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5 導入システム調査 46 5. 導入システム調査 5.1 ボイラー規模とチップ必要量 チップボイラーを持続して運転するためには、安定的な燃料の確保が必須となる。本項 では既存の熱利用システムに導入するチップボイラーの規模と必要となるチップ燃料量 の関係を試算する。第 2 章の調査結果より、暖房時の熱負荷及び暖房・消雪時の時間別熱 負荷をほぼ一定とし図表 5-1 のように想定する。 図表 5-1 1 日の熱負荷パターンの想定 既存のシステム利用時において暖房時と暖房・消雪時の負荷の差が大きく 6 倍近い差が 生じている。 木質チップボイラーの特性として重油ボイラーとは違い、定格出力(規模)があまりに 小さな出力に対して制御できないという特徴があり、現在国内で販売されているチップボ イラーの多くは、定格出力の 30%~100%の間での運転となっている。 したがって、本事業で仮に 1,000kW 規模のチップボイラーを導入した場合、チップボ イラーは 300kW1,000kW の負荷部分に限り熱を供給することになる。これは暖房のみ の利用時にはチップボイラーの定格出力 30%以下の運転が必要になるため、チップボイラ ーではなく、化石燃料を用いたバックアップボイラーが必要になる。制御範囲外の低負荷 運転時(例えば定格出力の 20%)のチップボイラーは、待機モード又は種火モードといっ たチップボイラーの運転に必要な最低限の燃焼を行なっている。これは火を絶やさないた めの運転であり、ボイラーにとって最適な運転(完全燃焼)とはいえないため炉内や煙管 へ灰や煤が溜まり易い。 暖房・消雪負荷 暖房負荷 kW 24 ave.1,084 21 22 23 ave.185 17 18 19 20 13 14 15 16 9 10 11 12 5 6 7 8 1 2 3 4 熱負荷

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第 5 章 導入システム調査

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5. 導入システム調査

5.1 ボイラー規模とチップ必要量 チップボイラーを持続して運転するためには、安定的な燃料の確保が必須となる。本項

では既存の熱利用システムに導入するチップボイラーの規模と必要となるチップ燃料量

の関係を試算する。第 2 章の調査結果より、暖房時の熱負荷及び暖房・消雪時の時間別熱

負荷をほぼ一定とし図表 5-1 のように想定する。

図表 5-1 1 日の熱負荷パターンの想定

既存のシステム利用時において暖房時と暖房・消雪時の負荷の差が大きく 6 倍近い差が

生じている。 木質チップボイラーの特性として重油ボイラーとは違い、定格出力(規模)があまりに

小さな出力に対して制御できないという特徴があり、現在国内で販売されているチップボ

イラーの多くは、定格出力の 30%~100%の間での運転となっている。 したがって、本事業で仮に 1,000kW 規模のチップボイラーを導入した場合、チップボ

イラーは 300kW~1,000kW の負荷部分に限り熱を供給することになる。これは暖房のみ

の利用時にはチップボイラーの定格出力 30%以下の運転が必要になるため、チップボイラ

ーではなく、化石燃料を用いたバックアップボイラーが必要になる。制御範囲外の低負荷

運転時(例えば定格出力の 20%)のチップボイラーは、待機モード又は種火モードといっ

たチップボイラーの運転に必要な 低限の燃焼を行なっている。これは火を絶やさないた

めの運転であり、ボイラーにとって 適な運転(完全燃焼)とはいえないため炉内や煙管

へ灰や煤が溜まり易い。

暖房・消雪負荷

暖房負荷

kW  

時24

ave.1,084

21 22 23

ave.185

17 18 19 2013 14 15 169 10 11 125 6 7 81 2 3 4

熱負荷

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既存の熱利用システムで暖房時の平均負荷は 185kW であるが、比較的暖かい日など暖

房平均負荷を下回る場合もあるため、チップボイラー1 基でこの負荷も対応可能な能力は

450kW(30%=150kW)程度と考えられる。

図表 5-2 1,000kW のチップボイラーを導入した場合の熱供給イメージ(暖房時)

図表 5-3 1,000kW のチップボイラーを導入した場合の熱供給イメージ(暖房・消雪時)

時21 22 23 2417 18 19 2013 14 15 169 10 11 125 6 7 81 2 3 4

1000kW

kW

ave.1,084kW

チップボイラーによる熱供給

バックアップボイラーによる熱供給

熱負荷

24 時20 21 22 2316 17 18 1912 13 14 158 9 10 114 5 6 71 2 3

ave.185kW

ave.1,084kW

kW熱負荷

バックアップボイラーによる熱供給

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以上の特性を踏まえて条件を設定し、チップボイラーの導入規模とチップの必要量の試

算を行なった。 <試算前提条件>

① 燃料条件 熱量には高位(総)発熱量と低位(真)発熱量があり、高位発熱量は一般的な熱量計

によって測定された値で水蒸気の蒸発熱を含んだ発熱量をいう。一方、高位発熱量から

水蒸気分の蒸発熱を減じた発熱量を低位発熱量というが、水蒸気となって排気される発

熱量は回収システムを取り入れなければ利用できない。 本事業におけるチップ燃料の発熱量としては、低位発熱量を用いるものとして 1kg あ

たり 8.4MJ(1MJ=239kcal=0.27kW)の熱量を持つものとする。なお、1kcal とは 1Lの水を 1 度上昇させるのに必要なエネルギー量である。

