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1 ES細胞とiPS細胞 問題点と未来 「初期化」生命の常識変えた 山中・ガードン両教授 10日,ノーベル賞授賞式 2012年12月 6日 ノーベル賞決定後,初めて顔を 合わせた山中伸弥さんとジョン・ ガードンさん=10月24日,米 サンフランシスコのグラッドス トーン研究所 京都大の山中伸弥教授と英ケンブリッジ大 のジョン・ガードン教授が10日,ストック ホルムでノーベル医学生理学賞を受ける。授 賞理由は「成熟した細胞を初期化して万能 な状態に戻せることの発見」だ。2人の発 見には半世紀近い隔たりがあるが,ともに生 命の常識を塗り替えた。万能性を身につけた iPS細胞(人工多能性幹細胞)は進化を続 け,まもなくヒトの治療に使える品質に達し ようとしている。 朝日新聞 (本紙記事より)2012126受精卵 胚盤胞 原腸胚 外胚葉 (外層) 中胚葉 (中層) 内胚葉 (内層) 生殖細胞 外面 神経堤 中枢 神経系 背側 沿軸 中間 側面 頭部 尿消化管 咽頭 呼吸管 精子 卵子 ・・ https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/01/ 幹細胞とは https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/02/ Waddington (1957) 遺伝要因と環境要因が相互作用し最終 的な生物を形成する=エピジェネティクス 受精卵を斜面から転がり落ちるボールに例えて,正常な発生の過程で受精卵は 決して元の状態に戻ることはなく,またほかの細胞に転換することもないという説 https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/03/ http://www.pref.aichi.jp/cancercenter/ri/01bumon/10genom_seigyo/

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Page 1: 2015 VI-15 iPS-ES cellsnature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/PDF_VI-15.pdf1 ES細胞とiPS細胞 問題点と未来 「初期化」生命の常識変えた山中・ガードン両教授10日,ノーベル賞授賞式

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ES細胞とiPS細胞問題点と未来

「初期化」生命の常識変えた 山中・ガードン両教授 10日,ノーベル賞授賞式朝日新聞 (本紙記事より)2012年12月 6日

ノーベル賞決定後,初めて顔を合わせた山中伸弥さんとジョン・ガードンさん=10月24日,米サンフランシスコのグラッドストーン研究所

京都大の山中伸弥教授と英ケンブリッジ大のジョン・ガードン教授が10日,ストックホルムでノーベル医学生理学賞を受ける。授賞理由は「成熟した細胞を初期化して万能な状態に戻せることの発見」だ。2人の発見には半世紀近い隔たりがあるが,ともに生命の常識を塗り替えた。万能性を身につけたiPS細胞(人工多能性幹細胞)は進化を続け,まもなくヒトの治療に使える品質に達しようとしている。

朝日新聞 (本紙記事より)2012年12月 6日

受精卵

胚盤胞

原腸胚

外胚葉(外層)

中胚葉(中層)

内胚葉(内層)

生殖細胞

外面

皮膚細胞

ニューロン

神経堤

中枢神経系

色素細胞

背側 沿軸 中間 側面 頭部

脊索

骨格筋細胞

腎尿細管

赤血球

顔面筋

すい臓細胞

甲状腺細胞

肺細胞

消化管 咽頭 呼吸管

精子 卵子

・・ https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/01/・

幹細胞とは

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/02/

Waddington (1957) 遺伝要因と環境要因が相互作用し最終的な生物を形成する=エピジェネティクス

受精卵を斜面から転がり落ちるボールに例えて,正常な発生の過程で受精卵は決して元の状態に戻ることはなく,またほかの細胞に転換することもないという説

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/03/http://www.pref.aichi.jp/cancer‐center/ri/01bumon/10genom_seigyo/

Page 2: 2015 VI-15 iPS-ES cellsnature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/PDF_VI-15.pdf1 ES細胞とiPS細胞 問題点と未来 「初期化」生命の常識変えた山中・ガードン両教授10日,ノーベル賞授賞式

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PubMed http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23883928

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/planaria/

⽣物の体はなぜ再⽣できるのか?

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/cynops/

⽣物の体はなぜ再⽣できるのか?

epigenetics【名】《遺伝》エピジェネティックス,後成的遺伝学,

後生学,後生説学

epigenetic【形-1】《生物》後成の,後成的な【形-2】《遺伝》エピジェネティックな,〔変異が〕DNA の塩基配

列の変化なしに起こる,非遺伝の,遺伝子外の,〔病気の原因が〕従来の遺伝子の働きではなく遺伝子を制御する部分の働きの異常による,遺伝子を越えたところの【形-3】《地質》後生の,後生的な

中国では「表現遺伝学」と表記

①DNAのメチル化メチル化されると遺伝子発現が抑制

②ヒストンのアセチル化アセチル化されると遺伝子が働きやすくなる

③マイクロRNA(miRNA)タン パク質をコードしない小さな機能性 RNA 分子で,翻訳抑制などを行 っている。

hi-MOST (histone modifications to structural change of the nucleosome) モデル

Akai et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 107, 8153-8158

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https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/04/

再び受精卵となる」という能力の一端は,卵子が持っている?!

