2014 11-14 盛岡市議会産業環境常任委員会 説明資料
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焼却施設から放射性セシウムが大気中に放出される問題と
排ガス中の放射性セシウム測定に関する説明資料
盛岡市議会・産業環境常任委員会
平成26年11月14日(金)
第1委員会室(盛岡市本庁舎別館3階)
樗木博一(ちしゃき ひろかず)
[説明内容]
1.自己紹介
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識
3.現在も東北・関東に放射性セシウムが降り注いでいる。
4.現在も放射性セシウムが降り注いでいる原因
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。
6.放射性セシウムを含む廃棄物を焼却する焼却施設の構成
7.排ガス中のダストを除去するバグフィルター
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法
9.焼却施設から放射性セシウムがどのようにして大気中に放出されるのか。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。
11.国の測定法に代わる排ガス中の放射性セシウム測定法を提案する。
1.自己紹介(1)
九州大学工学部電気工学科卒業(1977年3月)
九州大学大学院エネルギー変換工学専攻修士課程修了(1979年3月)、工学修士
三菱電機株式会社入社(1979年4月)
技術者として、サイリスタバルブなどの研究・開発・製造・現地据付工事・保守等に従事
TMT&D(東芝と三菱の合弁会社[電力系統・変電事業部門])出向(2002年10月~2005年4月)
三菱電機株式会社退職(2009年5月)
1.自己紹介(2)
関西電力紀北変換所納入・定格DC250kV-2800Aサイリスタバルブ(交流-直流の変換装置)
阿南紀北直流幹線(±DC250kV-2800A、700MW×2=1400MW):2000年6月22日運用開始
納入先
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(3) 原子番号と質量数
原子番号:原子核の中にある陽子の数ヨウ素I、セシウムCsといった原子の種類=元素は原子番号によって決まる。元素の化学的性質は陽子の数によって決まる。
質量数:原子核の中にある陽子と中性子の合計数
安定性ヨウ素の原子番号・質量数 安定性セシウムの原子番号・質量数
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(4) 放射性同位元素(1)
・陽子の数が同じで中性子の数が異なる元素を同位元素(Isotope)と呼ぶ。・同位元素の中には不安定で放射線を放出して他の元素に変化する(放射性壊変、放射性崩壊)ものがあり、これを放射性同位元素(Radioisotope)と呼ぶ。
安定性ヨウ素の原子番号・質量数 放射性ヨウ素131の原子番号・質量数
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(6) 放射線の種類(代表例)
種類 実体 極性 透過性
α線(アルファ線) 陽子2個と中性子2個の原子核 プラス 小
β-線(ベータ線) 電子 マイナス 中
ɤ線(ガンマ線) 電磁波 なし 大
X線(エックス線) 電磁波 なし 大
中性子線 中性子 なし 大
放射線の透過性のイメージ(厳密な表現ではない)
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(7) 放射線が有害である理由
生物は炭素原子と炭素原子の結合によって構成されており、その結合エネルギーは数eV(電子ボルト)である。一方、放射線は、それを優に超えるエネルギーを持っている。即ち、放射線は炭素
原子と炭素原子の結合を切断する力を有している。このことが放射線がすべての生物にとって有害な理由である。
元素(核種) 崩壊(壊変) 半減期 主なβ線 主なɤ線
2年 0.658MeV
0.569MeV
0.605MeV
0.796MeV
30年 0.514MeV 0.662MeV
β-:β-崩壊(β-壊変)。β-線(電子)を放出し、1個の中性子が陽子に変化する。IT :核異性体転移(Isomeric transition)。β線の放出に伴って励起され、ɤ線を放出して安定な状態となる。核異性体:原子核が励起した状態を保っている原子核MeV:百万電子ボルト
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(8) 内部被ばく
放射性物質が人体の外部に存在する場合、α線、β線は空気中の気体分子(窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気など)、空気中の塵埃、衣服との衝突・相互作用によりエネルギーが減衰する。ɤ線は、透過性の高い放射線であるが、空間的に広がるので、距離があるとエネルギー密度が低下する。
