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N306 日産婦誌60巻 9 号 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 伊東 宏晃 座長:日本大学 山本 樹生 順天堂大学 竹田 近年英国を初めとする欧州を中心とした疫学研究から,胎生期から乳幼児期にいたる栄 養環境が,成人期あるいは老年期における生活習慣病発症リスクに影響する可能性が指摘 され Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)という概念が提唱されて いる.しかしながら,現在私たちが日常の産科臨床で遭遇する intrauterine growth re- striction(IUGR)児,未熟児あるいは巨大児など個々の症例に対して,母体(胎生期),新 生児期あるいは乳幼児期において成人期の健康を改善すべく予防的介入を考慮するために は解決すべき問題点が多く残されている.本講では疫学研究とりわけ DOHaD 研究の先 駆となった Barker 仮説を中心に,現在の周産期・新生児臨床との関わりさらに妊娠前あ るいは妊娠中の母体の栄養管理との関わりについて検証を試み今後の検討課題を考察し た. Barker 仮説 Barker et al.は England と Wales において1921~25年における新生児死亡率が高い 地域では1969~1978年において心血管障害による死亡率が高いという疫学の研究成果 を解析し ,2,500g 以下の低出生体重児は心血管障害による死亡のリスク因子であると いう概念を提唱し Barker 仮説と呼ばれる .この概念は低出生体重児というパラメータ と成人期における心血管障害による死亡率というエンドポイントが比較的明確なシンプル な仮説である(図1).しかしながら,科学的にその具体的機序を解析することは至難であ り,著者の知る限り動物モデルによる直接証明はいまだなされていない(図1).現代医学 において心血管障害は種々の生活習慣病がリスク因子を形成することが明らかとなりつつ ある.とりわけ肥満,耐糖能異常,高脂血症,高血圧は1人の人間に集束して発症する傾 向が認められメタボリックシンドロームという概念が提唱されている.Barker 仮説の直 接証明が困難であることから,肥満,耐糖能異常などメタボリックシンドロームの主症状 クリニカルカンファレンス7 妊娠中の栄養管理と出生児の予後 3)胎生期から乳幼児期における栄養環境と 成長後の生活習慣病発症のリスク Nutritional Condition during Fetal to Infantile Period and Adult Disease Hiroaki ITOH National Hospital Organization, Osaka National Hospital, Osaka Key words : Barker hypothesis・Low birthweight・Cardiovascular disease・ Nutrition

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Page 1: 3)胎生期から乳幼児期における栄養環境と 成長後の生 … · n―306 日産婦誌60巻9号 独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 伊東

N―306 日産婦誌60巻 9 号

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独立行政法人国立病院機構大阪医療センター伊東 宏晃

座長:日本大学山本 樹生

順天堂大学竹田 省

緒 言近年英国を初めとする欧州を中心とした疫学研究から,胎生期から乳幼児期にいたる栄

養環境が,成人期あるいは老年期における生活習慣病発症リスクに影響する可能性が指摘されDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)という概念が提唱されている.しかしながら,現在私たちが日常の産科臨床で遭遇する intrauterine growth re-striction(IUGR)児,未熟児あるいは巨大児など個々の症例に対して,母体(胎生期),新生児期あるいは乳幼児期において成人期の健康を改善すべく予防的介入を考慮するためには解決すべき問題点が多く残されている.本講では疫学研究とりわけDOHaD研究の先駆となったBarker 仮説を中心に,現在の周産期・新生児臨床との関わりさらに妊娠前あるいは妊娠中の母体の栄養管理との関わりについて検証を試み今後の検討課題を考察した.

Barker 仮説Barker et al.は England とWales において1921~25年における新生児死亡率が高い

地域では1969~1978年において心血管障害による死亡率が高いという疫学の研究成果を解析し1),2,500g 以下の低出生体重児は心血管障害による死亡のリスク因子であるという概念を提唱しBarker 仮説と呼ばれる2).この概念は低出生体重児というパラメータと成人期における心血管障害による死亡率というエンドポイントが比較的明確なシンプルな仮説である(図1).しかしながら,科学的にその具体的機序を解析することは至難であり,著者の知る限り動物モデルによる直接証明はいまだなされていない(図1).現代医学において心血管障害は種々の生活習慣病がリスク因子を形成することが明らかとなりつつある.とりわけ肥満,耐糖能異常,高脂血症,高血圧は1人の人間に集束して発症する傾向が認められメタボリックシンドロームという概念が提唱されている.Barker 仮説の直接証明が困難であることから,肥満,耐糖能異常などメタボリックシンドロームの主症状

