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( ) 使使湿Development of High Performance and High Efficiency Heat Pump System 2 Chapter Photo : 赤松 孝

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Page 1: 2 EV走行時、 - JSAE減らしていた航続距離を暖房はEV走行時、 暖房 は 自動車 に 乗 る 人 にとって 大事 な 装備 である 。 しかし EV 、 PHEV

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(

株)

デンソー

EV走行時、

暖房は

航続距離を

減らしていた

暖房は自動車に乗る人にとって大事な装備である。

しかしEV、PHEVのEV走行ではエンジンの熱が使えない。

通常電気ヒータが使われるが、これは電気の消費が多く、

航続距離に多大な影響があった。

そこでデンソーが開発したのはガスインジェクションサイクルと

除湿暖房サイクルで実現したヒートポンプシステムである。

これはEV黎明期からの課題であり、

デンソーでは第5世代に当たる開発であった。

Developm

ent of High Perform

ance and H

igh Efficiency H

eat Pump System

加熱能力を大幅に向上した

高効率ヒートポンプシステムの開発

2Chapter

Photo : 赤松 孝

Page 2: 2 EV走行時、 - JSAE減らしていた航続距離を暖房はEV走行時、 暖房 は 自動車 に 乗 る 人 にとって 大事 な 装備 である 。 しかし EV 、 PHEV

9 AUTO TECHNOLOGY 2019

暖房のため

EVの走行距離は半分に

 

乗用車のみならず、自動車全般の電動化が進み、こと

にモータのみでの走行を前提とした場合、乗員の快適

性を確保する空調に新たな発想が求められる。とくに

暖房において、エンジン冷却水の温水を活用することが

できなくなるため、暖房の熱源をいかに確保するかが

課題として立ちはだかる。空調装置の動力を電気でまか

なうヒートポンプ式はすでに導入されているが、暖房の

ための熱源にはこれまで多くは電気ヒータが使われてき

た。しかしその消費電力は大きく、走行のための電力に

影響を及ぼし、「航続距離が半分ほどになってしまう」と、

この受賞技術で開発のリーダー役を担ったデンソーの

サーマルシステム開発部の伊藤誠司課長は説明する。対

応策として、暖房性能と防曇性をガスインジェクション

サイクルと除湿暖房サイクルで実現したヒートポンプシ

ステムが開発された。これは、冷房時の空調システムが

冷媒を通じて外気へ熱を逃がし、冷たい空気を室内へ導

入するのに対し、暖房時にはその逆の工程により、外気

が持つ温度を冷媒でとらえ、コンプレッサでさらに温度

を上げて室内へ供給するというのがヒートポンプ式空調

による暖房の基本である。さらにその性能を高め十分な

暖房能力を持たせるため、ガスインジェクションという

手法を採り入れ(図1)、なおかつ除湿することによる

室内温度の低下を抑えるため、リヒート技術と呼ばれる

除湿暖房機能が加えられている(図2)。伊藤は、

「ヒートポンプを使った自動車用の空調システムは、

1990年代初頭の電気自動車(EV)黎明期からデン

ソーは開発しています。そこから数えると、今回のシス

テムは5世代目にあたります。この開発では、電気ヒー

タを使わず、空調システムで使われている冷凍サイクル

だけで暖めることができないかと考えたのです。

 

やりたいことはそのように決まっていますが、ではど

のように実現するか。熱を得るためのガスインジェク

ションサイクルにおいて、ガスを発生させる手段は主に、

気液分離装置を使うか、熱交換によるかの二通りありま

す。このうち、車載するにあたり小型化できることを優

先し、気液分離式を選びました。同時に、原価を抑える

視点も重要です。そこで、ガスを発生させるための絞り

機能や、冷媒の流路を切り替える機能を一体化した統合

EV走行時、暖房は航続距離を減らしていた―(株)デンソー―

室外器

比エンタルピー

圧力

室外器

気液分離器

暖房性能向上

比エンタルピー

圧力

エンタルピー差

ガスインジェクション 

コンプレッサ コンプレッサ 

ガスインジェクションヒートポンプサイクル従来のヒートポンプサイクル

室内コンデンサ室内コンデンサ

エバポレータ

外気温度

室内コンデンサ

放熱吸熱

吸熱

電気式膨張弁

直列流れ 並列流れ

小 中 大リヒート量

電気式膨張弁 電気式膨張弁

電気式膨張弁

電気式膨張弁

電気式膨張弁

エバポレータ エバポレータ

室外器

室外器

室外器冷媒圧力(温度)

