2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 global...

16
ブランデンブルク門/ドイツ 写真撮影:三菱東京 UFJ 銀行 ベルリン駐在員事務所 ☆ ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 .......................... 4 三菱東京 UFJ 銀行 ドイツ総支配人兼デュッセルドルフ支店長 黒岩 誠一 ☆ 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望............................................ 12 公益財団法人 国際通貨研究所 開発経済調査部 研究員 五味 佑子 2016.3 NO.120

Upload: others

Post on 15-Mar-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

ブランデンブルク門/ドイツ 写真撮影:三菱東京 UFJ 銀行 ベルリン駐在員事務所

☆ ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 .......................... 4

三菱東京 UFJ 銀行 ドイツ総支配人兼デュッセルドルフ支店長 黒岩 誠一

☆ 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望 ............................................ 12

公益財団法人 国際通貨研究所 開発経済調査部 研究員 五味 佑子

2016.3 NO.120

Page 2: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

4 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

ドイツ経済・産業の強みと 最近の⽇系企業進出動向

株式会社三菱東京 UFJ 銀行

ドイツ総支配人兼デュッセルドルフ支店長

黒岩 誠一

昨年 2015 年は、日本でもドイツに関する話題が採り上げられる機会が多かったのではないで

しょうか。1990 年の東西ドイツ統一から 25 周年の節目の年であったことに加え、特に年後半に

かけての VW の排ガス不正スキャンダルと空前の規模の難民流入は、自動車産業の将来や

今後の欧州の政治・社会に多大な影響を及ぼす歴史的な事件になるのではないかと思われます。

一方でこれらの事件に隠れがちですが、リーマンショック後の債務危機以降長らく低迷が

続いている欧州において、近年のドイツ経済の堅調さは際立っています。ECB(欧州中央銀行)

の金融緩和に伴うユーロ安進行や昨今の資源価格安の恩恵もあり、2010 年以降欧州全体の

平均を上回るプラスの経済成長率を維持し、2015 年は過去最大の貿易黒字額を記録、失業率も

過去最低水準で推移しています。また現在ドイツは、次世代のものづくりへのあり方として、

第四次産業革命を意味する「インダストリー4.0」に国を挙げて取り組んでおり、その動向には

世界中から高い注目を集めています。

弊行は、旧東京銀行の前身である横浜正金銀行が 1920 年 9 月にドイツで最初の支店を

ハンブルクに開設、1931 年にはベルリン出張所を開設し 1940 年に支店に昇格した歴史を持ち

ます。第 2 次世界大戦後には 1954 年にハンブルクに拠点を開設して以来、戦後 60 年以上に

わたりドイツにおいて進出日系企業並びに地場大手企業向けのバンキング業務を行っています。

本稿では最近の日系企業のドイツ進出動向を見ながら、ドイツ経済・産業の特徴と強みを

述べていきます。

■■ ドイツ経済・産業分布の特徴 ■■

ドイツには、現在(2014 年時点)約 1,700 社 の日系企業が進出しています。業種は多岐に

わたっており、製造業、卸売・小売業、サービス業と続いています。先進国として労働コストが

相応に高いということもあり、うち製造拠点は全体の 1~2 割程度です。またビジネス上の

重要性から、多くの企業がドイツ拠点に欧州における販売・物流・ファイナンス等の統括機能を

置いています。

特徴的なのは、日本であれば外資系企業の大半が東名阪の三大都市圏に集中しているのに対し、

ドイツでは日系企業の進出地域が全国各地に分散している点です。この背景としては、ドイツ

経済・産業の特徴を示すキーワードのひとつでもある「Decentralization (地域分散)」が挙げ

られます。ドイツは 1871 年にプロイセンにより国家統一されるまでは、小国や自由都市が

分立し、全国各地で特色ある経済圏が独自に形成されてきた歴史的経緯から、地場有力企業の

本社もドイツ各地に分散しています。またドイツ人の職業観として、一部の大学進学者を除き

ドイツ特有のデュアル教育システム(職業学校での教育と職場における実習教育を同時に行う/

通常 3 年間)を修了した後、そのまま地元企業に就職する者が多いという傾向も、この大きな

要因になっていると言われています。

Page 3: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

図表 1 は、ドイツを大きく 6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

示したものです。便宜上各地域を代表する大都市を経済圏の呼称としていますが、

地場有力企業の本社所在地は周縁部も含め多くの地方都市にわたっています。これに伴い

日系企業の進出地域も、業種ごとの特性や地場取引先との関係などによって各地に分散して

います。弊行も各地に所在するお客さまに肌理細かなサービスをご提供することを目的に、

ドイツ国内ではデュッセルドルフ支店を母店に、ハンブルク・フランクフルト・ミュンヘンに

出張所、ベルリンに駐在員事務所の計 5 拠点を展開しています。

図表 1 各地域に分散するドイツ経済圏

(資料)各種資料より BTMU デュッセルドルフ支店作成

■■ ドイツ進出⽇系企業数の推移 ■■

図表 2 の通り進出企業数は、過去 9 年間で 457 社(+27.1%)増加しています。ドイツは欧州

で最大、世界でも第四位の GDP を誇る経済大国であり、従来から多くの日系企業が活動している

ものの、それを踏まえても好調な増加数と言えます。背景としては、ドイツの堅調な景気動向に

加え、ドイツ企業がグローバル競争の激化、製品の高度化・多機能化のニーズの中で、部品・

原材料の調達先を多様化させており、日系企業にとっても新規のビジネスチャンスが拡大している

ことが挙げられます。近年の新規進出企業の顔ぶれは、業種面では B to C のビジネスに関連する

部品や原材料を取り扱うメーカーが多く、また、これまで海外展開はアジアや北米が中心で

あったが、新たにドイツに拠点を設立した会社も多く見られます。進出企業の親会社は

上場企業またはそれに準ずる大企業が多いものの、最近では中堅中小企業の進出も徐々に

増えてきています。

フ ラ ン ク フ ル ト は 世 界 有 数 の 国 際 金 融 都 市 。金融 関連の他、化学・製薬関連の大手企業も多い

ベルリン(350万人)

