足立義雄会員卓話

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(社)兵庫県薬剤師会 スポーツファーマシスト 足立 義雄 アンチドーピングについて

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(社)兵庫県薬剤師会

スポーツファーマシスト

足立 義雄

アンチドーピングについて

ドーピングとは何か?

ドーピングとは、競技力を高めるた

に薬物などを使用したり、それらの

使用を隠したりする行為で、スポー

ツでは厳しく禁止されています。

故意であっても、不注意であっても

制裁の対象になります。

ドーピングの定義 世界ドーピング防止規程(The World Anti-Doping Code)によって定義されている。具体的には以下の8項目のうちの1つ、又は2つ以上に該当する場合を言う。

競技者の検体に、禁止物質又はその代謝物若しくはマーカーが存在すること。

競技者が禁止物質若しくは禁止方法を使用すること又は使用を企てること。

適用されるドーピング防止規則において認められた通告を受けた後に、やむを得ない理由によることなく検体の採取を拒否し若しくは検体の採取を行わず、又はその他の手段で検体の採取を回避すること。

検査に関する国際基準に準拠した規則に基づき宣告された、居場所情報未提出及び検査未了を含む、競技者が競技会外の検査への競技者の参加に関する要請に違反すること。検査未了の回数又は居場所情報未提出の回数が、競技者を所轄するドーピング防止機関により決定された18ヶ月以内の期間に単独で又はあわせて3度に及んだ場合には、ドーピング防止規則違反を構成する。

ドーピング・コントロールの一部に不当な改変を施し、または不当な改変を企てること。

禁止物質又は禁止方法を保有すること。 禁止物質若しくは禁止方法の不正取引を実行し、又は不正取引を企てること。

競技会において、競技者に対して禁止物質若しくは禁止方法を投与すること、若しくは投与を企てること、競技会外において、競技者に対して競技会外で禁止されている禁止物質若しくは禁止方法を投与すること、若しくは投与を企てること、又はドーピング防止規則違反を伴う形で支援し、助長し、援助し、教唆し、隠蔽し、若しくはその他の形で違反を共同するこ

と、若しくはこれらを企てること。

つまり・・・

禁止物質の使用はもちろんのこと、

禁止物質を所持する、検体採取を拒否することも

ドーピング違反となる!

ドーピングはなぜだめなのか?

WADA codeでは、スポーツ固有の

価値として次の事功を挙げています

・倫理観、フェアプレイと誠意 ・優れた競技能力

・人格と教育 ・楽しみと喜び ・チームワーク

・献身と真摯な取り組み ・規則、法令を尊重する姿勢

・自分自身と他の参加者を尊重する姿勢

・勇気 ・共同体意識と連帯意識

・健康

スポーツを通じて、これらの価値観を共有・経験することにより、社会性の獲得や人格形成に有益な経験を得ることができる。

スポーツが持つ多様な価値観を獲得・経験できることを前提として、学校、企業、地域社会等でスポーツを活動や行事の一部の組み入れたり、奨励するなどしている。

ドーピングの主な禁止理由

スポーツの価値を損なう フェアプレーの精神に反する 競技者の健康を害する 反社会的行為である

JADA「ドーピング検査Q&A」より抜粋

1.スポーツの価値を損なう

スポーツは、世界中の人々にとって貴重で普遍的な文化財産である。

ドーピングによりいくら好成績を残したとしても、ドーピングは、スポーツの存在意義や価値をおとしめる行為であり、絶対に認められない!

スポーツは競技能力の高さだけを競うものではない!

2.フェアプレーの精神に反する

スポーツはルールの遵守が大前提である。

スポーツはドーピングに対して反対の立場であり、

スポーツに参加する人はドーピング防止規程を

守る事が大前提である。

自分だけ規程を遵守しないという事は、

スポーツマンシップに反しアンフェアである!!

3.競技者の健康を害する

医薬品 臨床試験により治療効果と副作用のバランスで用量を設定

ドーピングに使用する場合は・・・

通常用量をはるかに超えて使用されることがある!

例:メチルテストステロンは男子不妊症などに対して50mg/day

程度の用量で用いられるが、ドーピングでは数g/weekの単位で用いられた例もある。

致命的な有害事象が起こってもおかしくない!

4.反社会的行為である

スポーツの文化価値の低下 薬を使わないと一流になれないのでは文化価値が低下!

青少年への悪影響 選手が使っていると必ずまねをする青少年が出る!

2013年WADA禁止表

Ⅰ 常に禁止される物質と方法

[競技会(時)及び競技会外]

[禁止薬物]

S0.未承認薬

S1.蛋白同化薬

S2.ペプチドホルモン、成長因子及び 関連物質

S3.ベータ2作用薬

S4.ホルモン拮抗薬と調整薬

S5.利尿薬と他の隠蔽薬

[禁止方法]

M1.酸素運搬機能の強化

M2.化学的・物理的操作

M3.遺伝子ドーピング

Ⅱ 競技会(時)に禁止される物質と

方法

[禁止物質]

S6.興奮薬

S7.麻薬

S8.カンナビノイド

S9.糖質コルチコイド

Ⅲ 特定競技において禁止される物質

P1.アルコール

P2.ベータ遮断薬

ドーピング違反になると

どうなるのか?

