耐火性の

確保のために重要な役割を果たすことは言うま

でもない。また,2000 年(平成 12 年)に施行

された「住宅の品質確保の促進等に関する法律

(品確法)」における劣化対策等級の仕様がかぶ

り厚さによって規定されていることや,2009 年

(平成 21 年)の日本建築学会 JASS 5[1]の改定

によってかぶり厚さの検査の位置づけや検査方

法が明確になったことなど,近年かぶり厚さの

確保に対する要求が高まっている状況にある。

しかしながら,鉄筋の太径化や高密度化,部材

断面をできるだけ小さくする経済的な設計など

の影響もあり,かぶり厚さの確保のためには従

来以上の配慮が必要である。

このような状況の下,鉄筋コンクリート造建

築物のかぶり厚さを確保するための,施工時に

おける対策や施工後にかぶり厚さを確保するた

めの適切な補修方法について検討するために,

平成 21 年9月から平成 24 年3月までの期間に

おいて,独立行政法人建築研究所(以下,建築

研究所と記す)と社団法人日本建設業連合会(以

下,日本建設業連合会と記す)との共同研究を

実施した。日本建設業連合会においては,コン

クリート品質専門部会の下に,会員 30 社の代表

から組織される「かぶり厚さ確保研究会」を設

置した。また,平成 22 年度および 23 年度にお

いては,国土交通省が公募した建築基準整備促

進事業「防火・避難対策等に関する実験的検討」

における検討と連携し,ポリマーセメントモル

タルを用いた補修部材の防耐火性の評価方法に

ついての検討を行った。

本共同研究においては,上記の通り,かぶり

厚さの確保のための施工時の対策とかぶり厚さ

確保のための補修方法について検討している。

施工時の対策については,作業所および品質管

理部門へのアンケート調査やかぶり厚さの実測

データの分析などを行い,施工時におけるかぶ

り厚さ確保のための現状や有効な対策について

述べている。施工後の補修方法については,使

用される材料が有機系のポリマーを含む材料で

あることから,耐久性に加えて耐火性を両立さ

せた補修材料および工法が要求され,材料およ

び部材の耐久性や耐火性に関する実験的な検討

を行い,有効な補修方法について提案している。

本報告書は,これらの検討の成果について,

公表された資料に基づいてその概要をとりまと

めたものである。

1.2 かぶり厚さと補修材料および補修工法

に関する法的な位置づけ

鉄筋コンクリート造建築物の鉄筋コンクリー

ト造の構造部分のかぶり厚さは,建築基準法施

行令第 79 条によって規定されており,ここでの

かぶり厚さを構成するコンクリートは,指定建

築材料として,JIS A 5308(レディーミクストコ

ンクリート)に適合するものか国土交通大臣の

認定を受けたものであることが原則となる。た

だし,平成 13 年国土交通省告示第 1372 号にお

いて,上記施行令第 79 条第 1 項を適用しない鉄

筋コンクリート造部材について定められており,

この中でコンクリート以外の材料を使用する部

材の構造方法として第 2 項にポリマーセメント

モルタル(もしくはエポキシ樹脂モルタル)に

関する規定が定められている。その主な規定は

下記の通りである。

一 コンクリート以外の材料にあっては,次に

掲げる基準に適合するポリマーセメントモル

タル又はこれと同等以上の品質を有するエポ

キシ樹脂モルタル(ただし、ロ(1)の曲げ強さ

にあっては、1 平方ミリメートルにつき 10 ニ

ュートン以上とする。)を用いること。

イ JIS A 6203(セメント混和用ポリマーディス

パージョン及び再乳化形粉末樹脂)-2000 に

適合するセメント混和用ポリマー又はこれと

同等以上の品質(不揮発分及び揮発分に係る

品質を除く。)を有するものであること。

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ロ JIS A 1171(ポリマーセメントモルタルの試

験方法)-2000 に規定する試験によって,次

に掲げる試験の種類ごとに,それぞれ(1)から

(4)までに掲げる強さの数値以上であること

が確かめられたものであること。

(1) 曲げ強さ 1平方ミリメートルにつき6

ニュートン

(2) 圧縮強さ 1平方ミリメートルにつき 20

ニュートン

(3) 接着強さ 1平方ミリメートルにつき1

ニュートン

(4) 接着耐久性 1平方ミリメートルにつき

1ニュートン

二 鉄筋に対するかぶり厚さ(前号に規定する

材料の部分の厚さを含む。以下この号におい

て同じ。)が令第 79 条第 1 項に規定するかぶ

り厚さの数値以上であり,鉄骨に対するかぶ

り厚さが令第79条の3第1項に規定する数値

以上であること。

また,第五号には,この材料による補修部分

を除いた部材または架構の構造耐力が施行令第

79条第1項に規定する値の場合よりも著しく低

下しないことが求められている。

このような,補修材料の材料的な品質および

構造耐力に対する要求に加え,耐火構造が要求

される場合には,平成 12 年建設省告示第 1399

号に定められている耐火構造の構造方法に適合

するか,耐火性能に関して国土交通大臣の認定

を受ける必要がある。上記告示における構造方

法においては,前述のポリマーセメントモルタ

ル等の材料を用いる場合には防火上支障がない

ものであることが要求されている。ただし,こ

こでの防火上支障がないということについては,

明確な規定はなく,これらの告示に関する解説

書[2]において,ポリマーセメントモルタル等

を壁厚さ等に算入する場合には,爆裂等の防火

上の支障が起こらないことを実験等により確認

したものとする必要があると述べられている。

また,ポリマーセメントモルタル層の厚さが

20mm 以下で,ポリマーセメント比(P/C)が4%

以下であれば爆裂が生じにくいことが実験的に

確認されていると述べられている。

その他,建築物の内装制限が適用される場所

に仕上げとして使用する場合には,建物の用途

および使用される場所や室床面積に応じて不燃

材料,準不燃材料,難燃材料であることが求め

られる場合があり,その場合,不燃材料等であ

ることの評価には,指定性能評価機関が実施す

る試験結果に基づき,国土交通大臣の認定が必

要になる。ここで、防火上支障がないことと不

燃材料であるということは同義ではないことに

注意が必要である。

本研究は,これらの建築基準法における規定

を満足することのできる補修材料の選定の方法

および補修工法の提案を行うものであり,耐久

性および防耐火性の評価方法とその結果,およ

び実際の工事における施工要領等をまとめたも

のである。

<参考文献>

[1] 日本建築学会:建築工事標準仕様書 鉄

筋コンクリート工事 JASS 5,2009.2

[2] 国土交通省住宅局編集:平成 17 年 6 月 1

日施行改正建築基準法・同施行令等の解

説,ぎょうせい,2005.8

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2.研究体制

研究の実施体制を図-2.1 に示す。2009 年9

月から 2012 年3月までの期間において,建築

研究所と日本建設業連合会との共同研究「RC建築物のかぶり厚さの信頼性向上に関する研

究」に関する共同研究」を実施した。日本建設

業連合会においては,コンクリート品質専門部

会の下に「かぶり厚さ確保研究会」設置し,そ

の下に材料 WG,施工 WG および防耐火 WG の

3つのワーキンググループを設けて,2009 年 9月より活動を開始した。また,施工 WG の下に

かぶり実態調査サブワーキンググループを設け

て,研究会参画会社を対象にかぶり厚さの実態

調査アンケートを行うとともに,かぶり厚さ確

保のポイントを整理した。試験体の製作につい

ては,ポリマーセメントメーカーの協力を得て

行った。 なお,研究活動期間において,かぶり厚さ確

保研究会の委員は,国土交通省の建築基準整備

促進事業の「課題 15 防火・避難対策等に関す

る実験的検討(6.ポリマーセメントモルタルに

より断面補修した RC 造部材の防耐火性能に関

する実験的検討)」に設置されたポリマーセメン

トモルタル検討委員会(研究期間 2010 年 7 月

~2012 年 3 月)へ参画し,実大部材の載荷加

熱試験等を実施した。 研究会および各ワーキンググループの委員を

次頁以降に示す。

(独)建築研究所

(社)日本建設業連合会

コンクリート品質専門部会

かぶり厚さ確保研究会

施工WG材料WG 防耐火WG

かぶり実態調査SWG

建築基準整備促進事業

15.防火・避難対策等に関

する実験的検討

ポリマーセメント

モルタル検討委員会

ポリマーセメントモルタルメーカー

参画

共同研究

協力

図-2.1 研究の実施体制

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研究会参加者名簿(平成 24年 4月現在)

独立行政法人 建築研究所

幹 事 材料研究グループ 主任研究員 濱崎 仁 材料研究グループ 上席研究員 鹿毛 忠継 防火研究グループ 上席研究員 萩原 一郎 防火研究グループ 研究員 茂木 武 防火研究グループ 研究員 吉田 正志 構造研究グループ グループ長 福山 洋 建築生産研究グループ(~2011.3) 主任研究員 根本 かおり 防火研究グループ(~2011.3) 主任研究員 吉岡 英樹 日本建設業連合会 かぶり厚さ確保研究会 委員名簿

主 査 鹿島建設株式会社 閑田 徹志 副主査 東洋建設株式会社 安田 正雪 材料 WG 主査 株式会社竹中工務店 小島 正朗 施工 WG 主査 株式会社大林組 神代 泰道 耐火 WG 主査(2010.6~) 大成建設株式会社 道越 真太郎 耐火 WG 主査(~2010.5) 大成建設株式会社 馬場 重彰 幹 事 株式会社間組 山田 人司 〃 株式会社錢高組 山崎 裕一 〃 株式会社熊谷組 野中 英 〃 株式会社長谷工コーポレーション 吉岡 昌洋 〃 株式会社鴻池組 住 学

〃 清水建設株式会社 森田 武 委 員 株式会社淺沼組 立松 和彦 〃 五洋建設株式会社 高橋 祐一

〃 佐藤工業株式会社 日高 晶 〃 東亜建設工業株式会社 山田 雅裕 〃 戸田建設株式会社 梅本 宗宏 〃 西松建設株式会社 和田 高清 〃 前田建設工業株式会社 梶田 秀幸 〃 安藤建設株式会社 安部 弘康 〃 大木建設株式会社 柳田 淳一 〃 西武建設株式会(2010.6~) 山岸 直樹

(~2010.5) 大沼 満 〃 大末建設株式会社 三枝 輝昭

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〃 大日本土木株式会社 吉田 敏之 〃 東急建設株式会社 大岡 督尚 〃 飛島建設株式会社 土屋 芳弘 〃 三井住友建設株式会社 加納 嘉 〃 株式会社奥村組 起橋 孝徳 〃 鉄建建設株式会社 唐沢 智之 〃 株式会社ピーエス三菱 中瀬 博一 〃 株式会社フジタ 松戸 正士

アドバイザー 一般財団法人ベターリビング 遊佐 秀逸 事務局 社団法人日本建設業連合会 宅和 良祐 材料ワーキンググループ 委員名簿

主 査 株式会社竹中工務店 小島 正朗 幹 事 株式会社熊谷組 野中 英 委 員 株式会社間組 山田 人司 〃 株式会社淺沼組 立松 和彦 〃 五洋建設株式会社 高橋 祐一

〃 佐藤工業株式会社 日高 晶 〃 東亜建設工業株式会社 山田 雅裕 〃 戸田建設株式会社 梅本 宗宏 〃 西松建設株式会社 和田 高清 〃 前田建設工業株式会社 梶田 秀幸

協力委員 株式会社間組 鈴木 好幸 施工ワーキンググループ 委員名簿

主 査 株式会社大林組 神代 泰道 幹 事 株式会社鴻池組 住 学 幹 事 株式会社長谷工コーポレーション 吉岡 昌洋 委 員 株式会社錢高組 山崎 裕一 〃 安藤建設株式会社 安部 弘康 〃 大木建設株式会社 柳田 淳一 〃 西武建設株式会社 山岸 直樹 〃 大末建設株式会社 三枝 輝昭

〃 大日本土木株式会社 吉田 敏之 〃 東急建設株式会社 大岡 督尚 〃 飛島建設株式会社 土屋 芳弘 〃 三井住友建設株式会社 加納 嘉

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防耐火ワーキンググループ 委員名簿

主 査 大成建設株式会社 道越 真太郎 幹 事 清水建設株式会社 森田 武 委 員 株式会社間組 山田 人司 〃 株式会社奥村組 起橋 孝徳 〃 鉄建建設株式会社 唐沢 智之 〃 戸田建設株式会社 梅本 宗宏

〃 株式会社ピーエス三菱 中瀬 博一 〃 株式会社フジタ 松戸 正士 〃 前田建設工業株式会社 梶田 秀幸 〃 大成建設株式会社 加藤 雅樹

アドバイザー 一般財団法人ベターリビング 遊佐 秀逸 オブザーバー 三生技研株式会社 井口 久生 かぶり実態調査サブワーキンググループ 委員名簿

主 査 三井住友建設株式会社 加納 嘉 委 員 株式会社大林組 神代 泰道 〃 株式会社鴻池組 住 学 〃 株式会社長谷工コーポレーション 吉岡 昌洋 〃 大末建設株式会社 三枝 輝昭 〃 西武建設株式会社 山岸 直樹 〃 飛島建設株式会社 土屋 芳弘

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3.かぶり厚さ補修に関する実験

3.1 かぶり厚さ補修用ポリマーセメントモル

タルに関する研究

3.1.1 目的

ポリマーセメントモルタルは,付着性に優れ,

コンクリートとの一体性を図れることから,既存

の建物の補修・補強等に必要不可欠な材料である。

しかし,ポリマーセメントモルタルの耐久性や防

耐火性に関する知見は少なく,ポリマーセメント

モルタルが,かぶりコンクリートの果たす鉄筋保

護効果と同等の役割機能を果たすことができるか

どうかという観点からの評価は十分とはいえない

状況にある。また,構成材料として有機物である

ポリマーを含むため,火災時や高温下での性状に

ついて把握した上で適切に使用する必要がある。

セメント混和用ポリマーを調整して混入したポリ

マーセメントモルタルに対して,ポリマーの種類

や混入量が燃焼特性や熱伝導率等に及ぼす影響の

研究[1],発熱性に及ぼす影響の研究[2],高温を受

けたときの力学特性の研究[3]などが行われ,各種

特性に関して様々な知見が報告されている。しか

し,一般に市販されているポリマーセメントモル

タルは,そのほとんどがプレミックス製品であり,

ポリマーの種類や含有量,水結合材比,砂結合材

比,有機繊維の種類や含有量,収縮低減剤や膨張

材の有無など内容物の詳細は開示されておらず,

ポリマーセメントモルタルの性能に大きく影響す

る材料調合がどのようになっているか不明なのが

実態である。

そこで本研究では,国内で市販されているプレ

ミックスタイプのポリマーセメントモルタルを対

象に,基本材料特性,火災を想定した加熱時の発

熱特性,および耐久性を把握する試験を行い,か

ぶり厚さ補修用の材料としての適用性について検

討した。

3.1.2 実験概要

(1) 実験シリーズ

実験は,ポリマーセメントモルタルの基本性能

を把握するための実験(実験1)と,耐久性を確

認するための実験(実験2)を行った。実験1お

よび実験2の検討項目を表-3.1.1に示す。

表-3.1.1 実験シリーズと検討項目

分 類 試験項目 実験1 実験2

フレッシュ特性 モルタルフロー ● ●

モルタルスランプ ● ●

空気量 ● ●

力学特性 圧縮強さおよび曲げ強さ ● ●

圧縮強度および静弾性係数 ● -

接着強さ ● -

加熱時特性 着火性 ● -

発熱性 ● -

加熱時の吸発熱特性 ● ●

耐久性 中性化抵抗性 - ●

乾燥収縮特性 - ●

塩化物イオン浸透抵抗性 - ●

凍結融解抵抗性 - ●

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実験1では,本研究会でかぶり厚さ補修用ポリ

マーセメントモルタルとしてメーカーに製品を公

募し,応募のあった13銘柄と,比較用としてポリ

マーを添加して調整した調合既知のポリマーセメ

ントモルタル 5 調合について,性能比較試験を行

なった。試験項目は,ポリマーセメントモルタル

の基本性能を確認試験するための試験としてフレ

ッシュ性状,力学性能の確認,およびポリマーセ

メントモルタルが火災により加熱された場合の加

熱時特性とした。

実験2では,実験で基本性能および発熱特性が

良好であることが確認された銘柄,一部改良を加

えた市販品11銘柄と,比較用としてポリマーを添

加して調整した調合既知のポリマーセメントモル

タル 3 調合を対象として,フレッシュ性状および

耐久性に関する実験を行った。

(2) 使用材料

実験に使用したポリマーセメントモルタルのポ

リマー種類およびポリマー量と,使用した実験シ

リーズを表-3.1.2に示す。

市販のポリマーセメントモルタルのポリマーの

種類,ポリマー量についてはメーカーから開示さ

れた情報で,ポリマーセメント比(P/C)で表した。

各材料の混入量はメーカーからの情報提供の通り

記載している。ポリマー種類は,エチレン・酢酸

ビニル共重合樹脂(略称:EVA),酢酸ビニル・バ

ーサテート共重合樹脂(略称:VVA),アクリル酸

エステル共重合樹脂(略称:PAE),スチレンブタ

ジエンラバー(略称:SBR)の4つの系統のもの

が使用されている。

調整した調合既知のポリマーセメントモルタル

は,セメントは普通ポルトランドセメント,細骨

材は大井川産川砂(粗粒率:2.97,表乾比重:

2.63g/cm3,吸水率:1.81%)を使用した。ポリマー

は,JIS A 6203に規定される,EVA,VVA,SBR

を使用した。

使用したポリマーの特性値を表-3.1.3 に示す。

表-3.1.2 ポリマーセメントモルタルのポリマー種類および量

区別 記号 ポリマー 種類

ポリマー量 (P/C)

実験1 実験2

市販品

A EVA 4~8% ● ●

B EVA 4%以下 ● -

C EVA 約2% ● ●

D VVA 5~10% ● ●

E PAE 4~10% ● ●

F PAE 約4% ● ●

G PAE 4~5% ● ●

H PAE 2~4% ● -

I PAE 4%以下 ● ●

J PAE 5~10% ● ●

K SBR 4~10m% ● -

L SBR 5~10% ● -

M 無し - ● -

S PAE 1~5% - ●

T PAE 2~5% - ●

U EVA 2~6% - ●

調合既知

N 無し - ● ●

O EVA 4.2% (20kg/m3) ● ●

P EVA 10.5% (50kg/m3) ● ●

Q VVA 4.2% (20kg/m3) ● (●)

R SBR 4.2% (20kg/m3) ● (●)

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調合既知のポリマーセメントモルタルについては,

表-3.1.2に P/C と単位ポリマー量(kg/m3)を併記

した。調合は,水セメント比を 50%,セメント砂比

(質量比)を1:3とした。

躯体保護効果の確認のために作製した試験体に用

いた躯体を模したコンクリートには,水セメント比

55%,目標スランプ18cm,目標空気量4.5%のレディ

ーミクストコンクリートを使用した。使用材料を表

-3.1.4に,調合を表-3.1.5に示す。躯体コンクリ

ートはポリマーセメントモルタルによる施工の 2 週

間前に製作した。中性化促進試験開始時の材齢は 42

日で,圧縮強度は32.7N/mm2であった。

表-3.1.3 調合既知のモルタルに使用したポリマーの特性値

再乳化形 粉末樹脂

揮発分 (%)

粒子径* (%)

酸価 (mgKOH/mg)

見掛け密度 (g/ml)

EVA 2.0以下 2以下 2.0以下 0.50±0.10 VVA 2.0以下 2以下 2.0以下 0.53±0.10

ポリマーディスパー

ジョン 固形分

(%) pH

(20℃) 粘度

(mPa・s) 密度 (g/ml)

SBR 44.6 8.0~9.0 500~1500 1.0

*:300μmふるい残分

表-3.1.4 コンクリートに使用した材料

セメント 普通ポルトランドセメント(密度:3.15g/cm3)

粗骨材 茨城県つくば市産砕石 (表乾密度:2.69g/cm3・実積率:60.0%)

細骨材 茨城県行方市産陸砂,栃木県佐野市産砕砂混合 (表乾密度:2.61g/cm3・粗粒率:2.69)

混和剤 リグニンスルフォン酸塩系AE減水剤(標準型Ⅰ種)

表-3.1.5 コンクリートの調合および圧縮強度

W/C (%)

S/a (%)

単位量(kg/m3) 圧縮強度(N/mm2) C W S G AE

55.0 46.6 324 178 821 968 3.47 32.7

(3) 告示 1372 号における試験方法および評

価基準

平成 13 年国土交通省告示第 1372 号第 2 項(以

下,告示1372号)に規定されるポリマーセメント

モルタルに求められる強度等の基準値を表-

3.1.6に示す。告示第1372号においては,かぶり

部分のコンクリートをポリマーセメントモルタル

等のコンクリート以外の材料とする場合の,圧縮

強さ,曲げ強さ,接着強さ,接着耐久性について

強度の基準値が定められている。しかし告示1372

号では,火災時の燃焼や発熱などの特性や,耐久

性に関する規定はない。かぶりコンクリートの機

能には,火災時に鉄筋の温度が上昇するのを抑制

する効果や,鉄筋防錆効果が期待されていること

を考えると,現行の告示1372号で示された基準内

容では十分とは言えないと考えられる。

(4) 試験項目,試験方法および試験体

1) フレッシュ特性

フレッシュ特性の試験項目および試験方法を表

-3.1.7に示す。

コンシステンシーの評価として,モルタルフロ

ー,スランプ(モルタル用ミニスランプ)試験を

実施した。

空気量は,容量1リットルのエアメーターを用

いて空気室圧力方法で測定した。

2) 力学特性

力学特性の試験項目および試験方法を表-

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10

3.1.8に示す。力学特性試験用の供試体の養生は,

JIS A 1171に規定される養生条件(2日間湿空・5

日間水中・21日間気中養生)に従った。

① 圧縮強さおよび曲げ強さ

試験体の形状および寸法は,原則として JIS 等

の規定に準じ,圧縮強さおよび曲げ強さ試験は,

40×40×160mmの角柱供試体を用いた。

② 圧縮強度および静弾性係数

圧縮強度および静弾性係数については,

φ50×100mmの円柱供試体を用いた。

③ 接着強さおよび接着耐久性

接着強さおよび接着耐久性の試験は,引張り試

験について建研式接着力試験機を用い,これにあ

わせてモルタル基材の大きさを100×100×20mmの

平板とした。

接着試験体の下地処理として,市販品について

プライマー処理を標準的に行う材料の場合にはプ

ライマー処理を行ったものと行わないものの 2 つ

の水準とし,プライマー処理を標準としない材料

および既知の調合の材料の場合には,プライマー

処理は行っていない。

3) 加熱時特性

ポリマーセメントモルタルの加熱時特性の試験

項目および試験方法を表-3.1.9に示す。

① 着火性

着火性試験は,着火や爆裂の有無を確認するた

めの試験として実施した。試験体は,150×150mm

の平板で厚さを10mm,30mm,50mmとした。試

験体は,150mm角の角柱供試体に打ち込んだ後に

所定の厚さに切断した。

試験体の養生は,JIS A 1171 に規定される材齢

28日までの養生後,60℃の乾燥器内で3日間乾燥

した後,デシケータ内で室温まで徐冷した。試験

体の含水率は,別途求めた吸水率を用いて推定し

た値で厚さ10mmが0.3~2.7%(平均1.6%),厚さ

30mmが1.7~5.5%(平均3.6%),厚さ50mmが2.7

~7.2%(平均5.0%)であった。試験体数は各条件

2体を標準として行った。

着火性試験で与える輻射熱量は発熱性試験と同

じ50kW/m2とした。

② 発熱性

試験体は,100×100mmの平板で厚さを10mmと

した。試験体は,100mm角の角柱供試体に打ち込

んだ後,10mmの厚さにの切断した。

発熱性試験においては,ポリマーセメントモル

タルが,不燃材料相当の発熱性であるかどうかを

評価した。評価は,加熱開始後20分間の総発熱量

が 8MJ/m2を超えないこと,最大発熱速度が 10 秒

以上継続して 200kW/m2 を超えないことおよび防

火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴が生じ

ないことが不燃材料としての要件となる。

発熱性試験の試験体の養生は,着火性試験と同

様に JIS A 1171に規定される材齢28日までの養生

後,60℃の乾燥器内で 3 日間乾燥した後,デシケ

ータ内で室温まで徐冷した。試験体(厚さ10mm)

の含水率は,0.6~2.9%(平均1.8%)であった。試

験体数は各条件2体を標準として行った。

なお,発熱性試験における試験体厚さおよび乾

燥の条件については,発熱量が大きく安全側の評

価をするための条件として決定した[4]。

③ 加熱時の吸発熱特性

TG-DTA(示差熱-熱重量同時測定)により熱分

析を行なった。測定に供した試料は,ポリマーセ

メントモルタル硬化体を乳鉢で粉末状にすりつぶ

した後ふるいにかけ,細骨材や繊維を出来るだけ

取り除いた試料約 50mg を用いて測定を行なった。

昇温速度は 20℃/min とし,温度範囲が 30℃~

1000℃の空気雰囲気中で測定した。

④ 耐爆裂性

耐爆裂性の評価試験は,φ45×50mm のポリマー

セメントモルタルを 800℃に保った電気炉内に 20

分間静置し,損傷状況等を確認した。その際,試

験体の含水率は4~6%にあることを確認した。

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11

表-3.1.6 告示1372号における強度等の基準値

試験項目 試験方法 基準値

力学性状

圧縮強さ JIS A 1171 20N/mm2以上

曲げ強さ JIS A 1171 6N/mm2以上

接着強さ JIS A 1171 1N/mm2以上

接着耐久性 JIS A 1171 1N/mm2以上

表-3.1.7 試験項目,試験方法および試験体(フレッシュ性状)

試験項目 試験方法 備 考

モルタルフロー JIS R 5201 15打フロー

スランプ JIS A 1171 底辺φ100上辺φ50高さ150mmミニスランプ

空気量 JIS A 1128 空気圧法(容量1L)

表-3.1.8 試験項目,試験方法および試験体(力学特性)

試験項目 試験方法 試験体 養生方法,試験材齢

圧縮強さ JIS A 1171 40×40×160mm 28日(2日間湿空・5日間水中・21日間気

中養生) 曲げ強さ JIS A 1171

圧縮強度 JIS A 1108 φ50×100mm 同上

静弾性係数 JIS A 1149

接着強さ JIS A 1171 100×100×20mmのモ

ルタル基盤上に幅

40×40×10mm厚

同上

接着耐久性

JIS A 1171 上記方法で材齢25日まで養生後水中3日

浸漬後,-20℃と50℃の温冷繰り返し10回

(1日1回)実施後

表-3.1.9 試験項目,試験方法および試験体(加熱時特性)

試験項目 試験方法 試験体 養生方法, 試験材齢

着火性 JIS A 9523附属書1 150×150mmの平板で

厚さ10mm,30mm,50mm

JIS A 1171に規

定の養生*後,

60℃乾燥器内

で3日間乾燥

発熱性 ISO 5660-1 100×100mmの平板で

厚さ10mm

加熱時の

吸発熱特性

TG-DTA(温度範囲30℃~1000℃(空気

中),昇温速度20℃/min)

乳鉢で粉砕した試料

約50mg

耐爆裂性 常温の試験体を800℃に保った電気炉

内に入れた状態で20分間静置 φ45×50mm円柱供試体

含水率が5±

1%になるよう

に恒温恒湿槽

内で調整

・材齢2日まで湿空,材齢7日まで20℃水中養生,その後材齢28日まで20℃気中養生

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12

4) 耐久性

耐久性の試験項目および試験方法を表-3.1.10

に示す。

①中性化

試験体は図-3.1.1 に示すように,ポリマーセ

メントモルタル単体の場合(試験体 A)と,コン

クリート面をポリマーセメントモルタルで補修し

た状態を模擬しコンクリートの片面にポリマーセ

メントモルタルを施工した場合(試験体 B)の2

種類とした。コンクリート面へのポリマーセメン

トモルタルの施工は,下地コンクリートの材齢14

日に施工した。

試験体の組合せを表-3.1.11 に示す。試験は,

促進中性化試験と屋外曝露による中性化測定の2

パターンとした。

中性化前の試験体の前養生は,材齢 2 日まで湿空

養生して脱型後材齢7日まで20℃水中養生,その

後材齢28日まで20℃60RH%気中養生した場合と,

実施工を模擬して材齢 2 日までシート養生後,材

齢 28 日まで 20℃60RH%気中養生した場合の 2 種

類とした。施工後材齢7 日まで試験体をビニール

シートで覆って急激な乾燥を防止している。

促進中性化試験は,JIS A 1153に従い,試験開始材

齢を28日として,1,4,8,13,26週経過時点の

中性化深さを測定した。中性化深さの測定は,試

験体は,割裂面の両面を計10点測定し,試験体は,

コンクリート面とポリマーセメントモルタル面の

各 5 点ずつ測定した。屋外曝露試験は,材齢 2 日

までシート養生を行ったのち,材齢28日まで20℃

60%RHで気中養生した後,茨城県つくば市の屋外

にて曝露した。曝露1年後に,ポリマーセメント

補修面の中性化深さと,もう一方のコンクリート

面の中性化深さを促進中性化試験と同様の方法で

測定した。

試験体A(PCM単体) 試験体B(PCM補修)