図表 5-4 チップ燃料条件

単位 生チップ 備考

kcal/kg 2,000

kWh/kg 2.3 低位発熱量

MJ/kg 8.4

生チップ含水率 WB50%(=DB100%)と設定。

※木材:水の重さが 1:1 の状態

② 運転条件

既存の熱利用システムから、熱供給を行う際の運転条件を設定した。

図表 5-5 チップボイラーの運転条件

条件 単位 概要

チップボイラー導入数 基 1 基 or 2 基

ボイラー効率 % 80

対応熱負荷 暖房 暖房+消雪

運転日数 日/年 100 80

年間運転時間 h/年 2,400 1,920

平均負荷 ※ kW 185 1,084

灰発生量 % 0.2

※熱需要が 24 時間一定量あるものとする。

③ 熱供給条件

この試算では、既存のシステムを使用して役場庁舎床暖房、役場駐車場、電興社宅

5号線歩道、小国大橋歩道に対して、消雪及び熱供給を行うものとする。

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<燃料必要量試算結果> (a) チップボイラーを 1 基導入した場合

既存の熱利用システムにチップボイラーを 1 基導入した場合、前提条件より試算し

た結果を図表 5-6 に示す。 チップボイラー規模が 240kW の場合に必要なチップ量は 486t/年となり、設備の稼

働率は 87%となって非常に高くなっている。 チップボイラー規模が 900kW 場合は、約 930t/年のチップが必要となる。ただし、

大規模なものは暖房のみの運転時は稼動していないため、その分稼働率の低下が大き

くなり、場合によっては小規模のチップボイラーを導入するよりも必要チップ量も少

なくなる事がある。

図表 5-6 チップボイラー導入規模と生チップ必要量(チップボイラー1 基の場合)

チップボイラー導入規模 kW 240 450 700 900 稼働率 ※1 % 87 67 44 44

t/年 486 702 722 929

m3/年 1,473 2,129 2,188 2,815

t/日 3.1 5.8 9.0 11.6

生チップ必要量 ※2

(日量は 大時)

m3/日 9.4 17.6 27.3 35.2 灰の発生量 ※3 kg/年 2,090 3,512 3,610 4,645

※1 稼働率=(実熱供給量)/(チップボイラー導入規模×4,320 時間)で求め、この値が高いほどボ

イラーが無駄なく有効に動いていると考えられる。 ※2 チップ比重を 0.33 と設定。 ※3 生チップ重量比 0.5%より算出。樹皮の混合割合や樹種により変化する。

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(b) チップボイラーを 2 基(分割)導入した場合 大規模なチップボイラーを導入する場合でも暖房負荷に対応できる有効な方法と

して、2 基で運転するケース(例えば 360kW×2 基、300kW+550kW、450kW×2基など)が考えられる。

チップボイラーを 2 基に分割した場合のチップ必要量を示す。

図表 5-7 チップボイラー導入規模と生チップ必要量(チップボイラー2 基に分割の場合)

720 850 900 チップボイラー導入規模 kW

(360kW×2 基) (550kW+300kW) (450kW×2 基)

稼働率 % 59 57 56

t/年 981 1,115 1,167

m3/年 2,973 3,191 3,536

t/日 9.3 11.0 11.6

生チップ必要量

(日量は 大時)

m3/日 28.2 33.3 35.2 灰の発生量 kg/年 4,905 5,575 5,834

※1 稼働率=(実熱供給量)/(チップボイラー導入規模×4,320 時間)で求め、この値が高いほどボ

イラーが無駄なく有効に動いていると考えられる。 ※2 チップ比重を 0.33 と設定。 ※3 生チップ重量比 0.5%より算出。樹皮の混合割合や樹種により変化する。

チップボイラーを 2 基に分けることで、低負荷時にも対応することができるため全

体的に稼働率は上昇する。900kW 規模のボイラー例をとると 1 基の場合、稼働率 44%(チップ必要量 929t/年)に対して 2 基に分けた場合 55.8%(同 1,167t/年)となり、

