岡田2010例会
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非小細胞肺癌の脳転移にErlotinibが効果的であった3症例
高知大学医学部 外科学外科(2)講座 岡田浩晋 廣橋健太郎 久米基彦 笹栗志朗
はじめに
肺癌の脳転移に対する治療 • 手術治療
脳転移が1ヵ所。 機能維持のため症状を速やかに消失させる必要がある場合。
• 放射線治療(γナイフ、全脳照射) 脳転移が複数、または外科手術適応がない場合。
• 化学療法 上記の適応がない場合。 効果に乏しく治療に難渋することが多い。今回、非小細胞肺癌脳転移症例に対してErlotinibを用いた3症例を報告する。
患者背景
症例 年齢 性 手術 p-
stage 組織型 EGFR遺伝子変異 転移 手術から脳転移までの期間
1 34 F LUL+ND2a IV Ad Exon21:L858R 脳 同時
2 65 M RUL+ND2a IIIA Ad - 脳 2年7ヶ月
3 72 F RUL+ND2a IB Ad Exon19:del 脳 2年2ヶ月
症例1 34歳女性
2008年8月 脳腫瘍に対して摘出術施行→病理組織検査でAdenocarcinomaの診断。原発巣を検索の結果、肺癌が発見された。
症例1 34F 原発性肺癌の疑い cT1N0M1
2008年9月 左上葉切除+縦隔リンパ節郭清術を施行。 adenocarcinoma with mixed subtypes, acinar adenocarcinoma, bronchioloalveolar carcinoma, non-mucinous, and papillary adnocarcinoma, pT1aN0M1 stage IV カルボプラチン+パクリタキセルによる術後補助化学療法を3コース施行。
症例1 34F 脳転移術後9ヶ月
2009年6月 脳転移局所再発→ 脳外科で切除。
EGFR遺伝子変異検査 Ex21:L858R陽性が判明
症例1 34F 再手術術後1ヶ月 Erlotinib 内服開始時
2009年7月 脳転移再手術1ヶ月後。Erlotinibによる治療開始。 治療開始時のMRIで7mmの脳転移判明。
症例1 34F Erlotinib内服3ヶ月後
2009年10月 脳転移消失→Erlotinibによる効果と考えられる。
以降、内服開始11ヶ月後も再発は認められない。→CRと評価した。
症例2 65歳 男性
2004年5月右Pancoast腫瘍で右上葉切除+縦隔リンパ節郭清+胸壁合併切除を施行
P/D Adenocarcinoma 45×45×38mm pT3N1M0 stage ⅢA
術後放射線療法60Gyと化学療法(カルボプラチン+パクリタキセルを2コース)行った。
症例2 65M 肺切除術後2年7カ月
2006年12月 肺癌術後2年7カ月で脳転移が発見され、γナイフ治療を行った。
その後ジェムシタビンとビノレルビンによる化学療法2コース行った。しかし、Grade3の蕁麻疹が出現し、中止。CDDP+TS-1による化学療法を2コース行なった。
症例2 γナイフ照射後2年3カ月で再発
2009年3月γナイフ治療2年3ヶ月後局所再発が認められ、6月摘出術を行った。硬膜播種を認め、腫瘍の完全切除は困難であった。摘出した腫瘍組織のEGFR遺伝子変異は陰性であった。 このため摘出術後1カ月から DOC+CDDPによる化学療法を3コース行った。しかし、摘出術から4カ月後のMRIで硬膜転移が増大。その後ペメトレキセドによる化学療法を1コース行なったが、Grade3の斑状丘疹状皮疹が出現し、中止。
症例2 摘出術後6カ月後
2010年1月摘出術から6カ月後、硬膜播種の増大を認め、EGFR遺伝子変異(-)であったがErlotinibの内服を開始。
症例2 Erlotinibi内服開始5カ月後
2010年6月 Erlotinib内服開始5ヶ月後も腫瘍の増大を認めない。→SDと評価。
症例3 72歳 女性