一方、放射性物質が人体の内部に存在する場合、放射性物質と人体の間に距離がないので、α線、β線、ɤ線が人体に与える影響が大きくなる。
放射性物質が人体の外部に存在する場合(外部被ばく)
放射性物質が人体の内部に存在する場合(内部被ばく)
放射性物質
放射性物質
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(9) 放射線の計測器(1) ゲルマニウム半導体検出器(2)
検出部
液体窒素デュワ(液体窒素の容器)
検出部およびゲルマニウム半導体冷却用液体窒素デュワ SEIKO EG&G社パンフレットより引用
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(9) 放射線の計測器(1) ゲルマニウム半導体検出器(3)
多重波高分析装置(multi channel analyzer, MCA) SEIKO EG&G社パンフレットより引用
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(9) 放射線の計測器(1) ゲルマニウム半導体検出器(5)
+ +++
- - - -
- - - -
+ + + +
ɤ線正孔(正の電荷を持つ)
電子(負の電荷を持つ)直流電源
++
- -
ゲルマニウム半導体
電流
ɤ線がゲルマニウム半導体に入射されると、電子と正孔が生じ、電流が流れる。電流の大きさはɤ線のエネルギーに比例するので、入射されたɤ線のエネルギーを測定することができる。
ゲルマニウム半導体検出器の測定原理
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(9) 放射線の計測器(1) ゲルマニウム半導体検出器(6)
ゲルマニウム半導体検出器による測定例厚生労働省健康局水道課「水道水等の放射能測定マニュアル」平成23年10月より引用ROI:(region of interest、関心領域、ピークを含む領域のこと)
2.放射性物質・放射線に関する基礎知識(9) 放射線の計測器(2) シンチレーション式空間線量率計(2)
ɤ線
光
受光ダイオード
シンチレーター(NaIの結晶またはCsIの結晶)
カウンター(計数計)
ɤ線がシンチレーターに入射されると、シンチレーターが発光する。シンチレーターの発光頻度が空間線量率(1cm線量当量率)に比例すると見なして、発光頻度を測定することにより、空間線量率を測定する。線量計は、セシウム137の標準線源を使って、較正を行う。
シンチレーション式空間線量率計の測定原理
4.現在も放射性セシウムが降り注ぐ原因
(1) 福島第一原子力発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。
(2) 放射性セシウムを含む廃棄物が焼却されている施設(一般焼却施設、木質バイオマス発電施設など)から大気中に放射性セシウムが放出されている。
現在も放射性セシウムが降り注ぐ原因としては、上記2つが挙げられるが、(1) が主たる原因であると考えると、3章で示した「降下物中に放射性セシウム137が検出された都道府県」の図からわかるように、
・福島第一原子力発電所で爆発が継続している訳でもないのに東北・関東の広範囲で継続的に検出されている。
・周囲の県で検出されていないのに和歌山県、島根県といった福島第一原子力発電所から遠く離れた県で検出されることがある。といった事象の説明ができない。
(2) が主たる原因であると考えると、素直に上記の事象が理解できる。
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(1) メディア情報(2)
2号機
1号機
3号機
4号機
FNNLocal 2014/10/29 公開 東京電力福島第一原子力発電所 (youtube ビデオより引用)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(1)
平成26年5月29日環境線量低減対策「原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果(平成26年5月)」より引用
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(2)
「1~4号機原子炉建屋からの追加的放出量評価結果平成26年5月評価分(詳細データ)」より引用
PCV:原子炉格納容器(Primary Containment Vessel)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(3)
「1~4号機原子炉建屋からの追加的放出量評価結果平成26年5月評価分(詳細データ)」より引用
Kr-85:不活性の放射性ガス半減期10.7年
PCV:原子炉格納容器(Primary Containment Vessel)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(4)
「1~4号機原子炉建屋からの追加的放出量評価結果平成26年5月評価分(詳細データ)」より引用