図-3.1.1 試験体形状・寸法[単位:mm]

表-3.1.10 試験項目,試験方法および試験体(耐久性)

試験項目 試験方法 試験体 養生方法,試験材齢

中性化

抵抗性 JIS A 1153

PCM単体およびPCM補修試

験体(図-3.1.2.1参照)

促進中性化試験および屋外曝露試験(表-

3.1.2.4参照)

乾燥収縮

特性 JIS A 1129-2 40×40×160mm*1

材齢28日までJIS A 1171に規定の養生*2を行

い20℃60RH%の室内で基長を測定後,1,2,

4,8,13,26 ,52週に測定

塩化物

イオン浸

透抵抗性

JIS A 1171 100×100×100 mm*1

材齢28日まで JIS A 1171に規定の養生*2後,

JIS A 6205 付属書1に規定の塩分溶液に浸せ

きして28 日後,56 日後に測定

凍結融解

抵抗性

JIS A 1148

JIS A 1171 40×40×160 mm*1

材齢28日まで JIS A 1171に規定の養生*2後,

水中凍結水中融解30サイクルごと300サイ

クルまで動弾性係数を測定

*1:試験体の寸法は,JIS A 1171に従った

*2:材齢2日まで湿空,脱型後材齢7日まで20℃水中,その後材齢28日まで20℃60RH%気中養生

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13

表-3.1.11 中性化試験の概要

試験の

種類

試験体 前養生 中性化

試験体A (PCM単体

100×100×100 mm)

試験体B (PCM補修) JIS A

1171*1 シート養

生*2

中性化 開始 材齢

測定材

齢 10mm厚 30mm厚

促進試験

● ●

28日 1,4,8,13,26 週

● ● ● ● ● ●

曝露試験 ● ●

28日*3 1年 ● ●

*1:材齢2日まで湿空,脱型後材齢7日まで20℃水中,その後材齢28日まで20℃60%RH気中養生

*2:材齢2日までシート養生後,材齢28日まで20℃60%RH気中養生

*3:屋外曝露を開始した材齢

②乾燥収縮試験

前養生は,材齢 2 日まで湿空,脱型後材齢 7 日

まで20℃水中とした JIS A 1171に規定される養生

とした場合と,材齢 2 日までの湿空養生だけとし

た場合の2通りとした。

前養生を終了後,20℃・60%RHの恒温恒湿室で

JIS A 1129-2 に従い試験体の基長を測定し,その後

の乾燥期間 1,2,4,8,13,26 ,52 週に測長し

て,長さ変化率を求めた。

③塩化物イオン浸透深さ試験

JIS A 1171 に従い,前養生後,温度20℃で JIS A

6205 の付属書1 に規定する塩分溶液に浸せきし,

28 日,56 日経過した後に取り出した。塩化物イ

オン浸透深さの測定は,割裂面に0.1%フルオレセ

インナトリウム水溶液および 0.1N 硝酸銀溶液を

噴霧して,蛍光を発する部分を塩化物イオン浸透

域とし,塩化物イオンが浸透した1 側面から5箇

所ずつ,計10 か所を測定した。

④凍結融解試験

JIS A 1171に従い前養生後,JIS A 1148による水

中凍結水中融解を300 サイクル行い,凍結融解に

対する抵抗性を評価するために相対動弾性係数を

求めた。動弾性係数は,市販の測定器により試験

体長手方向の縦波超音波の伝搬時間から音速を測

定し,式(1)により簡易的に算出した。

2pd VE (1)

ここに, Ed :動弾性係数(N/m2)

ρ :試験体密度(kg/m3)

Vp :超音波音速(m/s)

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14

3.1.3 実験結果

(1) フレッシュ特性

試験したポリマーセメントモルタルのフレッシ

ュ性状を,表-3.1.12に示す。参考に,JIS A 1171

による圧縮強さも併せて示す。

モルタルフロー(15 打)は,130~200mm 程度

の範囲であった。空気量は,最小で3%程度,最も

大きいものは 10%を超えており,銘柄による違い

が見られた。しかし,空気量が大きい銘柄でも,

圧縮強度はいずれも40N/mm2を超えており,告示

1372 号に規定される基準値 20N/mm2 を十分に上

回っていることが確認できる。

(2) 力学特性

1) 圧縮強さおよび曲げ強さ

ポリマーセメントモルタルの圧縮強さ,曲げ強

さを図-3.1.2に示す。

ポリマーセメントモルタルの場合,ポリマーの

混入が大きくなると,他の条件が同じ場合には圧

縮強度や弾性係数が低下し,曲げ強度は若干大き

くなる傾向にあることが分かっている[3]。しかし

ながら,今回実験を行った材料は,いずれも高強

表-3.1.12 ポリマーセメントモルタルのフレッシュ性状

区別 記

ポリマー

種類

ポリマー量

(P/C)

実験1 実験2

モルタ

ルフロ

ー(mm)

スラン

(mm)

空気量

(%)

圧縮

強さ

モルタ

ルフロ

ー(mm)

スラン

(mm)

空気量

(%)

圧縮

強さ

市販品

A EVA 4~8% 128 5 5.8 48.2 150 47 7.6 50.6

B EVA 4%以下 183 66 9.2 44.0 - - - -

C EVA 約2% 197 98 8.5 61.1 170 65 8.5 75.2

D VVA 5~10% 168 31 6.4 53.6 169 36 4.6 55.0

E PAE 4~10% 150 10 8.5 61.5 164 42 12.5 51.5

F PAE 約4% 161 40 7.7 66.3 150 46 5.7 81.0

G PAE 4~5% 147 16 5.2 60.8 170 35 3.4 67.4

H PAE 2~4% 131 24 4.3 71.1 - - - -

I PAE 4%以下 161 18 15.0 47.4 167 37 13.2 48.1

J PAE 5~10% 152 15 5.2 73.3 161 26 4.8 65.3

K SBR 4~10m% 149 47 9.9 62.3 - - - -

L SBR 5~10% 146 38 6.7 52.6 - - - -

M 無し - 152 56 5.3 93.9 - - - -

S PAE 1~5% - - - - 192 75 10.2 43.3

T PAE 2~5% - - - - 171 32 4.8 74.8

U EVA 2~6% - - - - 177 83 13.5 55.6

調合既

N 無し - 179 26 3.2 65.3 188 35 3.5 66.4

O EVA 4.2% (20kg/m3) 191 65 4.2 67.2 193 86 3.2 61.5

P EVA 10.5% (50kg/m3) 184 89 3.2 63.4 192 96 3.6 57.0

Q VVA 4.2% (20kg/m3) 192 75 6.1 61.1 (192) (75) (6.1) -

R SBR 4.2% (20kg/m3) 193 73 9.1 44.9 (193) (73) (9.1) -

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15

度の材料であり,告示1372号における基準値より

も相当に大きな値である。

2) 圧縮強度および静弾性係数

圧縮強度および静弾性係数を図-3.1.3に示す。

また,圧縮強度と静弾性係数の関係を図-3.1.4

に示す。

圧縮強度と静弾性係数の関係として,JASS 5[5]

に示される関係式に,コンクリートの単位容積質

量として 2.3t/m3 とした場合の関係を比較した。

JASS 5に示されるコンクリートの関係式に対して

は,一つの材料を除いて概ね相対的に小さい値と

なるが,材料の圧縮強度が大きいことから,18~

45N/mm2 程度の一般的な強度のコンクリートと同

程度の弾性係数になることが分かる。

3) 接着性

図-3.1.5に材料ごとの接着強さ,図-3.1.6に

接着耐久性試験の結果を示す。

接着試験の結果は,概ね1N/mm2を超えている。

接着耐久性については,全体的に接着力が低下し

ており,特にプライマーの塗布がない場合には

1N/mm2を下回る材料も多く見られる。ただし,実

際の施工においては,吸水防止材としてプライマ

ーが塗布される場合が多いことを考慮すると,補

修部の一体性の確保に必要な接着性を確保するこ

とは十分可能であると思われる。

図-3.1.2 圧縮強さおよび曲げ強さ

図-3.1.3 圧縮強度および静弾性係数

図-3.1.4 圧縮強度と静弾性係数の関係

図-3.1.5 接着試験の結果

図-3.1.6 接着耐久性試験の結果

0

5

10

15

20

25

0

20

40

60

80

100

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R

曲げ強

さ(N/m

m2)

圧縮強

さ(N/m

m2)

材料記号

圧縮強さ曲げ強さ

0

10

20

30

40

50

0

20

40

60

80

100

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R

静弾性

係数

(kN/m

m2)

圧縮強

さ(N/m

m2)

材料記号

圧縮強さ静弾性係数

0

10

20

30

40

0 20 40 60 80 100

静弾性係

数(kN/m

m2)

圧縮強度 (N/mm2)

実験値

JASS 5関係式

0

1

2

3

4

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R

接着

強さ(N/m

m2)

材料記号

プライマー無し

プライマー有り

0

1

2

3

4

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R

接着強さ(N/m

m2)

材料記号

プライマー無し

プライマー有り

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16

(3) 加熱時特性

1) 着火性

表-3.1.13に着火性試験の結果を示す。試験の

結果は試験中(20分間)の発煙および着火の有無

で表している。

厚さ 10mm の試験体では,発煙は多くの材料に

発生し,着火は SBR を使用したものおよび PAE

で比較的混入量が多い材料に発生している。30mm

および 50mm の厚さでは発煙,着火ともにほとん

ど発生しておらず,これは,試験体厚さが大きく

なるほど,試験体の熱容量が大きくなり,内部の

温度が上昇しにくくなることによる 4)。

2) 発熱性

図-3.1.7に材料ごとの総発熱量および最大発

熱速度,図-3.1.8にポリマー量と総発熱量の関

係をポリマーの種類ごとに整理した図を示す。総

発熱量および最大発熱速度は複数回の試験の最大

値を用い,ポリマー量の記載に幅がある場合には

その中央値を用いた。

総発熱量は,市販の SBR 系および PAE 系の一

部を除くと不燃材料の要件である 8MJ/m2 を下回

っている。また,最大発熱速度はいずれも

200kW/m2を下回っている。試験体の爆裂や大きな

損傷はいずれの試験体にも確認されなかった。ポ

リマー量(P/C)と総発熱量の関係は,ポリマーの

種類ごとに見ると概ね比例関係にあり,SBR 系を

除くと P/C=10%程度までにおいて総発熱量が

8MJ/m2以下であることが分かる。ただし,材料に

よっては有機系の繊維などが含まれていることや

セメント量によってポリマーの絶対量が異なるこ

となどから P/C のみで不燃性を評価することは必

ずしも適切ではない。

図-3.1.9 に接着耐久性試験の結果と総発熱量の

関係を示す。接着強さはプライマー処理の有無に

かかわらず大きい方の値で整理している。図中の

ハッチ掛けの部分は,接着性の目安である1N/mm2

以上と不燃性の判定値である 8MJ/m2 以下の両者

を満足していると思われる範囲であり,この範囲

にあるポリマーセメントモルタルが市販品として

多く存在し得ることが明らかとなった。

表-3.1.13 着火性試験の結果

号 ポリマー 種類

厚さ:10mm 厚さ:30mm 厚さ:50mm 発煙 着火 発煙 着火 発煙 着火

A EVA ●

B EVA ○

C EVA ●

D VVA ○

E PAE

F PAE ●

G PAE ○

H PAE ○

I PAE ●

J PAE ● ○

K SBR ○ ● ○

L SBR ○ ○ ○

M 無し ○

N 無し

O EVA ○

P EVA ●

Q VVA ○

R SBR ●

●:2体の試験体が該当した場合,○:1体のみが該当した場合 空欄:全ての試験体が該当しない場合

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17

図-3.1.7 発熱性試験の結果

図-3.1.8 ポリマー量と総発熱量の関係

図-3.1.9 接着耐久性試験の結果と総発熱量の関係

3) 熱分析

①ポリマー種類と吸発熱特性の関係

TG-DTA による熱分析では,一定速度で加熱し

た時の質量変化と化学的・物理的変化を判断でき

る示差熱曲線が得られる。図-3.1.10 に示差熱曲

線の例として,ポリマーを含まないN の測定結果

を示す。示差熱曲線は,昇温パターン既知の基準

物質(α-アルミナ)と測定試料を同一電気炉に設

置し,加熱過程で生じる両者の温度差を熱電対の

起電力として定量的に測定して得られる。図-

3.1.11 に調合既知のポリマーセメントモルタル5

種の示差熱曲線と熱変化量に比例する発熱ピーク

面積を示す。発熱ピーク面積は,起電力差0μV を

基線として,起電力差 μV を温度差に換算して,

基線より発熱側に反応している面積を求め,単位

質量当たりの数値として示した。ポリマー無し N

に発熱側の反応がほとんど認められないことから,

230~470℃にかけての発熱反応はポリマーの酸

化・燃焼によるものであると考えられる。この温

度域での発熱反応は,セメント混和用再乳化形粉

末樹脂に対して熱分析を行った研究[6]の発熱温度

域と一致する。ポリマー種類で発熱ピークのパタ

ーンを比較すると,EVAは,大小2 つのピークが

認められ,ポリマー混入量が異なる O と P で発

熱ピーク面積を比較すると, ポリマー混入量が多

いP のほうがより明瞭な発熱ピークパターンが現

れると同時に発熱ピーク面積も増大することが分

かる。

VVA は左右対称な一つのピークが認められ,

SBR は緩やかな複数のピークが認められる。また,

単位ポリマー量が同じであれば発熱ピーク面積は,

VVA<EVA<SBR となることが確認でき,この結

果は既往の発熱性試験[1]の総発熱量の大小関係と

一致する。一方,市販品 11 種の発熱ピークのパ

ターンを図-3.1.12 に示す。ポリマーにEVA を

使用している市販品2 種(A,C)の発熱ピークの

パターンは,いずれも図-3.1.11 にみられる大小

2 つのピークがみられず,異なるピークパターン

となっている。また,同じPAE でも製品によって

発熱ピークのパターンが異なっている。これらは,

0

20

40

60

80

100

0

4

8

12

16

20

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R

最大

発熱速

度(kW/m

2)

総発熱

量(M

J/m

2)

材料記号

総発熱量最大発熱速度

0

4

8

12

16

20

0 2 4 6 8 10 12

総発

熱量

(MJ/m

2)

P/C (%)

NonEVAVVAPAESBR

0

4

8

12

16

20

0 1 2 3

総発

熱量

(MJ/m

2)

接着強さ (N/mm2)

Non

EVA

VVA

PAE

SBR

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18

取りきれなかった有機系の繊維が残っていること

や,同じ系統に分類されるポリマーにおいても,

製造方法や添加剤の種類・混入量等が異なること

が理由であると推測される。

図-3.1.10 示差熱曲線の例(Nポリマー無し)

図-3.1.11 調合既知の示差熱曲線

図-3.1.12 示差熱曲線発熱ピークのパターン(市販品11種)

-100

-80

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100 2400 2700 3000 3300

time(s)

起電

力差

(μ

V)

60

65

70

75

80

85

90

95

100

105

質量

減少

率(%

)発熱反応

吸熱反応 吸熱ピーク 1 Ca(OH)2→CaO+H2O↑

吸熱ピーク 2 CaCO3→CaO+CO2↑

0

200

400

600

800

1000

温度(℃)

温度

質量減少率

示差熱曲線(起電力差)

ポリマー無し

種類:EVA 量(P/C):4.2% ピーク面積17.1(℃・s/mg)

種類:EVA 量(P/C):10.5% ピーク面積30.3(℃・s/mg)

種類:VVA 量(P/C):4.2% ピーク面積13.3(℃・s/mg)

種類:SBR 量(P/C):4.2% ピーク面積19.1(℃・s/mg)

ピーク面積2.9(℃・s/mg)

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100 2400 2700 3000 3300

time(s)

(N)

(O)

(P)

(R)

(Q)

0 600 1200 1800 2400 3000

time(s)

発熱

吸熱

起電力差(μ

V)

230℃ 470℃

PAEPAE

PAEPAEVVA

PAEPAEEVA

PAEPAEEVA

PAEPAE

PAEPAEVVA

PAEPAEEVA

PAEPAEEVA

基線

発熱

吸熱

起電力差(μ

V)

(A)

(C)

(D)

(U)

(E)

(F)

(G)

(I)

(J)

(S)

(T)

EVA

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19

②発熱ピーク面積と耐爆裂性評価

図-3.1.13 にポリマー量と発熱ピーク面積

の関係を示す。ポリマー量の記載に幅があるも

のはその中央値を用いた。ポリマー量と発熱ピ

ーク面積の関係は,PAE においてばらつきがあ

るが,全体的な傾向として,ポリマー量が増え

るにつれて発熱ピーク面積が増大する傾向にあ

る。図-3.1.8 によれば,ポリマー量と発熱性

試験における総発熱量の関係は,ポリマーの種

類ごとに見ると概ね比例関係にある。そこで,

総発熱量と発熱ピーク面積の関係を図-3.1.14

に示す。総発熱量の増加にともない発熱ピーク

面積が増加する傾向にあるが,ポリマー種類ご

とのポリマー量との関係と比較するとその相関

性は明瞭ではない。これは発熱性試験における

総発熱量が,必ずしも材料に含まれる有機物量

のみを評価しているものではないことなどによ

ると思われる。

図-3.1.14 には,耐爆裂性評価試験における

爆裂の有無を合わせて示す(爆裂したものは図

中のプロットに○印)。爆裂の有無を見ると,ピ

ーク面積が大きくなり 8℃・℃/mg を超えると

爆裂を生じているものが増えていることが分か

る。この結果より,発熱ピーク面積により爆裂

の危険性について、ポリマーの種類によらず評

価できる可能性があると考えられる。

図-3.1.13 ポリマー量と発熱ピーク面積の関係

プロットに○印があるものは爆裂したことを示す

図-3.1.14 総発熱量と発熱ピーク面積の関係と爆裂の有無

0

5

10

15

20

0 2 4 6 8

発熱ピーク面

積(℃

・℃

/mg)

P/C (%)

Non EVA VVA

PAE SBR

0

5

10

15

20

0 2 4 6 8

発熱ピーク面

積(℃

・℃

/mg)

総発熱量 (MJ/m2)

Non EVA VVA

PAE SBR

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20

(4) 耐久性

1) 中性化

①促進中性化試験

図-3.1.15に養生条件ごとのポリマーセメント

モルタルおよび下地コンクリートの中性化速度係

数を示す。中性化速度係数は,各材齢での試験結

果を(2)式に代入し,最小二乗法により求めた。な

お,コンクリート面を補修しシート養生した試験

体Bについては,10mm 厚と30mm 厚の測定結果

tAC (2)

ここに, C: 中性化深さ(mm) A: ポリマーセメントモルタルの中性

化速度係数(mm/week0.5) t: 試験材齢(week)

の平均値とし(ただし中性化深さがモルタル厚さ

以下の測定値のみ),補修していない下地コンクリ

ートについては全試験体の平均で表した。

中性化速度係数は,ポリマーセメント種類によ

り大きく異なっており,ほとんど中性化が進行し

ないものから,最大で約3.5mm/week0.5 となるが,

いずれの材料も下地としたコンクリート

(W/C=55%)よりも小さい値である。また,普通

モルタル(記号 N)と同等かそれ以下のものが多

い。ポリマーセメントモルタル単体の試験体Aに

ついて,養生条件の影響について全般的な傾向を

みると,JIS養生に比べシート養生した場合の中性

化速度係数は,1.5~2 倍程度大きくなっており,

初期養生による影響が大きいことが確認される。

また,ポリマーセメントモルタルで補修した試験

体Bをシート養生したものについては,試験体A

の JIS 養生とシート養生の中間かシート養生と同

程度となる材料が多くなっている。

②躯体保護効果の評価

コンクリート面に施工したポリマーセメントモ

ルタルの中性化に対する躯体保護効果について,

李らの文献[7]における考え方に基づき評価を行っ

た。李らは,表層部に厚さ d のモルタルの層があ

る場合において,表層のモルタルが完全に中性化

した後のコンクリートの中性化深さCを,モルタ

ルおよびコンクリートのCO2 の拡散係数,モルタ

ルおよびコンクリートの単位体積あたりの

Ca(OH)2量を使って,(3)式のように示している。

RRTtAC 2)(' (3)

ここに, C:コンクリートの中性化深さ(mm) A’:コンクリートの中性化速度係数

(mm/week0.5) t :時間(week) T :モルタル層全てが中性化する時

間(week) R :モルタルとコンクリートの中性

化速度係数,Ca(OH)2量比およびモルタル

厚さ から決まる下式の係数

A

dHH

A

AR m

)/(2

A :モルタルの中性化速度係数(mm/week0.5)

d :モルタル厚さ(mm) H/Hm :Ca(OH)2量比(ここでは材料 P

の単位セメント量比0.66)

(3)式に,実験で得られたモルタルとコンクリー

トの中性化速度係数,モルタルとコンクリートの

調合上の単位セメント量の比から Ca(OH)2 量比

(H/Hm)を代入し,コンクリートの中性化深さの

推定を行った。

図-3.1.16 にコンクリートのみ(W/C=55%)

と,最も中性化速度係数の大きいS および調合既

知の P をそれぞれ 10mm および 30mm 塗り重ね

た場合の中性化深さの推定結果を示す。モルタル

S においても,下地のコンクリートと比較して中

性化速度は小さいため,10mm 厚であっても中性

化の進行は抑制できていることが分かる。また,

実験においては,D および S の 10mm 厚施工の

ものは試験材齢 13 週においてモルタル層が全て

中性化し,コンクリート部分が中性化し始めた。

その他の材料については,中性化がモルタル層で

留まっており,その前にコンクリートが中性化す

ることはなかった。

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21

図-3.1.15 促進中性化試験結果

図-3.1.16 中性化深さの推定結果

③PCMの中性化抵抗性と JASS 5の計画供用期

間の級との対応

評価方法

PCM の中性化抵抗性の評価は,JASS 5[5]に示

されている計画供用期間の級に応じた所要の中性

化速度係数を補修対象のコンクリートの中性化抵

抗性を示す指標とし,それと PCM の中性化速度

係数と比較する方法とした。ここで,JASS 5 に示

されている中性化速度係数は,屋外曝露試験結果

に基づく値であることから,本実験における促進

試験結果から最小二乗法で求めた中性化速度係数

を用いて評価することができない。そこで,二酸

化炭素(CO2)濃度の曝露積算値から屋外にて曝

露した場合に相当する期間(屋外曝露相当期間)

を推定し,その期間から中性化速度係数の屋外曝

露換算値を算出して評価した。

屋外曝露相当期間の推定

促進試験の CO2 濃度を 5%,屋外の CO2 濃度

を400ppm(0.04%),1 年=52 週とすると,促進

期間 ta 週に対応する屋外曝露相当期間 to 年は(4)

式にて求められ,促進期間 26 週に対応する屋外

曝露相当期間は62.5 年となる。

5204.0

5 tato (4)

推定した屋外曝露相当期間の妥当性を確認する

ため,促進試験における試験体Bの下地コンクリ

ートの中性化深さの平均値と屋外曝露試験の試験

結果を比較した(図-3.1.17)。その結果,概ね一

致していることが確認できた。

図-3.1.17 屋外曝露相当期間とコンクリートの中性化深さ

0

5

10

15

20

25

0 2 4 6 8 10

下地

コンク

リー

トの中

性化

深さ

平均値

(mm)

屋外曝露相当期間 to( )

下地コンクリートの

中性化速度係数の

屋外曝露換算値:2.75mm/

year

year

●促進試験結果

( )の数値は促進期間を示す

×屋外暴露試験結果

(1W)

(4W)

(8W) (13W)

(26W)

0

1

2

3

4

5

A C D E F G I J K L M N O P コンク

リート

中性化速度係数(m

m/w

eek0

.5)

試験体記号

JIS養生

気中養生

実施工養生

S T U 0

10

20

30

40

50

0 20 40 60 80 100

推定中性化

深さ(m

m)

試験材齢(week)

コンクリートのみ

K‐10mm

K‐30mm

P‐10mm

P‐30mm

S-10mm S-30mm

JIS養生(試験体A) シート養生( 〃 ) シート養生(試験体B)

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22

PCM の中性化抵抗性の評価

(4)式により求めた屋外曝露相当期間を用いて各

PCM の中性化速度係数を屋外曝露換算値とした

結果および屋外曝露試験から求めた中性化速度係

数を表-3.1.14 に示す。ここで,それぞれの試験

体 B の値は PCM の塗厚 10mm と 30mm の平均

値として示した。試験体Bにおける屋外曝露換算

値と屋外曝露試験の結果から求めた中性化速度係

数を比較すると,C・J を除き屋外曝露試験結果か

ら求めた値の方が大きくなっていた。これは,屋

外曝露期間がまだ1 年と短いためであると考えら

れる。また,試験体Bの屋外曝露換算値をみると,

D・S を除いてW/C50%の普通モルタルNよりも

値が小さくなっていた。一方,下地コンクリート

と比較すると全ての PCM で値が小さくなってい

た。表-3.1.3.3には,JASS 5 における計画供用

期間の級に応じた所要の中性化速度係数と比較し

た結果を併せて示している。比較した PCM の中

性化速度係数は,実施工に近い条件である試験体

B における屋外曝露換算値とした。その結果,市

販品のうちD・S を除き,「標準」・「長期」の所要

の値以下,C・F・G・J・T では「超長期」の所要

の値以下であった。ただし,所要の値を超過した

PCM であっても,他の性能に支障のない範囲で増

し塗りすることで所定の中性化抵抗性を確保する

方法も考えられる。

表-3.1.14 PCMの中性化速度係数とJASS 5における計画供用期間の級に応じた

所要の中性化速度係数との比較

記号

中性化速度係数(mm/ ) JASS 5における計画供用

期間の級における所要の

中性化速度係数との比較 屋外曝露換算値

屋外曝露

実測値

試験体A

JISA 1171

試験体A

シート養生

試験体B

シート養生

試験体B

シート養生

標準

(1.69)

長期

(1.36)

超長期

(0.69)

A 0.50 0.85 1.03 2.03 ○ ○ -

C 0.06 0.11 0.07 0.00 ○ ○ ○

D 0.75 1.53 1.86 2.38 - - -

E 0.96 1.36 1.11 1.73 ○ ○ -

F 0.01 0.21 0.21 1.18 ○ ○ ○

G 0.23 0.79 0.46 0.75 ○ ○ ○

I 0.83 1.68 1.30 2.56 ○ ○ -

J 0.24 0.54 0.28 0.00 ○ ○ ○

S 1.31 2.27 1.97 3.12 - - -

T 0.14 0.62 0.48 0.58 ○ ○ ○

U 0.58 0.95 1.10 2.38 ○ ○ -

N 0.85 1.57 1.44 2.38 ○ - -

O 0.85 1.98 1.30 2.48 ○ ○ -

P 0.59 1.95 1.39 2.38 ○ - -

※1 ○:計画供用期間の級の所要の値以下 -:計画供用期間の級の所要の値超過

※2 ( )内の数字は JASS 5における所要の中性化速度係数の値を示す

year

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23

2) 乾燥収縮

ポリマーセメントモルタル種類および養生条件

毎の乾燥収縮率を図-3.1.18 および図-3.1.19

に示す。調合既知の材料の乾燥収縮率は,ポリマ

ーを添加することでポリマーを添加していない N

に比べていずれもの乾燥収縮率は大きくなるが,

EVA 添加量を変えた O,P からの結果からはポリ

マー量による影響は認められない。市販品は,ポ

リマーセメントモルタルの種類により大きく異な

っており,乾燥期間28 日では,195×10-6~859×10-6,

乾燥期間365日では,570×10-6~1703×10-6 の間

にあり,W/C=50%,セメント砂比(重量比)1:3 の

プレーンモルタル(試験体記号 N)と比較して,

試験体によって大きいものと小さいものの差が大

きかった。養生条件の違いとしては,一部を除い

て,乾燥期間 28 日,365 日共に JIS 養生の結果

が大きくなった。その理由として,JIS A 1171 で

は 2 日で脱型後材齢 7 日まで水中養生を行って組

織構造が緻密化しなおかつ水分を十分含んだ状態

から乾燥させるのに対し,打込み後 2 日湿空養生

した後に乾燥させる試験体は,組織構造が JIS 養

生と比較すると粗なうえに乾燥により逸散する水

量が少ないため,結果として JIS 養生と比較して

乾燥収縮率が小さくなったものと推測される。JIS

A 1171 では,長さ変化を測定する材齢を28 日と

規定しており,材齢 28 日の場合では,プレーン

モルタルを含めどのポリマーセメントモルタル種

類でも乾燥収縮率は 900×10-6 以下となっている。

しかし,材齢365 日での乾燥収縮率は,最大で約

1700×10-6 に達するものもあり,面積の大きい箇

所等で使用する場合には,乾燥収縮によるひび割

れ等の影響を検討する必要があると考えられる。

3) 塩化物イオン浸透深さ

図-3.1.20 に,ポリマーセメントモルタル種類

毎の塩化物イオン浸透深さを示す。塩化物イオン

浸透深さは,調合既知の材料では,試験体記号 O

(EVA20kg/m3)の試験材齢 56 日において小さく

なるものの,それ以外の影響は少ない。市販品は,

浸透深さ0mm の試験体記号C を除くと,浸漬期

図-3.1.18 ポリマーセメントモルタル種類毎の乾燥収縮率(28 日)

