2015年 9月 4日, 酒井恵光(人文情報学科 准教授), pblによる地...

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大谷大学 文学部 人文情報学科 iPad×Education 2015年度 実施報告 発表学会名:私立大学情報教育協会 平成27年度教育改革ICT戦略大会開 催 場 所:アルカディア私学会館(東京) 日:2015年9月4日(金) 発表テーマ:PBLによる地域活性化のためのアプリ開発 者:酒井 恵光(人文情報学科 准教授) 概要 プログラミング教育として、PBLによる大学の近隣の商店街を紹介する地域社会活性化 に向けた実用的なアプリ開発を行う予定である。授業では主体提起に議論ができる者 や、多様な発想ができる者が出て、高いモチベーションを確認できた。今後の課題は Xcode環境におけるSWIFTによるシステムの実装、その効果実証と他の学科との連携 等がある。 教育改革ICT戦略大会

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大谷大学 文学部 人文情報学科

iPad×Education 2015年度 実施報告

発表学会名:私立大学情報教育協会       「平成27年度教育改革ICT戦略大会」

開 催 場 所:アルカディア私学会館(東京)

開 催 日:2015年9月4日(金)

発表テーマ:PBLによる地域活性化のためのアプリ開発

著   者:酒井 恵光(人文情報学科 准教授)

概要

プログラミング教育として、PBLによる大学の近隣の商店街を紹介する地域社会活性化に向けた実用的なアプリ開発を行う予定である。授業では主体提起に議論ができる者や、多様な発想ができる者が出て、高いモチベーションを確認できた。今後の課題はXcode環境におけるSWIFTによるシステムの実装、その効果実証と他の学科との連携等がある。

教育改革ICT戦略大会

Page 2: 2015年 9月 4日, 酒井恵光(人文情報学科 准教授), PBLによる地 …web.otani.ac.jp/file/ipad2010/iPadxEducation_2015meeting... · 2016-09-05 · たアプリ開発を行う。来訪の対象として外国人観光

PBL による地域活性化のためのアプリ開発

酒井恵光 1・赤澤清孝 2・高橋真 1 1 大谷大学文学部人文情報学科 2 大谷大学文学部社会学科 Tel:075-411-8048(直通) Fax:075-411-8153(代表) e-mail:[email protected]

1.はじめに

大谷大学文学部人文情報学科は、文系の知と理系

の知を融合して活用できる人材を養成するために設

立された学科である。この目的を達成するために、

大谷大学人文情報学科では、2011 年度より iPad を全学生に配布[1],[2],[3],[4],[5] 、PBLによる電子書籍の編集[6]など、様々な試みを行っている。人文情報学科の基本的な理念として、人文学的視点から情報