稼働率が上昇するため、バックアップボイラーに頼る必要がなく、化石燃料を削減す

ることが可能となる。 ただし、1 基から 2 基にすることで、初期設備コスト及びランニングコストの上昇

も予想されるため、導入には化石燃料の削減とこれらのコスト上昇の両面から総合的

に検討する必要がある。

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5.2 温水供給システム

5.2.1 システムの基本設計 本事業で導入を検討しているシステムは、基本的には既存の設備のなかの重油ボイラ

ー部分をチップボイラーに変更するだけである。ただし、チップボイラーを導入した場

合の清掃・メンテナンス時や事故、またはチップ供給面でトラブルが発生した時のボイ

ラー運転が停止した場合に備え、化石燃料ボイラーもバックアップ用として導入するこ

とが望ましい。なお、チップボイラーの運転に特殊な技能や資格が必要になることはな

く、化石燃料ボイラー運転時と同様の体制で運転できるものとする。 チップボイラーによる熱供給システム導入にあたり、検討項目を図表 5-8 に挙げる。

図表 5-8 システム設計時の検討項目

検討分野 検討課題 説 明

住宅環境への配慮 大型車両往来が周辺住民へ

の迷惑にならないか。 煙・においへの対策

燃料供給時には大型の車両が往来するが、周辺住民への生活に

支障をきたさないよう検討を行なう。 チップボイラー燃焼時にはどうしても煙やにおいが発生する

ことがあるが、それに対する周辺住民の理解が得られるか。ま

た排煙に対してサイクロンなど排煙処理設備が設けられてい

るか。

観 設備、建屋 及びサイロ

周辺環境の景観において違

和感がないか。 チップボイラーの大きさ(圧迫感)、外観デザインなどが周辺

環境と調和するように検討を行なう。

スペース ボイラー及びサイロの設置

スペースは確保できるか。

特に都市部においては、設置スペース確保の有無や土地有効利

用上の観点からの検討。

搬入車両 大型車両による搬入に障害

はないか。 チップ燃料を輸送する場合、大型車両が経済的に有利となり望

ましいが、技術的障害や景観的な障害がないかどうか検討。

周辺環境との整合性

燃料搬入

搬入頻度 アクセスの交通環境に障害

はないか。 アクセス道路についても、大型車両通行による交通環境上の障

害がないかどうか検討。

安定性 他のエネルギー源によるバ

ックアップの必要はない

か。

熱の利用用途に応じた技術的な安定性を考慮する必要があり

ます。用途や施設の特性によっては、他のエネルギー源による

バックアップの必要性を検討。

運転人員 増員は必要ないか。 現況の運転人員との比較を行って、導入のしやすさを検討。

運転資格 新たな運転資格は必要ない

か。 現況の運転資格との比較を行って、導入のしやすさの検討。

運転管理の容易性 灰の除去方法 灰の除去作業はスムーズに

できるか。 灰の除去頻度と作業内容及び作業環境について調査を行って、

作業員の負荷について検討。

運転上の特徴

維持管理の 容易性

日常保守や定期点検で障害

はないか。 日常保守の頻度や作業内容及び定期点検頻度や期間について

調査を行い、維持管理の容易性を検討。

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図表 5-9 既存システム図(再掲)

図表 5-10 基本システムフロー

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5.2.2 エネルギー供給システム 適化の検討 チップボイラーの導入規模の選定にあたって基準が必要となる。考えられる基準とし

て図表 5-11 に項目を示す。

図表 5-11 チップボイラー導入規模選定基準

評価項目 内容

チップボイラー稼働率 チップボイラーがどの程度有効に運転されているか。 (定格出力で稼動している時間が長いか) (1)

重油削減量(削減率) チップボイラーを導入することにより削減できる重油量

(2) 経済性 チップボイラーを導入することにより新たに増加する収

入・コスト

(1) チップボイラー稼働率及び重油削減率 チップボイラーの稼働率および重油削減量については、5.1 の条件(暖房 2,400 時間

/年・負荷平均 185kW、暖房・消雪 1,920 時間/年・負荷平均 1,085kW)より試算を行な

った。各規模の稼働率と重油削減量、削減率の試算結果を図表 5-13 に示す。なお、チ

ップ燃料及び A 重油の熱量を想定し、ボイラーの効率についてはチップボイラーを 80%、

重油ボイラーを 85%として計算をおこなっている。

図表 5-12 燃料条件(低位発熱量)

単位 A 重油 生チップ 備考

kcal/L・kg 8,916 2,000

kWh/L・kg 10.4 2.3

MJ/L・kg 37.3 8.4

生チップの含水率を WB50%

(DB100%)とする。

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図表 5-13 チップボイラーの導入規模と稼働率、重油削減率

導入規模 kW 180 240 450 550

ボイラー稼働率 % 100 87 67 63.1※

重油削減量 kL 88.2 102.5 148.3 170※

バックアップボイラー 重油使用量※2 kL 198 184 138 116※

重油削減率※2 % 30 36 52 59※

導入規模 kW 700 720 (360×2)

850 (300+550) 900

ボイラー稼働率 % 44 59 57 44

重油削減量 kL 152.5 207.1 235.5 196.1

バックアップボイラー 重油使用量 kL 134 79 51 90※

重油削減率 % 53 71 82 68

※ 暖房のみの日に対応できない場合が生じるため、実際の稼働率はこの数値より低くなる

180~360kW のチップボイラーを導入した場合、70%を超える高い稼働率となるが、

既存の重油消費量から重油削減率は半分以下となり、チップボイラーを導入する効果が

それほど高いとはいえない。 一方、暖房・消雪時の 大需要にも対応できる 900kW といった大規模なチップボイ

ラーを導入した場合、重油削減率は高くなるが、ボイラー稼働率を見ると 50%を切って

おり、設備の余剰時間が多いと考えられる。この場合、大規模に導入する場合は小規模

のチップボイラーを 2 基に分けて導入する 720kW や 850kWのようにすることで、ボイ

ラーの稼働率と重油削減率を同時に確保することができる。 それぞれのケースについて、チップボイラーの緊急停止時に備えて、チップボイラー

無しでも対応できるような化石燃料バックアップボイラーを設置することが望ましい。

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(2) 経済性 チップボイラーの導入規模を小規模型、中規模型、大規模型、2 基分割型と想定し、