図-3.1.19 ポリマーセメントモルタル種類毎の乾燥収縮率(365 日)

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24

図-3.1.20 ポリマーセメントモルタル種類毎の塩化イオン浸透深さ

図-3.1.21 ポリマーセメントモルタル種類毎の相対動弾性係数

間 28 日で 3.0~8.2mm,浸漬期間 56 日で 4.8~

12.2mm で,既調合モルタルでは浸漬期間28 日で

6.9~8.2mm,浸漬期間 56 日で 9.0~12.2mm の範

囲にあり,ポリマーセメントモルタルの種類によ

る違いは少ない。また,市販品(試験体記号A~J,

S~U)とプレーンモルタル(試験体記号N)の比

較では,浸漬期間28 日および56 日とも,全ての

ポリマーセメントモルタルで塩化物イオン浸透深

さは小さくなった。

4) 凍結融解

図-3.1.21 に,ポリマーセメントモルタル種類

毎の相対動弾性係数を示す。JIS A 1171 では,200

サイクルでの比較となっているが,本実験では30

サイクル毎に測定したため,210 サイクルで評価

することとした。調合既知の材料において,相対

動弾性係数は,210 サイクルの試験体記号Nを除

き全てで 85%以下となった。相対動弾性係数は,

210 サイクルではポリマー添加量の増加により低

下する傾向が認められたが,300 サイクルまでの

サイクル数と動弾性係数の関係では,プレーンモ

ルタルと比較して相対動弾性係数は低下するもの

の,添加量による大きな差はなかった。市販品は,

11種類のうち,相対動弾性係数が85%を下回った

ものは,210 サイクルで試験体記号A,D の2 種

類,300 サイクルで J の1 種類となり,それ以外

の 8 種類は 300 サイクルまで相対動弾性係数が

85%以上であった。

S T U0

2

4

6

8

10

12

14

A C D E F G I J K L M N O P試験体記号

塩化

物イオン浸

透深

さ(mm) 28日

56日

0

20

40

60

80

100

120

A C D E F G I J K L M N O P

試験体記号

相対

動弾性

係数

(%)

210サイクル 300サイクル

S T U

S T U

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25

3.1.4 まとめ

ポリマーセメントモルタルの本報告の結果は以

下のようにまとめられる。

(1) フレッシュ特性

・ モルタルフローおよび空気量はポリマーセメ

ントモルタルの銘柄によって異なる。特に空気

量に関しては銘柄による違いが大きく,3%程

度のものから 10%を大きく超えるものまでと

様々であった。

(2) 力学特性

・ 本実験の対象としたポリマーセメントモルタ

ルの圧縮強さおよび曲げ強さは,告示 1372 号

に規定される圧縮強さの基準値 20N/mm2 を十

分に上回り,曲げ強さの基準値 6N/mm2もすべ

て満足していることが確認された。

・ 接着性および接着耐久性の結果は,概ね告示

1372 号に規定される基準値 1N/mm2 を超えて

いた。ただし,下地処理の方法や材料の種類に

よっては基準値を下回る場合もみられた。

(3) 加熱時特性

・ 発熱性試験の結果は,SBR 系の材料以外につ

いて不燃材料として判断される 8MJ/m2を下回

る材料が多く,接着性と不燃性の両者を満足す

ることができるポリマーセメントモルタルが

多く存在することが示された。

・ 示差熱曲線により,調合が既知のポリマーセ

メントモルタルにおいてはポリマー種類によ

りそれぞれ異なる発熱ピークパターンが現れ,

示差熱重量分析における発熱ピーク面積と発

熱性試験における総発熱量の相関性が確認さ

れた。

・示差熱曲線で得られる発熱ピーク面積により,

ポリマーセメントモルタルの爆裂の危険性を

評価できる可能性があると思われる。

(4) 耐久性

・ 実験に使用した市販のポリマーセメントの中

性化速度は,実施工を想定した養生条件におい

ても一般的なコンクリート(W/C=55%)より

も小さく中性化抵抗性は大きかった。また,ポ

リマーセメントモルタルを表層に施工するこ

とによりコンクリートの中性化の進行が抑制

できることが確認された。

・ 市販の PCM は,一部の材料を除き,JASS 5 に

おける計画供用期間の級「標準」・「長期」の所

要の中性化速度係数以下であった。また,5 種

類の PCM で「超長期」の値以下となった。

・ 市販の PCM の乾燥収縮率は,乾燥期間 28 日で

900×10-6 以下となったが,乾燥期間 365 日で

は最大で約 1700×10-6 と大きい材料も存在し

た。

・ 塩化物イオン浸透深さは,いずれの市販 PCM

もプレーンモルタルと比較して小さくなった。

・ 水中凍結水中融解 300 サイクル後の相対動弾

性係数は,市販品 11 種類のうち 8 種類は 85%

以上であったが,3 種類は 85%を下回った。

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26

<参考文献>

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燃焼特性および熱伝導率に関する研究(そ

の1~その3),日本建築学会大会学術講演

梗概集,A-2,pp.159-164,2008.9

[2] 濱崎仁ほか:ポリマーセメントモルタルの

発熱性に関する研究(その1~その2),日

本建築学会大会学術講演梗概集,A-1,

pp.435-438,2009.9

[3] 濱崎仁ほか:高温を受けたポリマーセメン

トモルタルの力学性状,コンクリート工学

年次論文集,Vol.31,No.1,pp.1927-1932,

2009.7

[4] 金亨俊ほか:ポリマーセメントモルタルの発

熱性に関する研究 その2,日本建築学会大

会学術講演梗概集,A-1,pp.437-438,2009.9

[5] 日本建築学会:建築工事標準仕様書 JASS 5

鉄筋コンクリート工事,2009.2

[6] 王徳東ほか:高温加熱下におけるセメント

混和用再乳化形粉末樹脂の挙動,日本燃焼

学会第 44 回燃焼シンポジウム講演論文集,

pp.410-411,2006.12

[7] 李榮蘭ほか:表層コンクリートの品質と中

性化進行に関する解析的検討,日本建築学

会構造系論文集,No.649,pp.499-504,2010.3

Page 27: 1. はじめに - kenken.go.jp...1 1. はじめに 1.1 研究の背景および目的 鉄筋コンクリート造建築物におけるかぶり厚 さは,建築物の耐久性,構造安全性,耐火性の

27

3.2 施工方法および防耐火性能に関する研究

ポリマーセメントモルタルは,高温時において

はポリマーの燃焼により空隙が増加することによ

って一般的なモルタルやコンクリートと比較して

熱伝導率が低下すると言われている[1]。したがっ

て,火災時にポリマーセメントモルタルが落下な

どを生じず元位置に留まりさえすれば,ポリマー

セメントモルタル断面補修した RC 部材の温度を

低く抑えることができると推測される。

ただし,セメントに対するポリマー重量比(P/C)

が高い場合には,爆裂の可能性があり,また,爆

裂しなくても剥落すると,RC造部材・躯体や鉄筋

の温度上昇を早め,耐火性能の低下につながる。

つまり,耐火構造である RC 造部材に適用するポ

リマーセメントモルタル補修工法には,以下 2 つ

の性能が要求される。

・火災時にポリマーセメントモルタルが剥落し

ない。

・火災時にポリマーセメントモルタルが爆裂し

ない。

上記 2 つの要求性能を満たす施工方法とポリ

マーセメントモルタル材料を把握するために,火

災時におけるポリマーセメントモルタル剥落防止

工法(Phase1),ポリマーセメントモルタルの耐爆

裂性(Phase2),ポリマーセメントモルタルによる

大型壁面の施工性および耐火性(Phase3),ポリマ

ーセメントモルタルで補修した荷重支持部材の耐

火性能について検討(Phase4)を行った。本節で

はその詳細を述べる。

3.2.1 火災時剥落防止工法(Phase1)

(1) 補修施工

1) はじめに

躯体コンクリートの断面補修には,コンクリー

トのほかに,ポリマーセメントモルタル(以下,

PCM)が使用される。しかしながら,火災時など

高温に曝される状態では,補修面が大きい場合や

補修厚さが薄い場合には,剥落やはらみ等が生じ

る可能性が高くなることが報告されている[2]。こ

のため火災時の補修箇所を含めた躯体の防耐火性

能を確保するために,何らかの剥落防止措置が必

要であると考えられる。

本研究では PCM を用いて補修施工した壁試験

体の耐火試験を実施し,PCMの剥落防止工法につ

いて,メッシュの種類や留め付け方法,継手方法

や位置などが試験体内部温度や剥落・はらみ等に

およぼす影響について検討した。ここでは各種メ

ッシュによる剥落防止工法を用いた補修施工につ

いて報告する。

2) 補修施工概要

試験体一覧を表-3.2.1 に,メッシュの種類を

表-3.2.2に,メッシュの割付を図-3.2.1に示す。

壁試験体寸法は 1100×1100×150mm,コンクリート

は普通 36-18-20N(W/C41.6%)とした。補修施工

は,5 種類のメッシュを用いて,PCM 補修厚さや

表層からのメッシュ位置,メッシュの継手方向や

継手方法などを水準とした計 10体とした。試験体

No.7,11,12は補修面を2つに分け,パラメータを変

えた。比較用試験体は無補修,剥落防止措置なし

の 2体とした。

PCMの調合と使用材料を表-3.2.3に示す。P/C

は 6.3%とし,消泡剤を用いて空気量を調整した。

仕上げ用 PCM では細骨材の最大寸法を 5mm,下

ごすり用では1.25mmとした。

PCM補修の施工手順(補修厚さ10mm)を図-

3.2.2 に示す。施工前の下地処理としてコンクリ

ート躯体表層をカップホイールで除去して清掃を

行った。メッシュは400mmピッチでネジ式アンカ

ー(L=75mm)とワッシャー(φ20,40mm)を用い

て留め付けた。メッシュの継手は重ね代を 50mm

とし,突き付けではワッシャーでメッシュを押さ

え込むようにして留め付けた。PCMの 1層あたり

の塗厚さは 10mm とし,30mm の場合は 3 層塗り

とした。施工は 1 日 1 層とした。下地(下層)と

の密着性を高めるため,各層ごとに2~3mm程度,

下塗り用 PCM による下ごすりを行った後に所定

の厚さまで仕上用PCMを塗りつけた。メッシュの

伏せ込みは下ごすり後に行った。

今回実施の施工方法による各種メッシュの伏せ

込みおよび PCM の塗り付けの作業性は概ね良好

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28

であった。ただし,ML900では目が細かいため剛

性が高く,伏せ込みに時間を要した。初期養生は

ポリフィルムにて 1 週間封かん養生とした。耐火

試験前には,含水率を4%程度に調整するために室

温約60℃で 1週間強制乾燥養生を行った。

表-3.2.1 試験体一覧

試験体記号 分類 補修厚さ メッシュ位置 継手方向 継手方法

1 Con 無補修 - - - -

2 N-10 措置なし

10mm

- - -

3 ML300-10-1

メタルラス

1 層目

縦・横 重ね

4 ML300-10-2

横 5 ML900-10 突き付け

6 PW-10 平織金網 重ね

7

CR-10 ガラス繊維

(格子) 縦

左右縁切り

+重ね TA-10

ガラス繊維

(トライアングル)

8 ML300-30 メタルラス

30mm

3 層目 横

突き付け

9 ML900-30 重ね

10 PW-30 平織金網 突き付け

11 CR-30-1 ガラス繊維

(格子)

1 層目

縦 左右縁切り

+重ね

CR-30-2 3 層目

12 TA-30-1 ガラス繊維

(トライアングル)

1 層目

TA-30-2 3 層目

表-3.2.2 メッシュの種類

記号 仕様等

ML300 メタルラス 鋼板厚さ0.4~0.6mm SUS304製

網目寸法(短)13~16mm(長)26~32mm

ML900 メタルラス 鋼板厚さ0.4~0.5mm SUS304製

網目寸法(短)9~10mm(長)19~20mm

PW 平織金網 線径φ0.8mm SUS304製

網目寸法4メッシュ(目開き 5.55mm)

CR 耐アルカリ性ガラス繊維(格子状)

網目寸法10×10mm

TA 耐アルカリ性ガラス繊維(トライアングル)

網目寸法(縦)33mm(斜め)16mm

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29

表-3.2.3 PCMの調合と使用材料

種別 P/C(%) 質量比

C S P W

仕上げ用 6.3 1 3 0.063 0.50

下ごすり用 6.3 1 3 0.063 0.55

セメント(C) 普通ポルトランドセメント 密度3.16g/cm3

細骨材(S)

陸砂(大井川水系産川砂)

表乾密度2.63 g/cm3 F.M.2.97 吸水率1.81%

最大寸法-PCM仕上用 5mm 下ごすり用1.25mm

ポリマー(P) エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)系

再乳化型粉末樹脂

消泡剤 非イオン型消泡剤

No.3 No.4,6,9 No.5,8,10 No.7,11,12

図-3.2.1 メッシュの割付

図-3.2.2 補修手順(補修厚さ10mm)

3) 補修施工後の試験体

目視観察および打診調査により確認された試験

体の浮き・ひび割れの発生状況(加熱前)を図-

3.2.3に示す。浮き・ひび割れはN-10では顕著で

あったが,剥落防止措置を施した補修厚さ 10mm

の場合,いずれのメッシュでも浮きやひび割れは

軽微な傾向にあった。補修厚さ 30mm では,いず

れのメッシュでも浮きやひび割れが認められるも

のの,外観からはメッシュ位置(留め付け位置)

である 3 層目の下層部まではある程度堅固な状態

であると推察され,今回実施した剥落防止措置が

一定の効果を示したものと考える。なお,浮きの

位置(塗り厚さ方向)は判別が困難であった。補

修厚さ 30mm(試験体 No.8~10)において,メッ

シュ位置(留め付け位置)を 1 層目,3 層目とし

た場合(試験体No.11,12)を検討したが,1層目で

の留め付けは 1~2 層目での剥離発生につながる

結果となった。剥離は端部において最大値で5mm

コンクリート躯体

ドリル孔 メッシュ

下ごすり仕上げ塗り

養生棒

ネジ式 アンカー

ワッシャ

メッシュ方向(全て同じ)

重ね(50mm)

+アンカー(全て同じ)

400280 280

400

400

160

メッシュ方向

メッシュ方向

重ね(50mm)

+アンカー

400280 280

400

400

160

メッシュ方向

メッシュ方向

400280 280

400

400

160

突付け+アンカー

重ね(50mm)+アンカー 重ね(50mm)+アンカー

400

400

縁切り

400

400

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30

となった。本実験で浮き・ひび割れが多く発生し

た原因としては,補修施工に用いたPCMの収縮低

減対策が十分でないことから収縮量が大きかった

こと,含水率を 4%とするために強制乾燥を施した

ことなどが考えられる。

図-3.2.3 試験体の浮き・ひび割れ発生状況(加熱前)

0.25mm

0.15mm

0.5mm

0.3mm

0.35mm

0.15mm

0.15mm

0.2mm

モルタル

ダレ

0.35mm

0.05mm

0.05mm0.25mm

0.1mm

0.05mm

0.2mm

0.05mm

0.05mm

0.05mm

0.05mm

0.25mm

0.1mm

縁切り

縁切り端部最大浮き代 3mm

0.4mm

0.1mm

0.15mm

縁切り端部最大浮き代 5mm

0.2mm

0.2mm

0.1mm

0.2mm

0.1mm

0.1mm

浮きの範囲

ひび割れ

アンカー +

ワッシャー位置

メッシュ重ね部

N-10 ML300-10-1

ML900-10

ML300-10-2

PW-10

CR-30-1

CR-10 TA-10

ML300-30 ML900-30 PW-30

CR-30-2 TA-30-1 TA-30-2

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31

(2) 耐火試験

1) はじめに

ここでは,ポリマーセメントモルタル(以下,

PCM)で補修した壁部材を模擬した試験体の耐火

試験を実施し,PCM の剥落防止方法(メッシュの

種類,メッシュの継手方法や位置等)の違いによる

剥落等のPCMの損傷状況への影響,試験体内部温

度について評価した結果を報告する。

2) 実験概要

PCMによる補修厚さは10mmと 30mmとし,各

試験体で剥落防止方法を変化させた。試験体の母

材コンクリート,PCMに使用した材料および調合,

ならびにメッシュの種類およびその継手方法や位

置等の詳細については,3.2.1(1)に示した通りであ

る。

試験体 6 体を 1 組として 4m×4m のマスクパネ

ルに固定し,壁状に立てた状態で加熱炉に設置し

た。試験は,2 組の計12体について実施した。加

熱は,ISO834に規定される標準加熱曲線に従った

3 時間の加熱とし,3 時間経過後は 12 時間まで加

熱炉内で自然冷却させた。炉内温度の変化および

標準加熱曲線を図-3.2.4に示す。

損傷状況は,試験体を加熱炉から外した後,目

視観察および打診により,浮き・剥離,ひび割れ,

ふくれ,剥落等の確認を行った。

壁試験体内部の温度測定は,PCMによる補修厚

さも含め,加熱表面から 30mm,50mm の位置と

した。温度測定には,K型熱電対を使用し,30秒

毎に測定した。熱電対の設置方法は,試験体裏面

からドリルにより削孔し,熱電対を所定の位置に

設置した後,孔をモルタルで充填した。

3) 結果と考察

耐火試験後の外観の目視観察結果を表-3.2.4

に,状況写真を写真-3.2.1 に示す。比較用のコ

ンクリート試験体については,耐火試験直後,大

きな損傷がなかったが,数日後,全面的に表層の

5mm程度が砂状に変化していた。N-10については,

剥落はなかったものの,ひび割れの発生が多く,

ひび割れた部分では大きな浮きが生じた。一方,

剥落防止処置を施した他の試験体については,ど

の試験体もほぼ全面的に浮きやふくれが生じてお

り,程度の差はあるが表面には凹凸があり,アン

カー部分が凹んでいる試験体が多かった。

メッシュの種類の違いについて見てみると,ハ

イラスを使用した試験体(ML900)のみ写真-

3.2.1のようにメッシュの外側でPCM表層の剥落

が認められた。これは,ハイラスは柔軟性がなく,

伏せ込み時に無理に一部押さえ込んでおり,その

ような箇所で剥落が生じているものと考えられる。

図-3.2.4 加熱炉内の温度履歴

0 2 4 6 8 10 12

0

200

400

600

800

1000

1200

経過時間(時間)

炉内

温度

(℃)

加熱1回目加熱2回目ISO834標準加熱曲線

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32

一方,平織金網を使用した PW-10 については,

ふくれが生じているものの剥落もひび割れも認め

られなかった。ガラス繊維については,1 層目に

伏せ込んだものは残っていたが,表面に近い 3 層

目に伏せ込んだものは溶融し消失していた。

メッシュの継手方法の違いについて見てみると,

突付けで施工した試験体は,3 体中 2 体に写真-

3.2.1 のように突付けに沿ったひび割れが発生し

ていたが,重ねで施工した試験体には継手に沿っ

たひび割れは認められなかった。アンカーについ

ては,全ての試験体において抜け出しは発生して

おらず,アンカー部分で浮いていた箇所は,アン

カー部分のメッシュが切れて浮きが生じていた。

補修厚さの違いについて見てみると,30mm 厚さ

の 3層で施工された試験体では,表面に近い2~3

層間での浮きが大きく,深い位置の層ほど界面で

の浮きは小さくなる傾向が認められた。

各試験体の加熱表面から30mmと50mm部分の

最高温度と最高温度到達時間を表-3.2.5 に,最

高温度の分布と比較を図-3.2.5に示す。PCM で

補修した全ての試験体とも,無補修の普通コンク

リート試験体よりも最高温度が低かった。これは,

PCM が火災中に剥落しなければ,PCM の浮きや

ふくれによって生じた空気層に断熱効果があるこ

と,およびPCMの熱伝導率が普通コンクリートよ

りも低く,普通コンクリートに比べて熱が伝わり

にくいためと考えられる。また,加熱面から 30mm

位置,50mm 位置とも,補修厚さ 10mm の試験体

よりも,補修厚さ 30mm の試験体の方が最高温度

は低かった。これも,PCMの熱伝導率が普通コン

クリートよりも低く,PCM層が厚いほど熱が伝わ

りにくいためと考えられる。

ひび割れが多かった N-10,CR-10,TA-10,

TA-30-2試験体と,ひび割れが少なかった他の試験

体の最高温度を比較すると,両者に明確な差異が

なく,ひび割れの多寡がコンクリート温度に与え

る影響は認めらない。

表-3.2.4 外観の目視観察結果

試験体記号 浮き・剥離 ひび割れ ふくれ 剥落

Con 砂状に変化 無 無 無

N-10 全面 多 16.9% 無

ML300-10-1 外周 少 16.7% 無

ML300-10-2 外周 少 26.6% 無

ML900-10 無 少 40.4% 有

PW-10 外周 無 21.9% 無

CR-10 外周 多 29.5% 無

TA-10 外周 多 26.6% 無

ML300-30 外周 少 29.1% 無

ML900-30 無 少 38.1% 有

PW-30 外周 少 36.8% 無

CR-30-1 全面 少 31.5% 無

CR-30-2 全面 少 37.6% 無

TA-30-1 全面 少 44.4% 無

TA-30-2 全面 多 44.3% 無

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33

写真-3.2.1 耐火実験後の状況

表-3.2.5 加熱表面から30mmと50mmの最高温度と最高温度到達時間

試験体記号

表面から 30mm 表面から 50mm

最高

温度

経過

時間

最高

温度

経過

時間

(℃) (h:mm) (℃) (h:mm)

Con 602.9 3:00 439.6 3:24

N-10 488.2 4:48 380.1 3:30

ML300-10-1 546.7 3:11 379.2 3:28

ML300-10-2 551.0 3:11 383.4 3:27

ML900-10 513.1 4:36 394.6 3:27

PW-10 527.5 4:00 365.3 3:31

CR-10 545.0 3:47 407.3 3:27

TA-10 533.0 4:36 391.5 3:31

ML300-30 485.8 3:36 322.3 3:32

ML900-30 448.9 5:35 317.3 3:38

PW-30 484.7 4:12 331.5 3:33

CR-30-1 447.6 5:24 307.8 3:38

CR-30-2 478.0 4:36 334.6 3:34

TA-30-1 453.7 4:23 296.9 3:42

TA-30-2 482.5 3:47 329.9 3:33

ML900-10 PW-30

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34

図-3.2.5 各試験体の最高温度の比較

PCM塗厚10mm

0

100

200

300

400

500

600

700

Con

N-10

ML3

00-1

0-1

ML3

00-1

0-2

ML9

00-1

0

PW-1

0

CR-1

0

TA-1

0

試験体記号

最高

温度

(℃)

30mm

50mm

PCM塗厚30mm

0

100

200

300

400

500

600

700

Con

ML3

00-3

0

ML9

00-3

0

PW-3

0

CR-3

0-1

CR-3

0-2

TA-3

0-1

TA-3

0-2

試験体記号

最高

温度

(℃)

30mm

50mm

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35

(3) まとめ

補修施工を実施した結果,以下のことが言える。

① 剥落防止措置なしの場合では,ひび割れ・

浮きは顕著であった。

② 剥落防止措置により浮き・ひび割れが抑制

され,補修厚さ 10mmでは軽微となること

が確認された。

③ 剥落防止措置におけるメッシュ位置は,補

修厚さ 30mmでは 3 層目に設置する必要が

あると考えられる。

なお,別途検討を進めている市販PCMを用

いた補修では,浮き・ひび割れが問題ない

レベルに改善される例を確認している。

本耐火試験を実施した結果,コンクリート温度

や損傷状況から判断すると,以下のことが言える。

④ 耐火試験で使用した PCM は,加熱を受け

ると浮きやふくれが生じるため,剥落防止

対策が必要となる。

⑤ 剥落防止には,ステンレスメッシュをアン

カーで躯体に止め付ける方法が有効である。

⑥ ガラスメッシュは火災時に溶融消失するた

め,PCM の剥落防止効果は期待できない。

⑦ 柔軟性の低いメッシュを使用した場合には,

加熱時に PCM 表層が押し出されて剥落す

る恐れがある。柔軟性に富むメッシュを採

用すればPCMの剥落を防止できる。

⑧ PCM が剥落しなければ,PCM が厚いほど

コンクリート温度を低く抑えることができ

る。

⑨ 埋込深さ 75mm のアンカーを縦横 400mm

間隔以内で打設すれば PCM の自重を支え

ることが可能であり,火災時に抜け出すこ

とは無い。

⑩ PCM にひび割れが発生しても,PCM が剥

落しなければコンクリート温度への影響は

認められない。

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36

3.2.2 ポリマーセメントモルタルの爆裂性

(Phase2)

(1) 実験概要および加熱前試験体の状況

1) はじめに

ポリマーセメントモルタル(以下,PCM)は,

建物の補修・補強などにおいて必要不可欠な材料

であるが,耐久性や耐火性に関する知見が少ない

ことから,それらに関するデータの蓄積および評

価方法が必要である。文献[3]では,市販されてい

る既調合PCM(以下,市販品)および一般材料で

調合したモルタルにポリマーを別添したPCM(以

下,調整PCM)について,強度特性,発熱性,耐

久性および吸発熱特性に関する実験結果が報告さ

れている。

ここでは,各種PCMで補修した壁試験体による

加熱実験を行い,高温時の挙動を比較・検討する

ことにより耐火性の評価方法について検討した結

果を報告する。

2) 実験概要

加熱実験に供した壁試験体の厚さは PCM も含

め 150mmとし,PCMの補修厚さが10mm・30mm

の試験体の結果と,コンクリートのみの試験体の

結果を比較・検討した。

試験体の種類を表-3.2.6 に,試験体の形状を図

-3.2.6に示す。

各種 PCM は,アクリル酸エステル共重合樹脂

(PAE),エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)

および酢酸ビニル・バーサテート共重合樹脂(VVA)

のポリマーが使用されている。このうちE4 は調整

PCMであり,補修厚さ10mmのみとした。その他

のPCMは市販品であり,表-3.2.6に記載してい

るポリマーセメント比(P/C・質量比)は,メーカ

ーから情報提供された値である。また,E1 と E2

は,補修厚さ 30mm の吹付け施工についても実施

した。

基盤としたコンクリートは,呼び強度30(標準

養生の材齢28日強度:41.6~46.7 N/mm2)であり,

P7 の試験体は呼び強度 60(標準養生の材齢 28 日

強度:73.3 N/mm2)についても試験体(P7H)を

作製した。

PCM の剥落防止としては,平織金網(SUS304

製,線径φ0.8mm,目開き 5.5mm)をネジ式アン

カー(L=75mm)とワッシャーを用いて留め付け

る工法を採用した。補修厚さ 10mm の場合は 2 層

で塗り付け,その中間に平織り金網を留め付けた。

補修厚さ 30mm の場合は,2 層目と 3 層目の間に

平織金網を留め付けた。

試験体6体を1 組とし,4m×4mのマスクパネル

に固定して,壁状に立てた状態で加熱炉に設置し

た。加熱は,ISO834に規定される標準加熱曲線に

従って 3 時間加熱し,その後 3 時間経過後まで加

熱炉内で自然冷却させた。

壁試験体の温度測定点を図-3.2.6 に示す。

PCM補修厚さに係わらず,全試験体とも加熱面か

ら同じ位置で測定した。なお,温度測定はK型熱

電対を用いて30 秒毎に計測した。

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37

表-3.2.6 試験体の種類

図-3.2.6 試験体形状と温度測定位置(補修厚さ30mmの場合)

施工法 補修厚さ

N - - - - -

P1 4%以下

P2 2~5%P3 4~5%P4 4~10%P5 5~10%P6 1~5% ナイロン

P7P7H 60E1 コテ

E1S 吹付け 30mmE2 コテ 10・30mm

E2S 吹付け 30mmE3 4~8% アクリル 10・30mmE4 6.3% - 10mmV1 VVA 5~10% アクリル コテ 10・30mm

コテ

30

コテ

10・30mm

PCM施工有機繊維種類

EVA

2% -

5.5% ビニロン

記号ポリマー

種類ポリマー量(P/C)

30PAE

ビニロン

基盤コンクリートの呼び強度

4% ポリプロピレン

30

30

D10(SD345)

TC-0TC-10TC-30TC-50TC-75TC-150

15

30

50

150

501000

50(@200)

1100

TR-1

TR-2

120 30

150

(RC) (PCM)

PCM30mm

TC-50

75

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38

3) PCMの品質

JIS R 5201に準じて測定したモルタルフローは,

150~190mm 程度であった。また,空気量は表-

3.2.7 に示すように 3.4~13.5%と大きな差が生じ

る結果となった。

表-3.2.7に,試験体に施工したPCMの曲げ強

さ・圧縮強さ試験結果と含水率測定結果を示す。

平成 13 年国土交通省告示第 1372 号第 2 項の「圧

縮強さ≧20N/mm2」は全てのPCMが満足している

が,同告示の「曲げ強さ≧6N/mm2」は満足しない

PCMが 1種類あった。なお,加熱実験時における

PCMの含水率はいずれも5%以下であった。PCM

の施工後,初期養生としてポリエチレンフィルム

で 1 週間封緘養生を実施した。その後,室内で気

乾状態にて 2 ヶ月程度養生し,さらに含水率を平

衡状態に近づけるため,加熱実験前に約 60℃で 1

週間強制乾燥させた。

表-3.2.7 試験体に施工したPCMの強度試験および含水率の測定結果

記号 空気量

(*1)

