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エネルギー・環境技術の ポテンシャル・実用化評価検討会 報告書 2019 年6月 経済産業省 文部科学省

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エネルギー・環境技術の ポテンシャル・実用化評価検討会

報告書

2019 年6月

経済産業省 文部科学省

Page 2: 2019 年6月 経済産業省 文部科学省 - METI...排出量12.0 億トンの内訳(詳細表) 注釈: 国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計

はじめに

COP21(2015 年 11 月-12 月)において、「2℃目標」の達成や今世紀後半(2050 年以降)

に世界全体の温室効果ガスの排出量と除去量のバランスを達成することなどを目的とした

「パリ協定」が採択された。この目的を踏まえて、全ての締約国が長期戦略を作成するよう

努力すべきとされている。 パリ協定の長期目標の実現に向け、我が国では、地球温暖化対策推進本部(2015 年 11 月

26 日)及び COP21(2015 年 11 月 30 日-12 月 11 日)において、内閣総理大臣指示で、エネ

ルギー・環境イノベーション戦略を取りまとめる旨が表明された。これを受け、2016 年4

月、内閣府総合科学技術・イノベーション会議で、「エネルギー・環境イノベーション戦略」

が取りまとめられた。同戦略では、エネルギー・システム全体が最適化されることを前提に、

2050 年を見据え、①これまでの延長線の技術ではなく、非連続的でインパクトの大きい革

新的な技術、②大規模に導入することが可能で、大きな排出削減ポテンシャルが期待できる

技術、③実用化まで中長期を要し、かつ産学官の総力を結集すべき技術、④我が国が先導し

得る技術、我が国が優位性を発揮し得る技術の観点から、8つの有望分野(エネルギー・シ

ステム統合技術、システムを構成するコア技術(次世代パワーエレクトロニクス、革新的セ

ンサー、多目的超電導)、革新的生産プロセス、超軽量・耐熱構造材料、次世代蓄電池、水

素などエネルギーキャリアの製造・貯蔵・利用、次世代太陽光発電、次世代地熱発電、CO2

固定化・有効利用)を特定した。これらにより、2℃目標達成に世界で必要な約 300 億トン

超の CO2 削減量のうち、数 10 億~100 億トン超の削減(IEA 試算を踏まえて、選定した分

野において既に開発・実証が進んでいる技術の運用と合わせた数字)を期待できるものとし

た。2017 年9月には、エネルギー・環境イノベーション戦略に関するロードマップが策定

され、関係府省庁が一体となって協力することが求められている。 また、「地球温暖化対策計画」(2016 年5月閣議決定)においては、我が国はパリ協定を

踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能

力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立

させながら、長期的目標として 2050 年までに 80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとし

ている。 更に、2018 年7月に閣議決定された第5次「エネルギー基本計画」においては、初めて

2050 年について言及し、パリ協定発効に見られる脱炭素化への世界的なモメンタムを踏ま

え、エネルギー転換・脱炭素化への挑戦を掲げ、あらゆる選択肢の可能性を追求する方向性

を示している。 今般、パリ協定長期成長戦略懇談会(2018 年8月-2019 年4月)では、当該長期戦略に関

する基本的考え方について有識者による議論が行われるとともに、提言が取り纏められ、既

存技術のコストダウンも含めたイノベーションが重要であると指摘された。上述のように、

技術シーズに着目した戦略や技術ロードマップは既に存在するところであるが、パリ協定

を踏まえ、2050 年を見据えて「脱炭素社会」を今世紀後半のできるだけ早期に実現するた

めには、官民の投資を促進し、脱炭素化技術の実用化を促進する必要がある。よって、研究

開発・実用化状況の確認などにより、2050 年の社会が求める当該技術の需要・ポテンシャ

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ル 1※を再評価し、脱炭素社会の実現に向けたボトルネック課題を抽出し、見える化するこ

とが重要である。 こうした観点から、エネルギー・環境イノベーション戦略やエネルギー基本計画などで言

及されている主要な革新的な技術、特に CO2 大量削減に貢献する技術について、2050 年の

あるべき社会像に対する実用化の進捗状況の確認、実用化を阻害している内的・外的要因の

抽出、個別技術シーズのポテンシャル評価などを行い、需要があり脱炭素化のポテンシャル

を有する技術の実用化に求められる基礎基盤研究から社会実装までのボトルネック課題、

有望な技術オプションを客観的に抽出するため、本検討会を設置した。 今般とりまとめた主要な革新的な技術分野における課題については、2019 年に日本政府

として国連に提出する「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に反映していく。 また、本年中に策定することとされた「革新的環境イノベーション戦略」に活用していく。

1 本検討会においては、その技術が到達しうる性能・コストの理論値と現状のペースで研究開発を実施 した場合に 2050 年頃に到達が予測される性能・コストとの間の差分を技術ポテンシャルと定義する。

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1. CO2の大量排出源とその原因

1.1 全体像

2050 年を見据えた脱炭素化技術の実用化を促進するに当たっては、当該技術による温室

効果ガス削減ポテンシャルを客観的に評価しつつ、効果的に技術開発を進めていくことが

必要である。まず、温室効果ガスの大部分を占める CO2 に着目し、我が国における部門別

排出量について俯瞰する。

2016 年度の我が国のセクター別 CO2排出量は、総排出量 12.0 億トンのうち、家庭・業務

以外の大量排出セクターとしては、運輸(2.16 億トン、18%)、化学(0.65 億トン、5%)、鉄

鋼(1.66 億トン、14%)、窯業・土石(0.65 億トン、5%)、電力(4.6 億トン、38%)が挙げ

られる。

図 1-1 国内のセクター別 CO2 排出量 12.0 億トンの内訳(詳細表)

注釈:国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計

2016 年」を基に Deloitte 作成 出所:経済産業省(第 9 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

1.2 生産プロセスにおける CO2排出源

(1) 電力

まず、電力セクターについては、発電量の 8 割以上を占める火力発電から CO2 が大量に

排出されている。火力発電の方式は、大きく石炭火力、ガス火力、石油火力が存在する。発

電量はガス火力が 4,248 億 kWh と最も大きく、次いで石炭火力が 3,498 億 kWh、石油火力

が 976 億 kWh である。一方、CO2 排出量は石炭火力が 2.6 億トンと最も大きく、次いで、

ガス火力が 1.7 億トン、石油火力が 0.4 億トンである。石炭火力がガス火力に対して、発電

量が少ない一方で CO2 排出量が大きい理由は、石炭火力がコンバインド LNG 火力の約 2.3倍程度の CO2 排出原単位を有しているためである。

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図 1-2 電力セクターの CO2排出の概要

出所:Deloitte 作成

(2) 高炉製鉄

産業セクターの中で最も CO2 排出量が多いのは高炉製鉄プロセスである。高炉において

鉄鉱石を還元するプロセスが最も多くの CO2 排出を伴っており、年間 0.9 億トンの CO2 が

排出されている。その他にも、コークス炉、焼結炉、圧延工程において、多量の CO2排出を

伴いながら(製鉄プロセス全体で年間 1.39 億トン)、生産活動が行われている。

図 1-3 高炉製鉄プロセスの CO2排出の概要

出所:経済産業省(第 9 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

大量排出セクターにおけるCO2排出概要(電力セクター)

2016年度の電源構成*1 発電方式 発電量*1

石炭火力

石油火力

石炭33%

天然ガス40%

石油9%

水力8%

太陽光5%

原子力 石炭 天然ガス 石油 水力

太陽光 風力 地熱 バイオマス

2016年度発電電力量

10,507億kWhガス火力

コンバインドLNG火力

シングルサイクル

LNG火力

CO2排出量*3排出原単位*2

3,498億kWh

976億kWh

4,248億kWh

864 g-CO2/kWh

695 g-CO2/kWh

376 g-CO2/kWh

476 g-CO2/kWh

2.6億トン

0.4億トン

1.7億トン

*1:経済産業省「平成28年度エネルギー需給実績(速報) *2:電力中央研究所「日本における発電 技術のライフサイクルCO2排出量総合評価 (2016年7月)*3:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(2016年)」※発電量と排出原単位から算出した量ではない

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(3) 石油精製

石油精製セクターの CO2 排出の内訳では、蒸留などの分離精製プロセスや水蒸気改質の

工程で発生する原料由来の CO2 に加え、各工程の投入エネルギーに由来する CO2 が排出要

因である。なお、水蒸気改質および接触改質の工程では水素も発生しており、脱硫工程など

で使用されている。

図 1-4 石油精製の CO2 排出の概要

出所:経済産業省(第 9 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

(4) セメント

産業セクターの中で高炉製鉄に次いでプロセスとして CO2 排出量が多いのが、セメント

製造に係るプロセスである。CO2 発生源の特徴としては、CaCO3 など原料由来の CO2 が全

体の 60%程度を占めている。また、焼成工程で投入される石炭などの化石燃料に由来する

CO2 も一定量を占めている。最終的に、全プロセスの排ガスは一つにまとまり、原料工程付

近の設備から排出される。

図 1-5 セメント製造プロセスの CO2排出の概要

出所:経済産業省(第 9 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

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2. CO2排出量を大幅に削減できる技術分野の特定

これらの CO2 排出を多く排出するプロセスで既存技術を代替しうる革新的な技術例から、

水素、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(CCUS)、再生可能エネルギー・蓄エネ

ルギー、パワーエレクトロニクスについて、CO2排出量を大幅に削減できる共通の技術分野

として、検討することとした。

図 2-1 CO2大量排出セクターと技術領域の関係

出所:経済産業省(第 9 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会検討会資料 4)

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3. 温室効果ガスの大幅削減に向けた技術選択・実用化の方策

温室効果ガス排出削減は、不確実な未来に対し、極めて難しく広範な課題であり、一つの

革新的技術で世界を変えることは難しく、長期的な研究開発が必要な技術に対する民間投

資も難しい。これまで複数の技術や手法が提案されているが、それぞれ一長一短があり、前

提条件によって優劣が変わるので、一つに絞れないケースも多い。 そこで、基盤となる国内外の最新の科学的知見を充実させ、技術の絶え間ない見直しを行

うとともに、国による支援措置を含め、技術開発の在り方も常に検証することが必要である。 他方、技術が広く普及するためには、高効率といった科学的な価値観だけではなく、低コ