2006年6月 右中葉切除+上葉・下葉の合併切除+ND2a施行。 Adenocarcinoma with mixed subtypes,acinar and papillary adenocarcinoma, and BAC non-mucinous pT2N0M0 stageIBであった。 術後補助化学療法として2006年8月UFT内服を開始した。
症例3 72F 肺癌術後2年2カ月
2008年8月術後2年2ヶ月経過したとき、多発脳転移出現。γナイフの適応無く、全脳照射を行った。
2008年10月全脳照射終了後2ヶ月でErlotinibの内服開始。
症例3 72F 全脳照射終了後
2008年10月 全脳照射終了後 側脳室の病変は残存していた。
症例3 72F
2009年7月 EGFR遺伝子変異はExon19:delでした。Erlotinibの内服開始後9ヶ月で脳転移の消失が確認。→CRと判断。その後、10カ月間 再発を認めない。
結果
• 症例1,3ではCRが得られた。 • Erlotinibに伴う副作用は症例1はGrade1の挫瘡様皮疹、症例2はGrade2の挫瘡様皮疹。症例3でGrade1の挫瘡様皮疹および食欲低下を認めた。
• EGFR遺伝子変異(-)であった症例2においては腫瘍の縮小は認められなかったが、少なくとも5ヶ月間のSDが確認された。
治療効果
症例 脳転移の治療 脳転移から
Erlotinib投与開始時期
Erlotinibの効果 Erlotinibによる腫瘍マーカーの変化
有害事象
1 手術
Erlotinib 1カ月後
3カ月でCR 以後11カ月無再発
SLX 170→33
挫瘡様皮疹(Grade1)
2
γ-knife, Op(脳)GEM
+VNR, DOC+CDDP,
Erlotinib
3年1ヶ月後 5ヶ月SD CEA
8.7→2.2 挫瘡様皮疹 (Grade2)
3 全脳照射, Erlotinib 3ヶ月
9ヶ月でCR 以後10ヶ月無再発
CEAは肺癌術後から陰性化して脳転移でも上昇せず。
挫瘡様皮疹 (Grade1) 食欲低下 (Grade1)
考察
• 高容量のGefitinibはEGFR遺伝子変異のあ る肺癌の髄膜転移に有効であることが報告さ れている。1)
• ErlotinibはGefitinib無効症例でも高い血中濃 度のためにBBBを通過し腫瘍細胞に効果を 与えることができるという報告もある。2)3)
1) Jackman DM et al . JCO 2006;24:4517-4520 2) Ranson M,et al. J Clin Oncol 2001;19:3267-79 3) Katayama et al. JTO 4 (11) 2009;1415-19
結語
• 症例は少ないもののErlotinibは肺癌脳転移に対して有効な治療法であると考えられた。
肺癌術後脳転移症例の検討
症例 年齢 性
手術 病理 手術~脳転移
転移 治療 EGFR M 脳転移からの予後
1 73 F LLL+ND3α Ad IIA 6年7カ月 肺 Op(lung), γ-knife
n/a 8カ月後に死亡
2 77 M LUL+ND2a Sq IV 同時 肺 γ-knife gefitinib
n/a 1年2カ月後死亡
3 63 F LUL+ND2a Ad-sq IIB 3カ月
肺、肝、骨、リン
パ節 γ-knife negative 2年後に死亡
4 68 F RUL+ND2a 癌肉腫 IIA 8カ月 小腸 γ-knife n/a 2カ月後に死
亡
5 79 M LUL+ND2a Ad IIA
10カ月 肝臓 UFT内服 n/a 8カ月後に死亡
6 34 F LUL+ND2a Ad IV
同時 なし Op Erlotinib
Exon21:L858R
3カ月CR 11カ月無再発生存
7 65 M RUL+ND2a Ad IIIA
2年7ヶ月 なし
γ-knife, Op(脳)GEM
+VNR, TS-1 Erlotinib
negative 5カ月SD
8 72 F RUL+ND2a Ad IB
2年2カ月 なし 全脳照射 Erlotinib
positive 9カ月でCRその後10ヶ月無再発生存