曲げ強

(*2)

圧縮強

(*2)

含水率

(*3)

加熱前試験体の

状況(*4) 備考

補修厚さ

10mm

補修厚さ

30mm

補修厚さ

10mm

補修厚さ

30mm

表 3.1.2.2

との対応

P1 13.0 10.0 48.1 1.17 2.51 C B I

P2 4.8 6.5 74.8 2.21 2.62 C C T

P3 3.4 11.8 67.4 2.54 2.22 B B G

P4 12.5 9.0 51.5 1.85 2.40 B B E

P5 4.8 11.5 65.3 2.37 2.37 A A J

P6 10.2 8.4 43.3 1.97 1.99 C C S

P7 5.7 7.9 81.0

2.77 3.29 A A F

P7H 2.97 2.66 A A F

E1 8.5 3.4 75.2

2.59 2.64 C C C

E1S - 2.58 - C C

E2 13.5 9.1 55.6

1.94 1.96 A A U

E2S - 1.68 - A U

E3 7.6 9.5 50.6 3.11 2.88 A A A

E4 4.6 - - 2.02 - C - 該当無し

V1 - 9.3 55.0 1.66 2.31 C C D

*1:JIS A 1128 に準拠(単位:%)

*2:JIS A 1171 に準拠(単位:N/mm2)

*3:加熱試験前に,試験体に施工したPCMから小片を採取して,それを試料として含水率を測定した(単

位:%)

*4:加熱前試験体の状況

A:浮きが周囲のみで留まっており比較的ひび割れが多い,

B:広範囲で浮いているがひび割れは少ない,

C:浮き・ひび割れともに少ない

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39

強制乾燥後,ほとんどの試験体において,浮き

やひび割れが発生した。また,強制乾燥前の室内

養生で浮き・ひび割れが発生した試験体があり,

強制乾燥後は浮きがさらに広がり,ひび割れの本

数が増えた。

強制乾燥前後の試験体における浮きやひび割れ

の発生状況のうち,特徴的な試験体(30mm 厚)

を図-3.2.7に示す。

試験体E3やP7 など,浮きが周囲のみで留まっ

ているものは,比較的ひび割れが多い傾向がみら

れた(状態A)。逆に,試験体P3やP4などは広範

囲で浮いているものの,ひび割れは少なかった(状

態 B)。浮き・ひび割れともに少ないものとして,

試験体P2 やE1 などがあった(状態C)。これらの

PCM は,他の PCM と比べて乾燥収縮率が小さか

ったものである[3]。なお,上記の浮きとひび割れ

の関係については,補修厚さ 10mm の PCM にお

いても同様の傾向がみられた。以上の加熱前試験

体における表面状況を表-3.2.7に一覧で示す。

図-3.2.7 強制乾燥前後における特徴的な試験体(30mm厚)の浮き・ひび割れ状況

■強制乾燥前

:浮きの範囲

:ひび割れ

■強制乾燥後

:浮きの範囲

:ひび割れ

■共通

:アンカー+ワッシャーの位置

:メッシュ重ね部

凡例

ひび割れ長さ 400mmひび割れ幅 ~0.1mm

浮き 幅200×奥行150mm

浮き 幅100×奥行30mm

浮き 幅300×奥行80mm

浮き 幅250×奥行50mm

ひび割れ長さ 100mmひび割れ幅 ~0.08mm

ひび割れ長さ 50mmひび割れ幅 ~0.04mm

ひび割れ長さ 200mmひび割れ幅 ~0.04mm

浮き 幅130×奥行50mm

ひび割れ無し

ひび割れ無し

E3 P7

P4

P3

P2 E1

E1S P7H

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40

(2) 壁試験体の加熱実験結果

1) はじめに

ここでは各種のポリマーセメントモルタル(以

下,PCM)で補修した壁試験体における加熱実験の

結果について報告する。

2) 加熱実験結果

表-3.2.8にPCMの損傷状況と爆裂が発生した

加熱時間およびその時の PCM 表面温度を示す。

PCM の損傷状況の分類を図-3.2.8に示す。損傷

は,ひび割れは発生するが剥落・爆裂がない状態Ⅰ,

爆裂がなく平織金網より表層のみに部分的な剥落

が発生した状態Ⅱや表層のみに部分的な剥落・爆

裂が発生した状態Ⅲ,部分的に平織金網より内部

が爆裂した状態Ⅳ,およびほぼ全面的に平織金網

より内部が爆裂した状態Ⅴに大別した。なお,基

盤のコンクリートの損傷はなかった。

ISO834 に規定される標準加熱曲線で加熱実験

を行った結果,爆裂が発生したPCM 試験体では,

早い試験体で 2,3 分から,遅い場合で 12 分から

爆裂が始まり,25分程度まで継続した試験体もあ

った。この間の炉内温度は約 450~800℃で,爆裂

が発生した PCM 表面の温度は補修厚さ 30mm の

P5 を除き損傷発生時間には 180℃を越えていた。

使用ポリマーであるアクリル酸エステル共重合樹

脂(PAE),エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA),

および酢酸ビニル・バーサテート共重合樹脂(VVA)

の熱分解温度は約 230℃~470℃[4]であり,また

含有しているナイロン,アクリル,ビニロン,ポ

リプロピレン繊維の融点は約 165~330℃の範囲

[5]にあると推定される。

加熱実験時におけるPCMの爆裂は,熱応力,熱

分解ガス圧やその増加速度,空隙量の増加速度,

大気中の酸素の有無,細孔径分布の変化等が関係

すると考えられる[6]。そして,PCM 表面が繊維

の融点やポリマーの溶融・熱分解温度に達し,内部

圧力が上昇した PCM は表面から爆裂等の損傷が

始まり,昇温に伴い爆裂が進行したと考えられる。

このため,ポリマー量が多い補修厚さ 30mm では

補修厚さ 10mm よりポリマーの熱分解によるガス

が多くなるため PCM の爆裂の発生が多くなった

と考えられる。

図-3.2.9 に加熱実験において剥落・爆裂が発

生していない試験体の温度履歴を無補修試験体

(N)の温度と併せて示す。

PCM で補修した試験体の温度は,PCM の熱伝

導率が低い[1]ため無補修(N)の試験体の温度より

全般的に低く抑えられる。また,浮きが多く発生

している P3 の試験体では温度がより低く抑えら

れており,浮きによる空気層の影響が表れた結果

となった。壁試験体でPCMの耐爆裂性を適切に評

価するには PCM に浮きやひび割れ等の発生が少

なくコンクリートに密着している必要がある。

図-3.2.10に最高温度の分布を示す。図中の実

線は補修無(N)の場合の試験体の温度分布である。

補修厚さ 10mm,30mm とも損傷状態Ⅰの試験体

では内部温度は低く,コンクリートと同等以上の

遮熱性を有している。一方,全面的に平織金網の

内部から爆裂した損傷状態Ⅴの試験体では無補修

のコンクリートより内部温度が上昇している試験

体が多い。また,吹付け施工した試験体(E1S,E2S)

ではコテにより施工した試験体(E1,E2)と損傷状況

や内部温度がほぼ同じ傾向であり,同等の耐火性

を有していると言える。また,基盤コンクリート

の呼び強度を 60 とした場合(P7H)も呼び強度

30(P7)とほぼ同じ傾向であり,同等の耐火性を有

していると言える。

PCM の耐火性能評価および改善項目を表-

3.2.9 に示す。メッシュ内部まで爆裂し,内部温

度がコンクリートよりも高い値を示したPCM は,

爆裂に対する改良する必要があると判断し,不合

格「×」とした。これ以外のものは合格「○」と

した。なお, 1 に示したように耐久性や品質面に

懸念のあるPCMもあったので,改良すべき内容を

同表には示した。

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41

表-3.2.8 PCMの損傷状況

記号 ポリマー

種類

補修厚さ 10mm 補修厚さ 30mm

損傷

状態

損傷発生時間

min(温度℃)

損傷

状態

損傷発生時間

min(温度℃)

P1

PAE

Ⅰ - Ⅰ -

P2 Ⅲ 8(197) Ⅳ 4(×)P3 Ⅰ - Ⅰ - P4 Ⅰ - Ⅴ 6(220) P5 Ⅰ - Ⅴ 2( 73) P6 Ⅱ 7(×) Ⅴ 5(224) P7 Ⅰ - Ⅰ -

P7H Ⅰ - Ⅲ 6(180) E1

EVA

Ⅰ - Ⅲ 5(187) E1S Ⅰ - E2 Ⅰ - Ⅱ 12(×)

E2S Ⅲ 8(213) E3 Ⅳ 10(283) Ⅴ 6(187) E4 Ⅰ - V1 VVA Ⅴ 8(184) Ⅴ 5(185)

注) (×)は温度計測不良

状態Ⅰ:ひび割れ 状態Ⅱ:金網より表層のみの剥落 状態Ⅲ:金網より表層のみの剥落・

爆裂

状態Ⅳ:部分的な内部の爆裂 状態Ⅴ:全面的な内部の爆裂

図-3.2.8 PCM損傷状況の分類

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a) 無補修(N)

b) 補修厚さ30mm(E2S)

c) 補修厚さ30mm(P3)

図-3.2.9 温度履歴の例

0

200

400

600

800

1000

1200

0 60 120 180 240 300

温度

(℃)

加熱時間(分)

0

200

400

600

800

1000

1200

0 60 120 180 240 300

温度

(℃)

加熱時間(分)

0

200

400

600

800

1000

1200

0 60 120 180 240 300

温度

(℃)

加熱時間(分)

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43

損傷状況:●状態Ⅰ ◆:状態Ⅱ ▲状態Ⅲ ◇状態Ⅳ ×:状態Ⅴ

図-3.2.10 最高温度の分布

表-3.2.9 PCMの耐火性能評価および改善項目

0

200

400

600

800

1000

1200

0 25 50 75 100 125 150

最高温

度(℃

)

加熱面からの距離 (mm)

補修厚さ 10mm

N P1P2 P3P4 P5P6 P7P7H E1E2 E3E4 V1

0

200

400

600

800

1000

1200

0 25 50 75 100 125 150

最高温

度(℃

)

加熱面からの距離 (mm)

補修厚さ 30mm

N P1P2 P3P4 P5P6 P7P7H E1E1S E2E2S E3V1

PCMの状況 記号 PCM厚さ(mm) 爆裂・剥落状況耐火

評価改良の要否

10 爆裂無し

30 爆裂無し

10 爆裂無し

30 爆裂無し

10 爆裂無し

30 爆裂無し

10 爆裂無し

30 表層一部爆裂、一部剥落

10 爆裂無し

30 表層一部剥落

E2S 30 表層一部剥落

10 爆裂無し

30 表層一部剥落

E1S 30 爆裂無し

10 爆裂無し

30 メッシュ内部まで爆裂

10 表層一部爆裂

30 メッシュ内部まで爆裂

10 表層一部爆裂

30 メッシュ内部まで爆裂

10 一部剥落

30 メッシュ内部まで爆裂

10 表層一部爆裂

30 メッシュ内部まで爆裂

10 メッシュ内部まで爆裂

30 メッシュ内部まで爆裂

×

×

爆裂防止のために改良の必要

あり

爆裂防止のために改良の必要

あり

×

×

×

×

P2

E3

P4

P6

V1

P1

P7

P7H

E2

E1

P5

10mm、30mmいずれ

も爆裂なし

10mm爆裂無し

30mmメッシュ内部

まで爆裂

爆裂防止のために改良の必要

あり

耐火試験体に大きな面積の付

着剥離が発生しており、施工

方法・材料施工性に懸念があ

るため、この改良が必要

10mm表層一部爆

裂・剥落

30mmメッシュ内部

まで爆裂

10mm表層一部爆

裂・剥落

30mmメッシュ内部

まで爆裂

10mm、30mmいずれ

もメッシュ内部ま

で爆裂

10mm爆裂無し

30mm表層の爆裂or

剥落

P3

爆裂防止のために改良の必要

あり

耐火試験体に大きな面積の付

着剥離が発生しており、施工

方法・材料施工性に懸念があ

るため、この改良が必要

メッシュの変更(施工法の改

良)により剥落は防止でき、

PCMの改良は必要ないと考えら

れる

メッシュの変更(施工法の改

良)により剥落は防止でき、

PCMの改良は必要ないと考えら

れる

暴露試験体等の施工におい

て、付着の剥離が出易い傾向

が確認されており、材料施工

性・付着性能の改良が必要

爆裂防止のために改良の必要

あり

爆裂防止のために改良の必要

あり

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44

(3) 耐爆裂性の評価方法の検討

1) はじめに

既報[7]では,補修材料として用いるポリマーセ

メントモルタル(以下,PCM)の大きな損傷や剥

落がなければ,補修部材の耐火性が確保できるこ

とが確認されている。したがって,材料自体が過

度の発熱や爆裂等の損傷を生じないことが補修材

料に求められる要件となる。文献[4]や[8]による

と,TG-DTA(示差熱-熱重量同時分析)や簡易

爆裂評価試験により PCM の耐爆裂性を評価でき

る可能性があると報告されている。

ここでは PCM の耐爆裂性をできるだけ簡易に

評価し,材料開発や補修材料の選定における一次

的なスクリーニングとして適用できる耐爆裂性の

評価試験の方法を確立するための検討を行った。

2) 実験概要

使用材料は 3.2.2(1)で示した市販の PCM と同種

の試料に加え各メーカーが耐爆裂性向上のために

改良を行った材料(試作品)も実験の対象とした。

①簡易爆裂評価試験

簡易爆裂評価試験は,文献[8]で検討した結果を

踏まえ,表-3.2.10 に示す試験条件で実施した。

ここで,電気炉内の温度条件(800℃)は,加熱実

験において材料の爆裂が多く生じる時間帯(加熱

開始後5分~25 分程度)における耐火炉内の温度

を考慮して決定した。また,試験体の内部拘束と

は,剥落防止として使用している SUS304 製の平

織金網を試験体中央部に縦方向に挿入したもので

ある。

②TG-DTA

TG-DTA は文献[4]と同様の測定装置および測

定条件で実施した。結果の分析は,発熱ピーク面

積および発熱温度範囲における質量減少率を評価

指標とした。図-3.2.11にTG-DTA による熱分析

結果の一例とその解釈および評価指標について示

す。

(4)結果および考察

表-3.2.11に簡易爆裂試験,熱分析結果および

壁試験体加熱実験における爆裂状況の一覧を示す。

簡易爆裂評価試験における損傷の状況としては,

爆裂による粉砕,割れ,折れおよび爆裂を伴わな

いひび割れ等が確認された。試験体の寸法の影響

については大きな差異はないものの,100mmの方

がより損傷が生じやすい傾向にあることが確認さ

れる。また,内部拘束の有無による影響は,内部

拘束がある試験体の方がひび割れを生じやすい傾

向にあり,拘束によってひび割れが生じやすくな

ることが確認される。ただし,壁試験体加熱実験

における表層部のみの剥落・爆裂等の損傷状況(損

傷状態Ⅱ,Ⅲ)との相関については今回の結果か

らは確認できなかった。

表-3.2.10 簡易爆裂評価試験条件

試験体形状および寸法:φ50×100mmおよびφ50×50mm内部拘束:拘束なしおよび一方向の拘束

養生条件

打設~材齢2日:20℃・90%R.H.以上湿空養生脱型材齢2日~7日 :標準養生(表乾状態質量測定)材齢7日~28日:気中乾燥(20℃・60%R.H.)→各調合の吸水率を測定(各調合3本ずつを105℃で乾燥)以降、20℃~40℃に調整した恒温恒湿槽内で目標の含水率(5.0±0.5%)となるように含水率調整(含水率は材齢7日の質量および吸水率から推測)

試験条件

予め800℃に加熱した電気炉内に試験体を入れ20分間静置し,20分間経過後試験体を取り出し、爆裂や損傷の有無を目視により確認。※試験体が互いに接触せず、爆裂による影響を受けないように、試験体を網かご等により1体ごとに区分けして設置する。

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45

図-3.2.11 TG-DTA結果の一例と解釈および評価指標

簡易爆裂評価試験の結果と壁試験体加熱実験の

結果を比較した場合,壁試験体加熱実験で全面的

な爆裂(損傷状態Ⅴ)を生じた試料については,

簡易爆裂試験でも,爆裂や折れ,割れ等の損傷が

生じており,概ね再現できていると思われる。た

だし,P4については簡易爆裂評価試験では爆裂等

の大きな損傷が認められなかった。

図-3.2.12に発熱範囲の質量減少率と発熱ピー

ク面積の関係を示す。図には,比較用に“繊維無し”

のPCMとして文献[4]に示した既知調合のデータ

(ただし,SBR は除く)も合わせて示している。

質量減少率と発熱ピーク面積には一定の関係があ

り,特に繊維が入っていない場合には強い相関が

確認される。市販のPCMは繊維無しの場合に比べ

て質量減少率が大きくなる傾向にあり,それらは

繊維などのセメント混和用のポリマー以外の焼失

による質量減少などが要因と考えられる。

図-3.2.13に耐爆裂性について改良を行った試

料のみについて質量減少率と発熱ピーク面積の関

係を示す。ここでは改良の内容についての詳細は

確認していないが,改良の方向性には二通りの考

え方があり,ポリマー量を減らして発熱量や燃焼

によって発生するガスの量を減らそうというもの

(P4 および V1)と,ポリマー量は減らさず繊維

量を増やすなどの考え方によるもの(E3 および

P6)があることが推測される。

図-3.2.14に壁試験体加熱実験を行った試料の

みの質量減少率と発熱ピーク面積の関係,図-

3.2.15に簡易爆裂試験を行った試料の質量減少率

と発熱ピーク面積の関係を示す。図中,中実の記

号は爆裂が生じた試料を表している。

TG-DTA の結果と爆裂の有無との関係は,VVA

を混入した試料を除き,発熱ピーク面積が10℃・℃

/mg を超える範囲のものが爆裂を生じている。ま

た,簡易爆裂試験において爆裂の生じなかったP4

試料についても,発熱ピーク面積は 10℃・℃/mg

を超えている。質量減少率については,繊維の混

入の影響などの理由により明瞭な傾向が確認でき

ず,現時点では評価指標としての適用は難しいと

思われる。VVA を混入した試料については,発熱

ピーク面積が小さい場合でも簡易爆裂評価試験に

おいて爆裂を生じている。なお,前節に示した簡

易爆裂評価試験結果との関係(図-3.1.14)では,

ピーク面積が 8℃・℃/mg を超えたものについて爆

裂の可能性が高くなっている。

以上のことから,爆裂の危険性を評価するスク

リーニングの試験としては,EVA,PAE を混入し

た材料の場合は,TG-DTA 試験によって概ね

-80

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

0 100 200 300 400 500temp(℃)

DTA(μ

V)

60

65

70

75

80

85

90

95

100

105

TG

(%

DTA TG

発熱ピーク面積

基線

発熱ピーク

発熱温度範囲

m1

m2

質量減少率(%) M=(m1-m2)/ m1×100

付着水の脱離,カルシウムシリケート水和物やエトリンガイト等

の脱水分解による質量減少と吸熱

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46

10℃・℃/mg程度を閾値として,それより大きいも

のについては,爆裂の危険性をより詳細に検討す

ることが望ましいと思われる。また,VVA の場合

には簡易爆裂評価試験によるスクリーニングが有

効である。また,いずれの評価方法についても,

現時点では壁試験体加熱実験の損傷状況を完全に

再現するには至っておらず,最終的な評価には,

部材を模擬した試験体での確認が必要である。

表-3.2.11 試験結果一覧

図-3.2.12 質量減少率と発熱ピーク面積の関係

(全データ)

図-3.2.13 質量減少率と発熱ピーク面積の関係

(改良試作品)

φ50-100 φ50-50 φ50-100 φ50-50

P1 Ⅰ - - △ - 3.00 16.0

P2 Ⅳ - - ▲ △ 2.77 4.8

P2-改良 - - - - 3.00 5.3

P3 Ⅰ - - ▲ - 2.88 7.1

P4 Ⅴ - - △ △ 2.51 11.4

P4-改良 - - - - 2.38 8.0

P5 Ⅴ ○ - - - 3.06 14.1

P6 Ⅴ ○ ● ○△ ○ 3.20 14.7

P6-改良 - - ▲ ▲ 4.31 18.5

P7 Ⅰ △ - ▲ ▲ 2.54 7.6

E1 Ⅱ - - ▲ - 3.13 4.4

E2 Ⅲ - - - - 2.98 8.7

E3 Ⅴ ○ ● ● △ 3.47 11.5

E3-改良 ▲ - ▲ - 4.52 17.8

V1 Ⅴ ● ○ ○ ○ 2.99 6.8

V1-改良 ○ - ○ ○ 1.49 2.2

簡易爆裂試験における記号の意味

●:2体とも爆裂・折れ・割れ等の大きな損傷 ,○どちらか1体のみ爆裂・折れ・割れ等の大きな損傷

▲:2体ともひび割れ等の軽微な損傷 ,△:1体のみひび割れ等の軽微な損傷 ,-:損傷等なし

:●か○の損傷

小型壁のPCM損傷状態30mm

記号 発熱範囲質量減少率

(%)

発熱ピーク面積

(℃・℃/mg)

簡易爆裂試験結果 TG-DTA熱分析試験結果

内部拘束なし 内部拘束あり

y = 6.81 x - 6.41

R2 = 0.98

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5発熱範囲質量減少率 (%)

発熱

ピー

ク面

積 (℃

・℃/m

g)

EVAPAEVVA繊維無し

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5発熱範囲質量減少率 (%)

発熱

ピー

ク面

積 (℃

・℃/m

g)

EVAPAEVVA繊維無し

E3

P4

P6

V1

※中空:改良試作品

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47

図-3.2.14 TG-DTA結果と爆裂の有無の関係(壁

試験体加熱試験)

図-3.2.15 TG-DTA結果と爆裂の有無の関係(簡

易爆裂評価試験)

(5) ポリマーセメントモルタルの耐久性,耐爆

裂性の改善

1) 目的

かぶり厚さの補修に用いられるポリマーセメン

トモルタルには,①付着強度が大きく既設コンク

リートとの一体性を保持できること,②耐久性上

の問題となるひび割れができるだけ発生しないこ

とが求められる。また,火災時には,③内装制限

の必要な居室においては不燃性であること,④火

災時に補修面が爆裂せず,コンクリートと同様に

鉄筋温度の上昇を抑える効果を発揮することが必

要となる。

3.2.2.(2)に示したように,耐久性,耐爆裂性に改

善の余地があるPCMがあった。そこで,耐久性,

耐爆裂性の改善を行い,改めて加熱実験を実施し,

加熱前のひび割れ状況の確認,及び試験体内部温

度,PCMの爆裂・剥落状況を把握することを目的

とした。

2) 試験体

①試験体概要

試験体一覧を表-3.2.12に示す。試験体の形状,

メッシュの割付・留め付けを図-3.2.16に示す。

試験体数は 10 体であり,加熱面側にPCM を施

工した。基盤コンクリートの形状寸法は,高さ

1100mm×幅 1100mm×厚さ 120mm とした。基盤コ

ンクリートのかぶり厚さを10mm,PCM補修厚さ

を30mmとし,全体のかぶり厚さを40mmとした。

PCM による補修面積は 1050×1050mm,補強用メ

ッシュの割付寸法は1000×1000mmとした。

補強用メッシュは,ファインメッシュ(φ

1.2mm-P25:(株)奥谷金網製作所製)とし,スクリュ

ーアンカー(Pレスアンカー:L=75mm)を用いて基

盤コンクリートへ留め付けた。スクリューアンカ

ーの位置は,400mm ピッチを基本とし,図-

3.2.16に示す通りとした。PCM施工後,3ヶ月間

屋内で自然乾燥を行い,自然乾燥後ひび割れ,お

よび浮きの調査を行った。さらに,自然乾燥後,

室温約 60℃の部屋において 1 週間強制乾燥した。

②基盤コンクリート

基盤コンクリートの使用材料を表-3.2.13 に,

コンクリートの仕様を表-3.2.14に,コンクリー

トの調合を表-3.2.15に示す。

③アンカーピン,補強用メッシュ,およびワッ

シャー

PCMの剥落防止用に用いたアンカーピン,補強

用メッシュ,およびワッシャーの仕様を表-

3.2.16に示す。

アンカーピンは,ステンレス鋼製スクリューア

ンカーL=75mm(P レスアンカー),ワッシャーは,

ステンレス鋼製φ40mm ワッシャー,補強用メッ

シュは,ステンレス鋼製のファインメッシュとし

た。

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5発熱範囲質量減少率 (%)

発熱

ピー

ク面

積 (℃

・℃/m

g)EVA

PAE

VVA

P4

※中実:爆裂,折れ,割れ等

の大きな損傷

0

5

10

15

20

25

0 1 2 3 4 5発熱範囲質量減少率 (%)

発熱

ピー

ク面

積 (℃

・℃/m

g)

EVA

PAE

VVA

※中実:損傷状態Ⅴ

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48

表-3.2.12 試験体一覧

No. 加熱試験日 試験体記号 改善点

1

2012/2/21

P1 耐久性

2 P4 耐爆裂性

3 P7 耐久性

4 P2 耐爆裂性

5 P3 耐久性

6

2012/2/23

E3-A 耐爆裂性

7 P6 耐爆裂性

8 E3-C 耐爆裂性

9 V1 耐爆裂性

10 E3-B 耐爆裂性

図-3.2.16 メッシュの割付・留め付け

表-3.2.13使用材料

セメント 普通ポルトランドセメント:宇部三菱セメント,密度3.16g/cm3

細骨材 砂:茨城県神栖産(石津建材),表乾密度2.61g/cm3

砕砂:茨城県桜川産(大泉砕石),表乾密度2.64g/cm3

粗骨材 砕石:茨城県笠間市上郷産(岩間砕石),表乾密度2.74g/cm3

練混ぜ水 上水道水

混和剤 高性能AE減水剤:マイティ 3000H(花王)

表-3.2.14 コンクリートの仕様

設計基準強度(Fc) 30N/mm2

スランプ 12.0 ㎝±2.5

空気量 4.5%±1.5

標準偏差 2.5N/mm2

強度の割増(ΔF) 3.0N/mm2

調合強度 37.3N/mm2

②:610×1000mm

①:450×1000mm

400260 260

400

400

120

重ね(50mm)

+アンカー

熱電対設置エリア

スクリューアンカー+ワッシャー 突き付け部ではアンカー位置,ワッシャーの

かかりに注意

凡例

同上,重ね部2枚箇所

伏込み順序,加工サイズ①:450×1000mm

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49

表-3.2.15 調合

設計基準強度 スランプ空気量 水セメント比単位量(kg/m3)

水 セメント細骨材 粗骨材

混和剤(N/mm2) (cm) (%) (%) 砂 砕砂 砕石

30 12 4.5 52.8 155 294 519 350 1029 2.05

表-3.2.16 メッシュの種類

材料 名称等 材種 メーカー

アンカー スクリューアンカー L=75mm

Pレスアンカー ステンレス SUS410 サンコーテクノ㈱

ワッシャー φ40mmワッシャー ステンレス SUS410 サンコーテクノ㈱

補強用メッシュ ファインメッシュ

φ1.2mm-P25 ステンレス SUS304 ㈱奥谷金網製作所

3) 試験体温度計測計画

加熱試験時には,壁炉内温度および試験体の

内部温度を計測した。各試験体に対し,コンク

リートの内部温度を試験体の厚み方向に 7 箇

所,鉄筋温度を 2箇所の合計 9箇所にて計測し

た。計測位置は加熱面での中央位置とし,加熱

表面からの距離を各試験体で合わせた。温度計

測のための熱電対の設置位置を図-3.2.17 に

示す。コンクリート内部温度計測位置を●,鉄

筋温度計測位置を●で示す。

図-3.2.17 試験体の形状寸法

11001000(@200)

100

0110

0

150

10

75

150

TR-1

TR-2

TC-50

TC-0TC-10TC-30TC-50TC-75TC-150

D10(SD345)

PCM30mm

PCM30mm

30(PCM)

30(PCM)

10

30

50

75

120(RC)

50

150

50

40

110

150

120

(RC)

50

3050

50

30

30

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50

4) 加熱試験計画

加熱試験のセットアップ状況を図-3.2.18に,試

験体割付図を図-3.2.19~図-3.2.20 に示す。1

回の加熱実験時に,試験体 5 体を一度に加熱した。

加熱は,ISO834 に規定される標準加熱曲線に従っ

た 3 時間の加熱とし,3 時間経過後は 6 時間まで

加熱炉内で自然冷却させた。計測は,加熱開始か

ら自然冷却終了まで,合計 6 時間計測を行った。

(a)治具図面

(b)設置状況

図-3.2.18 壁試験のセットアップ状況

壁試験体 壁試験体 壁試験体

壁試験体壁試験体壁試験体

壁試験体

マスクパネル

4,200

4,2

00

1,100

1,1

00

150

固定用フレームC-100×50等

アンカーボルト(4本以上)加熱面

壁試験体

アンカーボルト(M16もしくはM24メスネジ)

充填材

充填材

移動用フック

充填材

注)破線部は固定用鉄骨フレームを想定

マスク材

マスク材

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図-3.2.19 加熱割付図(2012/2/21:加熱面側)

図-3.2.20 加熱割付図(2012/2/23:加熱面側)

No.6E3-A ダミー

No.7P6

No.8E3-C

No.9V1

No.10E3-B

西 東

No.1P1 ダミー

No.2P4

No.3P7

No.4P2

No.5P3

西 東

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52

5) 施工結果

①基盤コンクリート試験結果

基盤コンクリートの試験結果を表-3.2.17 に,

作製状況を写真-3.2.2に示す。

表-3.2.17 コンクリートの試験結果

打設日 Fc

フレッシュコンクリート 標準養生圧縮強度部材同一圧縮強度

スランプ

(cm)

空気量

(%)

コンクリート温度

(℃)

7 日

(N/mm2)

28 日

(N/mm2)

28 日

(N/mm2)

2011/2/10 30 9.5 3.0 6.0 33.6 45.3 38.0

コンクリート打設前型枠状況 熱電対設置状況1

熱電対設置状況2 フレッシュ試験結果

コンクリート打設状況1 コンクリート打設状況2

写真-3.2.2 作成状況

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53

②PCM試験結果

PCM の試験結果を表-3.2.18に示す。PCM の

含水率は,PCM施工時に,試験体の壁小口面に厚

さ 30mm の含水率測定用のダミー供試体を打設し,

壁試験体と同条件で養生し,試験直前にダミー供

試体を絶乾にして測定した。

③PCM施工

各試験体PCM塗りに先立ち,コンクリート躯体

の表面をカップサンダー掛けにより目粗しし,下

地の清掃を行った。さらに,アンカー墨出位置を

確認した後,アンカー孔を先行穿孔した。アンカ

ー用のドリル径は直径 5.3mm で,「使用アンカー

全長-5mm」の深さまで穿孔した。穿孔孔を清掃

後,木製の養生棒(φ5mm)で穿孔孔を養生した。メ

ッシュの伏せ込みは,設置する層の下ごすり後に

行った。

PCMの1層あたりの塗厚はメーカー毎に異なる

が 10~15mm とし,2~3 層塗りとした。下地(下

層)との密着性を確保するため,各層ごとに 2~

3mm 程度,下塗り用 PCM を用いて鏝圧を強くか

けて下ごすりを行い,その後規定厚さまでPCMを

塗りつけた。

PCMを仕上げた試験体については,散水後,表

面をポリフィルムにて1週間養生した。その後,3

ヶ月間屋内で自然乾燥を行い,自然乾燥後,さら

に,室温約60℃の部屋において 1週間強制乾燥し

た。

補修施工断面の詳細を図-3.2.21に,PCM補修

の施工手順を図-3.2.22に示す。

表-3.2.18 PCMの強度および含水率試験結果

試験体 No.