経済性の試算を行なう。

図表 5-14 チップボイラー導入型の想定

導入型 導入規模 基数

小規模型 240kW 1

中規模型 450kW 1

大規模型 700 kW、900kW 1

分割型 850kW(300kW+550kW) 2

図表 5-15 経済性の前提条件

チップボイラー規模 図表 5-14 の各規模

チップボイラー関連費※1 ボイラーメーカーの見積もり設定

建築工事費※2 同上

導管敷設費 10 万円/m(想定値),100m 敷設とする

運転日数 180 日/年(暖房 100 日、暖房・消雪 80 日)

年間稼働時間 4,320 時間/年(24 時間運転)

稼働率 図表 5-13 の値を各規模に設定

チップボイラー効率 80%

初期費用補助率 50%

減価償却費 補助導入後の額に対して定額法 20 年、残存価額 10%

支払金利 (借入金残高×借入金利の 20 回返済計)/20 年、元金均等、借入金=

導入費計×設備補助率、元金返済額=借入金/20 年、借入金利 3%

保守管理費・消耗部品費 メーカー見積より設定

ばい煙測定費 大気汚染防止法上の法定測定

チップ消費量 図表 5-13 の値を各規模に設定

チップ単価 11 円/kg(運送費込) ※岩手県の事例を参考に設定

重油削減量 図表 5-13 の値を各規模に設定 重油単価 62 円/L(平成 18 年度納入実績)

管理削減費 225 万円/年 新規に設置するボイラー管理を町職員が兼務で行なうことで削減で

きる費用。 ※1 チップボイラー関連費のみとしてバックアップボイラー費用は除くものとする。 ※2 チップ燃料を溜めておくサイロの大きさについては建築コストのアップの要因となるため、他の

チップボイラー導入事例から全負荷運転時で 5~6 日分、暖房のみの場合で 7~12 日分程度のサ

イロを想定する。

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《規模選定のための経済性の基本的な考え方》 チップボイラーを導入しないで化石燃料ボイラーのみ(既存システム方式:重油ボイラー2基)で運営した場合と、新たにチップボイラーを導入するケースを比較し、チップボイラー

を導入することにより、新たに発生する費用と削減できる費用の差を年間収支とする。 前提条件をもとに試算を行なった結果を図表 5-16 に示す。

図表 5-16 各規模における経済性試算結果

小規模型 中規模型 大規模型 分割型 項目 単位

240kW 450kW 700kW 900kW 850kW (300kW+550kW)

ボイラー関連費 千円 42,540 53,620 70,140 74,420 98,440

建築工事費 千円 17,660 19,200 21,050 22,500 25,000資本費関連

導管敷設費 千円 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000

チップボイラー関連初期費用計 千円 70,200 82,820 101,190 106,920 133,440

補助率 50%

減価償却費 ※ 千円 1,580 1,863 2,277 2,406 3,002資本費

支払金利 千円 552 652 796 842 1,050

資本費計 千円 2,132 2,515 3,073 3,248 4,052

チップ燃料費 千円 5,346 7,722 7,942 10,219 12,265

保守管理費増分 千円 0 0 200 200 200

ばい煙測定費増分 千円 0 0 0 0 300

ランニン

グコスト

消耗品費増分 千円 0 0 0 0 200

費用

ランニングコスト計 千円 5,346 7,722 8,142 10,419 12,965

費用計 千円 7,478 10,237 11,215 13,667 17,017

管理削減費 千円 2,250 2,250 2,250 2,250 2,250収入 重油削減費 千円 6,355 9,195 9,455 12,158 14,601

収入計 千円 8,605 11,445 11,705 14,408 16,851

年間収支 千円 1,128 1,207 490 741 -166

減価償却年数 20 年として考えた場合、各規模を比較すると年間収支としては中規模型

の 450kW が も良く、次いで小規模型 240kW が良いという結果になっている。 大規模型 900kW や分割型の 850kW では、重油削減費が高いが、資本費(初期設備費)

が高額になることや、分割型ではチップボイラーのランニングコスト増に繋がるため、

収支を悪化させている。ただし、今後化石燃料の価格が上昇した場合には、重油削減量

が多い規模の大きなチップボイラーほど、重油削減費という経済的なメリットが得られ

るため経済性も良くなる可能性がある。

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第 5 章 導入システム調査

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(3) チップボイラー導入規模の 適化の検討 チップボイラーの導入における評価項目の結果をまとめる。

図表 5-17 チップボイラー規模選定における評価項目のまとめ

項目 単位 小規模型 中規模型 大規模型 分割型

チップボイラー導入規模 kW 240 450 700 900 850 (300kW+550kW)

ボイラー稼働率 % 87 67 44 44 57

重油削減量 kL 102.5 148.3 152.5 196.1 235.5

重油削減率 % 36 52 53 68 82

バックアップボイラー用 重油必要量 kL 184 138 134 90 51

経済性(年間収支) 千円 1,128 1,207 490 741 -166

小規模型240kWの規模を導入した場合、高い稼働率と経済性を確保できる代わりに、

重油削減率は 35%と低くなる。 大規模型 900kW では、暖房のみの運転に対応できないため稼働率は低く、経済性に

関しても小規模、中規模型に劣っているが重油削減率は 68%と比較的高い。450kW で

はチップボイラー稼働率が 67%と高く、重油削減率も 50%程度となっており、経済性

は も良い事が明らかになった。 チップボイラーを 2 基に分けた 850kW のケースでは重油削減率が 81%と も高い

反面、経済性では 450kW や 900kW より劣っている。 各規模別に比較すると、それぞれ一長一短を有するが、今後は、各規模で検討した

なかで 70%近いチップボイラー稼働率が確保できて、経済性に優れ、重油削減効果も

期待できる 450kW のチップボイラー(+バックアップボイラー)を第一候補として導

入の検討を行なう。 また、チップサイロはチップ補給回数を極力抑えることを考慮し、100m3 程度の量

を保管できるものを想定する。

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第 5 章 導入システム調査

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以下に、450kW のチップボイラーと 1,000kW 規模のバックアップボイラーとを組

