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甲南大学 マネジメント創造学部 2015 年度 卒業研究プロジェクト 指導教員 佐藤治正 食を通して考える自己マネジメント 11281032 岡本明 はじめに 1食の変化 1-1食生活の機能 1-2昭和の時代にみる食の変化 1-3平成の時代にみる食の変化 2安心・安全 2-1なぜ今、安心・安全が問われるのか 2-2国と企業の対応 2-3食を脅かす問題 3健康 3-1高まる健康志向 3-2健康食として見直される和食 4健康でいるための食 4-1食と健康 4-2情報の時代からマネジメントの時代へ 4-3自己マネジメントの時代に向けた食育 おわりに 参考文献

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甲南大学 マネジメント創造学部

2015 年度 卒業研究プロジェクト

指導教員 佐藤治正

食を通して考える自己マネジメント

11281032 岡本明

はじめに

第1章 食の変化

1-1. 食生活の機能

1-2. 昭和の時代にみる食の変化

1-3. 平成の時代にみる食の変化

第2章 安心・安全

2-1. なぜ今、安心・安全が問われるのか

2-2. 国と企業の対応

2-3. 食を脅かす問題

第3章 健康

3-1. 高まる健康志向

3-2. 健康食として見直される和食

第4章 健康でいるための食

4-1. 食と健康

4-2. 情報の時代からマネジメントの時代へ

4-3. 自己マネジメントの時代に向けた食育

おわりに

参考文献

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はじめに

私たちは毎日食事をする。和食の定番である一汁三菜の形ができたのは江戸時代だ。食生活

はもとより、食事の内容には長い歴史があるのだ。第 1 章では、その食の変化について、昭和

の時代と平成の時代に分けて紹介したい。豊富な食を手にすることのできる現代では、食に関

する問題が多数起きている。このことから、第 2 章では問われる安心・安全について考察を深

めていきたい。安心・安全と共によく耳にするのが、「健康」である。現代は健康ブームと称さ

れ、健康に良いとされる商品をよく目にする。健康を気にするようになったのは、食を選ぶこ

とができる現代だからこそかもしれない。健康志向はどのようなものなのかを第 3 章で紹介す

る。第 4 章では、食育という考えが広まり、国をはじめ、食品を取り扱う企業が食育活動に力

を入れていることから、食育についてと、食に関する知識を得る段階で忘れがちな点について、

考察を深めていきたい。

第 1 章 食の変化 食の種類は、時代と共に変化している。この章では、我々の食生活の移り変わりを、昭和の

時代と平成の時代に分けて述べる。その前に、食が私たちに何を与えるのか、一般的な食生活

そのものの機能について議論を展開していきたい。

1-1. 食生活の機能

食生活が、日常生活を送るにあたって重要であることは言うまでもない。朝食で 1 日のエネ

ルギーを蓄え、昼食を摂り午後の仕事を頑張る。そして夕食で一日の疲れを癒す。現代社会で

は、朝食を摂らない人が増えてはいるものの1、1 日 3 食が基本の形とされている。福田靖子

(2007)によると、この大切な「食」には、5 つの機能があるといわれている。

第 1 に生理的機能である。これは、体の成長や活動、健康を保持するものである。第 2 の精

神的機能は、おいしいものや好きなもの、楽しく食べて満足するという、欲求を満たすもので

ある。第 3 は社会的機能である。これは、食事を通して、人間関係を強めるものである。食事

は社会の構造を作る役割を担う。つまり、食事は人間関係の媒体であり、集団間の結びつきを

強める機会として機能するということである。第 4 は文化的機能だ。これは、よりおいしく、

楽しく食べることを人が求めたときに食文化が発生し、食に対する精神や芸術が展開するとい

うものであり、郷土料理や行事食食器や食具の選択がこの機能に入る。そして第 5 に教育的機

能である。食事は、家族での団欒の場となることが多いことから、家庭教育の場として位置づ

けられる。食を通して、人とのコミュニケーションのはかり方や、人への心遣いなど、人格形

成に必要な基本的なことを学ぶことができるのだ。

1-2. 昭和の時代にみる食の変化

1 特に 20~30 代の男性の約 30%は朝食を食べていない。(農林水産省より)

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(1) 食の簡易化(昭和 30 年から 35 年/1956 年から 1960 年)

戦後の農作物の不足で、食生活に変化があった。米の不作により、パンが主流となり、学校

給食でパンが採用され、パンの人気に火をつけるきっかけともなった。米が食卓から消えるこ

とはなかったが、パンも米と同様に「国民食」と呼ばれるまでにもなった。一汁三菜という概

念ができたのは、江戸時代のことである。もともと室町時代に、一汁一菜という日常食の基本

ができあがり、時代とともに変化したのである。1951 年に魚肉ソーセージが登場し、1957 年

にはブロイラーが登場した。同年に森永コンソメスープが誕生し、都市世帯の 5%が朝食を食

べないことを背景に、晩御飯だけではなく、朝からスープを飲もうと販売が促進された。翌年

の 1958 年には、日清からインスタントラーメンが誕生し、人気を集めた。これらの商品を筆

頭に、食の簡易化に歯車がかかった。

(2) 厨房の変化とインスタントブーム(昭和 36 年から 40 年/1961 年から 1965 年)

1950 年代後半から、「簡便なことは良いことだ」というキャッチフレーズの下、インスタン

ト商品が世に普及し、その人気が衰えることはなかった。1964 年に電子レンジが登場し、食の

種類が増えることになる。電気冷蔵庫の普及率は、この時代には 68.7%、ステンレス流し台の

普及率が 24.2%、換気扇は 10%と、4 軒に 1 軒の割合で普及した。ステンレスの流し台と換気

扇という合理化されたキッチンがあることで、作られるメニューにも変化が起こる。

(3) 厨房の変化と外食産業の幕開け(昭和 41 年から 55 年/1966 年から 1980 年)