PCV:原子炉格納容器
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(5)
「1~4号機原子炉建屋からの追加的放出量評価結果平成26年5月評価分(詳細データ)」より引用
Kr-85:不活性の放射性ガス半減期10.7年
PCV:原子炉格納容器(Primary Containment Vessel)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(6)
「1~4号機原子炉建屋からの追加的放出量評価結果平成26年5月評価分(詳細データ)」より引用
PCV:原子炉格納容器(Primary Containment Vessel)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(7)
「雰囲気ガス測定結果に基づく原子炉格納容器内の状況について-水素、キセノン、クリプトンの挙動」平成24年7月23日より引用
前述の東京電力情報(3)~(6)には、凝縮配管室(冷却装置)で取
り除かれたた水分に含まれる放射性物質について分析した結果の記述がない。見落とされていると考えられる。
*PCV:原子炉格納容器(Primary Containment Vessel)
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(8)
「雰囲気ガス測定結果に基づく原子炉格納容器内の状況について-水素、キセノン、クリプトンの挙動」平成24年7月23日より引用 PMT:光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん、 photomultiplier tube)
フィルター内臓
活性炭内臓
Iodine:ヨウ素
5.東京電力福島第一発電所から現在も放射性セシウムが大気中に放出されている。(3) 東京電力情報(10)
活性炭フィルター
「原子炉格納容器ガス管理設備のガス放射線モニタに関する説明資料」平成26年9月8日より引用
放熱器前のガス中の放射性物質を測定したという記述がない。放熱器で取り除かれた水分中の放射性物質測定の記述がない。見落とされていると考えられる。
6.放射性セシウムを含む廃棄物を焼却する焼却施設の構成(1) 静岡県島田市 田代環境プラザ(1)
島田市 田代環境プラザ溶融処理フロー (田代環境プラザパンフレットより引用)
消石灰(水酸化カルシウム)を吹き込み塩化水素・硫⻩酸化物などの酸性物質と反応させ、反応生成物を濾過式集塵機で除去する。
空気中において1000℃以下ではNOxはわずかしか発生しないが、1300℃以上になると急激に増加する。この溶融炉は、下部は1000℃~1800℃と高温であるが、空気と多く接触する上部は300℃~500℃と低くなるように設計されている。
排ガスを160℃に冷却する。
排ガス中のダストを捕集
排ガスにアンモニアを加え、触媒脱硝設備との化学反応でNOxを窒素と水に分解する。
850℃、2秒間排ガス滞留
(桜井勝郎市長[当時]は平成24年2月7日~8日に放射性セシウムを含む災害廃棄物を試験焼却し、その後、本格焼却を実施した。)
処理能力:74ton/24hr×2炉
6.放射性セシウムを含む廃棄物を焼却する焼却施設の構成(2) 大阪市 舞洲工場 (1)
大阪市 舞洲工場の構成(大阪市 舞洲工場のパンフレットより引用)
処理能力:450ton×2基
焼却炉:階段式火格子(ストーカ)
150℃200℃850℃~950℃ 230℃
(橋本徹市長は平成24年11月29日~30日に焼却放射性セシウムを含む災害廃棄物を試験焼却し、その後、本格焼却を実施した。)
6.放射性セシウムを含む廃棄物を焼却する焼却施設の構成(3) 福島県鮫川村仮設焼却施設(1)
焼却処理能力:1.5t/日
環境省資料より引用
・2013年7月16日~18日負荷確認試験。・2013年8月19日本格運転開始。・2013年8月29日午後2時30
分ごろに、仮設焼却施設で主灰コンベアの覆いの一部が破断する事故が発生。
・2014年2月運転再開
環境省が日立造船(株)に発注して製作させた小規模焼却施設
6.放射性セシウムを含む廃棄物を焼却する焼却施設の構成(3) 福島県鮫川村仮設焼却施設(2)
焼却炉:燃焼室温度:650℃程度二次燃焼室温度:800℃以上
排ガス急冷塔出口温度:180℃
環境省資料より引用
焼却処理能力:1.5t/日
バーナー
7.排ガス中のダストを除去するバグフィルター(1) バルブィルターの構造(1)
バクフィルターろ布(下から見上げた所)
・バグフィルターは、ろ布を用いて排ガス中のダストを濾過・捕集する装置である。・円筒状のろ布を吊り下げた構造であることから、バグフィルターと呼ばれる。
Wikipedia「集塵装置」より引用(株)日立プラントコンストラクションのHPより引用
7.排ガス中のダストを除去するバグフィルター(2) バルブィルターの構造(2)
・ろ布にはダストが堆積していくので、目詰まりしないよう、定期的に払い落とす必要がある。
・払い落とし方式としては、脈動逆圧方式とパルスジェット方式がある。
