家族機能が在宅ターミナルケア
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家族機能が在宅ターミナルケア導入に及ぼす影響について
青木 拓也 (1(2
宮森 正 (3
吉川 幸子 (3
石丸 治男 (3
1)東京ほくと医療生活協同組合 北足立生協診療所2)日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター
3)川崎市立井田病院医療福祉生協連 家庭医療学開発センター
Centre for Family Medicine Development ( CFMD )
背景現在我が国は超高齢化社会を迎え、病院でのターミ
ナルケア・看取りから、在宅でのそれへと変換を迫られている状況にある。
しかし実臨床においては在宅ターミナルケアの導入には数多くの社会的障壁が存在し、患者の家族システム機能もその一つと考えられる。
家族機能David H. Olson らが提唱した家族システム円環モ
デルは、家族システムの機能度は凝集性 ( きずな )と、適応性 ( かじとり ) の両次元によって決定されるというものである。
(Olson,DH et al. Family Process 1979;18:3-28.)
きずな、かじとりともに中庸でバランスの取れた状態にあるときに家族システムの機能は最適になる。
Olson 円環モデル低 家族の凝集性(きずな) 高
膠着(ベッタリ )結合(ピッタリ)
分離(サラリ)
遊離(バラバラ)
高
家族の適応性
(
かじとり)
低
無秩序
(
てんやわ
んや)
柔軟
構造化
(
きっ
ち
り)
硬直
(
融通なし)
バランス型
中間型 中間型
極端型 極端型
極端型極端型
家族機能評価尺度円環モデルの測定目的で作成された質問紙法が
FACES(Family Adaptability and Cohesion Evaluation Scale) であり、 FACES を基に日本語版である FACESKG-4(Family daptability and Cohesion Evaluation Scale at Kwansei Gakuin 第 4 版 ) が開発されている。 (Olson DH et al.: Family social Science, University of Minnesota,
1978.)
( 立木茂雄:家族システムの理論的・実証的研究,川島書店, 1999)
目的家族機能がターミナルケアの場に及ぼす影響につい
て検討することである。
方法研究デザイン:横断研究
研究対象①2010 年 4 月から 2011 年 3 月の 1 年間に川崎市立井田病院緩和ケア病棟に入院した患者②2011 年 12 月から 2012 年 11 月の 1 年間に同院で在宅ターミナルケアを開始した患者
調査方法訪問診療開始時もしくは入院時に FACESKG-4 を実施し両群を比較。
結果対象者:在宅患者 62 例、入院患者 135 例
バランス
群33%
中間群53%
極端群
14%
バランス群19%
中間群56%
極端群24%
在宅患者の家族機能 緩和ケア病棟入院患者の家族機能
① 家族機能の凝集性
高凝集性が在宅群では 77%(48/62 例 ) 、入院群では 84%(113/135 例 ) でみられ、両群ともに凝集性が高い傾向にあり有意差を認めなかった。
在宅患者 入院患者0%
20%
40%
60%
80%
100%
高凝集性低凝集性
結果
( 遊離+分離 )
( 結合+膠着 )
n.s.
n.s.: not significant
結果② 家族機能の適応性
低適応性が在宅群では 65%(40/62 例 ) 、入院群では 45%(61/135 例 ) でみられ、在宅群は入院群と比較し有意に適応性が低下していた
在宅患者 入院患者0%
20%
40%
60%
80%
100%
高適応性低適応性 ( 硬直+構造化 )
( 無秩序+柔軟 )
*
*: p<0.05
(by chi-square test )
考察在宅ターミナルケアの導入には家族機能の適応性が低
下(硬直化)すること、すなわち強固なリーダーシップを持つ家族成員の存在、家族内役割の固定化が必要である可能性が示唆された。
介入例としては、事前に①主介護者(リーダー)の設定を明確にすること、②具体的なサポート内容をリーダー以外の家族成員に割り付けること等が挙げられる。
結語在宅終末期患者および入院終末期患者において、そ
れぞれ家族機能を評価し比較検討を行った。
家族機能の傾向を考慮した家族ケアが、在宅ターミナルケアの導入や継続に有効な可能性がある。
仮説検証のため、家族機能以外の変数を加えた在宅患者前向きコホート研究が同施設で進行中である。