1.リスクアセスメントとは ·...
TRANSCRIPT
1
1.リスクアセスメントとは
工事現場の全ての作業には、労働災害を引き起こすと思われる危険要因や有害要因が潜んで
います。 これを潜在する危険有害要因と言います。
各作業に潜在するこのような危険有害要因を工事に取りかかる前にあらかじめ探し出します。
(この作業を「危険有害要因の特定」または「洗い出し」と言います)
その特定した危険有害要因が原因で起こるであろう労働災害が労働者にどの程度のケガを負わ
せるのか、またその災害がどの程度の割合で発生するのかをあらかじめ予想します。
その予想にしたがい事前にその危険有害要因を取除いたり、立ち入り禁止措置などのリスク低
減措置をして安全に作業に取りかかれる様、安全対策を講じるシステムです。
すなわち「リスクアセスメント」とは
① 潜在する危険有害要因を特定して(潜在する危険)
② 労働者にどのようなケガを負わせるのか(予想される災害)
③ そのケガの程度と発生の割合を予測する(リスクの見積り)
④ リスクの除去又は低減措置等安全対策を講じ(リスク低減措置)
⑤ 大きな危険状態を軽微な状態に下げる
そののち工事に取りかかり労働者を労働災害から守る手法です。
(リスクとは:危険有害要因によって生ずるおそれのある疾病の重篤度及び発生する
可能性の度合いのことー厚労省指針の定義。リスク=重篤度×発生の可能性)
2.リスクアセスメントの進め方
(1)店社(本社、支店等)の実施
1-1)社長の導入表明
1-2)社長の表明をうけてリスクアセスメントを統括管理する専任者を決める
1-3)リスクアセスメントを実施する体制を整備する。
これは、各社の能力の範囲内で整備することが望ましい。
1-4)会社の規模(人員的能力)に応じたリスクアセスメントを実施する具体的手順を決める
1-5)過去の情報のデータベース化を図る
① 過去の労働災害の事例、ヒヤリハット事例、安全パトロールの実施結果を活用する
各種情報のデータベース化の必要性
・危険有害要因の特定に用いる
・重篤度の判断材料にする
・災害の発生の可能性の判断材料にする
しかし、多くの災害事例を整備している大手企業はともかく、数年間自社の事例が少ない
中小企業にあっては、サンプル数が少なくデータとして活用することは不適当である。
リスクアセスメントは、予想される危険有害要因を出来るだけ見落とし無く特定すること
が重要であり、自社のみのデータに頼ると見落としが多くなり、これは後追い型の従来
の労災防止に近くなる可能性があります。
2
「リスクアセスメント」はあくまで先取り型対策である。
また、データ数が少ないと、重篤度や発生の可能性の見積もりの精度が落ちます。
さらに、人員が限られている企業にあっては、これらの情報の収集と分析に費やす時間と
労力がない等々。
以上の理由により、本書ではサンプル数の多い過去5年間の全国や北海道の土木工事におけ
る労働災害の死傷災害データや同表に占める死亡災害データを使用し重篤度と発生の可能性
の判断材料にしています。
しかしながら、自社のデータを使用したい場合は、作業標準書の数字を変更できるようエ
クセルで作成していますので変更して使用できるよう工夫しています。
(2)作業所での実施
2-1)所長(統括安全衛生責任者)が実施を統括し、工事主任、職長、作業者等で構成する。
2-2)下請けは元請の指揮監督するものの指導を受け、職長、安全衛生責任者が主体となっ
て実施する
2-3)店社の作業標準書から当該工事に必要なものを抽出して、不要な項目を削除したり
又は追加、付記して下請けに渡す。
下請けは元請の作業標準書をもとにして、リスクアセスメントをした作業手順書を作
成し元請の責任者と職長に渡す。
(下請け自身にリスクアセスメント作業手順書がある場合はそれを使用する)
元請のやり方を押しつけてはならない。(下請けは数社の仕事を受注している)
目的はリスクアセスメントを機能させることであって数字合わせではない。
職長はそれを基にして、安全工程打合せやKY活動表にリスクアセスメントを加えて
元請に提出し指導、承認を得る。
元請が仕事の1部を自ら行う場合は、元請の職長に同様の職務を与える
2-4)職長は作業員にリスクアセスメントの趣旨等を周知させ、作業員の意見をKY活動に
反映させる。 (この部分が全員参加の最も重要な部分である)
2-5)以上の作業所でのリスクアセスメントの内容、RKYの実施結果を店社に実施結果報
告書等で報告する。
(3)店社での利用
店社の総括安全衛生管理者等は、各作業所から報告された内容を安全衛生委員会等に上程し
て議論し、既存の作業標準書の改訂や安全衛生目標及び店社安全衛生管理計画に反映させる。
3
3.リスクアセスメントの実施時期
(1) 店 社
1)年度の安全衛生目標の設定、安全衛生計画の作成時 (作業標準書で)
2)新工法等の採用時
