(2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題...

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事例 C 理科室で露頭を観察し,大地の成り立ちを考える 第1学年 〔第2分野〕 (2) 大地の成り立ちと変化 【分析結果と課題】 ○ 広域の気象情報と観測者が捉える気象現象とを関連付け,空間と方位,時間の観 点から気象現象を捉えることに課題 台風の進路の予想図における台風の位置と,現在の台風の周りの風向を示した図とを適切に 関連付けて,観測地点における風向を予想することに課題がある。 〔3(1)正答率 37.8%〕〔報告書 P38P39【学習指導に当たって】 ○ 単元のはじめに時間的・空間的な視点から観察を行い,問題を見いだして学習に見通 しをもつ 「地球」を柱とする領域の見方の特徴である時間的・空間的な視点から,単元のはじめに事 物・現象の観察を行い,その仕組みや原因を考え,問題を見いだして課題を設定し,単元の学 習に目的意識や見通しをもつようにすることが大切である。 ○ 理科室で行う露頭の観察から問題を見いだし,露頭に関する複数の情報を関連付け て,時間的・空間的な視点から大地の成り立ちを考察する 露頭の観察は,地域によっては適当なものがなかったり,時間的な制約があったりするなど, 実施が困難である場合が多い。そこで,理科室にいながら野外観察に近付くことができるよう, できるだけ大きな露頭の写真,標本及び 360 度パノラマ画像を用意し,それらから得られる情 報を関連付けながら,大地の成り立ちを考察できるようにしている。 ○ 身に付けた知識及び技能を活用して自然の事物・現象を考察する中で,妥当性が低 い説明しかできない部分があることに気付き,単元の学習に目的意識や見通しをもつ 生徒一人一人が,小学校6年「土地のつくりと変化」で身に付けた知識及び技能を活用して 露頭を観察し,その結果を基に大地の成り立ちを考察できるようにしている。 さらに,考察を学級全体で共有する際,考察が一致せず,妥当性が低い説明しかできない部 分があることに気付き,単元の学習に目的意識や見通しをもてるようにしている。 構想 1.関連する学習指導要領の内容 2.平成 30 年度全国学力・学習状況調査の結果から 3.本指導事例では 適用 ― 中理-14 ―

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Page 1: (2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題 の 探 究 ( 追 究 ) 2 露頭の写真,標本及び360 度パノラマ画像を観察する

事例 C 理科室で露頭を観察し,大地の成り立ちを考える

第1学年 〔第2分野〕 (2) 大地の成り立ちと変化

【分析結果と課題】

○ 広域の気象情報と観測者が捉える気象現象とを関連付け,空間と方位,時間の観

点から気象現象を捉えることに課題

台風の進路の予想図における台風の位置と,現在の台風の周りの風向を示した図とを適切に

関連付けて,観測地点における風向を予想することに課題がある。

〔3(1)正答率 37.8%〕〔報告書 P38~P39〕

【学習指導に当たって】

○ 単元のはじめに時間的・空間的な視点から観察を行い,問題を見いだして学習に見通

しをもつ

「地球」を柱とする領域の見方の特徴である時間的・空間的な視点から,単元のはじめに事

物・現象の観察を行い,その仕組みや原因を考え,問題を見いだして課題を設定し,単元の学

習に目的意識や見通しをもつようにすることが大切である。

○ 理科室で行う露頭の観察から問題を見いだし,露頭に関する複数の情報を関連付け

て,時間的・空間的な視点から大地の成り立ちを考察する

露頭の観察は,地域によっては適当なものがなかったり,時間的な制約があったりするなど,

実施が困難である場合が多い。そこで,理科室にいながら野外観察に近付くことができるよう,

できるだけ大きな露頭の写真,標本及び 360 度パノラマ画像を用意し,それらから得られる情

報を関連付けながら,大地の成り立ちを考察できるようにしている。

○ 身に付けた知識及び技能を活用して自然の事物・現象を考察する中で,妥当性が低

い説明しかできない部分があることに気付き,単元の学習に目的意識や見通しをもつ

生徒一人一人が,小学校6年「土地のつくりと変化」で身に付けた知識及び技能を活用して

露頭を観察し,その結果を基に大地の成り立ちを考察できるようにしている。

さらに,考察を学級全体で共有する際,考察が一致せず,妥当性が低い説明しかできない部

分があることに気付き,単元の学習に目的意識や見通しをもてるようにしている。

構想

1.関連する学習指導要領の内容

2.平成 30年度全国学力・学習状況調査の結果から

3.本指導事例では

適用

― 中理-14 ―

Page 2: (2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題 の 探 究 ( 追 究 ) 2 露頭の写真,標本及び360 度パノラマ画像を観察する

