3 クラウド・コンピューティング特論 第1章 クラウドの概要

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最近ニュースなどで「クラウド・コンピューティング」の言葉を見ることが多くなってきました。 今なぜクラウド・コンピューティングが注目されるのか、その背景を知っておきましょう。

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Page 1: 3 クラウド・コンピューティング特論 第1章 クラウドの概要

最近ニュースなどで「クラウド・コンピューティング」の言葉を見ることが多くなってきました。今なぜクラウド・コンピューティングが注目されるのか、その背景を知っておきましょう。

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世界経済がフラット化することで、大きなキャパシティや人材を世界中どこからでも利用できるようになってきています。テクノロジーの進歩により、それらの資源を使いたい企業や組織にとっての障壁が取り除かれています。しかし、多くの企業はまだその段階に達していません。20世紀前半、大企業は海外に多数の販売拠点をもち世界中の顧客へ製品を輸出する国際的企業のタイプでした。今日、多くの大企業は単なる国際企業から多国籍企業モデルへと移行し、地域ごとのオフィスやデータセンターを世界中に保有しています。さらなる競争と成長のためには「グローバルに統合された企業」へと変革することが必要です。グローバル・ネットワーク・インフラの出現、新たなスキル人材の確保、高度成長市場、新しい通商協定などによって、新たに世界が広がって行くビジネス変革が実現されます。

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これに並行して、インターネットとデバイスの急速な増大がこの変革を支えています。近い未来にインターネットは100万のビジネス、10億人の人々をつなぎ、実質的に世界最大のインフラを構成することになるでしょう。

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ビジネス・モデルもさまざまな形に進化してきました。当初のネット取引は、企業同士のビジネスを円滑にすることに重点が置かれました(B-to-B)。それが、消費者により良い情報やサービスを提供する方向に広がっています(B-to-C)。今世紀に入って、どうしてこれら全てが同時に起こったのでしょうか?それは、インターネットによる新しいICTプラットフォームが新しいビジネス・チャンスを呼び、今までになかったビジネス・モデルを作り出したためです。ネット・オークション「e-Bay」のような企業が消費者対消費者(C-ro-C)ビジネス・モデルを作り出したり、検索サービス「Google」が情報へのアクセス方法を変え続けています。新たなビジネス・モデルの連鎖が加速し、私たちが相互に交流する手段を変革させているのです。

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これらの変革により、コンピューターが計算すべき情報量が爆発的に増加しています。従来のサーバーやパソコンだけでなく、データを発生するデバイスが急速に増加しているためです。データの大きさとネットワーク帯域の消費は18ヵ月ごとに倍増し、ネットワーク経由のデバイスからのデータ・アクセスは2年半ごとに倍増します。しばらくの間、毎年2億人の新しいユーザーが加わると見積もられるためです。間もなく、兆単位のデバイスがインターネットに接続されるでしょう。現在、30億の人々がワイヤレス・ネットワークを利用していますが、これも情報の爆発の要因となります。これらの情報を安全・確実に配信するために、セキュリティーと管理がますます重要となっています。

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企業や組織のICT管理責任者であるCIOにとって、このような情報量の増大は喜んでばかりいられることではありません。企業のサーバーへの投資額を見ると、新しいサーバー獲得そのものに対する金額がほぼ横ばいなのに対し、運用管理コストが8倍、電力・空調に関わるコストが4倍になっているのです。そこで、これからのICT活用・成長のための重要な課題は、いかに運用管理などのコストを抑え、新技術や新しいビジネス・モデル実現により効果的な投資をしていくかにあると言えます。その答えの一つが、クラウド・コンピューティングの活用にあると考えられています。

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流行語になった「クラウド・コンピューティング」ですが、実際にはいくつかの手法の総称です。それぞれの手法の特徴と、効果的にクラウド・コンピューティングを活用するための手法選択の考え方を学びます。

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「クラウド・コンピューティング」の概念は、2006年8月に米国カリフォルニア州サンノゼで開催された「検索エンジン戦略会議」(Search Engine Strategies Conference) でGoogleのエリック・シュミットCEOが初めて提唱したといわれています。一般的な定義は、アプリケーション・ソフトなどあらゆる「ICT資源」がクラウド(雲)の上にあり、利用者はWebブラウザや対応デバイスがあればその雲にアクセスできる仕組み、と言っていいでしょう。

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クラウド・コンピューティングの第1の特徴は「ICTをサービスとして利用」という点ですが、このことを表す用語として「XaaS」があります。"aas"は"as a service"、すなわち「サービスとしてのX」という意味です。もっとも普及している「SaaS」=「サービスとしてのソフトウェア」では、従来のようにソフトウェア・パッケージを購入するかわりに、インターネット経由で必要な機能を利用し、使った分だけ支払う形を取っています。これにより利用者が余計な資産を持つ必要がなくなったり、最新バージョンに買い換え、インストールし直す手間を省ける、などの利点が得られます。同様に、開発環境などのプラットフォームを柔軟に提供する「PaaS」、仮想化したサーバーやストレージを必要な分提供する「IaaS」も普及し始めています。

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わかりやすくするために、「XaaS」を焼き肉にたとえてみました。肉は自分で用意したい人は「IaaS」で鉄板などのインフラだけを借りたいし、それに加えて肉そのものも提供され、好きに焼きたいというのなら「PaaS」、できあがったものを食べるだけがお望みなら「SaaS」の焼き肉定食、といった具合です。それぞれ、利用者の望みが柔軟にかなえられ、コストもそれ相応に抑えられるのが理想であり、クラウド・コンピューティングが目指している方向でもあります。