み合わせ導入した場合の熱供給パターンを以下に示す。

図表 5-18 チップボイラー450kW 規模導入時の熱供給パターン

kW

23 24 時19 20 21 2215 16 17 1811 12 13 147 8 9 103 4 5 6

ave.185

1 2

ave.1,084kW

チップ ボイラー 450kW

バックアップボイラーによる熱供給

チップボイラーによる熱供給

熱負荷

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第 5 章 導入システム調査

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5.3 チップボイラー関連設備主要仕様およびボイラーの運転と管理

5.3.1 チップボイラー関連設備主要仕様 上記検討結果から450kWのチップボイラーを導入するものとして主要仕様をまとめる。

図表 5-19 チップボイラー本体仕様詳細例

項 目 仕 様 ・ 概 要

ボイラー種別 無圧缶水型温水発生機(ボイラー) ・電極による水位制御、電磁弁による缶水自動補給 ・プレート式熱交換器及び熱源ポンプによる間接加熱方式

ボイラー本体構造 3 パス煙管ボイラー 鋼板製溶接構造

対象燃料

湿潤木材チップ・粉砕樹皮 ・湿量基準 含水率 55%( 大値 60%) ・チップサイズ 80×20×10mm( 大値) ・灰の容量 1%

定格出力 出力 450 kW

電源 200V 50Hz 3 相 (ボイラー電源 230V 50Hz 3 相)

出力可能 高温水温度 85℃以上

ボイラー熱利用効率 80%以上

ボイラー出力制御 全自動比例制御(30-100%)

ボイラー本体テスト圧力 0.5MPa 以上

燃焼室構造 可動型火格子、自動灰出し装置付高温ガス化燃焼室

煤塵分離器 マルチサイクロン

サイロ搬送方式 アーム方式

煤塵発生量 300mg/m3N 以下(O2=13%)

図表 5-20 チップボイラー付属機器の仕様詳細例

項 目 仕 様 ・ 概 要

燃焼炉

・燃焼空気予熱構造壁、ケーシング ・油圧駆動可動火格子 ・ボイラー燃焼炉点検ドア ・火格子下の冷却及び掃除用ドア ・セラミックライニング変流用コンクリート

ケーシングと保温 ・メタルケーシング ・保温材 100mm

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第 5 章 導入システム調査

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燃焼空気装置

・2 箇所からの 1 次空気供給と 2 箇所からの 2 次空気供給方式。 ・空気量測定と空気量調整装置付 ・燃焼空気ファン ・エアーフローメータ ・ロータリーバルブ付きサーボモータ

サイロ・

燃料チップ積出し装置

サイロ部品 ・屋内型 プッシュフィーダ方式 ・サイロ室寸法: (雪が吹き込まないため、サイロ搬入口にはシャッター等対策を設ける)

サイロからの積出し装置 ・プッシュフィーダ、チップ積出し装置、水平Tバー ・油圧装置 作動油圧 250bar 過圧安全弁付き ・シリンダ 500mm ストローク

燃料搬送装置

・2 段階スクリューコンベア式 光センサー付き ・コレクティングスクリュー ・プロポーショニングスクリュー ・ストーカスクリュー

排ガス浄化装置 ・煤塵分離器(マルチサイクロン方式)、ボイラーに分離取付型 ・円錐型分離構造、 煙突煤塵発生量 0.3g/m3N 以下 ・灰収集箱 90L

自動灰出し装置 ・ギアモータ付き耐火灰出しスクリュー ・脱着可能なコンテナ型バケット バケット容量 90L

排気ドラフト制御装置 ・排気ガス誘引ファン(炉圧検出による自動制御式) ・掃除孔付ケーシング、ランナ形状:ターボ冷却ファン付耐熱モータ(ク

ラスF)

出力制御システム

・燃料の送り速度と供給空気量の自動調節による、出力制御 出力範囲:30~100% ・燃焼空気供給装置

1 次 2 次空気は 2 箇所分割供給で、それぞれの空気流量が独立に測定さ

れ、ロータリーバルブによる比例制御を行うシステム。 ・燃焼用供給ファン・フローメータ・ロータリーバルブ付

・逆火消火装置 燃焼炉からの逆火で燃料搬送装置(ストーカスクリュー箱)が異常過熱

したとき、ストーカスクリュー箱内に散水し自動消火する 1 次消火装置。

・2 次炎温度検知警報装置

・ボイラー缶水温度検知装置 異常過熱時手動リッセット型

安全装置

・感震器

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電気制御装置

機能:・出力制御 30~100% ・燃焼量制御 ・燃焼室負圧制御、排気ファンインバータ制御 ・排ガス中の O2制御 ・起動停止プログラム制御

・自動燃焼管理、燃焼空気制御 ・排気ガス温度監視 ・給湯温度制御と過熱防止スイッチ ・異常時のディスプレー表示と異常警報

電気制御装置 ・掃除間隔、運転時間の計測 ・重要な機能の手動設定登録機能

熱交換器ユニット 熱交換器:プレート式

缶水温度高温保持システ

ム(3 方弁制御) 電動 3 方弁制御 ・3 方弁 ・温度センサー

開放タンク

材質:SS400 ・外形寸法 450×450×310mm ・取付高さ 760mm 接続 DIN65AF ・溢水孔 Rc2 水位センサー ・補給水弁 ・Y 型ストレーナ

