1. 母 子保健統計の動向 · 1.母子保健統計の動向 3 b...

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498-07594 人口動態 A 1.明治以前の日本の人口 歴史人口学によれば,8 世紀の日本の人口は 450~650 万人であり,1,000 万人を超えたのは 15 世紀以降と推測されている.江戸時代前半の 17 世紀に人口は急増し,18 世紀から 19 世紀に は 3,000 万人前後で安定していたと考えられている. 2.明治以降の人口動態 人口動態統計によれば,1899 年 4,340 万 4 千人であった人口は,1912 年に 5,000 万人を超 え,第 2 次大戦後の 1947 年に 7,800 万人まで増加した.戦後の復興に続く高度経済成長のなか で,人口は 1967 年に 1 億人を超え,2009 年には 1 億 2,700 万人に達した.この背景には,医 学の進歩と栄養改善による 65 歳以上の死亡率改善があり,平均寿命は,1947 年の男性 50.0 年, 女性 53.9 年から 2010 年の男性 79.59 年,女性 86.44 年に延び,世界最高水準に達している. 3.世界第 10 位の人口と第 4 位の人口密度 2005 年の国勢調査による人口は 1 億 2776 万人,世界人口に対する割合は 2.0%で,世界第 10 位である.一方,人口密度は 340人 /km 2 で,バングラデシュ,韓国,オランダに次いで第 4 位 となっている. わが国の人口は,2009 年には 1 億 2,700 万人となったが,平均寿命(2010 年)は,男性 79.59 年,女性 86.44 年と世界最高水準に達し,高齢化社会が顕著になっている. 出生数は,2004 年以降 110 万人前後で推移し,2009 年は 107 万人であった.また,合計 特殊出生率は,2005 年には過去最低の 1.26 まで落ち込み,その後若干上昇し,2009 年は 1.37 であったが,依然として人口置換水準(2.24)を大きく下回り,少子化傾向が持続して いる. 妊産婦死亡は,妊産婦の保健管理レベルを表す指標である.2009 年の妊産婦死亡率は 5.0 (出産 10 万対)で世界のトップレベルに達した. 周産期死亡率と新生児死亡率は,周産期医療の管理レベルを表す指標である. 乳児死亡率は,乳児の健康指標であると同時に地域社会の健康水準を示す重要な指標である. 2009 年の周産期死亡率は 4.2(出産 1,000 対),新生児死亡率は 1.2(出生 1,000 対),乳 児死亡率は 2.4(出生 1,000 対)であり,諸外国と比較しても低率で世界のトップレベルで ある. 1.母子保健統計の動向

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Page 1: 1. 母 子保健統計の動向 · 1.母子保健統計の動向 3 b 第2次大戦後の出生数・出生率の推移 1.出生数の推移 終戦直後の第1次ベビーブーム期(1947~1949年)の出生数は約270万人,第2次ベビー

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§1.総 論2

人口動態A1.明治以前の日本の人口

歴史人口学によれば,8 世紀の日本の人口は 450~650 万人であり,1,000 万人を超えたのは15 世紀以降と推測されている.江戸時代前半の 17 世紀に人口は急増し,18 世紀から 19 世紀には 3,000 万人前後で安定していたと考えられている.

2.明治以降の人口動態人口動態統計によれば,1899 年 4,340 万 4 千人であった人口は,1912 年に 5,000 万人を超

え,第 2 次大戦後の 1947 年に 7,800 万人まで増加した.戦後の復興に続く高度経済成長のなかで,人口は 1967 年に 1 億人を超え,2009 年には 1 億 2,700 万人に達した.この背景には,医学の進歩と栄養改善による 65 歳以上の死亡率改善があり,平均寿命は,1947 年の男性 50.0 年,女性 53.9 年から 2010 年の男性 79.59 年,女性 86.44 年に延び,世界最高水準に達している.

3.世界第 10位の人口と第 4位の人口密度2005 年の国勢調査による人口は 1 億 2776 万人,世界人口に対する割合は 2.0%で,世界第 10

位である.一方,人口密度は 340人/km2で,バングラデシュ,韓国,オランダに次いで第 4 位となっている.

■わが国の人口は,2009 年には 1億 2,700 万人となったが,平均寿命(2010 年)は,男性79.59 年,女性 86.44 年と世界最高水準に達し,高齢化社会が顕著になっている.

■出生数は,2004 年以降 110 万人前後で推移し,2009 年は 107 万人であった.また,合計特殊出生率は,2005 年には過去最低の 1.26 まで落ち込み,その後若干上昇し,2009 年は1.37 であったが,依然として人口置換水準(2.24)を大きく下回り,少子化傾向が持続している.

