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shishi No.22 scu Kyuku Yumo

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「きのこ会議」 夢野の作家デビュー間もない時期に発表された掌編。後の怪作の数々とも趣向の異なる、きのこ達による不思議な童話世界が展開する。ちなみに本作は全集のほか、昨年出版された、きのこ文学のアンソロジーである飯沢耕太郎編『きのこ文学名作選』にも収録されている。

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shishiNo.22

Discussby Kyusaku Yumeno

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きのこ会議

夢野久作

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初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、

霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松

露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、談話会を

始めました。一番初めに、初茸が立ち上って挨拶を

しました。

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「皆さん。

この頃はだんだん寒くなりまし

たので、そろそろ私共は土の中

へ引き込まねばならぬようにな

りました。今夜はお別れの宴会

ですから、皆さんは何でも思う

存分に演説をして下さい。私が

書いて新聞に出しますから」

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皆がパチパチと手をたたくと、

お次に椎茸が立ち上りました。

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「皆さん、

私は椎茸というものです。この

頃人間は私を大変に重宝がっ

て、わざわざ木を腐らして私共

の畑を作ってくれますから、私

共はだんだん大きな立派な子孫

が殖えて行くばかりです。今に

どんな茸でも人間が畠を作って

くれるようになって貰いたいと

思います」

 皆は大賛成で手をたたきました。

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その次に松茸がエヘンと咳

払いをして演説をしました。

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「皆さん、

私共のつとめは、第一に傘をひ

ろげて種子を撒き散らして子孫

を殖やすこと、その次は人間に

食べられることですが、人間は

何故だか私共がまだ傘を開かな

いうちを喜んで持って行ってし

まいます。そのくせ椎茸さんの

ような畠も作ってくれません。

こんな風だと今に私共は種子を

撒く事が出来ず、子孫を根絶や

しにされねばなりません。人間

は何故この理屈がわからないか

と思うと、残念でたまりません」

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と涙を流して申しますと、皆も口々に、

「そうだ、そうだ」

 と同情をしました。

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 するとこの時皆のうしろからケラケラと笑

うものがあります。見るとそれは蠅取り茸、

紅茸、草鞋茸、馬糞茸、狐の火ともし、狐の

茶袋なぞいう毒茸の連中でした。

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 その大勢の毒茸の中でも一番大きい蠅取り茸は大

勢の真中に立ち上って、

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「お前達は皆馬鹿だ。世の中の役に立

つからそんなに取られてしまうのだ。

役にさえ立たなければいじめられは

しないのだ。自分の仲間だけ繁昌す

ればそれでいいではないか。俺達を

見ろ。役に立つ処でなく世間の毒に

なるのだ。蠅でも何でも片っぱしか

ら殺してしまう。えらい茸は人間さ

えも毎年毎年殺している位だ。だか

らすこしも世の中の御厄介にならず

に、繁昌して行くのだ。お前達も早

く人間の毒になるように勉強しろ」

 と大声でわめき立てました。

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 これを聞いた他の連中は皆理屈に負けて

「成る程、毒にさえなればこわい事はない」と

思う者さえありました。

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 そのうちに夜があけて茸狩りの人が来たようですから、皆は

本当に毒茸のいう通り毒があるがよいか、ないがよいか、試験

してみる事にしてわかれました。

 茸狩りに来たのは、どこかのお父さんとお母さんと姉さんと

坊ちゃんでしたが、ここへ来ると皆大喜びで、「もはやこんなに

茸はあるまいと思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山あ

る」「あれ、お前のようにむやみに取っては駄目よ。こわさない

ように大切に取らなくては」「小さな茸は残してお置きよ。かわ

いそうだから」「ヤアあすこにも。ホラここにも」と大変な騒ぎ

です。

 

 そのうちにお父さんは気が付いて、「オイオイみんな気を付け

ろ。ここに毒茸が固まって生えているぞ。よくおぼえておけ。

こんなのはみんな毒茸だ。取って食べたら死んでしまうぞ」と

おっしゃいました。

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茸共は、成る程毒茸はえらい

ものだと思いました。毒茸も

「それ見ろ」

と威張っておりました。

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 処が、あらかた茸を取ってしまってお父さんが、「さ

あ行こう」と言われますと、姉さんと坊ちゃんが立ち

止まって、「まあ、毒茸はみんな憎らしい恰好をしてい

る事ねえ」「ウン、僕が征伐してやろう」といううちに、

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片っ端から毒茸共は大きいのも

小さいのも根本まで木っ葉微塵

に踏み潰されてしまいました。

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夢野久作1889 -1936

童話や幻想文学、SF、探偵小説など、奇想に満ちた作品

を多数執筆し、独自の地位を築いた日本の作家。僧侶や

新聞記者などを経たのち、作家としてデビューしている。

彼の代表作といえる『ドグラ・マグラ』は、日本三大奇

書のひとつに数えられている。

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