 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)は、エンジンを使わないモータのみでの走行が行われるため、その際に、暖房を行うにはエンジン冷却水の温水を使うことができず、電動のヒートポンプを使う空調システムであっても、これまでは熱源として電気ヒータに頼ってきた。しかし、電気ヒータは消費電力量が多いため、モータ走行の航続距離に影響を及ぼし、半減させてしまう可能性もある。ことに冬季に暖房性能を満たしながらモータ走行の航続距離を伸ばすことが大きな課題である。それに対し、冷凍サイクルを活用しながら暖房を実現し、なおかつ窓ガラスの曇りを防止する除湿性能も両立させたのがこの開発である。機能の実現にとどまらず、既存車種への搭載を前提とした小型化や、暖房時にもシステムが稼働することによる騒音対策など、機能や性能を達成するのみならず、車載に際しての適合や違和感のない商品性向上も重要な開発要素となった。

電機ヒータに頼らない暖房

図1 ガスインジェクションサイクルのモリエル線図(p-h 線図)

図2 室外器の温度コントロールによるリヒート量の調節法

消費電力(kW) 消費電力(kW)

50

0

100

1 2 3 4 5

Developed H/P: 78%

63%

+37%

暖房(5℃) 除湿暖房(5℃)

PTC: 57%EV航続距離﹇%﹈

EV航続距離﹇%﹈

50

0

100

1 2 3 4 5

Developed H/P: 77%

PTC: 56%+38%

60%

A/C OFF A/C OFF

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システムとすることも、あわせて開発目標としました。

どこまで小型化するかの目標は、缶コーヒーほどの寸法

という目標を立てました(図3、4)。それくらいの寸法

に収まれば、車体メーカーも理解してくださるのではな

いかと思ったからです」

 

ガスインジェクションとは、減圧時に発生するガス冷

媒を空調システムのコンプレッサに注入することを言う。

それにより空気からより多くの熱を吸収し、またコンプ

レッサから吐出される冷媒量を増やすことで暖房に使う

熱を増やすことができる。

「通常は、冷媒の液溜めで重力差によってガスと液が分

かれ、ガスを抜き出しますが、それでは装置が大きくなっ

てしまいます。遠心分離機を使うことで、小型かつ強制

的に冷媒をガスと液に分離します」と、伊藤はシステム

の概要を説明する。

世の中にないシステムの

目標設定

 

では、具体的にはどれくらいの比率で気液分離がなさ

れればよいのか、開発に際して明確な目標数値が必要に

なる。エアコンディショニング技術1部先行開発室の谷

畑拓也担当課長は、

「要求仕様を作るため、シミュレーションと実験を繰り

返しながら気体と液体の割合を見つけていきました」と、

語る。

 

まだ世の中にないシステムの目標設定であり、外気温

がマイナス10℃でも熱を手に入れることを目指した手探

りの作業となった。同時に、気液分離する遠心分離器そ

のものも自動車用の空調で使われた例は過去になく、旋

回半径をどれくらいにするかなど、機械装置としての具

体像も、計算と実験を通じて割り出していった。さらに、

「既存のコンプレッサを使いながら、そこにガス冷媒を

注入するので、コンプレッサの動力にどのような影響が

出るか、コンプレッサ自体に悪影響が及ぶことはないか

など考慮しながら、気液分離の目標割合を決めていくこ

とになります」と谷畑は補足する。

 