記号 施工厚さ

圧縮強度 含水率 標準養生 圧縮強度

現場封かん養生 圧縮強度

(N/mm2) (N/mm2) (%)

1 P1 10mm 54.2 47.3 4.1

30mm 38.7 35.8 2 P4 10mm 48.3 36.7

3.5 30mm 48.3 36.7

3 P7 10mm 77.0 65.3 4.4

30mm 77.0 65.3 4 P2 10mm 54.0 47.4

4.9 30mm 54.0 47,4

5 P3 10mm 62.0 52.9 4.0 30mm 62.0

54.2 52.9 47.3

6 E3-A 10mm 45.4 41.1 5.2

30mm 45.4 41.1 7 P6 10mm 53.5 46.6

5.2 30mm 53.5 48.8

8 E3-C 10mm 52.7 47.8 4.5

30mm 52.7 47.8 9 V1 10mm 54.0 47.4

4.2 30mm 54.1 44.0

10 E3-B 10mm 50.8 42.9

4.1 30mm 52.7 47.8

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54

塗り厚さ30mm時の3層目伏せ込み塗りの施工

手順

①カップ掛けによる目粗しを行う(中央部の熱電

対位置の周囲30mmは避ける)

②下地清掃後,アンカー位置の墨出しを行う

③φ5.3mm ドリルビットで「使用アンカー全長-

5mm」の深さまで下孔穿孔,孔内の粉を除去

④アンカー用削孔に養生棒を差し込み養生する

⑤水湿しによる吸水調整

⑥2~3mm 程度の下ごすりを,鏝圧を強くかけて

行う

⑦塗り厚 7mm 程度塗りつけて 1 層目を仕上げる

(箒引き)

⑧水湿しによる吸水調整

⑨2~3mm 程度の下ごすりを,鏝圧を強くかけて

行う

⑩塗り厚 7mm 程度塗りつけて 2 層目を仕上げる

(箒引き)

⑪水湿しによる吸水調整

⑫2~3mm 程度の下ごすりを,鏝圧を強くかけて

行う

⑬メッシュを伏せ込む

⑭養生棒を抜き,ワッシャをはめたアンカーをね

じ込みメッシュを固定

⑮塗り厚7mm程度塗りつけて仕上げる

図-3.2.21 補修施工断面(3層施工)

図-3.2.22 3層施工の場合の施工手順

コンクリート躯体

P レスアン

カー

1層目

3層目 2層目

下ごすり

アンカーネジ頭

メッシュ

ワッシャ

⑬⑩

下ごすり

コンクリート躯体

メッシュ

ワッシャ

仕上げ

塗り

コンクリート躯体

ドリル孔

コンクリート躯体 コンクリート躯体下ごすり

④ ⑦

養生棒養生棒 養生棒

1層目

塗り

養生棒

養生棒 養生棒 P レスアンカー

メッシュ

コンクリート躯体

下ごすり

2層目

塗り コンクリート躯体 コンクリート躯体

コンクリート躯体

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55

6) 耐火試験前の試験体の状況

自然乾燥終了後,目視観察により,PCMの浮き,

ひび割れの検査を行った。表-3.2.19に判定基準,

試験・検査方法,時期回数の詳細を示す。

外観目視観察の結果を表-3.2.20に示す。PCM

の浮き・ひび割れの発生状況を図-3.2.23~図-

3.2.32に示す。なお図中には表-3.2.19に示した

外観の微細ひび割れの判定基準に該当しないもの

の,0.05mm未満の極微細ひび割れも併せて示した。

外観目視観察の結果,PCMにひび割れや浮きの

発生が認められた。No.6(E3-A)とNo.7(P6)試験体

については,内部に浮きが発生しており,またひ

び割れ係数が0.2m/m2以上であり表-3.2.19の判

定基準を満足しなかった。また,No.4(P2)試験体に

ついては,内部に浮きが発生しており表-3.2.19

の判定基準を満足しなかった。

表-3.2.19 施工後の検査事項

項目 判定基準 試験・検査方法 時期・回数 備考

塗厚さ 計画した塗り厚さ以上で

あること 目視,スケール 施工部位の端部および

塗り厚さを確認できる

箇所で適宜

外観 亀甲ひび割れなど全面に

微細なひび割れがない事 目視 全数 対象とするひび割れは

0.05mm以上とする 浮き 浮きがないこと 打音による範囲の

確認,スケール 全数 本試験では内部に浮きが

無く,かつ,外周部に浮き

が生じる場合は施工面積

の 10%以下であること ひび割れ 0.2mm を超えるひび割れ

がないこと ひび割れ係数が0.2m/m2以

下であること

クラックスケー

ル,スケール 全数 ひび割れ係数の対象は

0.1mm以上とする

※浮きの外周部・内部の定義 「外周部」・・・PCM補修の外縁から外周アンカー芯から 50mm内側までの部分

「内部」・・・・PCM補修全体から外周部を除いた部分

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56

表-3.2.20 外観目視観察結果

No. 記号 外観 浮き ひび割れ

判定 外周部 内部 ひび割れ係数 0.2mm以上

1 P1 無 2.03% 0% 0m/m2 無 ○ 2 P4 無 0.33% 0% 0m/m2 無 ○ 3 P7 無 5.01% 0% 0m/m2 無 ○ 4 P2 無 10.38% 4.88% 0m/m2 無 × 5 P3 無 0.27% 0% 0m/m2 無 ○ 6 E3-A 有 6.18% 6.96% 0.3m/m2 無 × 7 P6 無 11.82% 12.73% 0.72m/m2 無 × 8 E3-C 無 0% 0% 0m/m2 無 ○ 9 V1 無 0% 0% 0m/m2 無 ○ 10 E3-B 有 0.30% 0% 0m/m2 無 ○

外周部のみ浮きが発生 2.03%<10%

ひび割れの発生なし 図-3.2.23 No.1浮き・ひび割れ発生状況[P1]

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57

外周部のみ浮きが発生 0.33%<10%

ひび割れ幅は0.06mm未満 図-3.2.24 No.2浮き・ひび割れ発生状況[P4]

・外周部のみ浮きが発生 5.01%<10%

・ひび割れ幅は 0.04~0.08mm 図-3.2.25 No.3浮き・ひび割れ発生状況[P7]

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58

・外周部および内部で浮きが発生

・外周部浮き 10.38%>10% ・内部浮き 4.88%

・ひび割れ幅は 0.04mm以下 図-3.2.26 No.4浮き・ひび割れ発生状況[P2]

・外周部のみ浮きが発生 0.27%<10% ・ひび割れ幅は 0.04mm以下 外周部のみ

図-3.2.27 No.5浮き・ひび割れ発生状況[P3]

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59

・外周部および内部で浮きが発生

・外周部浮き 6.18%<10%

・内部浮き 6.96%

・ひび割れは0.06~0.10mm

・ひび割れ指数 0.3m/m2>0.2m/m2

図-3.2.28 No.6浮き・ひび割れ発生状況[E3-A]

・外周部および内部で浮きが発生

・外周部浮き 11.82%>10% ・内部浮き 12.73%

・ひび割れは0.06~0.10mm ・ひび割れ指数 0.72m/m2>0.2m/m2

図-3.2.29 No.7浮き・ひび割れ発生状況[P6]

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60

・浮きの発生なし

・ひび割れの発生なし

図-3.2.30 No.8浮き・ひび割れ発生状況[E3-C]

・浮きの発生なし

・ひび割れの発生なし

図-3.2.31 No.9浮き・ひび割れ発生状況[V1]

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61

・外周部のみ浮きが発生 0.30%<10%

・ひび割れは0.04mm未満 図-3.2.32 No.10浮き・ひび割れ発生状況[E3-B]

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62

7) 耐火試験結果

①目視観察結果

耐火試験後の試験体外観を写真-3.2.3~写真

-3.2.12に示す。

No.1(P1)試験体は,ひび割れおよび全面的な浮き

が発生しているものの,爆裂,剥落等は発生しな

かった。No.2(P4)試験体は,表層の一部が剥落し,

内部も爆裂が発生していた。No.3(P7)試験体は,ひ

び割れおよび全面的な浮きが発生しているものの,

爆裂,剥落等は発生しなかった。なお,表層の剥

落は,耐火試験後の試験体の移動時に発生したも

のである。No.4(P2)試験体は,表面部は全面的に剥

落し,内部も爆裂が発生していた。No.5(P3)試験体

は,表層の 3 割程度が剥落し,内部も爆裂が発生

していた。No.6(E3-A)試験体は,部分的に表面部

が剥落し,内部も一部爆裂が発生していた。

No.7(P6)試験体は,全面的な浮きが発生し,また表

層が極薄く剥落した。No.8(E3-C)試験体は,表層

の一部が剥落したが,その他の部分では爆裂,剥

落等は発生しなかった。No.9(V1)試験体は,ほぼ

全面的に内部から爆裂が発生した。No.10(E3-B)試

験体は,ひび割れおよび全面的な浮きが発生して

いるものの,爆裂,剥落等は発生しなかった。

写真-3.2.3 耐火試験後の状況(No.1)[P1] 写真-3.2.4 耐火試験後の状況(No.2)[P4]

(耐火試験後の損傷状態…Ⅰ:ひび割れ) (耐火試験後の損傷状態…Ⅳ:部分的な内部の爆裂)

写真-3.2.5 耐火試験後の状況(No.3)[P7] 写真-3.2.6 耐火試験後の状況(No.5)[P3]

(耐火試験後の損傷状態…Ⅰ:ひび割れ) (耐火試験後の損傷状態…Ⅳ:部分的な内部の爆裂)

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63

写真-3.2.7 耐火試験後の状況(No.4)[P2] 写真-3.2.8 耐火試験後の状況(No.6)[E3-A]

(耐火試験後の損傷状態…Ⅴ:全面的な内部の爆裂)(耐火試験後の損傷状態…Ⅳ:部分的な内部の爆裂)

写真-3.2.9 耐火試験後の状況(No.7)[P6] 写真-3.2.10 耐火試験後の状況(No.9)[V1]

(耐火試験後の損傷状態…Ⅱ:金網より表層のみの剥落)(耐火試験後の損傷状態…Ⅴ:全面的な内部の爆裂)

写真-3.2.11 耐火試験後の状況(No.8)[E3-C] 写真-3.2.12 耐火試験後の状況(No.10)[E3-B]

(耐火試験後の損傷状態…Ⅱ:金網より表層のみ (耐火試験後の損傷状態…Ⅰ:ひび割れ)

の剥落)

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64

②温度計測結果

各試験体の加熱試験における温度履歴を

図-3.2.33~図-3.2.42 に,各試験体の加熱

表面から 30mmと 50mmの位置の最高温度を

表-3.2.21 に示す。

図-3.2.33 加熱試験の温度履歴(No.1 P1)

図-3.2.34 加熱試験の温度履歴(No.2 P4)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 UK

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 DK

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

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65

図-3.2.35 加熱試験の温度履歴(No.3 P7)

図-3.2.36 加熱試験の温度履歴(No.4 P2)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 JC

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 SO

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

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66

図-3.2.37 加熱試験の温度履歴(No.5 P3)

図-3.2.38 加熱試験の温度履歴(No.6 E3-A)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 SD

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 NS-A

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

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67

図-3.2.39 加熱試験の温度履歴(No.7 P6)

図-3.2.40 加熱試験の温度履歴(No.8 E3-C)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 TM

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 NS-C

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

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68

図-3.2.41 加熱試験の温度履歴(No.9 V1)

図-3.2.42 加熱試験の温度履歴(No.10 E3-B)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 BA

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

1100

1200

0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360

加熱時間(分)

温度

(℃)

炉内温度

TC-0 NS-B

TC-10

TC-30

TC-50-1

TC-50-2

TC-75

TR-1

TR-2

TC-150

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69

表-3.2.21 加熱表面から 30mm と 50mm の温度

試験体

No. 記号

表面から 30mm 表面から 50mm

加熱 2 時間時

の温度(℃)

最高温度 経過時間 最高温度 経過時間

(℃) (min) (℃) (min)

1 P1 286.7 416.4 193 339.2 209

2 P4 210.3 365.4 225 352.0 216

3 P7 265.7 368.3 199 368.4 205

4 P2 543.6 695.8 183 544.0 190

5 P3 369.4 481.1 189 371.2 208

6 E3-A 346.9 465.8 190 349.2 210

7 P6 364.7 510.1 188 387.8 204

8 E3-C 354.9 484.9 190 350.8 214

9 V1 419.5 507.6 187 415.3 210

10 E3-B 209.4 348.7 218 294.3 236

(6) まとめ

各種の PCM で補修した壁試験体による加

熱実験を行い,PCM の耐火性を耐爆裂性と

遮熱性の観点から比較検討した。なお,剥落

防止として補強用メッシュおよびネジ式ア

ンカーを用いて PCM を留め付けた。その結

果,以下の知見が得られた。

1) PCM の品質については,強制乾燥前の室

内環境下において浮きやひび割れが発生

した PCM があり,使用材料や調合などの

見直しを行う必要があると考える。

2) PCM の補修厚さ 30mm の方が補修厚さ

10mm より耐爆裂性に劣る。

3) PCM が剥落しなければ PCM の補修厚さ

が 10mm,30mm ともコンクリートより遮

熱性に優れる。

4) 加熱前のPCMの浮きやひび割れが爆裂の

発生に影響を及ぼす可能性があるため耐

爆裂性の評価では PCM に浮き・ひび割れ

等が少ないことが要求される。

5) 吹付け施工は,コテによる施工と同等の

耐火性を有している。

6) 壁試験体による加熱実験で,下地となる

コンクリートの強度は呼び強度 60程度ま

でであれば普通コンクリート強度と同等

の評価が可能である。

7) 上記 2),3)から,PCM の耐火性を評価す

る方法として,補修厚さ 30mm で 1m 角

の壁試験体による加熱実験が有効である。

8) 状態Ⅰの爆裂・剥落がない耐爆裂性・遮

熱性に優れる PCM は火災安全上問題な

く,また金網より表層部のみの軽微な損

傷にとどまる状態ⅡやⅢの PCM は遮熱

性が確認できれば適用が可能と考える。

また、耐爆裂性を評価する実験として,簡

易爆裂試験及び熱分析を行った結果,以下の

知見が得られた。

9) 簡易爆裂評価試験により壁試験体加熱実

験を概ね再現できていると思われる。

10) EVA,PAE のポリマーの場合は,TG-DTA

試験における発熱ピーク面積 10℃・℃/mg

程度を閾値として,爆裂の危険性が高く

なる。

11) TG-DTA および簡易爆裂評価試験による

評価方法は,材料選定や開発のための耐

爆裂性のスクリーニング試験としては有

効であると思われる。

耐久性,耐爆裂性を改善した PCM の耐火

試験の結果,および施工後の浮き・ひび割れ

等を考慮した評価の一覧を表-3.2.22 に示

す。施工時の浮き,ひび割れについては表-

3.2.19 の判定基準に基づく表-3.2.20 の結

果を用いた。防耐火性については 3.2.2(2)の

結論に基づき状態Ⅰ~Ⅲを安全(○)と判断

した。総合判定は,浮き,ひび割れ,防耐火

性いずれも○のものを○とした。

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70

表-3.2.22 試験結果評価一覧

No. 記号 施工時の浮き・ひ

び割れ

防耐火性 総合判定

損傷状態 判定

1 P1 ○ Ⅰ ○ ○

2 P4 ○ Ⅳ × ×

3 P7 ○ Ⅰ ○ ○

4 P2 × Ⅴ × ×

5 P3 ○ Ⅳ × ×

6 E3-A × Ⅳ × ×

7 P6 × Ⅱ ○ ×

8 E3-C ○ Ⅱ ○ ○

9 V1 ○ Ⅴ × ×

10 E3-B ○ Ⅰ ○ ○

状態Ⅰ:ひび割れ

状態Ⅱ:金網より表層のみの剥落

状態Ⅲ:金網より表層のみの剥落・爆裂

状態Ⅳ:部分的な内部の爆裂

状態Ⅴ:全面的な内部の爆裂

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71

3.2.3 ポリマーセメントモルタルの大

型壁面の施工性および耐火性(Phase3)

(1) はじめに

これまで壁試験体を用いた検討において

は,ポリマーセメントモルタル(以下,PCM)

を用いて補修施工した施工面積 1m2 程度の

壁試験体での耐火試験を実施し,金属製メッ

シュを用いた PCM の剥落防止工法を検討お

よび提案している[9]。しかし,実施工で施

工面積が広範囲となる場合,より大型のメッ

シュ間の継手や,工区分割による打継ぎ等の

要因が発生する。さらに,大型化によって加

熱時の面外変形が増大する可能性も考えら

れる。そこで,実際の壁面補修施工への提案

工法の適用性を確認すべく 4.2m 四方の大型

壁面にて施工性および耐火性能を実験的に

検討した結果を報告する。

(2) 試験概要

1) 使用材料

補修に使用した材料を表-3.2.23 に示す。

試験に供した PCM は,耐火性に問題がない

と考えられる,小型壁の耐火試験において大

きな爆裂を生じていなかった PCM の中から,

コンクリート温度が相対的に最も高い E1 を

選定した。また,施工方法は大面積を効率良

く実施するため吹付け施工(記号:E1S)と

した。PCM の仕様を表-3.2.24に示す。

同様に剥落防止メッシュは,吹付け施工に

適する線径および網目ピッチのメッシュを

選定した。その他,メッシュを固定する材料

としてネジ式アンカー,ワッシャ,結束線を

使用した。母材のコンクリートは 36-18-20N

とした。コンクリートに使用した材料を表-

3.2.25に示す。

表-3.2.23 補修に使用した材料

使用材料 仕様

PCM 既調合ポリマー混入セメントモルタル

メッシュ ファインメッシュφ1.2mm-P25 mm,SUS304 製

アンカー ネジ式アンカー(スクリュータイプ),L= 75mm,SUS410 製

ワッシャ φ20mm×t=1.5mm,φ40mm,SUS410 製

結束線 #20,φ0.85~0.9mm,SUS304 製

表-3.2.24 PCM の仕様

ポリマー 有機繊維 圧縮強度 接着引張強度

材齢 28 日 材齢 28 日

エチレン酢酸ビニル樹脂 ビニロン繊維 58.5N/mm2 2.52N/mm2

※ データはメーカー公表値

表-3.2.25 コンクリートに使用した材料

使用材料 記号 仕様

セメント C 普通ポルトランドセメント(U 社製),密度 3.16g/cm3

細骨材 S1 砂:茨城県神栖産,表乾密度 2.61 g/cm3

S2 砕砂:茨城県桜川産,表乾密度 2.64 g/cm3

粗骨材 G 砕石:茨城県笠間市上郷産,表乾密度 2.74 g/cm3

練混ぜ水 W 上水道水

混和剤 Ad 高性能 AE 減水剤(K 社製)

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72

2) 試験体

補修施工前のコンクリート壁試験体寸法

は高さ 4200mm×幅 4200mm×厚さ 120mm で,

縦筋,横筋ともに D10@200mm のダブル配筋

とした。コンクリートのかぶり厚さは 10mm

とし,PCM による補修厚さを 30mm とした。

したがって,補修後の試験面のかぶり厚さは

40mm,試験体厚さは 150mm となる。試験体

の概要および試験体内部温度測定位置を図

-3.2.43 に示す。補修範囲は幅 50mm の外

周部を除く全面とし,基準ピッチを 400mm

としたメッシュ固定アンカー位置を点で示

した。また,P1~P9 の位置に K 型熱電対の

配置点を示しており,各点において加熱表面

から深さ 30mm,40mm(鉄筋位置),50mm,

75mm,150mm(裏面)の位置に熱電対を配

置した。なお,P2,P5 および P6 は打継ぎ部

となるよう配置した。

図-3.2.43 試験体の概要および試験体内部温度測定位置

3) 補修施工方法

補修は母材コンクリートの含水率が 5%以

下であることを確認し、材齢約 7 ヶ月にて実

施した。補修施工は、現場施工を想定し、工

区を分けて実施した。

図-3.2.44 にアンカーピッチおよびメッ

シュ継手を、図-3.2.45 に補修施工の工区分

割とメッシュ割付を、図-3.2.46に留付け部

詳細を示す。施工面を田の字型に 4 等分のエ

リアに分け、まず、3/4 のエリアの第 1 工区

を施工した後に、翌日に右上 1/4 のエリアの

第 2工区について打継ぎ部を設けて施工した。

メッシュの継手は 50mm の重ね継手とし、第

1 工区内での各 1/4 のごとのエリア同士の継

手はメッシュ端部の間隔が 10mm 程度とな

るような突付けとした。

補修施工手順を図-3.2.47 に示す。試験体

表面をカップホイールで目粗した後に、アン

カー下孔を穿孔し、メッシュを躯体表面から

20±3mm の位置となるようにネジ式アンカ

ーにワッシャと結束線を用いた固定した。

PCM の吹付けは、メッシュ位置を目安とし

て 1 層目が完了した後に 2 層目を重ねるよう

にして施工した。なお、耐火試験までの養生

期間は 5 ヶ月間とし、施工直後から材齢 2 週

までは施工面をシート養生した。

P3 P4

P2 P1

P5

P8

P9

P6

P7

加熱側

P3P4

P2P1

P5

P8

P9

P6

P7

40 80 30

120

75 45

<立面>

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73

なお、本施工試験における留付け施工は、

壁試験体(4.2×4.2m)の 3/4 施工範囲におい

て 4 時間(13.6(分/㎡))を要した。また、

吹付け施工は、補修施工壁試験体(4.2×4.2m)

の 1/4 施工範囲において約 45 分(10.2 分/㎡)

を要した。

4) 耐火試験方法

加熱は ISO834 に規定される標準加熱曲線

に従った 3 時間加熱とし,3 時間経過後は炉

内で 3 時間自然冷却させた。

図-3.2.44 アンカーピッチおよびメッシュ継手

315

400

400

400

400

125

315

400

400

400

125 120 125

120

400

125

315 400 400 400 400 400 400 400 400 315

1040

200 660

灰色:鉄筋水色:アンカー赤色:熱電対緑色:インサート

1095

220

1530

220

1135

615 220 2530 220 615

8251502250150825

900

240

090

0

200200200200200200200200200200200200200200200200200200

50

150

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

200

150

50

インサート周り補強筋D10

22080 22080

260 800 1040

480

620

100

0

1440 180 480 1060

700

140

0300

180

0

P1 P2

P3

P4

P5 P6

P7

P8

P9

700

360

1040

1240

突付け

突付け

重ね

重ね

100

100

325 325

325

325

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74

図-3.2.45 補修施工の工区分割とメッシュ割付

図-3.2.46 留付け部詳細

メッシュ重ね継手部

PCM打継ぎ部

第1工区

第2工区

<メッシュ寸法>

① 400×2025mm② 850×2025mm③ 875×2025mm

①   ②     ③  ③     ②   ①

① ②   ③

① ②   ③

メッシュ重ね継手部

隅角部 突き付け継手部

重ね継手部 中央部(突き付け継手部)

  50 25 50

 50

25

50

125

125

  50 50

100

  

1

00

5

0

5

0

50

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75

① 下地処理:カップ掛けによる目粗し+下地清掃

② アンカー位置の墨出し

③ アンカー下孔穿孔・孔清掃

④ 目地棒、定木、あたりの設置

⑤ アンカーの取付

⑥ メッシュの取付

⑦ アンカーとメッシュの結束

⑧ 吸水調整

⑨ PCM 吹付け施工(1 層目)

⑩ PCM 吹付け施工(2 層目)

⑪ こて仕上げ

⑫ 養生

図-3.2.47 補修施工手順

① ③ ⑤

⑥ ⑦ ⑨ ⑩

アンカー下孔スクリューアンカー

結束線

スクリューアンカー

ワッシャー

ファインメッシュ

1層目

結束線

PCM

スクリューアンカー

ワッシャー

ファインメッシュ

1層目   2層目

結束線

PCM

Pレスアンカー

ワッシャー

ファインメッシュ

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76

(3) 材料試験結果

JIS A1171に準じて測定した PCMの品質試

験結果を表-3.2.26に示す。なお,母材コン

クリートの標準水中養生での材齢 28 日圧縮

強度は 41.4N/mm2であった。

(4) 耐火試験結果

1) 加熱前状況

試験直前に PCMの小片試料を 4点採取し,

測定した質量含水率の平均値は 3.2%であっ

た。また,打診・目視検査の結果,PCM の

剥離やひび割れ等は認められなかった。

2) 加熱後損傷状況

加熱高温時には壁全体が加熱面を凸とす

る大きな面外変形を生じたが,PCM の剥落

は生じなかった。加熱後の表面状況の全景を

写真-3.2.13 に示す。矢印で示す一部にて

PCM 表層の剥がれ落ちが見られたが,爆裂

は発生しなかった。また,表層部には亀甲状

のひび割れが全面的に認められるものの,メ

ッシュ継手部へのひび割れ発生等の目立っ

た損傷はなかった。また,加熱に伴う部材全

体の変形量(そり)は大きくなったが,補修

部の剥落等の損傷の増大は認められないこ

とから,前項までに得た小型の壁試験体と比

較して,試験体の大型化に起因する損傷の増

大はないものと考えられる。

3) 試験体内部温度測定結果

各測定点の最高温度を図-3.2.48 に示す。

打継ぎ部の P2,P5 および P6 の温度は他点と

同等であり,温度測定結果からも加熱中の損

傷がないことがわかる。

表-3.2.26 PCM の品質試験結果

シリーズ 空気量

(%)

スランプ

(cm)

単位容積質量

(g/m3)

標準養生材齢 28 日圧縮強度

(N/mm2)

第 1 工区 4.7 4.0 2.23 57.5

第 2 工区 5.6 6.0 2.19 49.3

写真-3.2.13 加熱後の表面状況

剥がれ

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77

図-3.2.48 各測定点の最高温度

(5) まとめ

実大壁面を想定した本実験の結果,コンク

リート温度や損傷状況から判断すると,以下

の知見が得られた。

1) 打継ぎ部で内部温度が上昇することはな

く,打継ぎ部が耐火性能上の弱点とはな

らなかった。

2) 大型壁は加熱時に大きな面外変形が生

じたものの PCM の剥落は認められず,

大型壁においても提案補修工法の有効

性が確認された。

3) 本試験の範囲では,試験体の大型化によ

る結果への影響は認められず,1m2程度の

小型の試験体によって補修材料の耐爆裂

性や長期荷重がPCMに作用しない場合に

は剥落防止工法の効果を評価することの

有効性が確認された。

0

100

200

300

400

500

600

700

30 40 50 75 150

加熱表面からの深さ(mm)

最高

温度

(℃

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9

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78

3.2.4 ポリマーセメントモルタルで補

修した荷重支持部材の耐火性能(Phase4)