ストであることが絶対条件である。市場が求めるコストと脱炭素技術のコストのギャップ

は依然相当大きいというのが現状であり、脱炭素技術を大規模に社会導入するには、環境価

値を含め、より一層のコスト削減や導入を促す仕組みの構築が不可欠である。

3.1 技術選択の方策

(排出削減インパクト) 重視すべき技術選択に当たっては、温室効果ガス排出の大幅削減につながり得る技術で

あるとともに、その適用先も一つのプロセス、分野を超えて、社会やより多くの産業への適

用が可能でインパクトが大きいものであるといった視点が重要である。例えば、水素は、化

石燃料に依存している自動車燃料の代替だけでなく、石炭・LNG火力発電の代替、更には

製鉄分野の還元剤として使われているコークスの代替や、地球温暖化の最大の原因である

CO2 と反応させることで、石油化学産業の原料である原油・ナフサや都市ガスの原料である

天然ガスの代替に利用されるなど、極めて多岐にわたる利用が想定できる。パワーエレクト

ロニクス技術は、電力変換・制御性が高まることで、系統全体のエネルギー消費の低減だけ

でなく、機動的な電力需要の調整弁として系統安定化のための調整力の向上(Virtual Power Plant (VPP))や、再生可能エネルギーの導入によって変動する発電量に対する需要側での

電力使用量の応答(Demand Response (DR))などの分散・デジタル制御技術の性能向上に

も貢献することが期待される。同様に、蓄電池を始めとする蓄エネルギー技術についても、

変動性がネックとなり大規模導入が遅れている再生可能エネルギーの普及を加速させるた

めに極めて重要な技術である。蓄エネルギー技術は、電動車の動力源として利用できる他、

変動する再生可能エネルギーと接続した水素製造用水電解装置との組合せにより、水電解

装置設備の利用率の向上に資するなど、化石資源利用から電力利用へと社会を転換してい

く上での活用も期待される。その際、前提条件を開示した上で、市場での普及までを見通し

た客観的なライフサイクルベースでの温室効果ガス削減効果の評価(Life Cycle Assessment (LCA) )の下に、技術選択・開発の注力をしなければ本末転倒である。現状においては、そ

もそも温室効果ガス排出量の LCA 分析が行われていない場合が多いことに加え、仮に分析

が行われていたとしても、コスト分析と温室効果ガス排出量の LCA 分析が別に実施され、

比較分析も困難である場合も多いことが実態である。また、技術の導入に当たっては、全体

の熱マネジメントや副生物の有効利用(例えば、水電解で水素に加えて発生する酸素の有効

利用の検討など)などによりシステム全体の最適化を早い段階から念頭に置くという観点

が重要である。

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(排出が避けられない CO2 対策・利活用、物質循環・サーキュラーエコノミー) また、温室効果ガス排出を大幅に削減可能な技術を導入し、化石燃料利用を削減できたと

しても、脱炭素社会を実現する過程においては、CO2等の温室効果ガスの排出は避けられな

いため、これを回収し、貯留または有効利用、リサイクルすることも必要となってくる。ま

た、このような CO2 の貯留や有効利用、リサイクルという取組と共に、我々人類が過去の

経済・産業活動で膨大なエネルギーを投入し生み出してきた金属製品やプラスチック製品

などは、既に存在する重要な資源とも言えるものであり、あらゆる分野での資源循環を進め

ることで、資源制約に対応できるだけでなく、温室効果ガス排出削減にも貢献できる。欧米

においても循環経済の構築は重要な政策課題となっており、我が国としても技術面、制度面

の両面でこの循環型社会を構築していくことが重要である。

3.2 技術実用化の方策

温室効果ガス排出の大幅削減を可能とする技術をいかに社会に普及させていくかが今後

の鍵となる。最大の課題は、前述の通り、ユーザーが求めるコストと現在の技術で実現可

能なコストのギャップが極めて大きいことである。技術開発を通じてコスト削減を図る努

力を継続することが必要であるが、技術開発などが追い付かず、必要とされるタイミング

での大幅なコストダウンが難しい場合には、温室効果ガス排出の大幅削減を実現するため

の何らかの取組も必要となってくると考えられる。加えて、優れた技術の開発に向けて研

究開発の基盤を引き続き構築することも重要である。

ある程度技術が確立した後は、その技術を最適な舞台(市場、生産拠点など)で実証す

ることが重要である。利用可能なリソースの観点から最適な舞台が海外であることもあ

る。我が国での市場や生産拠点の立ち上げに固執せずに、国際連携を含め最適な舞台での

技術実証を行っていく。実証事業を進めていくうちに、新たな課題が浮かび上がることも

多い。場合によっては基礎研究にまで立ち返る必要もあり、産学連携で対応を進めること

が重要である。 また、技術開発や実証の段階を待つだけでなく、コストの観点を意識しながら、社会・産

業での実用化を図っていくという視点も重要である。水素などでは、①市場の立ち上がりの

時期は、CO2 削減効果が少ないが製造コストの影響が比較的小さい高付加価値品をターゲッ

トとする、②既存インフラを最大限活用する(例えば、既設ガス供給システムの許容範囲で

の、水素やエネルギーキャリアとしてのメタネーションガスの混入や、発電・自動車燃料(化

石燃料)へのバイオ燃料の混入など)、③LCA 分析により CO2排出削減効果が薄い手法であ

っても、安価な価格が実現できる手段を使って市場の拡大を図る(化石燃料由来の水素の活

用など)、④熱マネジメントや副生物の有効利用(例えば、水電解で水素に加えて発生する

酸素の有効利用の検討など)などセクター間連携を含めシステム全体の最適化を図る、⑤政

策的な導入支援を実施するなどの方策により、まずは市場を立ち上げていくという観点も

検討に値する。

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4. 横断的技術分野におけるポテンシャル・実用化評価

本検討会では、CO2排出源を踏まえ、大規模に CO2排出削減につながり得る以下の代替技

術分野に特に着目し、その現状、削減ポテンシャル、実用化に向けたボトルネック課題など

を検討した。もちろん、CO2排出削減技術はこれら技術以外にもあること(熱の有効利用な

ど、革新的技術というイメージが薄いものを含む)、また、地球温暖化問題の対応には、個々

の技術の最適な組合せが必要となることは言うまでもない。さらには、これも先述したよう

に、技術の効果を高めるための、政策的仕組み作り・支援が必要となる。 水素 CCUS 再生可能エネルギー・蓄エネルギー パワーエレクトロニクス

4.1 水素

水素は、自動車や発電のような燃料用途だけでなく、鉄鋼や化学の生産プロセスでの原料

用途、石油精製の脱硫など、産業プロセスを含め様々な分野で大規模な CO2 排出削減に資

する共通解の一つとなり得る。また、単なるエネルギー源の代替だけでなく、脱炭素化した

多様な製造法を可能とする戦略物質となる可能性を秘めたものである。 政府としても、水素基本戦略を策定し、水素社会構築のため、各種取組を精力的に行って

いるところである。

図 4-1 水素基本戦略のシナリオ

出所:「水素基本戦略(概要)」経済産業省(2017)

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4.1.1 ポテンシャル・実用化評価

現状の市場は決して大きくはないものの、既に水素利用として、エネファームや燃料電池

自動車、燃料電池フォークリフト、燃料電池バスは社会導入され、水素発電についても実証

段階である。 現在の我が国の代表的な水素ユーザーは、石油精製、鉄鋼、石油化学、アンモニアである。

石油精製、鉄鋼業界を中心として、自家供給と自家消費が多くの割合を占めており、水素の

流通量(外販量)が少ないといった特徴がある。

図 4-2 現在の国内水素生産能力と消費量

注釈 1:各数値の算出前提となる生産量の数値は 2016 年の値を使用。なお、水電解の総量は小さく統計も

存在しないため、取り扱っていない。ソーダ工業の消費量は化学製品などにてマテリアル利用される

前提が置かれている。供給余力・供給ポテンシャル算出時に外販水素分は考慮していない。 注釈 2:東北大学他「製造から消費までを考慮した水素マテリアルフローの作成」、経済産業省「生産動

態統計」、経済産業省「石油統計」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に Deloitte 作成

出所:経済産業省(第 2 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) 国内の水素需給バランスに着目すると、製造プロセスでのCO2の排出を考慮しなければ、

2016 年時点においては水素生産能力が水素需要を上回り、一定の供給余力および供給ポテ

ンシャルが存在している。また、石油化学など副生水素による供給余力が発生している産業

においては、水素を燃料として活用している場合があり、熱源を水素から代替すれば、外部

への水素供給拡大が可能となる。 しかしながら、燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle(FCV))や水素発電、水素還元製鉄や

化学分野での CO2 原料化(CCU)など、水素を活用する分野を拡大し、水素社会を実現しよ

うとすると、水素ユーザーの観点からは、下記のような各々が抱える水素利用時に生じる課

題に加え、コスト、供給量、品質といった水素供給に起因する課題がボトルネック課題とし

て挙げられており、現状では水素社会構築を困難にしている。また、水素社会の構築に当た

っては、これまで大量の水素を広範囲に扱うといった経験がないため、異常時の対応等、

様々な課題に対応していく必要があると考えられる。

【国内の水素生産能力】 【国内の水素消費量】

生産能力360億

Nm3-year

石油精製43%

鉄鋼39%

石油化学7%

ソーダ3%

アンモニア8%

石油精製43%

アンモニア8%

国内消費241億

Nm3-year

石油精製47%

鉄鋼37%

石油化学2%

ソーダ4%

アンモニア7%

外販1%

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表 4-1 水素利用分野の検討会で挙げられた技術的なボトルネック課題一覧

分野 技術的なボトルネック課題

石油精製 ・ 製油所における大量かつ長期間の水素貯蔵

製鉄

・ 吸熱反応への対応

・ 高炉内における水素分布の均一化

・ 水素脆化への対応

化学(CCU) ・ 水素の貯蔵

・ 触媒被毒の克服

水素発電

・ 水素発電設備の耐久性向上

・ 急速起動・出力変動への対応

・ 水素の貯蔵

・ 調達安定性の確保

FCV ・ 水素ステーションホースの耐久性向上

燃料電池

・ 高効率化

・ 信頼性向上

・ 耐久性向上

出所:エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会第 2 回議論を元に Deloitte 作成 また、本検討会で、現在・将来において、水素ユーザーとなる業界・事業者から提示され

た水素に求める内容は、以下のとおりである。水素社会を構築する上での根本的な課題は、

安価で大量の CO2 フリー水素の安定供給である。

図 4-3 水素ユーザーとなる業界・事業者が求める水素

出所:経済産業省(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3)

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天然ガスと遜色ないまたはこれを下回る熱量当たりの水素価格が求められ、現在の CO2

フリー水素の調達コストとの間に膨大なギャップがあるのが実態である。

図 4-4 水素の製造・輸送コストと LNG、石炭、ガソリン価格との比較

出所:資源エネルギー庁(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4) また、コスト問題に加え、膨大な水素供給量が必要となる点も課題である。 CO2 フリーな水素社会として、水素発電の実装や、既存の産業プロセスを水素利用で脱炭