ドイツ産業の中心。鉄鋼、化学エネルギー関係の大手企業が集中。日系インフラも充実

ドイツ自動車産業の中心地。機械、IT関連企業も多数ビジネスを展開

ヨーロッパの商業・貿易の中心地として運輸・海運関係の他にも航空、消費財関係の企業も多い

首都ベルリンは政治、メディアの中心。旧東独地域には助成金制度を活用した、新産業クラスターが形成

ハイテク産業の中心地。電機、自動車、機械関係の企業が集中。R&D環境も充実

注)各都市名の下の括弧内の数字は各都市の人口

フランクフルト(69万人)

デュッセルドルフ(59万人)

ハンブルク(180万人)

ミュンヘン(138万人)

ハンブルク州及び北独地域日系企業数123社

ノルトライン・ヴェストファーレン州日系企業数570社

ヘッセン州日系企業数242社

バーデン・ヴュルテンベルク州日系企業数242社

ベルリン州及び旧東独地域日系企業数72社

バイエルン州日系企業数435社

ティッセンクルップ(鉄鋼)RWE(発電)E・ON(発電)エヴォニク(化学)ヘンケル(化学)

ミーレ(家電)ドイツテレコムドイツポストMETRO Group(流通)

ドイツ証券取引所ドイツ銀行コメルツ銀行オペル

ヘレウス(金属素材)フレゼニウス(医薬品)メルク(化学)ブラウン(家電)

BMWアウディMANシーメンスリンデ(化学)

インフィネオン(半導体)アディダスOSRAM(電球)ファーバー・カステル(文房具)アリアンツ(保険)

ダイムラーポルシェボッシュハイデルベルクセメントリープヘル(建設機械)フォイト(機械製作)

ツァイス(光学)レカロ(自動車部品)ラミー(文房具)SAP(ソフトウェア)Hugo BOSS(被服)

ドイツ鉄道バイエル(医薬品)Magix(ソフトウェア)

シューベルト(ヘルメット)ズーアカンプ(出版)アクセル・シュプリンガー(出版)

VWコンチネンタル(自動車部品)ENERCON(風力発電)バイヤスドルフ(化粧品)

Steinway&Sons(ピアノ製造)EDEKA(スーパーマーケット)TUI(旅行)Hannover reinsurance(再保険)

シュトゥットガルト(61万人)