クリニカルカンファレンス7 妊娠中の栄養管理と出生児の予後

3)胎生期から乳幼児期における栄養環境と成長後の生活習慣病発症のリスク

Nutritional Condition during Fetal to Infantile Period and Adult DiseaseHiroaki ITOHNational Hospital Organization, Osaka National Hospital, Osaka

Key words : Barker hypothesis・Low birthweight・Cardiovascular disease・Nutrition

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2008年 9 月 N―307

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(図1) Baker仮説

をいわば中間パラメータとして低出生体重との関連が疫学研究3)4)にあるいは動物実験5)~7)

により間接的な検証が試みられている(図2).一方,我が国では低出生体重児の出生率が

増加し年間10万人に及んでいる8).この現状は先進諸国の中で極めて特異な状況とされている.このような我が国の低出生体重児は

Barker 仮説によれば将来心血管障害に罹患するハイリスク群となる可能性が危惧されている.また,近年妊娠前あるいは妊娠中の栄養管理とBarker 仮説との関わりが注目されてい

る.しかし,低出生体重児のリスク因には胎児因子や早産,多胎,母体の栄養環境,母体喫煙などのいわば環境因子など実に多彩な背景因子が関与していると考えられている(図3).妊娠前あるいは妊娠中の栄養管理とBarker 仮説との関わりを考えた場合,低出生体重児のリスクを形成する多彩な背景因子の1つであると著者は考えている.したがって,栄養管理以外にも,例えば早産率の減少を目指す臨床研究,生殖補助医療において多胎妊娠を予防する試みあるいは若年女性への禁煙活動なども低出生体重の出生率を減少させることが期待される.これらの取り組みは次世代において心血管障害のリスク軽減に寄与する可能性が期待される.

我が国における妊孕世代若年女性の栄養状態(妊娠前の栄誉管理)図1に示すように我が国では低出生体重児の出生率が増加し続けている.一方,我が国

では20代および30代妊孕世代女性のBMI が急速に低下しており,不自然なダイエットによるやせの増加が著しい(図4)9).実際,1983年に20代女性のやせは14.6%であったが2003年には23.4%に増加している.やせた女性が妊娠した場合低出生体重児を出産するリスクが高いと報告されていることから10)11),我が国の妊孕世代若年女性のやせの増加が低出生体重の増加の少なくとも一部に寄与している可能性が考えられる.したがって,我が国妊孕世代女性に適切な保健指導を行うことで栄養状態を改善しうるならば低出生体重児出生率改善の一助となることが想定され,半世紀後における心血管障害罹患率の低下に寄与することが期待される.

妊婦の摂取管理妊婦の栄摂取と児の長期予後の関わりが解析される契機は第二次世界大戦に遡る.

1944年秋から約半年間ナチスドイツによる出入港禁止措置のためオランダの一部の地域で極度の食料難に陥り1人当たり700キロカロリーまで栄養摂取が落ち込んだとされDutch famine と呼ばれている12).妊娠初期にDutch famine に遭遇した妊婦から生まれた児は成人後に肥満13)や心血管障害14)発症のハイリスク群と報告されている.また必ずしも低出生体重と相関しないとされている.しかしながら,妊娠中の特定期間のみ極端な低栄養に曝されるというDutch famine のような状況は現代の通常妊娠において極めてまれである.むしろ動物実験に近いエビデンスとも解釈しうるため,今日の一般的な妊婦における栄養管理の参考には必ずしもふさわしくないのではないかと著者は考えている.一般妊婦レベルでの通常範囲の栄養摂取と児が成人した後における心血管障害発症との直接的な関連を証明する疫学成績が乏しい現時点においては,妊婦栄養摂取の影響が果たして

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N―308 日産婦誌60巻 9 号

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(図2) Baker仮説の間接的証明の試み

(図3) 低出生体重児の背景因子

(図4) 日本人のBMIの年次変化

Barker 仮説のパラメータとされている低出生体重児のリスクの1つであるか否かまず初めに評価することが必要ではないかと考えている.ラットやマウスなどの動物実験では母獣の摂餌制限により出生仔体重が低下することが

数多く報告されている6)15).しかし,ヒトにおける摂取カロリーの低下と胎児発育に関するエビデンスは実に乏しい.少なくとも第二次大戦の Leningrad 攻防戦あるいはDutchfamine における妊婦の解析から母体の1日の摂取カロリーが1,500キロカロリー以下の場合は胎児発育の低下が生じると考えられている16).一方,我が国における妊婦の栄養管理は妊娠高血圧症候群の予防を目的として歩んでき

