3.太陽活動と地球環境変動...3.2.1 はじめに...

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3.2.1 はじめに 太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受 け入れられているとはいいがたい.この理由の一つとして は,地球の平均気温と太陽活動の間には安定した関係が存 在しないということによる:例えば図1a)にみられるよ うに19世紀末には太陽活動と地上気温とは負相関だったの が,20世紀に入ると,いったん相関は消失するが,後半に なると今度は逆に正相関になる[1].つまり,全期間を通 してみれば,相関はないということになる. ところで,11年太陽黒点周期に関連して全太陽放射照度 がどれだけ変化するのか実際にわかったのは衛星観測デー タが蓄積されてきた,ごく最近のことである.観測された 全太陽放射照度の変動幅は,過去に想定されていたより ずっと少なく,約 1.3 Wm -2 ,0.1% にすぎない.この程度 の変動量であれば太陽活動の全球平均気温への影響は大 気ー海洋系に内在する自然変動に隠されて見いだせなくと も当然といえる. 普通,太陽活動の気候への影響といえば,まず地球の平 均気温が考えられる.これは全太陽放射照度が変化すれば 地球が受けるエネルギーが変化するので地球の平均気温が 変化するという考えに基づいている.しかし,全球平均気 温という変数が太陽活動と気候の関連を調べる上で本当に 意味ある変数かという問題がある.Zhou and Tung[2]は太 陽活動周期の極大期と極小期の海面水温の差から太陽活動 と関連した海面水温変化のパターンを抽出し,次に,各年 の海面水温偏差をこのパターンに射影して太陽活動と関連 した海面水温変化の時系列を算出している(図1b)).こ れを太陽活動の指数と比較すると,全球平均気温の場合と は異なり,19世紀の終わりから現在まで一貫した位相関係 がみられる.このように太陽活動の影響の評価には全球平 均値でなく,空間パターンを考慮する必要があるといえよ う.つまり,地上への太陽活動の影響は循環場の変化が第 一義的であると考えられる.このことから太陽放射の影響 は直接対流圏に達するのではなく,より上層の成層圏から 力学的過程を通して対流圏に及んでいる可能性が示唆され る. 本節では,まず太陽活動に伴う気温変化の空間パターン について考察し,ついで紫外線部を含む太陽放射スペクト ルを変化させた化学気候モデル実験結果から,中層大気に 起きた変化がどのように対流圏に伝わるかについて示し, そのメカニズムについて述べる.さらに,熱帯域対流圏で は太陽活動の影響は気温より,モンスーンのような循環場 の変化にみられるが,これも成層圏過程を通じた太陽活動 小特集 宇宙気候学 3.太陽活動と地球環境変動 3. Solar Activity and Terrestrial Environmental Change 3.2 太陽放射変動と気候変動 3.2 Solar Irradiance Change and Climate Change 小寺邦彦 KODERA Kunihiko 名古屋大学太陽地球環境研究所 (原稿受付:2013年7月22日) 従来,太陽活動の気候への影響については,地球が太陽から受ける放射エネルギーが増減することで,地球 の気候の変化が生じると考えられてきた.このため,全球で平均した気温の変化に特に注目して解析が行われて きた.しかし太陽活動,例えば11年黒点周期と全球平均気温の間には一定した関係がみられず,これが太陽活動 の気候への影響に関する否定的な見解を生む大きな原因となってきた.また,最近の衛星による大気圏外からの 観測の結果,太陽の全放射照度の変化は微少であり,地球の気候システムによるフィードバックなしでは,無視 できる程度であることもわかってきた.ここでは,全放射エネルギーではなく,太陽スペクトルの紫外線領域の 変化による成層圏オゾン加熱の変化を発端として地球の中層大気に生み出された太陽活動の影響が力学過程を通 して対流圏に伝播し,循環場を変化させて気候の変化を生み出すメカニズムについて解説する. Keywords: solar cycle, solar influence, stratosphere-troposphere coupling, general circulation Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University, Nagoya, AICHI 464-8601, Japan author’s e-mail: [email protected] J.PlasmaFusionRes.Vol.90,No.2(2014)116‐121 !2014 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 116