注)日系企業数は2014年

ブレーメン

●ヴォルフスブルク

●ドレスデン

●ライプチヒ●

ケルン

Page 4: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

6 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

図表 2 地域別在独日系企業数推移

(資料)外務省海外在留邦人数統計及び在ミュンヘン日本国総領事館資料より BTMU デュッセルドルフ支店作成

興味深いのは、近年ドイツの自動車・機械・電機産業等の中心地であるミュンヘン地域

(バイエルン州)と、シュトゥットガルト地域(バーデン・ヴュルテンベルク州)への日系進出

企業数が大幅に増加している点で、過去 9 年間の増加数の内、実に約 2/3 をこの南部 2 地域が

占めています。弊行のお客さまに個別にヒアリングしたところ、地場主要取引先のニーズにより

迅速かつ柔軟に対応するために、顧客の本社や研究開発拠点の近隣に会社を設立したケースが

大半を占めています。また近隣に地場有力企業が所在することから、当該業種の専門知識を

有するローカル人材の採用が比較的容易であるという点も重要なポイントとなっています。

ただし、南部 2 州の増加はあくまで進出企業数であり、売上・生産規模ではないため、この

トレンドのみをもって、ドイツにおける日系企業の活動の中心地が、最大の進出企業数を擁する

デュッセルドルフ地域や、ドイツ最大の国際空港のあるフランクフルト地域等から移っていると

判断するのは時期尚早と思われます。しかしながら、日系企業が地場企業との中長期的かつ

強固な取引関係構築を志向し、進出地域も含め、より「現地化」を進めていく方向性は今後も

強まっていくものと思われます。

■■ ⽇系企業によるドイツ企業 M&A 動向 ■■

最近の日系企業によるドイツへの新規進出におけるもうひとつの傾向として、地場企業買収

(M&A)が非常に活発化している点が挙げられます。図表 3 は日系企業による①欧州全体

並びに②ドイツでの地場企業による M&A の件数推移(プレスリリースされている案件のみ)を

示しています。近年の円安進行にも関わらず概ね増加傾向にあり、2015 年も 20 件を超える

M&A が成約しています。買収した地場企業を業種別に大まかに分類してみると、2009 年から

2014 年までの 6 年間で発生した M&A の 109 件のうち、機械/製造が 35 件、化学/製薬が 20 件、

自動車関連が 18 件となっており、ドイツ企業が強みを有している産業が上位を占めています。

図表 4 で買収金額・買収先の事業内容を見てみると、201 3 年 9 月の LIXIL によるグローエ

社の買収金額 3,816 億円は突出して大きいものの、全体としては 100 億円以内の案件が多く、

買収先も特定の分野で強みを有する中堅中小企業が目立っています。この傾向の背景として、

ドイツの経済・産業の強みを示すもうひとつのキーワードである「Hidden Champion(隠れた

チャンピオン)企業」の存在が挙げられると思います。Hidden Champion とは、ドイツの経営

学者ハーマン・サイモン氏が提唱した概念で、(1)世界市場でトップ 3 に入る、または欧州で

ナンバー1 の企業(2)年間売上高が 50 億ユーロ未満の企業(3)一般的にブランドの知名度が

低い企業、をその基準としていますが、最近では特定領域において高い競争力と収益力を有する

グローバルニッチ企業を指す一般用語として使われるケースも増えています。ドイツは全会社数

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年増減

(2006年比)483 488 507 503 500 509 525 558 570 87140 136 134 134 132 133 127 121 123 ▲ 17200 226 224 224 228 228 225 242 242 42233 250 271 335 327 329 364 358 435 202

143 162 164 184 187 183 219 231 242 99

28 30 44 64 63 64 67 67 72 441,227 1,292 1,344 1,444 1,437 1,446 1,527 1,577 1,684 457

デュッセルドルフ地域ハンブルク地域フランクフルト地域ミュンヘン地域(バイエルン州)シュトゥットガルト地域(バーデン・ヴュルテンベルク州)ベルリン及び東部ドイツ合計

Page 5: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

7 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

のうち 99%が同族系の非上場企業が占めていますが、この Hidden Champion の数が先進国の

中でも圧倒的に多く、経済・産業の強さの大きな原動力になっていると言われています。

図表 3 日系企業による欧州及びドイツ企業の M&A 動向 ①欧州全体 ②ドイツ

(資料)MARR 統計とデータを基に BTMU デュッセルドルフ支店作成

図表 4 日系企業によるドイツ企業買収(M&A)事例

(資料)MARR 統計とデータを基に BTMU デュッセルドルフ支店作成

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

欧州 73 112 98 96 97 72 76 96 112 116 118

0

20

40

60

80

100

120

140(件数)

10

53

7

3

7

2

16

3

5

3

3

3

1

2

3

6

0

1

3

2

1

23

2

4

6

5

7

0

5

10

15

20

25

2009 2010 2011 2012 2013 2014

機械/製造 化学/製薬 自動車関連 資源・エネルギー その他

(件数)

18

12

17

20

17

25

時期 日系企業名 業種買収価格(推定)

(億円)

1 2013/09 LIXIL 機械/製造(サニタリー)

約3,816億円

2 2014/01 スギノマシン自動車関連

(整備用機械)10億円

3 2014/01 豊田合成自動車関連

(自動車部品)不明

4 2014/01 ニプロヨーヨッパN.V.機械/製造(産業機械)

不明

5 2014/02 東洋紡、インドラマ

化学/製薬(特殊繊維)

不明

6 2014/03 三菱商事化学/製薬(化学薬品)

19.37億円

7 2014/03 電通イージス・ネットワーク

その他(情報サービス)

不明

8 2014/04 ニフコ自動車関連

(自動車部品)不明

9 2014/04 豊田通商資源/エネルギー

(環境)不明

10 2014/05 三菱日立製鉄機械機械/製造(製鉄機械)

不明

11 2014/05 モトーレンティーアイ自動車関連(サービス)

不明

12 2014/05 アイテリジェンス(NTTデータ子会社)

その他(情報サービス)

不明

13 2014/05 新日鉄住金エンジニアリング

その他(環境)

190億円

14 2014/07 IHI 機械/製造(大型機械)

不明

15 2014/07 三菱レイヨン自動車関連

(自動車部品)30億円

16 2014/10 アグロカネショウ化学/製薬(化学薬品)

不明

17 2014/10 栗田工業化学/製薬(化学薬品)

340億円

18 2014/10 リニカルその他

(医療支援)10.26億円

19 2014/11 JFEエンジニアリング  [JFEホールディングス]

資源/エネルギー(発電)

不明

20 2014/11 トプコンポジショニング システムズ(TPS) (トプコン孫会社)

機械/製造(産業機械部品)

不明

時期 日系企業名 業種買収価格(推定)

(億円)

21 2014/11 サーモス[大陽日酸]その他(小売)

21.62億円

22 2014/11 合同会社RGIP(リクルートホールディングス運営ファンド)

その他(情報サービス)

不明

23 2014/11 合同会社RSPファンド5号(リクルートホールディングス運営ファンド)

その他(サービス)

不明

24 2014/11 NTTコムセキュリティー (日本電信電話<NTT>孫会社

その他(サービス)

不明

25 2014/12 月島機械機械/製造(産業機械)

約30億円

26 2014/12   ホソカワアルピネ  [ホソカワミクロン]

機械/製造(産業材料)

不明

27 2014/12 NMA Germany       (日本電産子会社)

自動車関連(産業機械)

不明

28 2014/12 ミネベア、日本政策投資銀行(DBJ)機械/製造

(精密)100億円

29 2015/01 Hitachi Zosen Inova AG (HZI) [日立造船]