ポリマーセメントモルタルで補修した荷

重支持部材の耐火性能について,床部材およ

び柱部材について載荷加熱試験を行い耐火

性能を確認した。

床部材については,RC 床下面全面をポリ

マーセメントモルタルで補修した場合の載

荷加熱実験および床下面の局所的な範囲を

ポリマーセメントモルタルで部分補修した

試験体の加熱実験を実施した。柱部材につい

ては,各面のかぶり厚さおよび補修仕様の異

なる 2 体の RC 柱について載荷加熱実験を実

施した。

実験結果の詳細については,平成 23 年度

建築基準整備促進事業報告書[6]に記載され

ている。また,その主な内容については,2012

年度の日本建築学会大会において文献[10],

[11],[12],[13]として発表した。建築学会大

会への発表内容を付録(p.141~148)に示す

とともに,以下に実験結果の概要を示す。

(1) 鉄筋コンクリート造床

健全な RC 床試験体(No.1),床下面全面

をポリマーセメントモルタルで補修した RC

床試験体(No.3~6)の載荷加熱実験,局所的な

範囲をポリマーセメントモルタルで補修し

た試験体(No.2)の加熱実験が実施され,以下

の結論が得られている。

1) 局所的な範囲をポリマーセメントモルタ

ルで補修する場合,火災後にポリマーセ

メントモルタルが剥落する可能性がある

ため,剥落防止用のアンカーピンを設置

する必要がある。

2) 床下面全面をポリマーセメントモルタル

で補修する場合,ポリマーセメントモル

タルで補修した床は,無補修と同等,あ

るいはそれ以上の耐火性能を有する。

3) 面的に補修する場合は,ポリマーセメン

トモルタルの剥落防止材としてとしてメ

ッシュの使用が有効である。

(2) 鉄筋コンクリート造柱

鉄筋の芯ずれによってかぶり厚さが不足

した場合を想定し,ポリマーセメントモルタ

ルで断面補修した鉄筋コンクリート造柱に

関して載荷加熱実験を実施して,圧縮応力下

におけるポリマーセメントモルタルの高温

性状および柱の荷重支持能力に対する鉄筋

の偏芯の影響を確認することを目的として,

2 体の RC 柱の載荷加熱実験が行われた。

実験の結果,PCM の層厚が 10mm と 20mm

の場合では,PCM 層の浮き・はく離が認め

られたが,顕著な爆裂は生じなかった。層厚

30mm では爆裂・剥落は生じなかった。荷重

支持能力については,断面 500×500mm の

RC 柱で鉄筋が偏芯していても, PCM でか

ぶり補修を行えば,12 時間(加熱 5 時間+放

冷 7 時間,この間載荷を継続)の軸力保持性

能を有していた。また,主筋および帯筋の受

熱温度は,PCM 層に爆裂・剥落が生じなけ

れば,コンクリートの場合と同様に,試験体

表面から距離に依存し,PCM 層はコンクリ

ートとほぼ同等の断熱性状を示した。

このことから,PCM に長期荷重(圧縮力)

が加わる柱部材等については,PCM の爆裂

性状に対する圧縮応力の影響は大きくない

と考えられるが,剥落防止工法の効果につい

ては,載荷加熱実験で確認する必要があると

考えられる。

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79

3.2.5 まとめ

一連の実験を通じて,以下の知見が得られ

た。

1) 本耐火試験で使用した PCM は,加熱を受

けると浮きやふくれが生じるため,剥落

防止対策が必要となる。

2) 剥落防止には,ステンレスメッシュをア

ンカーで躯体に止め付ける方法が有効で

ある。

3) PCM が剥落しなければ,PCM が厚いほど

コンクリート温度を低く抑えることがで

きる。

4) PCM にひび割れが発生しても,PCM が剥

落しなければコンクリート温度への影響

は認められない。

5) PCM が剥落しなければ PCM の補修厚さ

が 10mm,30mm ともコンクリートより遮

熱性に優れる。

6) PCM の補修厚さ 30mm の方が補修厚さ

10mm より耐爆裂性に劣る。

7) 吹付け施工は,コテによる施工と同等の

耐火性を有している。

8) 壁試験体による加熱実験で,下地となる

コンクリートの強度は呼び強度 60程度ま

でであれば普通コンクリート強度と同等

の評価が可能である。

9) PCM の耐火性を評価する方法として,補

修厚さ 30mm で 1m 角の壁試験体による

加熱実験が有効である。

10) 状態Ⅰの爆裂・剥落がない耐爆裂性・遮

熱性に優れる PCM は火災安全上問題な

く,また金網より表層部のみの軽微な損

傷にとどまる状態ⅡやⅢの PCM は遮熱

性が確認できれば適用が可能と考える。

11) TG-DTA および簡易爆裂評価試験による

評価方法は,材料選定や開発のための耐

爆裂性のスクリーニング試験としては有

効であると思われる。

12) PCM に長期荷重(圧縮力)が加わる柱部

材等については,PCM の爆裂性状に対す

る圧縮応力の影響は大きくないと考えら

れるが,剥落防止工法の効果については,

載荷加熱実験で確認する必要がある。

13) 局所的な範囲をポリマーセメントモルタ

ルで補修する場合,火災後にポリマーセ

メントモルタルが剥落する可能性がある

ため,剥落防止用のアンカーピンを設置

する必要がある。

14) 床下面全面をポリマーセメントモルタル

で補修する場合,ポリマーセメントモル

タルで補修した床は,無補修と同等,あ

るいはそれ以上の耐火性能を有する。

15) 面的に補修する場合は,ポリマーセメン

トモルタルの剥落防止材としてとしてメ

ッシュの使用が有効である。

以上のことより,ポリマーセメントモルタ

ルの爆裂の有無は,1m×1m 程度の小型壁の

加熱実験で確認できることが分かった。

また,剥落防止工法については,鉄筋コン

クリート壁,床,柱試験体をポリマーセメン

トモルタルで補修した部材の耐火実験が建

築基準整備促進事業においてなされ,無載荷

の壁の加熱実験では剥落しない剥落防止工

法であっても,ポリマーセメントモルタルに

応力が加わる場合には,火災時にポリマーセ

メントモルタルが剥落する可能性があるこ

とがわかった。

以上のようなことから、ポリマーセメント

モルタルに長期応力が作用しないような場

合について,平成 12 年建設省告示第 1399 号

に規定されている,ポリマーセメントモルタ

ル等を用いた場合の防火上支障のない材料

であることをことを確認する方法としては,

大きさ 1m×1m 程度、厚さ 15cm 程度の小型

壁による加熱実験によることで必要な耐火

性能を確認できると思われる。ただし,ポリ

マーセメントモルタルに長期応力が作用す

るような場合の剥落防止効果の有効性につ

いては載荷加熱試験による評価が必要であ

ると思われる。ここで,長期応力が作用しな

いような場合とは,作用する荷重の大幅な増

加が見込まれない既存の構造物への補修や

非構造部材への補修などが考えられる。

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80

また,ポリマーセメントモルタルの耐爆裂

性が不明な材料,あるいは剥落防止効果が不

明な工法を適用しようとする場合は,要求性

能とポリマーセメントモルタルによる補修

部分に作用する荷重条件に応じて,表-

3.2.27に示す試験を行って,要求性能を確認

することを提案する。

表-3.2.27 ポリマーセメントモルタル補修工法の性能確認方法

荷重条件

要求性能

ポリマーセメントモルタルに

長期応力が作用しない場合*3

ポリマーセメントモルタルに

長期応力が作用する場合

耐爆裂性*1の確認 小型壁の加熱試験 小型壁の加熱試験

または,部材の載荷加熱試験*4

剥落防止工法の効果*2の確認 小型壁の加熱試験 部材の載荷加熱試験*4

*1: 加熱試験中にポリマーセメントモルタルに爆裂が生じないこと確認する。なお,ポリマーセメントモル

タル表層に軽微な爆裂や剥離等が発生しても,鉄筋温度を健全な鉄筋コンクリート部材と同等以下に抑

えることができれば,耐爆裂性を有していると判断する。

*2: 加熱試験中にポリマーセメントモルタルが剥落しないことを確認する。

*3: 長期応力が作用しない場合の例として,既存の構造物の補修や非構造部材への補修などが考えられる。

*4:部材の載荷加熱試験を実施した場合にあっては,指定性能評価機関の「防耐火性能試験・評価業務方法

書」に従って,合否を判定する。

<参考文献>

[1] 王徳東ほか:ポリマーセメントモルタルの燃

焼特性および熱伝導率に関する研究 その3

熱伝導率の温度依存性,日本建築学会大会学

術講演梗概集 A-2,pp.163-164,2008.9

[2] 濱崎仁ほか:ポリマーセメントモルタルを用

いて補修した部材の耐火性能に関する研究

その 1 耐火試験における補修部の損傷およ

び温度分布,日本建築学会構造系論文集,第

75 巻,第 652 号,pp.1065-1071,2010.6

[3] 濱崎仁ほか:補修用ポリマーセメントモル

タルの耐久性および吸発熱特性に関する

実験(その 1~3),日本建築学会大会学術

講演梗概集 A-1,pp,277-282,2011.8

[4] 鈴木好幸ほか:補修用ポリマーセメントモ

ルタルの耐久性および吸発熱特性に関す

る実験(その 3),日本建築学会大会学術

講演梗概集 A-1,pp,281-282,2011.8

[5] 木戸猪一郎:繊維材料各説,三共出版,1979

[6] 清水建設ほか:平成 23 年度建築基準整備

促進事業報告書「ポリマーセメントモルタ

ルにより断面補修した RC 造部材の防耐

火性能に関する実験的検討」,2012.3

[7] 唐沢智之ほか:ポリマーセメントモルタル

を用いて補修施工した壁試験体の耐火試

験(その 2),日本建築学会大会学術講演

梗概集,A-1,pp,285-286,2011.8

[8] 清水建設ほか:防火・避難対策等に関する

実験的検討 建築基準整備促進事業平成

22 年度報告書,pp.6-3~6-9,2011.3

[9] 住学ほか:ポリマーセメントモルタルを用

いて補修施工した壁試験体の耐火試験(そ

の 1~2),日本建築学会大会学術講演梗概

集 A-1,pp.283-286,2011.8

[10] 道越真太郎ほか:ポリマーセメントモルタ

ルを用いて補修施工した鉄筋コンクリー

ト造床試験体の耐火試験 その 1 実験計

画,日本建築学会大会学術講演梗概集 A-1,

pp1115-1116,2012.9

[11] 梅本宗宏ほか:ポリマーセメントモルタル

を用いて補修施工した鉄筋コンクリート

造床試験体の耐火試験 その 2 実験結果,

日本建築学会大会学術講演梗概集 A-1,

pp1117-1118,2012.9

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81

[12] 森田武ほか:ポリマーセメントモルタルを

用いて補修施工した鉄筋コンクリート造

柱の耐火実験 その 1 実験概要および

実験経過,日本建築学会大会学術講演梗概

集 A-1,pp1119-1120,2012.9

[13] 松戸正士ほか:ポリマーセメントモルタル

を用いて補修施工した鉄筋コンクリート

造柱試験体の耐火実験 その 2 軸方向変

位および部材温度測定結果,日本建築学会

大会学術講演梗概集 A-1,pp1121-1122,

2012.9

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82

4. かぶり厚さ確保のための実態調査 4.1 調査概要

4.1.1 はじめに

近年,JASS 5 の改定によるかぶり厚さ検査の

位置づけの明確化や住宅品確法の劣化対策等級

でのかぶり厚さの規定等により,鉄筋コンクリ

ート建築物のかぶり厚さ確保に対する意識や要

求が高まっている。しかしながら,構造安全性

の確保のため鉄筋量の増加や鉄筋の太径化,部

材断面をぎりぎりまで小さく抑えるための設計

など,かぶり厚さの確保という観点からは近年

特に厳しい状況にあるといえる。

本報告では,かぶり厚さを適切に確保するた

めの品質管理の実態や問題点,対策等を把握し,

かぶり厚さを確保するための有効な方策や設

計・施工上の留意点を検討するため,かぶり厚

さ確保研究会の参加企業を対象としたアンケー

ト調査を実施した。日本建設業連合会(当時,

建築業協会)においては,昭和 61 年(1986 年)

にもかぶり厚さ確保の関する実態調査[1]を行

っており(以下,昭和 61 年調査と記す),その

当時の調査結果とも比較しながら,調査の結果

について報告する。

4.1.2 アンケート調査の概要

アンケート調査は,①作業所における品質管

理等の実態に関するアンケート調査(以降,作

業所アンケート調査と記す),②施工業者(元請

け)の品質管理部門等に対するかぶり厚さ確保

のための方策に関するアンケート調査(以降,

品質管理部門アンケート調査と記す),③かぶり

厚さの実測データの提供による実態調査(以降,

実測調査と記す)の 3 種類の調査行った。調査

結果は,作業所アンケート調査。品質管理部門

アンケート調査,実測調査の順にまとめて報告

する。

表-4.1.1 に作業所アンケート調査の概要を

示す。表には今回の調査(以下,本調査)の概

要と前述の昭和 61 年調査の概要もあわせて示

している。昭和 61 年当時は,RC 構造物の早期

劣化問題(所謂,コンクリートクライシス)が

社会問題となった直後で,RC 構造物の耐久性

への信頼確保が急務とされていた時期である。

昭和 61 年 6 月には,建設省住宅局建築指導課長

通達「コンクリートの耐久性確保に係る措置に

ついて」が出され,塩害やアルカリ骨材反応へ

の対策がとられるようになるとともに,施工面

での耐久性確保の対策として,かぶり厚さの問

題がクローズアップされた中での調査である。

JASS 5 の状況は,昭和 61 年に第 8 版[2]が刊行

され,最小かぶり厚さに 10mm を加えた値が施

工時の目標の仕様として明示的に定められてい

る。

図-4.1.1 に調査対象作業所の所在地,図-

4.1.2 に建物用途のヒストグラムを示す。対象

となった作業所は,関東地区が最も多く全体の

約半数である。建物用途は集合住宅が約 6 割を

占め,その他の用途としては,病院や老人ホー

ムなどの医療・福祉系の施設が多かった。

表-4.1.1 作業所アンケート調査の概要

本調査 昭和 61 年調査

調査対象 RC 造建築物の作業所で躯体工事が終了または終了に近い作業所 回答者 作業所の元請け企業の工事担当者で無記名式 調査期間 平成 22 年 11 月~23 年 1 月 昭和 61 年 11 月~12 月 対象企業 日本建設業連合会加盟企業のうち 26 社 建築業協会加盟のうち 77 社 回答数 135 作業所 345 作業所

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0

20

40

60

80

100度

作業所の立地

0

20

40

60

80

100

集合住宅 事務所 教育施設 その他

度数

作業所の建物用途 図-4.1.1 調査対象作業所の所在地 図-4.1.2 調査対象作業所の建物用途

4.1.3 アンケート内容 作業者アンケート調査の項目を表-4.1.2 に

示す。アンケート項目は昭和 61 年調査との比較

を考慮し,できるだけ同様の内容としながらも

近年の特有の状況を把握するための設問および

選択肢を設けた。

表-4.1.2 アンケート項目

分類 項目 A. 一般事項

諸元:所在地,建物用途,規模,外部仕上げ 工期:全体工期,基準階躯体サイクル 使用鉄筋:サイズ,鋼種,継手

B. 総括的事項(意識

調査) 意識調査:引き起こされる不具合,問題点,影響する要因 作業所の状況:施工状況,注意点,手直しの程度・多かった部位

C. JASS 5 かぶりの

検査に関する事項

実施の有無・方法,測定機器,測定値の補正の有無・方法,非破壊試験の

結果の対処,測定方法に関する意見等 D. 設計に関する事項 かぶり不足の要因となる納まり:有無,発見した時期・発見者

対応:設計者の指示・提案,具体の事例および対策 E. 協力業者に関する

事項 作業員の技能・不満点,鉄筋加工場の設備,施工図の良否・チェック方法,

作業者の資格・動員力・自主管理能力 F. 施工および管理 鉄筋加工:加工図のチェック,精度の指示・方法,チェック方法

結束:部位ごとの結束線の結束方法・結束数 スペーサ:部位ごとの種類・位置・数量,外さないための措置 部材寸法:ふかしや打増し(行う場合とその程度) 型枠:目標設定の有無,型枠頂部通り精度,断面精度 打設時:鉄筋の移動や乱れを生じさせないための措置 かぶり厚さの確認方法:実施者・方法

4.2 作業所アンケート調査

4.2.1 一般事項

調査の対象となった作業所(建物)は,中高

層の集合住宅(マンション)が最も多く,基準

階の床面積は概ね 800~1000m2程度の規模の建

物が多かった。工期および躯体の施工サイクル

は,標準的なものが多く,比較的工期は確保さ

れており工期の逼迫した物件は少ないものと思

われる。図-4.2.1 に基準階躯体の施工サイク

0

20

40

60

80

4以下 5~10 11~15 16以上

・・・・(%)

基準階躯体サイクル (日)

本調査

昭和61年調査

図-4.2.1 基準階躯体サイクル(日)

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84

ルの日数を示す。図には昭和 61 年調査の結果も

示し,縦軸は度数の割合で示している。以後,

比較を行う場合は同様の表し方としている。躯

体サイクルの日数は,2 週間程度が平均的で昭

和 61 年調査と比べても同程度か若干余裕があ

る程度と思われる。

使用している鉄筋に関する調査項目は本調

査からのもので,鉄筋の高強度化や高強度化の

状況を把握するためのものである。図-4.2.2

に主筋の主な鋼種,図-4.2.3 に鉄筋径,図-

4.2.4 に補強筋の主な鋼種と図-4.2.5 に加工

の方法を示す。

鉄筋の鋼種は,主筋では SD345 もしくは

SD395 が主流であり,補強筋では SD295 が多く

を占める。ただし,その他の回答として補強筋

では柱および梁に高強度筋(KSS785)が使われ

ている建物も多かった。主筋の鉄筋径は D19 か

らD41まで幅広い範囲のものが使用されており,

本調査では,どの部材も D25 が最も多く使用さ

れていた。比較対象となるデータはないものの,

建物の高層化に伴い,主筋径は太径化している

ことが推察される。補強筋の加工は,柱の帯筋

では溶接閉鎖型が多く,梁のあばら筋は在来(現

場加工)が多い。近年は溶接閉鎖型が多くなる

傾向にあり,この場合の寸法管理もかぶり厚さ

の確保に関してのポイントになると思われる。

4.2.2 かぶり厚さ確保に対する意識調査

図-4.2.6 は,かぶり厚さ不足が引き起こす

問題として重要なものを選択してもらったもの

である。なお,昭和 61 年調査では,選択肢とし

て火災安全性は含まれていない。本調査,昭和

61 年調査ともに,ひび割れやコンクリートのは

く落に対する問題意識が高いことに加え,火災

安全性に対する問題意識も耐久性に関する問題

と同様に高いことが伺える。これは,火災安全

性に対する対処が難しいこともその要因として

考えられる。図-4.2.7 にかぶり厚さ確保に悪

影響を及ぼす要因,図-4.2.8 に施工管理上の

注意点,図-4.2.9 に配筋検査前の手直しの程

度,図-4.2.10に手直しの多かった箇所を示す。

図-4.2.7,図-4.2.8,図-4.2.10は選択肢

より重要度に応じて並べてもらい,1 位 10 点,2

位 5 点,3 位 4 点,4 位 1 点,5 位以下 0 点として

点数化したものである。

0

20

40

60

80

100

120

SD295 SD345 SD395 SD490 その他

・x・・

鉄筋鋼種

柱主筋

梁主筋

地中梁主筋

0

20

40

60

80

100

120

D19 D22 D25 D29 D32 D35 D38 D41 D51

・x・・

鉄筋径

柱主筋

梁主筋

地中梁主筋

図-4.2.2 主筋の主な鋼種 図-4.2.3 主筋の鉄筋径

0

20

40

60

80

100

120

140

SD295 SD345 その他

・x・・

鉄筋鋼種

柱帯筋

梁あばら筋

地中梁あばら筋

0

20

40

60

80

100

120

140

在来 溶接閉鎖型 スパイラル筋 その他

・x・・

鉄筋加工の方法

柱帯筋

梁あばら筋

地中梁あばら筋

図-4.2.4 補強筋の主な鋼種 図-4.2.5 補強筋の加工の方法

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85

かぶり確保に悪影響を及ぼす要因としては,

配筋が過密であることが最も大きい理由として

挙げられている。太径化の問題は予想に反して

多くはなかった。その他,鉄筋工事業者の知識

や技能の問題なども多く挙げられている。配筋

の過密さについては,構造安全性の確保と経済

性(床面積確保)のために今後とも避けられな

い問題になると思われる。施工上の注意点とし

ては,鉄筋の加工精度や組立,スペーサなど,

直接鉄筋工事に関連する項目の管理が重要と思

われているようである。

手直しの程度としては,設計かぶりと最小

かぶりが半々程度になっている。かぶり厚さ

は,出来形としては最小かぶりを満足すれば

よく,設計かぶりは施工誤差を見込んだもの

であるが,より確実にかぶり厚さを確保する

という意識や監理者の厳しさから設計かぶ

りを目安にしている場合も多い。昭和 61 年

調査と比べてもより厳しい管理を行ってい

る状況が伺える。また手直しの部位については,

鉄筋の組立手順やスペーサなどに依存する柱,

梁,壁,柱-梁取合い部などに多く,逆にそれ

らに合うように組み立てるスラブや手すりには

手直しは少ないようである。また,手摺や片持

ちスラブなどはかぶり不足の事例が生じやすい

部位であるが,配筋検査の段階では問題は生じ

にくく,後工程であるコンクリート打設の時に

鉄筋が動く可能性も推測される。

0

200

400

600

800

1000

配筋

が過

太径

の鉄

鉄筋

工の

技能

や知

現場

管理

(巡

回が

ない

工期

適正

でな

点数

0

200

400

600

800

鉄筋

加工

精度

鉄筋

の組

立て

手順

と精

スペ

ーサ

種類

と数

型枠

の手

順と

立て

精度

設備

配管

手順

と精

コン

クリ

ート

打ち

方と

養生

かぶ

りチェッ

クの

方法

と時

その

点数

図-4.2.7 かぶり厚さ確保に悪影響を及ぼす要因 図-4.2.8 施工管理上の注意点

0

20

40

60

80

設計

かぶ

を満

最小

かぶ

を満

協力

業者

自主

検査

ベル その

割合

(%)

本調査昭和61年調査

0

100

200

300

400

500

600

柱 梁 壁

一般

スラ

片持

ちス

ラブ

手摺

柱-

取り

合い

柱-

取り

合い

梁-

スラ

取り

合い

点数

図-4.2.9 配筋検査前の手直しの程度 図-4.2.10 手直しの多かった箇所

0

10

20

30

40

50

60

・ミ・ム・・・・

コンクリート・・・・

・d・・・・゙・・・

・ウ・ム・`

・ホ・ミ・タ・S・ォ

・サ・フ・シ

・・・・(%)

本調査

昭和61年調査

図-4.2.6 かぶり厚さ不足が引き起こす問題

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86

4.2.3 コンクリート打設後のかぶり厚

さの検査について

JASS 5(2009)[3](以降本章では,特に記述の

ない場合は 2009 年版)では,打設後のかぶり厚

さの検査方法および判定基準が明示された。こ

のことに関して作業所での対応や意見を確認し

た。なお,調査時点では,JASS5(2009)が仕様書

として適用されている建物が少ないことから,

打設後のかぶり厚さが実施されている作業所は

135 作業所中の 29 作業所(21%)であった。打

設後の検査が実施されている場合の理由として

は,各社の品質管理として,あるいは施主から

の要求によって実施されている状況である。

測定方法としては,29 作業所のうち,10 作業

所が JASS 5T-608 に準拠する方法で,残り 19 作

業所は独自の方法を定めて実施されていたが,

使用した測定装置は,電磁波レーダ法 1 例,不

明の 2 例を除き残りすべて(26 例)は,電磁誘

導法による装置が用いられていた。測定装置は,

JASS 5T-608 において電磁誘導法のみが対象に

なっていることや電磁波レーダ法は脱型後初期

からの乾燥過程においては比誘電率の設定が難

しく,測定誤差が大きくなる可能性があるため,

測定材齢の影響を受けにくい電磁誘導法が適し

ているとの認識が浸透しているようである。

電磁誘導法の場合には,正確な測定を行うた

めには近接鉄筋の影響を考慮した補正を行う必

要があるが,補正を行っている作業所は 26 作業

所中の 17 作業所(65%)であった。補正の方法

は,JASS 5T-608 の A 法(測定箇所を模擬した

配筋やスペーサにより予め補正値を求めておく

方法)が採用されている例が多い。B 法(配筋

工事から型枠工事までの間に実部材で予め誤差

を求めておく方法)については,その実施の困

難さからほとんど採用されていないようである。

また,A 法についても,正確な測定が出来ると

の評価が多いものの,時間と労力がかかるとい

う感想もあった。今後補正の方法の簡略化やデ

ータベース化等により,一定の精度を確保しな

がら作業を簡素化するための方法が求められる

と思われる。

4.2.4 設計に関する事項

かぶり厚さの確保のためには,施工上の配慮

とともに,設計段階での納まりが重要である。

特に近年の鉄筋の過密さや太径化などから,か

ぶり厚さの確保が困難な納まりが生じることも

考えられるため,設計段階でのかぶり厚さ不足

に対する現状や対応について確認した。

図-4.2.11 にかぶり厚さ不足を起こしかね

ない納まりの有無,図-4.2.12に設計上の問題

の発見者・発見時期を示す。なお,昭和 61 年調

査では,発見時期のみを調査している。設計上

の問題は,半数近い作業所で有るという回答が

あった。ただし,昭和 61 年調査の結果では 6

割以上となっており,設計段階での配慮も多少

は意識されていることが伺える。また設計上の

問題の発見者,発見時期については,施工者が

施工前もしくは施工中に発見する場合がほとん

どであり,施工者によるチェックの重要性が分

かる。昭和 61 年調査では,施工前と施工中の割

合がほぼ同数だったことに対し,本調査では 8

割以上が施工前に発見されており,施工者の事

前のチェック体制が有効であることが分かる。

ただし,依然として 2 割程度は施工中に問題が

発見されていることは今後の課題として残され

ているといえよう。

かぶり不足を起こしかねない納まりの例とそ

の対策について主な事例を表-4.2.1 に示す。

設計上の納まりでの問題としては,柱と梁や壁,

梁とスラブなどの取り合い部分での過密さによ

るものが多い。特に壁筋やスラブ筋を取り合い

部の部材内部で定着しようとするために,鉄筋

を内側にベンドさせる場合やふかし筋を設けて

内部に定着させる対応が行われている。また,

梁の場合には,配筋の過密さを解消するために

梁主筋を二段筋や三段筋とする対応などが行わ

れている。また,異径の鉄筋の圧接ができない

場合や設備用のスリーブ開孔によるかぶり不足

への対応なども必要なケースがある。その他,

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87

バルコニー端部や下がり壁,開孔補強の周辺な

どがかぶり不足が生じやすいという回答があっ

た。

0

20

40

60

80

有り 無し

割合

(%)

本調査昭和61年調査

0

20

40

60

80

100

設計

者が

施工

設計

者が

施工

監理

者が

施工

監理

者が

施工

事業

主が

施工

事業

主が

施工

施工

者が

施工

施工

者が

施工

その

割合

(%)

本調査

昭和61年調査

図-4.2.11 かぶり厚さ不足を起こしかねない 図-4.2.12 設計上の問題の発見者および

納まりの有無 び発見時期

表-4.2.1 かぶり不足を起こしかねない設計上の納まりとその対応の例

部位 原因 対応

柱-梁取り合い部 過密配筋 梁主筋を段筋に変更する。

左右の梁のレベル差 機械式の定着板を使用して主筋を定着す

る。

柱-梁同面納まりの場合の

梁 STR

梁内側をふかしておさめる。

柱-壁取り合い部 壁横筋と柱主筋・フープ筋と

の競り合い

壁筋を内側にゆるやかにベンドさせ柱内定

着とする。

基礎上部と 1F 床梁取

り合い部

床梁の下端筋がアンカーボ

ルト,柱筋と干渉

アンカープレートの形状変更および梁筋を

段筋に変更する。

地中梁-耐圧スラブ

取り合い部

梁下端筋の固定が困難 型枠をふかして打設する。

梁-スラブ取り合い

スラブ厚さが小さい場合の

スラブ下筋

スラブ天端をふかしてかぶりを確保。(梁ス

ターラップの加工寸法を大きくした)

梁-壁取り合い部 壁筋と梁主筋の干渉 壁筋を外側に出し,梁からのふかし筋を配

置してその内側に定着する。

梁 主筋径が異なる(D29とD35)