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/04/

ほ乳類でも,卵子のなかに

「体細胞を全能性胚細胞に初期化する能力」

があることが証明された

2014年2月6日 https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/07/

ES(Embryonic Stem)細胞

倫理上の問題拒絶の問題

induced Pluripotent Stem Cells

朝日新聞・朝刊 2008.1.1

iPS細胞の誕⽣

山中伸弥(Shinya Yamanaka)京都大教授が作製に成功した人工多能性幹細胞(2007年11月27日,山中教授提供)。(c)AFP/SHINYA YAMANAKA / KYOTO UNIVERSITY

人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem,iPS)

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山中伸弥(Shinya Yamanaka)京都大教授が作製に成功した人工多能

性幹細胞(左上)。人工多能性幹細胞から作り出した,筋肉細胞(左下),神経細胞(右下),軟骨細胞(右上)。(2007年11月27日,山中教授提供)(c)AFP/SHINYA YAMANAKA / KYOTO UNIVERSITY

体細胞を初期化し,万能性(分化多能性)を誘導する方法としては,これまで体細胞の核を未受精卵に移植する核移植法と,ES細胞と融合する方法が知られています。しかしいずれの場合も,ヒト胚や,胚に由来するES細胞を利用することになり,倫理的な課

題があります。今回私達は,体細胞に少数の因子を導入することにより,卵子や胚を用いず,直接的に万能幹細胞を誘導することに成功しました。

iPS細胞をマウスの皮下に移植すると腫瘍が形成され,組織的に解析す

ると神経組織(外胚葉),消化管様の菅腔構造(内胚葉),軟骨組織

(中胚葉)など三胚葉に由来する各種分化組織,細胞が認められる。

①ヒト皮膚繊維芽細胞(ホスト細胞)

②レトロウイルスベクターを利用してiPS因子を導入する

iPS細胞作成の手順

③外来遺伝子が導入された細胞を赤色で示した

④ES細胞様の細胞コロニーが形成される。これがiPS細胞

Oct3/4,Sox2,Klf4,c-Mycの4種類の遺伝子

多能性幹細胞の誘導

Pluripotency-inducing factors (PIF)

ES cell‐specific transcription factors

Essential for pluripotency in ES cells and early embryos

(proto)oncogenesImportant for proliferation of ES cells, but not in early embryos

less famous Specifically expressed in ES cells and/or Important roles in ES cells

皮膚線維芽細胞に

1.多能性をもつ2.ほぼ無限に増殖3.遺伝子の導入不要4.知見が蓄積されている

1.多能性をもつ2.ほぼ無限に増殖3.移植時の拒絶なし4.胚が必要ない

1.移植時に拒絶の可能性あり2.胚利用による倫理的問題3.胚の入手が問題

1.遺伝子の導入が必要で,がん化の可能性あり

2.初期化のメカニズムが不明

1.多能性維持などのメカニズムが未解明2.ほぼ無限に増殖するため,がん化の可能性あり3.目的の細胞,組織に分化誘導する技術がまだ確立されていない

ES細胞

iPS細胞

共通の課題

メリット デメリット

ES細胞とiPS細胞の特徴

iPS細胞とES細胞の関係

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http://ameblo.jp/doctor‐away/entry‐11380271904.html

http://www.cira.kyoto‐u.ac.jp/nakagawa/?page_id=990

山中教授は,それまで卵子を使ったクローン技術が可能にしてきた「初期化」という現象を,卵子も使わず,たった4つの遺伝子を細胞に導入することにより再現できることを,2006年マウスで,2007年にはヒトで示した。

iPS細胞の課題

http://www.cira.kyoto‐u.ac.jp/nakagawa/?page_id=990

iPS細胞の課題

朝日

新聞

2011年

5月

14日

iPS細胞の課題

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(朝日新聞 2012年12月6日掲載) https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/06/

iPS細胞の利⽤

http://www.jst.go.jp/ips‐trend/about/story/no10.html

iPS細胞による再⽣医療

iPS細胞による再⽣医療

2007年12⽉6⽇、⽶科学雑誌「Science」の電⼦版に⽶ホワイトヘッド⽣物医学研究所のRudolf Jaenischらの研究グループが、iPS細胞を⽤いてマウスの鎌状⾚⾎球貧⾎症を治療することに成功したと発表しました。

http://www.jst.go.jp/ips‐trend/about/story/no11.html http://www.jst.go.jp/ips‐trend/about/story/no12.html

iPS細胞による再⽣医療実現に向けて

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再⽣医療と⽣命倫理

http://www.jst.go.jp/ips‐trend/about/story/no13.html

iPS細胞の未来

http://www.jst.go.jp/ips‐trend/about/story/no15.html

疾患特異的iPS細胞

https://www.skip.med.keio.ac.jp/general/article/09/index.html

組織幹細胞

• 骨髄には造血幹細胞があり,赤血球や白血球などの血液細胞を作っています(多分化能)。

• その他,皮膚や肝臓など様々な場所で見つかっています。骨折が治るのも,髪の毛を切ってもまた生えてくるのも,それぞれの場所に存在する組織幹細胞の働き(自己複製能)のおかげです。

臨床応用における組織幹細胞と多能性幹細胞の関係

多能性幹細胞はわたしたちのからだの中のどのような細胞にもなる(分化する)ことができ,培養皿のなかではほぼ無限に増殖します。