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Page 1: 3.太陽活動と地球環境変動...3.2.1 はじめに 太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受

3.2.1 はじめに太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え

ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受

け入れられているとはいいがたい.この理由の一つとして

は,地球の平均気温と太陽活動の間には安定した関係が存

在しないということによる:例えば図1a)にみられるよ

うに19世紀末には太陽活動と地上気温とは負相関だったの

が,20世紀に入ると,いったん相関は消失するが,後半に

なると今度は逆に正相関になる[1].つまり,全期間を通

してみれば,相関はないということになる.

ところで,11年太陽黒点周期に関連して全太陽放射照度

がどれだけ変化するのか実際にわかったのは衛星観測デー

タが蓄積されてきた,ごく最近のことである.観測された

全太陽放射照度の変動幅は,過去に想定されていたより

ずっと少なく,約 1.3 Wm-2,0.1%にすぎない.この程度

の変動量であれば太陽活動の全球平均気温への影響は大

気ー海洋系に内在する自然変動に隠されて見いだせなくと

も当然といえる.

普通,太陽活動の気候への影響といえば,まず地球の平

均気温が考えられる.これは全太陽放射照度が変化すれば

地球が受けるエネルギーが変化するので地球の平均気温が

変化するという考えに基づいている.しかし,全球平均気

温という変数が太陽活動と気候の関連を調べる上で本当に

意味ある変数かという問題がある.Zhou andTung[2]は太

陽活動周期の極大期と極小期の海面水温の差から太陽活動

と関連した海面水温変化のパターンを抽出し,次に,各年

の海面水温偏差をこのパターンに射影して太陽活動と関連

した海面水温変化の時系列を算出している(図1b)).こ

れを太陽活動の指数と比較すると,全球平均気温の場合と

は異なり,19世紀の終わりから現在まで一貫した位相関係

がみられる.このように太陽活動の影響の評価には全球平

均値でなく,空間パターンを考慮する必要があるといえよ

う.つまり,地上への太陽活動の影響は循環場の変化が第

一義的であると考えられる.このことから太陽放射の影響

は直接対流圏に達するのではなく,より上層の成層圏から

力学的過程を通して対流圏に及んでいる可能性が示唆され

る.

本節では,まず太陽活動に伴う気温変化の空間パターン

について考察し,ついで紫外線部を含む太陽放射スペクト

ルを変化させた化学気候モデル実験結果から,中層大気に

起きた変化がどのように対流圏に伝わるかについて示し,

そのメカニズムについて述べる.さらに,熱帯域対流圏で

は太陽活動の影響は気温より,モンスーンのような循環場

の変化にみられるが,これも成層圏過程を通じた太陽活動

小特集 宇宙気候学

3.太陽活動と地球環境変動

3. Solar Activity and Terrestrial Environmental Change

3.2 太陽放射変動と気候変動

3.2 Solar Irradiance Change and Climate Change

小寺邦彦KODERA Kunihiko

名古屋大学太陽地球環境研究所

(原稿受付:2013年7月22日)

従来,太陽活動の気候への影響については,地球が太陽から受ける放射エネルギーが増減することで,地球の気候の変化が生じると考えられてきた.このため,全球で平均した気温の変化に特に注目して解析が行われてきた.しかし太陽活動,例えば11年黒点周期と全球平均気温の間には一定した関係がみられず,これが太陽活動の気候への影響に関する否定的な見解を生む大きな原因となってきた.また,最近の衛星による大気圏外からの観測の結果,太陽の全放射照度の変化は微少であり,地球の気候システムによるフィードバックなしでは,無視できる程度であることもわかってきた.ここでは,全放射エネルギーではなく,太陽スペクトルの紫外線領域の変化による成層圏オゾン加熱の変化を発端として地球の中層大気に生み出された太陽活動の影響が力学過程を通して対流圏に伝播し,循環場を変化させて気候の変化を生み出すメカニズムについて解説する.