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「XaaS」はどのくらいの種類があるのでしょうか。現在、業界で聞かれる「サービスとしての…」を集めてみました。これは日々増減したり変わったりしていると思われます。前項であげた「SaaS」「PaaS」「IaaS」くらいを覚えておけば十分でしょう。

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次に、異なった視点(役割)からクラウド・コンピューティングを見てみます。クラウド・コンピューティングを使ったサービスを利用する側から見た場合(図の上から下へ)には、クラウドとはサービスそのものです。SaaSであればアプリケーションの機能を使いたい時に容易に使えるかどうか、IaaSであれば必要な時にCPUやストレージなどの資源をすぐに割り当ててもらえるかどうかが重要となります。サービスを提供する業者やシステム部門から見た場合(図の下から上へ)、クラウドとは柔軟なサービスを実現するための機能を持ったハードウェアやミドルウェア、そして運用モデル=クラウド・イネーブラーです。管理する各種資源を無駄なく効果的に使えるか、柔軟なサービスメニュー管理や課金機能などが鍵となります。

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次に、最近話題となっている提供形態の違いによるクラウド・コンピューティングの分類を見てみましょう。インターネットを介して従量課金制でサービスを受ける、一般的なクラウドのイメージは「パブリック・クラウド」と呼ばれます。まさに、資産を持たずに必要な時に必要な分だけ使うサービスです。ただ便利な反面、サービス内容がサービス業者(たとえばGoogle)が決めたものに限られる点、可用性(24時間365日止まらずに使えるか?)や障害/災害への対策(ストレージが壊れた際にすぐに復旧できるか?)、またセキュリティ(個人情報はじめ重要機密を外部業者に任せられるか?)などの不安が出てきます。

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そこで、クラウドの利点を企業内のICT部門やデータセンターで活かそうという考え方が出てきました。それが「エンタープライズ・プライベート・クラウド」です。企業内の各部門をクラウド利用者ととらえ、仮想化された基盤、自動化された運用、標準化された運用プロセスに則ることで、柔軟なサービスとコスト最適化を目指します。さらに、外部に任せても問題のない部分をパブリック・クラウドに、自社の重要な業務に関わる部分はプライベート・クラウドを適用した「ハイブリッド・クラウド」の考え方により、"いいところ取り"を狙う動きも活発になってきています。

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この表では、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドそれぞれの特徴をまとめています。CIOをはじめとするICT管理者がこれらの特性を理解して、もっとも効果的なICT環境を選択していくことが、クラウド・コンピューティングの時代における重要なポイントとなっていくことでしょう。

Page 16: 3 クラウド・コンピューティング特論 第1章 クラウドの概要

IBM RC2は、米国IBM社が2007年より展開している、国際的な研究チームにおけるICT資源の需要を最適にするためのセルフサービス・システムです。新技術の実験を行う際にサーバーやネットワークなどの資源要求に迅速に応えるために作られました。従来、研究者が申請した資源要求は、上司が承認し、システム部門の担当者が空いている機材の特定や必要ソフトウェアのインストールなど行っており、時間がかかっていました。また、資源の過不足も不満の種でした。RC2ではこれらのワークフロー、資源展開(プロビジョニング)が自動化されるとともに、資源を仮想化することで過不足の問題についても最適化が図られました。また、運用管理コストも大幅に削減され、研究所の本来の目的により多くの投資を行えるようになっています。

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ここまで見てきたように、クラウド・コンピューティングには、従来のデータセンター・モデルに対し柔軟性やコスト構造について大きなアドバンテージがあります。これを活かして、既存のサービスがより使いやすくなるとともに、クラウドならではの新しいタイプのサービスが登場してくることでしょう。

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ここでは、クラウド・コンピューティングにおいていち早く取り組んできた各社の取り組みをご紹介します。日進月歩の業界ですので、最新情報についてはWebなどをご参照ください。

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パブリック・クラウドとして利用者向けに柔軟なサービスを提供する企業や、エンタープライズ・プライベート・クラウドの構築をサポートする企業など、多くのICT企業がクラウド・コンピューティングを用いたビジネスを展開しています。

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「クラウド・コンピューティング」という言葉を紹介したとされるエリック・シュミットがCEOを務めるGoogleは、検索サービス提供用に膨大なデータ処理を行う必要性から、独自の大規模クラスタ・サーバーを構築してきました。また、自社用として培ったクラウド技術を、SaaS、PaaSとして利用者向けに提供しているのも特徴的です。

Google App Engine <http://code.google.com/intl/ja/appengine/>

Page 21: 3 クラウド・コンピューティング特論 第1章 クラウドの概要

オンライン・ショッピングサイトのAmazonも、自社サービス用に必要となる大規模システムを元にして、SaaS、IaaSのサービスを展開しています。

amazon web services < http://aws.amazon.com/ >

Page 22: 3 クラウド・コンピューティング特論 第1章 クラウドの概要

salesforce.comはCRM(顧客管理システム)のSaaSで有名ですが、その基盤を元にしたPaaSによる開発環境も提供しています。

Force.com(クラウド型プラットフォーム) < http://www.salesforce.com/jp/platform/ >

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ICT業界で古い歴史を持つIBMでは、企業が自社システム環境をプライベート・クラウド化するためのハードウェア、ソフトウェア、サービスを提供するのに加えて、コミュニケーション・ツールや開発環境などに対するパブリック・クラウド・サービスを提供しています。