資源/エネルギー(保守サービス)

不明

30 2015/01 DMG MORI GmbH [DMG森精機(旧森精機製作所)]

機械/製造(産業機械)

75.1億円

31 2015/02 松風化学/製薬(医療材料)

22.21億円

32 2015/03 NTTコミュニケーションズその他

(情報サービス)約1,000億円

33 2015/03 Hitachi Zosen Inova AG (HZI) [日立造船]

化学/製薬(化学薬品)

1億円

34 2015/03 マニー化学/製薬(医療材料)

不明

35 2015/04 日本ペイントホールディングス化学/製薬

(塗料)約10億円

36 2015/05 新東工業機械/製造(産業機械)

不明

37 2015/05 明電舎機械/製造

(部品その他)不明

38 2015/08 電気化学工業科学/製薬(医薬品)

100億円

39 2015/09 三井造船 輸送用機器 228億円

40 2015/09 京セラドキュメントソリューションズ機械/製造

(精密)約50億円

Page 6: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

8 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

■■ ドイツの Hidden Champion 企業 ■■

これらの中堅中小企業の多くは、同族経営の下、独立路線で発展してきました。ものづくりの

伝統に裏付けられた確かな技術に加え、ともすると大手企業からの価格引下げ圧力にさらされ

やすい過度な「ケイレツ」から一定の距離を置きながら、利益の伴わない量の拡大を追わず、

価格に転嫁し得る高付加価値の製品やサービスに特化することで高い専門性と収益性を確保して

います。一方で限られた経営資源の下で海外展開にも積極的に取り組んでおり、グローバルな

企業風土も併せ持っているとされています。しかしながら日本の中堅中小企業を取り巻く状況と

同様に、グローバルベースでの競争激化、事業拡大のための経営資源・資金調達の必要性、

さらには後継者問題などの課題の中で、ファンドからの出資を仰いだり、取引のある海外企業

とのアライアンスに活路を見出す企業が次第に増えてきています。

日系企業にとっての Hidden Champion 企業買収のメリットは、欧州において自前で営業基盤を

構築するのと比べて遥かに短い時間で新たな商圏が手に入ること、さらにこれらの企業が有する

高い技術力・製品を自社のラインアップに加えることが可能となる点です。日本企業にとって、

新興国と比べて欧州では割高な労働コストや硬直的な雇用条件もあり、不必要な事業や人員を

抱えるリスクのある大型買収はよほど大きなメリットがない限り仕掛けにくいという事情が

あります。この点において特定領域に事業を集中している Hidden Champion 企業は、日系企業に

とって相互補完性の高いパートナーになり得ると考えられます。

実際にドイツの Hidden Champion 企業を買収した日系企業の方の話では、ガバナンスの

スタイルや考え方に違いがあること、また元々単独で競争力を維持してきたこともあり、

買収後も従来の方針を踏襲しながらある程度経営面での自由度を持たせることも必要との声も

聞かれます。一方でドイツ側に日系企業の技術力を高くリスペクトする土壌があることから、

双方の融合が進んだ後は、営業上のシナジー効果も大きいとのポジティブな反応が大半です。

ちなみに図表 5 は、近年日系企業が買収した地場中堅中小企業の所在地を示したものですが、

旧東独地域も含めドイツ国内に分散しており、前述した「Decentralization」の裾野の広さを

物語っています。日系企業にとって欧州でのビジネス拡大を標榜する上で、ドイツ各地に所在

する Hidden Champion とのアライアンスは大きな鍵になり得るのではないかと考えられます。

Page 7: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

9 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

図表 5 日系企業が買収したドイツ中堅中小企業例

(資料)各種資料より BTMU デュッセルドルフ支店作成

■■ 投資先としてのドイツの魅⼒ ■■

ここまでドイツ経済・産業の特徴である Decentralization と Hidden Champion にフォーカス

しながら、日系企業によるドイツの進出動向を述べてきましたが、最後に日系企業の投資先

としてのドイツの魅力を改めて整理します。

まず筆頭に挙げられるのは、欧州最大の経済規模を誇る産業基盤です。高い知名度を有する

グローバル大企業に加え、特定の領域で高い競争力を有する Hidden Champion 企業が多数存在し、

充実したサプライチェーンが構築されています。欧州市場は、制度・規格等が複雑である等、

域外企業にとって閉鎖的・参入のハードルが高いとの指摘もありますが、競争力の高いドイツ

有力企業との商流を構築出来れば、欧州域内のみならずグローバルでのビジネス拡大の大きな

チャンスとなります。ちなみに弊行は欧州各国に拠点を展開していますが、一般事業法人の

お客さまの商取引に基づく事務取扱件数は欧州域内でドイツが最多で、ドイツが欧州における

商売・物流の中心地であることのひとつの証左といえます。

次に、強固な経済・産業基盤を支える優れたビジネスインフラが挙げられます。欧州の中心

に位置する地理的優位性にも恵まれ、空港・港・国内全土に広がる高速道路(アウトバーン)に

よりドイツ各地から欧州全域への容易なアクセスが可能です。また主要都市の見本市(メッセ)

会場では国際的な大規模見本市が開催され、ビジネスの重要なマッチングの場を提供しています。

Bokela:機械・製造(カールスルーエ)

TK Industries:化学(ゼルビッツ)

KTW Group:自動車関連(ヴァイセンブルク)