(1)内容のまとまりの目標

大地の成り立ちと変化を地表に見られる様々な事物・現象と関連付けながら,身近な地形や

地層,岩石の観察,地層の重なりと過去の様子,火山と地震,自然の恵みと火山災害・地震災

害を理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。

大地の成り立ちと変化について,問題を見いだし見通しをもって観察,実験などを行い,地

層の重なり方や広がり方の規則性,地下のマグマの性質と火山の形との関係性などを見いだし

て表現すること。

大地の成り立ちと変化に関する事物・現象に進んで関わり,見通しをもったり振り返ったり

するなど,科学的に探究しようとする態度を養うこと。

(2)内容のまとまりの評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度

大地の成り立ちと変化を地表

に見られる様々な事物・現象

と関連付けながら,身近な地

形や地層,岩石の観察,地層の

重なりと過去の様子,火山と

地震,自然の恵みと火山災害・

地震災害を理解しているとと

もに,それらの観察,実験など

に関する技能を身に付けてい

る。

大地の成り立ちと変化につい

て,問題を見いだし見通しを

もって観察,実験などを行い,

地層の重なり方や広がり方の

規則性,地下のマグマの性質

と火山の形との関係性などを

見いだして表現している。

大地の成り立ちと変化に関す

る事物・現象に進んで関わり,

見通しをもったり振り返った

りするなど,科学的に探究し

ようとしている。

(3)内容のまとまりの指導計画(21時間)

次 学習の内容 主な学習活動

第一次

(2時間)

本時1/2

身近な地形や地層,岩石の観察

○ 理科室で露頭の写真,標本及び 360 度パノ

ラマ画像を観察して,単元の学習の見通しを

もつ。

○ 堆積岩の特徴を比較しながら観察し,結果

を整理して記録する。

○ 希塩酸をかけたときの石灰岩とチャートの

様子の違いを観察する。

第二次

(5時間) 地層の重なりと過去の様子

○ 地層の重なり方や構成物の特徴を記録す

る。

第三次

(12 時間) 火山と地震

○ ルーペや双眼実体顕微鏡を用いて火成岩の

表面を観察し,結晶構造の違いを記録する。

○ 地震の波が2種類あることを調べるため,

モデルを使った実験を行う。

第四次

(2時間) 自然の恵みと火山災害・地震災害

○ 液状化現象を調べるために,砂の層と地下

水のモデルを使った実験を行う。

4.内容のまとまり(大項目):大地の成り立ちと変化

― 中理-15 ―

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(1)本時の目標

小学校で身に付けた知識及び技能を活用して露頭を観察し,その成り立ちについて妥当性が

低い説明しかできない部分があることに気付き,単元の学習に見通しをもつことができる。

(2)展開例

探究の過程

学習活動

◆ 指導・支援,留意点

○ 主に指導に生かす評価

◎ 指導に生かすとともに記録し総括に用いる評価

課題の把握(発見)

1 小学校で身に付けた知識及び

技能を基に,課題を設定する

・ 小学校6年「土地のつくり

と変化」の学習内容を想起

し,露頭の定義を知る。

・ 露頭の写真からその成り立ち

に関心をもち,課題を設定する。

◆ 小学校6年の学習内容を想起して,本時の学習内容

と関連付けて考えるようにする。

◆ 観察する露頭は,人類が現れるよりも前にできたこ

とを知り,これから学習する大地の変化の時間の長大

さを実感できるようにする。

◆ 野外観察に近付けるために,できるだけ大きな露頭

の写真,標本及び 360 度パノラマ画像の三つの資料を

用意する。

課題の探究(追究)