この時期は、スナック菓子が増え、インスタント食品はグレードアップの傾向にあった。さ

らには、冷凍調理済み食品やレトルト食品が急成長した。1970 年代に入り、食の外部化が進ん

だ。ロイヤルやすかいらーく、ケンタッキー・フライド・チキンやマクドナルドなどの外食産

業が日本にオープンしたのもこの時代である。電気冷蔵庫の普及率は 99.2%、ステンレス流し

台は 85.3%、電子レンジ 16.5%と、台所の環境は著しく良好となった。デパートの食品売り場

に惣菜やデリカの店舗が多く並び、デパートの店内構成も変化した。

1-3. 平成の時代にみる食の変化

平成の時代に入っても、即席麺や冷凍食品など、昭和の時代にできた商品の人気が廃れるこ

とはない。即席麺の種類はより豊富になり、外食産業は一定の売り上げを保っている。2000

年代前後に週休二日制度が一般化されたことにより、休日を家族で過ごす機会が増え、これを

きっかけに外食産業が成長したという見方もある。女性の社会進出を背景に、中食業界も成長

を続けている(図 1-1)。1995 年には 4 兆円だった市場が、2015 年には、およそ 8 兆円の規模

に拡大されるといわれているほどだ。中食市場は 20 年間で約 2 倍もの成長を遂げ、今後も市

場規模は拡大が見込まれている2。さらには、コンビニエンスストアが普及したのも平成の時代

である。24 時間お店が開いており、食料だけではなく雑貨や雑誌、生活用品までもが揃ってい

2 中食業界 説明会配布資料

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る。利便性の良い環境が人気なのだ。

このように、平成の時代に入ってから、食にまつわる生活環境が変化してきた。食生活に関

する言葉として、「こ食」という言葉を聞いたことがあると思うが、これは平成に入ってから注

目された言葉であり、食生活の変化を物語っている。結婚生活や妊娠・出産・子育てに関する

パパ&ママのお悩みを、「コラムで解決するQ&A サイト『パピマミ』」によると、「こ食」は 6

種類に分けられる。

第 1 に「孤食」である。これは、独りだけで食べることであり、家族が不在の食卓など、生

活時間の差が生まれたことによってできた。サービス業は、朝から夕方までではなく 24 時間

体制へと変化してきた。通勤通学圏の拡大や、通勤通学時間の長時間化が起こり、家族の 1 人

ひとりがばらばらに食べるという現象が生まれてしまったのである。その他にも、学生であれ

ば友人と食事をして帰るなどの理由も、家族内での生活時間の差が生じる原因になっている。

第 2 に「個食」である。家族それぞれが、自分の好きなものを食べることである。好きなもの

を食べるだけで栄養が偏り、好き嫌いを増す原因にもなる。第 3 に、同じものばかりを好んで

食べる「固食」である。第 4 に、「小食」である。これは、いつも食欲がなく、少しの量しか

食べないことである。第 5 に「粉食」である。パンやピザ、パスタなど粉を使った主食を好ん

で食べることである。米に比べ、粉ものはカロリーが高く、脂肪などが多くなることによって

栄養が偏る原因になる。そして第 6 に「濃食」である。食生活の変化により、加工食品を食べ

る機会が多くなった。加工食品は総合的に味付けが濃い。これに慣れてしまうと、塩分や糖分

0

5

10

15

20

25

30

35

19851990 1995 2000 2005 2011

外食産業 中食産業

資料:(財)食の安全・安心財団付属機関外食産業総合調査研究センター調べ 注:1) 中食産業の市場規模は、料理品小売業(弁当給食を除く)の値。 2) 外食産業の市場規模には中食産業の市場規模は含まない。

図 1-1 外食・中食産業の市場規模の推移

農林水産省「外食産業等の動向」を参考に作成

兆円

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が多いことにより、味覚そのものが鈍ってしまう傾向にあり、濃い味付けのものしか美味しく

感じられなくなり、偏食を招き起こすきっかけとなる。

ここで、「こ食」には多くの意味を持つことが分かったが、その中でも「個食」や「孤食」は、

現代社会の生活リズムや、経済状況において両親が共働きをする家庭が多いことから言われて

きたものである。しかし、それ以外のものは、食が豊かになったことにより、影響を受けた結

果起こっていることである。また、食生活の変化によって、1-1 で挙げた社会的機能や教育的

機能などの、食生活の機能までもが影響を受けざるを得ない状態となっている。

戦後の食糧不足から,高度成長期に向け食料が豊かになったことで「豊食」になり、やがて

バブル期に入り,食料が溢れていた「飽食」の時代に突入する。「飽食」とは、あきるほどお腹

いっぱい食べたいだけ食べられて、食物に不自由しないことをいう3。現在は、今までの「食に

対する日本の文化」や、食のバランスが崩れたことから、「崩食」の時代に入っているとも言わ

れる。

図 1-2 は、日本人 1 人当たりのカロリー摂取量の推移である。この図から、1971 年の 2287

キロカロリーをピークに、年々摂取カロリーが減少していることが分かる。 も注目すべき点

は、2010 年の摂取カロリーの 1849 キロカロリーは、戦後の 1947 年時の 1856 キロカロリー

を下回っていることである。食生活のレパートリーが多様になり、「豊食の時代」と呼ばれ、豊

かな食生活を送っているのにもかかわらず、1 人 1 日当たりの摂取カロリーは戦後とそれほど

変わらない事態になっているのである。

本章の中で、昭和編と平成編に分けて述べたように、昭和の時代に、食に大きな変化が起こ

り、平成の時代に入った。平成の時代には、食の変化はさほどないが、食の選択肢やレパート

リーが増えた。「豊食の時代」と呼ばれ、豊かな食生活は継続しているが、食に関する問題が多

3 コトバンクより引用 https://kotobank.jp/word/%E9%A3%BD%E9%A3%9F-627906

1856

2113 2102

2193

2287

2188

2084 2088

2026 2042

19481904

1849

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2000

2100

2200

2300

2400

1947 1953 1961 1966 1971 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

図 1-2 日本人のカロリー摂取量推移

2012 年「国民健康・栄養調査」を参考に作成

kcal

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数発生する。具体的には、食品添加物や、及び健康被害に対しての関心が高まり、よく報道さ

れた。食品偽装は、賞味期限や消費期限、及び産地の偽装のことである。賞味期限が書かれて

あるシールを張り替えて販売をしたり、実際は海外の食品なのにも関わらず、国産の方がよく

売れるからという理由で産地を書き換えたりすることが起こった。これらの詳しい内容につい

ては、第 2 章で述べることとする。

第 2 章 食の安心・安全

食が豊かになる一方で、特に平成の時代に入ってから、安心・安全を脅かす事件が度々起る

ようになった。例えば、食品の偽装表示や、食品添加物の問題、また輸入農産物の残留農薬問

題がある。消費者庁の調査によると、約 7 割の人が、消費者問題に関心を持ち、その中でも食

の安全や食の表示問題に高い関心を示している。 近では、カップ麺や某ファストフード店の

商品に虫(異物)が混入していたという事件も記憶に新しいだろう。この章では、食に関する

安心や安全について考察を深めていきたい。

2-1.なぜ今、安心・安全が問われるのか

食の安心・安全に関する問題は、平成の時代に限らず昭和の時代にも起こっていた。現在、

食に関する問題が多く取り上げられ 2000 年に雪印乳業(株)(以下、雪印)が起こした食中毒

事件を機に、消費者が食の安心・安全に敏感になったと言われている。しかし、消費者が敏感

になっていったのは、雪印の事件のみが問題となっているのではなく、事件があった後も引き

続き多くの事件が起こり、その都度関心が高まっているのだ。2000 年以降に、具体的にどのよ

うな事件が起こったのだろうか。表 2-1 を参考にされたい。

表 2-1 2000 年以降の食をめぐる主な消費者問題

年代 出来事

2000 年 6 月 雪印食中毒事件発生

2001 年 9 月 国内でBSE 感染牛を確認

12 月 中国産冷凍ホウレンソウの 1 割弱が残留農薬基準値(クロルピリホス等)を超過する事実が判明

2002 年 2 月 大手食品メーカーが牛肉の不正表示

8 月 無登録の農薬を使用し、自主回収

2003 年 5 月 カナダでBSE

7 月 食品安全基本法を制定、食品安全委員会を発足

12 月 アメリカでBSE

2004 年 1 月 国内で 79 年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが発生

2 月 BSE 発生国の牛のせき柱を含む食品等の製造、加工、販売などを禁止

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2006 年 5 月 残留農薬等のポジティブリスト制度の導入

10 月 (株)不二家が賞味期限切れの原料を使用

2007 年 10 月 (株)赤福が賞味期限を偽装

2008 年 1 月 中国産冷凍ギョーザにより有機リン中毒事案が発生

9 月

米の販売・加工業者が非食用米殻を 食用に転売していたことが判明

大手食品メーカーが中国から輸入した加工食品の原材料の一部に、メラミン混入が確認され、商品を自

主回収

八王子市において、中国産冷凍いんげんから農薬のジクロルボスが 6,900ppm 検出

2009 年 9 月

消費者庁発足

飲食チェーン店において、結着等の加工処理を行った食肉の加熱が不十分であったため、腸管出血性大

腸菌 O157 食中毒事件が広域に発生

2011 年 3 月

東日本大震災が起こり、放射能問題に不安が広がる

東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故後、食品中の放射性物質の暫定規制値を設定

5 月 飲食チェーン店において、牛肉の生食による腸管出血性大腸菌O111 食中毒事件が発生

10 月 生食用牛食肉の規格基準を設定

2012 年 4 月 食品中の放射性物質の基準値を設定

8 月 浅漬を原因とする腸管出血性大腸菌 O157 食中毒事件が発生

2013 年 6 月 オリエンタルランド、プリンスホテルがメニュー偽装

10 月 (株)阪神ホテルズ、(株)ホテルシステムズなどが食品表示問題

12 月 (株)アクリフーズの冷凍食品農薬混入事案

浅漬けの衛生規範 終改正

2014 年 12 月 まるか食品のカップ麺にゴキブリが混入

日清食品冷凍パスタからゴキブリの一部とみられるものが混入

2015 年 1 月 日本マクドナルド チキンナゲットに異物混入

(消費者庁、厚生労働省医薬食品局食品安全部の資料を参考に筆者作成)