Geraet und Pumpembau:自動車関連(メルベルスロート)

Merz Dental:化学・製薬(リュートイェンブルク)

Tridelta:電機(ヘルムスドルフ)

デュッセルドルフ

シュトゥットガルト

ミュンヘン

ドレスデン

ベルリン

ハンブルク

Zippel:自動車関連(ノイトラウプリング)

Phoenix Pure Water:機械(ブルッフザール)

KTS Group:自動車関連(ゾーリンゲン)

Partec:医療機器(ゲルリッツ)

Standardkessel Power Systems:エネルギー(デュイスブルク)

フランクフルトWachendorff Electroniks:電子機器(ガイゼンハイム)

Hueco automotive:自動車関連(エスペルカンプ)

Page 8: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

10 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

さらに全国各地に形成されている特色ある産業クラスターは、研究開発や職業訓練の枠組みも

含め、大企業のみならず中堅中小企業も含んだ企業間ネットワークの発達に大きな役割を

果たしており、地域経済の活性化・雇用の安定化にも繋がっています。

ドイツの近年の安定した経済状況、投資環境の改善も重要な要素です。ドイツというと

労働組合による強力な賃上げ要求と硬直的な雇用体系をイメージされる方も多いと思いますが、

前シュレーダー政権が導入した労働市場改革の効果もあり、労働市場の柔軟化と失業率の改善に

成功し、賃金水準は他の西欧諸国との比較でも安定して推移しています。主要都市の不動産

価格・オフィス賃料等も、地方分散型の経済構造ゆえにその上昇率は他の西欧諸国の主要都市と

比べて緩やかです。またかつては旧西独地域との経済格差が大きかった旧東独地域でも、

各種インフラの整備や有力企業の投資誘致により近年は旧西独地域を上回る成長率を記録して

います。支給の対象となる地域・目的は縮小傾向にあるものの、雇用対策を主眼とした

新規設備投資に係る助成金制度を活用すれば初期投資額を抑えることが可能であり、欧州域内

でのグリーンフィールド設備投資の有力な候補地となっています。

さらに税率の面でも、法人実効税率は欧州主要各国の平均的水準にあることに加え、昨年

12 月に日独政府間で新租税協定が署名され、対日配当に係る源泉税率も 2017 年 1 月より現状の

15%からゼロに引き下げられる予定です。これまで日系企業の欧州域内オペレーションに

おいて、ビジネスの規模はドイツ子会社が最大であっても、対日配当源泉税率の高さから域内の

持株会社を英国やオランダなどに置く企業もありましたが、今回の合意により日系企業にとって

対独投資における最大の懸案のひとつが解消することになります。

図表 6 ユーロ圏労働コストの伸び率 図表 7 主要国の法人実効税率比較(2015)

(資料)EUROSTATより BTMUデュッセルドルフ支店作成 (注)2005~2012 年の年率平均伸び率

(資料)OECDよりBTMUデュッセルドルフ支店作成

0% 2% 4% 6% 8% 10%

ギリシャ

ポルトガル

ドイツ

アイルランド

オランダ

マルタ

ユーロ圏

イタリア

ルクセンブルク

フランス

ベルギー

キプロス

スペイン

オーストリア

フィンランド

スロベニア

スロバキア

エストニア

0% 10% 20% 30% 40%

アイルランド

チェコ

ハンガリ

ポーランド

英国

トルコ

スイス

デンマーク

オーストリア

オランダ

ギリシャ

イタリア

スペイン

ドイツ

日本

ベルギー

フランス

米国

Page 9: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向

11 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

もちろんドイツ経済・産業にも弱点はあり、高い輸出依存度ゆえに国外要因に景気が左右され

やすいことに加え、近年海外での投資を優先するあまり国内投資が低水準に留まり国内産業が

空洞化しつつあるとの懸念の声も根強くあります。また冒頭に記した難民の流入は、中長期的

には新たな働き手・消費の担い手としてプラスの影響も見込めるものの、短期的には治安への

不安から堅調な消費のブレーキになる可能性があります。しかしながら、10 年ほど前までは

高失業率と低成長にあえぎ「欧州の病人」とも言われていた状況から復活し、さらに変動の

激しい昨今のグローバル情勢の中で高い競争力を維持しているドイツ経済・産業の足腰の

強さには、前述の歴史的背景や、ドイツ固有の各種制度によるところも大きいものの、同じ

「ものづくり大国」である日本にとって参考にすべき点も多いと思います。

日独政府は 2014 年 4 月の安倍首相の訪独時に両国の中堅中小企業の交流をより深めていく

ことで合意し、以降政府・民間レベルの各種取り組みが活性化しています。弊行のお客さまの

ドイツに対する関心も高まっており、現在弊行では潜在的に日系企業のビジネスパートナーと

なり得る地場企業の情報提供に注力しています。引き続きお客さまのドイツにおけるビジネス

拡大へのサポートを通じ、日独双方の経済・産業の発展に微力ながら貢献したいと考えています。

(以 上)

筆者略歴 1989 年 東京外国語大学卒業後、東京銀行(現 三菱東京 UFJ 銀行)に入行 1993 年 語学研修生としてドイツに赴任後、デュッセルドルフ支店に勤務 1995 年 神田支店 1998 年 東京三菱銀行(現 三菱東京 UFJ 銀行)営業第一本部営業第三部 2000 年 デュッセルドルフ支店 2005 年 マサチューセッツ工科大学へ留学 2006 年 三菱東京 UFJ 銀行国際企画部 2010 年 欧州企画部 次長(ロンドン駐在) 2013 年 欧州企画部 副部長 2014 年 ドイツ総支配人 兼 デュッセルドルフ支店長 現在に至る