■妊産婦死亡は,妊産婦の保健管理レベルを表す指標である.2009 年の妊産婦死亡率は 5.0(出産 10万対)で世界のトップレベルに達した.

■周産期死亡率と新生児死亡率は,周産期医療の管理レベルを表す指標である.■乳児死亡率は,乳児の健康指標であると同時に地域社会の健康水準を示す重要な指標である.■2009 年の周産期死亡率は 4.2(出産 1,000 対),新生児死亡率は 1.2(出生 1,000 対),乳児死亡率は 2.4(出生 1,000 対)であり,諸外国と比較しても低率で世界のトップレベルである.

1. 母子保健統計の動向

Page 2: 1. 母 子保健統計の動向 · 1.母子保健統計の動向 3 b 第2次大戦後の出生数・出生率の推移 1.出生数の推移 終戦直後の第1次ベビーブーム期(1947~1949年)の出生数は約270万人,第2次ベビー

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1.母子保健統計の動向 3

第 2次大戦後の出生数・出生率の推移B1.出生数の推移

終戦直後の第 1 次ベビーブーム期(1947~1949 年)の出生数は約 270 万人,第 2 次ベビーブーム期(1971~1974 年)は約 210 万人であったが,1975 年に 200 万人を割り,それ以降,毎年減少し続け,1984 年に 150 万人を割った.1991~2003 年は 120 万人前後で増加と減少を繰り返しながら,緩やかな減少傾向をたどった.2004 年以降も減少傾向は続き,110 万人前後で推移し,2009 年は 107 万人であった(図 1).

2.出生率の推移出生率は,1950 年 28.1(人口 1,000 対)であったが,1990 年 10.0,2009 年 8.5 となり,一

貫して低下傾向を示している.また,1 人の女性が一生の間に産む平均子ども数を表す合計特殊出生率も,1950 年の 3.65 から急激に低下し,1956 年には 2.22 となり,人口置換水準(2.24)を下回った.その後,第 2 次ベビーブーム期(1971~1974 年)を含め,ほぼ 2.1 台で推移していたが,1975 年に 2.0 を下回ってから再び低下傾向となった.1989 年には戦後最低の 1.57 を記録し,2003 年には「超少子化国」とよばれる水準である 1.3 を下回り,2005 年には過去最低である 1.26 まで落ち込んだ.しかし,2006 年から 4 年連続して若干上昇し,2008 年と 2009 年は1.37 を記録したが,依然として人口置換水準(2.24)を大きく下回る状況が続いている.

3.人口減少と高齢化合計特殊出生率が人口置換水準(2.24)を大きく下回る状況が続いていることに加えて,高齢

者が増加したことで,2005 年には死亡数が出生数を上回り,人口は減少の局面に入った.2007年 10 月 1 日現在推計人口は,1 億 2608 万 5 千人で,年齢構成をみると,年少人口(0~14 歳)は 13.6%と減少し,老年人口(65 歳以上)は 21.7%と増加し,人口構成の少子高齢化傾向が顕著になっている.

図 1 出生数と合計特殊出生率の推移(1947~2009)

1947 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980

2.14

1.581.37

1985 1990 1995 2000 20050

50

100

150

200

第 1次ベビーブーム1947~1949 年 第 2次ベビーブーム

1971~1974 年1973 年209 万人

2009 年(平成 21年)107万人

1949 年270 万人

4.32

ひのえうま1966 年136 万人

250

300(万人)

0

1

2

3

4

5

出生数

合計特殊出生率

出生数

合計特殊出生率

Page 3: 1. 母 子保健統計の動向 · 1.母子保健統計の動向 3 b 第2次大戦後の出生数・出生率の推移 1.出生数の推移 終戦直後の第1次ベビーブーム期(1947~1949年)の出生数は約270万人,第2次ベビー

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§1.総 論4

妊産婦死亡C1.妊産婦死亡の動向

妊産婦死亡とは,妊娠中または妊娠終了後満 42 日未満の女性の死亡で,妊娠の期間および部位には関係しないが,妊娠もしくはその管理に関連した,あるいはそれらによって悪化したすべての原因によるものをいう.ただし,不慮または偶発の原因による死亡は含まれない.

妊娠・出産に伴う妊産婦の死亡は,妊産婦の保健管理レベルを表す指標である.妊産婦死亡率(出産 10 万対)の推移をみると,1955 年以降に大きく低下し,1988 年に 1 桁台になった.その後も緩やかに低下傾向にある(図 2).