次の段階として、気液分離の統合システムからガス冷

媒をコンプレッサへ注入するといっても常に必要なので

はなく、外気の寒い日に、乗員の温度設定などに応じて

より多くの熱が必要なときだけ作動すべきであり、ガス

インジェクション機能が不要な状況もある。その区別が

できなければならない(図5)。そうした可変性能を実

現するうえで、専用のアクチュエータを設けるのではな

く、より簡素なバネ仕掛けの機構で適宜ガスインジェク

ションを行える装置とした。それにより、小型化と原価

の抑制を実現できる。だが、その適合が難しい。サーマ

ルシステム開発部の小林寛幸は、

「アクチュエータの代わりにバネを使って、状況に応じ

2Chapter

開閉弁

Open Close

絞り室外器

コンプレッサ

室内コンデンサ

差圧弁差圧

遠心分離器

開閉弁

差圧弁

室外器

室内コンデンサ

Close Open

ガスインジェクションサイクル時 ガスインジェクションサイクル以外時

図3 統合弁の概略図

図5 開発したガスインジェクションコンプレッサ

図4 アキュムレータの手前にあるのが統合弁

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たガス冷媒の送り出しをさせています。そのバネを、ど

れくらいの強さにすれば適切であるのか。必要のないと

きにガス冷媒がコンプレッサに注入されてしまっては最

適な空調ができなくなります」と語る。

 

気液分離の統合システム内に、遠心分離器と電磁弁、

差圧弁がある。そして遠心分離器の下流に冷媒の流路が

あり、ガスインジェクションを必要としないときの通路

と、ガスインジェクションを必要とするときの通路の二

つが設けられている。ガスインジェクションを行う際は、

電磁弁を閉じることにより、もう一方の絞りの設けられ

た通路を冷媒が通ることにより、その上流と下流に圧力

差が生じ、差圧弁のバネが縮んでコンプレッサ側へガス

冷媒が送り込まれる仕組みだ(図5)。つまり、バネの

強さいかんで、ガスインジェクションが適切に制御でき

なくなる可能性があった。

「開発段階では、頭の中で完璧なバネの強さで適切なガ

スインジェクションが行われ

るのですが……、実際には、

車室内へ送風するファンの強

さなど運転条件が変わると差

圧弁が開かずガスインジェク

ションが行われないことが起

こり、予測したより暖房が効

かないということが生じまし

た。では、いったい乗員はどのような空調の運転を望む

のか。いくつかの使用場面を想定して対処法を講じてい

くことになりますが、使用場面の想定が実に多様で、ど

のような場面を想定すれば仕上がるのか、研究開発の部

署ではわからないのです。そこで、量産に関わる遠藤た

ちに助言を求めました」と、伊藤は打ち明ける。

 

できあがった空調システムの車載を担当するエアコン

ディショニング技術1部先行開発室開発3の遠藤義治課

長は、

「使用場面を想定することは重要で、空調を起動してか

ら室内の温度が変化していきます。あるいは、外気温が

日々異なります。また、同じ環境であっても人によって

空調の設定が違ってきます。それらの場面に対して、送

風が止まってしまったり、温度が急変したりといった大

きな変化が起こると乗員がそれに気付き、違和感につな

がります。採用したプリウスPHVより先にハイブリッ

EV走行時、暖房は航続距離を減らしていた―(株)デンソー―

林 浩之 Hiroyuki HAYASHI

株式会社デンソーエアコンディショニング性能開発部先行開発室 室長

「空調は、お客様にしてみれば当たり前の製品であり、自分の仕事がどこまでお客様に貢献できているのか分りにくいと思っていました。今回の受賞によって、技術を通じてお客様に貢献できている、一つの物差しができました。快適性は、なかなかプラス評価が得にくい中、初めてプラスの評価を頂けたのではないかと感じています。やり遂げるために拘りと信念を持って取り組んできて、本当に良かったと思います」

遠藤 義治 Yoshiharu ENDO

株式会社デンソーエアコンディショニング技術1部先行開発室 開発3 課長

「永年量産開発に携わってきましたが、もっとも苦労したのがこの開発でした。しかしそれが受賞につながり、思い出深い開発となりました。自分もあまり褒められることはありませんでしたが、苦労した成果が表彰につながり嬉しかったです」