Page 10: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

12 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

公益財団法人 国際通貨研究所

開発経済調査部 研究員

五味 佑子

1. 「1 つの ASEAN」が始動

2015 年末に AEC(ASEAN 経済共同体)が発足した。AEC は、「単一市場と生産基地としての

ASEAN」を創設するものであり、具体的には①単一市場と生産基地、②競争力のある経済地域、

③公平な経済発展、④グローバル経済への統合という 4 つの柱に沿って、AEC ブループリント(工

程表)に基づき統合を進められた。当初 311 あった工程表の施策は、最終的に約 2 倍の 611 に上

った。工程表の施策のうち 506 が重点施策と位置づけられ、その 50.6%が第 1 の柱である①単一

市場と生産基地に関するものであった。第 1 の柱については、特に関税撤廃に大きな進捗がみら

れ、ASEAN10 カ国で 95.99%の関税撤廃が実現している。こうして「単一市場と生産基地として

の ASEAN」を推進してきた ASEAN だが、重点施策以外の施策を含む工程表全体の実行率につい

ては、2015 年 10 月末時点で 79.5%に留まり、工程表 2015 で未完了のものを 2016 年末までに実

行すること、2018 年までに CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国が実施す

べき施策を実行することが優先課題となっており、今後 3 年間はこうした積み残し作業に集中的

に取り組んでいくことになるだろう。

図表 1:AEC ブループリントの重点施策実行状況(%)

出所:ASEAN 事務局

2. 2025 年の ASEAN は「連結性(connectivity)」がキーワードに

2016 年以降の AEC の統合の深化に向けては、「AEC ブループリント 2025」が発表されている。

それによると、2025 年の AEC は①高度に統合され、まとまりのある経済、②競争力のある、革

新的で、動的な ASEAN、③改善された連結性とセクター間の協働、④回復力のある、人々重視、

人々中心の ASEAN、⑤グローバル ASEAN を目指すとされている。

100

100

90.5

92.4

9.5

7.6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

④グローバル経済への統合

③公平な経済発展

②競争力のある経済地域

①単一市場と生産基地

実施済

実施未済

●2025 年の ASEAN 経済共同体の展望●

Page 11: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

13 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

図表 2:AEC ブループリント 2025 の概要

柱 特徴 項目

①高度に統合され、まとまりのある経済

ASEAN 内の財、サービス、投資、資本、技術労働者の円滑な移動を促進する。

・物品貿易の自由化 ・サービス貿易の自由化 ・投資環境の整備 ・金融統合、金融包摂、金融安定 ・技術労働者とビジネス訪問者の移動の促進 ・グローバルバリューチェーンにおける参加促進

②競争力のある、 革新的で、動的なASEAN

地域の競争力と生産性の向上に資する要素に注力する。

・効果的な競争政策の実施 ・消費者保護 ・知的財産権における協働強化 ・生産性向上による成長、イノベーション、研究開発、技

術商品化 ・課税協働 ・グッドガバナンス ・効果的で効率的、分かりやすく、反応が早い規制の実施・持続的な経済発展 ・グローバルな潮流と貿易関係の課題への戦略策定

③拡張された連結性とセクター間の協働

様々なセクター(輸送、情報通信、エネルギー)を巻き込んだ経済の連結性を拡張する。

・輸送ネットワーク構築、航空・船舶の単一市場、輸送システム強化

・情報通信技術のインフラ強化 ・電子商取引システム構築にむけた協働強化 ・エネルギー保障、アクセス向上のためのエネルギー連結

性強化 ・人口増加、所得水準向上に備えた食料、農業、林業に関

する域内協力 ・質の高い観光地としての ASEAN を実現 ・ヘルスケア産業の発展 ・鉱物セクターの健全な発展 ・科学技術の発展

④回復力のある、人々重視、人々中心の ASEAN

既にある要素や他の重要な要素を深化させることによって、公正な経済発展を強化する。

・小規模、中小企業の役割強化 ・民間セクターの役割強化 ・官民協働(PPP)強化 ・カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムを支援し、開発ギャップを縮小