た.妊娠高血圧症候群の予防を目的として正常体格の妊婦に対して妊娠中の体重の増加を7~10kg に制限する指針が長く示されてきた17).すなわちあえて生理的な体重増加を下回る目標値が設定されてきたことになる.2006年に厚生労働省から7~12kg という指針18)が示されるまで長くこのような妊婦の体重増加制限が行われてきた.このような栄養指導は我が国における低出生体重児出生率の増加の一部に関与した可能性が推測されるものの,エビデンスレベルでの証明はなく科学的な根拠は乏しい(図5).米国ACOGの指針において妊娠高血圧症候群発症のリスク因子として記載されている

項目の中で唯一妊婦の栄養に関する記載は妊娠が成立した時点での妊婦が肥満であり,妊

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(図5) 妊婦の栄養と低出生体重児の関わり

娠中の妊婦の体重増加についての記載はないし,体重増加に関して何らかの指導を行うとの記載はない19).妊婦が妊娠高血圧症候群を発症した場合,

我が国では厳しい摂取カロリー制限が推奨されてきた17).実際,日本妊娠中毒症学会(現日本妊娠高血圧学会)学術委員会のアンケート調査によると重症例に対して過半数の施設で1,600kcal 以下の摂取カロリー制限を行っている20).米国ACOGにおける妊娠高血圧症候群の取り扱い指針には,妊娠高血圧

症候群を発症した妊婦の摂取カロリーを制限するとの記載はない19).このように妊娠高血圧症候群の予防(対象は正常妊婦)あるいは治療として妊婦に摂取カ

ロリー制限を行うことは我が国独自の方針である.興味深いことに,妊婦の摂取カロリー制限が妊娠高血圧症候群発症のリスクを軽減するという我が国のコンセプトは前述したDutch Famine の知見に端を発している.すなわち,Dutch Famine に曝された妊婦において妊娠高血圧症候群の発症低下したことという報告21)に着目した京都大学の城戸国利は1977年に妊娠中毒症(現在の妊娠高血圧症候群とは診断基準が一部異なるため以下適宜使用)合併妊婦を低カロリー(200~1,200kcal�日)によって管理することで,浮腫,蛋白尿,高血圧の主症状の改善を認めたことを報告し,「妊娠中毒症合併妊婦に安静を守らせ,摂取カロリーを基礎代謝量以下に制限して妊婦体重の減少を図ることは母体の妊娠中毒症症状改善のみならず胎児死亡の予防に有効である」という理論を提唱した22).このような背景の中で1981年に日本産科婦人科学会周産期委員会から妊娠中毒症の栄養管理指針として,妊娠中毒症を発症した妊婦の1日のエネルギー摂取は1,600kcal 未満に制限するという指針が出された17).母体摂取が1,500kcal 以下の場合は胎児発育の低下が生じるとの報告16)を鑑みると,このような厳しい栄養摂取制限は低出生体重児の増加に関与する可能性が危惧される(図5).しかしながら,早期発症型の重症妊娠高血圧症候群は胎盤機能不全などを介してしばしば胎児発育に直接的に抑制効果を及ぼす.両者が相まって児の長期予後に及ぼす影響に関するエビデンスは皆無であると言わざるを得ない.1988年に日本産科婦人科学会栄養問題委員会から正常出生体重児において母体が摂取

する総カロリーと別個の因子として総蛋白,総脂質して出生体重に影響を及ぼすという貴重な報告がある23).実際,動物実験では母獣の摂取蛋白室を減少させることで胎仔発育が低下するとの研究が諸家により報告されている15).しかし,本邦における低出生体重児の増加と妊婦が摂取する個別栄養素の変化との関わりを証明する具体的なエビデンスは知られていない(図5).以上の考察から,我が国における低出生体重児の増加に妊婦の栄養管理が関与している

か否か現時点では必ずしも充分に証明されていないと著者は考えている(図5).少なくとも1,500kcal 以下という極端な妊婦の栄養摂取制限は児の長期予後という視点から望ましくないと思われる.