表 2-1 で示されるように、年々多岐にわたる種類の事件が起こっている。前述したように、

事件が起こり、その事柄に関心が高まるということは、現代は安心・安全が継続的に問われる

時代であるということだ。2001 年に、国内でのBSE 感染牛が発見されてから、しばらくBSE

感染牛が問題となった。

さらに、表 2-1 を基に、食品に関する問題が起こるとき、内容は大きく 2 つに分けることが

できる。第 1 に、ルールがないもの、第 2 に、ルールはあるが、違反しているものがある。第

1 のルールがないものは、今までに問題が起こったことがないために、ルールが定められてお

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らず起きた問題と言い換えることができる。例えば BSE 問題や遺伝子組み換え食品(以下、

GM 食品)である。2 つ目の、ルールがあるにも関わらず順守されていないものとは、衛生管

理が整っていないことがある。例えば、残留農薬問題や食品への異物混入、さらには賞味期限

の偽装問題が挙げられる。多様な食の問題が起こったときに、国と企業はそれぞれ、どのよう

な対応をしているのか紹介したい。

2-2.国と企業の対応

2-2-1.国の対応

1960 年代から消費者のことをより考えるようになった傾向がある。このきっかけとなったの

が、1960 年に起こった「にせ牛缶事件」である。缶詰の中身を牛ではなく、当時安価だった鯨

や馬肉を使用したことが発覚し、2 年後の 1962 年に不当景品類及び不当表示防止法立案に至

った。1968 年には消費者保護基本法が制定され、さらに 1970 年に消費生活センターが開設さ

れた。この時代から、消費者を保護する考えが強くなる。国が根拠とする法律は、2 つある。

まず 1 つ目は、食品の安全を守るための食品衛生法、2 つ目は食品安全基本法だ。食品衛生法

は、1948 年に施行されたが、2003 年に「健康の保護」という目標設定の下、改正され、それ

と同時期に食品安全基本法が制定された。

食品衛生法は、食品と添加物及び器具容器の規格や表示さらには検査などの原則を定める法

律である。つまり、飲食によって生ずる危害の発生を防止するための法律だ。改正は、ノロウ

イルス食中毒対策及び、衛生管理手法、さらに、健康被害にも影響が及ぶ異味異臭などの保健

所への報告基準の追加のために行われた。年々増加する新たな食中毒や問題に対応するために

改正されたのだ。

2 つ目の食品安全基本法は、食品の安全性の確保についての基本理念として、国民の健康保

護を目的として制定された。国際的動向及び国民の意見に配慮しつつ、必要な措置が科学的知

見に基づき講じられることによる国民の健康への悪影響の未然防止を行うことを定めたもので

ある。

いくつもの規定があっても、隙間をぬった事件が相次いで起こった。これをきっかけに、2009

年に消費者庁が発足した。隙間事案とは、不良製品の回収や食の安全に関する対応の遅れなど

である。具体的には、2008 年の中国冷凍ギョーザ食中毒事件で政府の対応が遅れたことによる

被害拡大や、食品の大きさに関する規定が定められていなかったこんにゃくゼリーによる窒息

死事故である。消費者庁はこれらを背景に発足され、全国の消費生活センターに寄せられた食

品偽装などの情報を集約及び分析し、事故の発生や被害拡大の防止に努めている。さらには、

特定商取引法や景品表示法及び日本農林規格(JAS 法)など、表示や安全に関わる法律を所管

し、行政処分や他省庁への処置要求及び勧告をする。問題のある製品の回収などを事業者へ命

令する権限を持っているのだ。

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それぞれ、法律に違反した場合の罰則は、食品安全基本法に関してはなく、食品衛生法に関

しては、個人では 2 年以下の懲役または 200 万円以下の罰金、法人では 1 億円以下の罰金が科

せられている。

表 2-1 にある、BSE や牛肉の生食における食中毒事件などは前例がなく、規定となるものが

存在しなかった。そこで、それぞれの事件を受け、国は新たに制度を導入した。例えば、BSE

に関して言えば、BSE に感染した牛の脳や脊髄などの組織を家畜のえさに混ぜたことが原因で

事件が起きたことから、それらの部位を家畜のえさに混ぜることを規制し、BSE の発生率を減

少させた。国内対策としてこれを継続し、輸入牛肉対策として、2000 年には EU 諸国、2003

年にはカナダとアメリカからの牛肉・牛肉加工品の輸入を禁止し、2005 年には国産牛の検査対

象を全年齢から 21 か月以上に変更した。同年 2005 年には、対日輸出認定工場から出荷し、生

後20か月齢以下と証明された牛であること及び、特定危険部位を取り除くことを条件として、

カナダとアメリカ産の牛肉の輸入を再開した。牛肉の生食に関しては、表 2-1 を見て分かる通

り、事件が起きた 5 か月後に、生食用牛食肉の規格基準が設定された。

2-2-2.企業の対応

問題が起こったときの対応として、企業側はどのようにしているのだろうか。ここでは、2000

年に起こった雪印の食中毒事件と、2013 年に起こった(株)アクリフーズの冷凍食品農薬混入

事件を例にする。2 つの事件に共通するものとして、問題の起こった企業の規模が大きいこと

が挙げられる。消費者から信頼される企業が起こした事件で、食の安心・安全を考えるひとつ

のきっかけとなったのだ。

事例 1 雪印乳業(株)

この雪印食中毒事件では、1 万 3000 人を超える人々に被害が出た。3 月 31 日に北海道の大

樹工場で約 3 時間の停電が起こり、翌日の 4 月 1 日に、食中毒に直接関係するとみられている

脱脂粉乳がこの場で製造された。当時、雪印には停電などのトラブルに対処するマニュアルは

用意されていなかった。停電後、製造再開するにあたり、脱脂乳の分離器の洗浄作業を行った

が、毒素を含んだ材料が洗浄用の水と共に脱脂乳タンクに送られ、製造ラインに入り込んだ。

本来、ライン外に排出されるべきものが停電時の混乱で操作ミスがあったと雪印側は説明して

いる。雪印の製品検査の結果、半数近くは一般細菌数が内部規定を上回っていたが、厚生省令

の基準を下回っていたため、4 月 10 日の製品の原料として再利用した。繁殖した黄色ブドウ球

菌は、加熱殺菌しても、毒性は残ることについて、現場での認識が甘く、危険性の認識が欠如

していたのだ。

この事件が起こり、調査を進められる中で、雪印のずさんな管理が浮き彫りになった。大樹

工場では製造した脱脂粉乳の未出荷分の一部を帳簿に記載せず、製造量が不足したときに品質

保持期限を書き換えて出荷することが恒常的に行われていた。その後、雪印グループの製品が

全品撤去。ブランドイメージが落ち、経営難に陥った。

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翌年の 2001 年には国内で BSE 感染牛が発見され、国はBSE 全頭検査開始前にと畜された