素化する場合を想定し、水素の利活用が大規模に拡大した場合、将来の水素需要に大きなギ

ャップが存在する。現在の供給力と将来の需要量のイメージを表すと、需給ギャップが大き

く開いており、将来的に水素によるゼロエミッション化を実現するためには、水素供給力を

大幅に増強させる必要がある。 究極的な脱炭素化の水素製造方法の一つとして、全世界的に再生可能エネルギー電源か

らの電力による水電解の水素製造が想定され、既に多くの研究開発・実証事業が行われてい

る。供給量の観点では、再生可能エネルギー電源からの電力による水電解の水素製造能力は、

定格運転(6MW)でなく、最大水電解能力(10MW)及び最大水素製造量(2000Nm3/h)

から最大供給量(設備利用率 100%)を試算すると、1設備あたり約 1560t/年(福島 FH2Rでのアルカリ水電解実証)である。1設備あたり約 1560t/年 を前提にすると、水素基本戦

略で求める年間 30 万トン(2030 年)、1000 万トン(2030 年以降)の供給を水電解のみで賄

う場合に必要な設備数は、約 190 台、約 6400 台が必要となる。また、水素発電の実装や、

既存の産業プロセスを水素利用で脱炭素化する場合に必要となる数 100 万トン~1000 万ト

ンを超える水素を作り出すのに必要な膨大な電気量をいかに確保するかという課題も抱え

ている。

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図 4-5 将来的な国内の需給バランスイメージ

出所:経済産業省(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) また、コストの観点では、太陽光・風力など変動性の再生可能エネルギーでは設備稼働率

が比較的低いことに加え、再生可能エネルギーの発電コストが十分には低下していないた

め、ユーザーが求める水素価格の実現には一層のコスト削減が求められる。

図 4-6 水電解のコスト感度分析

出所:経済産業省(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3)

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4.1.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

以上の課題は一朝一夕に解決されるものではなく、技術開発を始め、長期的な取組が必要

となる。 (水素製造技術)

CO2 フリーの水素製造として、再生可能エネルギー電源からの水電解(高温で電解する場

合は水蒸気電解とも言われる)による水素製造コストは、電力費(OPEX: オペレーション

コスト)と設備費(CAPEX: キャピタルコスト)の両者に左右される。そこで、前者の低減

には再生可能エネルギーを始めとするゼロエミッション電源の低コスト化の他、電解シス

テムの高効率化も必要となる。また、後者の低減には構成部材も含めたシステム全体の低コ

スト化が欠かせない。 水電解技術として、主にアルカリ電解質形水電解、固体高分子形水電解、固体酸化物形水

蒸気電解などが挙げられる。アルカリ電解質形は国内外で大型システムの商用化と低コス

ト化が最も進んでおり、普及段階に至っている。他方、固体高分子形はより高効率で、実用

化もしているが、電極に用いる貴金属触媒やチタン基材の使用量低減・代替など、システム

コストの大幅低減につながる技術開発課題が残っている。固体酸化物形は、貴金属が不要で、

高温作動のため、現状では最も高い電解効率を実現できるポテンシャルを有しているが、長

時間の耐久性や大型化、システム実証を含めてまだ研究開発段階にある。これらの課題に挑

戦する低温駆動の固体酸化物やアルカリ性の高分子膜なども今後の技術開発が期待される

領域である。国内外での再生可能エネルギーによる発電のコストが低減すれば、これらの水

電解・水蒸気電解の技術革新による CO2 フリー水素の製造コストの大幅低減も視野に入っ

てくる。 再生可能エネルギーの発電コストが高い間は、CO2を排出しない水電解とは別の水素製造

方法についても模索することが現実的なオプションとなると考えられる。例えば、CCS や

Enhanced Oil Recovery(EOR)を伴う化石燃料からの水素製造、メタンなどの化石燃料を使

った CCS を必要としない水素製造(メタン熱分解など)、人工光合成による水素製造、高温

の熱源を利用した水の熱分解、バイオマス利用による水素製造など、水素製造のより一層の

コストダウンのための絶え間なき技術シーズの発掘・創出が必要である。 水電解以外の革新技術の位置づけにある技術として、IS プロセス、メタンからの水素製

造新技術、人工光合成などが挙げられる。ここでは、メタンからの水素製造新技術は、既に

商用化が進んでいる水蒸気改質に加えて、熱分解、水素を副生するベンゼン生産、ドライ改

質、部分酸化などを挙げることができるが、いずれも反応の低温化や高温での水素分離技術

など、現在実現できていない技術の確立が強く求められている。 IS プロセスは、高温ガス炉水素製造システムの一部として開発が進められており、エネ

ルギー政策の基本的視点(3E+S)に応えることが可能である点が特徴である。

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図 4-7 高温ガス炉水素製造システムの概要

出所:日本原子力研究開発機構(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 7-3)

メタンからの水素製造新技術は、メタンは重量あたりの水素含有量が水やバイオマスよ

り大きく、可採埋蔵量も豊富であるため、有望視されている技術である。メタンからの水素

製造新技術のうち、メタンの熱分解および部分酸化は、水素製造方法の中で最も一般的であ

るメタンの水蒸気改質に比べ、エンタルピーが小さい特徴がある。実用化に至るためには、

実用触媒の開発による反応の低温化(熱分解、部分酸化)、効率的な熱供給(熱分解)など

が求められている。

図 4-8 メタンからの水素製造技術

出所:三井化学株式会社(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 7-5)

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欧州では再生可能エネルギーの大量導入を背景に、再生可能エネルギーの余剰電力が増

加し、水素はその有効利用の一つとして、再生可能エネルギー由来水素を生み出す Power to Gas の社会認知度が高まっている。このような背景のもと、水素は様々な方法で製造される

が、消費者に CO2 フリー水素利用の普及を促すため、欧州委員会を主体として民間機関と

共に Green H2 の定義及びその認証スキームを議論する CertifHy プロジェクトでは、水素の

種類をその製造方法に基づき分類している。CO2排出原単位の閾値を超える Grey H2(例:

CCUS 処理をしていない天然ガス改質水素)、閾値を下回る水素のうち、再生可能エネルギ

ーが起源でない Blue H2(例:CCUS 処理をした天然ガス改質水素)、閾値を下回る水素のう

ち、再生可能エネルギーが起源である Green H2(例:再生可能エネルギー電源水電解水素)

の 3 種類の最終分類、分類前の状態として、化石燃料由来の水素は一様に Brown H2と分類

している。

図 4-9 欧州を中心に広がりを見せている CertifHy での水素の分類

出所:経済産業省(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料3)

(ユーザーの求めに応じた純度、圧力などの適正化) さらには、ユーザーの求める水素の品質に応じて、水素の純度や圧力などの適正化を図り、

コストダウンの可能性を追求していかなければならない。

(エネルギーキャリア) また、海外で水素を製造する場合などに必要となる水素キャリアについても、液化や合成、

脱水素のプロセス、輸送などにおいて多大なエネルギー投入が必要であることなどを背景

に高コストとなっており、コスト低減の取組が必要となる。 メタンから脱炭素して水素分をアンモニアとして輸送し、アンモニアとして直接利用す

る場合には低コスト・低炭素であるが、水素として利用するには脱水素が必要となり、エネ

ルギーコストを要し、CO2排出量も増大する。常温常圧により、長期保存に適している MCHも脱水素が必要となる点では同様に、エネルギーコストを要し、CO2排出量も増大する。 液化水素は、水素のまま利用可能であるが、多くのエネルギーを投入して-253 度にまで

下げる液化が必要不可欠であり、高効率な液化技術として磁気冷凍などの開発がなされて

いるが、大規模化が難しい。

Green H2

Blue H2

Grey H2

主要な水素源

化石燃料

バイオマス燃料

電力

水電解等により電力を投入し水素を発生

Brown H2

Hydrogen color 定義

製造までのCO2排出量が閾値以下の水素

再エネ以外を活用して製造された水素

製造までのCO2排出量が閾値を超える水素

製造までのCO2排出量が閾値以下の水素

再エネを活用して製造された水素

具体例

原子力由来の電力により製造された水素

化石燃料改質時にCCUSを組合せ製造された水素

化石燃料を改質して製造された水素で、同時発生する二酸化炭素を大気中に放出する場合

コーン由来のバイオ燃料を改質して製造された水素

太陽光・風力等のCO2フリー再エネ電力により製造された水素

天然ガス、ナフサ等の改質により水素を発生

穀物等から発生するメタンガス等の改質により水素を発生

CCUS

コーン燃料

原子力

火力

再エネ

詳細水素源別のHydrogen color

現状

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図 4-10 主要な水素輸送・貯蔵技術の特性一覧

出所:NEDO(第 2 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5) これに加えて、例えば、水素から水素キャリアを合成のうえ脱水素するというプロセスに

こだわらず、水素の形態を経ずに、再生可能エネルギー電源からの電力を用い、水(水中の

プロトン H)と CO2 などから、直接に炭化水素やアンモニアなどを合成する共電解技術の

可能性も検討されている。 (LCA) 水素製造や輸送で用いる技術選択に当たっては、コスト、供給可能量に加えて、ユーザー

への供給に至るまでのトータルの CO2 排出量を考慮することが必要である。その上で、CO2

排出が多いプロセスがどこなのかを特定し、排出削減する手段を検討していくことが重要

である。 褐炭ガス化水素の製造に伴う CO2 排出量を示した分析によると、CO2 削減の余地は十分

に存在し、例えば、化学吸収による CO2 回収に必要となる蒸気エネルギーの削減や蒸気ボ

イラ用燃料の C 重油から天然ガスへの代替による CO2 低炭素化、CO2 圧縮時に用いる系統

電力の低炭素化により、更なる水素の低炭素化が実現するものと考えられる。

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図 4-11 褐炭ガス化水素の CO2排出量の考え方

出所:産業技術総合研究所(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-2)

図 4-12 褐炭ガス化水素の CO2排出量試算

出所:産業技術総合研究所(第 3 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-2) また、水素の分野に限った話ではないが、技術選択に当たっては、前提条件を開示した中

立的・客観的な LCA 分析も含めて、コスト、供給可能量、CO2 排出量など、総合的な観点

から最適な技術選択を検討することが肝要である。

0.795

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5. CCUS/ネガティブ・エミッション

CO2 などの温室効果ガスの排出は避けられないため、排出削減のための努力を最大限行い

つつも、CO2を回収し、貯留または有効利用、リサイクルする CCUS、ネガティブ・エミッ

ション技術を追求しなければならない。 IEA 報告書においても、CO2を大量回収・貯留する抜本的な方策として、2060 年までの世

界の累積 CO2 削減量の 14%を CCS が担うことが期待されている(2060 年時における年間

の CO2削減量の 16%を CCS が占め、年間 49 億トンに及ぶ)。

図 5-1 2060 年にかけての CO2削減量見通し

出所:経済産業省(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5) CCUS の全体像及び期待は次のように整理される。様々な産業活動などから発生する排ガ