(株)日立プラントコンストラクションのHPより引用
7.排ガス中のダストを除去するバグフィルター(3) バルブィルターの濾過性能(1)
平成9年度環境庁委託 持続可能な開発支援基盤整備事業「大気環境保全技術マニュアル 総論」のP.139に示された表7.6.1によれば、バグフィルターの実用範囲は、粒度(排ガス中のダスト粒子のサイズ) 0.1μm~20μm、集塵率90%~99%である。
*1μm=1mの1/100万
7.排ガス中のダストを除去するバグフィルター(4) バルブィルターの濾過性能(2)
横浜市公害研究所第6号1981 P.61「集じん機の集じん特性に関する研究」にて示された図1において、ダストの粒子径が1μ
mより小さくなると、約99%であった集塵効率が低下し始め、ダストの粒子径が約0.15μmで、集塵効率が約97%まで低下している。このことは、前頁の「大気環境保全技術マニュアル 総論」の表7.6.1で示された「バグフィルターの実用範囲におけるダストの最小粒子径が0.1μmである。」と符合する。
キューポラG、アスファルトプラントJは、バグフィルターを使っている施設である。
これらの施設のバグフィルターは、いずれも比較的新しく、メンテナンスも良いものである。
横浜市公害研究所による既設施設における集塵機の集塵特性調査(カスケードインパクターによる測定)結果
*1μm=1mの1/100万
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(1)
環境省告示第百十一号(1)
平成23年12月28日、細野豪志環境大臣(当時)が発布した環境省告示第百十一号により、排ガス中の事故由来放射性物質の濃度の測定方法が指定されている。
*告示は、国会審議を経ずに省が定めることができるものである。
*この告示により指定された試料採取方法である日本工業規格JIS Z 8808は、その名
称「排ガス中のダスト濃度の測定方法」が示すように、排ガス中の固体のダスト濃度を煙道,煙突,ダクトなどにおいて測定する方法を規定したもので、排ガス中に存在する気体の濃度を測定する方法を規定したものではない。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(2) 環境省「放射能濃度等測定方法ガイドライン」(1)
環境省「放射能濃度等測定方法ガイドライン」平成25年3月第2版に、環境省告示第百十一号で指定されたJISZ 8808に基づく、排ガス測定方法が具体的に示されている。
・ろ紙とガス吸収ビン中の水がサンプルとなる。
・これらのサンプルに含まれる放射性セシウムのベクレル数をゲルマニウム半導体検出器で測定する。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(3) 環境省「放射能濃度等測定方法ガイドライン」(2)
*インピンジャー:前頁の図3.1に示されたガス吸収ビン、ドレン:この場合はガス吸収ビン中の水を意味する。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(4) 排ガス中のダスト濃度測定用ろ紙 (1)
ろ紙の性能に関するJIS Z 8808の規定「JIS K 0901によって0.3μmの試験粒子を99%以上捕集し、使用状態で化学変化を起こさないものでなければならない。」*0.3μm未満の粒子については規定されていない。
アドバンテック東洋株式会社の製品情報より引用
DOP:Dioctyl phthalate(フタル酸ジオクチル)によって生成された試験用液滴粒子
円筒濾紙 型式No.88R
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(5) 岩手県宮古市試験焼却の例(1)
住民説明会用資料「放射性物質に汚染された農林業系副産物の試験焼却結果等について」宮古市産業振興部 農林課2013/2/27 より引用
*宮古清掃センターはバグフィルターを備えた焼却施設である。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(6) 岩手県宮古市試験焼却の例(2)
住民説明会用資料「放射性物質に汚染された農林業系副産物の試験焼却結果等について」宮古市産業振興部 農林課2013/2/27 より引用
4÷20=0.2
4÷30=0.13
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(7) 宮城県焼却実証調査の例(1)
「災害廃棄物放射能濃度測定調査業務 報告書」平成24年1月宮城県 エヌエス環境株式会社 より引用
焼却実証調査は石巻広域クリーンセンターの2 系ガス化溶融炉において平成23年11月27日に実施された。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(9) 宮城県焼却実証調査の例(3)
「災害廃棄物放射能濃度測定調査業務 報告書」平成24年1月宮城県 エヌエス環境株式会社 より引用*脱塩残さ 焼却炉から排出される排ガス中の塩化水素に消石灰を吹き込み中和して無害化したもの。