検体採取拒否による違反例

室伏広治選手(日本)が繰上げで金メダルとなった。

2004年アテネ五輪 陸上男子ハンマー投げ アドリアン・アヌシュ選手(ハンガリー)

IOCからの再検査出頭要請を拒否 →ドーピング違反とみなされ、金メダル剥奪。 (尿検査を不正に操作した疑惑もある。)

競技会外検査拒否による違反例

2004年アテネ五輪 シドニー五輪男子200メートル 金メダル コンスタンティノス・ケンデリス選手(ギリシャ) シドニー五輪女子100メートル 2位 エカテリニ・サヌ選手(ギリシャ)

アテネ五輪前のIOCの薬物検査要請を無視。

ドーピング違反として、2004年12月22日から

2年間の出場停止処分。アテネ五輪を欠場。

コーチの関与が疑われる違反例

コーチが選手のドーピングに積極的に関わっていると疑われる例は非常に多い。 アヌシュ選手の場合 同じハンガリーのファゼカシュ選手が先にドーピング陽性。

↓ 同じコーチに指導を受けていたアヌシュ選手にも疑いが。

ケンデリス選手・サヌ選手の場合 同じコーチ(クリストス・ジェコス氏)に指導を受けていた。

世界ドーピング防止規程の罰則(1)

1. ドーピング違反が発生した競技大会

→ メダル・得点・賞の剥奪を含む個人成績の失効

2. 禁止物質及び禁止方法の違反(存在・使用・使用の企て・保有) → 1回目 2年間の資格停止

3. 特定物質 (競技者又はその他の人が、自己の体内に特定物質がいかに入り、又はいかに保有する

に至ったかを証明でき、かつ、特定物質の使用が競技者の競技力の向上又は競技力を

向上させる物質の隠蔽を目的としたものではないことを証明できる場合)

→ 1回目 将来の競技大会における資格停止期間を伴わ

ない譴責処分~2年間の資格停止

世界ドーピング防止規程の罰則(2)

4. その他のドーピング違反

①検体採取拒否・回避、ドーピングコントロールの不当な改変

→ 禁止物質の違反と同様の処分

②不正取引又は不正取引の企て、禁止物質若しくは禁止方法の投与又はこれらの企て

→ 4年~生涯の資格剥奪

③居場所情報についての違反、検査未了

→ 1年間~2年間の資格停止

ドーピング違反による罰則例

アテネ五輪100m男子金メダリスト

ジャスティン・ガトリン選手

2001年全米ジュニア選手権

ドーピング検査で興奮薬のアンフェタミンが検出

→ADHDの治療であるとして通常2年の資格剥奪期間が

1年に軽減された。

2006年4月

競技会検査で筋肉増強剤(テストステロン類)が検出

→通常生涯資格剥奪だがUSADAへの協力を条件に

8年間の資格停止剥奪に軽減された。

世界記録タイ(当時)の9秒77の記録は抹消。

2011年7月12日 井端弘和選手 ドーピング防止規則違反で、競技者に譴責処分を、 球団に制裁金300万円を科した。 2011年8月10日 山下亮平選手 国際ラグビーボードドーピング防止規則違反で、 2年間の資格停止処分を科した。

その他の違反例

ドーピング防止活動と

スポーツファーマシストの役割 我が国におけるドーピング陽性事例

年 度 検査実施数 陽性事例 陽性率

H18年 4.141 5 0,12%

H19年 4,479 8 0,18%

H20年 4,901 10 0,2%

H21年 5,449 3 0,06%

○これら陽性件数のうち、多くの症例は、競技者に対してドーピング防止規則及び

薬に関する適切な情報が提供されていれば、防止できた内容である。いわゆる

「うっかりドーピング」が多いことが挙げられる。

○ドーピング防止規則では、全ての薬が禁止されている訳ではなく使用可能な薬が存在する。薬の専門家である薬剤師が、ドーピング防止規則を把握したうえで

使用可能薬に関する情報提供を行う体制を整備し、うっかりドーピングの発生を防止できるだけでなく、競技者のコンディション作りに役立てることができる。

○我が国政府が、ユネスコスポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約を締結し、政府としてドーピング防止活動に主体的に参画する体制となって以降

ドーピングの実施件数が飛躍的に増大している。この状況に対応して、都道府県や各種競技団体等では、国民体育大会や主要競技大会等のドーピング検査実施に向けて、あるいは年間を通じた教育啓発活動が求められています。

これらの活動において、使用可能な薬剤等な関する情報や体調を崩しそうな時の

相談窓口として活動する。

○旧来のドーピング防止の枠組みでは、ドーピング防止に関する情報を学校等の

教育現場において提供する役割を担うものがいなかったが、スポーツファーマシスト誕生により、スポーツ現場でのドーピング防止の観点を踏まえ、薬に関する情報提供が適切に実施されることが期待される。