Keywords:solar cycle, solar influence, stratosphere-troposphere coupling, general circulation

Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University, Nagoya, AICHI 464-8601, Japan

author’s e-mail: [email protected]

J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.2 (2014)116‐121

�2014 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

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Page 2: 3.太陽活動と地球環境変動...3.2.1 はじめに 太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受

の影響から理解できることを示す.

ところで太陽活動といっても色々な時間スケールの変動

があるが本章では主として,黒点活動の周期として知られ

る11年太陽周期について述べる.また,太陽活動の指数と

しては,黒点数,10.7 cm 太陽電波強度がよく用いられる

が,最近ではさらに推定された全太陽放射照度も用いられ

ている.しかし,本論においては,太陽活動極大,極小の

違いのような定性的な議論のみなので,それらの区別を行

わず一括して太陽活動指数として取り扱う.

3.2.2 気温変化太陽活動の影響が地表付近から下部中間圏(高度約

60 km)までの年平均気温にどのように現れているか衛星

観測データのある期間(1978‐2008)についての気象再解析

データを使って解析した結果をみる[3].図2は太陽活動

指数と帯状平均年平均気温との回帰から求めた太陽周期の

極大‐極小の気温変化の高度―緯度断面を示している.年

平均気温では熱帯域 1~2 hPa の成層圏界面付近に大きな

振幅の変動がみられるほか熱帯下部成層圏にも昇温がみら

れる.100 hPa 以下の熱帯対流圏はわずかではあるが逆に

降温傾向になっている.一方,地上付近の対流圏では南北

45度付近の中緯度に昇温がみられる.高緯度は年々変動が

激しくて明瞭なパターンはみられない.

上記の衛星観測データが存在する期間の解析では成層圏

界面までの鉛直構造についての知見は得られるが,わずか

3太陽サイクルしかないので,こうした関係が長期間安定

して存在するかどうか吟味する必要がある.このために

1889から2006年の歴史的地上気温データを用いて太陽活動

指数と回帰解析結果を行った結果をみてみよう[4].図3

左は各地点の気温,右は帯状平均気温に関する回帰であ

る.帯状平均図のグリーンの線は1889から2006年の全期間

の解析結果で,ピンクの線は最近1980から2006の期間で,

図2の期間とほぼ対応している.長期間の地上気温データ

においても図2と同様,中緯度で昇温がみられる.また,

熱帯,特に赤道南半球では気温変化がほぼゼロになるとい

う緯度分布の特徴も両者に共通してみられる.地上気温の

水平分布を見ると北半球中緯度の昇温域はユーラシア大陸

から日本の東の太平洋にかけての顕著である.

このような気温変化の空間分布が,地表面での放射のバ

ランスのみ考慮した,エネルギー・バランスモデルを用い

て再現できるかどうか,計算した結果[5]と比較してみよ

う.エネルギー・バランスモデルの計算では昇温は,日射

量が大きく熱容量の小さい熱帯大陸上で最大となってお

図1 a)太陽活動指数(灰色線)と地表全球平均気温(黒線)の8~16年周期成分の時係数.[1]より.b)太陽活動指数(赤線)と太陽活動に関連した海面水温分布(青線)の時系列.[2]より.

図2 衛星観測データ期間(1978‐2008年)における太陽活動に関連した緯度平均気温(K)の振幅の気圧ー緯度断面.[3]より.なお,図には成層圏,成層圏界面等のおよその位置を加えた.

図3 1889から2006年の歴史的地上気温データを用いた太陽活動指数と年平均気温の回帰分析.(左)各緯度・経度の気温,(右)緯度平均気温.なお他の気候変動要因との比較のため全球平均気温は 0.1 Kに基準化されている.[7]より.

Special Topic Article 3.2 Solar Irradiance Change and Climate Change K. Kodera

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Page 3: 3.太陽活動と地球環境変動...3.2.1 はじめに 太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受

り,上の観測された気温分布と大きく異なっている

(図4).このことからも,地上気温の変化は全太陽放射照

度変化の直接的影響とは考えられない.また,可視光域の

放射変動の影響が水蒸気輸送を介在した大気―海洋系の正

のフィードバックによって太平洋域で増幅されるメカニズ

ムが提唱されているが[6]それにより上記のような気温分

布を作りだせるかも疑問である.