排気煙道管 横引き煙道:φ200 煙突:φ225 材質 SS400 板厚 3.2t 100A 排気ガス測定口付き

自動煙管掃除装置

圧縮空気による自動掃除システム ・点検用特殊ドア、圧縮タンク ・圧力制御器、吹出しバルブ、連結管、安全弁 ・電気制御装置 空気コンプレッサー

電源変圧器 容量 12 kVA

1 次 200V3φ/2 次 230V3φ

室内電線類 ボイラー関連室内電線類一式及び配線工事

流量計・温度計 循環水流量計、循環水温度計(往復)

熱供給導管設備 往 125A 還 75A

図表 5-21 バックアップボイラー仕様

項 目 仕 様 ・ 概 要

ボイラー種別 無圧缶水型温水発生機(ボイラー)

縦置型 φ1600mm×全高 2500mm

対象燃料 A 重油

定格出力・効率 出力 1,160kW、低位発熱量基準 85%以上

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図表 5-22 チップボイラー機械室・サイロ(100m3)平面図

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図表 5-23 チップボイラー機械室・サイロ断面図

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図表 5-24 チップボイラー機械室・サイロ断面図

※ チップ搬入口は設置場所に応じて建屋側面方向からも投入できるものとする

5.3.2 チップボイラーの運転と管理 ① 化石燃料ボイラーとの比較

チップボイラーと化石燃料ボイラーの通常の運転・管理に関して大きな違いは、ボ

イラーの着火やボイラーの掃除、燃焼灰の掃除がある。機器特性上、チップボイラー

は、急な熱需要変動に対して対応ができない。チップボイラーは、一度着火したら 24時間火を絶やさない連続運転が望ましい。

ボイラーの着火に関しては、化石燃料ボイラーには着火バーナーが付いており、着

火はボタン一つで行なうことができる。一方、チップボイラーにも化石燃料の補助バ

ーナーが付属しているものも存在するが、着火時に化石燃料を用いることは、木質燃

料を使うメリットを相殺してしまうという考えから、手動で着火するタイプが多く見

られる。手動着火の場合、予め乾燥しているチップや紙くずをボイラーの燃焼炉に投

入し、自動運転に切り替わるまで炉内温度を上昇させることが必要となる。(岩手県林

業技術センターの例では、着火から安定運転まで 3~4 時間程度)。 なお、停電や意図せずに急に電源が落ちた場合、チップボイラー本体は停止するが、

燃焼炉内のチップはしばらく燃焼を継続し、停止した搬送スクリューを伝って逆火す

る恐れがある。この対策として搬送スクリューの途中の温度センサーによる逆火警報

や消火給水装置が備わっている。また、燃料搬送スクリューが途中で縁を切っている

等、未然に火事を防止する対策として安全システムを搭載している。

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第 5 章 導入システム調査

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燃焼灰については、チップの品質(樹種、樹皮混入割合)や運転パターンなどで排

出量の差が出るが、針葉樹チップであれば灰の排出量はチップ使用量の 0.5%未満であ

る。

図表 5-25 チップボイラーの日常運転

② 日常の保守管理体制と定期メンテナンス

現在、販売されているチップボイラーは、化石燃料ボイラー同様に自動運転が可能

であり、一度着火させれば、消火させない限り、あとは無人運転が可能である。日常

の管理体制は、チップサイロのチップ残量確認とチップの受入れ、ボイラーの燃焼灰

の掃除(燃焼炉、ボイラー内煙管部)程度である。 全国のチップボイラー導入先の例をみると、ほとんどが他業務と兼務でチップボイ

ラーを管理している。ただし、小国町は、降雪量が多いという事情があるため、チッ

プのサイロ搬入時には、車両通行のためにサイロ周辺の除雪を行う必要が生じる。こ

の点で除雪用機器の整備や除雪作業員の確保といったことが必要となる。 また、チップボイラー施設と利用施設が離れている場合、監視や緊急時の対応のた

め近くに人員を配置することが望まれる。 灰の掃除は、燃焼炉内から自動的に灰受けタンクに集められる構造になっている機

種が多く、灰受けタンクを空にするだけでよい。 煙管部の掃除については、メーカー別の機種によって、コンプレッサーで落とす方

式と手作業で煙管に付着した灰をブラシ等で落とす方法がある。ただし、煙管部はチ

ップボイラーが完全燃焼していれば、それほど灰は発生しないため、年に数回程度の

作業になる。日本で初めてチップボイラーを導入した岩手県林業技術センターでは、

年間 180tの製紙用チップの使用量に対し、約 360kg の灰の発生量(チップ重量比

0.2%)であったという報告がなされている。また、ボイラー内部の煙管の掃除につい

ては、通常の完全燃焼で運転できていれば、半年に 1 回程度で良いという報告も同時

になされている。しかし、チップの含水率が極端に高く不完全燃焼の場合には数週間

点 火 (手動・自動)