8.現状の排ガス中の放射性セシウム測定法(10) 宮城県焼却実証調査の例(4)
「災害廃棄物放射能濃度測定調査業務 報告書」平成24年1月宮城県 エヌエス環境株式会社 より引用*脱塩残さ 焼却炉から排出される排ガス中の塩化水素に消石灰を吹き込み中和して無害化したもの。
おながわちょう
9.焼却施設から放射性セシウムがどのようにして大気中に放出されるのか。(1)
(1)放射性セシウムは、反応性に富む元素なので、酸化セシウムCs2O、水酸化セシウムCsOH、炭酸セシウムCs2CO3、硝酸セシウムCsNO3、硫酸セシウムCs2SO4、塩化セシウムCsCLといった化合物として存在すると考えられる。
(2)これらの化合物の内、酸化セシウム、炭酸セシウムは、焼却炉で800℃を超える温度まで加熱されれば、分解するので、気体状態の放射性セシウムが発生する。*酸化セシウムCs2Oは、250℃で蒸発し、400℃でセシウムCsと過酸化セシウムCs2O2に分解する。*炭酸セシウムCs2CO3は610℃で分解する。
(3)次に、焼却施設の冷却工程で200℃まで冷却されれば、凝集し、他の元素と結合して再び化合物となる方向に化学反応が進む。*セシウムCsの融点:28℃、セシウムCsの沸点:671℃
(4)しかし、冷却工程を経て煙突から大気中に放出されるまでの時間は2~3分程度と短い。しかも、空気の78%は比較的不活性な窒素であり、セシウムの融点は28℃と低い。これらのことから、焼却施設の
設備内では、放射性セシウムの一部は空気と同じ気体、あるいはミスト(複数個の分子が凝集したもの)といったnm(ナノメートル)レベルの大きさの微粒子として存在すると考えられる。*1nm=1mの1/10億(5)先に7章で述べたようにバグフィルターは、実用範囲におけるダストの最小粒子径が0.1μmである。したがって、バグフィルターではnm(ナノメートル)レベルの大きさの微粒子である放射性セシウムを捕集することができない。*1nm=0.1μmの1/100(6)以上述べたメカニズムにより、焼却施設から放射性セシウムが大気中に放出される。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(1)
(1)ろ紙での捕集8章で述べたように、排ガス中のダスト濃度測定用のろ紙は、最小0.3μmまでの大きさの粒子
に対してしか集塵性能が規定されていない。このようなろ紙では、空気と同じ気体、あるいはミスト(複数個の分子が凝集したもの)といったnm(ナノメートル)レベルの大きさの微粒子として存在する放射性セシウム(9章参照)を捕集することができないことは明らかである。
環境省「放射能濃度等測定方法ガイドライン」平成25年3月第2版より引用
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(2)
(2)ガス吸収ビンでの捕集
(2-1)排ガス中の放射性セシウムの成分比率
1gの放射性セシウム137は3兆Bqの放射能を持っている。例えば、放射性セシウム137の濃度が8000Bq/kgの廃棄物100tonを考えると、その中(総放射能量8億Bq)に含まれる放射性セシウム137の質量はわずか0.27mgである。
放射性セシウム0.27mgがすべて排ガスとして煙突から空気中に放出されたとしても、廃棄物100tonを焼却するために取り込んだ多量の空気と共に放出されるため、その成分比率は極めて小さくなる。
*参考1仮に、大阪市舞洲工場で放射性セシウム137の濃度8000Bq/kgの廃棄物100tonが焼却される場合を考える。
大阪市舞洲工場の煙突一基当たりの排ガス量は70,000~90,000m3N/hrである(舞洲工場に確認済み)。舞洲工場の処理能力は450トン/日×2基である。1基で100tonを焼却したとすると、24時間×(100ton/450ton)=5.3時間を要する。5.3時間での排ガス排出量は、70,000~90,000m3N/hr×5.3時間=371,000~477,000m3Nこれを空気の質量に換算すると、(371,000~477,000m3N)×(1.293kg/m3N)=480ton~617ton480ton~617tonの空気の中に放射性セシウム137の0.27mgが含まれることになる。その成分比(質量比)は、0.27mg÷480ton~617ton=1/1.7兆~1/2.2兆である。
*参考2
環境省の「放射能濃度等測定方法ガイドライン」で示された濃度限度(次式)で、簡単化のため、すべて放射性セシウム137と仮定して、即ち、放射性セシウム137の濃度が30Bq/m3と仮定して、おおまかに計算してみると、放射性セシウム137の成分比率は空気の1/100兆(質量比)と極めて小さい。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(3)
(2-2)ガス吸収ビンで捕集されないメカニズム空気と同じ気体、あるいはミスト(複数個の分子が凝集したもの)といったnm(ナノメートル)
レベルの大きさの微粒子として存在する放射性セシウム(9章参照)は、一つ一つの粒子の質量が極めて小さいので、排ガスと一体となって流れる。