3.2.3 モデル実験上で述べたように全太陽放射照度の変化は小さいが,紫

外線部の変動は数%以上に達する.図5に Lean 等[7]によ

る11年の太陽周期に伴うスペクトル変化の推定値を示す.

直接の衛星観測からはさらに大きな変動が示唆されている

が衛星観測は現場での検定が不可能なこともあり,この結

果については未だ確立していない.

ここでは,Lean 等[7]により推定された太陽スペクトル

の変化を用いて,太陽活動の変化が地球大気にどの様な影

響を与えるかを気候化学モデルを使った気候再現実験結果

[8]からみてみよう.実験ではモデルに放射強制力として

太陽スペクトルの変化のほか,エーロゾル,温室効果ガス

などの変化を与え,さらに下部境界条件として観測された

海面水温の変化を与え1960年から2005年までモデル積分を

行っている.この実験から太陽放射の変動に関する気温変

動の成分を多重回帰により抽出した結果を図6に示す.

太陽放射量の増加の直接的な結果と紫外線によるオゾン

生成が増加する効果とが相まって,上部成層圏で紫外線加

熱が増加するので上部成層圏,成層圏界面付近で気温が上

昇する.また観測と同様に,熱帯域下部成層圏の昇温のほ

か,対流圏中緯度でも昇温がみられる.北半球対流圏の昇

温は観測と同様にユーラシアから日本の東の太平洋域の昇

温と関連して発生している(図7).

以上の解析はすべて年平均値についてであるが,ユーラ

シアの昇温は特に冬から春に顕著である.対流圏の昇温が

どのようなプロセスにより形成されるかをみるために帯状

平均東西風の極大と極小期の差を,11月から1月の各月つ

いて示してある(図8).11月から成層圏界面付近で西風

が強まり,12月になるとさらに西風はさらに強化すると共

に,中心はより下層に降りてくる.1月になると極域中間

圏は東風偏差になり,対流圏まで西風は延びて,高緯度で

西風,亜熱帯で東風偏差の南北シーソー・パターンが生じ

る.大規模な循環場においては,風の場と気温の場は独立

には変化せず,互いに釣り合いを保つ形で変化する.一般

図4 エネルギー・バランスモデルで計算された11年太陽周期に対する年平均地上気温の振幅[K].[5]より.

図6 化学気候モデルによる気候再現実験結果から求めた太陽活動変動に対す平均年平均気温変化の高度‐緯度断面.[8]より.

図5 a)太陽放射スペクトルと,b)11年太陽周期の極大,極小期での比.[7]より. 図7 図6に同じ,ただし地上気温.[8]より.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.90, No.2 February 2014

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に,西風が強くなると,その下層の極側で降温,赤道側で

昇温が生じる.このようにして成層圏から伝播した東西風

の偏差場が対流圏中緯度の昇温の直接的な原因となってい

るのがわかる.

3.2.4 成層圏‐対流圏結合過程成層圏界面付近の東西風の偏差が対流圏まで下降してく

るのは,太陽活動の影響にのみ関連した特別のできごとで

はない.冬期の成層圏には極の周辺に極夜ジェットとよば

れる強い西風が吹いており,これに沿って,大規模山岳や

海陸分布により強制された地球規模の大気の流れのうね

り,すなわちプラネタリー波が対流圏から成層圏に伝播し

てくる.一方,プラネタリー波と帯状平均流の相互作用の

結果形成される上部成層圏の東西風の偏差が下方へと伝播

してくる過程が存在することも近年明らかになってきた.