を捉えるということであるが、これは言い換えると

人の役に立つものを作るということでもある。その

ような人材の育成のためにはプログラミング技術の

要請が必要であるが、実用的レベルまでプログラミ

ングを修得する学生が少ないのが懸念事項の一つで

ある。 2.PBL によるプログラミング教育

プログラミングの学習を進める上で目標設定が重

要である。目標の設定の一つとしてゲームの作成と

することも一つの手ではあるが、その場合、実用性

が少ない。なぜならば、実際のプログラミングの活

用場面はゲームとは異なる部分の方が多い。その場

面は千差万別であるため、クライアントからの要求

に基づいてプログラムを行う力が必要となる。より

実用的なプログラミングを学習するためには、一般

社会からの要求に従った目標設定をしたうえで、シ

ステムを作成することが効果的といえる。そこで、

PBLの素材に適したものとして地域活性化を目的とするアプリ開発とした。なぜならば、ICT の利用が明確な形で実を結ぶからである。

ICT が進歩し、だれでもが情報を発信することができるようになった。その結果、情報の発信が地方

からも可能になった。この時に必要な技術は高度な

ものである必要はなく、むしろ、利用者視点に立つ

という発想が必要となる。その場合、学生の発想も

十分に活用できる。また、情報の伝達経路はマスメ

ディアを利用するよりも、利用者間の口コミの力が

強いため、学生が利用する SNSを起点としたプロモーションも可能になる。

3.対象地域

大谷大学は京都市営地下鉄北大路駅に近接してい

る。地下鉄北大路駅には京都市バスのバスターミナ

ルもあり、京都市北部の観光などのハブ的な存在で

ある。実際、観光の名所である大徳寺や金閣寺など

へのアクセス、府立植物園などへのアクセスに対し

ても極めて便利である。 こうしたメリットがあるにもかかわらず、ハブで

ある北大路付近の観光資源に対してはほとんど着目

されていない。その理由として、北大路付近の商店

街の ICT利用は比較的少ないことが挙げられる。現在、大谷大学人文情報学科のゼミ活動の一環として

北大路商店街のリニューアルも進められているが、

個別の商店での利用は少ない。そこで、個人商店の

内、特に観光客の来訪が見込める飲食店を中心とし

たアプリ開発を行う。来訪の対象として外国人観光

客を視野に入れて、多言語でメニューを表示できる

アプリ開発を行う。 4.実践中の PBL

4.1 参加者 大谷大学人文情報学科の学生 8名(3回生 3名、2回生 5名)が参加した。

4.2 プロジェクトの方針 基本的な方針を教員から提示した上で、プロジェ

クトの内容を議論しながら学生に考えさせる。ただ

し、実現できない物になりそうな場合は、教員側か

ら改めて視点を与えながらプロジェクトを進めるこ

ととした。 プロジェクトは正課外で行うこととした。正課の

授業として行った場合、意欲のない学生によりプロ

ジェクト進行を妨げられることを防ぐためであると

同時に、複数の学科(大谷大学人文情報学科と社会

学科)での連携を行うためである。 5.プロジェクトの成果

Webアプリとして作成することを念頭に、メンバー間での議論が行われた。

5.1 アプリの機能 1. 図1の左のようなトップ画面を想定する。メニ

ューを検索するとそれに対応して該当する飲食

店が地図上に表示されるようにする。

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2. 図1右のように検索した料理がメニューにある

店舗へのリンクが表示されるようにする。 3. 店舗へのリンクをたどると店舗の情報を表示で

きるようにする。 4. 店舗画面では、店舗内の様子、メニューの名前

と写真が表示されるようにする。 5. 店舗内でもメニューが表示され、料理を選択し

ていくと予測される予算が表示される。

5.3 作成システム 訪問者だけでなく、店舗側でも同じシステムが使

えるように Web アプリとして開発する。開発はhtml5 の使用で使えるようにすることとした。プログラムは jQueryを利用して作成することとした。 5. 学生の状況

参加者のうち、3回生の 2名はWebアプリを制作するゼミに所属しているため基本的な技術はあるが、

依頼に対して具体的に表現するといった体験はない。

しかしながら、主体提起に議論を進め、現実的な意

見を明確に出すことができるようになってきた。 2回生はHTMLの応用を学んでいる段階であるた

め建設的に意見を出すほどの自信はついていない。3回生が主導をとるという形で進めていく過程で、

徐々に様々な発想ができるようになってきている。

実際の作成場面になることで具体的なイメージを作

ることができるため、今後の学習が進むことが予想

される。いずれにせよ、現在のところ高いモチベー

ションをもちながらプロジェクトを進めているとい

える。 6.今後の課題

プロジェクトとして開始したばかりであるため、実

際のシステムが実現できるかどうかを検証する必要が

ある。参加者の技術的な問題で完成することができな

いという場合、代替の手段を想定しておく必要がある

だろう。また、このアプリはあくまでも大学側の授業

の一環として実施しているため、個別の店舗が利用し

てくれるかどうかを確認していない。そのため、実際

に作ったとしてもリリースができない可能性はある。

さらに、管理を誰がするのかといった問題までは想定

されていない。

ただし、これらの問題はこのプロジェクトでの学習

課題として想定している。大谷大学は文系の大学であ

るため、学生は将来的に技術職に就くというよりは、

総合職や営業職に就くことが多い。その時に必要にな

るのはクライアントに対するプレゼンである。そのた

め、このプロジェクトでは利用者に対するプレゼンを

学生自身に行わせて、店舗側を説得することも視野に

入れている。その過程の中で、利用者視点にあわせた

アプリ開発と修正する力が備わってくるであろう。

今後の課題として、学内の他の領域との連携が必要

である。現在は人文情報学科の学生でアプリの作成を

行っているが、地域で何が欲せられているかの情報を

人文情報学科の学生だけで得てくるのは難しい。むし

ろ、社会学科などの社会科学との連携が必要となって

くる。また、実際に多言語化をする上で、メニューの

説明が必要になってくる。このアプリは日本国内とい

うよりも、海外観光客に利用されることを視野に入れ

ている。その時、適切な説明は単語レベルで成立する

かどうかの検証が必要である。そうした場合、英語だ

けでなく中国語などのアジア圏の言語への翻訳を行う

上で、他の領域との連携も必要となってくる。このよ

うな学際的な連携を学内でどう実現していくかの検討

が必要である。

引用文献

[1] 池田佳和:高性能モバイル情報端末による教育イノベーション, 大学時報, 59(335), 88-91, 2010 年, 日本私立大学連盟

[2] 高橋真,他:iPad 導入前後の学生の意識調査,モバイル学会第 12 回モバイル研究会, 2011 年 9 月

[3] 柴田みゆき,他:iPad を利用した情報教育の実践,モバイル学会第 12 回モバイル研究会, 2011 年 9 月

[4] 高橋真,他:iPad によるプレゼンテーションスキルの養成,教育改革 ICT 戦略大会 A-5,2011 年 9 月

[5] 池田佳和, 他:タブレット端末全員配布による人文系高等教育の改善実施例,ICT 利用による教育改善研究発表会, 2012年 8月

[6] 髙橋真・釆睪晃:PBL による電子書籍の作成,教育改革 ICT 戦略大会,C-8, 2014年 9月

図 1 アプリのイメージ 左:トップ画面、右:メイン画面