2.妊産婦死亡率の国際比較妊産婦死亡率の国際比較は,出産(出生+死産)10 万対ではなく出生 10 万対で比較する.最

近まで欧米諸国と比較すると高率であったが,2009 年の妊産婦死亡率は 5.0(出生 10 万対)で世界のトップレベルに達した.しかし,国際疾病分類第 10 版では,妊娠終了後満 42 日以降 1年未満の直接および間接産科的原因による死亡を後期妊産婦死亡として妊産婦死亡に含んでいるため,国際疾病分類第 10 版による妊産婦死亡の定義を採用している国と比較する場合は,注意が必要である.

図 2 妊産婦死亡率の推移(全国人口動態統計 1910~2009)

1910

1915

1920

1925

1930

1935

1940

1945

1950

1955

1960

1965

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

2005

2009

0

50

100

150

200妊産婦死亡率

250

300

191019151920192519301935194019451950195519601965197019751980198519901995200020052009

年次

333.0332.5329.9285.4257.9247.1228.6160.1161.2161.7117.580.448.727.319.515.18.26.96.35.74.8

妊産婦死亡率 350

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1.母子保健統計の動向 5

周産期死亡D1.周産期死亡数・死亡率

妊娠 22 週以降の死産数と生後 1 週未満の早期新生児死亡数を合わせたものを周産期死亡数という.周産期死亡率は出生数に妊娠 22 週以降の死産数を加えたものの 1,000 対の率で表わされ,2009 年は 4.2 である.わが国の周産期死亡は,1950 年以降一貫して改善され,諸外国と比較しても低率でトップクラスである(図 3).

2.周産期死亡の国際比較周産期死亡の国際比較は,国際疾病分類第 10 版適用前の定義である「妊娠 28 週以降の死産

数に生後 1 週未満の早期新生児死亡数を加えたものを,出生 1,000 対の率で表わす」周産期死亡比が用いられている.

新生児死亡E新生児死亡は生後 4 週(28 日)未満の死亡をいい,1 年間の出生 1,000 に対する割合を新生

児死亡率という.特に,生後 1 週未満の死亡の割合を早期新生児死亡率という.新生児死亡率は,1958 年に 20 を割り,1967 年には 10 を割って 1 桁になり,NICU の整備により着実に改善した.1997 年には 2 を割り,2009 年は 1.2 と世界のトップレベルにある.

乳児死亡F乳児死亡は生後 1 年未満の死亡をいい,1 年間の出生 1,000 に対する割合を乳児死亡率とい

う.乳児死亡率は,乳児の健康指標であると同時に地域社会の健康水準を示す重要な指標であ

図 3 周産期死亡率・乳児死亡率と妊産婦死亡率の推移(全国人口動態統計 1980~2009)

1980120.27.519.5

周産期死亡率乳児死亡率妊産婦死亡率

周産期死亡率乳児死亡率妊産婦死亡率

1985215.45.515.1

1990311.14.68.2

199547.04.36.9

200055.83.26.3

200564.82.85.7

200974.22.44.8

0

5

10

15

20

25

Page 5: 1. 母 子保健統計の動向 · 1.母子保健統計の動向 3 b 第2次大戦後の出生数・出生率の推移 1.出生数の推移 終戦直後の第1次ベビーブーム期(1947~1949年)の出生数は約270万人,第2次ベビー

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§1.総 論6

る.年次推移をみると,1952 年に 50 を割り,1965 年には 20 を割った.1975 年に 10 を割って1 桁となり,2009 年 2.4 と減少傾向を続けている.日本の乳児死亡率と新生児死亡率は,スウェーデン,シンガポール,イタリア,フランス,ドイツなどとともに最も低率のグループに入っている(図 4).

◆文献1)�厚生統計協会(編集/発行).国民衛生の動向・厚生の指標.2010;�57(9):�43-65.

2)�母子衛生研究会,編.母子保健の主なる統計.東京: 母子保健事業団; 2011.

3)�母子衛生研究会,編.わが国の母子保健.東京: 母子保健事業団; 2011.

4)�高野 陽,他編.母子保健マニュアル.改訂 7 版.東京: 南山堂; 2010.�p.39-81.

<杉本充弘>

図 4 乳児死亡率の国際比較(注)*人口動態統計

sources: Demographic yearbook, 2007, 2008. *Vital Statistics of Japan

2.4

1.2

0.80.4

0

5

10

2009

日本

2.6

1.10.60.9

2008

シンガポール

6.9

2.2

0.9

3.7

2003

アメリカ

3.6

1.2

0.8

1.6

2007

フランス

3.9

1.20.6

2.1

2007

ドイツ

3.51.00.7

1.7

2007

イタリア

4.10.90.8

2.4

2007

オランダ

2.50.8

1.3

0.4

2008

スウェーデン

4.8

1.5

0.8

2.5

2007

イギリス

乳児死亡率(出生千対) (

1週未満)

早期新生児死亡

新生児死亡

 4週未満

乳児死亡

 1年未満