国産牛肉を事業者から買い上げる対策を実施した。雪印の子会社である雪印食品がこの制度を

悪用し、安価な輸入牛肉と国産牛肉をすり替えて申請し、交付金を不正に受給していた詐欺問

題が起こった。前年に起こった、食中毒事件の影響による雪印食品の売り上げ減少及び BSE

牛発生に伴う消費者の牛肉買い控えによる在庫状況が背景としてあった。雪印食中毒事件では、

雪印の初期対応の遅れや管理体制の問題、及び関係当局に対しての情報開示の不足であること

が分かり、雪印食品牛肉偽装事件では、当事者の考えや上司の指示がコンプライアンスや企業

倫理に反するものがあったことが分かった。

雪印は、2000 年の食中毒事件が起こる前にも 1955 年に一度、食中毒事件を起こしていた。

このときの原因も、2000 年と同様に製造機の停電によるもので、原因物質は黄色ブドウ球菌で

あった。大企業が起こしたこの事件に、消費者は不信感を覚え、身の回りにある食の安全に不

安を抱えるようになった。

雪印お客様センターによると、事件前と事件後の製造標準などは概ね変化していないという。

「ルールを徹底する」、「決めたことは必ず守る」、「消費者のためにできることは何かを常に考

える」ということを全社員に徹底し、事件を風化させない取り組みとして、年 2 二回の全社員

参加のイベント活動を行っている。

事例 2 アクリフーズ農薬混入事件

2013 年に、アクリフーズ農薬混入事件が起こった。消費者から、ミックスピザから石油の臭

いがすると異臭苦情を受け、臭気成分を特定すると農薬が検出された事件である。被害者は全

国で 2000 人を超え、被害拡大の原因は、企業の対応の遅れであった。農薬混入の原因は、契

約社員の故意によるもので、企業に対する不満から起こした行動だとされている。アクリフー

ズ農薬混入事件に関しては、企業としてのミッションの欠如、ガバナンスの弱さ、コンプライ

アンス能力の不足が指摘された。他にも、社内でのコミュニケーションの不足や情報の共有や

提示不足を挙げることができ、それが事件の捜査によって明らかになると、消費者に、より不

安が拡がった。この事件を受け、外部の視点から企業としてのあるべき姿を提言してもらうた

めに、「アクリフーズ農薬混入事件に関する第三者検証委員会」を発足した。その中で、第 1

に食品企業としてのミッションの再確認と浸透、第2に組織改革、第3に品質保証機能の強化、

第 4 に危機管理への備え、第 5 に食品防御、第 6 にプライベートブラドオーナーとの関係づく

りを提言している。

事例 1 と事例 2 を受けて、食品事件は、食中毒や農薬など多岐にわたる種類がある。安心・

安全が問われる理由を同時に答えるならば、このような大企業が問題に対して遅れた対応を取

ったり、消費者に正しく説明したりしていないことが、不安を拡大させる要因であろう。企業

の対応としては、事件が起こる前にもルールは設定されてある。しかしそれは、リスクを下げ

るためのルールではなく、必要 低限のルールを設けただけである。事件が起こると、ルール

を改定したり、新たなルールを制定したりする。さらに、第三者検証委員会を設定する。これ

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は社内だけではなく、外部の意見を聞く機関を設けることが目的だ。同じ価値観のみの環境だ

けで意見を収集するのではなく、外部からの意見を参考にする姿勢を見せている。

2-3. 食を脅かす問題

昭和の時代と平成の時代で、食に関する問題の質が変わった。第 1 に、食のグローバル化が

進み、食材が増えていることに伴い、昔にはなかった問題が発生している。食糧を作っている

場所と、売っている場所の距離がどんどんと広がることによって、運んでいる過程で出てくる

問題もある。第 2 に、新たな技術が発達したことが挙げられる。例えば、遺伝子組換食品(以

下、GM 食品)が普及してきたことだ。これは、 近の食のリスク拡大の要因のうちの 1 つに

値する。この節では、それぞれの問題点について考察を深めていきたい。

第 1 のグローバル化については、カロリーベースでの食料自給率を語られることが多い。農

林水産省によると、平成 26 年度の食料自給率は前年度と同率で 39%、生産額ベースは前年度

から一ポイント減少して 64%だという。グローバル化が進むにつれ、問題を抱えた食品が市場

に出回る機会が増えていることは確かである。それは、食に関する農薬の基準値や使用規模が

異なることが大きな原因として挙げられる。安心・安全なものを食べれば、健康に繋がる。例

えば、中国の農薬問題がそれに相当する。中国の食品事情が、日本では想像できないものであ

ることはよく知られている。下に落ちたものをベルトコンベヤーの上に載せて、何事もなかっ

たかのように作業を継続することも映像で見たときは衝撃を受けた。

2013 年 12 月放送の「未来世紀ジパング」によると、ジクロルボスという名の毒薬を使用し

た野菜が市場に出回ることがあるという。度重なる中国の食品問題を受け、中国は食品安全委

員会を作った。しかし、そこは十分に機能していないようだ。ホルムアルデヒドという使用禁

止の農薬が使われた野菜を検査の場に持っていくと、少量であること、さらにその野菜が売ら

れていた場が大手スーパーであることを理由に、問題視していないのだ。

中国から日本国内に食品が運ばれると、国内32か所ある検疫所にそれらの食品が流される。

そこで何か疑わしいものがあると、詳しく検査するために、検疫検査センターに運ばれる。200

以上の検査項目があり、それをクリアしたものが国内の市場に出回るのだ。

どれほど海外の食品に頼っているのかを見てみよう。世帯当たり年間支出金額を記したもの

が表 2-2 である。米が減り、パンや麺類の方の年間支出金額が増え、外食の頻度が多くなった

ことが分かる。このように、食生活は、米、イモ類、豆類、野菜、果物、魚介類、みそ、醤油

中心の食卓から、パン、乳製品、肉類、油脂類中心の欧米化の食卓へと変貌したことが見て取

れる。つまり、日本の食生活は、米や野菜などから、加工食品などを摂取する食生活へと変化

した。グローバル化と言えば、環太平洋連携協定(以下、TPP)が議論の対象とされている。

食品に関して、TPP で注意しなければならない点は、国によって使用可能な農薬の基準が異な

り、規定となる基準値は、 も低いものに合わすことである。そのほかにも、食品添加物の検

疫簡素化や、GM 食品への表示の撤廃などが挙げられ、食品の安全性が脅かされる可能性があ

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る。対策の仕方については、まだまだ検討しなければならない点がいくつも残されているのが