スから分離回収した CO2を地下に貯留するのが CCS であり、上述のように大規模に CO2を

削減することが期待されている。一方、分離回収した CO2 を利用するのが CCU であり、後

述するように EOR を伴わない限り単体では経済メリットが無い CCS に対して、市場価値の

ある製品が生み出される点に特徴がある。最近ではネガティブ・エミッション技術も注目さ

れており、例えば大気から直接 CO2を回収して利用する技術が存在する。

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図 5-2 CCUS などに対する期待 出所:経済産業省(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4) また、CO2 の回収は、排ガスのみならず、水素利用を拡大させていく上でもきわめて重要

な技術になる。水素を化石燃料から調達する場合、特に水蒸気改質の場合は CO2 を排出し

てしまうため、カーボンフリーとするために CCUS が必要となる。

図 5-3 CCUS に求められる水素量

出所:経済産業省(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

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5.1 CCS

5.1.1 ポテンシャル・実用化評価

石油増進回収法(EOR)を伴う CCS は、 1970 年代から米国で商用化されているが、米国

では税額控除や補助金のような経済的なインセンティブの仕組みが存在する。また、EOR を

伴わない CCS には単独では経済的メリットがないため、社会導入されている国では、補助

金や税、規制などのインセンティブの仕組みが存在する。

図 5-3 操業中の CCS の期間び貯留量

出所:GCCSI(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5-1)

図 5-4 地域別、貯留タイプ別の CCS 事例

出所:GCCSI(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5-1)

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図 5-5 諸外国の CCS 事例での導入を促進する政策

出所:GCCSI(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5-1) また、堆積層中や玄武岩層など CO2を海底下地下で貯留する場合においては、現在、海洋

環境保護を目的に、船舶からの廃棄物などの海洋投棄などを規制するロンドン議定書(「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の 1996 年の議定書」1996年採択、2006 年発効)では、廃棄物などの海洋投棄などを原則禁止したうえで、例外を限

定列挙し、海洋環境の影響評価などを踏まえ、規制当局が許可を行う仕組みを設けることを

規定している。国内では、海底下貯留については海洋汚染など防止法が対応しており、(環

境大臣の許可・環境影響評価・海洋環境の監視が義務化)、より安全かつ適正な監視期間の

設定やモニタリング方法を、今後検討していく必要がある。

図 5-6 ロンドン議定書による制約

出所:経済産業省 (第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) 更に、CCS を社会実装するに当たり、CO2の貯留適地に関する更なる調査、貯留適地の確

保及び CO2 排出源と貯留地が離れていることに伴う CO2 の輸送、更には貯留に対する社会

受容性の確保などの課題があり、官民で取り組む必要がある。社会受容性については、早期

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からのパブリックコミュニケーションが重要である。国内では、大規模な CO2 排出源の多

くは太平洋側の沿岸域を中心に位置しているが、これまでの CO2 の貯留適地調査の結果を

勘案すると、必ずしも排出源と CO2の貯留適地が近接しているとは限らない。

図 5-7 水深 200m 以浅の海底下貯留適地と調査中の適地候補点の貯留可能量推定規模

出所:経済産業省 (第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4)

5.1.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

CCS の導入を進めるためには、技術的には更なる低コスト化を進めることが必要である。

CCS のコストの内訳では、特に分離した CO2 を回収する際に熱を投入しなければならない

ため、CO2分離回収のエネルギーコストの割合が大きくなっている。

図 5-8 CCS コストの内訳 出所:経済産業省(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3)

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CO2 分離回収・輸送・圧入の各プロセスでの動力・熱生成により、全体のエネルギーコス

トの 25%から 50%程度の膨大なエネルギーを要し、NET 回収量(正味の CO2 貯留量)が失

われている。結果として、石炭火力発電所の場合には、2割から3割の発電効率が低下する

とされている 2。この計算では、低圧の石炭火力発電所の排ガスで、KS-1(現在商用化され

ている化学吸収法)で3GJ/t-CO2 の熱量(液体から CO2 を回収する多くの熱量が必要)を前

提としている。昇圧機の省エネ化は頭打ちになっているところ、様々な CO2 分離回収手法

を追求し更なる低コスト化を図ることが求められている。

図 5-9 CCS を念頭においた CO2 分離回収コストの構成比

出所:経済産業省(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) 様々な CO2分離回収手法を追求し更なる低コスト化を図る必要があるが、その際、CO2 排

出源ごとの特徴(CO2 濃度・圧力・温度、排ガス中のその他物質の性状など)・規模や、逆

に CO2 利用・貯留サイドの要求スペックを踏まえた排ガスの熱や圧力の活用など分離回収

の精査が必要となる。

図 5-10 CO2排出源別の排出圧力および CO2 濃度 出所:NEDO(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-1)

2 平成 25 年電中研研究報告 V12012(表7)

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図 5-11 CCS 導入と排出産業の親和性

出所:GCCSI(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5-1)

図 5-12 産業別、貯留タイプの操業中及び計画中の別大規模 CCS 設備の傾向

出所:GCCSI(第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 5-1) また、適地の確保への対応として、CO2の貯留に適した安定的な地質構造の特定や CO2を

適切に貯留するために必要なインフラ整備に要する時間と経費を考慮すれば、スケールメ

リットが活かされるよう可能な限り大規模な貯留適地を確保し、CO2排出源から貯留適地へ

の輸送、更には貯留まで一貫して CCS を実施するビジネスモデルが必要である。 そのため、CO2 を安全に、かつ低コストで輸送するための適切な事業設計を行い、民間事

業者が投資判断を行うことができるような状況を作り出す必要がある。 これらを踏まえ、官民の適切な役割分担の下で、経済的かつ安全に、分離回収・輸送・貯

留まで一貫して進めていくための環境整備が必要となる。あわせて、早い段階からの積極的

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な情報発信などにより、地元自治体など関係者の理解を高めて、CCS に対する社会受容性

を高めていく。また、研究開発、実証、標準化などのルール設計などにかかる国際的な連携

も進めていく。 (CO2分離回収) ここで、CCS・CCU に共通な CO2 分離回収技術について整理する。 期待される分離回収技術には、分離回収技術そのものではなく、CO2排出濃度を高める機

能を持つ酸素富化燃焼および超臨界 CO2 クローズドタービンも候補技術としてある。実用

化段階の技術を中心に投入エネルギーや投入コストを下げる目標が示されている。 それぞれの分離回収方法の特徴としては、吸収法については化学反応を利用して熱スイ

ングする化学吸収法や、あるいは吸収液の中に CO2を溶解させ、それを圧力スイングし CO2

を取り出す物理吸収法がある。そのほか、吸着材に CO2 分圧の高いところで吸着させて圧

力の低いところで取り出すという物理吸着法、プロセス圧を使用して膜透過により CO2 を

分離する膜分離などが存在する。 商用化されている CO2 分離回収技術として、化学吸収法、物理吸着法、膜分離法が挙げら

れるが、排ガスの CO2 回収コストの観点から、商業プラントで現在採用されている方式は、

アミン吸収液を使う化学吸収法のみである。

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表 5-1 主な CO2分離回収技術の特徴と開発ステージ

分離法 吸着剤 /分離剤

開発 ステージ

熱効

率 (GJ/

t-CO2)

目標 コスト (円/

t-CO2)

メリット デメリット

分離回収装置あり

液体吸収

物理吸収

液 実用化

現状

0.4~1.7

2,000 円台

CO2抽出に係る

エネルギーが

小さい

CO2 溶解に係る加

圧が大きい 常圧・低圧ガスに

は不向き

化学吸収

液 (アミン

系)(Na/K炭酸塩

系)

実用化 (アミン系) 研究開発中 (その他)

現状

2.3~4 目標 1.5

2,000 円台

吸収は比較的

低圧で可能 再生用の熱源が必

固体吸収 固体吸収

材アミン

担持

実用化 開発中

現状

1.5 2,000 円

加熱時に液体

の潜熱の影響

が な い た め 、

CO2 抽出の加

熱量が小さい

固体のためプロセ

ス内で一様な状態

での循環が困難

(目詰まりなど)

物理吸着 活性炭、 ゼオライト

実用化 現状 1.8

2,000 円台

CO2抽出に係る

エネルギーが

小さい

吸着させる加圧が

大きい

スケールアップの

経済性向上が見込

めない

化学吸着 炭酸塩系 研究開発中 N/A N/A N/A 配管の摩耗、金属

粒子の耐久性に課

膜分離

高分子膜

実用化

(CO2/CH4) 実用化開発

中(CO2/H2) 現状

0.3~ 0.5

1,000 円台

CO2 抽出の加

熱冷却が不要

分離の加圧が大き

い 常圧・低圧ガスに

は不向き

ゼオライト

実用化開発

(CO2/CH4)

金属膜

(水素分

離膜) 研究開発中

深冷分離 必要とし

ない

CO2 含む産

業ガス精製

では実用化

CCUS 向け

は未商用化

N/A 2,500円

吸着剤・分離剤

が不要

CO2 が固化しない

ように加圧が必要

で投入エネルギー

が大きい LNG など冷却設備

との併設が前提

分離回収装

置なし

純酸素燃焼

(超臨界 CO2

サイクル、クロ

ーズド IGCC、微粉炭燃焼)

必要とし

ない 研究開発中 N/A

1,000 円

排ガスがほぼ

CO2 と蒸気のみ

必要となる酸素製

造装置(深冷分離)

が高価 システムが複雑化

し、動特性が低下 出所:第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3(経済産業省)、資料 6-

1(NEDO)、資料 7-2(RITE)を元に Deloitte 作成

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また、今後の研究開発の方向性においては、CO2排出源によって濃度・圧力・温度が異

なり、それぞれに適合する分離回収技術が変わることもあるため、研究開発は全方位的に

進めるべきである。また、同一の CO2 排出源に対しても、濃度帯ごとに 2 つの技術を 1 つ

のラインで使うことが有望となるケースも指摘されていることから、それらをうまく組み

合わせるシステム化が課題となってくる。さらに、酸素富化燃焼や超臨界 CO2 クローズド

タービンは火力発電システムに係る技術開発であり、CO2 回収効率向上だけでなく、火力

発電の発電効率向上も大きな課題である。

表 5-2 CO2 の分離回収技術に係るボトルネック課題

分離法 吸着剤 /分離剤

ボトルネック課題

分離回収装置あり

液体吸収

物理吸収液 ・ CO2 溶解の加圧が大きい

化学吸収液 (アミン系) (Na/K 炭酸塩

系)

・ 設備費低減 ・ 運転費(CO2 回収エネルギー)低減 ・ 装置サイズ敷地面積の縮小 ・ 吸収塔塔頂からのアミンエミッションの低減 ・ CO2 回収時の廃熱利用