ため圧接ができず主筋をず

らすとかぶり不足

梁を内側にふかして主筋をずらしてアンカ

ーで納める。

壁 設備用スリーブにより壁筋

のかぶり不足

スリーブを配筋中央に寄せかぶりを確保。

さらにスリーブ内仕上げと壁筋の防錆処置

を実施。

下がり壁 鉄筋が下がりやすい 配筋を修正。

バルコニー手すり 型枠が動きやすい 配筋を修正,打設中も型枠の動きに注意。

スラブ設備開口廻り スラブ筋と補強筋の競り合

配筋を修正。

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88

4.2.5 協力業者に関する事項

かぶり厚さの確保は,鉄筋工事,型枠工事,

コンクリート工事のそれぞれでの対応と相互の

連携が重要である。ここでは,それぞれの工事

を担当する協力業者の満足度や施工図の作成,

資格保有の状況等について確認した。

図-4.2.13に鉄筋工,型枠工,コンクリート

工へのかぶり厚さ確保という観点からの満足度

を示す。全体的に不満は少なく,特に鉄筋工に

対しては満足度が高い状況が伺えるが,不満点

としては,いずれの工事業者に対しても,かぶ

り厚さ対策への意識が低いことが挙げられてい

た。

鉄筋業者が作成する施工図については,一般

部は加工帳程度,納まりが難しい部分等につい

ては,施工図を書き起こしている場合が多いよ

うである。施工図の程度については,昭和 62

年の調査に比べると適切な施工図を作成してい

るという回答が増えている。組立加工図の確認

は,業者と打合せを行った後作成を指示してい

るケースが多い。

図-4.2.14 に鉄筋技能士の配置についての

回答を示す。鉄筋技能士は,労働省が認定する

資格で「鉄筋組立作業」と「施工図作成作業」

の2つの種別があり,それぞれ一級と二級があ

る。合格者数は平成 17 年度現在で組立作業が約

4 万人,施工図作成が約 1700 名である。組立作

業については,一人あるいは複数名が現場に配

属されているケースが多いようであるが,施工

図作成については,配置されていない場合も多

い。昭和 61 年調査と比較すると有資格者は増え

ているようである。

0

20

40

60

80

100

大いに満足 満足 普通 やや不満 大いに不満

度数

鉄筋工型枠大工コンクリート工

0

20

40

60

80

組立作業

(本調査)

施工図作成

(本調査)

組立作業

(昭和61年調査)

割合

(%)

複数

1人

ゼロ

不明

図-4.2.13 協力業者への満足度 図-4.2.14 鉄筋技能士の配置

4.2.6 施工に関する事項

かぶり厚さの確保のためには施工段階での配

慮が非常に重要である。ここでは,鉄筋の結束

方法,スペーサ,型枠精度,かぶり厚さのチェ

ック方法等についての現状および対策等につい

て確認した。

(1) 結束方法について

図-4.2.15に結束方法を図示し,図-4.2.16

に部位ごとの結束方法,図-4.2.17に結束数を

示す。結束方法は図-4.2.15の(1)に示した方法

が最も一般的である。昭和 61 年調査では,特に

柱主筋とフープ筋,梁主筋とあばら筋の結束に

は(1)以外にも(2)~(4)までの方法が混在してい

たが,より簡便な結束方法へと移行しているよ

うである。結束数については,柱主筋と帯筋や

梁主筋とあばら筋では全数と 1 つおきが同程度

であり,壁筋,床筋は1つおきが多い。また,

コーナーや端部では全数で中間部を 1 つおきや

千鳥にするという回答も見られた。昭和 61 年調

査では,全体的な傾向は同様であるが,フープ

筋およびあばら筋の結束については全数を結束

するという回答が多く,結束については簡便な

方法に移行している傾向が伺える。また,重ね

継ぎ手の結束数については,壁筋,スラブ筋と

も 8 割以上の作業所で 2 箇所以上で結束されて

いる回答であった。スラブ筋の結束は,コンク

リート打設時のあばれを防止するためにも特に

重要である。なお,昭和 61 年調査でも約 75%

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89

の作業所が 2 箇所以上の結束数であった。

(2) スペーサについて

スペーサの適切な配置は,かぶり厚さの確保

のために重要な要素となる。スペーサの標準的

な個数については,JASS 5 にも規定があるが,

実際の作業所の状況について確認した。

図-4.2.18に部材ごとのスペーサの種類(材

質)を示す。スペーサの種類(材質)は,壁筋,

柱筋,梁側面ではプラスチック製がほとんどで

あるが,梁底やスラブ筋などの鉄筋の荷重を保

持する場合には鋼製あるいはコンクリート製が

使用されているケースが増える。なお,JASS 5

では,「スペーサ種類は,鋼製もしくはコンクリ

ート製とする。ただし,梁・柱・基礎梁・壁お

よび地下外壁のスペーサは側面に限りプラスチ

ック製でもよい。」とされている。

以降,部位ごとのスペーサの配置の状況につ

いて見ていく。

図-4.2.19 にスラブ筋におけるスペーサ個

数を示す。スラブ筋は,JASS 5 では,1.3 個/m2

程度とされているが作業所による差が大きく,

1.3 個/m2程度を中心に多い場合も少ない場合も

図-4.2.15 結束方法の例

020406080100120140

・・・・・リ・ニ

・ム・リ

・タ・・・リ・ニ

・・・ホ・・・リ

・ヌ

・ー

・・・リ・ニ・ヌ・リ

・タ・リ・ニ・ヌ・リ

・タ・リ・ニ・・ーリ

・x・・

結束方法(1)

結束方法(2)

結束方法(3)

結束方法(4)

結束しない

その他

0

20

40

60

80

100

120

・・・・・リ・ニ・ム・リ

・タ・・・リ・ニ・・・ホ

・・・リ

・ヌ

・ー

・・・リ・ニ・ヌ・リ

・タ・リ・ニ・ヌ・リ

・タ・リ・ニ・・ーリ

・x・・

全数

1つおき

その他

図-4.2.16 部位ごとの結束方法 図-4.2.17 部位ごとの結束数

0

20

40

60

80

100

120

140

・X・・・u・リ

・ヌ・リ

・・・リ

・タ・リ

・i・タ・・・ハ・j

・タ・リ

(・タ・、・ハ)

・・・b・タ・リ

・i・タ・・・ハ・j

・・・b・タ

・i・、・ハ・j

・x・・

鋼製(単体)

鋼製(連続型)

プラスチック製

コンクリート製

モルタル製

その他

0

10

20

30

40

50

0.7以下 ~1.0 ~1.3 ~1.6 ~1.9 ~2.2 2.2~

度数

スペーサ個数(個/m2) 図-4.2.18 部材ごとのスペーサの種類 図-4.2.19 スラブ筋におけるスペーサ個数

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90

見られるが,0.7 個/m2以下ということはないよ

うである。また,スラブ筋の径やピッチによっ

て個数を変えていることも考えられる。

図-4.2.20 に壁筋スペーサの柱および梁か

らの距離,図-4.2.21に高さおよび横方向のピ

ッチを示す。壁筋は,JASS 5 では,上段は梁下

より 0.5m 程度,中段は上段より 1.5m 間隔程度,

横間隔は 1.5m 程度で端部では 1.5m 以内とされ

ている。実際の状況では,ほとんどが 0.5m 以下

で,0.1m,0.2m なども多く,柱際,梁際の近く

まで配置されているようである。横間隔は,1.0m

もしくは 1.5m が多い。

図-4.2.22に柱筋のスペーサ個数を示す。柱

筋は,JASS 5 では,上段は梁下より 0.5m 程度,

中段は柱脚と上段の中間,柱幅方向は幅 1.0m ま

でが 2 個,1.0m 以上は 3 個とされている。回答

では,柱幅 1m を超える例が少ないが,ほとん

どの場合幅方向は 2 個となっている。上段の梁

下からの距離は,0.5m 以下で,壁筋と同様に

0.1m,0.2m が多く,梁際に配置されている。

図-4.2.23 に梁底面および側面の柱からの

距離,図-4.2.24 に中間部のピッチ,図-

4.2.25に梁底面のスペーサの列数,図-4.2.26

に梁側面のスペーサの段数を示す。JASS 5 では,

間隔は 1.5m 程度,端部は 1.5m 以内とされて

いる。梁底筋と側面はほぼ同様の傾向を示し,

0

10

20

30

40

50

100以

~200

~300

~400

~500

~750

~1000

~1250

~1500

1500~

度数

梁下・柱からの距離(mm)

壁筋・梁下から

壁筋・柱から

0

10

20

30

40

50

60

300以

~500

~700

~900

~1100

~1300

~1500

~1700

1700~

度数

壁筋中間部のピッチ(mm)

壁筋・高さ方向間隔

壁筋・横方向間隔

図-4.2.20 壁筋におけるスペーサの端部からの 図-4.2.21 壁筋におけるスペーサピッチ

距離

0

20

40

60

80

100

120

1 2 3 4 5~

度数

柱筋 幅方向の個数

上段 幅1000mm以下

上段 幅1000mm超え

下段 幅1000mm以下

下段 幅1000mm超え

0

5

10

15

20

25

30

100以

~200

~300

~400

~500

~750

~1000

~1250

~1500

1500~

度数

梁あばら筋の端部からの距離(mm)

梁底面

梁側面

図-4.2.22 柱筋のスペーサ個数 図-4.2.23 梁筋における柱端部からの距離

0

10

20

30

40

50

60

70

300以

~500

~700

~900

~1100

~1300

~1500

~1700

1700~

度数

梁あばら筋のスペーサピッチ(mm)

梁底面

梁側面

0

5

10

15

20

25

30

400以

~500

~600

~700

~800

~1000

度数

梁幅(mm)

1列

2列

3列

図-4.2.24 梁筋におけるスペーサピッチ 図-4.2.25 梁底面のスペーサの列数

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91

柱からの距離は 0.1m~1.5m 程度まであり,作

業所による差が大きい。間隔は,1.5m が最も

多く,ほとんどがそれ以下である。スペーサを

入れる列数は,2 列が最も多いが,梁幅が大き

くなると 1 列とするケースが少なくなる傾向に

ある。梁側面の段数は 1 段とする場合が多いが,

梁せいが大きくなると 2 段にする割合も大きく

なる傾向にある。

かんざし筋は梁筋が下へ落ちるのを防ぐため

に梁主筋と直角方向に入れて梁筋を吊り下げる

ためのものであるが,30%程度の作業所で使用

されている。かんざし筋の間隔は 1.0m~2.5m

以上までと幅が広く,最も多いのは 1.5m 程度で

ある。

基礎梁については,端部からの距離,中間部

のピッチについては,一般の梁と同様の傾向で

あった。図-4.2.27に基礎梁底面における列数,

図-4.2.28に側面における段数を示す。基礎梁

は梁幅,梁せいともに一般部より大きくなり,

部材の大きさにともなって,スペーサの列数や

段数が多くなる傾向が顕著に表れる。

スペーサの配置,ピッチについて昭和 61 年調

査と比較すると,全体的にはピッチ,端部から

の距離ともに小さくなる傾向にあるが,大きな

差にはなっていない。当時の JASS 5[2]と現行の

JASS 5[3]を比較した場合もその記述内容はほ

ぼ同じであり,施工方法にも大きな差がない要

因であると思われる。図-4.2.29に増打ちがあ

る場合のスペーサの選定,図-4.2.30に目地部

でのかぶり厚さの設定について示す。既往の文

献[4]では,増打ち部も元の躯体寸法のスペー

サが使用されており,それがかぶり厚さのばら

つきの要因になっているという報告もあるが,

本調査においては,増打ち寸法に応じた大きさ

のスペーサが選定されている例が多いようであ

る。昭和 61 年調査との比較においても,その割

合は増えている。

また,目地部のかぶり厚さの確保については,

目地底からでも設計かぶりを確保しようとする

例が多い。JASS 5 における目地部の取り扱いに

ついては,建築基準法施行令第 79 条に規定され

るかぶり厚さを満足すればよいとされており,

0

10

20

30

40

600以

~700

~800

~900

~1000

1000~

度数

梁せい(mm)

1段 2段

0

5

10

15

20

25

30

400以

~500

~600

~700

~800

~1000

度数

梁幅(mm)

1列

2列

3列

図-4.2.26 梁側面のスペーサの段数 図-4.2.27 基礎梁底面のスペーサの列数

0

10

20

30

40

50

1000以

~1500

~2000

~2500

~3000

~3500

3500~

度数

梁せい(mm)

1段

2段

3段

0

20

40

60

80

100

大きい

スペーサ

躯体寸法の

スペーサ

その他

割合

(%)

本調査

昭和61年調査

図-4.2.28 基礎梁側面のスペーサの段数 図-4.2.29 増打ちがある場合のスペーサの選定

Page 93: 1. はじめに - kenken.go.jp...1 1. はじめに 1.1 研究の背景および目的 鉄筋コンクリート造建築物におけるかぶり厚 さは,建築物の耐久性,構造安全性,耐火性の

92

必ずしも設計かぶり厚さを加える必要はないが,

目地部が耐久性上や防水上の弱点になる可能性

があることを考えると,耐久性や防水性を考慮

した施工がなされていることが伺える。

型枠工がスペーサを外さないための措置は作

業所によって様々な取り組みがなされている。

その取り組みを整理すると,①連絡体制の徹底

(勝手に外さないように),②スペーサの確認を

頻繁に行う(型枠を組み上げていく各段階での

確認),③教育体制の徹底(型枠工の意識向上),

④スペーサが入らない時点で前工程に戻って鉄

筋の建入れの修正,などが挙げられている。ま

た,根本的な対策として,鉄筋を精度よく配筋

するようにするという回答も多く見られた。

(3) 型枠精度について

型枠精度の管理もかぶり厚さ確保の点で重要

な管理項目である。図-4.2.31に型枠精度の目

標設定,図-4.2.32に型枠頂部の通り精度の目

標値を示す。型枠精度の目標設定については明

確に目標を定めて施工している場合が多かった。

JASS 5 においては,コンクリートの打ち上が

りの位置精度や断面寸法については規定がある

が,型枠精度については特に規定はなく施工者

の管理に委ねられているが,常識の範囲内とい

う回答も合わせ,型枠精度については何らかの

管理が行われている。また,鉄筋加工に比べる

と協力業者の自主管理によるという回答も少な

く,型枠工事の管理は直接実施するという意識

が高いことが伺える。

通り精度の目標値としては 2.0~3.9mm が最

頻値となっており,昭和 61 年調査においては

0

20

40

60

80

100

120

目地

深さ

設計

かぶ

目地

深さ

最小

かぶ

設計

かぶ

最小

かぶ

度数

目地部のかぶり厚さ

図-4.2.30 目地部でのかぶり厚さの設定

4.0~5.9mm が最頻だったことや大きい目標値

も多かったことを考えると,管理がより厳しく

なる傾向にあると思われる。表-4.2.2 から表

-4.2.5 に壁,柱,梁,スラブ型枠の精度管理

表-4.2.2 壁型枠の目標値 -側

+側 0

3.0

5.0

8.0

10.0

15.0

20.0

20.1

以上計

0 3 1 1 0 0 0 0 0 5

~3.0 21 13 0 0 0 0 0 0 34

~5.0 29 3 12 0 0 0 0 0 44

~8.0 3 3 0 0 0 0 0 0 6

~10.0 11 5 2 0 0 0 0 0 18

~15.0 2 0 4 0 0 0 0 0 6

~20.0 4 0 3 0 0 0 0 0 7

20.1以上 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計 73 25 22 0 0 0 0 0 120

表-4.2.3 柱型枠の目標値 -側

+側 0

3.0

5.0

8.0

10.0

15.0

20.0

20.1

以上計

0 3 0 1 0 0 0 0 0 4

~3.0 20 9 0 0 0 0 0 0 29

~5.0 27 3 12 0 0 0 0 0 42

~8.0 3 4 0 0 0 0 0 0 7

~10.0 9 6 2 0 0 0 0 0 17

~15.0 2 0 4 0 0 0 0 0 6

~20.0 4 0 3 0 0 0 0 0 7

20.1以上 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計 68 22 22 0 0 0 0 0 112

表-4.2.4 梁型枠の目標値 -側

+側 0

3.0

5.0

8.0

10.0

15.0

20.0

20.1

以上計

0 3 0 0 0 0 0 0 0 3

~3.0 22 10 0 0 0 0 0 0 32

~5.0 29 4 12 0 0 0 0 0 45

~8.0 3 4 1 0 0 0 0 0 8

~10.0 12 5 2 0 0 0 0 0 19

~15.0 2 0 4 0 0 0 0 0 6

~20.0 4 0 4 0 0 0 0 0 8

20.1以上 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計 75 23 23 0 0 0 0 0 121

表-4.2.5 スラブ型枠の目標値

-側

+側 0

3.0

5.0

8.0

10.0

15.0

20.0

20.1

以上計

0 2 0 0 0 0 0 0 0 2

~3.0 18 10 1 0 0 0 0 0 29

~5.0 27 3 12 0 1 0 0 0 43

~8.0 8 1 1 1 0 0 0 0 11

~10.0 17 3 1 0 0 0 0 0 21

~15.0 3 0 2 0 0 0 0 0 5

~20.0 5 1 2 0 0 0 0 0 8

20.1以上 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計 80 18 19 1 1 0 0 0 119

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93

の目標値を示す。部位ごとの型枠寸法の目標値

の管理は,いずれの部位についても-側が 0mm,

+側が 5mm 以内を目標に精度管理されている

場合が多い。+側については,+20mm ぐらいま

での大きめ(緩め)の管理がされている例もあ

るが,-側については-5mm 以上の管理がされ

ている例はほとんどない。なお,JASS 5 におい

ては,断面寸法の許容差の標準値は,柱,梁,

壁,スラブは-5mm および+20mm,基礎が-10mm

と+50mm とされており,打設時の型枠の変形や

ずれを考慮して厳しめの管理が行われているよ

うである。 4) 品質管理の実施状況について

図-4.2.33 にコンクリート打設の際の鉄筋

の乱れ防止の措置(3 つを選択して回答)を示

す。コンクリート打設の際の管理としては,回

答例に挙げられたようなことが考えられるが,

特に,スラブ筋の乱れに対する対策が目立つ。

また,昭和 61 年調査では,打設中の精度チェッ

クや手直しが多かったのに対し,事前の予防策

となる通路やウマの配置が多くなっていること

も,配筋の精度管理に対する意識の高さの表れ

と思われる。図-4.2.34に鉄筋工事の各工程に

おけるかぶり厚さのチェックの実施者,図-

4.2.35に実施方法を示す。かぶり厚さのチェッ

クは,各工程において,現場監督員が実施して

いる場合が最も多く,墨出し後,返し型枠建て

込み前には,鉄筋工,型枠工によるチェックが

順に多い。壁・柱のコンクリート打設前には,

監理者による確認(検査)が行われている場合

が多い。ただし,梁・スラブについては現場監

督員によるチェックが行われている場合が多い。

チェックの方法としては,目視に加えかぶり不

足が懸念されるような箇所をスケールによって

実測するという方法が最も多い。また,原則ス

ケールで確認するという方法も比較的多く実施

されている。

0

20

40

60

80

明確に決めて

施工

常識の範囲内 協力業者の

品質管理による

その他

割合

(%)

本調査

昭和61年調査

図-4.2.31 型枠精度の目標設定

0

10

20

30

40

50

60

2未満 2~3.9 4~5.9 6~7.9 8~11.9

12~15.9

16~19.9

20以上

割合

(%)

型枠頂部の通り精度目標値(mm)

本調査

昭和61年調査

020406080

100120

打設

順序

考慮

乱れ

防止

鉄筋

スラブ上

作業

通路

スラブ上

配管

ウマ

フレキ

ホー

養生

筒先

移動

ピッ

チ細

かく

バイ

ブレ

ータを

あて

ない

鉄筋

工打

設中

精度

チェッ

鉄筋

工打

設中

手直

度数

(複

数回

答) 乱れ防止の措置

図-4.2.32 型枠精度(通り精度)の目標 図-4.2.33 コンクリート打設における留意事項

020406080100120140160

柱・壁

墨出し後

柱・壁

返し型枠

建込み前

柱・壁

コンクリート

打設前

梁・スラブ

度数

(複

数回

答)

誰も実施せず 当社担当職員鉄筋工 型枠大工監理者 外部検査その他

0

20

40

60

80

100

柱・壁

墨出し後

柱・壁

返し型枠

建込み前

柱・壁

コンクリート

打設前

梁・スラブ

度数

実施していない

すべて目視

目視+危険箇所スケール

スケール+目視

図-4.2.34 かぶり厚さチェックの実施者 図-4.2.35 かぶり厚さチェックの実施方法

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94

4.3 品質管理部門アンケート調査

4.3.1 調査概要

品質管理部門に対するアンケートは,かぶり

厚さ確保のための会社全体としての取組みにつ

いて尋ね,日本建設業連合会加盟企業のうち 26

社の 50 部署から回答を得た。品質管理部門ア

ンケートの調査項目を表-4.3.1に示す。

4.3.2 調査結果

(1) 協力業者への教育

図-4.3.1 に協力業者への教育について回答

結果を示す。(複数回答含む)

ほどんとの会社で協力業者への教育を何らか

の形で実施し,かぶり確保に関する協力業者の

意識を高めている。「その他」の具体的な回答で

は会社によって躯体工事着手前に配筋詳細の検

討や周知会等を開いて対応を図っている。(表-

4.3.2)

表-4.3.1 品質管理部門のアンケート項目

項 目 内 容

(1)協力業者への教育 各社が行っているかぶり確保に関する協力業者への教育について

(2)社員教育 各社がおこなっているかぶり確保に関する社員教育について

(3)社内検査 通常の検査以外に会社独自で行っている検査について

(4)かぶりの補修 かぶり不足が発生した場合の具体的な処置について

0

10

20

30

40

1.年数回

講習会開催

2.躯体工事

前に勉強会

3.その他

度数

1.協力業者への教育

選択肢

(1) 年数回,協力業者を集めてかぶり厚さ確保などの躯体に関する品

質確保について講習会を開いている

(2) 作業所にて躯体工事着手前にかぶり厚さ確保を含む品質確保の

勉強会を開くように指導している

(3) その他(具体的に記述してください)

図-4.3.1 協力業者への教育

表-4.3.2 協力会社への教育について「その他」の具体的な回答

(a) 「協力業者職長教育」で業者の工事担当者,職長を集めて指導,勉強会を不定期に(年1,2回)開催。物件毎

の指導は「躯体施工検討会」を着手前に行いそこで社員含め行う

(b) スローガンとして「10 箇条」をつくり品質管理上の充てん実施事項として取り組んでいる

(c) 作業所にて,部位別のかぶり厚さや,使用するスペーサー,鉄筋の納まりが悪い部位に対して,協力会社と協議・

合意の上施工するように指導している。

(d) 不定期に協力業者を対象としたかぶり厚さ確保について講習会を実施

(e) 鉄筋工事事前チェックシートを使用して,個別検討会を実施している。

(f) 工事着手時に開催される品質検討会にて開催が必要と認められた工事については,鉄筋工事個別検討会時に

実施

(g) 鉄筋工事の個別検討会を実施。設計施工の場合は,別途配筋勉強会を実施。

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95

(h) 調達部と合同にて加工場巡回を実施。その結果(好事例・不具合事例)を「鉄筋部会」にて報告し。水平展開を

図った。

(i) 協力業者を集め,「建築部連絡」を毎月 1 回開催して,かぶり及びその他品質不具合防止の水平作業をしてい

る。

(j) 作業所にて,かぶり厚さの一覧表やポスターにより教育を実施している。

(k) 第 1 回の鉄筋工事品質パトロールは躯体工事前に実施し,かぶり厚さなど,不具合につながり易い設計内容を

鉄筋工事の単純化に向けた提案,質疑事項の抽出などの勉強会を行っている。

(l) 各工事事務所において,工事着手前に施工計画書を作成し,その中でかぶり厚さに関する品質確保の要領に

ついては協力会社担当者及び職長への周知勉強会を実施している。

(m)

「鉄筋のかぶり厚さ確保」の協力会社教育については,鉄筋工事協力会社の職長に対して実施した。

「鉄筋のかぶり厚さ確保」の具体的な実施項目としては,躯体部位別設計かぶり厚さ図の作成,配筋詳細図の

検討が必要な部位の配筋納まり図の作成,スペーサーの色分け管理,部位毎の施工管理ポイント,QC工程図・チ

ェックシートなどからなり,躯体工事着手前に作業所にて担当社員と協力会社で内容を確認することとしてい

る。

(2) 社員教育について

図-4.3.2に社員教育について回答結果を示

す。(複数回答含む)

回答結果から,各社かぶり確保に関する何らか

の社員教育を実施していることがわかる。

0

5

10

15

20

25

1.年数回

講習会実施

2.躯体工事

前に勉強会

3.その他

度数

2.社員教育

選択肢

(1) 年数回,かぶり厚さ確保を含む躯体品質確保のための講習会を実

施している

(2) 躯体工事着手前に勉強会を実施している

(3) その他(具体的に記述してください)

図-4.3.2 社員教育

表-4.3.3 社員教育について「その他」の具体的な回答

(a) 定期的な講習会等は設定しておらず,毎月の所長会議で必要に応じてテーマとして取り上げ指導している。物

件毎には図面検討会で配筋上の問題点や改善事項等を個別に指導している

(b) 過去には,作業所の全技術者対象のコンクリートに関する研修の中で,かぶり厚さについても取り上げた。ま

た,毎年実施する階層別教育(2 年次,5 年次,作業所長)の中で,不具合予防の観点で教育を行っている。

(c) 不定期に社員を対象としたかぶり厚さ確保について講習会を実施

(d) 鉄筋工事事前チェックシートを使用して,業者を含め個別検討会を実施している。

(e) 1~2 年社員を対象とした基礎技術研修 B と,3~5 年社員を対象とした基礎技術研修 A をそれぞれ実施。

(f) 「鉄筋工事 事前検討チェックシート」(内容を判り易いように順次改定)を使用し,全現場で着工時に確認会を

鉄筋業者を交えて実施している。

(g) 鉄筋工事の個別検討会を実施。設計施工の場合は,別途配筋勉強会を実施。

(h) 着工時施工管理検討会を現場着工時に実施し,躯体のかぶり厚さについてはスペーサーの識別管理を社内要求

として徹底し,かぶり厚さの重大性を認識させ教育指導している。

(i) 月 1 回の作業所「品質パトロール」を通して直接社員に指示・指導している。

(j) 品質パトロール時の計画書チェック,現場巡視の中で鉄筋工事担当者に教育・指導を行っている。

(k) 不具合情報の提供,集合研修の実施(年 2 回),社内資料を用いた作業所員での勉強会実施の指導。

(l) 集合教育により計画的に実施している。また配属先へ教育担当が出向き個別教育を実施している。

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96

(m) 測定機を導入した時は,躯体品質確保のための社内講習等を行っていたが,昨今,ほとんど実施していない。

(n) 冬季講習会での集合教育および他社・他店での不具合事例の水平展開を随時実施

(o) 主任クラスを対象とした社内教育の中で,法とかぶり厚さに関する教育を行っている。

(p) 建築若年職員に対して年度毎に生産研修を行い,かぶり不足やその対処の事例を紹介するなど躯体の品質確

保についての意識向上を目指した指導を行っている。

(q) 支店においては各職員の職級に応じて年度内で 2 回づつ勉強会(所長会議,工事長会議,主任会議,若年者

会議)実施しその時にかぶり厚さに関する品質確保の内容を盛り込んでいます。

(r) 年 1 回の支店品質管理研修会の躯体関連講習に含めて実施している。また,工務管監督並びに工事課の品質

パトロール時に社員教育を実施。

(s) 定期的ではなく,かつ「かぶり厚さ確保」に絞った勉強会ではないが,鉄筋工事配筋管理についての勉強会を実

施している。

(t) 全店で JASS 改定時に躯体品質確保のための社内講習を実施,その後,若手社員にも社内講習を実施。東京

では,各作業所において躯体工事着手前に勉強会も実施。

(u)

「鉄筋かぶり厚さ確保」を含めて,全現場共通の重点管理項目 12 項目を定め,その具体的な実施項目をその品

質基準について周知する「品質教育」を 2006 年度下期から 2008 年度にかけて,施工系社員・関連会社・社外人

材全員を対象に実施した。

「鉄筋かぶり厚さ確保」の具体的な実施項目としては,躯体部位別設計かぶり厚さ図の作成,配筋詳細図の検

討が必要な部位の配筋納まり

(3) 社内検査について

作業所における通常の協力業者の自主検査,

および社員による検査に以外に,会社独自に行

っている検査について回答結果を図-4.3.3に

示す。

専門の品質管理部門による検査を実施している

のは 23 部署でほぼ半数を占め,その他を含め

ると 39 部署となり,かぶり確保に対して組織

的にも対応している会社が多いことが分る。

0

5

10

15

20

25

1.社内の品質

管理部門検査

2.実施して

いない

3.その他

度数

3.社内検査

選択肢

(1) 社内の専門の品質管理部門による社内検査を実施している

(2) 専門の品質管理部門による社内検査は実施していない

(3) その他(具体的に記述してください)

図-4.3.3 社内検査について

表-4.3.4 社内検査について「その他」の具体的な回答

(a) 物件を特定して,基礎配筋検査を品質管理部で行っている,また予備検査においてもタイミングが合えば該当

箇所の検査を行う

(b) 予防措置として,支店毎に「品質管理担当者」を専任し,現場の品質指導,パトロールを行っている。

(c)

躯体着工時にライン部署で検査実施。また建築技術部構造担当者がその検査に同席し,検査を行っている。さ

らに,躯体完了時スタッフ(建築技術部)が検査実施。その他不定期ではあるが,支店幹部,品質長が巡回指導

実施。

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(d)