現状である。

表 2-2 世帯当たり年間支出金額 単位:千円

1980 年 2000 年 2009 年

米 70.0 40.8 58% 30.5 44%

パン 20.8 27.5 132% 29.0 139%

麺類 15.7 16.7 119% 18.4 117%

生鮮野菜 68.3 68.4 100% 63.5 93%

生鮮果物 43.8 42.5 97% 35.2 80%

生鮮肉 74.8 62.9 84% 62.0 83%

調理食品 48.3 99.3 206% 98.5 204%

外食 120.0 174.5 145% 161.3 134%

菓子類 63.9 78.1 122% 80.4 126%

2000 年と 2009 年のパーセンテージは、1980 年を基準にしたもの

資料:総務省統計局「家計調査年報」

第 2 の問題である新たな技術として出てきたGM 食品は、主にアメリカで作られたものであ

る。具体的に、GM 食品はどのくらい増えているのか、図 2-1 を参考にされたい。右肩上がり

に増え続け、中でも大豆の遺伝子組み換え量は群を抜いて多いことが分かる。GM 食品とは、

商業的に栽培されている植物に遺伝子操作を行い、新たな遺伝子を導入して、元の遺伝子を促

進及び抑制することにより、新たな形質が付与された食品のことである。除草剤耐性や病害虫

体制、さらには貯蔵性増大など、生産者や流通業者にとっての利益のある遺伝子組み換えが先

行され、これを第 1 世代GM 食品と呼ぶ。食物の成分を改変して栄養価を高めたり、有害物質

を減少させたりなど、消費者にとっての利益のある遺伝子組み換え食品を、第 2 世代GM 食品

と呼ぶ。

厚生労働省医薬食品局安全部によると、日本でGM 食品として販売と流通が認められている

のは、大豆、ナタネ、とうもろこし、じゃがいも、綿、テンサイ、パパイヤ、アルファルファ

の食品 8 作物(169 品種)と、添加物七種類(15 品目)である。安全性が確認されていない

GM 食品が輸入されていないか、輸入時の届け出が正しく行われているかを確認するため、

2001 年 4 月から、検疫所において輸入時検査を行っている。食品への表示義務は、納豆や豆

腐などの原料に使用された場合など 30 種類に限られることに加え、全体の 5%以下であれば、

表示義務対象外となり、未表示のまま出回る。さらに、家畜のエサにGM 作物が与えられてい

たとしても、食肉への表示は対象外となっているため、表示されていないものが、必ずしも

GM 食品ではないということができない。

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食の輸入に関する規制が厳しいとされているEU はどうだろうか。原材料として使用する場

合には、原材料リストの中で「遺伝子が組み換えられた」または「遺伝子が組み換えられた<

原材料名>から生産された」と記載しなければならない。また、日本は全体の 5%以下であれ

ば表示義務対象外になるのに対し、EU は 0.9%と非常に低い数値を設定している。日本とEU

におけるGM 食品の表示制度の比較については、表 2-2 を参考にされたい。

表 2-2 日本とEU における遺伝子組み換え食品などの表示制度の比較

法的根拠

EU 日本

EC 規則 1829/2003 及び

1830/2003

2000 年 JAS 法告示及び

2001年食品衛生法施行規則

改正(2004 年 4 月施行)

(2001 年 4 月適用/施行)

表示対象

対象範囲 GMO を含むもの、GMO から

生産されたものすべて

農産物:7 品目、

加工品:32 品目

組成、栄養価など

が従来と従来のも

のと著しく異なる

もの

○ ○

DNA・たんぱく質 ○ ○

020406080

100120140160180200

百万ha

ダイズ トウモロコシ ワタ ナタネ

図 2-1 GM 作物栽培面積の推移(作物別)

(バイテク情報普及会より 作成)

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が残存するもの

DNA・たんぱく質

が残存しないもの ○ ―

食品 ○ ○

飼料 ○ ―

表示が免除される意図しない

混入率 0.9%未満 5%以下

GM でないものについての表示 規定なし

任意表示

(5%以下の意図しない混

入は許容)

GM 及び非GM を分別管理するため

の手法

トレーサビリティ制度(GM 表

示の根拠)

分別生産流通管理(IP ハン

ドリング)(GM・非GM 表

示の根拠)

「EC 規則 1830/2003」(義務)

① GMO を含有しているこ

と。PECD 固有識別番組

(UI)を伝達

② 記録を 5 年間保存

「流通マニュアル」(任意)

① 品名、生産地、収穫年、

数量などと管理の内容

を示した証明書を添付

② 書類は 2 年以上保存

GM と非 GM が分別されていないも

のについての表示 規定なし 義務表示

(大臣官房情報評価課 平形和世作成のものを参考に作成)

第 3 章 安心・安全から健康志向へ

前章では、「安心・安全」について議論が深まった。安心・安全は、食生活において必要 低

限のもので、「健康」はその次のステージに入っているように思う。近年では、健康に過ごすた

め、よりよい食生活を求めている。3-1 では健康志向の背景を述べ、3-2 では、健康食として和

食が見直されていることを紹介する。

3-1. 高まる健康志向

まず、健康食品とは何を指すのか。法律上の言葉の定義は存在せず、一般的に、健康食品は

「健康の保持推進に資する食品として販売、利用されるもの」とされている。サプリメントを

はじめとする、体の健康を配慮して作られた「食品」は、総じて「健康食品」ということであ

る。健康食品市場の推移を調査する団体によっても、その定義が異なる。そのため、一例とし

て、図 3-1 を参考にされたい。健康食品の市場が伸びた背景の一つに、高齢化が進んだことが

挙げられる。さらに、インターネット利用者が増加したことにより、通信販売での購入割合も

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増え、市場拡大に起因したとみられる。

1960 年から 1970 年代の食品公害を経て、自然食品や健康食品を求める消費者が増え、店舗

や百貨店に健康食品コーナーが常設され、販売チャンネルのメインとなった。健康への関心が

高まり、市場は右肩上がりとなった。1993 年には、特保ができ、より多くの人が、自身の健康

について考える機会が増えたことが要因で市場が伸びた。2001 年には、保健機能食品及び、栄

養機能食品が販売された。一方で、2005 年をピークに、市場規模は縮小を見せている。2006

年には、厚生労働省がアガリクスの一部に発がん促進効果を指摘し、自主回収となり、健康食

品の安全性に注目が集まるようになり、市場が縮小した。2008 年にはリーマンショックが起き、

健康食品の市場も影響を受けた。2011 年には東日本大震災による影響があったと考えられてい

る。しかしその後、消費者の健康意識が低迷することはなく、徐々にではあるが、市場規模は

増大している。

健康食品と言っても、農薬を可能な限り使わずに栽培された「有機野菜」、 「プリン体ゼロ」

など、健康にとってマイナスのものを差し引いたもの、ビタミンやアントシアニンなど、健康

に貢献するものを足したもの、さらに、主食はきちんと摂ることを前提にではあるが、食生活

のサポートとして「特定保健用食品(以下、特保)」を摂るなど、多種多様である。

次に、近年の食に関する話題をまとめてみた。表 3-1 を参考にされたい。特保に関しては、

日経トレンディネットによると、2004 年から 2007 年を第 1 次特保ブーム、2012 年から 2014

年を第 2 次特保ブームと呼ぶ。第 1 次特保ブームでは、ヘルシア緑茶や黒烏龍茶が発売され、

大ヒットとなった。第 2 次特保ブームでは、メッツコーラやヘルシアコーヒーが発売され、こ

れまでの特保のイメージや概念を覆す商品が出てきたこともあり、市場は再び盛り上がりを見

図 3-1 健康食品市場規模の推移 (2012 年)

(健康メディア.com から引用)

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せた。より健康に過ごしたいという需要に応えるような、企業は商品化に取り組んでいるのだ。

現在、健康の考え方及び捉え方に変化が出てきたと感じる。コーヒーやお茶の成分など、も

ともとあるものの成分の重要性が見直され、それらを食生活に取り入れようという考え方であ

る。社団法人全日本コーヒー協会によると、コーヒーは 1 日に 3~4 杯飲むと、全く飲まない人

に比べて死亡リスクが 24%も低い。お茶に関しては、コレステロールや体脂肪の低下、がん予

防、さらには抗酸化作用が期待されるカテキンが多く含まれていることから、健康に良いもの

として周知するようになった。

表 3-1 2000 年以降の健康食品と話題

年 商品名・話題 内容

2002 エナジードリンク 気分転換をはかるための炭酸飲料

2003 ヘルシア緑茶 生活習慣病の増加により製造

体脂肪の吸収を抑える、飲料部門初の特保指定

2006 黒烏龍茶 特保商品。脂肪吸収を抑え、食後の中性脂肪の

上昇を抑える効果がある

2010 サントリーオールフリー ノンアルコール、ビールテイストの飲料

アルコール・カロリー・糖質ゼロ

2012

キリンメッツ・コーラ 特保のコーラ

塩麹 日本の伝統的な調味料。2011 年後半以降、様々な調理

法で人気が出てきた

太陽のマテ茶 コーヒー、紅茶と並ぶ世界三大飲料。

飲むサラダと呼ばれている

2013 ヘルシアコーヒー 体脂肪の燃焼に貢献する特保

2014

リゲイン エナジードリンク 一日分のビタミン B1 、B2 、B6 を配合

恵 ガセリ菌 SP 株ヨーグルト 現代日本人のための脂肪・砂糖 W ゼロの飲むヨーグルト

伊右衛門 特茶 体脂肪を減らすのを助ける

2015 コーヒー 一日 3~4 杯飲むと健康に良いとされる

トランス脂肪酸 食品から摂取しすぎると、健康への悪影響がある

(「年代流行」を参考に作成)