谷畑 拓也 Takuya TANIHATA

株式会社デンソーエアコンディショニング技術1部先行開発室 担当課長

「もともと設計の部署に居ましたが、もっと上流側の仕事がしたいと考え開発部署へ異動し、ヒートポンプにかかわって10年。これが自身3世代目の製品になります。開発から製品化まで携わり、これまで10年かけてやってきた開発が自動車技術会の賞を頂き、脚光を浴びることができて嬉しいとともに、自分の財産になりました」

小林 寛幸 Hiroyuki KOBAYASHI

株式会社デンソーサーマルシステム開発部

「私は 2012 年入社ですので、永年空調にかかわってきた他のメンバーと比べて感じ方が違うかもしれませんが、初めて取り組んだ技術を世に出せたこと、そして受賞できたことは恵まれた状況だと思っています。学会の賞への申請も初めての経験で、それで受賞できたのも嬉しかったです」

伊藤 誠司 Satoshi ITOH

株式会社デンソーサーマルシステム開発部 課長

「この歳になって褒められることもあまりないので、楯という形で賞を戴き、仕事への慰労として嬉しく頂戴しました。自宅に持ち帰り、飾っています。また娘にも自慢しました(笑)。量産車に搭載されたときも嬉しく、そのように形になることで仕事の成果を確認できたのと同様に、楯という形で成果が残ったことが嬉しいです」

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ド車のプリウスが市場導入されていますので、エンジン

の冷却水を熱源に使えるハイブリッド車と大きく違って

は、それも違和感になります。ほかにも、通常この外気

温なら設定しないだろうと思うような温度に設定される

可能性もあり、スイッチがそれを可能にしているのです

から対処できなければなりません。もちろん、すべての

領域に対処できれば一番いいですが、ある程度の範囲と

いう線引きをしなければ実用化が遠のきます。そうした

兼ね合いが難しかったですね」

 

マイナス10℃でも電気ヒータを使わずに暖房できる機

能をまず研究開発で実現し、そのうえで人が使う際の実

態や、違和感のない快適さなどの作り込みが求められた。

エンジンルームに

どうスペースを作るか

 

もう一つ達成すべき技術が、除湿暖房である。家など

と異なり、クルマは視界確保のため窓ガラスの曇りをと

ることも空調に求められる。同時に、冬季には暖房も十

分行わなければならず、二つの機能を一つのシステムで

同時に実現するには工夫が必要であった。それが、リヒー

ト技術である。

「除湿には、空調機に必ず設置されているエバポレータ

を使います。エバポレータは、0℃近くまで冷やすこと

で除湿するため、そのまま空気を室内へ吹き出すと、暖

房効果が得られません。また、エバポレータは凍らせな

いために0℃以下にならないよう制御する必要がありま

す。そこで、冷媒の流れに直列と並列の二つの流路を設

け、エバポレータでは除湿し、室外器からはより多くの

熱を吸収できるようにしました」と、小林は開発の概要

を説明する。

 

通常、室内器から出てきた冷媒は、室外器で熱交換

し、その後エバポレータに流れ除湿され、コンプレッ

サを通って室内器へと循環する(図6)。室外器の手前

で冷媒温度を大きく下げ、外気との温度差が大きくなる

ほど室外器では大きな熱を手に入れられる。ただし、そ

の冷媒がエバポレータにそのまま行ってしまうと、エバ

ポレータが0℃以下になってしまう恐れがある。そこで、

室内器から室外器へ行く途中で冷媒の流路を分岐し、エ

バポレータへ行く別の冷媒の流路を設けた。これが、並

列の流路だ。しかし、室外器で吸熱する冷媒と、エバポ

レータで除湿する冷媒との圧力差をどう制御するかとい

う課題が残る。そこで、過去に使用されていた定圧弁の

機能をリメイクすることで除湿と暖房の両立が可能にで

きたのである。

 

追加の装置や部品を可能な限り少なくし、統合システ

ムとして目標の缶コーヒーほどの寸法でガスインジェク

ションシステムをまとめあげることができた。

「実際は、少し大きくなりましたが…」と伊藤は言うが、

実物を見るとかなり小さな装置に収まっている。

空調は普通に働いて

当たり前

 