これは,冬に卓越する大気の内部変動モードの一つであ

り,極夜ジェット振動と呼ばれている[9].図9上に月平

均帯状平均東西風と,プラネタリー波の伝播を表わすエリ

アッセン・パルム(E-P)フラックスの鉛直成分との遅延

成分を含めた特異値分解から求めた極夜ジェット振動を示

す.プラネタリー波が上方に伝播するにつれ,(a)成層圏

界面‐上部成層圏の中緯度の西風が弱化し,ついで(b)プラ

ネタリー波がより極向きに伝播して東風偏差域が極域成層

圏全域に拡大する.(c)低緯度成層圏界面は西風偏差にな

りプラネタリー波の上方伝播は抑制され,波は極域対流圏

に収束し,東風偏差域は対流圏に伸展する.図9下に対応

する 500 hPa 高度場と波活動度ベクトルの水平成分を示

す.この帯状風偏差の下方伝播に伴って,極域とそれを取

り巻く領域での気圧高度場のシーソーが発生する.この時

の対流圏の気圧パターンは北極振動とよばれるものと同等

である.

図8 図6に同じく気候再現実験結果から求めた各月の緯度平均東西風の太陽活動極大期と極小期の差の高度‐緯度断面(20S-90N).(a)11月,(b)12月,(c)1月平均.等値線は1 ms-1おき,実線は正(西風),破線は負(東風),0線は太線で表示.[8]より.

図9 遅延特異値分解により抽出された極夜ジェット振動に伴う(上)緯度平均東西風(等値線),E-Pフラックス(矢印)と,(下)500 hPa

高度場(等値線)と波活動フラックスの水平成分(矢印).(a)0,(b)1,(c)2ヶ月遅れの成分.[9]による.

Special Topic Article 3.2 Solar Irradiance Change and Climate Change K. Kodera

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さて,プラネタリー波と平均流の相互作用には子午面流

の変化が付随する.成層圏突然昇温のメカニズムとしてよ

く知られているように[10]プラネタリー波による東西風の

減速が起こると子午面循環が強化され極域で昇温,熱帯で

降温が起こる.太陽活動の影響の場合は[11],極大期には

太陽紫外線とオゾンの増加のため上部成層圏の赤道域で気

温が上昇する.それに伴い,特に冬半球では赤道と極の温

度差が増加し,西風ジェット(U)の加速が起こる.強く

なった西風シアーの影響で上部成層圏中低緯度へのプラネ

タリー波の伝播が抑制されてE -Pフラックス(F)の収束が

が減少するために西風ジェットはより加速され,プラネタ

リー波の上方伝播がさらに抑制される(図10a)).

波と帯状平均流の相互作用が減少するので,それによっ

て誘起される残差子午面循環�������も同時に弱化す

る.その結果,高緯度側では下降流が減少して上昇流偏差

(上向き矢印)となり断熱加熱が減少するために気温が低

下する.これに反し,低緯度側では上昇流が減少して下降

流偏差(下向き矢印)となり断熱加熱が増加するために熱

帯下部成層圏で気温が上昇する(図10b)).

こうして形成される低緯度と高緯度の温度差の増加は,

上に述べたように上層の西風の増加と対応している.太陽

活動に伴う成層圏子午面循環の変化についてはオゾンデー

タの解析[12]からも示されている.

3.2.5 熱帯対流圏気候への太陽活動の影響については気温以外にも,例え

ばインドモンスーンになど,循環場,降水に対する影響が

報告されている.従来からは太陽放射が増えると熱容量の

小さい大陸は海洋より暖まりやすいのでモンスーンが強く

なるというふうに考えられている.しかし,図2および図3

からわかるように熱帯の気温には太陽活動の影響はほとん

どみられないので,これも成層圏力学過程を通した影響と

考えることができる.つまり,成層圏子午面循環の変化の

影響を受けて熱帯の積雲対流へ活動が変化している可能性

が考えられる.