2 露頭の写真,標本及び 360

度パノラマ画像を観察する

・ 大まかに露頭の全体をスケ

ッチして,概要を捉える。

・ スケッチで気付いたことや

疑問を視点として観察を行う。

◆ 露頭をスケッチして,層の色や重なり方など,気付

いたことや疑問を記録するよう助言し,概要を捉え

るとともに観察の視点をもつようにする。

◆ スケッチで気付いたことや疑問を視点として詳細

な観察を行い,スケッチに観察結果を記録する。

○ 露頭を観察し,観察結果を記録する基本的な技能を

身に付けている。

【知識・技能】(スケッチと観察結果の記述,行動観察)

3 複数の資料から得られる観察

結果を関連付けて考察し,新

たな疑問をもつ

◆ 複数の資料から得た情報を関連付けて考えるよう

助言することで,地層を構成しているものや堆積環

境を推論し,考察できるようにする。

◆ 考察から得られた新たな疑問を解決するためには,

再観察が必要であることに気付き,再観察を行って考

察を深めるようにする。

5.本時:理科室で露頭を観察し,大地の成り立ちを考える

1’49”

指導のポイント①「学習活動の見通しをもつ」 学習活動の見通しをもち,観察から結論の導出まで区

切らず,生徒が主体的に探究できるようにする。

5’06”

5’44”

6’56”

指導のポイント②「視点を明示して再観察」 観察結果や疑問を整理して視点を明確にし,再観察

の必要性に気付くようにする。

7’15”

― 中理-16 ―

Page 4: (2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題 の 探 究 ( 追 究 ) 2 露頭の写真,標本及び360 度パノラマ画像を観察する

課題の探究(追究)

4 考察の妥当性を検討し,残っ

た疑問について考える

・ 観察結果や考察を一覧表に

表して学級全体で共有し,それ

ぞれの推論の妥当性について

話し合う。

・ 解決できなかった疑問をワ

ークシートに記録する。

◆ 各班の考察が一致せず,それぞれの推論の妥当性も

低いことから,本時だけでは解決できないことに気

付くようにする。

◆ 観察結果や考察が一致しない原因を考え,その解決

のためには,新たな知識及び技能の習得が必要である

ことを実感できるようにする。

課題の解決

5 新たな(解決できなかった)疑

問から,単元の学習を見通す

◆ 単元の学習内容を知ることで,継続的に考察すれば

新たな疑問が解決できそうだという見通しをもつと

ともに,目的意識をもって単元の学習に取り組むよう

にする。

○ 新たな(解決できなかった)疑問を解決する目的意

識や見通しをもち,単元の学習に取り組もうとしてい

る。

【主体的に学習に取り組む態度】

(行動観察,振り返りの記述)

課題の解決

<地震の学習後に露頭を再観察

して考察を検討・改善した例>

■身に付けた知識を基に,考察

の妥当性を高める

・ 液状化現象で起こる噴砂の

モデル実験と,露頭に見られる

水平な地層を縦方向に横切る

地層とを関連付け,考察の妥当

性を高める。

◆ 液状化現象のモデル実験を行い,地上で見られる噴

砂は,地下の未固結の砂が地層を横切って上昇して

きたことを見いだすようにする。

◆ 噴砂のモデル実験を基に露頭を再観察し,単元のは

じめに説明できなかった水平な地層を縦方向に横切

る地層は,過去に起きた地震によるものではないかと

推論できるようにする。

○ モデル実験の結果と,露頭の地層とを関連付けて分

析・解釈し,考察の妥当性を高めている。

【思考・判断・表現】(ワークシートの記述,行動観察) 14’57”

8’52”

指導のポイント③「考察の妥当性を検討」 観察結果や考察が一致しないことに気付き,その原因

を考えるようにする。 。

11’12”

11’00”

13’11”

指導のポイント④「単元を通して考察を検討・改善」 単元の学習で身に付けた知識を活用して,露頭を再

観察し,継続的に考察を検討・改善する。

14’09”

― 中理-17 ―

Page 5: (2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題 の 探 究 ( 追 究 ) 2 露頭の写真,標本及び360 度パノラマ画像を観察する