・域内統合におけるステークホルダーの寄与拡大

⑤グローバルなASEAN

自由貿易協定や包括的経済連携協定を通じて、グローバル経済に地域を統合させる。

・二国間の自由貿易協定や東アジア地域包括的経済連携の交渉など

出所:ASEAN 事務局

2015 年までの AEC ブループリントとの違いは、AEC ブループリント 2025 では、「連結性

(connectivity)」が柱として加わっているという点である。

連結性については、2010 年に発表された Master plan on ASEAN Connectivity(ASEAN 連結性マ

スタープラン、以下 MPAC)に則り進められてきた。MPAC では、①物理的連結性、②制度的連

結性、③人と人との連結性の 3 つが重要な要素となっており、物理的、制度的インフラを整備す

るとともに、ASEAN の人と人との交流を深めていくという趣旨であると考えられる。①物理的

連結性には、ASEAN をつなぐ陸の高速道路(ASEAN Highway Network、Singapore-Kunming Rail

Link など)の他、海のネットワーク、エネルギー接続プロジェクトなどがある。②制度的連結性

では、輸送円滑化の協定が複数締結されている。③人と人との連結性については、例としてASEAN

の教育カリキュラムの編纂が進められた。AEC 発足後 2025 年までの MPAC については、2016 年

中に明らかになる見込みであるが、依然としてインフラや連結性の整備状況をみると、物理面・

制度面ともに国ごとにばらつきがある(図表 3、図表 4)。ASEAN では、ASEAN の連結性を高め

ていく上での課題として、官民連携などによるヒト・モノ・カネなど資源の自由な移動、大小の

Page 12: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

14 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

地域あるいは国家などさまざまなレベルでのセクター間の協働、関連するさまざまな利害当事者

の積極的な参画が挙げられており、これらに対応する具体策も検討されているものと思われる1。

なお、2025 年に向けて、①の物理的連結性については、すでにいくつか計画が発表されているも

のがある。まず、運輸については、ASEAN strategic transport plan 2016-2025 が公表されており、

空路、陸路、海路、持続可能な輸送、輸送促進という 5 つの柱に沿って、2025 年までのアクショ

ンプランが記述されている。例えば、陸路については、前述の陸の高速道路の 2 つのプロジェク

トを完成させるとともに、輸送システムの利用拡大や交通災害の減少など、インフラの運用面に

ついても記述されている。また、ICT インフラについては、ASEAN ICT master plan 2020 において、

ICT 産業の発展、官民における ICT の利用促進、情報のデジタル化を通じたアクセス環境の改善

を推進し、低コストでビジネスが可能な市場を構築することを意図している。

図表 3:国際競争力指数 2015-2016 における ASEAN 各国のインフラスコア

出所:World Economic Forum Global Competitiveness index 2015-2016 (ブルネイはデータなし)

(注 1)インフラと連結性の指数は、輸送インフラ、エネルギーインフラ、ICT インフラの 3 分野、合計

13 項目の指数から構成されている。 (注 2)インフラスコアは 1~7 点でスコアリングされ、7 が最高点。

図表 4:ビジネス環境ランキングにおける ASEAN 各国の全体スコア

出所:World bank “Doing Business 2016”

(注 1)Doing business における全体スコアは、起業、建設許可、電力、不動産、動産・信用保証制

度、少数株主の保護、税制、貿易、民事紛争解決手続、倒産手続、労働市場規制の 11 の分

野から構成されている。 (注 2)全体スコアは 100 点満点でスコアリングされる。

1 ASEAN Annual report 2013-2014 より

3.19 4.19 3.23 5.51 2.09 3.44

6.49

4.62 3.84

101

62

98

24

134

90

2

44

76

0

20

40

60

80

100

120

140

160

インフラスコア

国別順位

(140カ国中)

84 

127 

109 

134 

18 

167 

103 

49 

90 

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

全体スコア

国別総合順位

(189カ国中)

Page 13: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

15 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

こうした各セクター間をつなぐインフラも重要だが、経済共同体を支える金融のインフラもま

た重要である。金融統合については、AEC ブループリント 2025 の第 1 の柱(高度に統合され、

まとまりのある経済)に含まれている。ASEAN 金融セクターの中心である銀行セクターについ

ては、ASEAN は 2014 年に承認された ASEAN 銀行統合フレームワーク (ABIF)に沿って統合

を進めている。具体的には、適格 ASEAN 銀行(QAB)と呼ばれる一定の水準を満たした ASEAN

出身(indigenous)の銀行に対し、域内での市場アクセスやオペレーション上の柔軟性を与え、こ

れらの銀行のネットワークがリードする形で域内の銀行セクター統合を目指すというものである。

ASEAN の国々では金融市場の発展度合が異なるため、準備ができ、二国間で合意が整ってから

順次進めていくことになっている。その先陣を切る形で、2014 年末にはインドネシア中銀、イン

ドネシア金融庁及びマレーシア中銀が ABIF に関する 2 国間の覚書を締結している。別途 2011 年

に ASEAN 中央銀行総裁が採択した ASEAN 金融統合フレームワーク(AFIF)では、2020 年まで

に「半統合」を目指すとしており、完全な銀行セクター統合がなされるわけではないが、こうし

たプロセスの中で各国の銀行セクター向上に向けた取り組みがなされることが期待され、ASEAN

全体で金融市場が活性化することが期待される。

図表 5:国際競争力指数 2015-2016 における ASEAN 各国の金融スコア

出所:World Economic Forum Global Competitiveness index 2015-2016 (ブルネイはデータなし)

(注 1)金融市場発展の指数は、効率性・深度、安定性の 2 分野、合計 14 項目から構成されている。

(注 2)金融スコアは 1~7 点でスコアリングされ、7 が最高点。

図表 6:ASEAN の 15 歳以上の口座保有割合(%、2014 年)

出所:World Bank Global Findex (ブルネイはデータなし。ラオスは 2011 年のデータ)