固体吸収 固体吸収材アミ

ン担持

・ 材料の大量合成手法の開発 ・ システムのスケールアップ ・ 実条件下における耐久性向上 ・ 回収 CO2 の性状(不純物)影響評価

物理吸着 活性炭、 ゼオライト

・ 脱水工程に係る前処理エネルギーの削減

化学吸着 炭酸塩系 ・ 配管の摩耗対策 ・ 金属粒子の耐久性向上

膜分離 高分子膜 ゼオライト膜 金属膜

・ CO2 濃度が高い領域では安価に分離回収可能であ

るが、濃度が低い領域では、吸収法と組み合わせた

ハイブリッド化が今後の課題となる ・ 量産化技術の確立

深冷分離 なし ・ 冷却および圧縮エネルギーの低減 ・ 設備費低減 ・ 油脂分含有ガス対策

分離回収装

置なし

純酸素燃焼(超

臨界 CO2 サイク

ル、クローズド

IGCC、微粉炭

燃焼)

なし ・ 酸素製造動力低減・低コスト化 ・ 酸素燃料 GT の実現

出所:第 4 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3(経済産業省)、資料 6-

1(NEDO)、資料 7-2(RITE)を元に Deloitte 作成

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5.2 CCU

CCU は、CO2 の大規模利用として、化石資源由来の化学品や燃料の代替、炭酸塩化を利

用したコンクリート製品など、経済的価値を満たしつつ脱炭素化にも資する可能性を持つ。

CO2 の回収コスト低減や、分離回収した CO2 を炭素由来の有用な素材・資源(化学品、燃

料、鉱物など)に転換する技術の開発などに取り組み、イノベーションを伴った新しい社会

システムを創出することが期待されている。

図 5-13 CO2 大規模利用の全体像

出所:経済産業省(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会検討会資料 3)を最

新情報に更新

5.2.1 ポテンシャル・実用化評価

CO2 は安定的な物質であり、他の物質を合成する場合、ほとんどのケースで多大なエネ

ルギー投入が必要であるため、CCU により、CO2 削減を目指す上では、プロセス全体を見

通した客観的・中立的な LCA 分析が求められる。CCU の包括的な LCA 分析は、世界でも

まだ検討が深まっていないことから、LCA の観点も念頭に置いて研究開発を進めることが

重要である。

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図 5-14 CCU に係る主要物質のギブス自由エネルギー 出所:経済産業省(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) また、CO2 排出削減の観点からは、CO2 の固定期間についても考慮が必要である。燃料

は、バイオ由来であっても、分離回収した CO2 であっても、燃焼時に CO2 を排出してしま

うが、化石資源を地中から取り出さずに生産できるため、カーボンニュートラルではある。

図 5-15 CO2の固定期間

出所:経済産業省(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3) 更に、水素を用いた化学反応により化学品や燃料に転換する場合には、安価な CO2 フリ

ー水素を別途調達することが大きな課題となるため、CO2 利用に必要な技術開発とともに、

水素製造コストの低減に向けた取組も必要である。

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図 5-16 CO2利用ポテンシャルに対し必要となる水素量

注釈:CO2 利用ポテンシャルとは、CCU により製造可能な製品需要を全て CCU で置きかえた場合、CO2

が最終製品にどれぐらい固定化されるかを生成物別に国内市場規模を基準として、定量的に見積も ったもの(化学品 2.4 百万トン、炭酸塩 63 百万トン、燃料 465 百万トン、原料化学品 86 百万トン)。 生成物に固定される量でありプロセスで発生する量は未考慮。

出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-1)

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例えば、CO2 からメタネーションを介してメタンを製造する場合、直近の LNG 価格であ

る$10/MMBTU の水準の価格を実現するためには、水素価格を約¢3/Nm3 まで低下させる必

要があるという分析もある。

図 5-17 メタネーションのコスト分析 出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-1)

CO2 の炭酸塩化を利用したコンクリート製品は、我が国において、限定的な用途におい

て商用化されているものもあるが、既存の商品を代替できるほどのコストダウンには至っ

ておらず、更なるコストダウンや適用範囲を広げるための技術開発も求められる。

図 5-18 SUICOM におけるコスト分析

出所:鹿島建設・中国電力ほか(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6-4)

メタネーションコストの内訳 メタネーションコストの水素価格感度

222

2142

64

0

20

40

60

80

100

120

3

28

3 2

50

71

23 2

CAPEX

二酸化炭素

O&M

水素

水素価格

0.6$/Nm3 0.4$/Nm3 0.2$/Nm3

設備用率

80%

&M CAPEX 8.9%/year

ステムスト

870,000$/MWSNG

20年稼働年数

単位 SNG 1tonあたり H2:0.49ton、CO2:2.69ton(50$/ton)0

20

40

60

80

100

120

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

$/M

MBT

U SNG

水素価格(¢/Nm3)

設備利用率80%

直近のLNG価格水準:10$/MMBTU

+炭素税100$/t-CO2

+炭素税200$/t-CO2

+炭素税600$/t-CO2

+炭素税1,000$/t-CO2

LNG1MMBTUあたり0.05トンのCO2を排出

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5.2.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

現時点では CCU による製品と既存品の価格差は極めて大きいため、CCU 製品の普及の

ためには、基幹原料ともいえる水素の調達コストの低減や官民連携による環境価値の訴求

が重要となる。研究開発の方向性としては、CO2を活用した高付加価値品の追求や、水素

を必要としない化合物の合成プロセスの研究開発(炭酸塩、含酸素化合物など)、また、共

電解など、CO2と水から直接炭化水素を製造する技術開発、更には、将来の CO2利用を念

頭に置いた橋渡し的な取組として、メタン利用の化学分野であるC1化学を発展させるこ

とも必要となると考えられる。

新たな CO2利用技術の開発に当たっては、CO2 排出の LCA 分析を客観的に行い、真に

CO2 削減につながっているのかを検証する必要があることは言うまでもない。

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5.3 ネガティブ・エミッション技術

これら CCS・CCU に加え、昨今では、大気中に既に蓄積された CO2を様々な手法で回収

するネガティブ・エミッション技術についても着目されている。

5.3.1 ポテンシャル・実用化評価

ネガティブ・エミッション技術には、空気中の CO2 を人工的に直接分離回収する Direct Air Capture(DAC)の他、植林、海洋肥沃化による植物プランクトンや有用水性植物への固

定、沸昇流・沈降流の促進、風化促進、Bio-energy with CCS(BECCS)、バイオチャーの活

用による農地土壌での炭素貯留などが挙げられている。これらネガティブ・エミッション技

術の研究自体は従前からあるが、パリ協定で掲げられている長期目標の達成のためにはネ

ガティブ・エミッション技術も必要となるとされており、近年、議論が盛んになってきてい

る。

図 5-19 2℃シナリオにおけるネガティブ・エミッション技術の位置づけ 出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-1)

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図 5-20 主要なネガティブ・エミッション技術の概要 出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-1)

5.3.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

ネガティブ・エミッション技術では、LCA の観点での CO2 削減効果の評価がまだ少ない

他、DAC などは相当程度のエネルギー投入・コスト削減が必要とみられるなど多くの課題

が挙げられており、国際連携含め、効果・社会受容性などの点からも、基盤技術の確立や多

次元による客観的な精査が必要となる。 ネガティブ・エミッション技術の中でも有望視されている DAC と BECCS では、それぞ

れ下記のような問題も抱えている。 DAC では、現在のエネルギー原単位情報を基に、1 億トンの CO2 を処理する場合を考え

ると、投入エネルギーは 440~900PJ の熱エネルギー(我が国の 100~200 度の工場廃熱の

61~126%に相当)および 16~45TWh の電力(2030 年エネルギー基本計画における発電量の

1.5~4.2%に相当)が必要となり、膨大なエネルギーが必要となることが分かる。今後の本格

的な導入に当たっては、これらで安価かつ大量に CO2 フリーエネルギーを確保する必要が

ある。また、同様に BECCS では、1 億トンの CO2 を処理する場合に必要な土地面積は 25~33千 km2 となり、膨大な土地面積が必要なことが分かる。

コストについても解決すべき課題が多い。ICEF のレポートによれば、現在の CO2回収に

係るコストは$300~600/ton-CO2 程度であり、将来は投入エネルギー量の削減と設備コストの

削減を実現し$60~250/ton-CO2 を目標としている。注意すべき点として、CO2 回収コストの

公表結果には幅があることが挙げられ、他の分析では$1,000/ton-CO2 を超える場合もある。 ネガティブ・エミッション技術については、このような課題を解決するために、技術開発、

副作用を含めて効果の評価分析などが求められる。

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図 5-21 ネガティブ・エミッション技術の供給限界 注釈:2℃シナリオ実現に向けて、2100 年においては年間 121 億トンのネガティブ・エミッションが必要と

されており、年間 121 億トンの CO2 を処理するための土地面積や投入エネルギー量

出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-1)

図 5-22 DAC に必要な投入エネルギー 出所:Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-1)

投入エネルギー

投入エネルギー

ネガティブエミッション技術

Afforestation &Reforestation

(AR)

EnhancedWeathering

(EW)

年間CO2処理量(2100年) 必要な土地面積 投入(発生)エネルギー量

7億トン

40億トン

20千km2

3,200千km2

△Direct air capture(DACCS) 121億トン

Very low(unless solar PV is used for energy) 156EJ

46EJ

Very low

△Bioenergy with

carbon capture & storage (BECCS)

121億トン 5,500千km2 -170EJ発生エネルギー

投入エネルギー

投入エネルギー

2度シナリオ達成に必要な量

処理ポテンシャル

DAC設備・研究論文

Climeworks

Carbon Engineering

Global Thermostat

APS 2011NaOH case

CO2回収原単位*2

熱エネルギー原単位(GJ/tCO2)

9.0

5.3

4.4

6.1

電力原単位(kWh/tCO2)

450

366

160

194

投入エネルギー

熱エネルギー

900 PJ

530 PJ

440 PJ

610 PJ

電力

45 TWh(162 PJ)

37TWh(132PJ)

16TWh(58PJ)

19TWh(70PJ)

1億トンのCO2を

回収する場合

【参考】

熱エネルギー100~200℃の

工場廃熱716PJ*3に対する割合

電力2030年エネ基国内全発電量10,650億kWhに対する割合

*1:各種公開情報 *2:ICEF「Direct Air Capture of Carbon Dioxide」*2:(財)省エネルギーセンター 「平成12年度工場群の排熱実態調査」

4.2%126%

3.4%74%

1.5%61%

1.8%85%

154km2

125km2

55km2

66km2

【参考】太陽光で全量発電した場合の必要面積

日射量:4.0kWh/m2・day発電効率:20%

の条件下

CO2回収コスト*1

($/tCO2)

