チュートリアル「障害とコミュニケーション」2017/06/17 ...

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障害とコミュニケーション 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 情報学専攻 助教 安 啓一 (やすけいいち) 2017/6/17 1 2017/06/17 音学シンポジウム2017 チュートリアル講演

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Health & Medicine


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Page 1: チュートリアル「障害とコミュニケーション」2017/06/17  音学シンポジウム2017

障害とコミュニケーション

筑波技術大学 産業技術学部産業情報学科 情報学専攻 助教

安啓一 (やすけいいち)

2017/6/17 1

2017/06/17 音学シンポジウム2017チュートリアル講演

Page 2: チュートリアル「障害とコミュニケーション」2017/06/17  音学シンポジウム2017

自己紹介

• 名前: 安啓一 (やすけいいち)

• 所属:– 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科

– 国立障害者リハビリテーションセンター研究所(~2017.3)

– 上智大学理工学部情報理工学科荒井研究室(~2014.8)

• 専門:音声コミュニケーションに関わる研究– 吃音(どもり)の研究(音声研究・脳研究)

– 高齢者の音声知覚と聴覚障害の関係• 摩擦音・破擦音の識別

– 補聴器応用のための音声強調処理

2017/6/17 2ほぼすべての研究が当事者・言語聴覚士・耳鼻科の先生との共同研究

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2017/6/17 3

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Communication Disorders:コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群

• DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)– (1) 言語症/言語障害(Language Disorder)– (2)語音症/語音障害(Speech Sound Disorder)– (3) 小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害(吃音)

(Childhood--Onset Fluency Disorder(Stuttering))– (4) 社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的) コミュニケーション障害(Social (Pragmatic) Communication Disorder)

– (5) 特定不能のコミュニケーション症/特定不能のコミュニケーション障害(Unspecified Communication Disorder)

• ICF(国際生活機能分類:国際障害分類改定版)– 「活動と参加」の一つに「コミュニケーション」が挙げられている

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コミュニケーションに関わる障害

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予稿より

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Speech Chain (ことばの鎖)

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話者 聴取者

Gick, Wilson, Derrick, 2013

聴覚フィードバック

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2017/6/17 7

栗原一貴,塚田浩二, 2012http://www.unryu.org/top-english/speechjammer

①指向性マイクで声を拾い

②遅らせた声をパラメトリックスピーカで返す

向けられた相手は、急に喋りづらくなる

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遅延聴覚フィードバックDAF (Delayed auditory feedback)

• 方法: 自己の音声を25-200 ms遅らせて聞く–携帯型、ポケット型、補聴器型

–スマホアプリ、PCアプリ

• 非吃音者では流暢性低下

• 吃音者の約3割に有効–重症の場合など

–自己の音声聴取を阻害し、発話から意識をそらす効果

• パーキンソン病患者において流暢性改善

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DAF装置・ソフト

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補聴器型DAF装置SpeechEasy

DAF/FAF Assistant (ArtefactSoft)

iOS/Android App.DAF Professional

iOS App.DAF/FAF Aid

iOS App.Easy AAF

2017/6/17

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吃音とは:いわゆる「どもり」

• 症状– 中核症状

• 種類– 発達性吃音:主に幼児期に発症、病態不明、原因は7割遺伝– 獲得性吃音:青年期以降、神経原性 or 心因性

• 臨床経過– 発症率(幼児期)8%、有病率0.7% (Yairi & Ambrose, 2013)– 7〜8割が治癒(幼児期)– 2〜3割が成人まで続き、発話場面を回避するようになる

• 治療法– 環境調整・流暢性形成法・吃音緩和法– 認知行動療法(森, 2015)– DAF: 遅延聴覚フィードバック、メトロノーム(スマホアプリ等も)

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こここここんにちは(連発)しーーーつれいします(伸発).....(声が出ない)おはようございます(難発)