3)工事計画の作成時
4)自然災害、労働災害が発生したとき
(2)作業所
1)施工計画の作成時、または変更時
2)作業方法や作業手順の策定時またはそれらの変更時
3)施工計画にない作業が発生したとき
4)労働災害が発生し、過去のリスクアセスメントに問題があるとき
5)突発的な非定常作業が発生したとき
6)作業者の危険に対する感受性が、当初の想定と異なっていた場合(重要)
4.危険有害要因の特定方法
1)過去に労働災害が発生した作業の発生原因
2)ヒヤリハットの危険要因
3)作業者が日常の作業で不安に感じている危険要因
4)安全パトロール、安全工程打合せ、KY活動、点検などの安全衛生活動から得た情報
5.災害の型
厚生労働省では事故の型としているが、事故とは、人がケガをしないものを言うので、本書では
災害の型と表現するが分類方法は、厚労省の分類による。
本書では、最初の発生の可能性の見積もりに災害の型で判断しているので、この項を設けた。
6.起因物
起因物とは災害をもたらすもととなった機械、装置もしくはその他のもの又は環境等をいう。
本書では、重篤度の見積もりの判断材料としている。
4
7.リスクの見積もり
① 重篤度
重篤度とは、特定した危険有害要因によって起こる災害が、労働者にどの程度の負傷を
負わせるのか。不休災害とか休業災害とか1ヶ月以上とか死亡とかに分類します。
一般的に3段階、4段階、5段階に分類しますが本書では4段階に分類しています。
見積もりにあたっては、予想される最大の重篤度で見積もります。
② 発生の可能性
発生の可能性とは、特定した危険有害要因によって起こる災害が、どの程度の頻度で
発生するのかを過去のいろいろな労働災害やヒヤリハットその他のデータを収集し分析
して、一定の尺度で判定します。しかし、本書では、そのような労力と時間を取れない
中小建設会社が利用しやすいように、過去5年間の北海道の土木工事の死傷災害データ
を分析し、4段階に分類しています。(本書の判断材料です。その他の要素も加えて判断し
ています。)
※可能性の見積もりに関しては、建設業にあっては、編者はそれほど重要視していません。
その理由は、最初の見積もりは、低減措置をしていないという前提で見積もるという
ことと、危険有害要因を除去または低減したあとの再見積もりでは、殆どが許容可能な
リスクレベルまで低減するからです。(可能性を限りなく小さくするのがRAでもあり
ます。)
具体的に言うと最初の見積もりが4であろうが3であろうが低減措置をとった後の再見
積もりでは1、悪くても2まで低減するからです。
③ 評価度
重篤度、発生の可能性を数値化しそれぞれの数字を掛けたり足したりした結果の数値です。
本書では掛ける方法を採用しています。
この数値の大きさが対策をする上での優先度を決定する目安になります。
④ 優先度
評価度の大きいものから優先的に危険有害要因を除去又は低減するための目安です。
しかし、本書では、これを「危険度」と読み替えています。
その理由は、厚労省の指針は全産業向けであり、例えば化学工場では、大爆発して多数の
負傷者を伴う災害が発生するような危険有害要因がある場合は、十分な経営資源を投じ
直ちに抜本的な対策を講じる必要があるが、建設業の場合、優先度が高くても通常の低減
対策で十分危険有害要因を低減できる場合が多いからです。
例えば、移動式クレーンの転倒、重機に激突されなどは優先度が高くても、アウトリガー
の十分な張り出し、敷き鉄板を敷く、誘導員の配置、合図の徹底などで対応可能であるか
らです。
又、建設業の場合、優先度が低くても、予め十分な低減措置をとる必要があります。
従って、本書では、「優先度」を「危険度」に読み替えています。
5
⑤ 重篤度の表現方法
これには、いろいろな分類の表現がありますが、基本的に指針に沿った表現と分類が妥当
なのかな、とも思いますが、本書ではそれをもとに、少しアレンジしています。これは各
社の考え方で決めてもよいと思います。
(RAの手法は100社あれば100社違うと言われています。RAは手法が重要では
なく全員参加のもとで如何に危険有害要因を探し出し、PDCAサイクルを機能させ、
それを各現場に水平展開していくということです。)
※ 休業日数の4日を境にして分類している例もありますが、負傷の程度は予想ですので、
全く意味がありません。労災保険の適用基準であって、4日は結果です。
⑥ 可能性の表現方法
これについては、可能性が極めて高いとか可能性が低いとか、抽象的表現になりますが、
表現方法や判断基準は各社の考え方で行ってください。
※可能性の表現方法として、1ヶ月に1回とか半年に1回、1年に1回とかという表現
している例があるが、この表現方法は一見数字を記載しているので客観的のようである
が当センターの考えとしては不適当と考えています。
理由として、そのために用いたデータが自社のみのデータか数社のデータか、全県のデ