現在のコスト

94~232

現在のコスト

150将来達成可能なコスト

50

-

現在のコスト

6002025年頃の目標コスト

100

【参考】琵琶湖面積:約669km2

【参考】ICEFレポート

現在:300~600$/tCO2将来: 60~250 $/tCO2

処理能力:900ton/year

処理能力:4,000ton/year

処理能力:365ton/year

※事業者側の発表値であり、詳細コストは不明

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図 5-23 BECCS に必要な面積 出所: Deloitte(第 5 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-1)

バイオマス原料CO2を1トン処理する際に必要な面積

(ha/tCO2/year)

作物

森林

作物残留物

目的生産作物(モロコシ)

目的生産作物

寒帯林

松林

雑木林

熱帯林

50 100 150 2000

161

35

33

25

55

76

155

(千km2)

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6. 再生可能エネルギー・蓄エネルギー

太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの活用はサンシャイン計画以来、既に多く

の研究開発投資が実施され、社会導入されている。しかしながら、国内では発電単価が火力

発電などと比較してまだ高価であることに加え、国内の再生可能エネルギーの適地が限定

的であるという問題もある。再生可能エネルギーは、脱炭素化のため、一次電源となるだけ

なく、CO2フリー水素の製造や電化技術と組み合わせることにより、産業分野などでの化石

燃料利用を減少させることに貢献し得るため、課題を克服し導入を拡大することが求めら

れている。 再生可能エネルギーの形態としては、世界的に太陽光発電、風力発電の普及が進んでいる

が、これらは、水力発電や地熱発電と異なり出力が変動する点に留意が必要となる。本検討

会では、太陽光・風力のような変動する再生可能エネルギーの大量導入に向けて、安定した

電力供給のため、より柔軟な系統運用に加えて、技術の観点から、如何にして適切な量の調

整力を確保できるかという点に着目をして検討を行った。

図 6-1 再生可能エネルギー電源の出力変動例 出所:経済産業省(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1)

現在、国内では、揚水発電の他、火力発電が調整力としての機能を担っているが、今後は

調整力の脱炭素化も重要になってくる。 調整力を効率的に調達するため、需給調整市場の

導入に向けた検討も進められている。将来的には、系統で受け入れきれない再生可能エネル

ギー由来の電力を貯蔵するなど、得られた再生可能エネルギーの最大限の活用も必要とな

ってくる。

図 6-2 揚水・火力発電の調整力としての活用イメージ(九州エリア)

出所:資源エネルギー庁(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会検討会 資料 4)

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図 6-3 電力価値変化の方向性

出所:経済産業省(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1) 近年は、周波数調整力の重要性が認識され始めている。その一つの契機となったのが、

2016 年 9 月に発生した南オーストラリア州での大停電である。50 年に 1 度レベルのストー

ムにより送電線事故が発生し、事故当日の電源構成は約半分が風力という状況であった。同

期発電機の保有する慣性力が少ないことから、想定を上回る速度で周波数が低下したこと

が全州停電に至った主要因として報告されている。

図 6-4 南オーストラリア州での停電事例 出所:NEDO(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 9)

出所:経済産業省「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」、東京電力「低炭素化に向けた電力システムの方向性と課題」

※BER:大規模系統電源DER:分散型電源

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以上の背景をもとに、再生可能エネルギー大量導入に向けた課題と必要とされる打ち手

を整理すると、再生可能エネルギー大量導入に向けては、より柔軟な系統運用に加え、様々

な調整力が必要である。現在我が国においては、主に火力発電や揚水発電により調整力を確

保している。調整力の脱炭素化に向け、今後は蓄エネルギーによる調整力確保を中心に、再

生可能エネルギーを最大限活用するための火力動特性向上、DR・VPP による需要側におけ

る調整力確保が重要となる。加えて、容量市場や需給調整市場の立ち上がりも含め、系統で

受け入れきれない再生可能エネルギーを貯蔵して売却するなど、得られた再生可能エネル

ギーの最大限の活用も再生可能エネルギー投資を拡大する上では重要となる。 世界においても、再生可能エネルギーの普及に向けて技術開発の重要性が指摘されてお

り、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、デジタルテクノロジーを組み合わせた蓄電池

や需要家の電化などが必要と主張している。

図 6-5 再生可能エネルギー大量導入に向けた課題 出所:経済産業省(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1)

図 6-6 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が挙げる再生可能エネルギー普及に重要な技術 出所:経済産業省(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1)

電力市場の価値

kWh(電力)

kW(容量)

ΔkW(調整力)

再エネ大量導入のための課題

必要とされる打ち手(CO2大量削減が前提)

再エネ 蓄エネ 再エネ・蓄エネ以外

再エネ発電・蓄エネのコスト低下

変動再エネ増加により不足する安定容量の確保

回転系発電機のシェア低下から危惧される

系統周波数の維持(慣性力の維持)

実際に発電された電気

発電することができる能力

短期間で需給調整できる能力

負荷平準化(ピークシフト)

ピーク出力の確保

再エネ発電量の

予測精度向上

コスト低下Ex.) システムコスト低下

非変動性再エネの増加Ex.) 地熱発電の増加

Ex.) バイオマス発電の増加Ex.) CO2フリー水素発電の増加

パワエレ性能向上Ex.) 変換効率Ex.) 応答特性

送電線・地域間連系線の増強

日本版コネクト&マネージ

VPP・DREx.) 電化技術、制御技術

コスト低下Ex.) システムコスト低下

太陽光発電等の増加から生じる

需給ミスマッチの調整

応答特性の向上

給電ルール低稼働率を甘受する大規模バックアップ電源

性能向上Ex.) エネルギー変換効率の向上

Ex.) 耐久性向上

性能向上Ex.) エネルギー密度、耐久性向上

技術開発が必要な項目制度・インフラ・運用面の

検討が必要な項目

火力発電の調整力向上

再エネ大量導入

に伴い増す価値

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6.1.1 ポテンシャル・実用化評価

(蓄エネルギー技術) 蓄エネルギー技術は多様な用途での活用が期待されている。用途一覧と必要な性能など

を整理すると、蓄エネルギー技術の用途先は様々であり、そこで必要とされる応答時間や出

力も用途ごとに異なる。今後は特に、調整力となるΔkW のニーズが高まると想定され、応

答時間が短い領域の調整力を兼ね備えた蓄エネルギー技術が必要とされる。

図 6-7 蓄エネルギー技術の活用が期待される主要な用途先 出所:Deloitte(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-2) 蓄エネルギー技術の特性一覧からは、現時点においては揚水発電の蓄エネルギーコスト

が最も安いことが分かる。将来的には、リチウムイオン電池、NaS 電池、レドックス・フロ

ー電池、水素、蓄熱、圧縮空気貯蔵(CAES)などの適用も検討されている。また、コスト以外

の特性として、導入規模、エネルギー密度、サイクル効率、サイクル寿命などがあり、蓄エ

ネルギー技術ごとに長所および短所が存在することが分かる。 それぞれの蓄エネルギー技術ごとに短所を克服するため、多くの研究開発・実証が行われ

てきているが、他の脱炭素技術同様、大規模社会導入にはコストが最大の課題と言われてい

る。将来的には現在稼働している揚水発電並みの低コストを実現する大規模な蓄エネルギ

ー技術の確立が求められる。

提供価値 主要な用途先 必要な能力 応答時間現在の主要調整場所 出力

形態典型的な

設備出力(MW) 放電時間 実施回数発電 送配電需要家

kWh

Seasonal storage 季節間の需給バランスを調整する day ● 電力・熱 500 - 2000 Days tomonths

1 – 5 per year

Arbitrage / Storage trades安価な電力を調整し、高値で電力を

供給する(市場内・市場間)> 1 hour ● 電力 100 - 2000 8 - 20 h 0.25 – 1

per day

Combined heat and powerCHPにて蓄エネ技術を活用し、

熱と電力の需給バランスを調整する< 15 min ● 熱 1 -5 min to h 1 – 10

per day

Waste heat utilization廃熱利用設備で蓄エネ技術を

活用する< 10 min ● 熱 1 -10 1 h – 1 day 1 – 20

per day

kW

Transmission & distribution (T&D) congestion relief

送電線・配電線の一時的な混雑を緩和する

> 1 hour ● 電力・熱 10 - 500 2 – 4 h 0.14 – 1.25per day

T&D infrastructure investment deferral

送配電網の増強を一時的に先延ばしにする

> 1 hour ● 電力・熱 1 - 500 2 – 5 h 0.75 – 1.25per day

Demand shifting and peak reduction

需要シフトおよびピーク需要を削減する

< 15 min ● 電力・熱 0.001 - 1 1 min – 1 h 1 – 29per day

ΔkW

Non-spinning reserve供給力不足時に電力を提供する

(指令から15分以上)> 15 min ● 電力 10 - 2000 15 min - 2 h 0.5 – 2

per day

Spinning reserve 供給力不足時に電力を提供する

(指令から15分以内)< 15 min ● 電力 10 - 2000 15 min - 2 h 0.5 – 2

per day

Load following短時間での負荷変動に対応した

出力調整運転を行う< 15 min ● 電力・熱 1 - 2000 15 min - 1 d 1 – 29

per day

Frequency regulation 連続的に需給バランスを調整する 1 min ● 電力 1 - 2000 1 – 15 min 20 – 40 per day

Variable supply resource integration

変動性電源の集積により、供給力の変動を平滑化する

< 15 min ● 電力・熱 1 - 400 1 min – h 0.5 – 2per day

Voltage support送電・配電システム内で

電圧調整を行うmsec – sec ● 電力 1 - 40 1 sec -1 min 10 – 100

per day

非常時対応 Black start 停電時に外部電力供給なしに

起動する< 1 hour ● 電力 0.1 - 400 1 – 4 h < 1 per

year限定地域に対しkWh, kW, ΔkW Off-grid

オフグリッドの消費者に対して、需給調整する

< 1 hour ● 電力・熱 0.001 - 0.01 3 – 5 h 0.75 – 1.5 per day

出所:IEA「Technology Roadmap Energy storage」

1 hour 以上15 min 以下1 min 以下

応答時間

回転系発電のシェア低下による慣性力不足

VRE増加による系統の不安定化

価値が高まる理由

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図 6-8 蓄エネルギー技術の特性一覧(NEDO) 出所:NEDO(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 9)

図 6-9 各電力貯蔵技術のコスト比較(プロジェクト費または建設費を基に計算)

出所:NEDO(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 9) 以下、蓄エネルギー技術として活用が進んでいる蓄電池の課題についてまとめる。例えば、