健康に良いものは売れる。健康づくり及び生活習慣の改善の取り組みとして何があるのだろ

うか。現在、食の機能が注目され、和食が見直されている。次節では、健康食として見直され

ている和食を紹介したい。

3-2.健康食として見直される和食

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2015 年の厚生労働省の発表によると、2014 年における日本の平均寿命は、男性が 80.50 歳、

女性が 86.3 歳であった。平均寿命は、男女ともに毎年右肩上がりに伸びている。その要因は、

日本人は健康に良いものを食しているからだという説がある。日本食、つまり和食である。

和食は、第 1 に多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、第 2 に健康的な食生活を支える栄養

バランス、第 3 に自然の美しさや季節の移ろいの表現、第 4 に正月などの年中行事との密接な

関わりがあるという特徴を持っている。2013 年に、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、

一層注目を集めた。和食の特徴として他には、「うまみ」がある。甘い、辛い、酸っぱい、苦い、

しょっぱいという五基本味に加え、うまみが和食ならではの出汁文化の特徴となる。しいたけ

や昆布、鰹や醤油には、うまみの基になる成分が含まれており、西洋のように油を使うことな

く、味付けをすることができる。栄養バランスも、和食は抜群の組み合わせがされている。一

汁三菜という基本形があり、肉や魚だけというように偏ることなく食べられるのだ。日本人が、

食品目数を気にするようになったのは、1985 年に厚生省が「健康づくりのための食生活指針」

を発表したことがきっかけだと言われている。その指針の中で、「一日 30 品目を目標に」とい

う呼びかけがあったのだ。30 品目という数字だけにとらわれて、過食の恐れがあることから、

2000 年には、数字の目安は消されたが、現代でも「15 品目」や「30 品目」の言葉は、野菜ジ

ュースやお惣菜の名前でよく目にするものだ。

和食のもうひとつの特徴として、主食がご飯であることが挙げられる。そのご飯に、玄米や

雑穀を取り入れると、より多くの食物繊維や栄養を摂ることができる。ご飯は、主菜や副菜と

相性が良いため、野菜や肉、豆などをバランスよく摂取することができるのだ。食事バランス

の図を見たことがあるだろうか。2005 年に、厚生労働省と農林水産省が、1 日のうちに、何を

どれだけの量を食べることが望ましいかの、おおよその量をイラスト化した、食事バランスガ

イドである。和食は、このバランスガイドのお手本となるような食生活なのである。

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食生活の見直しが検討され、2000 年に農林水産省、当時の文部省と厚生省の 3 省共同で、

食生活の変化に伴う栄養バランスの偏りを是正する食生活指針が策定された。偏食が目立つ現

代、バランスのとれた食生活を呼びかけている。

1983 年に農林水産省によって提唱された食事スタイルに、「日本型食生活」がある。1970

年代ごろの食生活を指し、主食であるご飯に主菜と副菜のある、一汁三菜に加えて、牛乳や乳

製品及び果物が加わった食事のことである。洋食は、野菜を多く調理したとしても、油を使っ

ているため、全体的なバランスとして良いとは言い難いと指摘されている。

和食はバランスのとれた食事として注目を集めている食生活である。それでは、洋食と和食

では、油分や野菜のとれる量として、どれほどの差があるのだろうか。産経ニュースによると、

食パン 1 枚、ハム 2 枚、ゆで卵、ミニサラダと牛乳の洋食の朝食と、ごはん 1 杯、野菜の味噌

汁、納豆、ホウレンソウのおひたしとミニトマト、さらにごまふりかけの和食の朝食を比較す

ると、和食の脂質は洋食の約 6 割にとどまるという。表 3-2 では、日本食と洋食のカロリーを

比較してみた。調理法によって多少の差は出てくるが、全体として言及できるのは、総じて洋

食はカロリーが高いということだ。

また、食品の食べる順番を変えることで、血糖値の上がり方に違いが出る。野菜を先に食べ

始め、次に魚や肉、そしてご飯の順番だ。これは「懐石風」と呼ばれ、過食を防ぐ効果がある。

健康的な生活を送るための理想的な「PFC バランス(三代栄養素のバランス)」は、たんぱく

図 3-2.食事バランスガイド

農林水産省より引用

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質 15%、脂質 25%、炭水化物 60%である。若い世代ほど、脂質の多い食事をとる傾向がある

ため、注意を要する。

和食は健康的であると言われているが、その言葉だけを鵜呑みにして、おひたしや納豆だけ

に頼った、偏りのある食生活を送ってしまうのはよくない傾向である。和食は、一般的には塩

分を摂取しすぎる傾向にあると言われている。ラーメンやそばの汁には多くの塩分が入ってい

るため、残すようにするとか、味噌汁の量を減らすなど、食事をする上で気を付けることがで

きる。調理の中では、減塩味噌を使用したり、出汁を昆布や鰹でとること、さらには味噌を使

う料理には、牛乳をプラスすることでコクが出て、みその使う量を減らすこともできる。牛乳

はカルシウムが含まれているので、普通に調理していては摂れないものも摂取できるメリット

も出てくるのだ。何が良くて何に注意しなければならないのかをしっかりと見極める必要があ

る。体に良いとされているものにも、何かしらのリスクはある。そこをどのようにクリアして、

リスクを減らしていくかが重要なポイントになると考える。食は、自身の身体づくりの源とな

る。それは、健康状態に影響のあるものだ。食で、その後の人生が変わると言っても過言では

ない。食が自身の健康に密着し、直結した問題であることを再度考え直し、より実りのある人

生を歩んでいければ喜ばしいことだと感じる。

表 3-2 和食と洋食の比較

カロリー

(kcal) 和食 洋食

カロリー

(kcal)

674 親子丼 オムライス 774

213 生姜焼き ハンバーグ 331

136 焼き鮭 鮭のムニエル 271

15 小松菜のお浸し シーザーサラダ 96

580 カレーうどん ナポリタン 650

(ビタリア製薬ニュース内カロリー早見表トップを参考に作成)