ータか、あるいは全国のデータなのかによって、サンプル数が大きく増加し、どれを用
いるかによって、その間隔が変化するからです。(但し、参考にはなります)
⑦ リスクの見積もり方法
これには、大きく分けて、3つの方法があります。
【その1:数値化法】
重篤度、発生の可能性を段階別に数値を与え、それぞれの数字を掛けたり足したりして、
優先度(本書では危険度)を表す方法で各段階に与える数字は自由です。
当センターの考えとしてはあまり大きな数字にする必要はないと思います。
また、掛け算か足し算かどちらがよいのかは各社の考え方ですが、編者は掛け算がよい
と考えます。
その理由は、たとえば、最初の見積もりで重篤度、発生の可能性を最大10点とします。
低減措置をとった後の再見積もりで重篤度は変わらず10、可能性が1まで低減し
たとします。
この場合足し算だと10+10=20が10+1=11になります。
これを、掛け算にすると10×10=100 が10×1=10となり見かけ上リスクが大
きく低減したことになります。
残留リスクをどのラインにするかを決めるのには掛け算のほうがよいでしょう。
しかし、これはあくまで数字のマジックです。
6
【その2:マトリクス法】
これは、数値化法と混同している例が見られますが違います。
重篤度と可能性を縦列と横列にそれぞれ数字を与えないで分類し、それぞれが交差する
欄に数字(優先度)を割り付けておき優先度を決める方法です。
【その3:枝分かれず法】
重篤度と可能性をそれぞれ日常的か、まれか、回避が困難か、可能かなど枝のように
分類し、優先度を決定する方法です。
当センターは数値化法の掛け算を薦めます。
※ 重篤度の再見積もりについて
リスク低減措置後の見積もりについては、二とおりの考え方があります。
1)発生の可能性が殆どなくなったから、重篤度も落ちるという考え方
2)発生の可能性は殆どなくなったが、ゼロになった訳ではないので、万が一発生
した場合重篤度は落ちないという考え方
当センターは、2)を採用しています。
その理由として、発生の可能性は殆ど無くなったという表現が最小であり、ゼロになる
という表現はありません。
つまり、万が一でもあり得るということであり、重機に激突されなどの場合、重篤度は
落ちない場合が多いからです。しかし、明らかに落ちる場合もあります。
例えば、安全帯を使用して墜落した場合は死亡と予想したものが無キズあるいは軽傷に
なるのでそういうものは低減しています。これも各社の考え方次第です。
7
8.作業標準書と作業手順書の違いについて
作業標準書は「作業条件、作業方法、管理方法、使用材料、使用設備、その他注意事項などに関
する基準」を規定したもの(JIS Z8141)で店社のマニュアル的なもので具体的には、
単位作業とまとまり作業で構成される物としています。
一方、作業手順書は作業標準書を受けて、単位作業、要素作業に分解して手順化したものである。
例 バックホー法掘削作業
作業標準書 作業手順書
8
い つ
誰 が
(最も違う点)
何 を
どのように
その他
違
う
点
あり、RKYのみで済ましているのは、リスクアセスメントを実施して
健康管理の不良など
が一体となって
・リスクの見積もりは
・作業標準書、手順書
教育、訓練の不足
いることにはならない。
(水平展開という)
主観的に判断
本社に情報を提供し(第2ラウンド)
客観的データに
リスクアセスメントは組織的、体系的に行うもので、毎日、職長が行うRKYとは根本的に異なるものであり、RKYはリスクアセスメントの一部分で
似た点
管理組織の欠陥
・見積もりは職長の経験で
・その日行う工事について、職長が作業員の意見を聞いて即断、即決
・Management~管理的
安全管理計画の不良
を作成して行う
・実施状況を検証し
法令事項(安衛法28条の二 努力義務)
自 主 活 動
※ 以上のようにリスクアセスメントとRKYは似た部分もあるが、
基づき評価
翌年の計画等の見直し・各現場に情報を提供する
(第1ラウンド)
9 リスクアセスメントとRKYの違い
リスクアセスメント RKY(評価を加えたKYのこと)
危険有害性の特定 どんな危険が潜んでいるか~するとき~したので~になる作業内容 不安全行動 災害の型
不安全状態
・Machine~物的欠陥
・スタッフ・作業員(経営者が)
・4M 全てに対して・Man~不安全行動など
(作業員のリーダーが)
・主に作業員の不安全行動に対して
・職長などの現場の監督者・作業員
毎日、作業開始前あるいは、作業途中
安全衛生計画を作成するとき・施工計画を作成するとき・作業方法を変更するときなど
・会社全体で・管理者・監督者
の不備
・元請、下請け、作業員
・Media~作業情報作業方法、環境
作業標準書や手順書などの不適切打合せ、連絡、指示
監督・指導の不足不適切な人員配置