・鉄筋やかぶり厚さのみの社内検査は実施していない。

・支店の建築環境・品質管理部が実施する「初期社内検査」(原則として基礎配筋終了後),「中間社内検査」(躯

体工事から仕上げ工事に移行する段階)の中で,かぶり厚さや躯体の出来栄えについても検査,指導を行って

いる。

(e) ライン検査は,躯体着工検査を 1 階立上がりまたは,地下立上がりで実施している。スタッフ検査は,役所中間検査

前確認と躯体完了検査で,確認できる部分を検査している。

(f) 巡回時に配筋状態がチェックできるときは検査している

(g) RC 建物について 1F 立上がり時点で,かぶり巡回(スタッフ)指導実施

(h) 躯体着工時(規模により中間時にも)の建築部内上職による検査と躯体完了直前の品質管理部門の検査を実

施。

(i) 施主・監理者より社内検査を要求されている現場については社内検査実施している。

(j) 本店管理部門と支店管理部門で各作業所のパトロールを実施し品質確保の状況を確認している。

(k) 作業所を選定して,技術室にて配筋検査を実施している。

(l) 支店品質管理室による品質パトロール(基礎・地下躯体時 1 回,地上躯体時 2 回)を実施。その他,建築幹部に

よる品質向上パトロール(隔月)

(m) 社内の品質管理部門による検査は,基礎躯体時,地上躯体時におのおの 1 回は全ての作業所で実施し,工事

の規模により追加検査を実施している。

(n)

定期的に下記内容のパトロールを実施している。対象は躯体工事中の全作業。

1.自主検査の実施状況および品質管理記録の作成状況のチェックと改善に向けた指導。

2.かぶり不足など不具合の生じ易い部位の配筋状況確認および納まりの確認と再発防止教育。

(o) 社内検査を実施している。(但し,検査員は「専門」ではない)

(p) 支店建築部門では,品質検査課が対象現場の鉄筋工事に関して現場の施工管理状況を確認し,その方法,内

容についての指導を行っている。頻度としては基礎地中梁,中間梁,場合により最上階の配筋時に行っている。

(q) 平成 22 年度中に社内品質管理担当部門による鉄筋工事パトロールを実施する予定。

(r) 支店によっては専門の品質管理意担当者を定めて「かぶり厚さ確保」を重点にチェックしているが,多くの支店

では工事課として定期的に現場巡回する中で,「かぶり厚さ確保」だけに限らずチェックを実施している。

(4) かぶりの補修

かぶり不足が発生した場合の具体的な補修方

法についての回答結果を図-4.3.4 に示す。

回答結果より,約 7 割の部署が「個別に対応してい

る」を選択,かぶりの補修に関しては作業所独自の

問題が多く,個別に対応していることが伺える。

0

10

20

30

40

1.告示1372

号PCMで

補修

2.無収縮

モルタルで

補修

3.個別に対応 4.その他

度数

4.かぶり不足の処置

選択肢

(1) 国交省告示第 1372 号に準拠したポリマーセメントモルタルで補修

するように会社として原則補修方法を決めている

(2) 無収縮モルタルで補修するように会社として原則補修方法を決め

ている

(3) 個別に対応している

(4) その他(具体的に記述してください)

図-4.3.4 かぶりの補修方法

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98

表-4.3.5 かぶりの補修について「その他」の具体的な回答

(a)

補修の断面寸法により,対応の原則を変えている。

・100 ㎜以上や躯体を打ち直す場合:型枠を組んでコンクリートを打設する

・20~50 ㎜程度:型枠を組んで無収縮グラウトを充填する。

・20 ㎜以下程度:ポリマーセメントモルタルを左官工法で拭きつけ施工する。

(b) 現場状況に応じて個別検討会を行い補修方法を決めている。

(c) 部材の構造断面確保・・・ポリマーセメントモルタル

部材の耐久性確保・・・モルタル薄塗り

(d) 社内基準:コンクリート躯体補修マニュアルで対応している。

(e) 基本は指導のみとし,最終判断は作業所にゆだねている。(事業主・監理者との協議の上決定するよう指導して

いる)。

(f)

補修する場合は原則として国交省告示第 1372 号,1399 号に準拠したポリマーセメントモルタル等を用いること

としている。運用にあたっては材料強度等に加え,防耐火性能,ひび割れ防止,落下防止措置等に関する確認

が必要となるため,監理者と相談の上での個別対応となる。(なお,各店からの実際の対応事例報告はなし)

(g) 発注者仕様が定められている場合はその方法に従い,それ以外の場合は原則(1)に準拠して対処するようにし

ている。

(h) 耐火性能が確保されている(試験結果が明確なもの)ポリマーセメントモルタルで補修する。

(i)

基本は,事前予防でかぶり確保に努めており,万一施工中にかぶり不足が発見された場合は,各店技術Gで個

別対応しているが,基本的には告示第 1372 号に準拠したポリマーセメントモルタルで行うように各店技術Gが

指導。

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99

4.4 実測調査

4.4.1 調査概要

実測調査は,品質管理等のために作業所で実

施したかぶり厚さの実測データを提供してもら

うことにより実施した。また,既往の調査とし

て建築業協会(当時)が昭和 62 年に実施した調

査結果[5](以下,昭和 62 年調査)を比較検討

の対象とした。表-4.4.1 に本調査および昭和

62 年調査の概要を示す。なお,本調査において,

作業所アンケート調査の回答と実測調査のデー

タが一致する作業所は,8社23作業所であった。

また,建物用途は 23 作業所中 21 作業所が集合

住宅,事務所と教育施設が 1 作業所ずつであっ

た。

かぶり厚さの測定方法は,すべて作業所が電

磁誘導法による非破壊試験であり,測定部材の

測線ごとに記入した。表-4.4.2 に実測調査の

記入表を示す。非破壊試験による測定値の補正

は,28 作業所中 12 作業所で行われており,そ

の方法はすべて JASS 5T-608 の A 法によるもの

であった。

4.4.2 実測データの分析方法

実測されたデータは,部材およびその測定面,

施工時に設定された増打ちの厚さを要因として

分類し,かぶり厚さの実測値から設計かぶり厚さ

を引いた値によって評価を行った。本文中では,

これを「実測-設計かぶり」として表す。なお,

昭和 62 年調査にて設計かぶり厚さとして採用し

た値は,「設計図書で指示されたかぶり厚さ」と

して定義され,現在の最小かぶり厚さに相当する

が,施工上の目標値という意味合いにおいて本報

では本調査における設計かぶり厚さと同列に用

いた。測定値の補正は,補正を実施した作業所は

補正後の値,実施していない場合はそのままの値

を実測値とした。増打ち厚さによる分類は,デー

タ数の多い柱,梁側面,壁について行った。

統計処理の方法は,部材や増打ちの厚さによ

って分類した全ての測定点の平均値,標準偏差

および測定した部材ごとの標準偏差の平均値で

表した。部材種類および増打ちの厚さに区分し

たデータ数および部材数は表-4.4.3 に示して

いる。ヒストグラムの階級は,昭和 62 年調査で

は 3mm 単位で区分されているが,本調査にお

いては測定値が 1mm 単位で得られ,1 階級に含

まれる整数値を同じにする意味から,4mm 単位

で区分した。

表-4.4.1 実測調査の概要

本調査 昭和 62 年調査

調査方法 作業所実施の品質管理用データを提出 調査員が赴き実測調査

調査時期 平成 23 年 1 月~平成 23 年 3 月 昭和 62 年 9 月~昭和 62 年 12 月

回答企業 日建連加盟企業のうち 11 社 建築業協会加盟企業のうち 14 社

回答数 28 作業所 14 作業所(RC 造のみ)

表-4.4.2 実測調査記入表

1 2 ・・・ n個

例) 柱 C1 5F 屋外 無 20 40 50 64 61 62 有 A法 60.5 3.3

梁 G1 6F 屋内 梁側面 有 0 30 40 55 52 54 無 - 53.8 5.4

標準偏

差(mm)

スラブ上

面/下面

仕上げ

有無

増し寸法

(mm)補正有無補正方法

平均値

(mm)

実測データ測定部材 記号 階数

屋外/

屋内

設計かぶり

厚さ(mm)

最小かぶり

厚さ(mm)

梁側面

/下面

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100

4.4.3 調査結果

表-4.4.3 に本調査における部材種類および

増打ちの厚さごとの分析結果を示す。また,図

-4.4.1に,本調査および昭和 62 年調査の部材

ごとの実測-設計かぶりの分布を示す。なお,

昭和 62 年調査では床および梁の測定面は区別

されていない。

全般的な傾向として,本調査における実測-設

計かぶりの平均値は約 10mm 以上となっており,

かぶり厚さの確保のために余裕を持った施工が

行われていることが分かる。昭和 62 年調査では

実測-設計かぶりはほぼ 0 を中心に分布してお

り,かぶり厚さを確保するための意識が強くなっ

ていることが伺える。本報その 1 での配筋検査に

おける手直しの程度の結果もこのことを裏付け

ている。ただし,ばらつきについては,部材によ

って異なるものの 10~15mm 程度であり,昭和

62 年調査と同程度となっている。部材内(測線

内)での標準偏差は概ね 5mm 以下である。また,

本調査の範囲では,設計かぶりを下回る割合は

11%程度で最小かぶりを下回る割合は 1%程度で

あった。分布形状は,概ね正規分布として表され

る。

部材の種類による傾向は,実測-設計かぶりは,

壁で最も小さく,梁部材で大きくなっている。ま

た,標準偏差も梁部材が大きくなっており,これ

は,梁部材の部材接合部などでのかぶり厚さを確

保するために,打増しを大きめにし,梁筋を内側

に配置することなどが要因であると思われる。そ

のため,かぶり厚さが設計かぶりや最小かぶり厚

さを下回る割合も相対的に小さくなっている。

図-4.4.2 に柱部材について増打ち厚さの範囲

ごとの実測-設計かぶりの分布を示す。増打ちが

大きくなるほど実測-設計かぶりの平均値は大

表-4.4.3 部材種類および増打ち厚さごとの分析結果

部材・ 測定面

増打ち厚さ

(mm) データ 点数

部材数 全データ

部材内標準

偏差平均

下回る割合(%)

平均 標準偏差設計 かぶり

最小 かぶり

全部材

全データ 26479 1817 14.7 13.6 4.7 11.3 1.3 なし 23624 1520 14.1 13.6 4.9 12.1 1.5 1~10 834 83 16.2 12.4 3.9 6.2 0.1 11~20 1650 178 19.5 12.2 3.8 4.2 0.1 21~ 371 36 24.7 9.8 5.6 0.0 0.0

全データ 12215 820 14.3 12.8 5.4 9.4 1.3 なし 11081 700 13.9 12.9 5.7 10.0 1.0 1~10 543 53 16.5 10.2 3.8 5.0 0.2 11~20 458 53 16.3 10.0 3.7 3.5 0.0 21~ 133 14 28.0 10.0 6.1 0.0 0.0

梁側面

全データ 6479 374 18.3 15.3 4.7 11.3 1.8 なし 5936 314 17.6 15.2 4.8 12.3 1.9 1~10 29 7 42.7 13.2 3.0 0.0 0.0 11~20 406 43 25.7 13.3 4.2 0.2 0.0 21~ 108 10 25.4 12.8 4.4 0.0 0.0

梁下面 全データ 1228 119 21.4 15.0 5.0 6.4 0.2

全データ 4972 348 9.6 11.0 3.7 18.0 1.4 なし 4519 299 9.1 10.9 3.7 19.2 1.5 1~10 71 6 9.8 5.7 4.7 2.8 0.0 11~20 382 42 16.1 10.5 3.6 6.8 0.0

床上面 全データ 396 43 13.1 9.1 3.1 4.8 0.0 床下面 全データ 1177 109 14.0 12.2 3.8 8.8 0.2

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101

きくなるが,ばらつきが大きくなる傾向は確認

されない。西村らの論文[4]では,打増し等が

ある部材ではばらつきも大きくなる傾向が報告

されているが,本調査ではそのような傾向は見

られなかった。

その理由として,本調査において実測データ

が提供された作業所へのアンケート調査では,

打増しに応じた寸法のスペーサが使用されてい

る作業所が回答のあった 21 件中 20 件であり,適

切なスペーサの使用により鉄筋の過度な倒れや

あばれが生じることが少なかったことが推測さ

れる。

0

1000

2000

3000

4000

~‐22 ‐6 10 26 42 58

度数

実測-設計かぶり(mm)

全データ

0

100

200

300

400

500

~‐22 ‐12 0 12 24実測-設計かぶり(mm)

全データ

0

500

1000

1500

2000

~‐22 ‐6 10 26 42 58実測-設計かぶり(mm)

全データ(本調査) 全データ(昭和62年調査) 柱(本調査)

0

50

100

150

~‐22 ‐12 0 12 24

度数

実測-設計かぶり(mm)

0

200

400

600

800

~‐22 ‐6 10 26 42 58実測-設計かぶり(mm)

0

50

100

150

~‐22 ‐12 0 12 24実測-設計かぶり(mm)

柱(昭和62年調査) 壁(本調査) 壁(昭和62年調査)

0

200

400

600

800

1000

~‐22 ‐6 10 26 42 58

度数

実測-設計かぶり(mm)

梁側面

0

50

100

150

200

~‐22 ‐6 10 26 42 58実測-設計かぶり(mm)

梁下面

0

50

100

150

~‐22 ‐12 0 12 24実測-設計かぶり(mm)

梁側面(本調査) 梁下面(本調査) 梁(昭和62年調査)

0

20

40

60

80

~‐22 ‐6 10 26 42 58

度数

実測-設計かぶり(mm)

床上面

0

100

200

300

~‐22 ‐6 10 26 42 58実測-設計かぶり(mm)

床下面

0

20

40

60

80

100

~‐22 ‐12 0 12 24実測-設計かぶり(mm)

床上面(本調査) 床下面(本調査) 床(昭和62年調査)

図-4.4.1 部位・面ごとの実測-設計かぶり厚さの分布

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0

500

1000

1500

2000

~‐22 ‐10 2 14 26 38 50 59~

度数

実測-設計かぶり(mm)

増打ち無し

0

20

40

60

80

100

120

~‐22 ‐10 2 14 26 38 50 59~

度数

実測-設計かぶり(mm)

増打ち1~10mm

増打ち無し 増打ち1~10mm

0

20

40

60

80

100

120

~‐22 ‐10 2 14 26 38 50 59~

度数

実測-設計かぶり(mm)

増打ち11~20mm

0

5

10

15

20

25

30

~‐22 ‐10 2 14 26 38 50 59~

度数

実測-設計かぶり(mm)

増打ち21mm~

増打ち11~20mm 増打ち21mm~

図-4.4.2 柱部材の増打ち厚さ範囲ごとの実測-設計かぶり厚さの分布

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4.5 実態調査のまとめ

日本建設業連合会の会員企業を対象とした実

態調査から明らかになったことを以下にまとめ

る。

1) 建物の高層化に伴い主筋は高強度化・太径化

し,柱のせん断補強筋は溶接閉鎖型が多く,

一方梁のせん断補強筋は従来の曲げ加工が

多い傾向を示している。

2) 鉄筋の手直し箇所の多い部位として,梁・

壁・柱に次いで「柱と梁の取り合い部(仕口)」

に比較的集中している。

3) スペーサ寸法について,昭和 61 年調査と比

べて増し打ちを考慮したスペーサを採用し

ている作業所が増えており,加えて目地部で

設計かぶりを確保するスペーサを選定して

いる割合が 75%を超えている。

4) 質管理部門アンケート調査から,各社何らか

のかぶり確保のため協力業者や社員教育を

実施していることや,かぶりの補修に関して

は,原則平成 13 年国交省告示第 1372 号の

準拠したポリマーセメントモルタルによる

補修としていながら,個々の作業所の問題か

ら補修については多くが個別に対応してい

る。

5) かぶりの実測調査から「実測-設計かぶり」

の平均値は,約 10 ㎜以上となっており,か

ぶり厚さの確保のため余裕をもった施工が

行われている。

6) 部材毎のかぶりのばらつきは,昭和 62 年調

査と比べて変化なく同程度である。

7) 柱について,増し打ちが大きくなるほど「実

測-設計かぶり」の平均値が大きくなるが,

ばらつきが大きくなる傾向はみられなかっ

た。

昭和 61 年調査時の社会情勢と比べて,かぶ

り確保に対する意識や要求が高まっている昨今,

今回のアンケート調査から教育により協力業者

や社員のかぶり確保に対する意識を高め,事前

の鉄筋納まり検討や加工寸法の検討,並びにス

ペーサの適切な配置(サイズも含む)等により

かぶり厚さ確保が十分可能であることが分った。

また,本調査においては,施工における管理

項目や管理目標値の設定,社内での品質管理の

体制などについて,標準的な内容や上限・下限

などを明らかにしたことにより,施工にあたっ

ての参考値として活用できると思われる

<参考文献>

[1] 建築業協会:鉄筋のかぶりに関する実態調

査報告書[その1 アンケート調査報告],

1887.8

[2] 日本建築学会:建築工事標準仕様書 鉄筋

コンクリート工事 JASS 5 [第 8 版],1986

[3] 日本建築学会:建築工事標準仕様書 鉄筋

コンクリート工事 JASS 5 [第 13 版],2009

[4] 西村進,桝田佳寛,松崎育弘,園部泰寿:

鉄筋コンクリート造建築物の壁・梁・スラ

ブにおけるかぶり厚さの分布に及ぼす打

増しや施工方法の影響,日本建築学会構造

系論文集,Vol.75,No.658,pp.2079-2085,

2010.12

[5] 建築業協会:鉄筋かぶり厚調査報告書,

1988.10

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5. かぶり厚さ確保のための補修材料・工法に関する技術資料

5.1 かぶり厚さ確保のための補修施工要領

本共同研究の成果の一つとして,かぶり厚さ

確保のための補修施工要領書(案)(以下、要領

書)をとりまとめ,これを巻末に示す。

本要領書は,平成 23 年度建築基準整備促進事

業における各種試験体の PCM による補修施工

において適用されたものである。平成 23 年度建

築基準整備促進事業および本共同研究において

は,本要領書に沿って各種試験体の補修施工を

行い,施工性および耐火性を実験的に検証した。

また,本要領書は今後新たにポリマーセメント

モルタルの性能確認を行う場合にも適用するこ

とを想定している。

本要領書を実構造物のかぶり厚さの補修に適

用する際は,以下が前提条件となる。

(1) 補修材料(ポリマーセメントモルタル)が平

成13年国土交通省告示第1372号における品

質規定を満足していること(第 2 項第 1 号)

(2) 補修部分を除いた架構の構造耐力が建築基

準法施行令第 79 条に規定される値より低下

していないこと(国土交通省告示第 1372 号

第 2 項第 5 号)

すなわち,1.2 節で述べたように補修材料の品

質と構造耐力に対する規定を満足していること

が前提となる。

なお,(2)に関しては国土交通省住宅局編集

「平成 17 年 6 月 1 日施行改正建築基準法・同施

行令等の解説」によれば,上記(1)の規定を満足

する材料の場合には補修厚さが断面の 5%以下,

母材と同等以上の圧縮強度を有する補修材を用

いる場合は断面の 30%以下とする目安が示され

ている[1]。

平成 12 年建設省告示 1399 号に定められた耐

火構造として防火上支障がないことの要件につ

いては,火災時に補修材料が剥落しないことを

目標とした。これに対し,本共同研究では,火

災時の剥落防止工法について実験的な検証を行

った。

なお,本要領書を実構造物のかぶり厚さの補

修に適用する場合は,設計者,監理者および関

係行政機関等の確認をとった上で適用されたい。

また,補修施工は施工者の責任において実施し,

その結果については建築研究所および日本建設

業連合会が責を負うものではない。

<参考文献>

[1] 国土交通省住宅局編集:平成 17 年 6 月 1

日施行改正建築基準法・同施行令等の解

説,ぎょうせい,pp.114~117,2005.8

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105

5.2 補修材料・工法選定マニュアル

3.1 節に示したように,国内で市販されている

ポリマーセメントモルタルについて耐久性や燃

焼特性に関する試験を行った結果,材料試験に

おいて複数の銘柄の材料が,所要の性能を有す

ることが確認された。

3.2 節では,これらの材料を用いて小型壁の部

材試験および耐火試験を実施し,補修面の仕上

りが良好で,かつ耐火試験で爆裂を生じない材

料(以下,実績材料と記す)があること,補修

部分の火災時の剥落防止に有効な工法(以下,

実績工法と記す)を提案することができた。ま

た,実績材料と実績工法の組合せであれば,柱

および床部材の載荷加熱試験にて所要の耐火性

を有することが確認された。

上記の 3 章の研究成果に基づけば,本研究の

実績材料と実績工法を組み合わせて適用する場

合には,所要の耐火性を有していると判断する

ことができる。

しかしながら,本共同研究においては市販さ

れているすべての材料を評価したわけではなく,

また今後耐久性および耐火性に優れた新たな材

料が開発される可能性があること,本共同研究

において検討した実績工法以外の剥落防止工法

が開発される可能性もある。そこで,本共同研

究においては,実績材料や実績工法に該当しな

い,新しい材料や剥落防止工法を検討・評価す

る場合に参考となる,補修材料および工法の選

定方法について,補修材料・工法選定マニュア

ル案としてとりまとめた。これを巻末に示す。

なお,本マニュアル案によって選定された補

修材料および工法を実構造物のかぶり厚さの補

修に適用する場合は,設計者,監理者および関

係行政機関等の確認をとった上で適用されたい。

また,本マニュアル案に従い選定された材料・

工法を実際の工事に使用した結果については,

建築研究所および日本建設業連合会が責を負う

ものではない。

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6. まとめ

6.1 本研究で得られた知見

本共同研究においては,かぶり厚さの確保のた

めの施工時の対策とかぶり厚さ確保のための補修

方法について検討した。施工時の対策については,

作業所および品質管理部門へのアンケート調査や

かぶり厚さの実測データの分析などを行い,施工

時におけるかぶり厚さ確保のための現状を分析し

た。補修工法については,使用される材料が有機

系のポリマーを含む材料であり,耐久性に加えて

耐火性を両立させた補修材料および工法が要求さ

れることから,市中のポリマーセメントモルタル

(PCM)材料を主たる対象として材料および部材

の耐久性や耐火性に関する実験的な検討を行い,

有効な補修方法について検討した。以下,本研究

から得られた結論を示す。

1) 市中の PCM 材料には,フレッシュ性能,力学

性能,耐久性,加熱時特性に関し製品ごとに大

きな差異がある。フレッシュ性能では,規定値

はないが空気量に特に差異が大きく,硬化後の

性能に大きな影響を与えていることが推察さ

れる。力学性能では,接着性と接着耐久性にお

いて平成 13 年国土交通省告示第 1372 号第 2

項第一号の基準値を下回る可能性があり留意

が必要である。

2) 加熱時特性については,SBR 系以外の PCM 材

料で不燃材料として判断される 20 分間の総発

熱量が 8MJ/m2を下回る材料が多く存在するこ

とがわかった。また,示差熱曲線で得られる発

熱ピーク面積により PCM 材料の爆裂の危険性

を評価できる可能性が見出された。

3) 耐久性に関し,PCM の中性化抵抗性は一般的

なコンクリートよりも優れており,PCM をか

ぶりコンクリートの一部として用いたとき,か

ぶり断面の中性化進行をコンクリートのみの

場合よりも抑制できることが明らかとなった。

また,乾燥収縮率は乾燥期間 28 日で 900×10-6

以下となったが,長期的には一般的なコンクリ

ートよりも大きく,最大で 2000×10-6を超える

ものがあった。凍結融解抵抗性は,水中凍結水

中融解の条件で試験した結果,300 サイクル後

の相対動弾性係数が 85%を下回る製品が一部

存在した。

4) 部材表面の広範囲にわたってかぶりを PCM で

断面補修する場合,耐火性能を確保するために

は剥落防止措置が必要であり,その仕様を耐火

実験に基づき提案した。提案仕様は,実部材を

想定した大型の壁で評価を行い,その有効性を

確認した。また,壁,床,柱などの構造部材に

同様に適用できることが基準整備促進事業に

おいて確認されている。本研究において剥落防

止効果を確認した仕様以外については,既存の

構造物の補修や非構造部材への補修など長期

応力が作用しない条件で用いる場合には大き

さ 1m×1m,厚さ 15cm 程度の小型壁の加熱実

験で,また同じく長期応力が作用する条件の場

合には部材の載荷加熱実験で耐火性能を確認

することを提案する。

5) 市中の PCM には火災時に爆裂する製品も多く

存在し,爆裂に対する抵抗性の評価は,上記と

同様に 1m×1m 程度の小型壁の加熱実験で確

認することができることがわかった。

6) PCM によるかぶり補修部材の耐火性能の確

認は,補修材料が耐爆裂性を有し,かつ補修部

分が剥落しないことによって,火災時において

も鉄筋の保護効果が確保されることを確認す

る必要がある。この確認には,補修厚さ 30mm

で大きさ 1m×1m,厚さ 15cm 程度の小型の壁

試験体を用いた加熱実験による確認が有効で

ある。この加熱実験後の表面状態から損傷を I

~V の5段階で評価し,爆裂・剥落がない状態

Iに加え,剥落や爆裂が表面のみに止まる II

および III についても鉄筋温度の測定により遮

熱性が確認できれば十分な耐火性能を有する

と判断できる。

7) 前記知見に基づき,かぶり補修施工要領を提案

し剥落防止効果を有する補修工法の施工の参

考資料を提示した。また,本研究において評価

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107

や提案を行った以外の,新しい補修材料や剥落

防止工法の耐久性および耐火性能の確認のた

めの補修材料・工法選定マニュアルを提案した。

8) かぶり厚さ確保の信頼向上を目指し,かぶり厚

さの実態調査を行った結果,施工者のかぶり確

保への意識は以前に比べ高まっていることが

分かった。また,スペーサの選定・配置,鉄筋

の納まり検討や加工方法に関し,現状の標準的

な方法によりかぶり厚さ確保は比較的高い精

度で可能であることが推察された。

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6.2 ポリマーセメントモルタルによるかぶり

厚さ確保のための補修の考え方

本研究において得られた知見より,新築および

既存の建築物についてかぶり厚さを確保するため

の補修方法として,施工要領案および材料・工法

の選定マニュアルを提案した。

ここでは,これらの施工要領案および材料・工

法の選定マニュアルを適用した場合の補修の考え

方について,その前提条件を整理し,本研究で得

られた成果の位置付けについて述べる。

1.2 節に示したとおり,材料および構造上の観点

からは,平成 13 年国土交通省告示第 1372 号の規

定を満足する必要がある。したがって,補修を行

う対象となる既存の部材および補修に用いる材料

については,以下の前提を満足するものとする。

・ 構造上必要な部材断面の寸法,コンクリート強

度および鉄筋量が確保されていること。

・ 鉄筋コンクリート部材中の鉄筋について,鉄筋

腐食による断面欠損等を生じていないこと。あ

るいは適切な補修がなされていること。

・ 梁部材にあっては,主筋に対する補修前のかぶ

り厚さが,日本建築学会:鉄筋コンクリート構

造計算規準・同解説 20101)の 16 条 付着及び継

手の1.の(4)の 3)の大地震動に対する安全

性の確保のための検討(16.5~16.7 式による検

討)を行い,付着割裂破壊が生じないことを確

認すること。なお,付着割裂破壊に対する構造

的な補強が必要と判断される場合にあっては,

ポリマーセメントモルタル等による補修を施

した後に,連続繊維補強材等による巻き立て補

強を行うことなどが考えられる。その詳細につ

いては,「あと施工アンカー・連続繊維補強設

計・施工指針(技術的助言)」(平成 18 年国住

指第 79 号および国住指第 501 号)などが参考

にできる。

・ 補修材料の圧縮強さ,曲げ強さ,接着強さ,接

着耐久性の値が,平成 13 年国土交通省告示第

1372 号の規定を満足することを確かめられた

材料であること。

・ 既設部分のコンクリートと同等以上の耐久性,

および所要の耐爆裂性を有することについて,

本研究において提案する補修材料・工法選定マ

ニュアル案に示される評価方法により確認さ

れた材料であること。

また,当該建物が耐火構造物であることが要求

される場合,その部材については,指定性能評価

機関が実施する耐火性能に関する大臣認定を受け

るか,補修材料および工法が平成 12 年建設省告示

第 1399 号に規定される耐火構造であることを満

足する必要がある。同告示においては,耐火構造

の例示仕様が示されており,ポリマーセメントモ

ルタルを使用する場合には防火上支障のないもの

を用いることが求められている。また,内装制限

が適用される部位に使用する場合には,それらの

規定を満足する,指定性能評価機関が実施する試

験結果に基づき国土交通大臣の認定が得られた材

料である必要がある。

ここで,防火上支障のないことの確認の方法は,

前述の補修材料・工法選定マニュアル案に示した

耐火性に関する試験を実施し,耐火性の確認を行

うことによって確認することが有効であると考え

られる。なお,本研究においては,実験を行った

市販のポリマーセメントモルタルのうちのいくつ

かについて所要の性能を満足することを確認して

いる。また,これらの材料を用い,本研究で提案

した施工要領書案に従った剥落防止措置を施すこ

とにより,防火上支障のない補修を行うことがで

きることを確認している。

以上のような前提条件,材料および工法に対す

る要求事項を満足することにより,ポリマーセメ

ントモルタルを用いて,所要の耐久性,構造安全

性および耐火性を満足する補修が実施できるもの

と考える。

参考文献

1) 日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規

準・同解説 2010,日本建築学会,2010.2