通常運転 (自動運転)

スイッチ OFF によるボイラー停止

チップ 残量確認

灰の掃除

消 火

チップボイラーは運転員

特別な技術や資格を要しない

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第 5 章 導入システム調査

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に 1 回要する場合もある。 定期的な機器のメンテナンスについては、化石燃料ボイラーのメンテナンスのかな

りの部分がバーナー部に関わるもの(点火部、送風機・モータ部、配管部品、電気品

等)であることに対し、手動着火方式のチップボイラーはこのような点検部分が少な

いため、その分メンテナンスが少ないと言える。他方で、チップボイラーには化石燃

料ボイラーにはない油圧機構(燃料積出し・搬送装置駆動部等)及び排ガス・灰処理

関係の設備を設けている機種が多く、これらのメンテナンスが必要になってくる。使

用状況により定期メンテナンスの回数が異なるが、 低でも年 1 回は必要で、実際は 1~4 回/年の定期点検契約を締結する場合が多く見られる。

図表 5-26 チップボイラーの定期点検項目目安

点検・清掃項目 頻 度 内 容 燃焼装置 年 1 回 点検・清掃 煙管 3 ヶ月に 1 回 清掃 炉本体 年 1 回 清掃・点検 安全装置・各種センサー 4 ヶ月に 1 回 確認 燃料供給スクリュー類 年 1 回 グリースアップ 各部消耗品 年 1 回 磨耗点検・交換

また、点検とは別に大気汚染防止法により、伝熱面積 9.8m 以上のチップボイラーに

対して化石燃料ボイラー同様、ばい煙の測定が義務づけられている。 日常管理と定期的な保守・点検など、チップボイラーの運転維持のために必要な年間

経費を示す。

図表 5-27 チップボイラーの維持管理

項目 頻度 年間経費目安

運転監視 適宜

灰掃除(受けタンク交換) 4 日に 1 回程度

チップ残量確認・チップ燃料受入 適宜

チップ搬入時除雪作業費 2 日に 1 回程度

管理体制により変化 (他業務と兼務して管理している

例も多く見られる)

メーカー定期保守点検費 1~2 回・基/年 30 万円~(ボイラー規模による)

ばい煙測定費 2 回・基/年 20~30 万円

チップボイラー関連消耗部品費 適宜 20 万円

合計 約 380 万円

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第 5 章 導入システム調査

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5.4 熱供給施設の設置場所の検討 既存の熱供給施設の設備は、日本重化学工業内の敷地内に設置されており、周辺を建屋

に囲まれていることから設備の増設が不可能な状態である。 新たに熱供給設備を整備する場合、チップボイラーやサイロ等含む関連設備が設置可能

な敷地が必要となる。したがって、小国町中心部において設置候補地を抽出し、チップボ

イラーの設置候補地を選定する際の基準を設けて設置可能場所(図表 5-29)について検

討を行なった。

図表 5-28 熱供給施設 選定基準

選定条件

1 関連設備を設置できる一定の面積を有している。

2 施設の近隣に住宅がない。 3 既存熱供給導管から離れていない。 4 国道や JR 線路を横断しない。 5 農地や河川区域に属していない。

熱供給施設の設置箇所を選定する際、チップボイラー運転に伴う作業やトラックによ

るチップ補給時の発生音を考慮すると、熱供給施設の近隣に住宅がないことが望ましい。 また、熱供給を効率的に行うためには、既存の熱供給システム上に設置することが望

まれる。これは熱供給施設が既存の熱供給導管から一定距離があると、熱供給施設から

既存の熱供給導管に接続する際に増設する導管距離に応じて熱損失が高くなるため、既

存システム上に設置することで増設分の熱損失を抑えることができる。 さらに、国道や JR 線路を横断すると、導管増設に関連する煩雑な手続きや導管のメン

テナンス等の管理に即座に対応することが困難である。

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第 5 章 導入システム調査

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図表 5-29 チップボイラー設置候補地

NO 面積 所有者(現在の利用用途)

① 834 m2 町有地(空地)

② 1,695 m2 町有地(空地)

③ 373 m2 町有地(駐車場及び冬場の雪捨て場)

④ 2,184 m2 民有地(駐車場及び空地)

⑤ 3,665 m2 民有地(駐車場及び空地)

⑥ 317 m2 民有地(駐車場)

設置候補地選定基準によりチップボイラー設置候補地を検討した結果、図表 5-29 より、

③及び⑥の土地が条件に該当する。本事業では③及び⑥の土地を利用した設置計画を検

討していく。

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第 5 章 導入システム調査

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5.5 灰の活用方法 木質資源を燃料とするボイラーからは必ず木灰が発生することから、灰の活用方法につ