とはいえ、ハイブリッド車としてのパッケージングが

済んでいるエンジンルーム内に、ガスインジェクション

装置をどのように収めるのか。車体メーカーとの折衝を

行ったのが遠藤である。

「エンジンルーム担当の方と協議しながら、調整してい

きました。アキュムレータ(低圧の冷媒を蓄えておく)

とガスインジェクションの統合機能の二つが部品追加と

なるため、実は、ウォッシャータンクの位置を移動して

もらいました(図7)。それとは別に、エンジンのある

2Chapter

図6 HVACに搭載された室内機

図7 黒い筒状のものがアキュムレータ。左側に暖房用絞りが配置されている

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クルマでは冷却水の温水をそのまま熱源として利用する

ので騒音は出ませんが、この装置では冷暖房共にシステ

ムが稼働するので、電磁弁の切り替えなどで冷媒の流れ

に変化があったときに騒音を生じることがあります。通

常の空調を使ってきた利用者の方が、暖房の時に今まで

聞いたことのない異音が出ていると感じると、不快に

なります。そこで空調の温度変

化が起こるときなどは、電磁弁

の切り替えを段階的に行ったり、

幾つかある電磁弁の作動を数秒

ずらしながら稼働させたりする

などして、騒音などの違和感が

出ず、もちろん暖房中に冷気が

出たりしてしまわないような適

合を行っていきました」と、実

車への適用における苦心の様子

を語る。

 

遠藤が苦心した上に、さらに

商品性の観点から、エアコンディ

ショニング性能開発部先行開発

室の林浩之室長が、製品として

の質を高めていった。

「いくらこれまでにない新しい

技術を実現したといっても、お

客様にしてみれば空調は普通に

働いて当たり前という感覚です。

本システムは、冷房と同じ装置

が冬でも暖房のために作動する

ことに対して、音や振動が出て

も違和感のないことを目指して

開発を進めました。しかしNV

課題は大きく、根本的な機能に

まで遡って改良するために開発

部署を巻き込んだり、また車両

メーカーにご迷惑をお掛けして

しまったりしたこともありまし

た。ほかにも、装置だけで6〜

7㎏の重さがあるので、クルマ

の振動で配管やブラケットが破損することも度々起こり、

なかなか計算通りにはいかず、試行錯誤を重ねてノウハ

ウを積み上げてきました。兎にも角にも、世界初製品を

成立させるために各署から多大なるご協力を頂き、本当

に感謝の言葉しかありません」と振り返る。さらに「今

後の課題として、更なる省エネルギー化への貢献は勿論

のこと、普及に向けてより最適な使い方やシステム構成

を探していくことが必要だと考えます」と、付け加えた。

EV走行で

航続距離を向上させた一因

 

プリウスPHVが、暖房しながらもモータのみによる

EV走行で実用的な航続距離を実現した背景の一つに、

このヒートポンプ式空調システムの貢献があったのは言

うまでもない。ちなみに、プリウスPHVがEV走行を

行った際の効果として、外気温5℃の条件での消費電力

の低減率は63%、リヒート運転では60%の電力低減を行

うことができた。それらをEV走行における航続距離に

換算すると、37%と38%の向上に相当する(コラム「電

機ヒータに頼らない暖房」参照)。

 

今後への展望はどうか。

 

遠藤は、「より低温までやれるようにしたいですね。

また、今回はガスインジェクションを暖房で使っていま

すが、冷房に使うことでより省エネルギーになっていく

のではないかと思います」と、語る。

 

林は、「コネティッド/オートノマス/シェアリング

/エレクトフィケーション(CASE)という価値や技

術の変化により、必ずしも個人所有だけではない車両の

使われ方が求められる中で、空調システムへの期待は大

きく変わっていくと考えています」と、想定する。

 

伊藤は、「これまでは室内の乗員を快適にすることが

開発の主体でしたが、これからは、クルマ全体で冷暖房

の必要性が起こってくるかもしれません」と、締め括った。

EV走行時、暖房は航続距離を減らしていた―(株)デンソー―