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(図6) 我が国における乳児死亡率の年次推移

(図7) 低出生体重児のCatch up Growth(概念図)

(図8) 低出生体重児と長期発育不全(概念図)(図9) まとめ

低出生体重児というパラメータの考察Barker 仮説を初めとする欧州の疫学研究の多くは1920年代から1940年代に低出生体

重児として出生した成人の健康や疾病の解析に基づいている.当時はいわゆるNICUにおける集中治療という概念すらなく,当然のことながら当時の低出生体重児が経験した医療背景は現代と大幅に異なる.例えば乳児死亡率を例にとって考えた場合,我が国では1950年においてもBarker 仮説の根拠となった1920年代と同程度であるが,その後急速に改善し20分の1以下に改善している(図6)1)8).保育器すらなかった状況から半世紀の間に周産期・新生児医療は飛躍的な変遷を遂げている.このような状況において出生した年代ごとに異なる周産期・新生児医療あるいは乳幼児期の栄養管理を受けてきたことから,エンドポイントである成人期において世代ごとに異なる影響を受ける可能性が想定され今後の疫学的解析がより複雑となる可能性が危惧される.さらに,低出生体重児を取り巻く医療背景が異なることからBarker 仮説を現代の低出生体重児にそのまま当てはめることが妥当であるか否か何らかの検証が必要であろう.低出生体重児の生後発育に関して正常群に追いつくあるいは追い越すいわゆる catch

up growth 群と正常群に比して小さい非 catch up growth 群に大別される.catch upgrowth 群は乳幼児の発育という視点からは一見良好であるが,成人後のメタボリックシンドローム発症などのハイリスク群であることが疫学的に明らかとなりつつある(図7)24).このような視点から低出生体重児に対して比較的緩やかな生後の成長が望ましいとの意見

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がある.しかし,低出生体重児の非 catch up growth 群とりわけ学童期にいたる長期発育不全をきたすハイリスク群であることが明らかとなり Extra Uterine Growth Restric-tion(EUGR)という概念が提唱されている(図8)25).EUGR児は出生体重1,500g 以下の極低出生体重児に多いと報告されている.EUGR児の長期の発育不全を予防するためにはAggressive Parenteral Nutrition(積極的経静脈栄養管理)により早期に成長を促進することが有効であるとの意見がある(図8)26).このように,低出生体重児は多様な発育パターンを呈し,至適な栄養管理に関して必ずしも見解は一致していない.以上より低出生体重児は多彩な因子を背景とするパラメータの一つに過ぎず,成人期の

心血管障害発症ハイリスク群を同定する臨床指標として自ずと限界がある.さらに低出生体重児は多様な発育パターンを呈することから個別化した対応が必要となると考えられる.

要 約以上の考察から,我が国妊孕世代女性の食生活を妊娠に先駆けて改善することで,次世

代の成人の健康を改善しうる可能性が期待される.現在の我が国の妊娠中の栄養管理と児の長期予後との因果関係は必ずしも充分に証明されていない.しかし,極端な妊婦のカロリー制限は児の長期予後を悪化させる可能性が危惧される.低出生体重とは多彩な因子を背景とする一つのパラメータに過ぎずハイリスク群を特定する指標として自ずと限界がある.

今後の展望多彩な因子を背景として低出生体重児が生まれ,Barker 仮説に従えば成人後の心血管

障害発症の多くのリスク因子の一つとなる(図9).したがってエンドポイントである成人期の解析から低出生体重児の背景因子の一つである妊娠中の栄養管理との直接的な関連を解析することは極めて困難である.このような解析を可能にするためには妊娠前の若年女性を大規模にノミネートして生活習慣,社会的背景,遺伝的背景を詳細に調査して,その中から成立した妊娠の経過,胎児発育,出生後の発達・発育経過,成人期の健康状態まで長期間に前向きコホート研究を行う必要がある.しかしながら,例えこのような前方視的な研究を大規模に行ったとしても,エンドポイントである成人期において半世紀前の周産期・新生児医療や栄養管理を評価することになるためその時点での臨床にフィードバックすることは容易ではない.さらにエンドポイントの評価を行うまでに半世紀の年月を要する.これらの問題点を不完全ながらも解消するための研究戦略の一つとして,産科医,新生児医,小児科医,内科医が共同プロジェクトとして判断基準を共有しつつ平行して大規模コホート研究を行うことを提案したい.そして,ハイリスク群を同定するために低出生体重より特異性の高い新たな臨床パラメータの同定を目指すことが重要である.また,低出生体重児は多様な発育パターンを示すことから,より個別化した予防あるいは介入戦略の立案を目指す必要がある.その重要なターゲットの一つが妊娠前あるいは妊娠中の栄養指導であると考える.

結 語妊婦の栄養管理と児の長期予後との因果関係は未だ充分に証明されていない.我が国独

自に大規模なコホート研究を行い,科学的根拠に基づいた妊婦の栄養指針を立案することが期待される.

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