いて検討した。

5.5.1 チップボイラー運転による灰発生量の検討 本事業において導入が検討されている450kWのチップボイラーを導入した際の灰発生

量を推計した。なお、灰の発生量はチップ燃料に含まれる樹皮混入割合によって発生量

は変動するが、全国各地のチップボイラー運転事例より、チップ重量の概ね 0.5%と設定

した。 暖房時には、1 日あたりのチップ消費量は 2.4t/日(7.2m3/日)、灰分が 0.5%発生する

と 1 日あたり 12kg の灰が発生することになる。同様に暖房期間 100 日では、計 238t の

チップを消費するという試算より、灰の発生量は計 1.2tとなる。 暖房+消雪時には、1 日あたりのチップ消費量は 5.8t/日(17.6m3/日)、灰分が 0.5%発

生すると 1 日あたり 29kg の灰が発生することになる。これは暖房+消雪期間 80 日では、

計 464 t/年のチップを消費するという試算より、灰の発生量は計 3.5tとなる。

図表 5-30 チップボイラーによる灰発生量

チップ必要量※1 灰発生量※1 設備利用条件

1 日 計 1 日 計

暖房(100 日) 2.4t (7.2m3)

238t (721m3) 12kg 1.2t

暖房+消雪(80 日) 5.8t (17.6m3)

464t (1,407m3)

29kg 2.3t

計 ― 702t (2,129m3)

― 3.5t

※1 灰の発生割合をチップ重量の 0.5%と想定 (岩手県林業技術センターの場合は重量の 0.2%の発生率)

灰の処理頻度は、灰を貯めておく灰受けタンクの容量が標準規格 240L とした場合、灰

の比重を 0.8 とすると、1 日当たりのチップ消費量が 大になる厳冬期(暖房+消雪時)

は(灰受タンク 240L)×(灰比重 0.8)÷(一日当たりの 大灰発生量 29kg)=6.6 日と

なり、約 6~7 日に 1 度の頻度で、灰受けタンクの灰を処理する必要がある。 なお、灰受けタンクの容量は変更可能であり、その灰処理作業頻度は灰受けタンク容

量を大きくすることで減らすことは可能である。

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第 5 章 導入システム調査

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5.5.2 灰の活用方法事例調査 灰を利用する場合に全国各地で様々な利用方法があり、その中でもピュアな木材を

燃焼させた木灰の利用について主な事例を図表 5-31 に示す。一般的に、土壌改良材と

して畑などに散布しているケースや、焼物の釉薬ゆうやく

や媒染剤ばいせんざい

として販売されている事例

が見受けられる。また、灰を雪上に散布することで、融雪促進剤として活用すること

も期待できる。町内では JA 堆肥センターで肥育牛から発生する牛糞を発効させて堆肥

を生産しており、作物によって必要とする肥料成分が異なるため、成分分析などを行

ったうえで、肥料として堆肥と組み合わせた利用が考えられる。 灰の利用にあたっては、できるだけ町内での物質循環、副産物の地産地消のしくみ

を構築していくことが望ましい。本格的に使用する場合、農業事業者に協力してもら

うことで既存流通網が利用できる。いずれにせよ灰の活用方法を検討するには、発生

した木灰の品質について成分分析を行い明示することが望ましい。

図表 5-31 灰の利用方法事例

利用方法 利用団体 利 用 例

土壌改良剤 肥料 農業関係者

木灰は化学肥料では補充することが困難な微量元素を含んでいるた

め、堆肥と混ぜて使用することによって地力を維持する効果も得られ

る。

融雪促進剤 農業関係者

降雪地帯で農地に、灰や炭などの黒色の粉状物を雪上に散布すること

で、太陽熱を集めて雪を溶かす方法が一般に用いられている。 大規模な農地への散布としては、肥料、土壌改良資材と組合せること

による散布が効率的である。

山菜の灰汁抜き 山菜加工業者 一般家庭

チップボイラーで利用される燃料は、木が 100%ピュアのものなので

発生する灰も薬品などが混入しない安全なものといえる。そのため山

菜の灰汁抜きなどの山菜加工に利用することも可能である。

蒟蒻こんにゃく

の凝固剤

静岡県工業技術セ

ンター 静岡県蒟蒻協同組

合 静岡県食品産業協

鰹節を製造する際に燻す為に利用する桜、くぬぎ、ならの木などの焼

却灰を、蒟蒻の凝固剤として有効利用している。具体的には、水酸化

カルシウムだけを凝固剤として利用するため、強い石灰臭があった。

しかし、木灰を水あるいは湯につけて抽出した木灰抽出液はカリウ

ム、ナトリウムを多く含んでいるため、凝固剤として利用すると、石

灰臭が軽減され、良質な製品ができる。ただし、外材や建設廃材等が

入ると品質保証ができないため利用できない。

藍染め 古庄藍染工場 (徳島県)

藍染めの工法として、現代の藍建法である天然藍(薬品建て)と合成

藍の割立てではなく、薬品を全く使用せずに天然藍(すくも)100%+

灰汁+石灰+ふすま+加温により絹の藍染めを行っている。 灰汁の元である木灰については、沼津市の水産会社や雑節等の燻製を

こしらえている企業の木灰を送ってもらい、利用している。沼津市の

木灰は本物に拘り藍建している全国の他の藍染工場でも利用されて

いる。

和紙の煮熟剤しゃじゅくざい

和紙の煮熟剤しゃじゅくざい

として木灰やソーダ灰を用い煮る方法がある。 保存性の高い和紙はアルカリとして木灰やソーダ灰を用いた場合に

得られ、アルカリで煮熟しゃじゅく

(蒸解)すれば繊維の損傷が少ないものが得

られる。