現在電気自動車に活用され、今後も更なる市場拡大・コストダウンが見込めるリチウムイオ

ン電池は、再生可能エネルギーの蓄エネルギー技術としても活用が始まっているが、現状で

は可燃性の電解液であることもあり、その設置に相当のスペースを占有する他、安全設計が

求められるため、設置場所についての制約が伴うといった課題が残っている。コストダウン

の観点では、今後大量に市場に出てくることが予想される中古品を如何に活用していくか

についても検討が必要とされている。 また、車載用蓄電池として活用・開発が進められているリチウムイオン電池、全固体電池

に加え、米国などでは定置用蓄電池のレドックス・フロー電池の低コスト化などに向けた研

究プロジェクトがいくつか立ち上がっている。

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図 6-10 大規模蓄電池技術の比較

出所:電力中央研究所(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8) また、最近のトピックとして、近年蓄熱発電技術も注目されている点を挙げることができ

る。低コストでの蓄電が可能になるのではないかと期待されている。

図 6-11 海外における蓄熱発電プロジェクトの概要 出所:エネルギー総合工学研究所(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討

会資料 11-1) (火力発電による調整力の確保) 既存の火力発電は CO2 排出を伴うが、設備容量が豊富に存在するため、調整力が大きく、

調整力確保に係る投資が抑えられる可能性があるため、再生可能エネルギーに対応するた

めの調整力としての役割が増してきている。将来的には、CO2 排出を伴わない水素発電によ

る調整力が期待されている。

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図 6-12 火力発電の調整力向上と再生可能エネルギー導入の拡大 注釈:NEDO 「再生可能エネルギー大量導入時の電力系統安定化における火力発電の役割とガスタービ

ンの負荷変動吸収能力の向上による CO2削減効果に関する調査研究」(2016)成果から、軽負荷期を想定した 1 日の需給バランスを比較(2030 年九州エリアの例)したもの

出所:電力中央研究所(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1)

図 6-13 既存の火力発電が果たしている需給調整機能 出所:電力中央研究所(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1) 発電タイプ別の調整力としては、火力発電の中で、比較的新しい設備であるガスタービン

コンバインド発電は汽力発電に比べ、負荷変動、最低出力、DSS、WSS の性能値が高く調整

力が高い。

図 6-14 負荷変動能力の観点から火力発電による現状の調整力 出所:電力中央研究所(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8)

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部分負荷運転時の発電効率は、石炭火力は定格出力に対して 30%の負荷で運転すると発

電効率は約 20%低下し、GTCC は定格出力に対して 50%の負荷で運転すると発電効率は約

15%程度低下するといった特徴がある。部分不可運転時であっても発電効率の低下を最低限

にする技術開発が行われている。

図 6-15 火力発電の部分負荷運転時の発電効率 出所:電力中央研究所(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1) (需要側による調整)

また、脱炭素社会を目指すに当たり、系統・発電側だけでなく、需要側の調整も期待され

ている。既に IoT 技術を駆使しつつ、VPP や DR といったエネルギーマネジメントの導入が

進んでいるところであり、今後 AI、ブロックチェーン技術などの活用も期待されている。

VPP とは、需要家側のエネルギーリソース(蓄電池や電動車、発電設備など)を IoT 技術に

より遠隔で統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させ、電力需給調整に活用する

技術である。VPP の取組は、我が国では実証事業が行われているところであるが、ドイツや

イギリスなど、既にビジネス化している事例も存在する。

図 6-16 国外の VPP 動向① 出所:Deloitte(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 2-2)

市場取引に参加するコストを削減できる 計画と実績の差から生じるインバランスコストを削減できる

Wholesale Market スポット市場(EPEX)

バランシング市場*1(TSO)

メイン売上(市場取引)

VPP participants(中規模:数百kWの再エネがメイン)

各電源を個別に遠隔制御し、Next Pool の電源出力を調整

小水力(¢20/kWh )

太陽光(¢10/kWh )

風力(¢8/kWh)

バイオガス(¢12/kWh)

Next Pool

注)買取価格は例に過ぎない

再エネをメインにアグリゲート 3,000以上(約2GW)の設備を接続

発電事業者の代わりに市場取引を代行し、マーケットプレミアム*2を稼ぐ

電源特性に合わせた市場取引を実施 バランシング市場ではバイオガス・水力を取引

(出力増加・削減の両者が求められる) スポット市場では太陽光・風力を取引

Next Kraftwerkeの事業特徴

Next Poolの構築により出力を調整 出力変動電源(太陽光・風力)と安定電源(バイオガス・水力)の組合せ

により出力安定化が可能 市場シグナルに合わせた出力制御が可能・市場価格が高いとバイオガスの出力を増加

・市場価格が低いと蓄電やCHPの出力を抑制

A

B

C

*2:Feed-in Premium の価格と市場価格との差で市場価格がFIP価格より低いと差分が補填される市場価格がFIP価格より高い場合は差分の返還は不要

*1:Control Reserve (調整力確保)

Next Kraftwerke(ドイツ)のビジネスモデルと事業特徴

出所: 各種公開情報を基にDeloitte作成

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再生可能エネルギーによる発電抑制を極力抑えるため、余剰電力を機動的に活用する上

げ DR への注目も高まっている。我が国においても、2018 年 10~11 月にかけて、九州にお

いて電炉を利用した上げ DR 実証プロジェクトが実施された。

図 6-17 上げ DR 実証を実施した生産プロセス例 出所:経済産業省(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 2-1)

今後、再生可能エネルギーの出力抑制増加が見込まれる中、電炉や電解合成など電力多

消費産業における上げ DR を用いることで、産業分野をはじめとした電化が有用な方策の

一つとなる。電炉の上げ DR はまだ数回の実証を完了した段階であるため、今後も検証を

積み重ね、課題を洗い出していくことが必要である。

図 6-18 国外の上げ DR 動向(PG&E 保有する DR プログラム例) 出所:Deloitte(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 2-2)

6.1.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

揚水並みの低コストを実現する大規模な蓄エネルギー技術の確立への対応として、例え

ば、今後需要増加が見込まれる電動車で価格低下が期待されるリチウムイオン電池や全固

体電池の活用の他、安価な材料を使ったレドックス・フロー蓄電池の開発などが期待される。

供給

Automated Demand Response Program Excess Supply Pilot

取引容量:0.3-20.6MW/1回年間発生頻度5-10回

今後自動制御対象機器の増加により、DRの規模は拡大する

自動制御のため通常よりも多めの対価が顧客に

支払われる

主に産業・業務の顧客がプログラムに参加している

年間取引容量:NA年間発生頻度:24-84日 (1日当たり1-2回)

需要

上げDR

50Hz

家庭 産業・業務

無償のスマートサーモスタット(Honeywell製)を空調機器に

取り付け自動制御

大型冷蔵庫やファン、

エレベーターを自動制御

出所:PG&Eウェブサイト等を基にDeloitte作成

PG&E

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図 6-19 車載用蓄電池コストの低下のトレンドの強さ 出所:NEDO(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 9) 定置用蓄電池は、例えば 20 年といった長期運用の実績がない状態である。劣化評価技術

や電池交換技術の向上を実現しながら、長期運用の実績を積み上げる必要がある。車載用蓄

電池については、使用後の二次利用も想定できるため、このような劣化評価技術・残存価値

評価方法の標準化やその適正評価が必要とされている。さらには、資源のリサイクル利用を

進めることが肝要である。

図 6-20 蓄電池の長期間運転での課題と方策 出所:電力中央研究所(第 6 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会 資料 8) また、従前、低効率で着目されていなかった蓄熱や、低コストかつ低圧で充填・放出可能

な不燃性の水素吸蔵合金など水素を活用した蓄エネルギーのシステムなど、大規模かつ安

価に達成できる場合には、必ずしも電気でなくても、様々なエネルギー貯蔵の形態を追求す

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ることも重要である。その場合、エネルギー変換には損失が伴うという点からは、場合によ

っては、熱は熱として、水素は水素として、電気に戻さずに活用するという観点も必要であ

る。 また、火力発電については、新設及び既設火力発電所の改修において、より短時間での出

力調整や部分負荷運転時の効率向上を図っていくことが重要である(将来的には水素発電

への適用も含み得る)。

図 6-21 今後火力発電に求められる機能(GTCC の開発目標例) 注釈:※定格出力 50 万 kW を想定

出所:電力中央研究所(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 3-1)

VPP の調整力向上に向けて最も重要な課題は制御性の高いリソースを拡大することであ

り、そのためには蓄電池の低コスト化が不可欠である。その他にも、秒単位の速い制御シス

テムの開発が必要であり、通信速度・データ処理速度の向上を実現する必要がある。また、

技術開発のみならず、将来的には多くの市民や企業を大規模に巻き込む必要があるため、制

度面の工夫や実証の積み重ねも併せて必要である。

図 6-22 関西 VPP 実証プロジェクトの概要 出所:関西電力(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 4-3)

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上げ DR に関しては、今後も検証を積み重ね、課題を洗い出していくことが必要である。

現時点においては、電力会社の要請にどれだけ迅速に対応できるか、オン・オフに伴うエネ

ルギーロスをどこまで低減できるか、などの課題が想定されている。 これに加え、電源の脱炭素化の取組と併せて、産業分野をはじめとした最終エネルギー消

費における電化は、一部の電力を多く消費する生産工程を機動的に運用することにより系

統安定化のための調整力となる可能性がある。また、適用に困難が伴う分野や工程もあるも

のの、加熱や乾燥工程など産業プロセスでの化石燃料消費を削減する可能性や、プロセスの

制御性を高めることにより、エネルギー消費の低減だけでなく、少量多品種生産・自動化と

いった生産プロセスへの付加価値の提供も期待される。

図 6-23 産業プロセスの電化

出所:経済産業省(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討資料 2-1)

図 6-24 最終エネルギー消費の内訳と CO2 排出量 出所:東京電力 HD 矢田部氏(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会

資料 6)

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これまで、ヒートポンプや効率的に加熱できる赤外線乾燥設備といったエネルギー効率

の高い設備や、作業環境を大きく改善できる金属加工用の誘導加熱設備などの付加価値を

生み出す設備の導入は一部進んでいる。より一層の電化を促進させるためには、一品一様で

高コストとなりやすい設備の低コスト化、電化によるプロセスやプロダクトの高付加価値

化など、技術面・経済面での課題克服が重要である。

図 6-25 需要側の脱炭素化ポテンシャル 出所:東京電力 HD 矢田部氏(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6)

図 6-26 産業セクターの脱炭素化ポテンシャル 出所:東京電力 HD 矢田部氏(第 8 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 6)

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7. パワーエレクトロニクス

パワーエレクトロニクスは、パワー半導体を用いて、直流から交流への変換など、電圧や

電流、周波数を制御する技術である。パワーエレクトロニクスは、家電、鉄道、自動車、産

業用機器など、異なる要求特性をもつさまざまな製品群へ適用されている。省エネルギー効

果を最大限発揮させる上で、電力供給の上流から電力需要の末端までを支えるパワーエレ

クトロニクス機器を導入することが有効であり、パワーエレクトロニクス技術は、電気機器

の更なる省エネルギー化に繋がる横断的な技術である。

図 7-1 パワーエレクトロニクスを適用した製品

出所:文部科学省(第 7 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 2)