3.92 4.19 3.81

5.16

2.4 4.21

5.57

4.38 3.65

66

49

74

9

138

48

2

39

84

0

20

40

60

80

100

120

140

160

金融スコア

国別順位

(140カ国中)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

Page 14: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

16 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

3. おわりに

AEC の目的は、グローバルで重要な地位を占める大きなマーケットをつくることである。AEC

発足に向けて、さまざまな取り組みがなされてきたが、依然 ASEAN10 カ国におけるビジネス環

境には開きがある。これを反映して、日本と ASEAN 各国の貿易や直接投資の状況をみても違い

がある(図表 7、図表 8)。これから 2025 年に向けて域内の連結性が高まっていけば、域内におけ

るヒト・モノ・カネの移動が容易になり、「単一の ASEAN」としての魅力が増すことになる。ま

た AEC で得られる利益がメンバー国間で公平に分配されれば、今はまだ経済発展に大きく差がつ

いている 10 カ国も、徐々にではあるが経済規模、所得水準の底上げがなされ、このギャップが平

準化していくことが期待される。AEC は政治統合を目指すものではなく、各国の事情に合わせな

がらコンセンサスベースで統合が進められる漸進的なものではあるが、長期的には、「単一市場と

生産基地」としての ASEAN から、「単一市場と消費基地」へと向かっていくものと予想される。

図表 7:日本-ASEAN の貿易額(2014 年)

出所:ASEAN Stat database

図表 8:日本から ASEAN へのネット直接投資(2014 年)

日本からの直接投資(百万ドル) 日本のシェア(%)

ブルネイ 26.6 4.7

カンボジア 84.9 4.9

インドネシア 5,871.8 26.4

ラオス 2.1 0.2

マレーシア 680.3 6.3

ミャンマー 37.7 4.0

フィリピン 117.5 1.9

シンガポール 1,756.8 2.4

タイ 3,834.2 33.2

ベトナム 969.2 10.5

ASEAN 合計 13,381.1 9.8

出所:ASEAN FDI Database

対日輸出(百万ドル)

対日輸入(百万ドル)

対日輸出シェア 対日輸入シェア

ブルネイ 3,932 145 37.2 4.0

カンボジア 345 493 3.2 2.6

インドネシア 23,166 17,008 13.1 9.5

ラオス 54 56 2.0 2.0

マレーシア 25,233 16,731 10.8 8.0

ミャンマー 523 1,648 4.7 10.2

フィリピン 13,919 5,539 22.5 8.2

シンガポール 16,742 20,106 4.1 5.5

タイ 21,821 35,711 9.6 15.7

ベトナム 14,491 11,383 9.8 7.8

ASEAN合計 120,224 108,818 9.3 8.8

Page 15: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

海外の政治・経済・産業 2025 年の ASEAN 経済共同体の展望

17 GLOBAL Angle 2016.3 No.120

<参考文献> ASEAN Secretariat ・ASEAN Economic Community 2015: Progress and Key Achievements ・ASEAN 2025 AT A GLANCE ・ASEAN ECONOMIC COMMUNITY BLUEPRINT 2025 ・KUALA LUMPUR TRANSPORT STRATEGIC PLAN (ASEAN TRANSPORT STRATEGIC PLAN) 2016-2025 ・THE ASEAN ICT MASTERPLAN 2020

World Bank ・ Doing business 2016

World Economic Forum ・The Global Competitiveness Report 2015-2016

当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。

ご利用に関しては、すべて御客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は

信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性を保証するものではありません。

内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作

権法により保護されております。全文または一部を転載する場合は出所を明記してください。 Copyright 2016 Institute for International Monetary Affairs All rights reserved. Except for brief quotations embodied in articles and reviews, no part of this publication may be reproduced in any form or by any means, including photocopy, without permission from the Institute for International Monetary Affairs.

Address: 3-2, Nihombashi Hongokucho 1-chome, Chuo-ku, Tokyo 103-0021, Japan Telephone: 81-3-3245-6934, Facsimile: 81-3-3231-5422

(執筆者)

2013 年 4 月より現職。主に ASEAN、中国の経済・金融調査を担当。

(公益財団法人 国際通貨研究所)

〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町 1-3-2

電話:03-3245-6934(代)ファックス:03-3231-5422

e-mail: [email protected]

URL: http://www.iima.or.jp

Page 16: 2016国際情報 ドイツ経済・産業の強みと最近の日系企業進出動向 5 GLOBAL Angle 2016.3 No.120 図表1 は、ドイツを大きく6 つの経済圏に分け、各経済圏の特徴と主な地場有力企業を

® 2016 年 3 月号(No.120)注目 REPORT

2016 年 2 月 10 日発行

発行所・発行人:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社

編 集 責 任:貿易投資相談部 E-mail [email protected]

〒105-8501 東京都港区虎ノ門 5-11-2 オランダヒルズ森タワー

TEL:03-6733-1040 FAX:03-6733-1049

■本情報提供サービスは、運用上あるいは技術上の理由により適宜中止、中断ないし変

更することがありますが、この場合でも弊社および原資料提供者は如何なる責任も負

わないものとします。

■本配信の記事・内容は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行

動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様ご自身でご判断

下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当記事・内容は信頼できると思われる

情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性を保証するものではありませ

ん。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。

■本配信の記事・内容は著作物であり、著作権法により保護されております。一部を引

用する際は必ず出所(弊社名、レポート名等)を明記してください。本配信の記事・

内容の無断転載・複製は固くお断りいたします。転載・複製する際は著作権者の許諾

が必要ですので、弊社までご連絡下さい。

■本記事は、特に断りのない限り、執筆者個人の見解です。筆者名に付している所属企

業・団体名、肩書きおよび各記事末尾の筆者略歴は、筆者紹介のためのものであるこ

とをご了承下さい。