7,8月平均の帯状平均気温と太陽活動との相関[13]を

図11a)に示す.係数は熱帯で正,冬半球である南半球高緯

度で負になっており,空間パターンは子午面循環の変化と

整合的である.気温変化は対流圏まで及んでいないが,鉛

直流との相関(図11b))を見ると赤道付近で正の相関がみ

られる.静水圧平衡を仮定した気圧座標系鉛直流は正値が

下降流なので,成層圏での上昇流の減少に伴って赤道付近

で対流活動が弱化していることを意味する.また,鉛直流

は赤道外では北緯15~20度付近で負相関になっているの

で,モンスーンが活発化していることを示している.特に,

インド域では,インド大陸とインド洋の対流活動に競合関

係がみられ,片方が活発化するともう一方が抑制される傾

向がある.このインド域の対流活動のシーソーは赤道を横

切るモンスーン気流と密接に関係している.地上付近の南

北風と太陽活動指数との相関をとってみると実際,アフリ

カからアラビア半島に沿って北上するソマリ・ジェットと

よい相関がみられる(図11c)).

3.2.6 おわりに従来は太陽活動の気候への影響は全太陽放射照度の変化

の直接的な強制によると考えられていたので全球平均気温

と太陽活動の影響が特に重要視されてきた.しかしなが

ら,観測される地上気温に見いだされる太陽活動の影響

は,それから期待されるものとは異なり熱帯域では少さ

く,中緯度で大きいという空間パターンをもつ.このパ

ターンは,太陽活動により成層圏界面付近に誘起された成

層圏極夜ジェットの変化の下方伝播の結果として起こる対

流圏極前線ジェットの変化に付随した気温変動として理解

できる.また,熱帯付近では太陽活動に関連した気温の変

化は顕著でないが,成層圏子午面循環の変化を通して対流

活動を変調している可能性が示唆される.ここでは,これ

図10 成層圏力学過程を通した太陽活動の気候に及ぼす影響の模式図.(a)プラネタリー波の伝播を通した中高緯度プロセス.(b)成層圏子午面循環の変化を通した熱帯プロセス.詳しくは本文を.[11]より.

図11 太陽活動指数と各種7,8月平均値の相互相関係数:a)緯度平均気温(80S-80 N),b)気圧座標系鉛直流(30S-30

N),c)地上風の南北成分(インド洋域).[13]より.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.90, No.2 February 2014

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Page 6: 3.太陽活動と地球環境変動...3.2.1 はじめに 太陽活動の気候への影響については古くから議論の絶え ない問題である.現在においても大多数の気象研究者に受

に関してアラビア半島付近のソマリ・ジェットと11年太陽

周期との関係について述べたが,このモンスーン循環と太

陽活動の関係は古気候データからも示されており[14],数

百―千年規模の長周期の太陽活動の場合にも11年黒点周期

の場合と同様のメカニズムにより気候に影響を及ぼしてい

ると考えることができる.

参 考 文 献[1]M.P. Souza Echer et al., J. Atmos. Solar-Terr. Phys. 74, 87

(2012).[2]J. Zhou and K.-K. Tung, J. Clim. 23, 3234 (2010).[3]T.H.A. Frame. and L.J. Gray, J. Clim. 23, 2213 (2010).

[4]J.L. Lean and D.H. Rind, Geophys. Res. Lett. 35, L18701(2008).

[5]G.R. North et al., Geophys. Monograph 141 (Am. Geophys.Uni., Washington, DC, 2004) p. 251.

[6]G.A. Meehl et al., Science 325, 1114 (2009).[7]J. Lean et al., J. Geophys. Res. 102, 29, 939 (1997).[8]G. Chiodo et al., J. Geophys. Res. 117, D06109 (2012).[9]Y. Kuroda K. Kodera, Geophys. Res. Lett. 26, 2375 (1999).[10]T. Matsuno, J. Atmos. Sci. 28, 1479 (1971).[11]K.Kodera andY. Kuroda, J. Geophys. Res. 107 (D24), 4749

(2002).[12]L.L.HoodandB.E.Soukharev, J.Atmos.Sci.60, 2389 (2003)[13]K. Kodera, Geophys. Res. Lett. 31, L24209 (2004).[14]U. Neff et al., Nature 411, 290 (2001).

Special Topic Article 3.2 Solar Irradiance Change and Climate Change K. Kodera

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