7.1 ポテンシャル・実用化評価

現在はシリコン(Si)が市場の9割以上を占めており、海外トップメーカーが更なる大口

径化によりシリコン半導体のより一層のコスト低減に取り組んでいるが、より高い耐圧が

求められる車載・産業用途や、より高速動作が求められる通信機器用途のために、シリコン

デバイスの新構造化技術や、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった次世代パ

ワー半導体材料の開発が進められており、我が国においても世界トップレベルの顕著な成

果が創出されつつある。しかしながら、ウェハ製造にかかる費用は、SiC は Si の 10 倍強、

GaN は SiC の 10 倍以上と言われており 3、次世代パワー半導体材料はまだ製造コストが高

いという課題があり、大口径ウェハの製造プロセスや効率的な高品位結晶作製技術の開発

が進められている。 さらに、パワーエレクトロニクスの省エネルギー性能を高めるため、パワーエレクトロニ

クスシステムについては、材料、デバイスのみではなく、周辺機器を含む汎用性のあるパワ

ーモジュールや磁性体、熱設計、ノイズ対策まで含めたトータルシステム設計が重要である。

3 SiC・GaN パワー半導体の最新技術・課題ならびにデバイス評価技術の重要性(筑波大学岩室憲幸、

2016 年)及び事業者ヒアリング。

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図 7-2 磁性部品の材料特性と技術課題

出所:首都大学東京 清水氏(第 7 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-4)

図 7-3 冷却体の技術動向

出所:東北大学 髙橋氏(第 7 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会 資料 7-4)

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図 7-4 パワーエレクトロニクス機器の電磁ノイズに関する課題

出所:首都大学東京 清水氏(第 7 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 8-4)

7.2 実用化を見据えた長期的な研究開発等の方向性

自動車の電動化、産業用機器の IoT 化、ワイヤレス給電、電力制御のスマート化など、ア

プリケーション分野を絞った研究開発を行い、その用途別に、トータルの設計がどうあるべ

きかを踏まえた上で、コスト、効率、信頼性、大きさなどを最適化して社会導入することが

必要である。また、低コスト化、標準化できる部分を切り出すなど、既存技術で低コスト化

を目指して導入を進めることも重要となる。加えて、機械式のブレーカーなど半導体を導入

可能だがまだ電化されていない領域を探すことも、省エネルギー技術の拡大につながる。 今後開発すべき具体的な技術としては、電力を高効率に制御できる次世代半導体の研究

開発を推進するとともに、コスト低下に向けて、ウェハの大口径化や歩留まり改善、部品や

回路の共通化、標準化、大量生産技術の導入などに向けた取組の推進が求められる。また、

高機能化・高性能化に向けて、半導体のみならず、受動部品や実装技術などを含めた、パワ

ーエレクトロニクス機器全体にかかる基礎的研究開発を推進することも重要である。

図 7-5 パワーエレクトロニクスの種類と用途

出所:三菱電機(第 7 回エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会資料 7-3)

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8. 効果的な研究開発・実証支援に向けて

最後に 2050 年以降の脱炭素化に向けたエネルギー・環境分野での研究開発・実証支援の

方向性についてまとめる。 他の分野と同様に、本分野の研究開発においても、民間の知見・資金を最大限活用するこ

とを促しつつ、基礎研究や実現可能性調査などの段階では、幅広い技術シーズに着目し、そ

れらの中で成果の見込まれるものに重点化して、その先の実用化に向けた技術開発に挑戦

し、2050 年やその先を見据えての脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいくことが求めら

れる。市場化に向けて技術レベル(Technology Readiness Level (TRL))がどの段階であるの

かに関して、専門家の知見を活用しつつ、国としても客観的に評価した上で、資金面などに

おいて技術レベルに応じた適切な支援を行っていくための検討が必要である。その際、既に

化石資源を中心に利用した比較的安定な市場が確立している本分野では、特に「コスト」な

ど、ユーザーなどの立場・ニーズをより重視していかなければ、脱炭素化社会を実現してい

くことは困難である。科学的な価値観に基づく革新だけでなく、常に、ユーザーや未来社会

像の観点から、不必要な技術目標を追求していないか、スピード感をもって上市できるか、

精査することが求められている。 これまで我が国では、本分野において、サンシャイン計画を始め、ムーンライト計画、

ニューサンシャイン計画などに基づき、多額の政府研究開発予算を投じてきている。太陽

光発電のように、長期の研究開発投資が実を結んだ技術もある一方、なかなか市場化に結

びつかない事例もあるが、技術課題の理解を含め、これまでの取組の蓄積を土台にしつ

つ、最新の科学的知見を継続的に取り入れ、研究開発・実証を継続する必要がある。その

際、これまでと全く異なるコンセプトでコストを含めた課題を一気に解決し得る非連続な

革新的技術と、革新的技術というイメージが薄い分野であっても、これまでの長期の研究

開発投資を踏まえ、確実に社会実装に向かうための短中期での開発を目指す技術との両面

を推進することが重要である。 非連続な革新的技術探求の取組としては、これまで、2050 年の脱炭素化に向け、経済産

業省では、エネルギー・環境イノベーション戦略で示された分野を中心とした革新的な低炭

素技術シーズを探索・創出するため、2017 年より、未踏チャレンジ 2050 を開始した。2050年頃に第一線で活躍しているような若手研究者を育成するため、大学などの研究者は 40 歳

未満の若手研究者を対象としている。また、文部科学省においても、2017 年より、未来社

会創造事業を開始し、2050 年に向けた CO2 大幅削減の目標からバックキャストした技術課

題を特定し、アカデミアの発想を活かしたハイリスク・ハイインパクトな研究開発を推進し

ている。両省では、COMMIT2050 として、研究の進捗に伴い学術的課題が生じた場合の橋

渡し、社会実装に近づいた研究課題の橋渡しをするなど連携してきたところである。今後と

も、2050 年に向けた長期的な研究開発については、優れた個人の着想を活かせるような研

究開発を促進する。 これらを含め、国の研究開発事業において、社会やユーザーの立場から必要となる技術課

題を設定し、実現可能性調査の段階から、複線的な研究開発アプローチで技術間競争を促す

ような仕組みを検討していく。また、研究開発のステージが上がって、技術開発や実証事業

を実施していくうちに新たな課題が生じ、場合によっては、基礎研究にまで遡った対応が求

められることもある。上述のように経済産業省、文部科学省のみならず、関係府省庁の事業

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がより有機的に連携できる仕組みを整えることが重要である。 また、地球温暖化という世界的な課題では、我が国にとどまらず世界から技術シーズを発

掘するため、ミッション・イノベーションなどを活用した国際共同研究、ジョイントコール

などによる国際共同研究の実施という観点も重要となる。 更に、研究・技術開発に当たっては、コストや CO2 排出の LCA 分析により、その技術の

客観的ポテンシャルを評価していくことが重要である。現状においては、そもそも温室効果

ガス排出量の LCA 分析が行われていない場合が多いことに加え、仮に分析が行われていた

としても、コスト分析と温室効果ガス排出量の LCA 分析が別に実施され、比較分析も困難

である場合も多いことが実態である。前提条件を開示した上で、市場での普及までを見通し

た客観的なライフサイクルベースでの温室効果ガス削減効果の評価(LCA)の下に、技術選

択・開発の注力をしなければ本末転倒である。LCA 技術評価を通じた客観性の担保として、

研究開発における LCA 評価の要件化や LCA データベースの充実、LCA 技術評価の不確実

性の評価が考えられるが、どのように実行できるかは今後の検討課題である。データ不足と

各種不確実性などのため、CO2 排出量の LCA 分析は極めて大きな困難を伴うが、産学官の

様々なプレーヤーを巻き込んだ上で、分析内容を精査できる環境を整えることが重要であ

ると思われる。 CO2 削減技術の普及のみならず、同技術の研究開発を活発化させるためにも、政府による

研究開発予算の確保や、企業の環境貢献の見える化などの CO2 削減技術導入インセンティ

ブも求められる。 また、環境・エネルギーの分野では、研究開発段階では最先端にいても、商用化・産業化

の段階おいて、その立ち位置を簡単に覆されることがあると指摘されている。こうした事態

に陥らないよう、産業化に向けた方策の検討も必要となる。 最後に、技術は人と同義であり、若手研究者を始めとした人材育成は、本分野でも最も重

要であると言える。環境・エネルギーに関する様々な分野における人材の育成、確保が重要

である。これらの人材を将来に渡って輩出するためには、長期的視点での人材育成を継続的

に取り組むことが望まれる。政府の研究開発支援事業においても、若手研究者の育成、技術

シーズの市場化の促進の強化の観点から、若手研究者に着目した事業の推進を図りつつ、そ

の際、若手研究者と経験を積んだ研究者や産業界などの情報交換の促進を継続的に進めて

いく。 本検討会において、官民の投資を促進し、脱炭素技術の大規模な社会導入を実現するため、

脱炭素社会の実現に向けて、社会が求める技術の実用化・ポテンシャルを再評価し、ユーザ

ーからのニーズやボトルネック課題の抽出による見える化、現在検討されている技術によ

る到達可能性・限界を客観的に示してきたところであるが、今後とも、官民が継続して投資

すべき技術の精査、その研究開発の進め方の見直しなどを継続的に行っていくことが重要

である。

以上

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エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会 参加者

(共同議長) 飯田 祐二 経済産業省 産業技術環境局長 佐伯 浩治 文部科学省 研究開発局長 (有識者委員) 財満 鎭明 名城大学大学院理工学研究科 材料機能工学専攻 教授 佐々木 一成 九州大学工学研究院 機械工学部門 主幹教授・副学長

(産学官連携担当) 関根 泰 早稲田大学理工学術院 先進理工学部 応用化学科 教授 中岩 勝 (国研)産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所 所長 安井 至 (財)持続性推進機構 理事長 山地 憲治 (財)地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長 (事務局) 渡邊 昇治 経済産業省 大臣官房審議官(産業技術環境局担当) 梅北 栄一 経済産業省 産業技術環境局エネルギー・環境イノベーション戦略室長 染矢 聡 経済産業省 産業技術環境局エネルギー・環境イノベ―ション戦略室

産業技術総括調査官(エネルギー・環境担当) 横地 洋 文部科学省 研究開発局 環境エネルギー課長 渡邉 政嘉 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構 理事 土肥 英幸 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター

環境・化学ユニット長 仁木 栄 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター

再生可能エネルギーユニット長 矢部 彰 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター

エネルギーシステム・水素ユニット長 佐藤 順一 (国研)科学技術振興機構 研究開発戦略センター

環境・エネルギーユニット 上席フェロー (関係府省・オブザーバー) 内閣府、環境省