さらに、(2-1)節で述べたように成分比率が極めて小さいので、放射性セシウムは気泡の中に含まれる状態になり、ガス吸収ビンの中の蒸留水に接触しないので、ガス吸収ビン内にも捕集されない。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(4)
(2-3)ガス吸収ビンの水で放射性セシウムが捕集されないことを実験的に確認する。(1)
放射性セシウムの代わりに線香の煙(粒子径約0.5μm)を使用し、これを水槽に送り込んで、線香の煙が水に捕集されるかどうか実験した。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(7)
(2-3)ガス吸収ビンの水で放射性セシウムが捕集されないことを実験的に確認する。(4)
線香の煙が水に捕集されず、空気中に放出された。
10.なぜ国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できないのか。(8)
(2-3)ガス吸収ビンの水で放射性セシウムが捕集されないことを実験的に確認する。(5)
線香の煙(微粒子の集合体)を水に送り込んだところ、線香の煙(粒子径約0.5μ
m)が水に捕集されないという結果が得られた。
この結果から、空気と同じ気体、あるいはミスト(複数個の分子が凝集したもの)といったnm(ナノメートル)レベルの大きさの微粒子として存在する放射性セシウムがガス吸収ビンの水で捕集されないことは明らかである。
(3)国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できない「子供だましのインチキ測定法」
以上述べたように、空気と同じ気体、あるいはミスト(複数個の分子が凝集したもの)といったnm(ナノメートル)レベルの大きさの微粒子として存在する放射性セシウムは、排
ガス中のダスト濃度測定用のろ紙でも、ガス吸収ビンの水でも捕集されない。国の排ガス測定法は放射性セシウムを検出できない「子供だましのインチキ測定法」である。
11.国の測定法に代わる排ガス中の放射性セシウム測定法を提案する。(1)
(1)原子力発電所での排ガス中の放射性物質測定法
従来より原子力発電所では、排ガス中の放射性物質(特に放射性希ガス)の検出器としてシンチレーション方式の検出器(ガンマ線が照射されるとヨウ化ナトリウムNaI、ヨウ化セシウムCsIなどの結晶が発光する現象を利用した検出器)が使用されている。この方式であれば、放射性セシウムがどのような形態(固体、液体、気体)であっても検出可能である。
「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」昭和53年9月29日原子力委員会決定
一部改訂平成元年3月27日原子力安全委員会 平成13年3月29日原子力安全委員会 より引用
特定原子力施設監視・評価検討会(第19回)資料2「雑固体廃棄物焼却設備の概要について」平成26年3月31日 東京電力株式会社 より引用
雑固体廃棄物焼却設備:東京電力福島第一発電所・5/6
号北側ヤードにて平成27年3月運用開始を目指して建設工事中である。
11.国の測定法に代わる排ガス中の放射性セシウム測定法を提案する。(2)
(1)原子力発電所のシンチレーション方式の検出器は据え付けタイプなので、一般の焼却施設まで持ってくことができない。そこで、市販されているシンチレーション方式の空間線量計を使用して持ち運び可能な質量に抑えた排ガス検査用放射性物質検査装置を製作した。この装置を使用して排ガスを検査することを提案する。
スペクトル表示機能 無し
線量率範囲 0.001 μSv/h 〜 10 μSv/h
検出器 CsI(Tℓ)40×40×15mm
測定線種 γ線(ガンマ線)
感度 42,000cpm/(μSv/h)
エネルギーレスポンス ±15%(エネルギー補償)以内
指示値変動 変動係数0.1以下
エネルギーレンジ 150keV 〜 3MkeV
エネルギー分解能 10%(137Cs、662keV)
線量率時定数 3秒、10秒、30秒
エネルギースペクトル 512チャンネル
表示器 有機ELディスプレイ 128×68ドット
電源 単三電池2本(連続使用約15時間)、USB給電
外形寸法 75(W)× 135(H) × 35(D) mm
質量 約340g
環境条件 使用温度0から40℃, 結露なきこと
PCアプリケーション 線量率測定
動作:Windows 7(32bit/64bit)/Vista/XP(SP3),
画面解像度1024×600以上
表1 (株)テクノエーピー製Mini SURVEY METER TC300仕様
空間線量計外観
断熱ガラスクロスで覆った上にシリコンゴム自己融着テープを施した空間線量計
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時刻
線量率(μSv/h)
系列1
空間線量計を装置の筐体外から筐体内に移した場合におけるバックグラウンドの線量率の変化(予備実験結果)
線量計の感度:42,000cpm/μSv