2017/6/17

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3テスラMRIによる脳領域間の接続関係の計測

• 吃音者(Sommer et al., 2002; Chang et al., 2011)– 左弓状束(前後の言語脳と運動野を接続)の乱れ

DTI (diffusion tensor imaging拡散テンソル画像法) で神経線維(白質)のまとまり方を計測

– 発話関連の脳領域間の機能接続が低下DMN (default mode network) として、安静時脳活動の領域間相関

• 症状との関連、訓練前後の比較

• 非吃音者との比較

3.0テスラMRI(シーメンス社製) 弓状束の経路接続(Catani et al., 2005)11

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左半球言語ネットワーク(弓状束)の解剖学的接続低下

• 吃音者における左弓状束を中心とした神経線維の接続性が低下(左上: 赤、左下: 黄)

–弁蓋部接続部 [-35, -1, 23]

–角回接続部[-32, -61, 33]

p < 0.001, uncorrected

左 右

前 後

12

角回接続部FA[-32, -61, 33]

非吃音者 吃音者

弁蓋部

角回

左弓状束を中心とした神経線維の接続が低下

*{

Yasu et al., 2016

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吃音者の職場での困難ランキング

1.電話

2.特定の言葉(挨拶、固有名詞、名前)

3.雑談・日常会話–出典: 飯村「吃音がある人の職業データベースの集計」全国言友会連絡協議会2014

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バーチャルリアリティを使用した吃音の改善訓練(Brundage et al. 2006)

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面接訓練

発表練習

Copyright 1996, Virtually Better, Inc.

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Speech Chain (ことばの鎖)

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話者 聴取者

Gick, Wilson, Derrick, 2013

聴覚障害

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補聴器、人工内耳のための処理「臨界帯域圧縮処理」(Yasu et al., 2008)

• 音の細かな高さの聞き分けをする「聴覚フィルタ」は聴覚障害者では健聴者に比べて帯域幅が広くなり、周波数を細かく分離する能力が低下→音声の聞き取りやすさが低下

• あらかじめ、周波数軸上で情報を圧縮することによって、フィルタが広がっていても 音声の明瞭性を保つ処理

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健聴耳

難聴耳

周波数応答

(dB

)

中心周波数 (Hz)

2017/6/17

周波数弁別が低下

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臨界帯域圧縮処理の流れ

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(1)入力音を周波数に変換する

(2)周波数(スペクトル)の包絡(おおよその形)を抽出する(3)帯域に分割する。(4)各帯域で周波数軸で圧縮する

(5)周波数成分を元の音信号に戻す

元の音声

処理後の音声

周波数

(Hz)

周波数

(Hz)

周波数

振幅

Yasu et al. 2008

Page 19: チュートリアル「障害とコミュニケーション」2017/06/17  音学シンポジウム2017

無声摩擦音・破擦音の識別摩擦部の持続時間を変化させると、途中で破擦音(ち)から摩擦音(し)に聞こえ方が変化

(Howell and Rosen, JASA, 73(7), 976-984,1983; 安ら, 日本音響学会誌, 2012)

T (ms)

60 80 100 120 140 160 180 200

# 1 2 3 4 5 6 7 8

若年者 高齢者

192017/6/17

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Speech Chain (ことばの鎖)

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話者 聴取者

Gick, Wilson, Derrick, 2013

聴覚障害

視覚障害

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盲ろう: 視覚障害・聴覚障害の重複

• 盲ろう者のための触指文字ロボットの開発(森, 2013)

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触指文字ロボット

東京都盲ろう者支援センターHPよりhttp://www.tokyo-db.or.jp/?page_id=139

(森, 2013)

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障害者差別解消法(2016.4施行)

• 障害者の権利に関する条約における「合理的配慮」

– 「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されている。

• 吃音に関係する「合理的配慮」の例– 面接時間をのばす

– 電話に関係する仕事の免除

– 授業での発表をレポート課題に• など

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2017/6/17 23筑波技術大学

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CaptiOnlineキャプションライン(若月ら2014)

• 聴覚障害者に対する情報保障を行うための実験用ウェブサイト

• ウェブブラウザを用いてオンラインで文字通訳をおこなうことができるウェブアプリケーション

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謝辞

• 音学シンポジウム実行委員の皆様

• 筑波技術大学関係各位

• 国立障害者リハビリテーションセンター関係各位

• 上智大学関係各位

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