第 4 章 健康でいるための食

安心・安全や健康など、食にまつわる不安や期待は大きいと感じるが、食の種類は年々増え

ている。その中で現代は、「自己マネジメントの時代」と言えよう。何をどれだけ食べるか、個

人の判断に委ねられているのだ。食育という概念ができ、国はもちろん、民間企業も活動に励

んでいる。しかし、ただ子供たちと料理をするのではなく、世代ごとに異なる食育を提供する

ことが重要になってくる。つまり、食育は次の次元へと入っているのだ。4-1 では、食事をと

るうえで注意すべき点を紹介する。4-2 では現在、どのような食育が行われているのか及び、

これから必要とされる食育について考察を深める。4-3 では、「自己マネジメント」について、

食を通して探っていこう。

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4-1.食と健康

当然ではあるが、食べる行為は、生きていれば欠かせないことである。その中で、食品偽装

や農薬問題など、食に関する数々の事件が起こり、消費者は不安に煽られる。現代は、情報が

多くあると言われているが、安心・安全に関して言えば、まだ情報不足を否めない。不安は払

しょくされないが、消費者の関心が健康へと向いてきたのが近年の動向である。一般の消費者

のイメージでは、食について不安に思うことや、問題だと感じることは、有害物質や残留農薬、

さらには 近では放射能物質などが挙げられる。しかし、研究者や科学的な面から見ると、食

中毒の方が、リスクは大きいのだ。また、暴飲暴食や過度の飲酒、運動不足などの方が問題視

されることだという。

表 4-1 健康の損失ランキング

順位 内容

1 全体として不健康な食事

喫煙+運動不足+アルコール過剰摂取

2 食事要因、運動不足

3 トランス脂肪酸のとりすぎ

魚や野菜の不足、アルコール、交通事故

4 飽和脂肪酸のとりすぎ

大気中微粒子、インフルエンザ

5 微生物による胃腸炎、受動喫煙

(2015 年 11 月 30 日放送クローズアップ現代とオランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)

を参考に筆者作成)

表 4-1 は、オランダ人を対象にした、生涯調整余命年数(Disability Adjusted Life Years: 以

下、DALYs)という食品由来の疾患負荷の指標だ。健康損失第 1 位にあるのが、所謂暴飲暴食

であり、他には運動不足やアルコールの過剰摂取が挙げられる。この表から分かることは、消

費者がよく気にしているとされる、農薬や放射能の問題が入っていないということだ。農薬も、

基準値を超えたものを口にしているのであれば話は変わってくるかもしれないが、健康のこと

を気にするのであれば、他に着目する方がよさそうである。安心・安全なものを手にし、自身

の健康に良い影響の出るものを食したいという気持ちは高まる。しかし、本当に健康を気にす

るのであれば、食べるものだけではなく、食べ方そのものを見直す必要があるということだ。

つまり、食べる量やバランスを調整することで、健康被害のリスクを減らすことができるの

だ。それは、バランスの良い食事を摂ることにも繋がる。過剰な摂取による健康リスクもある

が、それと同時に、摂取量が少ないことによるリスクもある。例えば、カルシウム不足だと骨

粗鬆症や、イライラする原因になったり、ビタミンC が不足すると、肌荒れやニキビの原因や、

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風邪を引きやすくなってしまう。カルシウム不足を補うために、牛乳を用いることが多いが、

牛乳は脂質が多いため、飲みすぎると太る原因にもなってしまう。つまり、体に良いとされて

いる食品だけを摂取していては、結局健康のリスクを背負うことに繋がりかねない。次節で紹

介する食育は、食事のリズムを整えることを含んだ、日本政府が考案した考えである。

4-2.情報からマネジメントの時代へ

食育という言葉ができてから長らく経つ。食育基本法によると、食育とは、「生きる上での基

本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」とされている。食への関心が高まり、

知識を増やそうとする活動があらゆるところで見受けられる。農林水産省によると、国の食育

に関する対策として、2005 年に、「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を

はぐくむ」という目的の下、食育を国民運動として推進するために「食育基本法」が制定され

た。翌年には、計画的な推進に向け、「食育推進基本計画」を策定した。それに基づき 2010 年

までの 5 年間にわたり、国や都道府県関係機関などが食育の推進に取り組んだ。さらに 2011

年には、2015 年までの 5 年間の期間を設け、「第 2 次食育推進基本計画4」を策定した。初回の

食育推進基本計画の推進により、食育が周知されるようになった。次の過程として、第 2 次の

推進計画では、ただ言葉を知るだけでなく、食料の生産から消費に至るまでの過程を通して、

様々な体験活動を行い、自らの食育の推進のために実践することを目的とした。

よく見聞きする、子供たちと料理教室を開いたり、食材を収穫しているのは、この第 2 次食

育推進基本計画の活動に則ったものなのだ。現代社会は、女性の社会進出や両親の共働きなど

の理由から、食の外部化が進んでいる。食育を行おうとすると、食品産業の協力が必要不可欠

なのだ。食育の取り組み方は、企業の事業の形態によって異なる。食品製造業であれば、工場

見学や料理教室、流通・小売業は、店舗での情報提供や産地の見学、外食産業であれば食材や

栄養に関する情報提供、さらには食育を意識したメニュー、中食業界であれば、弁当や総菜な

どの提供商品で食育を意識したものを販売するなどである。

中食産業であるオリジン東秀株式会社は、食事バランスガイド(図 3-2)を惣菜及び弁当に

4 食育の推進への基本的な方針(第 2 次食育推進基本計画より) 重点課題 (1)生涯にわたるライフステージに応じた間断ない食育の推進 (2)生活習慣病の予防及び改善につながる食育の推進 (3)家庭における共食を通じた子どもへの食育推進 基本的な取り組み推進 (1) 国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成 (2) 食に関する感謝の念と理解 (3) 食育推進運動の展開 (4) 子どもの食育における保護者、教育関係者の役割 (5) 食に関する体験活動と食育推進活動の実践 (6) 我が国の伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配慮及び農山漁村の活性化と食料自

給率の効用への貢献 (7) 食品の安全性の確保等における食育の役割

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表示をし、食事をバランスよく摂ることを消費者に促している。社員食堂での取り組みとして、

株式会社タニタは、一食 500 キロカロリー前後で塩分控えめの定食を提供している。よく噛ん

で満足感を得られるためにも、野菜の程よい硬さを保つ調理をしている。食育という言葉の認

知度が高まり、消費者に考えや意味を広めることで、自身の食生活を見直すきっかけになる。

キッコーマン株式会社は、2005 年に、食育宣言を掲げている。その理由は、忙しさに追われる

現代の生活の中で、食べる大切さを忘れ始めていると感じたからである。国だけでなく、企業

も力を入れている食育であるが、今後はどのような展開が望ましいか。考察を深めたい。

もちろん、食育は持続的な活動であることが望ましいが、消費者への意識づけは単発的なも

のであるように見受けられる。各世代によって、抱える健康への問題や配慮は異なる。現在必

要とされている食育はどのようなものだろうか。

幼児と高齢者とでは、食べるものも生活している環境も異なる。食育は、1 つの提案が全国

民に共通して通用するものではなく、それぞれ異なる考えが必要である。そのため、ここでは

成長段階や教育環境を基に、世代を「幼児」、「小学生から中学生までの成長期の子ども」、「高

校生から大学生までの、ある程度成長している成人」、「社会人」、「高齢者」の 5 世代に分ける

ことにする。各世代で抱える問題は何だろうか。

まずは幼児である。幼児の食生活をコントロールするのは、食事を与える親だ。つまり、こ

の時期の子どもへの食育は、育てる親への食育にも繋がる。幼少期によく気を付けていること

として、糖類やカロリーを気にしていることがある。さらには、アレルギー症状を起こす引き

金を引かないように、細心の注意を払っている。この世代に必要な食育とは、アレルギー症状

についてと、それを引き起こす可能性のある食材に関することが優先されるだろう。アレルギ

ー症状に関しては、 近では、アレルギーの基になるものを避ける方法と、耐性獲得という方

法がある。文字の通り、アレルギーに耐える体質をつくるのだ。どちららの治療法を選ぶかは、

ケースバイケースで、医師それぞれによって判断が変わることもある。これらに関する知識と

共に、対処法の知識を身に着けることが重要である。次に、成長期の子どもである。小中学校

には給食があることが多い。義務教育機関の 6 年間なり、9 年間の昼食が給食なのだから、健

康や体づくりに、相当重要な位置を占めている。給食は、食生活のバランスを考えて考案され

ているため、肉や魚、野菜のサラダなど、偏りのない昼食をとることができるのだ。高校生か

ら大学生までの成人は、ある程度の自由を手にし、親からの注意があったとしても、自分の好

きなものに手を出す。高校生であっても、学校帰りにコンビニに立ち寄ってお菓子を買って食

べる光景がよく見られる。大学生になると、アルバイトを始め、自分で稼いだお金が手元にあ

ることに加え、生活時間が不規則になることが多いため、食に関しても大分自由になると言え

る。高大学生は成長期であり、過食になりがちな世代である。そのため、自身の健康及び体調

に、食生活が直結していることを認識する必要がある。次に社会人は、外食する機会が増える。

お酒を共にする食事が増え、体を壊す人も少なくない。社会人は、仕事上でのストレスを抱え

たり、シフト制の職業であれば、余計に食生活が乱れる。規則正しい食生活を送る大切さを認

識させることが優先されるが、それに加え、食事の組み合わせについての知識も必要だろう。

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後に高齢者は、自身が抱える病気や、体の不調を感じることから、健康に対して、若い世代