(1)内容のまとまり(大項目)を通して課題解決を行う単元の構成

「大地の成り立ちと変化」(大項目)の学習のはじめに露頭の観察を行い,小学校で学習した

地層に関する知識及び技能を活用して,時間的・空間的な視点から大地の成り立ちについて考

察する授業を構成した。この構成によって,小学校で身に付けた知識及び技能だけでは妥当性

の高い説明ができないことに気付き,これからの学習について目的意識や見通しをもつことが

できるようにした。

(2)理科室で行う露頭の観察

身近な地形や地層,岩石などの観察は各

学校の実態に合わせる必要があり,野外で

露頭を観察する授業の実施が困難である場

合も多い。

そこで,本指導事例では,できるだけ大

きな露頭の写真,標本及び 360 度パノラマ

画像の三つの資料を用意し,野外観察の手

順に沿って理科室で学習活動ができるよう

にした(図1)。さらに,360 度パノラマ画像から露頭の周辺の情報を得ることで,地層の広が

りや露頭の大きさを捉えやすくした。

(3)観察において視点をもつことと,考察の妥当性を高めるための再観察

観察を行う際には,視点をもつことが大切であり,視点の有無によって観察結果は大きく異な

る。生徒が観察の視点をもつことができるようにするためには,事象の概要を把握し,身に付け

た知識や経験と比較したり関係付けたりして,分析・解釈する学習過程が大切である。そこで,

本指導事例では,はじめに,露頭をスケッチすることで概要を把握し,層の色や厚さ,層と層の

重なり方や広がりなどの特徴を生徒が気付くようにした。次に,スケッチを通して得た気付きや

疑問を観察の視点として,詳細な観察を行い,課題の解決に必要な情報(観察結果)を得るよう

にした。

また,視点をもって観察を行うと,推論する考察が深まって,自分の考えをもつようになり,

必然的に他者との対話も起こる。対話の中で,互いの分析・解釈が異なると,生徒はその差異

を視点として再観察に取り組み,分析・解釈を繰り返す。この学習活動を継続的に行うことが

考察の妥当性を高めるとともに,科学的に探究する力を育成する上で大切である。

(4)単元を振り返って自分の成長を実感し,次の探究へと方向付けるワークシートの工夫

単元のまとめとして,身に付けた知識及び技能を活用して同じ露頭を再観察し,大地の成り

立ちについての考察の妥当性を高めた。この考察と単元のはじめの考察とを比較して,より妥

当性が高い説明ができるようになった自分に気付き,新たな探究へと方向付けができるよう,

ワークシートを工夫した(図2)。

6.本指導事例における指導の工夫等

図1 露頭の写真と 360 度パノラマ画像を使った観察

― 中理-18 ―

Page 6: (2)...の写真,標本及び360度パノラマ画像の三つの資料を 用意する。 課 題 の 探 究 ( 追 究 ) 2 露頭の写真,標本及び360 度パノラマ画像を観察する

(5)観察の技能の習得

露頭を観察したり正確に記録したりする技能は,

観察することによってのみ身に付く。野外観察が困

難で理科室で指導する場合であっても,観察の技能

を身に付けるようにすることが大切である。

本指導事例では,はじめに,露頭の大きな写真を

スケッチして概要を把握した。次に,気付いたこと

や疑問を視点として詳細な観察を行い,スケッチに

観察結果を書き込んで記録した(図3)。さらに,その記録を基に推論し,自分の考えの変容も

記録することで,観察の技能を高めるとともに,メタ認知を促すようにした。

図2 考察を継続的に検討・改善した単元の学習を振り返り,自分の成長を実感できるワークシートの例

図3 露頭を観察し,記録している様子

単元のはじめの考察 単元のまとめの考察

振り返りの三つの視点

● 活用した知識及び技能は何か

● 課題解決を通して身に付けた知識及

び技能,豊かで確かになった見方や

考え方をどのように活用したいか

比較して振り返り

単元を通して繰り返し行った再観察から得られた 新たな気付きを赤で記入し自分の成長を可視化

― 中理-19 ―