2011年肥満学会発表
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肥満症への低炭水化物食を中心とした集学的アプローチによる減量効果の検討
独立行政法人労働者健康福祉機構新潟労災病院 消化器内科
安泰善、麻植ホルム正之、野村亮介、太幡敬洋、前川智
はじめに
昨今、メタボリック症候群を中心とした生活習慣病の増加が危惧されている。
そのベースにあるのは肥満症であり、
当院消化器内科では肥満症改善目的の入院、外来診療を昨年7月よりスタートし、一定の減量効果があったので報告する。
肥満症診療の流れ
外来にて採血、腹部エコー、75gOGTT等施行し
肥満症と診断
(腹部CTは被爆のリスクも考え施行せず)
1週間の入院にて食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法の指導を行う。
退院後、1ヶ月に1回程度外来受診フォロー(6カ月目以降は3ヶ月に1回程度の受診)
具体的な指導内容
食事療法(医師、栄養士より説明)この食事指導が肥満症治療のメイン。低炭水化物食での指導(詳細後述)
運動療法(理学療法士より説明)軽い体操、ウォーキングの指導。膝痛、腰痛の方もおり、最初はあまり勧
めない
薬物療法(薬剤師より説明)漢方の防風通聖散を処方。BMI 35以上では、3ヶ月に限定してマジンドール
(商品名サノレックス)の処方
行動療法(医師より説明)咀嚼の指導、グラフ化体重日記への記録、食行動パターンの矯正
様々な職種によるチーム医療で肥満症診療に取り組んでいます
特に食事療法を中心にしています
低炭水化物食とは?その定義は?
• 従来の肥満症に対する食事療法は体格に合わせたカロリー制限での食事療法
• 低炭水化物食とは、炭水化物を一定以下に制限するが、他の蛋白質、脂質に関しては特に制限を設けない食事療法
ただし
炭水化物の割合は文献により20~40%と幅があり一定していない。またphase1、2、3と徐々に炭水化物の割合を上げていく方法もあり(アトキンスダイエット法)。
当院では炭水化物30%、蛋白質25%、脂質45%
(総摂取カロリーとしては 1300kcal/日)とした。
従来のカロリー制限食の指導ではまず主食の白米をを設定して主菜、副菜を設定するため、主食
でカロリーの大部分を占めてしまいおかずの種類を増やしにくい。食事そのものがひもじくなり、継続しにくい。またカロリー計算が難しく、ある程度の食品に対する専門知識
がないと取り組めない。
低炭水化物食の指導では米、パン、そば、うどん等の主食を抑えることで主菜、副菜を
中心にバラエティに富んだ食事が可能で、減量している感覚でなくなり継続しやすい。「炭水化物を減らす」というシンプルな方法なため、やり方が簡単。知識としても炭水化物の有無についてのみに絞ればよく、取り組みやすい。
低炭水化物食導入の経緯
肥満症治療では、継続が最も重要なファクターであり、低炭水化物食がより簡便で取り組みやすい食事療法と考え取り入れた。
当院の栄養士の意見
• メリット
指導しやすい
患者が受け入れやすい(やり方が単純明快)
揚げ物がOKで喜んでいる
・デメリット
主食のお米を減らせというのは・・・
お金がかかる
肉、魚が苦手な方は取り組めない
2010年7月からの
肥満症治療の経過報告
患者背景
• 症例数 56名 (男性 21名、女性 35名)• 年齢(歳)59.2±13.6• 合併症数(人)糖代謝異常症 39、脂質代謝異常症 32、高血圧症 32、高尿酸血症 12、脂肪肝 35、膝関節症 16、腰痛症 8
(重複あり)
• 平均身長(㎝) 157.55±10.11• 平均体重(㎏) 74.79±15.56• 平均BMI(㎏/㎡) 30.03±4.80• 平均ウエスト周囲径(㎝)101.14±11.26
血液検査データ
• TG(㎎/dl) 161.27±98.73• HDL-C(㎎/dl) 51.45±11.17• LDL-C(㎎/dl) 128.82±38.05• UA(㎎/dl) 6.18±1.86• 空腹時BS(㎎/dl)111.63±26.82• HbA1c(%) 5.78±0.64• 空腹時インスリン値(μU/ml)10.44±6.66• HOMA-R 2.87±1.87
以上の症例に関して
外来通院6ヶ月間の体重、腹囲および血液データの変化について以下に示します。
0
-6.43
-8.32
-9.78-10.53
-10.4-11.88
-15
-14
-13
-12
-11
-10
-9
-8
-7
-6
-5
-4
-3
-2
-1
0
0ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月
wei
gh
t ch
ang
e(%
)
months of intervension
体重減尐率
* P<0.05
*
*
*
* *
*
総括
• 肥満症に対して、低炭水化物食を中心とした減量指導により、半年間で10%程度の減量を達成した。
また同時に腹囲も10cm程小さくなった。
• 減量に伴って、中性脂肪、HDL-C、糖代謝マーカー、尿酸値について有意な改善が得られた。
• 食事での脂質制限がないにもかかわらず、LDL-Cの悪化はなかった。
結語
• 低炭水化物食による食事療法を中心とした肥満症治療には、一定の減量効果があることが示された。