よりも関心が高い。高齢者は、コレステロールや血圧など、健康診断を受ければ、数字で体の

不調を目にする。塩分を控えることはもちろん、糖分や油分の摂りすぎにも注意をしなければ

ならない。これは、高齢者になる前にも気に掛ける部分であるが、一歩間違えれば、病気が悪

化するなど、よりシビアな問題になってくる。このように、生まれてから死ぬまで、食事をコ

ントロールする人だけではなく、個人が抱える環境や健康の問題も変化しているのだ。

食育は、正直、きちんと定義づけられるものではないと感じる。コミュニケーションをとっ

て楽しく食べることが食育の 1 つの定義であるとすると、深夜に友人と楽しくカップ麺を食べ

るのはどうなのか。健康に悪いという面から、食育だとは言い難い。つまり、総じて感覚的な

言葉であるように感じられる。ある言葉だけに縛られることなく、言葉の本質を見抜くことが

重要であろう。

4-3.自己マネジメントの時代に向けた食育

本章の冒頭部分で、現代は「自己マネジメントの時代」に入っていると述べた。多くの情報

が溢れている中で、本当に自分に必要な情報を得え使うことが、マネジメントの根本にある考

えである。当然のことではあるが、健康についても、特保の商品ばかりを摂取したから健康が

ずっと保障されるわけではなく、バランスの取れた食事が前提とされている。マネジメントと

は、自身の食事内容に留まることなく、自身の健康に繋がること、つまり運動を含めたもので

ある。

個々の知識ではなく、自身の生活に生かすことができてこそ、自己マネジメントが始まる。

食の機能やカロリーを知ることはもちろん重要であるが、それ以上に食事のバランスや組み合

わせ、さらには自分に合った運動量を知ることが大切だと考える。つまり、現在の自分の身体

や生活リズムを熟知することが 1 番に求められることなのだ。自分の生活を見つめ直し、自身

の置かれている状況に加え、これからの課題を発見することで、食育の意味が見いだされてい

く。

食育という言葉に、「食」の文字が入っているため、食の中身ばかりに気を取られがちである。

しかしそうではなく、その前の段階を忘れてはならない。自身が普段何を食べているのか、ど

のぐらいの運動を行っているのかを把握することから自己マネジメントが始まる。現代は、そ

の管理の手助けをするアプリケーションなどが存在する。カロリー計算や体重管理に加え、何

キロ走ったかなどを管理してくれるのだ。自分で管理できなければ、頼りにできるものが用意

されている。自己マネジメントをする機会は身の回りにあるのだ。その機会を無駄にすること

なく、将来の自分の身体を守るために行わなければならない。食育は与えられるものではなく、

積極的に取り組んでいくべきものであり、マネジメント能力をあげることこそが、真の食育に

繋がっていくと考える。

おわりに

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普段口にしている食品は、本当に安心・安全なものなのか。健康に良い影響の出るものなの

か。まだまだ体が若いから、好きなものを好きなときに食べたいという欲は捨てられない。ダ

イエットは面倒だからやらない。商品のパッケージ裏にあるカロリーを見ても、体に吸収して

いる実感がその都度わくわけではないから気にしない。そのような食生活を送っていた自分に

とって、食を通して知識を深められたこの機会は、貴重なものであった。

食を選択する時代に入った現代、自分がしなければならない結論は、自分の体のことを考え

て、自らの意志や食をコントロールすることである。言葉を並べるだけは難しいことではない

が、実践しようとすると、なかなか容易いものではないだろう。それは、コントロールをする

過程には、少なからず我慢しなければならないことが出てくるからだ。しかし、その我慢を乗

り越えれば健康な体を手に入れられるかもしれない。結果論や、可能性の話になってくる部分

も少なからずあるかもしれないが、確実に不健康になる道を歩むよりずっと良いだろうと思う。

卒論執筆にあたり、テーマ設定、構成、日本語と直す箇所が多くあった。構成は何度も練り

直し、指導教員である佐藤先生と議論をしながら軌道修正を行った。自分の書く日本語では、

本当に伝えたいことが相手に伝わっていないことを感じ、不甲斐無さがあった。しかし、それ

を難しいと感じる一方で、学生生活のうちに発覚して良かったと感じた。1 文字違うだけで、

意味が大きく異なる日本語を書くときは、細心の注意を払わなければならないことを知った。

何度も校正指導をしていただき、有難く思っています。短い間でしたが、ありがとうござい

ました。

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参考文献

書籍

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2.石毛直道(1999)「食のゆくえ食の文化第七巻」(財)味の素食の文化センター

3.山口貴久男(1984)「戦後にみる食の文化史」三嶺書房

4.永山久夫(2010)「外国人に自慢したいニッポンの食 食べもの文化史」共立速記印刷優し

い食卓出版部

論文

1.平形和世「EU における遺伝仕組換食品等の表示制度及び実施状況について」64 頁

2.オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)(2006)

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http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/270555009.pdf

Web ページ

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http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics2_02.html 引用日:2015 年 7

月 5 日

3. マイナビニュース「孤食だけじゃない!心身の健康をむしばむ 6 つの「こ食」とは?」

http://news.mynavi.jp/news/2013/08/12/297/ 引用日:2015 年 8 月 14 日

4. 農林水産省「外食・中食産業市場規模推移」

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5.厚生労働省医薬食品局食品安全部「食品の安全確保に向けた取組」食品の安全を取り巻く

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引用日:2015 年 9 月 18 日

11.農林水産省「食料自給率とは」http://www.caa.go.jp/foods/pdf/130621_gaiyo.pdf

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17.健康メディア.com「健康食品市場の推移」

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18.日経トレンディネット「第 2 次トクホブーム!?「ヘルシア」「特茶」「ボス グリーン」は

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引用日:2016 年 1 月 5 日

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引用日:2016 年 1 月 5 日

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21.養命酒製造株式会社

「ついに世界無形文化遺産に登録!和食が健康に効く「6 つの法則」

http://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/feature/131226/

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22.ビタリア製薬ニュース「食品別カロリー早見表」

http://www.vken.net/t-diet/calory/ 引用日:2016 年 1 月 6 日

23.産経ニュース「和食の魅力」

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引用日:2016 年 1 月 6 日

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http://www8.cao.go.jp/syokuiku/about/plan/pdf/2kihonkeikaku.pdf

引用日:2016 年 1 月 5 日

25.キッコーマン株式会社「食育への取り組み」

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引用日:2016 年 1 月 10 日

26.オリジン東秀株式会社「オリジンの食育活動」

https://www.toshu.co.jp/origin/activities/food_education/

引用日:2016 年 1 月 10 日

27.株式会社タニタ「タニタ食堂とは」

http://www.tanita.co.jp/shokudo/about 引用日:2016 年 1 月 10 日